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博士学位論文審査報告書 申請者氏名ふりがな

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Academic year: 2021

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博士学位論文審査報告書 申請者氏名 ま つ 優男ま さ お

学位の種類 博士(環境科学)

論 文 題 目 環境用水の導入と定着過程における資源管理のあり方に関する研究 論文審査委員会 委員長 滋賀県立大学環境科学研究科 教 授 秋山 道雄 委員 滋賀県立大学環境科学研究科 教 授 井手 慎司 委員 滋賀県立大学環境科学研究科 准教授 香川 雄一

論文の内容の要旨

本論文は、2006 年 3 月に国土交通省が発表した「環境用水に係る水利使用許可の取り 扱い基準の策定」によって環境用水の水利権が制度化されたのを受けて、すでに環境用水 の水利権を取得した事例と、環境用水の水利権は取得していないが実質的に環境用水とし て機能している事例とを対象として、環境用水が成立する経緯や導水の過程、その後の維 持管理体制の再編などの実態を比較・分析し、資源管理の観点から環境用水が成立する条 件を明らかにしようとしたものである。さらに、これまで灌漑用水が利水の主体であった 地域において、市街化、混住化が進み、環境用水の重要性が高まるなかで、これまで農業 用水の管理主体であった土地改良区がこれに関与し得る範囲と環境用水の導入過程で果た し得る機能について実証的に解明しようとしたものである。

論文は全6章で構成され、それぞれの章の概要は次のようになる。

第1章では、環境用水の制度化について、旧建設省が設置した水利制度研究会によって 議論され、1995年に「環境用水の水利使用の取扱いについて」が出されたことが始まりで あるとしている。環境用水という用語は、これまで論者によって多様な意味で用いられて きたが、21世紀に入って一定の範囲に収束する兆しを見せている。その契機となったのが、

国土交通省による環境用水の制度化であったと指摘し、環境用水概念に関する主要な規定 を整理した後、本論文で用いる環境用水の概念規定を行っている。

第2章では、先行研究のレビューと本研究の位置について説明している。ここでは、環 境用水に関する研究のうち、本研究と関わりの深いものに限定してサーベイした後、本研 究と関わりのある行政部門の動向を整理している。国土交通省、農林水産省、環境省は、

2007~2009 年の間に、それぞれ環境用水の整備に関する政策を打ち出しているが、それ

が登場する背景と内容について整理した。その上で、2006 年 3 月に国土交通省が環境用 水の制度化に関する方針を打ち出して以後、筆者が行ってきた研究を紹介し、今回本研究 で行った内容をこうした動向のなかに位置づけている。

第3章では、環境用水水利権を取得した5事例のうち4事例と、広義の環境用水を成立 させていたといえる4事例を、先進的な取り組みの事例とみなして現地調査を実施し、環 境用水が成立した要因を分析した。その結果、成立要因として考えられる事項は、環境用 水導入の過程に沿って、(A)地域の歴史・伝統、(B)環境用水を必要とした原因・動機、(C) 導入に至る取り組み、(D)水路などの施設整備、(E)維持管理、の5段階に整理でき、14の

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項目にまとめることができた。このうち、調査対象地域のすべてに該当した項目は、直接 的な要因、関係機関の連携、管理主体、管理費であり、これらが環境用水の導入に当たっ て重要な要素であることが示唆された。また、環境用水が持続する地域では、水路の周辺 に居住する住民だけでなく、広い層の市民によって支えられていることが明らかになった。

第4章においては、4事例について、各流域における水資源量に対する環境用水量の割 合について考察した。2006年3月に環境用水の制度化が始まってから、2009年2月まで に5件許可されたが、その後新たな水利権取得の事例は見られない。そこで、新たな水利 権の取得が見られない要因を水資源面から考察した。調査事例の環境用水は目的が異なり、

水量は0.3~2.15m3/sとかなりの幅があった。また、低水流量から河川維持流量や既得利

水量を引いた水量に対する環境用水量の割合は、0.4~58.3%の値であった。この値が高い 河川では、環境用水量の確保が容易ではないことを示している。

第5章では、非灌漑期(冬期)に地域用水の配水計画を策定し、試験通水を行った滋賀 県野洲川土地改良区の地域用水機能増進事業を対象とし、機能としての環境用水を成立さ せた過程とその要因を明らかにした。都市化が進行している地域では、市街地に居住する 住民による環境用水導入のニーズが高い一方、従来、農業用水を管理してきた土地改良区 は、都市化に対応し得る水管理体制の再編を迫られている。したがってこうした地域では、

関係者・関係機関の合意を図りつつ、環境用水を成立させるための条件をいかに備えてい くかという点を解明していくことが課題となっている。本研究では、守山市を対象にし、

市街地に居住する非農家や自治会、環境 NPO、農家、土地改良区、市行政それぞれの位 置と役割を確認しつつ、環境用水の導入を成立させた条件を解明した。

第6章では、第3章、第4章、第5章で行った研究成果(すなわち①2006年3月に国 交省が発表した「環境用水に係る水利使用許可の取扱い基準の策定」によって環境用水の 水利権が制度化されたのを受けて、環境用水の導入地域における成立要因を分析し、②地 域で利用可能な水資源量と環境用水量を対比・考察し、③環境用水としての機能を有する 地域用水の導入を成立させた野洲川土地改良区の取り組みに着目し、その過程と要因を分 析した)を要約し、それぞれがもつ研究上、実践上の意義を明らかにした。さらに、今回 の研究では扱うことができなかったが、今後、環境用水の研究を進めていく上で重要とな る課題を3点に整理した。

論文の審査結果

環境用水の歴史は 40 年近くにおよぶので、環境用水の研究にはかなりの蓄積がある。

それに対して、2006 年 3 月に国土交通省が環境用水の制度化を導入して以後、環境用水 の研究には新たな課題が発生してきたが、これまでのところこうした課題に本格的に取り 組んだ研究は見られない。こうした状況のなかで、本研究は、環境用水の制度化以後登場 した新たな課題に取り組んだ初めての研究という意義を有している。具体的には、以下の ような点が本研究の成果とみなし得る。

まず、環境用水の制度化以後8年あまりが経過するが、制度化に関わる研究は制度設計 に関するもののみであった。それに対して本研究は、制度化された環境用水4事例、環境 用水の水利権は取得していないが機能としての環境用水が成立している2事例、地域用水

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(雑用水)の水利権を取得した2事例について現地調査を行い、実態分析を通じて環境用 水の成立要因を解明した。これは、先行事例のない新規性を有している。さらに、環境用 水の水利権、慣行水利権、地域用水(雑用水)の水利権という制度上の性格が異なる3つ の類型を比較・分析したのも初めての研究であるが、とくに地域用水水利権の成立過程に ついては、これまで試みられてこなかった研究であり、水利研究に寄与する意義は大きい。

次に、2006年3月の制度化以降、2009年2月までに環境用水の水利権は5件許可され たが、その後新たな水利権取得の事例は見られない。そこで、新たな水利権の取得が見ら れない要因を水資源面から考察している。環境用水量について、水資源量から考察した研 究事例はないため、この研究は端緒的かつ実験的なものとしてその価値は高い。

第3に、都市化が進行している地域において土地改良区はこれに対応した水管理体制の 構築を迫られているが、野洲川土地改良区のような機能としての環境用水を成立させた事 例の分析はなく、この点で本研究はこの領域におけるさきがけ的な研究となる。野洲川土 地改良区の研究は、農業関係者サイドから環境用水の確保に取り組もうとするケース、市 民サイドから環境用水の確保に取り組もうとするケースの双方に手がかりを提供する成果 となっており、その社会的意義は高い。市街地や混住地域に住む市民が、生活環境の整備 や生活の質の向上を目指して、既存の農業水路を活用しつつ、環境用水の導入を検討する 際、農業水利団体との接点の持ち方、用水の導入方法などを示す経路をも明らかにし得た。

本論文の主要部分は、以下の著書の一部および審査付き学術論文として公表されている。

以上のことから、審査委員会は本研究が博士(環境科学)の学位論文としての価値が十 分にあるものとみなし、「合」と認める。

[著書]

1)松 優男(2012):環境用水水利権の実態―仙台市六郷堀・七郷堀の事例から(秋山道 雄・澤井健二・三野 徹編『環境用水―その成立条件と持続可能性』技報堂出版)、171-180。

[審査付き学術論文]

1)松 優男・上野裕士・足立考之・秋山道雄(2011):流域の水資源量から見た環境用水 量の評価、『応用水文』No.23、41-50。

2)松 優男・秋山道雄(2012):環境用水導水の成立要因―先行事例地区の分析を中心に、

『水資源・環境研究』Vol.25、No.2、76-87。

3)松 優男・秋山道雄(2014):土地改良区による環境用水導入の成立要因―滋賀県野洲 川土地改良区の冬期通水を事例として、『水資源・環境研究』Vol.27、No.2、26-35。

参照

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