全 身 振 動 慢 性 暴露の行 動お よび脳 内神経 伝 達物質 へ の 影響に関 する実験 的 研究
金沢大 学 医学 部 公 衆 衛 生 学 講座 (主任: 岡田 晃教 授)
本 間 達 也
( 平 成4 年1月1 0 日受 付)
全身振 動の慢 性 暴 露に よ る行 動お よ び内 分泌 系 機 能への影響な ら び に その影響の発 現 磯 序を脳 内神 経 伝 達物 質との関連
で明 ら かにする た めに, ラッ ト に 1 日, 9 0分 間全 身 振 動 (1 G・2 0 =z) を2 8 日間 連 続 暴露 ( 慢 性 暴露) し 振 動 暴威 終 了 直後1時 間お よ び夜 間の自発 運 動 量と 立 ち 上 が り行動の柾目変 化を調べ, さ らに慢 性 暴露 終了2 4時 間 経過した安 静 期の血紫コル チ コ ス
テロ ン値(c o rtic o ste r o n e・C O R) と前 頭 葉 皮 質, 側 壁 軌 扁 桃 体, 線 条 体における ドパミン(dopa min e, D A) 代 謝 率, サブスタ ン スP様 免 疫 活 性 (s ubsta n c e P‑1ikeim m u n o r e a cti vit y・ S P¶LI) を測 定し た・ 慢性 暴 露によ る C O R, D A 代 謝率と S P‑L I の変 化につ いて は, 1 4 日間 連続 暴 露 (亜慢 性 暴 露) お よ び 1 回暴 露(急 性 暴 露) によ るものと比較した・ その結 乳 自 発 運 動量, 立 ち 上 が り行 動の低 下が暴露 第1 , 2 週 目の暴 露 終了直後において観 察された が, 暴 露の繰り返し に し た がいその低 下は消 失し た・ 同 様に ・ 急 性 暴 露 群で認め ら れ た前頭 葉 皮 質 D A 代 謝率の克 進は, 暴露の経 過と ともに消 失し た. これ らの結 果よ り. 慢 性 暴 露が, 暴露に対 する行 動や情 動における適 応をもたら すこと が 示 され た・ 一 方, 行 動の夜 間備につ い てほ暴 露 第1 , 2週 目の変 化は な か った が, 第3 , 4 週目におい て自 発 運 動 乱 立 ち 上 が り行 動の低 下が認め ら れ た. ま た C O R な ら びに側 坐核 D A 代 謝率につ い ても 暴 露の繰り返し と ともに・ 賦 括 化が生じ ること が みいだ さ れ た・ これ らの結 果は慢 性 暴露は行 動の概日 リズムへの障 害を引 き 起こすこと を 示唆する と 同時に, 行 動 概日 リ ズム・ 下 垂 体一副腎 皮 質 系機 能と中 脳一 側坐 核D A 系 間の 機 能 的 関連を推 定さ せ た・ ま た・ 前頭 葉 皮 質S P‑L I は急 性, 亜慢性′ 慢 性 暴露 群の いず れにおいても 低 下が認め られ, 中脳 一 前 頭葉 皮 質お よ び中 脳一側 坐 核 D A 系を前 頭 葉 皮 質サブス タ ン スP (s ubsta n c e P▼S P) 神 経系が調 節 する という 脳 内神 経 伝 達 機 構が想 定さ れ た・ 以 上の結 果よ り, 全 身 振 動の慢 性暴 露によ る精 神 活 動への影 響はl 急性 暴 露によ る そ れ と は別に評価さ れ
る 必要があること が 示唆された.
K ey w ords behavio r, Chr o nic str e s s, dopa mine, Wh oleLb ody vi br atio n, Substa n ce P
全 身 振動ほ全 身に伝 達さ れ る振 動の ことである が, 産 業の発 展は 人 がこ の振 動に様々な形で遭 遇 する機 会をもた ら し た. 地 盤振 動が誘 起 する家 屋の振 動によ り住 民は昼 夜ともに全 身振 動 を受 け, ま た産 業 職 場で の車両 上の労 働 者は さ らに大 きい全 身 振 動に暴 露されて いる1J.
こ の全 身 振動によ る影 響は自 律 神 経 系や内 分泌系へ の作用 を 主体と し, 循環 乳 呼吸 器, 消 化器の障害をもた らすと さ れて いる2 '3'・ しか し, こ のような影 響は, これ まで人 や実験 動 物に 対する急性 暴 露 実 験, あるいは住 民や労働 者に対 する疫 学 的 調 査に よってのみ調べら れ たに過 ぎない4 ‑ 5). 前 老の急 性 暴 露 実 験
によ る結 果が実 際の暴 露 状 乱 すな わ ち, 長 期に渡って全身 振 動が暴霹さ れ る状 況を 必ずしも 反 映しない こと は, これ まで他
のストレ ス実験によっ ても十 分, 推 察さ れ る… ). ま た後 者の疫 学 調査で は, 共存 する他の多 くの ス ト レス, 例えば騒 音や, 低 周 波の影 響を差し引いて全 身 振 動に よ る影 響を純 粋に抽 出 する
手段にはな らないと考え られる4 )5 1・ した が って全 身 振動の慢 性
暴露によ る影 響は, これ ま で まったく正 しく 評 価さ れてきた と はい い難い・ そこ で, 本 研 究で はラ ッ トを 用いた全 身 振動の慢
性 暴 露 実験によ り, ス トレ ス反 応の指 標と さ れ る下垂 体一副 腎 皮 質 系機 能への影 響を調べた.
全 身振 動の暴 露によっ てもた ら さ れ るパ フ ォ ー マ ン ス の減 退, 不快 感の増 大や睡 眠 障 害とい った精 神 活 動へ の影 響 も, 環 境 衛 生上決し て黙 視でき ない問題である‑ ). そのよ う な影 響の 発 現機 序を解明する ため にほ, 行 動お よ び内 分泌 系 機 能を, 脳 機 能の基 盤と なっ て いる脳 内神 経 伝 達 物 質との関 連で明 ら かに
する 必要がある. ス トレ ス の際に働く脳 内神 経 伝 達機 構に関 す る近 年の研 究ほ, 中 脳か らの上行 性の ドパ ミン (dopa min e,
D A ) 神経 系の活 性 化によ り, ス トレ スによ る生 体反 応が中 枢で
制 札 あるいは調 節さ れて い ること を明ら かに し てきた畔 ト 1 5 J
ま た, ごく 最 近の研究は, D A との脳 内における機 能 的 関連が みいだ さ れ ている神 経ペ ブタイ ド と して知ら れ るサブス タン ス
P (s ubsta n c e P,S P) もま た, 情 動 物 質と してス ト レスとの関
連が大 きい こと を示 酸し てきた1 6 ト 1 8). した が って本 研 究で は,
全 身 振 動を慢 性 暴 露さ せ たラッ ト の行 動上の変 化を観察 する 一 方, 分 割脳における D A 代 謝 関 連 物 質と S P の消 長に着 日し,
その慢性 暴 露に よ る生体 反 応を統 御して いる脳 内神 経 伝 達 機構
A b br eviations‥ C O R・ C O rtic oste r o n e; D A l d opamin e; E C D, ele ctr oche mical detection ; H V A, ho m ov ani11ic acid; H P L C , high pe rfo r m anc e liquid chrom atogr aphy; S P, S ubsta n c e P; S P L I, Substa n ce P ‑1ike
im m u no re a ctivit y; V T A , Ve ntral teg m ental a r e a
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の 一端を解 明 すること を試み た. 対 象お よび 方 法
使 用し た動 物は, W ista r 系 雄 性ラ ット(日本エ ス エ ル シ, 静 岡)3 6 匹 である. すべての ラッ トは, 実験 開始 前1 週 間, 固 形 飼 料M F(オ リエ ンタ ル酵母 工業, 東 京)お よ び水の自 由 摂取が 可 能なホ ー ム ケ ー ジで, 3 〜 4 匹を 1 群と して, 1 2時 間周期の明 暗サイク ル( 明 期: 6 :0 0〜1 8:0 0 ,暗 期:1 8:0 0 〜 6 : 00) の 飼 育室 (2 3 ± 2 ℃, 湿 度4 5 〜5 0% ) におい て飼 育し た. 実 験 室の 暗 騒音は, 4 0 d B 程 度であっ た.
36匹の ラット は各 群の体 重が ほ ぼ均 等にな る よう, 全 身 振 動 2 8 日暴露群 (慢性 暴 露 群), 全 身 振 動1 4 日暴裔群 (亜慢 性 暴 露 群), 全 身 振 動1 日暴露群 ( 急 性 暴 露 群) お よ びこれらの 3群に 対 する対 照 群を 3群 用 意し, 計6 群に分 類し た. それ ぞ れの群
の暴 露 前の平 均 体 重は慢 性 暴裔群の2 7 3.0 ±3.8g ( 平 均±標 準 誤 差), その対 照 群で2 64.8 ±5.6g( 同), 亜慢性 暴 露 群の2 6 4.7± 6.5g( 同), その対 照 群では 2 6 1.5 士 5.4g( 同), 急 性 暴露群で 2 6 5.7 ±6.5g( 同), その対 照 群では 2 6 7.5 土6.7g( 同) であった. 後 述 する 4 日間 あるいは 7 日間の行 動パ ラ メ ー タを観 察 後, 慢 性 暴 露 群に対し て は, 2 8 日間毎日午 前1 0時に全 身 振 動を9 0分 間 暴 霹し た. 暴 露 前の1 時 間, 暴 露 中 なら びに暴 露 直 後の行 動パ
ラ メ ー タ計 測 中は水, 飼 料の いずれも 摂 取さ せなかった. 2 9 日 目の同 時 刻に断頭し, 血衆コ ル チ コ ステ ロ ン値 (c o rtic o ste r o‑
n e,C O R) の測 定のた め, 躯 幹血 を E D T A 加ビー カ に採 取 する
一 方, 後 述の手 続 きによ り分 割脳の試 料を作 成し た. 2 8 日 目の
暴 露 後か ら2 9 日 目の断 頭ま で は, いか な るス トレ ス も 負 荷せ ず, ま た水, 飼 料の いずれも 摂取さ せ な か った. 慢 性 暴 露 群に
ついての実 験プロ トコ ー ルを図1 に 示 し た. 亜慢 性 暴 露 群 も 同 様の実験 手 続 きに よ り1 5 日目に断 頭し た. 急 性 暴 露 群に対して は 1 回暴露 後の翌日断頭し た. そ れぞ れの対 照 群は振 動 暴 露 以 外の灸 件は暴露 群と同一 と し た 上で測 定艦供し た.
Ⅰ. 全 身 振動 暴屠
振 動 暴 露のた めの装 置は, 動 電 型 振 動 試 験 機E M I C 51 3TA( 新
日本 測 器, 東 京), 振 動 増 幅器 T A▼1 0 0(T A C HI K A W A , 東 京),
オシ レ 一 夕 ーN F‑M O D E L E l Ol l (エ ヌ エ ス回路 設 計ブロ ッ ク,
横 浜), 振 動 計 E M I C C 5 0 5‑D( 新日本測器) を組み合わせて構 成
されている. こ の装 置か ら発 振さ れ る振 動 数 20 Hzt 振 動 加 速 度1.O G の正弦 波 垂 直振 動をラッ トの脊柱のほぼ垂 直 方 向に9 0
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二isJ w;eJ ‑j分 間 暴 露し た. な お, ラ ット は振 動 台上に固 定し た特 殊ボッ ク
ス(40c m x 3 5c m x3 0c r n, 縦×横×深さ) に入 れ, 無 拘 束の状態
と した.
Ⅱ. 行 動パ ラ メ ー タ の測 定
自発 運 動 量 と 立ち 上 が り行 動が, M K‑Anim e x( 室 町 機 械, 束
京) を用い て Hu sia o らの方 法1 9 ) で測 定さ れ た. 要 するに, 自 発
運 動量につ い ては ラッ トの前足 あるいは後 足の移 動回数で, 立 ち 上 が り行 動はラッ ト の前 足を完全に地 面か ら持ち 上げた 回数
で記 録さ れ た. 行 動に関 する測 定は図1に示す実 験プロトコ ー ル にし た がって行われた. す なわ ち暴 露 期 間 中の行 動につ いて は暴 露 直後の 1時 間 ( 暴 露 直 後 値) お よ び暗期である1 8:0 0 か ら 6 :0 0( 夜 間 億) の行動を調べ, 経日変 化は各ラッ ト毎に第1 か ら第4週の7 日間それ ぞ れの行 動パ ラ メ ー タ に つ いて合 計 し, 1時 間 あた りの平 均 値によっ て評 価した. 暴 露 開 始 前の4 日間につ い て は暴 露 前 借を得る た めに暴 露 以 外は同 一条 件にて 行 動を調べた. さらにその4 日間 以前の3 日間に関し て は行 動
の概日リズムを得る た めに, 各群1 匹か ら な る計6匹に つ い て 2 4時 間, 行 動パ ラ メ ー タを計 測し た. な お, 暴 露 直後 値と夜 間 値の経日変 化につ いて は慢 性 暴 露 群と その対 照群にお け る結 果
のみ を 示 し た. 1 . 暴 露 直 後値
全 身 振 動 暴 露 終 了 後 直ちに M K‑Anim e x の個々 の 台上に
ラッ トを移し, 行 動パラメ ー タを 1 時 間 測 定し た. 自 発運 動 量 と 立 ち 上 が り行 動の カウント は, 終 了 直 後0 分か ら2 0分 ( 第1 セ ッ ショ ン), 2 0分か ら4 0分 ( 第2 セッ ショ ン) お よ び 40分か ら 6 0分 ( 第3 セ ッ ショ ン) の各2 0分 間を合 計し,1 0分 間の平 均 値に
よ りセ ッ ショ ン毎に評価し た. 全 身 振 動を暴 露し ない対 照 群に
つ いても 同 様の手 続 きによ り行 動パ ラ メー タを測 定し た. 2 . 夜 間値
1 2時 間の暗 期 中, 各ラ ット を M K‑Anim e x 台上に乗せ,1 2時 間の合 計カウン ト にて評 価し た.
3 . 行 動 概目リズム
当 該時 刻の行 動パ ラメ れ タほ その時 刻後1時 間の カウン ト の 合 計によ り評価し た.
Ⅲ. 血莱コル チコ ステロ ン値( C O R ) の測 定
採 取し た 血液は直ちに遠心分 離し, 血輿を分離し, ‑8 0 ℃に
て凍 結 保 存し た. 測 定には Sil be r らの螢 光 法2 0 一を用いた.
Ⅳ. 脳の取り出しお よび 脳の分 割
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