九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
半導体ナノ結晶の精密合成と塗布型太陽電池への応 用
末廣, 智
https://doi.org/10.15017/1441285
出版情報:Kyushu University, 2013, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Fulltext available.
氏 名:末廣 智
論文題名:半導体ナノ結晶の精密合成と塗布型太陽電池への応用
区 分:甲
論 文 内 容 の 要 旨
ナノ結晶を用いた成膜プロセスは、高価な真空機器を用いることなく、簡易な塗布によって半 導体膜を作製できることを特徴としている。また、高温での熱処理を必要としないため、フレキ シブル軽量基板への成膜も可能である。2005 年に
Alivisatos
らは、本手法を用いてCdSe
とCdTe
の2
種類のナノ結晶から太陽電池を作製し、塗布型半導体ナノ結晶デバイスの可能性を初めて示 した。この太陽電池は有機物を使用していないため、有機太陽電池に比べて光耐久性は格段に優 れている。近年太陽電池の開発においてはコスト削減、フレキシブル化といった商業化を念頭に 置いた制約を大きく受けていることから、半導体ナノ結晶をベースとする本デバイスは次世代太 陽電池として大きく期待されている。しかし、従来の化合物半導体材料であるCdTe
、Cu(In,Ga)Se
2、CuInS
2などは、希少で有毒な元素を含んでおり、太陽電池の普及を妨げている要因の一つとなっている。また現状では、半導体ナノ結晶を用いた太陽電池の光電変換効率は
1%
程度であり、有 機太陽電池で達成された約10 %
の性能には及ばない。そこで本研究では、将来の永続的生産性を視野に入れて、安価かつ低毒元素から構成される半 導体ナノ結晶を用いた塗布型太陽電池の実現を目指し、その作製に必要とされる要素技術を検討 した。具体的には、高結晶性かつ溶媒への分散性に優れたナノ結晶を得るべく、高沸点有機溶媒 中で熱分解するホットソープ法を用いて、高品質な
p
型およびn
型半導体ナノ結晶の合成を試み た。また、ナノ結晶表面に存在する高抵抗有機配位子を除去して、デバイスに応用できる半導体 膜の成膜手法を検討した。最後に、湿式法によってn
層、バッファー層、p層を積層した塗布型 太陽電池を作製・評価し、開発したプロセスの有用性を示した。また、塗布型太陽電池に応用で きる新しいナノ結晶材料の探索も行った。第
1
章では、本研究の背景および世界的研究状況について詳細にまとめた。第
2
章では、太陽電池のn
層および窓層を作製するために、酸化物ナノ結晶の合成と薄膜作製 を検討した。酸化物ナノ結晶を合成するためには、酸素源となる原料を探索する必要がある。そ こで、長鎖アルキル基を有するアルコールを酸素源として着目し、1,2-ヘキサデカンジオールを 用いてV
2O
3ナノ結晶の合成を試みた。種々の合成条件(原料濃度、溶媒、合成温度・時間)を 検討したところ、バナジウムのアセチルアセトナートと1,2-ヘキサデカンジオールをオレイルア
ミンとオレイン酸の混合溶液中で
300℃に加熱することにより粒径 10 nm
のV
2O
3ナノ結晶を合 成できることを見出した。また、V2O
3ナノ結晶の合成時にCr
アセチルアセトナートを添加する ことでCr
ドープV
2O
3ナノ結晶の合成にも成功した。この手法を基に、化合物半導体太陽電池の 窓層およびn
層として広く使用されるZnO
のナノ結晶合成を試みた。その結果、亜鉛のアセチ ルアセトナートと1,2-ヘキサデカンジオールをオレイルアミンとオレイン酸の混合溶液中で加熱
することにより粒径8 nm
のZnO
ナノ結晶が合成できることを見出した。本ナノ結晶は、非極性 有機溶媒中で良好な分散性を示し、これをコーティング液とするドロップキャスティング法によ り、可視光透過性の高いZnO
薄膜の作製に成功した。第
3
章では、低毒かつ汎用元素で構成される多元系硫化物Cu
2ZnSnS
4(CZTS)ナノ結晶の合 成とそれをp
層として用いる太陽電池を作製し、その評価を行った。銅、亜鉛、錫のアセチルア セトナートと硫黄粉末をオレイルアミン中で230
℃で加熱することにより粒径約10 nm
のCZTS
ナノ結晶を合成した。これを用いてスピンコーティングにより薄膜を調製した。合成したCZTS
ナノ結晶にはアレイルアミンが強く吸着しており、このままでは全く太陽電池特性を示さ ないことがわかった。そこで、アルキル化剤であるメーヤワイン試薬やヨードメタンにより、表 面吸着オレイルアミンを4
級化し、ナノ結晶への配位能を低減すれば、穏和な条件でCZTS
表面 か ら 除 去 で き る こ と を 見 出 し た 。 表 面 吸 着 オ レ イ ル ア ミ ン を ア ル キ ル 化 剤 と 反 応 さ せ 、Au/CZTS/CdS/ZnO/ITO-glass
構造の太陽電池を作製したところ、擬似太陽光照射下で光誘起整 流特性を示すことを見出した。その変換効率は0.05 %であった。
第
4
章では、本太陽電池の効率改善のための手がかりを見出すため、CZTSナノ結晶の組成比 と太陽電池特性との依存性について検討した。ICP
測定により、CZTS
ナノ結晶の組成は、Cu, Zn
の金属前駆体の原料仕込み比を変えることにより制御できることがわかった。また、組成比を変 化させても、結晶構造、禁制帯幅、価電子帯端位置に大きな変化は現れなかったが、銅欠損の組 成において最も性能が向上し、組成比に依存して太陽電池の変換効率が異なることが明らかとな った。しかし、ナノ結晶の荷電子帯端の位置はCZTS
バルク体に比べてネガティブシフトしてい ることが分かったため、トップ電極を現行のAu
からより仕事関数の小さな材料にする必要があ ることが示唆された。第
5
章では、本太陽電池作製手法の有効性を実証するため、CZTS
に代えて他の硫化物ナノ結 晶から成る塗布型太陽電池を作製し、その特性を評価した。まず、太陽電池材料として実績のある
CuInS
2のナノ結晶を用いて太陽電池を作製したところ、より良好な性能が得られることを確認した。さらに新規太陽電池材料として
CuSbS
2 に着目した。銅とアンチモンの有機錯体原料をオ レイルアミン中で加熱し、硫黄と反応させることでバンドギャップ1.6 eV
のCuSbS
2ナノ結晶を 合成した。本材料においても明瞭な光電効果を観測することができ、開発した塗布型太陽電池の 作製手法が新材料の探索にも適用できることを明らかにした。第