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貨幣経済学と貨幣数量説

著者 水田 健

出版者 法政大学経済学部学会

雑誌名 経済志林

巻 74

号 1・2

ページ 109‑121

発行年 2006‑08‑28

URL http://doi.org/10.15002/00001942

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【1】はじめに

経済学を貨幣にかかわる視点から眺めるならば,重商主義期から現代ま で,いくつもの大きな争点とさまざまな思考の対立が浮かび上がってく る。重商主義期の貨幣分析より始まり,地金論争,通貨論争,古典派や K.マルクスの貨幣観,あるいはK.ヴィクセルからJ.M.ケインズへいたる 貨幣経済学の変遷,さらにケインジアン・マネタリスト論争,新しい古典 派によるケインズ経済学批判やポスト・ケインジアンの貨幣観など,貨幣 をめぐる考察はさまざまな見解と論争を生み出してきた。そこでは,貨幣 経済と実物経済との関連,中央銀行の役割,貨幣・信用制度の機能,景気 循環論における貨幣の役割など,いくつもの論点が繰り返し議論された。

また,これまで生まれたさまざまな経済学の体系において,貨幣にかかわ る考察は見逃すことのできない必須課題としてとりあげられた。

この貨幣経済学の歴史において,貨幣の経済に対する影響経路という視 点から考察すると,その経済への働きかけの経路は,大きくふたつに分け

貨幣経済学と貨幣数量説

水 田 健

1)本稿を,平林千牧教授(現法政大学総長)のこれまでの学恩に報いる一作としたい。

2)本稿は,経済学史学会第70回全国大会(2006年5月)共通論題シンポジウム「貨幣経済学の 過去と現在」〔組織者:水田健(東日本国際大学),野口旭(専修大学)〕における報告をも とに執筆したものである。関連する研究会およびシンポジウム当日の質問者からの指摘に感 謝したい。

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て考えることができる。ひとつは,貨幣による生産や雇用という実物経済 への影響経路であり,もうひとつは貨幣から価格への影響経路である。

【2】貨幣経済学と実物経済効果

貨幣による生産や雇用という実物経済への影響経路に注目したのは,J.

M.ケインズであり,またのちに問題とする連続的影響説とよばれる主張 もこの系列に入る。連続的影響説においては,貨幣量の増加は生産や雇用 へ影響を及ぼしていく。さらに,重商主義期のB.マンデヴィルやJ.ステ ュアートの奢侈論や有効需要論も,貨幣経済学のこの系譜に属するといっ てよい。かれらの,富者による奢侈的消費を重視する姿勢,あるいは素朴 な有効需要論のなかには貨幣的契機が含まれていた。

ただケインズの場合には,貨幣の実物経済への影響は,単に貨幣が購買 力として直接に財・サーヴィス市場へ出動するというのではなく,貨幣は 資産市場において利子率を介して間接的に実物経済へ影響する。このこと は,資産としての貨幣に着目したケインズの特徴であり,単に交換手段と しての貨幣機能のみに着目して,貨幣市場での貨幣量の変化と財市場での 需要量の変化とを表裏一体のものとする視点とは異なる。さらに,K.マ ルクスの場合には,商品・貨幣論における貨幣のあらゆる商品への直接的 交換可能性は,貨幣貯蔵への意欲を引き起こし,購買手段としての貨幣を 流通から引き上げさせることになり,これが生産物市場での需要と供給の 不均衡の可能性を生み出す 。この側面では,マルクスの貨幣論は実物経 済に対して非中立的である。

3)マルクスは,また一方において,流通貨幣量は諸商品の価格総額と流通速度とによって決ま るとも言っており,この場合には,貨幣は資本蓄積や再生産の動向を反映する受動的なもの となり,貨幣内生説の側面が指摘できる。その意味では,マルクスの場合,ふたつの側面が 並存するといえる。またマルクスの場合には,さらに貨幣と信用制度との関連も特有の論点 を形成しており,こちらは貨幣内生説との関連が深くなろう。

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【3】貨幣経済学と貨幣数量説

一方,もうひとつの貨幣の経済への影響経路(貨幣→価格)の典型とし てあげられるのは,貨幣数量説の立場である。この場合,貨幣は実物経済 に対しては中立的であり,貨幣量の変化は単に物価水準に影響するだけで 生産や雇用への影響は引き起こさない。これはD.ヒューム,H.ソーント ン,D.リカードウからA.マーシャルやI.フィッシャーを経て現代のM.フ リードマンまで貨幣経済学の歴史において,主要な地位を占めてきた経済 学の考え方である。たとえばヒュームは, 財貨の価格はつねに貨幣の量 に比例する」(Hume (1995) p.33,訳48頁)と貨幣量と物価水準との比例 関係について述べている。

ただヒュームの場合,この数量説の言明は同時に次のような発言とも重 なっている。 財貨の高価格は,金銀の増加の必然的結果ではあるけれど も,この増加に続いて直ちに生ずるものではなく,……ある時間的経過が 必要」である。 金銀量の増加が産業活動にとって有利なのは,貨幣の取 得と物価の騰貴との間の間隙ないし中間状態」(Hume (1955) pp.37‑38, 訳54頁)においてである。このような発言をヒュームは行い,貨幣量の変 化と物価騰貴との間に「中間状態」を想定している。そして,このヒュー ムの中間状態においては,貨幣量の増加は実質賃金を一定に保ったまま,

雇用量と勤勉の増加を生み出し産業活動を活発化させる。

ここでは,貨幣は生産や雇用という実物経済への影響経路をもつ。この 影響経路が連続的影響説とよばれるものである。これは,もともとF.A.

ハイエクが『価格と生産』の中で,貨幣と価格との関係の理論について述 べた説明に由来するが,そこではこの連続的影響説の例としてヒューム以 外にも,R.カンティロン,J.E.ケアンズの名が挙がっている。したがって ヒュームは,かれらとともに,長期における貨幣の中立性命題の主張と同 時に,短期における貨幣の生産や雇用への影響についても言及した理論家 111

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ということになる。

だがこのような,長期の貨幣の中立性命題と同時に,短期の実物経済へ の影響について述べる貨幣数量説論者はヒュームにとどまるものではな い。I.フィッシャーも,取引量と流通速度とが変化する,平均10年にもお よぶ過渡期を認めている。また近年のM.フリードマンの場合にも,貨幣 錯覚からうまれる短期の生産や雇用への影響を認めている。そうすると貨 幣数量説は,もともと長期の中立性命題と同時に,短期の実物経済効果を 組み込む広い幅をもっていたといえる 。

したがって,貨幣数量説において,そのコアは貨幣の中立性という長期 命題にあるが,それと同時にこの短期の実物効果をどう長期命題と連結さ せるかということも無視できない意味を持っていた。それは,一般的に考 えて,貨幣量の変化によって現実に生産や雇用の変化は起きているのであ り,それを無視して理論構築は不可能であったからだ。したがって多くの 貨幣数量説論者は,たとえば貨幣賃金の下方硬直性など名目価格の非伸縮 性が生み出す実物経済効果,あるいは貨幣錯覚による同様の実物効果を認 め,これらの短期の生産や雇用への影響を,長期の中立性命題という数量 説のコア理論の補助理論として主張している 。貨幣数量説を長期の中立 性命題のみに押し込め,数量説は現実に発生している生産や雇用の変化の 説明能力に欠けると批判することには無理がある。

もちろん,貨幣数量説が短期の実物経済効果を補助理論としてもつとし ても,数量説のコアは長期の中立性命題にあることは間違いない。だが数

4)Hicks(1967)は,ヒュームを検討しつつ,数量説は長期の均衡条件として成り立つが,同 時に短期には,つまり貨幣供給が増加しつつある間は,貨幣の増加は実物面に影響を与える 可能性があると認められていたと言っている。ただリカードウの場合には,短期の効果にあ まりに重点をおくと粗野なインフレーション主義者に好都合になることを恐れ,短期理論へ の考慮は明示されなかったとみている。古典派経済学者は,たとえ強調したくなかったとし ても,このような短期理論を彼らの見解の背後に持っていたともみなしている。さらに,J.

S.ミルは,このような短期理論を明確に持っていた人物だと,ヒックスは考える。

5)さらに,不完全雇用経済と完全雇用経済とを短期と長期に振り分けるなど,さまざまな短期 理論と長期命題との組み合わせが可能であろう。

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量説が成立するためには,むしろこの短期理論は重要な構成要素であった だろう。それによって,現実の生産や雇用の変化の説明能力は格段に増す からだ。したがって,ある理論をみたとき,貨幣数量説は中立性命題のみ であると思い込み,その理論にある実物経済効果を数量説から分離するな らば,それはむしろその理論の説明能力を低くすることになる。また,実 物経済効果を数量説とは対立する別の理論とみなし,二つの理論が同じ体 系の中に並存するとみなすことも,同様に数量説の広い適用可能性を狭め ることになる。

貨幣数量説は,コアとなる長期命題と同時に短期の実物効果をもふくむ 広がりをもつとみなすべきだろう。またそのような広さをもったからこ そ,経済学の歴史において長期にわたって生き残ってきたといえよう。

貨幣数量説の枠組みをあらためてそのように理解するならば,数量説は 冒頭の貨幣の経済への二つの影響経路を,それぞれ本来の数量説的長期命 題と短期の実物経済効果の理論として組みこんでいたといえよう。もちろ んリカードウのように,均衡状態への調整が速やかに進み,短期の理論が 明示的には現われない数量説の場合もある。このように数量説は,リカー ドウのように長期均衡のみが明示される体系から,短期理論を内に含みこ む体系までの幅を持ち,さらに貨幣経済学という観点から見ると,もう一 方の極には,貨幣数量説を否定した『一般理論』のケインズのように,貨 幣の中立性を認めずに実物経済効果を主張する論者も存在する。

したがって,貨幣の経済への影響を考えていくとき,貨幣経済学は貨幣 の中立性命題のみを明示する狭義の数量説から,さまざまな短期理論をそ の内に含む数量説の諸理論を経て,貨幣の非中立性を前提し実物経済への 効果のみを主張するもう一方の極まで幅広い範囲にわたっている。そして 大方の貨幣数量説論者は,長期命題とともに短期の実物効果理論を兼ね備 えていたとみてよいだろう。

ここまで,貨幣経済学を貨幣の中立性と短期経済効果を軸に考察してき たが,対象となったのは貨幣外生説の立場に立つ理論である。だが貨幣経 113

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済学のなかには,外生説と同時に内生説の立場がある。これは,真正手形 学説,銀行学派あるいは現代ではポスト・ケインジアンなどの中に見られ る立場で,貨幣は経済の貨幣需要に応じて内生的に供給されるという主張 である。真正手形を割引くことで貨幣供給が行われるならば貨幣は過剰に ならない,あるいは,貸付によって発行された銀行券は返済によって還流 し過剰発行の危険は生じないなど,経済の必要とする貨幣が内生的に供給 されることが主張される場合がこれである 。

貨幣経済学のアプローチを大きく二つに分けるならば,それは外生説の 立場と内生説の立場とに分かれ,さらに前者は中立性命題のみの数量説か ら短期効果をも含む数量説,さらに中立性命題を否定する貨幣経済学まで の広さの幅を持つ。もちろん,このような分類に収まりきらない貨幣経済 学もあるが,大きな枠組みとしては妥当するであろう。

ここまでのことから明らかなように,貨幣数量説は貨幣経済学の歴史で 大きな意味をもっていた。そこで,つぎにソーントンからリカードウ,ヴ ィクセルの貨幣経済学を,数量説を軸にたどってみたい。

【4】ソーントンの貨幣経済学

ソーントンの『紙券信用論』は,貨幣経済学の起点のような位置にあ る 。その著作全11章のうち,前半部分の銀行券の過度な縮小にともなう 害悪の検討と,後半部分の銀行券の過剰発行がもたらす危険の指摘に焦点

6)内生的貨幣供給論の場合は,とくに貨幣需要に応じた信用の拡大・収縮が問題となり,信用 貨幣の意味が経済にとって重要となる。

7) 日銀理論」もこの系譜に属するが,一般に中央銀行の側からの貨幣コントロールの難しさ を指摘する文脈で主張される場合が多い。

8)たとえば, 貨幣の分野における古典派時代の主要な業績はソーントンに帰せられる」

(Thornton(1991)におけるHayekの序文)であるとか, 商業社会において信用が授受 される様式に関する,英語で書かれた解説のうち,私の知っている限りでもっとも明快なも の」(Mill(1965)), 古典派の時代に生み出された貨幣理論に関するもっとも偉大な単一の 著作」(Blaug(1978))などの評価がある。

9)水田(1994)を見よ。

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を当て,これらからソーントンの数量説的理解を考察していこう 。 ソーントンは,イングランド銀行は1797年の金兌換停止にいたる過程 で,銀行券の過剰発行が金流出を引き起こしたと誤って理解し,その対策 として銀行券発行を制限してしまったとみる 。換言すれば,金やイング ランド銀行券需要が高まる金融逼迫期に,同行は貨幣供給を制限し実体経 済へ甚大な被害を引き起こしたとみなしている。一種の「最後の貸し手」

機能の放棄の指摘といえよう。

この文脈の中で,ソーントンは, もし銀行券が縮小したために,あり とあらゆる商品の価値が永続的に下落し,さらにこの場合こう考えるのが 公平といえようが,賃金率が下がるとすれば,たしかに手持ちの在庫に損 失が生じるであろうが,将来の製造を刺激する度合いは同一であると言っ てよかろう」(Thornton (1991) pp.118‑119,訳100‑101頁)と述べ,貨幣 供給が減少した場合,長期的には物価水準と賃金率は同時に下落し相対価 格に変更はなく,産業の実態にも影響がない場合を想定する。

だが「銀行券が通常の数量から,非常に大きく突然収縮する傾向があれ ば,それは異常な一時的な窮迫(unusual and temporary distress)を引 き起こし,この窮迫は価格を低下させる。しかし一時的窮迫から起こる価 格下落は,おそらくそれに相応する程度の賃金率の低下をともなわないで あろう。」したがって,この窮迫から起こる「不自然な異常な低価格は,

製造業の生産を甚だしく阻害するだろう」(Thornton (1991)pp.118‑119,

訳100‑101頁)。ここでは,短期的には貨幣賃金率に下方硬直性があるた め,貨幣供給の減少は物価水準と賃金の下落率に乖離を生み出し,それが 生産活動を阻害する状況が指摘されている。

ソーントンは明らかに,長期の数量説的命題と短期の実物経済効果とを

10)イギリスは,ナポレオン戦争の渦中で,大陸への政府送金と戦費支出によってポンド相場の 下落と金の対外流出を引き起こし,またイングランド銀行からの金の国内流出も生まれた。

そして97年2月の小規模のフランス兵上陸が,さらにイングランド銀行からの金流出を刺激 し,これが同行の金兌換停止の引き金となった。信用不安は,まず地方銀行への金請求から 始まり,これがイングランド銀行からの金流出を引き起こした。

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区別して理解している。

一方,ソーントンが銀行券の過剰発行の危険を説くとき,かれは真正手 形学説批判を意図していた。それは,この学説に依拠すると,イングラン ド銀行は真正手形である限り割引を続け,銀行券の過剰発行とそれによる 物価騰貴に歯止めがかからないと認識していたからだ。そしてこの過剰発 行が起こると, 労働者を就業させることになるが,その一部は他のおそ らく有用性が劣ることのない職業から引き出される。」そして「紙券の並 外れた大量発行は,王国に属する物品の総量にすぐにはなんらの変化も生 じさせない」ため, 同じ紙券はより少ない財貨を購入することになり,

あるいは言い換えれば,諸商品の名目上の価値が上昇」することになると 言う。ソーントンは,ここでは遊休労働もなく生産物も一定であるため,

名目価格の上昇と貨幣価値の下落が生じると見ている。すなわち数量説命 題が主張されている。

以上のようにソーントンは,貨幣数量説的長期命題と短期の実物経済効 果とを理論の中に組み込んでいた。

【5】ソーントン,リカードウ,ヴィクセルの系譜

さきに貨幣の経済への働きかけの経路として,貨幣から価格への影響経 路である貨幣数量説を取り上げたが,もうひとつの価格への影響経路とし て,貨幣量と利子率の関係を介して価格へとおよぶ経路がある。これは,

ソーントンからリカードウを経てさらにヴィクセルへとつながる理論の系 譜である。

イングランド銀行は,貸付によって貨幣供給を行う機関だが,もし同行 の利子率よりも企業の利潤率が大きいならば,同行からの貸付による貨幣 供給は増大し,資金提供を受けた企業は利益を得ることができる。したが ってイングランド銀行利子率<利潤率の場合,イングランド銀行の貸付は 自動的に増大し,それにともなって貨幣供給は増加していく 。数量説を

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想定するソーントンにとって,これは物価上昇をまねくことになる。かれ が真正手形学説とは異なって,通貨管理の必要性を主張するのはこのため である。

この理論はさらにリカードウに引き継がれるが,かれの場合,市場利子 率はまず利潤率に規制されると考える。ただ利子は利潤から支払われるの で,その市場利子率は利潤率より低い水準に収斂することになる(利潤率

>市場利子率)。そしてイングランド銀行の利子率が,この市場利子率よ り低い場合(市場利子率>イングランド銀行利子率)には,イングランド 銀行からの借り入れが増え,貨幣供給も増大していくことになる。ソーン トンの場合と比べて,市場利子率という要因が付け加わるが,大きな基本 構造に変わりはない。

ソーントンの場合もリカードウの場合も,物価上昇は利子率が貨幣供給 を決めることによって起こる。したがってこの場合,貨幣供給は外生変数 である銀行利子率によって間接的にコントロールされる。その意味では,

貨幣数量説の本質からはずれてはいない。

この利子率を介したソーントンやリカードウの物価上昇論は,ヴィクセ ルの自然利子率と貨幣利子率との乖離が生み出す累積過程メカニズムと同 型のものである。ただヴィクセルの場合,貨幣数量説による物価決定論は 否定され,むしろこの両利子率の乖離による信用経済の膨張が物価を決定 する。そしてこのヴィクセルにいたる過程には,トゥックの「低い利子率 は物価を引き上げ,高い利子率は物価を引き下げる」(Tooke(1959)p.77) という言明がある。かれはこれを利子率と物価の関係の理論として,銀行 券と物価の関係の理論である貨幣数量説とは区別して理解していた。さら にハイエクは,『価格と生産』のなかで,この利子と物価の関係をめぐる

11)ソーントンは,利子率による通貨管理を政府が妨害しなかったならば,貨幣供給は適正に行 われたはずだと考えた。その妨害とは高利禁止法であり,これによってイングランド銀行は 5%以上の金利を要求することができず,利潤率がそれをこえるときに,同行には貸付要求 が殺到したと見ている。

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考察は,ソーントン,リカードウ,ジョプリンを経てヴィクセルにいたる と述べている。この一連の系譜の理論の中で,ソーントンとリカードらは 貨幣数量説を組み込んでいた。

【6】貨幣の生産費説と貨幣数量説

最後に,古典派貨幣論における貨幣数量説と貨幣の生産費説とに触れて おこう。たとえば,貨幣数量説を主張するリカードウは,また一方におい て労働価値説(あるいは生産費説)をもっていた。これは,貨幣数量説と 同時に貨幣価値決定論を別途もつことを意味する。したがって,この両者 を矛盾なく体系のなかに納めることが古典派貨幣論にとって必要となる。

このとき,J.S.ミルの『経済学原理』での次のような想定が,解決策を与 えるであろう。

貨幣の価値は, 一時的には,需要と供給によって決定されるが,恒久 的または平均的には生産費用によって決定される」(J.S.Mill (1965),訳⑶ 113頁)。つまり,長期的には生産費説によって貨幣価値はきまるが,短期 的には数量説が妥当する状況が生まれるということである。そして,これ は次のような貨幣の特殊性に由来する。 貨幣の価値は,その材料である 金属の生産費に一致させられる。しかしこのような調整が実現するには,

貴金属ほど広く需要され,また同時に耐久的である商品の場合には,長い 時間を必要とする。」(J.S.Mill(1965),訳⑶138頁)これがミルの想定で あった。耐久性が高い貴金属はそのストック量も大きいため,貨幣価値は 即座にはその生産費にまで調整されないという言明である。

《参考 献》

Blaug, M. (1978)Economic Theory in  Retrospect, Cambridge University Press(久保・真実・杉原・宮崎・関・浅野訳『新版 経済理論の歴史』東  洋経済新報社 1982‑1986年)。

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Monetary Economics and the Quantity Theory of Money  

Ken MIZUTA

《Abstract》

In the history of monetary economics, money has been  assumed to affect an economy through two channels. First, money influences real  variables such as output and employment.Second,money affects prices. 

J.M.Keynes and J.Steuart are among those economists who propound the former point of view, whereas quantity theorists maintain the  latter.  

The key proposition in the quantity theory of money is the neutrality of money.According to this theory,it is only the level of prices,and not  the level of real variables,that is affected by a change in money supply. 

However,quite a few quantity theorists propose a theory suggesting a relationship between money and real variables as well, albeit in the  short run.They maintain that a change in money supply stimulates real  output or employment in the short run,owing to sticky prices (or sticky  nominal wages)or money illusion. In other words, these theorists hold  the long-run theorem  about neutral money as a core proposition,while  maintaining the short-run theory about the real effects of money as an  auxiliary theory.  

Thus, monetary economics spans a wide range from  Keynes, who denies the quantity theory and accepts the real effects of money on  output, to Ricardo, who insists on a strict quantity theory of money  without scope for the short-run real effects. Most quantity theorists, 

including D. Hume, H. Thornton, and I. Fisher, support both the long- run neutral-money theory as well as the short-run real-effects theory, thus occupying an intermediate position. In addition to the exogenous

 

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theory discussed above, there also exists an endogenous theory of money.  

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