問 題 と 目 的 1. 本 研究の目的 本研究の目的は,インターネットが発展した現代にお ける三つの友人関係(オフラインの友人,オンラインの友 人,オンオフの友人)において,それらの友人とは一体ど のような存在なのか,およびそれらの友人関係は人生の 総合的な豊かさに貢献しているのかどうか(どのような 点で有益なのか)を知覚されたソーシャルサポートの観 点から明らかにすることである。 2. 三つの友人関係―オンライン,オフライン,オンオフ インターネットがコミュニケーションの場としても 発展したことで,それまで一般的な友人関係とされてい たオフラインの友人(現実世界で知り合った友人)に加え, オンラインの友人(インターネット上で知り合った友人) という新たな友人関係が生まれた。また,近年ではより 親しくなったオンラインの友人同士が実際に会って交流 することも頻繁に行われており,外見的な匿名性を取り 払ったという点でオンラインの友人から一歩オフライン の友人に近づいた友人(以下オンオフの友人)との関係も 形成されている。先行研究においてこのオンオフの友人 をオンラインの友人から切り離して扱っているものはほ とんどなく,オンラインの友人も含めそれらがどのよう な存在なのかという十分な検討はなされていない。そこ で本研究では,これら三つの友人関係がどのような存在 であり,どのような点で有益なのかを検討するため,ソ ーシャルサポートという概念に注目した。 3. ソ ーシャルサポート ソーシャルサポートは,「特定個人が,特定時点で,彼 /彼女と関係を有している他者から得ている,有形/無形 の諸種の援助」(南・稲葉・浦,1988)と定義される。大 きく分けて4 つの次元に分類されるが,本研究では質的 側面に注目し知覚されたサポートを扱う。また,ソーシ ャルサポートはいくつかの機能的内容にも分類されるが, 本研究においては,和田(1989)による 5 つの分類をもと に知覚されたサポートの測定尺度を作成した片受・大貫 (2014)の 3 因子構造による分類を用いる。すなわち,(1) 情緒・所属的サポート,(2)情報・道具的サポート,(3)評 価的サポートである。 4. 三 つの友人関係とソーシャルサポート―紐帯から これまでに述べた三つの友人関係から得られるソーシ ャルサポートについて考える際,「紐帯」が重要な手掛か りとなる。紐帯とは人と人とのつながりであり,強い紐 帯と弱い紐帯に分類される(Granovetter, 1973)。強い紐 帯とはより親しい結束的なつながり(例:親友,家族など) であり,ソーシャルサポートの供給源として期待される。 一方弱い紐帯とは橋渡し的なつながり(例:知人,顔見知 り)であり,新規の情報や機会の提供者として期待される (池田, 2010)。 この紐帯に関して,いくつかの研究ではオフラインの 友人関係=強い紐帯,オンラインの友人関係=弱い紐帯 として位置づけられている(e.g., Kraut et al., 1998; 竹 田, 2010)。また,オンオフの友人に関しては,仮にそれ を弱い紐帯に属するものと仮定したとき,わざわざ匿名 性を取り払うなどの労力を払ってまでその相手と意図的 に会う可能性は考えにくい。直接会うことはそれだけ親 しいということを表しており(小林・城, 2002),この点か らするとオンオフの友人は強い紐帯に属するものと考え られる。しかし元々はオンラインの友人関係に属してい た相手でもあるため,情報・機会の提供者としての特性 も十分持ち得ると推測される。これらの理由から,オン オフの友人は弱い紐帯としての特性を持ちながらも強い 紐帯に属するものとして本研究では位置づける。 それぞれの紐帯に期待される役割および各友人関係 への紐帯の適用の議論をもって,以下の仮説を立てる。 仮説1:情緒・所属的サポートに関して,オフライン およびオンオフの友人からのサポートの方が オンラインの友人からのサポートよりも多く 受け取られている 仮説2:情報・道具的サポートに関して,オンライン およびオンオフの友人からのサポートの方が オフラインの友人からのサポートよりも多く 受け取られている 仮説3:評価的サポートに関して,オフラインおよび オンオフの友人からのサポートの方が オンラインの友人からのサポートよりも多く 受け取られている
オンライン お よ び オ フ ラ イ ン の 友 人 関 係 と ソ ー シ ャ ル サ ポ ー ト と の 関 連
キーワード:CMC,オンラインの友人,ソーシャルサポート,関係満足度,人生満足度,紐帯 所 属 行動システム専攻 氏 名 扇 翔平5. 関 係満足度および人生満足度との関連 それぞれの友人関係から得られたソーシャルサポー トが実際どのように有益であるのかを検証するため,友 人関係の満足度と人生の満足度に注目した。 5-1. 関係満足度 加藤(2001)の研究にもとづき,友人関係に関する主観 的満足感と定義する。同研究では精神的健康(メンタルヘ ルス)の指標として用いられているが,既に述べた通り知 覚されたソーシャルサポートに関する多くの研究ではメ ンタルヘルスとのポジティブな関連が報告されている。 また,いずれの友人関係においても,サポートを提供し てくれた相手に対する評価・満足感が高まるのは自然な ことといえるだろう。 仮説4:知覚されたソーシャルサポートは,その サポートの供給源となった友人関係への 満足度にポジティブな影響を与える 5-2. 人生満足度 角野(1995)に基づき,人生に対する肯定的評価と定義 する。過去の様々な研究において,友人関係の満足度と 人生満足度のポジティブな関連が報告されている(e.g., Demir & Weitekamp, 2007)。その前後関係として,友人 関係の質とそれに伴う満足度が高まるからこそ総合的な 人生の満足度も高まるという流れが採用されている。本 研究もこの流れを汲み(仮説 5),仮説 4 と合わせて知覚 されたソーシャルサポート,関係満足度,人生満足度に 関する理論的枠組みを提唱する(Figure 1.参照)。 仮説5:関係満足度は,人生満足度にポジティブな影響 を与える 6. 親 密度 本研究では親密度も変数として測定する。これは,親 密度がソーシャルサポートと密接に関連しており(e.g., 小林・城, 2002),かつ紐帯の強弱を分ける重要な指標の 一つだからである。明確な仮説検証は行わないものの, これまで論じてきた三つの友人関係におけるソーシャル サポートの議論が先行研究の知見と一致するものである かどうかを確認する。 方 法 1. 調 査対象および調査時期 本調査は匿名のWEB アンケートを用いて行われた。 調査対象は189 名(男性 123 名,女性 66 名,平均年齢 = 24.7 歳,SD = 5.58),調査時期は 2014 年 11 月下旬~12 月中旬であった。 2. 使 用した尺度および項目 2-1. ソーシャルサポート 片受・大貫(2014)の大学生用ソーシャルサポート尺度 を用いた。大学生用ではあるが,年齢における一般性を 持っている内容と判断し本研究で使用した。全 23 項目 の内 18 項目を用いており,一部の項目内容を質問形式 に沿うように変更した。参加者には「4 = 非常にあては まる」から「1 = 全くあてはまらない」の 4 件法で回答 を求めた。項目分析の結果,5 項目からなる情緒・所属 的サポート(α= .87),6 項目からなる情報・道具的サポ ート(α= .90),6 項目からなる評価的サポート(α= .92) の3 因子構造を採用した。 2-2. 関係満足度 加藤(2001)の友人関係満足尺度を使用した。6 項目か らなる(α= .93)が,すべての項目の内容を質問形式に沿 うように変更した。参加者には「4 = よくあてはまる」 から「1 = あてはまらない」の 4 件法で回答を求めた。 2-3. 親密度 「その友人たちとどれくらい親しいと思いますか」の 1 項目からなり,参加者には「5 = とても親しい」から 「1 = 全く親しくない」の 5 件法で回答を求めた。 2-4. 人生満足度 角野(1995)の人生に対する肯定的評価尺度を使用した。 12 項目からなり(α= .91),参加者には「7 = 全くそうだ」 から「1 = 全くそうではない」の 7 件法で回答を求めた。 3. ア ンケート構成 (1)フェイスシート,(2)オフラインの友人について,(3) オンオフの友人について,(4)オンラインの友人について, (5)人生満足度の順で尋ねた。(2),(3),(4)の各関係にお いて知覚されたサポート,関係満足度,親密度を尋ねて いるが,(3)と(4)に関しては該当の友人がいない参加者は 回答していない。つまり,(2)のみに回答した群,(2)と(3) に回答した群,(2)と(4)に回答した群,(2)(3)(4)すべてに 回答した群に分けられたが,一部の分析ではすべての友 人関係に回答した群を対象にした。 結 果 1. 親 密度の分散分析 すべての友人関係における項目に回答した参加者を
対象に,「友人関係の種類」を独立変数,「親密度」を従 属変数とする1 要因の被験者内分散分析を行った。その 結 果 , 有意な主効果が見られた(F(2, 138) = 25.19, p < .001)。修正 Shaffer 法による多重比較を行ったところ, オフラインの友人はオンオフの友人(p < .05)およびオン ラインの友人(p < .001)よりも,オンオフの友人はオンラ インの友人よりも(p < .001),親密度が有意に高かった。 2. ソ ーシャルサポートと親密度の相関分析 各友人関係における「ソーシャルサポート」と「親密 度」に関してピアソンの積率相関分析を行った。その結 果,すべての友人関係においてサポートと親密度の間に 有意な強い正の相関が見られた。なお,各友人関係のデ ータを統合して算出した相関をTable 1.に示す。 3. ソ ーシャルサポートの分散分析 3-1. 情緒・所属的サポートの分散分析 すべての友人関係における項目に回答した参加者を 対象に,「友人関係の種類」を独立変数,「情緒・所属的 サポート」を従属変数とする1 要因の被験者内分散分析 を行った。その結果,有意な主効果が見られた(F(2, 138) = 16.67, p < .001)。修正 Shaffer 法による多重比較を行 ったところ,オフラインの友人およびオンオフの友人は オンラインの友人よりも情緒・所属的サポート得点が有 意に高かった(いずれも p < .001)。オフラインの友人と オ ン オ フ の友人 の間には有意な差は見られなかった (Figure 2-1.参照)。よって,仮説 1 は支持された。 3-2. 情報・道具的サポートの分散分析 すべての友人関係における項目に回答した参加者を 対象に,「友人関係の種類」を独立変数,「情報・道具的 サポート」を従属変数とする1 要因の被験者内分散分析 を行った。その結果,有意な主効果が見られた(F(2, 138) = 3.61, p < .05)。修正 Shaffer 法による多重比較を行っ たところ,オンオフの友人はオンラインの友人よりも情 報・道具的サポート得点が有意に高かった(p < .05)。そ の他の間に有意な差は見られなかった(Figure 2-2.参照)。 よって,仮説2 は支持されなかった。 3-3. 評価的サポートの分散分析 すべての友人関係における項目に回答した参加者を 対象に,「友人関係の種類」を独立変数,「評価的サポー ト」を従属変数とする1 要因の被験者内分散分析を行っ た。その結果,有意な主効果が見られた(F(2, 138) = 14.07, p < .001)。修正 Shaffer 法による多重比較を行ったとこ ろ,オフラインの友人およびオンオフの友人はオンライ ンの友人よりも評価的サポート得点が有意に高かった (いずれも p < .001)。オフラインの友人とオンオフの友 人の間には有意な差は見られなかった(Figure 2-3.参照)。 よって,仮説3 は支持された。 4. サポートと関係満足度,人生満足度に関するパス解析 4-1. オフラインの友人関係におけるパス解析 想 定 し た モ デ ル の適 合度 指標 は Χ 2(3) = 3.70, p = .296, CFI = .999, RMSEA = .035, SRMR = .019 であ り,適合度は良好であった。よって,モデルは適当であ ったと考えられる。そのモデルを Figure 3-1.に示す。 情緒・所属的 サポート 情報・道具的 サポート 評価的 サポート 親密度 情緒・所属的サポート 1.000 情報・道具的サポート .692** 1.000 評価的サポート .680** .666** 1.000 親密度 .759** .604** .673** 1.000 **p < .01, *p < .05, +p < .10 Table 1. 各サポートおよび親密度の相関係数(N = 391)
Figure 3-1.に示されるように,二つのサポートは関係満 足度に正の影響を及ぼしていたが,情報・道具的サポー トは影響を及ぼしていなかった。また,二つのサポート によって高められた関係満足度は人生満足度を高めてい たという間接的な正の影響も見られた。 4-2. オンオフの友人関係におけるパス解析 想定したモデルの適合度は低く,モデルは不適当であ ったと判断したため,不要と思われる変数およびパスを 削除し再度分析を行った。最終的に採用されたモデルの 適 合 度 指 標 は Χ2(1) = .002, p = .966, CFI = 1.000, RMSEA = .000, SRMR = .001 であり,そのモデルを Figure 3-2.に示す。Figure 3-2.に示されるように,二つ のサポートは関係満足度に正の影響を及ぼしていたが, 情報・道具的サポートからのパスは伸びなかった。また, 人生満足度はその他の変数と関係性を持っていなかった。 4-3. オンラインの友人関係におけるパス解析 想定したモデルの適合度は低く,モデルは不適当であ ったと判断したため,不要と思われる変数およびパスを 削除し再度分析を行った。最終的に採用されたモデルの 適 合 度 指標 は Χ2(1) = .002, p = .966, CFI = 1.000, RMSEA = .000, SRMR = .001 であり,そのモデルを Figure 3-3.に示す。Figure 3-3.に示されるように,二つ のサポートは関係満足度に正の影響を及ぼしていたが, 情報・道具的サポートは影響を及ぼしていなかった。ま た,人生満足度はその他の変数と関係性を持っていなか った。 以上より,仮説4および5 は部分的に支持された。 考 察 オンラインの友人はサポートの供給源としては他の 二つの友人よりも機能しておらず,オンオフの友人はオ フラインの友人と同程度のサポートを提供し得る存在で ありながらそのサポートは人生の総合的な豊かさには貢 献していないことが示された。親密度やサポートの観点 から,オフラインの関係=強い紐帯,オンラインの関係 =弱い紐帯と改めて結論付けることができたが,オンオ フの関係に関しては疑問が残る結果となった。 本研究ではインターネットから始まった二つの関係 は人生の総合的な満足度においては有益でなかったが, 少なくとも関係満足度が高められていることからも何か 別の要素に関して有益となる可能性は十分考えられる。 特に本研究で扱ったオンオフの関係はまだまだ不明瞭な ものであり,そこからアプローチしていくことでインタ ーネットに更なる可能性を見出せるかもしれない。それ を明らかにしていき有益さを追求することは,今後ます ます発展するであろうインターネット社会の中で,人々 がよりよく生きていくための重要な足がかりとなるだろ う。 主 要 引 用 文 献 池田謙一・唐沢穣・工藤恵理子・村本由紀子 2010 社 会心理学 有斐閣 角野善司 1995 人生に対する肯定的評価尺度の作成 (1) 日本教育心理学会総会発表論文集 (37), 95 片受靖・大貫尚子 2014 大学生用ソーシャルサポート 尺度の作成と信頼性・妥当性の検討―評価的サポート を含む多因子構造の観点から― 立正大学心理学研 究年報 (5), 37-46 加藤司 2001 対人ストレス過程の検証 教育心理学 研究, 49, 295-304