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学位論文審査の要旨 主査

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Academic year: 2021

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博士(農学)福田(後藤)陽子

学 位 論 文 題 名

スギにおける花粉アレルゲンの遺伝的変異に関する研究 学位論文内容の要旨

  現 在 、 日 本 に お け るス ギ 花 粉 症 の 罹 患率 は1割を 超 え 、 大 き な 社会 問 題 と な っ て いる 。 ス ギ花粉 症患 者の増 加 の 主 な原 因 は ス ギ 人 工 林 面積 の 増 加 に 伴 う スギ 花 粉 生 産 量 の 増加 に あ る た め 、 林 業に お い て 花 粉 症 対策 は 重 要 な 課 題の ひ と っ と な っ て いる 。 その中 のひ とっと して 育種に よる 品種改 良が 挙げら れ、 これま でに 雄花着 花性 の低 い 「 花紛 の 少 な い ス ギ 品 種」 の 選 抜 と 利 用 が進 め ら れてい る。 さらに 、ス ギ花紛 の主 要アレ ルゲ ンであ るCryjlと Cryj2の 花 粉 単位重 量当 たりの 含量 がスギ 個体 問で大 きく 異なる こと が報告 され ている こと から、 「ア レルゲ ン含 量 の 少 なぃ ス ギ品 種Jを 選抜し て花 粉対策 にさ らに効 果を 上げる こと が期待 され ている 。そ こで育 種効 果を検 討す るた め に 不可 欠 な 、 ア レ ル ゲ ン含 量 に お け る 遺 伝的 支 配 の 強 さ や 環境 要 因 の及 ばす影 響に ついて 明ら かにす るこ とを 本研 究の目 的と した。 ・

  ス ギ は 林 業 樹 種 で ある た め 、 花 粉 症 対策 品 種 に お い て も林 業 上 重 要 と さ れ る成 長 特 性 や 通 直 性、 材 質 が 優 れ てい ること が求 められ ゐ。 したが って 「アレ ルゲ ンの少 ない スギ品 種」 はそれ らの 特性に 優れ た精英 樹の 中から選抜 す る こと が 望 ま し い 。 精 英樹 の 選 抜 や そ れ らの 利 用 は北海 道、 東北、 関東 、関西 、九 州の5つ の育 種基本 区を 単位 と し て行 わ れ て い る た め 、北 海 道 を 除 く 各 育種 基 本 区の精 英樹 を対象 とし 、すで に定 量法が 確立 されて いるCryjl に お け る 個 体 問 変 異 を 調 ぺ た 。 そ の 結 果 、Cryjl含 量 はい ず れ の 育 種 基 本区 の ス ギ 精 英 樹 に おい て も15‑80倍 の顕 著な個 体聞 変異が ある ことが 明ら かにな った 。また 、雄 花着花 性と アレル ゲン 含量は 独立 した形 質で あることが 示唆 された こと から、 アレ ルゲン 含量 凵睦花 着花 性双方 につ いて検 討し 、とも に少 なぃク ロー ンを利 用す ることによ って 花粉症 の軽 減にお ける 高い効 果が 期待で きる と考え られ た。

  ス ギ の 雄 花 着 花 量 は個 体 問 や年 次間 で大き く異 なり、 凶作 年には まっ たく雄 花を 着生し ない 個体も ある 。そこ で ア レ ルゲ ン 含 量 の 調 査 の ため に 花粉を 安定 的に採 取す るには 、ジ ベレリ ン処 理によ る着 花促進 が有 効であ る。 そこ で8ク ロー ンを対 象と し、1ク ローン当たり2一個体(ラメット)にジペレリン処理を行い、 無処理の個体との間でCryjl 含 量 を比 較 した 結果 、ジベ レリ ン処理 はCryjl含量に 影響 を与え なぃ ことが 明ら かにな った 。また 、ク ローン 反復 率 を推 定した 結果 、0.796と いう 高い値 が得 られ、 ―般 的には クロ ーンごとにきわめて安定していた。しかしながら、8ク ロ ー ンの う ち1ク ロー ンでは ラメ ット間 でCryjl含量が 大き く異な った ことか ら、 ラメッ ト間 でCryjl含 量が 安定し な い ク ロ ー ン を 除 い て 「 ア レ ル ゲ ン の 少 な い ス ギ 品 種 ユ と し て 選 抜 す る 必 要 が あ る と 考 え ら れ た 。   CDrjl含 量 に 対 す る 環 境要 因 の 影 響 を 明 らか に す る た め に 、 福島 県 郡 山 市 、 栃 木県 今 市 市 、 茨 城 県十 王 町 、 千 葉 県木 更 津 市 に 共 通 し て植 栽 さ れ て い る クロ ー ン に お け るCryjl含 量 の 変 異 を調 ぺ た 結 果、 これ らの植 栽地 問 でCryjl含 量 は 変 化 す るも の の 、Cryjl含量に おけ るクロ ーン の順位 はほ ば同じ であ った。 クロ ーン、 植栽 地、ク ロ ー ンx植 栽 地 の交 互 作 用 を 要 因 とし て 分 散 分 析 を 行 った 結 果 、 ク ロ ー ン問 お よ び 植 栽 地 間で は有 意差が 認め られ た も のの 、 交 互 作 用 は 有 意で は なかっ た。 さらに 誤差 分散、 交互 作用分 散の 分散成 分の 寄与率 がそ れぞれ3013% 、     297

(2)

6.0%で あっ た のに 対 し、 ク ロー ン 聞分 散の 分 散成 分 の寄 与 率は54.5% と高 か ったこと から、Cryj1含 量は強い遺伝 的 支配 下に あ るこ と が明 ら かに な った 。ま た 、花 粉 が発 達 する9月 の降 水 量とCtyjl含量 の 間に 有意 な負の相関が 認められ た。  J

  本 研 究 で は 、JIBOIJIB072種 類 の モ ノ ク ロ ーナ ル抗 体 を用 い たサ ン ドウ ィッ チELISA法 でCryjlを 定 量し て い る が 、 前 述 の4つ の 育 種基 本 区の ス ギ精 英 樹の 中に はClyjlが 検 出さ れ ない 個体 が 見出 さ れた 。 これ ら の個 体 は使 用し て いる モ ノク ロ ーナ ル 抗体 との 親 和性 が 低いCryjlのア イソ フ オー ム(同じ 機能を持っが 分子構造の異 な るタ ンパ ク 質) を 生産 し てい る 可能 性があ るため、これら の個体の花粉 から抽出したCryjlとそれぞ れのモノクロ ー ナル との 反 応性 を 調ぺ た 。そ の 結果 、JIBOIと の親 和 性が 低いアイソフ オームとJIB07との親和性が 低いアイソフ オ ーム が検 出 され た 。そこでこれ らのアイソフ オームといず れのモノクロ ーナル抗体とも 反応するアイ ソフオームの cDNA配 列を 明 らか に して ア ミノ 酸 配列 を推 定 し、 そ れら を 比較 した 結 果、 そ れぞれ1残 基のアミノ酸 変異によって モノクロ ーナル抗体と の親和性が低下 していること が明らかにな った。そこで これらのアミノ 酸変異を引き起こしてい る 塩 基 置 換に 基 づきCAPS(clcavedamplif耐poIym啣hicscqnc鵠) マ ーカ ー を開 発し 、 スギ 精 英樹 に おけ る それ ぞ れの 頻度 を 推定 し た結 果 、JlBOlと親 和 性の 低 いア イ ソフ オ ーム の対 立 遺伝 子 頻度 は08%とJlB07と親和性の 低 いア イソ フ オー ム の対立遺伝子 頻度、18.6%と比較して極 めて低かった 。この結果か ら、JlB07をポ リクローナル 抗 体に 置き 換 え、JlB01とポ リ クロ ーナ ル 抗体 を 用い た サン ド ウィ ッチELISA法によっ てCryjlを定量 するのが一般 的に適当 であると考え られた。「アレ ルゲンの少な いスギ品種」 を選抜する際 にはさらに、候 補となったクローンにつ い てC舳lSマー カ ーに よる検査( チェック)を 行い、J1801と 親和性の低い アイソフオーム を生産してい る個体につい て はJlB07と ポ リ ク ロ ー ナ ル 抗 体 を 用 い た サ ン ド ウ ィ ッ チELISA法 に よ る 定 量 も 行 う 必 要 が あ る 。   以上 の結 果 から 、 改良 ・ した 定 量法 によ っ てCヴjl含 量の 個 体間 変異 に つい て改めて 検討すること にした。既に Cjl含量 は強 く 遺伝 的 に支 配 され た形 質 であ る こと が 明ら かになり、「 アレルゲンの 少なぃスギ品 種Jが花粉症対 策 品種 とし て 有効 で ある こ とが 示 され たこ と から 実 用化 を 視野に入れ、 既存のデータか ら比較的雄花 着花性の低い ク ロー ンを 選 抜し 、 それ ら にお け るCづjl含量 の 変異 を 調ぺ た 。ま た、Cj2につ い ても 定 量法 を確 立し、個体間 変 異を 調査 し た。Cj2にお い ても サン ド ウィ ッ チELISA法 が確立されて いるものの、抽 出方法によっ て抽出される 量 が大 きく 異 なる こ とが 報 告さ れ てい る。そ こで抽出溶媒を 再検討した結 果、従来使用 されていたO125M炭酸水素 ナトリウ ム水溶液にO5Mの塩化ナト リウムを加え ることによって 、抽出効率が 上昇することが明らかになった。この方 法 に よ っ て 推 定 さ れ たCj2含 量 の 平 均 値 は 、Cjl含 量 の 平 均 値406蝿よ り 若干 高く431鰐 であ り 、い ず れに お い て も1213倍の 個 体聞 変異 が 見出 さ れた 。Cjl含 量に お ける 個 体間 変 異は 、初 め に推 定 され た ほど 大 きく は なか った が 、十 分 に改 良 の効 果 が期 待で き るも の と考 え られ た。 ま た、Cryjl含量 とCryj2含 量の 聞には有意な 相 関 が 認 め ら れ た こ と か ら 、CIjl含 量 とCj2含 量が とも に 低い ク ロー ン を選 抜で き る可 能 性が 示 唆き れ た。

298 ‑

(3)

学位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教 授    寺 教 授    高 教 授    矢 教 授    藤 助教授   小

沢    実 橋 邦秀 島    崇 川 清三 島 康夫

学 位 論 文 題 名

スギにおける花粉アレルゲンの遺伝的変異に関する研究

  

現在日 本にお けるス ギ花粉 症の罹 患率は

1

割を超 えて大き な社会問題となっており、花粉症対 策は林 業にお ける重 要な課 題のひと っとなっている。これまでに雄花着花性の低い「花粉の少な いスギ 品種」 の選抜と利用が進められているが、さらにスギ花粉の主要アレルゲンであるCryjl と

Cryj2

の花 粉単位重量当たりの含量がスギ個体問で大きく異なることが報告されていることから、

「 ア レ ル ゲ ン 含 量 の 少 な い ス ギ 品 種 」 を 選 抜 し て 花 粉対 策 に 利 用で き る 可 能性 が あ る 。

  

スギは 林業樹 種であ るため 、花粉 症対策 品種に対 しても 林業に おいて 重要な 成長特性や通直 性、材質が優れていることが求められる。したがって「アレルゲンの少ないスギ品種」はそれらの特 性に優れた精英樹の中から選抜することが望ましいと考えられる。そこで北海道を除く東北、関東、

関酉、 九州に おける

4

つの育 種基本 区の精英 樹を調 査対象 として、すでに定量法が確立されてい るCryjl に おけ る 個 体 聞変 異 を 調 査し た 。そ の結果 、Cryj1 含 量はいず れの育 種基本 区のス ギ 精 英 樹 に お い て も

15

80

倍 の 顕 著 な 個 体 間 変 異 が あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。

  

また、 同一ク ローン におい てジベ レリン 処理を行 った個 体と無処理の個体の問でCryj1 含量を 比較し た結果 、ジベレリン処理による着花促進がCryj1 含量に影響を与えないことが明らかになっ たこと から、 ジベレリン処理により安定的に生産した花粉を用いてCryj1 含量の計画的な調査を行 うことが可能になった。また、クローン反復率を推定した結果、O .796 という高い値が得られたことか らCryj1 含 量はクローンごとに安定していることが示唆された。さらに福島県郡山市、栃木県今市 市、茨 城県十 王町、 千葉県 木更津市 に共通 して植 栽され ているクローンにおけるCryj1 含量の変 異を調査し、クローン、植栽地、クローンx 植栽地の交互作用を要因として分散分析を行った結果、

    I

クローン間およぴ植栽地間で有意差が認められたものの、交互作用は有意とならなかった。また推 定され たクロ ーン問 の分散 成分の寄 与率は54 .5 %と高く、Cryjl 含量が強い遺伝的支配下にある ことが明らかになった。

    

ー299 ―

(4)

  

一方、本研究で行っているCryj1 の定量法(モノクローナル抗体JIB01 、JIB07 を用いたサンドウ イッ チELISA 法 )では

Cryjl

が検出されない個体が見出され、これらの個体は使用しているモノク ローナル抗体との親和性が低いCryjl のアイソフオームを生産している可能性I カミ考えられた。そこ でこれらの個体の花粉から抽出したCryj1 とそれぞれのモノクローナルとの親和性を調べた結果、

JIB01

との親和性が低いアイソフオームとJIB07 との親和性が低いアイソフオームが検出された。こ れら のcDNA 配 列からア ミノ酸 配列を 推定し 比較した結果、それぞれ1 残基のアミノ酸変異によル モノクローナル抗体との親和性が低下していることが明らかになった。そこでこれらのアミノ酸変異 に基づきCAPS(cleaved amplified polymorphic sequences) マーカーを開発し、スギ精英樹における それ ぞれの 対立遺 伝子頻 度を推 定した 結果、JIB01 と親和性の低いアイソフオームの対立遺伝子 頻度は0 .8 %とJIB07 と親和性の低いアイソフオームの対立遺伝子頻度、18 .6 %と比較して極めて 低か った。 この結 果から、正確にCryjl を定量するためにはJIB07 をポリクローナル抗体に置き換 え、JIB01 とポリクローナル抗体を用いたサンドウィッチELISA 法により定量する必要があると考え られたため、この定量法によりCryj1 含量の個体間変異を改めて検討することにした。さらにCryj

2

につ いても 定量法 を確立 し、個 体間変 異を調 査した。

Cryj2

にお いては抽出方法によって抽出 される量が大きく異なることが報告されていたため、使用するバッファーを再検討した結果、従来使 用されていたO .125M 炭酸水素ナトリウム水溶液に0.5M の塩化ナトリウムを加えることによって抽出 効率 が上昇 するこ とが明 らかに なった 。推定さ れた花 粉lg あた りのCryj1 含量およびCryj2 含量 の平 均値は

406yg

と431 ptg と同程度であり、いずれにおいても12 〜13 倍の個体間変異が見出され た。

Cryjl

含量 におけ る個体聞 変異は ャ初め に推定されたほど大きくはなかったが、十分に改良 の効 果が期 待でき るもの と考え られる 。また、

Cryj1

含量 とCryj2 含量の間には有意な相関が認 められたことから、Cryj1 含量とCryj2 含量がともに低いクローンを選抜できる可能性を示唆した。

よっ て、審 査員一 同は、福田(後藤)陽子が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有す るものと認めた。

300

参照

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