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射撃場の環境対策工事

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Academic year: 2022

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射撃場の環境対策工事

県立伊勢原射撃場における施工事例

古後 正博

1

・小島 靖雅

2

・江藤 靖彦

2

1正会員 前田建設工業株式会社 土木技術部(〒102-8151 東京都千代田区富士見二丁目10-26)

2正会員 前田建設工業株式会社 横浜支店(〒221-0825 横浜市神奈川区反町二丁目16-8)

県立伊勢原射撃場は,1972年にクレー射撃とライフル射撃場を有する綜合射撃場として開設された.

1998年には「かながわ・ゆめ国体」の射撃競技会場として再整備された.2002年4月に休業するまで,年 間約3万人の競技者や射撃愛好者に利用された射撃場である.射撃場休業後は,鉛弾による地下水及び河 川の影響を調査するための本格的な水質検査が実施された.検査結果では環境基準値内であったが,この まま放置すれば鉛弾による地下水汚染等,環境問題が懸念されることから,未然防止として鉛弾含有土壌 を回収することとなり,クレー・コロス等の飛散物を含めた回収工事が実施されることとなった.本報告 は,これら飛散物の回収・分別分級処理を実施した環境対策工事の施工事例として報告するものである.

キーワード : 鉛,鉛弾,射撃場,環境,回収,分別分級,人工ゼオライト

1.はじめに

(1) 本工事における課題

ライフル射撃はライフル銃を用いて地上の標的

(静止物・移動物)を狙って撃つ水平方向の射撃で あるため,銃弾は標的背面やその周囲に集中する.

一方,クレー射撃は.散弾銃を用いてクレーと呼 ばれる飛行中の円盤を撃ち落す射撃であるため,射 撃角度が大きくなりやすく散弾は広範囲に飛散しや すい.本射撃場の場合,地形や風等の自然的要因も あり,クレー射撃により散弾が山間部まで広く飛散 している状況(図-1)であった.山間部という作業 性が悪い状況の中,飛散した鉛弾含有土壌をいかに 効率よく回収するかが課題であった.

図-1 飛散物の分布状況

(2) 工事概要

本工事は,ライフル・クレー射撃で使用された鉛 弾による環境汚染防止のため,地表面に散乱した鉛 弾を始め人工物であるクレー(円盤状の標的)・コ ロス(散弾銃の薬莢でワッズカップとも呼ばれる)

の回収,平地部や山間部に広く飛散した鉛弾含有土 壌の掘削回収,回収物の分別分級処理を行うもので ある.なお,工期は平成 2004 年 3 月 25 日~2006 年 9 月 30 日で約 2 年半の工事である.

(3) 施工フロー

図-2 に施工フローを示す.施工は測量等の準備 工事終了後,回収物の分別分級作業ヤード設置予定 エリアの地表面清掃,平地部の鉛弾含有土壌の回収 より着手した.分別分級ヤードの回収作業完了後,

仮設テントを設置し,その内部に分別分級装置を設 置した.また地表面清掃と並行して,工事中の雨水 を処理するための雨水排水処理設備を設置した.こ れら仮設備を完了させ,本格的な地表面清掃,鉛弾 含有土壌の回収,回収物の分別分級作業を開始した.

射台近傍 平地部 斜面部 山間部

鉛弾鉛弾 クレークレー 鉛弾 鉛弾

鉛弾 鉛弾

コロスコロス

射台近傍 平地部 斜面部 山間部

鉛弾鉛弾 クレークレークレークレー 鉛弾 鉛弾

鉛弾 鉛弾

コロスコロス

(2)

図-2 施工フロー

2.飛散物の回収

(1)地表面の清掃

地表面にはクレー射撃の標的であるクレー片と鉛 弾,鉛弾を包むコロス(ワッズカップ)が散乱して いた.これらはバキューム吸引及び空気搬送機を用 いて回収を行った.

(2)平地部の鉛含有土壌回収

平地部では,GL-1m~1.5m の深さまで鉛弾含有土 壌が存在していたため,掘削重機を用いて回収した.

(3)山間部の鉛弾含有土壌回収

山間部での鉛弾含有土壌の回収作業は,急斜面で あり,しかも樹木が密集しているため,掘削重機を 使うことができず,人力作業が中心となった.当初 は土工具(スコップ・鍬等)を用いた人力掘削を計 画していたが,木の根や草木類を傷つける恐れがあ ったことから,エアースコップ(写真-1)による掘 削方法を採用した.空気を吐出して土壌をほぐしな がら掘削できるため,木の根や草木類を傷つけるこ とがないためである.掘削後は新芽が芽生えている ことも確認できている.また軽量かつコンパクトで あることから,山間部での作業に適し,作業員の疲 労軽減にもつながった.

回収物の搬送については,当初はバキューム搬送 を計画していたが,搬送距離が最長で 250mあり,

バキューム長距離搬送の実績も少ないことから,製 鉄所等で鉄粉等の重量物の搬送に用いられている強 力空気搬送機(商品名:ジェクター)(写真-2)を 採用することとした.これは,コンプレッサーの圧 縮空気を利用し,ベンチュリー管の原理を応用した 空気搬送機で,図-3 に示すように吸引作業と圧送 作業を同時にできる機械である.施工状況を写真-3 及び写真-4に示す.

写真-1 エアースコップ

写真-2 強力空気搬送機(ジェクター)

図-3 強力空気搬送機構造図

写真-3 エアースコップ施工状況 エアースコップ エアースコップ 地表面清掃工

地表面清掃工

山間部土壌回収工 平地部土壌回収工 平地部土壌回収工

分別分級作業場設置工

分別分級工(振動ふるい+簡易風力分級)

法面保護工・吹付法枠工 埋め戻し工 分別分級工(振動ふるい)

後片付け工 準 備 工

分別分級作業場設置箇所

沈砂池工・調整池工

水処理プラント設置工

排水ろ過装置設置工 雨水排水設備設置箇所

クレー・コロス 搬出処理

鉛含有土壌 搬出処理 地表面清掃工

地表面清掃工

山間部土壌回収工 平地部土壌回収工 平地部土壌回収工

分別分級作業場設置工

分別分級工(振動ふるい+簡易風力分級)

法面保護工・吹付法枠工 埋め戻し工 分別分級工(振動ふるい)

後片付け工 準 備 工

分別分級作業場設置箇所

沈砂池工・調整池工

水処理プラント設置工

排水ろ過装置設置工 雨水排水設備設置箇所

クレー・コロス 搬出処理

鉛含有土壌 搬出処理

チューブ ディフューザ 吸引

圧縮空気

負圧部 加圧部(圧送部)

排出(搬送)

チューブ ディフューザ 吸引

圧縮空気

負圧部 加圧部(圧送部)

排出(搬送)

(3)

写真-4 強力空気搬送機使用状況

3.回収物の分別処理

(1) 分別分級処理ヤード

回収物の分別分級処理は,仮設テント(写真-5)

内に設置した処理ヤードで行った.

写真-5 分別分級施設(仮設テント)

(2)地表面回収物の処理

地表面の回収物には,鉛弾・クレー片・コロス・

礫・有機物・ゴミ等がある.これらは,振動ふるい 及び簡易風力分級装置にて分別処理を行った.図-4 に分別フロー,写真-6に分別分級状況を示す.

振動ふるいにて 40mm 以上,3~40mm,3mm 以下の ふるい分けを行い,簡易風力分級にて 40mm 以上の 回収物は,有機物とクレー片・礫・ゴミに分別され,

3~40mm の回収物は,コロスとクレー片・礫に分別 した.クレー片・礫・ゴミは人力選別にて分別した.

また,3mm 以下の回収物として,鉛弾及び土壌が回 収された.

図-4 地表面回収物の分別フロー

写真-6 地表面回収物の分別分級状況

(3)鉛弾含有土壌の処理

平地部及び山間部での土壌回収物は 25mm の振動 ふるいにより礫を除去し,25mm 未満の鉛弾含有土 壌として回収した.これは,鉛弾含有土壌は精錬所 で処理を行う計画であったことから,精錬所の受け 入れ基準に適合させる必要があったためである.

図-5 に分別フロー,写真-7 に分別分級状況を示す.

図-5 鉛弾含有土壌の分別フロー

回収物 回収物

クレー片・礫・ゴミ クレー片・礫・ゴミ 有機物

有機物

クレー片・礫 クレー片・礫 コロスコロス 簡易風力分級

簡易風力分級 振動ふるい

振動ふるい 40mm 40mm以上以上

33~~40mm40mm 40mmふるい40mmふるい

3mm 3mmふるいふるい

鉛弾・土壌 鉛弾・土壌 3mm 3mm以下以下

簡易風力分級 簡易風力分級 振動ふるい

振動ふるい 回収物 回収物

クレー片・礫・ゴミ クレー片・礫・ゴミ 有機物

有機物

クレー片・礫 クレー片・礫 コロスコロス 簡易風力分級

簡易風力分級 振動ふるい

振動ふるい 40mm 40mm以上以上

33~~40mm40mm 40mmふるい40mmふるい

3mm 3mmふるいふるい

鉛弾・土壌 鉛弾・土壌 3mm 3mm以下以下

簡易風力分級 簡易風力分級 振動ふるい

振動ふるい

鉛含有土壌 鉛含有土壌

振動ふるい 振動ふるい

25mm 25mm以上以上

25mm 25mm以下以下 25mm

25mmふるいふるい

鉛弾弾含有土壌含有土壌

礫や木片 礫や木片 鉛含有土壌

鉛含有土壌

振動ふるい 振動ふるい

25mm 25mm以上以上

25mm 25mm以下以下 25mm

25mmふるいふるい

鉛弾弾含有土壌含有土壌

礫や木片 礫や木片

(4)

写真-7 土壌回収物の分別分級状況

4.回収物のリサイクル処理

図-6 に示すように,コロスとクレーはセメント 工場へ送られ,コロスは材質がプラスチックである ためセメント工場の代替燃料として利用,クレーは 材質が石膏であるためセメント原料へとリサイクル 処理された.

鉛弾含有土壌は精錬所に送られ,洗浄・分級処理 にて鉛と土壌に分けられ,土壌は堆積場の覆土材と して処理された.鉛についてはリサイクル鉛として 再利用され,このように殆どの回収物がリサイクル 利用された.

図-6 回収物のリサイクル処理概要図

5.雨水排水処理

(1)仮排水路・沈砂池・調整池

雨天時等に地表面の土壌が河川に流れ出すと,土 壌中に含まれる鉛分により河川の環境汚染を招くこ とが懸念された.このため,鉛弾含有土壌の掘削回 収部には,事前に仮排水設備(U 型側溝,管渠)

(写真-8)及び仮排水設備流末には,土粒子を沈降 させるための沈砂池(写真-9)を設置した.また,

沈砂池からの越流水は,途中に排水濾過装置(写 真-10)を経由して,排水の貯留池となる調整池に 蓄えられ,排水が直接河川へ流出することを防止し た.

写真-8 仮排水路

写真-9 沈砂池

写真-10 排水濾過装置設置状況 セメント原料化

セメント原料化 代替燃料 代替燃料

●セメント工場

●セメント工場

●精錬所●精錬所

土壌洗浄法

覆土 覆土材

リサイクル原料 リサイクル原料 リサイクルセメント リサイクルセメント

土壌土壌 クレークレー

コロス コロス

鉛鉛弾弾含有土壌含有土壌

セメント原料化 セメント原料化 代替燃料 代替燃料

●セメント工場

●セメント工場

●精錬所●精錬所

土壌洗浄法

覆土 覆土材

リサイクル原料 リサイクル原料 リサイクルセメント リサイクルセメント

土壌土壌 クレークレークレー

クレー コロス コロス

鉛鉛弾弾含有土壌含有土壌

(5)

写真-11 人工ゼオライト

(2) 排水濾過装置

排水濾過装置とは,排水を人工ゼオライト(被膜 粒状品 Ca型)(写真-11)が充填された濾槽に 通過させることで,排水に含まれる鉛分を除去する 装置である.濾槽は,排水濾過装置内部に階段状に 4 基設置した.このため,排水は濾槽内部を 4 回通 過することとなり,排水と人工ゼオライトの接触時 間が確保される仕組みとなっている.

ここで,人工ゼオライトとは,火力発電所などか ら排出される石炭灰に化学処理を施し,「吸着機 能」,「陽イオン交換機能」「触媒活性機能」の3 つの能力を持たせたものである.

このうち.「陽イオン交換機能」とは,人工ゼオ ライトが永久的負電荷を有しており,陽イオン交換 体として使用できる機能(図-7)である.鉛やカド ミウムなどの重金属類の吸着や強酸性土壌の中和な どに使用することが期待されている.今回設置した 排水濾過装置に使用した人工ゼオライトは,「陽イ オン交換機能」を利用したものである.

図-7 人工ゼオライト陽イオン交換イメージ図

(3)水処理プラント

沈砂池から排水濾過装置を経由し,調整池(写 真-11)に滞留した排水を放流する前に,水質試験

(pH,濁度,鉛分)を実施して,排水基準を満足し ているか確認した.排水基準を超過していることが 判明した場合は,水処理プラント(写真-12)を稼 動させて排水基準を満足させる処理を行った後に河 川に放流した.

写真-11 調整池

写真-12 水処理プラント

(6)

6.施工数量

今回の工事で回収した鉛弾含有土壌及び飛散物

(クレー・コロス)の量は表-1 に示すとおりであ る.土壌の回収量は平地部で約 33,000m3,山間部 では,約 5,300m3,鉛弾含有土壌はおよそ 6 万トン に達した.

表-1 回収物数量表 回収物 数量(t) 鉛弾含有土壌 約

60,000

クレー

1,000

コロス

約 25

7.おわりに

本工事は全国的にも施工実績が希少な工事であり,

施工計画の策定を慎重に行った.また,土壌の回収

方法については,作業条件(環境)の変化に合わせて 試験施工を行うなどの検討を繰り返すことで,施工 方法の改善意識をもって工事を進めた.

山間部の土壌回収に用いたエアースコップ及び強 力空気搬送機は,作業員の疲労低減と作業性の向上 が図られ,本工事を効率よく進めることができた大 きな要因となった.

鉛弾含有土壌の拡散防止対策として,土壌運搬ダ ンプへの積荷養生シートの設置と搬出時のタイヤ洗 浄をすべて確認し,土壌搬出時の過積載防止対策と しての全台数重量計測管理を徹底した.また,定期 的な追跡調査による処理状況の確認も行った.

近隣住民に対しては毎月の工事状況を説明し,通 学時間帯の土壌搬出を行わないなどの第3者への配 慮も徹底して工事を進めた.

本工事全体を通して様々な苦労・課題があったが,

作業所一丸となって施工方法の検討から施工中の管 理を確実に行ったことで,本工事を無事完成させる ことができた.

参照

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