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博士学位論文審査報告書 申請者氏名

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Academic year: 2021

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博士学位論文審査報告書

申請者氏名 舟尾 俊範(ふなお としのり)

学位の種類 博士(環境科学)

論 文 題 目 ナマズを中心とした水田利用魚類の繁殖生態および保全に関する研究 論文審査委員会 委員長 滋賀県立大学環境科学研究科 准教授 高倉 耕一 印 委員 滋賀県立大学環境科学研究科 教 授 西田 隆義 印 委員 滋賀県立大学環境科学研究科 教 授 浦部 美佐子 印 委員 滋賀県立大学環境科学研究科 教 授 倉茂 好匡 印

論文の内容の要旨

本研究は、水田に遡上し繁殖を行う淡水魚を水田利用魚類と位置付け、その中でも最上 位の捕食者、すなわちアンブレラ種であるナマズを主な研究対象として、現在の水田およ びその周辺の水路環境における繁殖・成長の実態を綿密な野外調査によって明らかにし、

水田利用魚類の保全の可能性を議論したものである。

第1章では、水田利用魚類の繁殖をめぐる状況の変遷および課題について、文献情報な どをもとに水田造成の以前・以降そして最近の状況を整理し、以下のように分析した。湖 や大河川などの恒久的な水域から陸域への移行帯において季節的に出現する一時的水域は、

ナマズやコイ・フナ類などの水田利用魚類にとって好適な繁殖場所として機能していた。

移行帯が農作地へと転換された後も、水田環境は一時的水域の代替環境として、それらの 魚類に繁殖場所を提供してきた。しかし、近年の圃場整備などによって水田と恒久的水域 との間の連続性が失われ、水田利用魚類が繁殖場所として利用できない水田が多くなった。

そのような現状にあっても、その途中の水路までは水田利用魚類は遡上しており、水路で の繁殖も観察されている。しかし、水田利用魚類の繁殖場所として水路が十分に機能して いるかどうかについて、これまでに検証された例はない。水路における繁殖の問題点を明 らかにすることができれば、より低コストかつ効率的に水田利用魚類の保全を行うことが 可能になると期待される。

以上の現状分析に基づき、第 2章と第 3章の目的をそれぞれ、小排水路と幹線水路にお ける水田利用魚類の繁殖・成長の現状を明らかにすることと設定した。さらに、第4章で は、水路環境に遡上するナマズ繁殖集団について、野外調査と統計モデルを組み合わせた アプローチにより、集団サイズや消長を明らかにすることを目的とした。すべての調査は 彦根市内の水田地帯で行った。

第2章では、小排水路における水田利用魚類の繁殖と成長を調査した。水田により近く 流れも緩やかな小排水路におけるナマズ仔稚魚の成長は、本来の繁殖地である水田と同等 であることを示した。また、個体数の減少率は、水田よりも小排水路で小さかった。ほか に、フナ類、ドジョウ、メダカについても調査を行い、それらの仔稚魚も小排水路におい て成長していることを確認した。これらの結果より、水田利用魚類の繁殖場所として小排 水路は十分に機能していると結論付けた。

(2)

第3章では、規模・流速が比較的大きな幹線水路における繁殖実態を調査し、ナマズは 産卵をしてはいるものの卵の生存率は低く、現状の幹線水路がナマズの繁殖には適してい ないことを示した。幹線水路における卵および仔稚魚の定期的な調査により、ナマズの卵 は多く採集されるものの、その仔稚魚はきわめて少ないことを明らかにした。また水路構 造の測量結果から、幹線水路上流部では特に卵や仔稚魚が流されやすいと推測した。一方 で、卵の粘着力の強いコイ・フナ類では多くの仔稚魚が採集された。これらから、幹線水 路においてナマズの仔稚魚が少なかった要因は、卵の粘着力が弱く流されやすいためであ ると考えられた。人工産卵基質の設置など、卵が流されにくくなるような改修を行うこと ができれば、幹線水路もナマズの繁殖場所として機能しうると考えられた。

第4章では、幹線水路に遡上するナマズの繁殖集団規模を推定し、水田地帯の水路にお けるナマズ個体群保全の可能性を検討した。モンドリ調査と目視観察の結果に、個体群動 態を記述するベイズ統計モデルを組み合わせて、繁殖集団サイズおよび個体の移出入など 個体群パラメータを推定した。その結果、この調査地におけるナマズの繁殖時期は4月か ら 7月までと比較的長いこと、その期間中に 1個体が複数回繁殖していること、繁殖集団 の規模はピーク時には約 120個体に達したことなどが示された。この推定結果から、現状 でも十分な規模の繁殖集団が維持されており、水路環境をナマズの繁殖に適した構造に改 修した場合には速やかに繁殖が期待できると考えられた。

第5章では、以上の結果にもとづいて、水田利用魚類の繁殖場所としての水田環境の現 状、およびその保全可能性について議論した。小排水路は繁殖場所として概ね健全に機能 しており、幹線水路では問題点もあるものの、比較的簡易な改修により繁殖場所としての 好適性を回復させることが可能であると考えられた。ナマズについては十分な規模の繁殖 集団が維持されており、水路環境を改善すれば繁殖場所として有効かつ速やかに機能する と考えられた。水田利用魚類の理想的な保全策としては、本来の繁殖場所である水田と恒 久的水域の間の連続性を回復することが望ましいものの、現状では必ずしも容易ではない。

本研究の成果からは、現状でも遡上が見られる水路環境の質を高め、繁殖場所として活用 していくことが、水田利用魚類の現実的かつ迅速な保全策として有効であることが示され た。

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論文の審査結果

論文審査委員会は、舟尾俊範が提出した学位申請論文が博士(環境科学)を授与するに 値すると判定した。審査過程と審査結果の概要は以下の通りである。

平成26年度第 10回環境科学研究科会議において、申請者が提出した学位論文を受け、

高倉耕一准教授、西田隆義教授、浦部美佐子教授、倉茂好匡教授を委員とする論文審査委 員会の設置が承認された。同委員会において、学位申請論文の査読を行うとともに委員会 会議を開催し、論文内容を審査した。さらに、学位論文審査報告会において最終試験を実 施し、試験終了後、委員会による学位審査を行った。

本学位申請論文は、水田を繁殖場所として利用してきた淡水魚類の中でも高次の捕食者 であるナマズを主な研究対象として、代替繁殖場所として水路を利用している現状を明ら かにするとともに、繁殖場所としての水路の問題点を指摘し、それら淡水魚類の保全の可 能性を検討したものである。水田に直結し流れも緩やかな小排水路において実施した野外 調査により、ナマズおよびコイ・フナ類で産卵および仔稚魚の成長が認められること、そ の成長速度が本来の繁殖地である水田と同等であることを示した。しかし、それらの小排 水路が合流し流れの早くなった幹線水路においては、ナマズの産卵は見られるものの、卵 は粘着性が低いために流されており、繁殖場所として十分に機能していないことを指摘し た。この知見は、卵の流下を抑止する対策によって、水路の繁殖場所としての価値を向上 させることができることを示唆している。さらに、標識再捕法とベイズ統計モデルを用い ることにより、水路に遡上するナマズ繁殖集団の規模を推定し、小河川としては十分な大 きさの繁殖集団が維持されていることを明らかにした。以上の結果にもとづいて、水路環 境は現状でも水田の代替繁殖地としてナマズをはじめとする淡水魚類に利用されており、

一部の水路において見られる問題点も簡易な改修により克服が可能であるうえ、現状では 繁殖集団も維持されているために保全の効果は速やかに現れるであろうことを議論した。

これらの研究成果の一部は、下記の論文として公表されている。

舟尾俊範・沢田裕一(2013)水田地帯の小河川へのナマズSilurus asotusの侵入および繁殖 について. 魚類学雑誌 60(1): 43-48.

Funao, T., Nishida, T., Kurashige, Y. & Sawada, H. (2014) Different suitability of improved irrigation channels as reproductive sites for Cyprininae and Silurus asotus. Scientific Reports 4: Article Number 3588, DOI: 10. 1038/srep0358.

舟尾俊範・高倉耕一・西田隆義・沢田裕一 (2014) 標識再捕獲調査とベイズモデルによる ナマズ Silurus asotusの繁殖集団の動態の推定. 魚類学雑誌 61(1): 15-26.

本論文は、水田に侵入できなくなった淡水魚類にとって、水路環境が代替的な繁殖環境 として機能していることを、その問題点および改善可能性も含めて示した、これまでにな い着眼点の研究である。また、綿密な野外調査にもとづいて淡水魚類の繁殖生態の実態を 記載しており、貴重な基礎データとして生物多様性保全上の価値も高い。

以上のことから、論文審査委員会は本論文が博士(環境科学)を授与するに値するもの と認めた。

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