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科学的管理法と代議政体 : ウイスラーの所論を中 心として

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(1)

科学的管理法と代議政体 : ウイスラーの所論を中 心として

その他のタイトル Scientific Management and Representative Government : In Relation to the Thought of Willis Wissler

著者 奥田 幸助

雑誌名 関西大学社会学部紀要

巻 1

号 1

ページ 26‑46

発行年 1970‑03‑31

URL http://hdl.handle.net/10112/00023238

(2)

科 学 的 管 理 法 と 代 議 政 体

—ゥィスラーの所論を中心として_

奥 田 幸 助

I

r r

  科学的管理法批判

代議政体論

w 労働組合鍛

階級協調論

VI  産業主義の社会的結果

vn  労務論の現実的課題 濯 結

経営問題の制度的接近を意図する人たちは,こぞって科学的管理法に批判の目をさし向ける1)。 ウイスラーとてひとりその例外ではない。科学的管理法の批判は,これまですでに多くの人たち によって個々的には紹介され,あるいは試みられている。しかし,それらの批判もそのよってき たる見地からなされているはずであって,その批判がどのような社会的,思考的基盤からなされ てきているかというところにまでさかのぽってそれを探究するものは数少ない。ましてや一つの 学派としてそこに共通する方法論の究明と同時に,そこからでる科学的管理法批判の意義を明確 ならしめようとするものはなおさらである。一つの学派を学派たらしている方法論上の立場から,

そこでなされる科学的管理法批判も必然類似せざるをえない。本稿は,この点を意識して,制度 経営学の体系的樹立をはじめて意図した

w .

ウイスラーをとりあげ,かれを通して制度学派にお ける科学的管理法批判のよってきたる方法論上の基盤を考察せんとするものである。

ところで,自由企業体制を維持しようとするアメリカにおいてさえ,好むと好まざるとにかか わらず伝統的な経営の専決分野に労働の浸透がなされており2), また識者のなかには意識的に労

1)  Robert F. Hoxie, Scientific management and Labor, 1915.  John R. Commons, Industrial Goodwill, 1919. 

コモンズの科学的管理法批判については,拙稿, 「科学的管理法とグッドウイルについて」,関西大学社

会学論集 1巻第1号所収参照。

2)  Neil W. Chamberlain, The Union Challenge to  Manaement Control, 1947. 

‑26‑

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働による経営参加を主張する人たちがいる。ここでいう代議政体も経営参加制度の一部を表象す る言葉として考えられてよいであろう。ウイスラーの科学的管理法批判と対比しながら,その代 議政体論を考究する。これは,労使協同のための機構や運営の技術上の方法の歴史性を明らかに するにとどまらない。これを通じて変ぽうする資本主義の姿を,そしてこのなかでこれに適用す るように鍛え直されていく企業理論,またこの一環としての労務理論を明確ならしめることがで きる。これとてアメリカ固有の哲学をもつ制度理論の思潮の貫流をよみとることができるであろ う。

さて, テイラーのいう科学的管理法は団体交渉制を否定する。かれの個人的価値尊重の思考 は,労働者の一般的雇用条件を決定するための資本と組織労働とによる団体交渉制とはあいいれ ない。これに代わって労使の関係は,機能的分離論による経営と個人としての労働との関係にお いて展開せられていく。計画機能の実行機能からの分離が意図され,前者の機能担当者として管 理者側を,後者のそれに労働者側をあてる。ここでは,管理者側から労働者側への一方通行論が 展開され,労働による経営への参加の諸制度はいうまでもなく,労使共通の話しあいの場さえ,

原則として考察の対象にのぼってこない3)。ウイスラーが,かかる労使関係観を是認するはずも ない。そこで, 1) ウイスラーによる, テイラーの主張する科学的管理法批判をながめ, 2)  この批判を通してでてくる代議政体論を考察する。しかし,このような機構としての代議政体の 理論も, 3)かれの労働組合観,さらには4)階級協調論からでているので,これへの探究が必 要となる。ここで,制度学派を貫徹する固有の思潮であるところの産業指向性をよみとることが できるであろう。 5)かれが産業主義の社会的結果をどのようにみているのであるか,これに論 をすすめてみよう。さて,もともと制度理論は現実の矛盾を投影してできているのである。 1929 年の世界恐慌による企業の危機意識の高まりのなかで,企業の社会的有意性の立場からかれは労 使になにを期待するのか, 6)その労務論の現実的課題がつぎの考察の対象となる。そして,最 後に7)結びにいたる。

II 

ウイスラーは, 「産業発展を研究するまじめな学徒ならば,科学的管理運動のなかに錯乱せる 自己矛盾のあることを感じないですましうるものはだれもいない。それについて本質的に誤まれ る,確固としない事柄があるように思える」 4)という。そして,かれには,「テイラーの思考の 欠点が明らかにされるのは測定技術の側面にあるのではなくて,科学的管理法の考えが最も波乱 を起したのは労使関係 (laborrelations)の領域にある」 5)とみなす。

3)  拙稿「労使関係機構論の一考察」,関西学院大学産業研究所 産業調査?,29ページ以下参照。

4)  Willis Wissler, Business Administration, 1931,  p.  314.  5)  W. Wissler, op. cit.,  p.  320. 

—-

27 ‑

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関西大学『社会学部紀要』第1巻第1

さて,テイラーのいう正義のための正しい技術の背後にある哲学は,「法の発見 (discoveryof  laws)」6)である。これは,科学的管理法についてのかれの議会での証言のいたるところに示さ れるところである。「テイラーにとって, 法は絶対的存在をもったし,王国は,法を努力して探 しだそうとする人たちのためにみだされうるのであろう。それ故,テイラーの全努力は<法>の 発見と宣言の方向に向けられた。かれの絶対必要な正義は全く法の普遍性のこの考えに依存し た。法はなんらえこひいきをしなかったし,結局においてそれを無視した人たちはこらしめられ るであろう。」7)この思考から,テイラーの<唯一最善の方法 (theone best way) 

> ,  

すなわち

「機構の枠内で最高生産量を保証させるやり方」 s)の考えが発現するのであって,これはかれに よるビューリタニズムの継承の現われでもある9)。また,この方法によって作成された「明細事 項を満足させるのに最も適した作業者,つまり<一流労働者 (thefirst0rate man) >10)を必要 とする。これこそ,最大生産性を確保し,それに役だたせるために,テイラーが,そのいみきら

ったずさんな計算に代わって, 「科学的かつ精確な調査と測定の実践をもってなすべく提案し た」 11)方法なのである。

ところで,賃金について,かれは,例の差別的出来高給制 (differentialpiece rate system)を 主張するのであるが,ウイスラーには,テイラーは賃金諸法則の発見ができなかったように思え るのである。「テイラーは,課業の決定にたいして設けたような賃金支払にたいする十分な計画 をもたなかった。かれは賃金の問題に無頓着であったというのではなくて,ただ,賃金は個人能 カの多様性によって変化するはずであるということよりほかに賃金の諸法則 (lawsof wages)を おいそれと発見するようなことはできなかったにすぎない,と思われた。取引水準の間における ように,かれは在来の賃金に立脚せしめることに満足した。」 12) ウイスラーにとっては労働力 の価格としての賃金は「労働市場に作用する有効な諸力の構成によって決定される」 13)のであ る。「労働測定の精密な量化は労働の価格決定に先行するのではなしに, その後につづくのであ る。労働市場において定着している労働の価格は発揮される労働力の詳細な量の承認を含んでい る。」14)

業績による賃金支払の多様性は団体交渉と矛盾する。テイラーは団体交渉制にたいして敵意を むきだしにする。その根拠は,「団体交渉はグループのほとんど価値のない構成員の仕事をすべて 標準化する平準化過程 (levelingprocess)を必然ともなう」 15)ことにあった。ひいては, 「団体

6)  W. Wissler, op. cit.,  p. 315.  7)  W. Wissler, op. cit.,  p. 315.  8)  W. Wissler, op. cit.,  p. 316.  9)  W. Wissler, op. cit.,  p. 315.  10)  W. Wissler, op. cit.,  p. 316.  11)  W. Wissler, op. cit.,  p. 316.  12)  W. Wissler, op. cit.,  p. 317.  13)  W. Wissler, op. cit.,  p. 321.  14)  W. Wissler, op. cit.,  p. 322.  15)  W. Wissler, op. cit.,  p. 317. 

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交渉のなかに, かれはその科学的管理法の中心緞念の有効な拒否をよみとった。」 16) すなわ ち,交渉力による労働の量と質の決定は<唯一最善の方法>や<一流労働者>の概念を否定し,

「そこで科学は退ぞけられ,それに代わって誤れる御都合主義が設けられるであろう。これがテ イラーの確信であった。」 17) ウイスラーは,団体交渉についてのテイラーのかかるうけとり方 の上にたってつぎのように批判する。「それにもかかわらず,テイラーが科学的管理法の運用に それほどまでに必須的とみなした使用者と労働者との間の調整の和 (harmonyof  coordination)  は,かれが,団体交渉の公式的なやり方においてそれほど頑強に反対した諸力の同じ構成 (same composition of forces)  , カの同じ釣り合い (sameproportionality of power)によって達成されね ばならないことになるということを全く見誤まった。」 18)「要するに,テイラーは賃金の実際的 な決定から一歩離れて団体交渉をつきあげ,その本質におよんだ。」19)

テイラーは,科学的管理法の実施に際して「両者に<心の変化 (changeof heart) >がなけれ ばならず,闘争状態に代わって協同の精神 (spiritof cooperation)がなければならない」という が,これはウイスラーには,「はなはだしく論点を回避し, 自明のこととして論じている」よう に思える。「もし使用者と労働者が協同とフェア・プレイの動機をもたずに行動するならば,科 学的管理法の機会はほとんどありえないであろう。」 20) 「科学的管理法がそれ自身のなかでみ ずからの乱用を防ぐ適切な矯正手段を発展さすことに失敗したことは,明白である。」 21)

法による管理, このための法の発見に主力を注ぐテイラーの科学的管理法は, 賃金諸法則の 発見ができず,結局は在来の賃金に立脚せざるをえなかった。ウイスラーには,労働市場に作用 する有効な諸力によって規定される労働の価格決定が先にあって,労働測定の精密な量化はその 後にくるのである。そして,構成員の平準化過程を招来させ,さらには科学的管理法の中心的思 考の否定さえ感じさせる団体交渉にたいして,テイラーは敵意を示すが,これは実際の賃金決定 を離れた議論であって,ウイスラーは労使間の調整の和を両者の力の均衡を前提とすることによ って招来しうると考えるのであろう。テイラーのいう精神的変革も科学的管理法それ自体のなか からは必然のものとして生じない。むろん,ウイスラーとて,測定の技術,時間と研究における 没個人的な精確性の精神,すぐれた例証は,「新しい科学的態度の適用のための重大な基礎をお いた」 22)ことを認めるにやぶさかではない。ウイスラーが, 科学的管理学派が後に新旧間に分 裂し,労働組合を是認し,その参加を示唆する発言を引用する点,また法の発見に対比して

w .

B. ウイルソンの「産業民主主義」,「被支配者の同意による産業統治」ならびに「法の創造 (crea

16)  W. Wissler, op. cit.,  p. 321.  17)  W. Wissler, op. cit.,  p. 321.  18)  W. Wissler, op. cit.,  p. 321.  19)  W. Wissler, op. cit.,  p. 321.  20)  W. Wissler, op. cit.,  p. 320.  21)  W. Wissler, op. cit.,  p. 321.  22)  W. Wissler, op. cit.,  p. 322. 

‑ 29 ‑

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tion of law)23)を指摘することは,かれの労働によるそれへの参加思考を推察するに難くはない。

][ 

ウイスラーの上記の見解を,産業における代議政体 (representativegovernment)に焦点をあ わせて,産業統治 (governmentin industry)をめぐる使用者,専門家ならびに労働者の計画を通 して展開していきたい。けだし,これによってウイスラーの経営参加制度についての見解がひと まず明確ならしめられるがためである。

産業統治のための使用者計画の一つとして従業員代表制 (employeerepresentation plans)が挙 示される。「産業における代表制のうち使用者方策による最古のものは工場委員会型 (shopcom mittee type)である。事実, より丹念な制度の多くは委員会制 (committeeplan)として始まっ 24) これには, a)機能的 (functional), b)諮問的 (advisory), ないしはc)立 法 権 のある (legislative)委員会が類別化される。これら委員会型 (Committeetypes)の そ れ ぞ れ に ついて,ウイスラーはつぎのように定義する。

機能委員会 (functionalcommittees)は法や規則を提案するなんらの権能 (power)をも行使しない。

<安全委員会 (safetycommittees)>はそのよき例である。

諮問委員会 (advisorycommittees)は労働者の願望,意見ならびに期待について協議のために経営の求 めに応じる。それはもともと自発的,随意選択的,ないしは任命的でありうる。それはなんらの立法権も管 理権をも有さない。

立法委員会型 (legislativecommittee type)はある定められた立法権能をもつ選挙母体である。いわゆ る<工場委員会制>と呼ばれるものはほとんどがこれに属する。<苦情処理委員会 (grievancecommit‑

tees)>はこの型の最も通常の様式である。

労使協議会型 (WorksCouncil types)はつぎのように定義される。

労使協議会は合同代表 (jointrepresentation)でもって構成される。工場委員会制は,必要な場合には 経営ないしは労働の代表をつけ加えることによって労使協議会に発展することがしばしばある。代表者の数 については協議会は従業員と使用者同数が通常である。投票権の行使は各グループを一つの単位とする場合 もありうるし,あるいは全協議会の多数決による場合もありうる。

連邦型 (Federaltype)はつぎのように定義される。

連邦型—ときには<議会型(parliamentary type)>,<ライチ・プラン (Leitchplan)>ないしは<下 院•上院型 (house-and-senate type)> と呼ばれる—はジョーン・ライチの著作と書きものによって顕著 にさせられた。この制度は連邦政府に範をとり,できる限りそれと類似するよう努力がなされる。通常職長 の<上院会議 (senateof foremen)>, 秘密投票によって労働者のなかから選出された<代表者下院会議 (hause of representatives)>, <閣議 (cabinet)>もしくは計画会議 (planningboard), ならびに雇

23)  W. Wissler, op. cit.,  p. 315.  24)  W. Wissler, op. cit.,  p. 332. 

(7)

用会社の使用者ないしは社長である<最高経営者 (chiefexecutive)>が存在する。この制度は,戦時中と 終戦直後にかなりの普及をみた。しかしながら上院の削減ないしは廃止によって制度を修正しようとする向 きがあった。この型のより野心的な方策の一つに,労働者は,産業における市民として, <産業者 (indu strians)>と呼ばれ,そして産業統治の機構に影響をおよぼすかなりの努力がなされる。 25)

「これらの型のすべてに共通して,会社の経営首脳者に依然として拒否権を留保するのが通例 である。多くはないが, 3分の 2ないしは 4分の 3の投票によってこの拒否権が無効にされ立法 化する規定がある。たまには,<仲裁局 (arbitrationboards) >の形態で会社首脳者に訴える控 訴委員会のための規定がつくられる。」 26) このほかに,一層福祉事業を導入する形態として,

友愛組合 (fraternalorders)のごときもあるが,ウイスラーは,これを,「産業統治を公然と代表 するいくつかの制度のもとで許容されるよりも以上に実際の権能を行使するけれども,正確には 産業における代議政体の項目には属さない」 27)と考える。

アメリカでは,<産業における代議政体>にたいするイニシアチプのほとんどは使用者からで たものであった。かれらをしてこれを設置せしめる動機として,ウイスラーはつぎの三つを挙示 する。

1.  組合の恐怖

2.  労働者の関心をさらによい生産に向けさせていくことの希望。

3.  かかる計画によって与えられる教育上の機会 a.  直接的には会社の諸政策と諸要求について。

b.  間接的ないしは一般的には---&~J.!!!fpljlr.-::,i,-ro 28) 

ウイスラーは,このうち組合の拒否ないしは御用化を意図する代議政体の挫折を示唆する。そ して実践からでる現実的基盤にたって労使双方の利益増進をはかるそれをよしとし,さらには代 議政体を通じて労働者の管理層との結びつきによるかれらの理解の促進,敵対関係の解消を認め る。

さて,使用者は部下の組織化をうち破る,程度の差こそあれさまざまな機構 (mechanisms)を 考えだしてきた。このうちのあるものは労使双方の利益となったが, 「他は本質的に威圧的であ ったし,……善意からでた努力にもはなはだしく不信の念をいだかせることとなった。また,と きには食わせものであることもあった。」 29) 戦後のプーム期における産業調和の奨励者たちに よる試みは,「多くの場合,その公言された目的であった相互信頼 (mutualconfidence)そのもの の確立に失敗したし,はなはだ有害であった。かかる近視眼的かつしばしば子供じみた<産業民 主主義 (industrialdemocracy) >の宣伝からは,組織化のいかんにかかわらず,労働者の側で,

25)  W. Wissler, op. cit.,  pp. 332333.  26)  W. Wissler, op. cit.,  p. 333.  27)  W. Wissler, op. cit.,  p. 334.  28)  W. Wissler, op. cit.,  p. 334.  29)  W. Wissler, op. cit.,  p. 334. 

‑31‑

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<会社組合 (companyunion) >の憎しみと疑念,さらにはその偽わりの感情をいちじるしくま ねいた。」 30)

しかし,方策のすべてがそうであるのではない。「大部分の成功せる方策は公然と自己本位的 (selfish)であるところのものであったということが, 調査によって教えられる。より大規模な 経営,より多額の支払,より確実な職務保全を目ざして,労働者と使用者の知能を共同化するた めに労働者との了解に達する使用者は<認めさせること>にははなはだ成功的であった。かかる 有利な方策が成功したのは, 構想の巧妙性ないしは名だけの特権の微妙な均衡のためではなく て,労働者の賢明な利己主義に率直にして容易に理解される訴えをなしたがためである。産業統 治におけるこのような代表制の運営が産業における実際の管理と実行に密接に結びあっていれば いるほど,そのような方策の成功はより確実である。」31) しかし,このことによって「ある種の 産業福音主義 (industrialevangelism)」の利益が否定されるのではなくて, 「労使間の障害を打 破するための運動に着手し,それを押しすすめる上に,情緒的な高揚をともなう変革の熱情が必 要とされた」 32)とウイスラーは考える。なんらかの結びつきは, 労働者をしてみずからをとり まく環境にその視野を広めさす。資本家との結びつき (association)による労働組合員の士気喪 失の故に,組合主義者は共同会議 (jointconference)に反対するし, また「経営は産業管理の真 の目的と困難を人々に納得させる機会を十分に尊重した場合には,過激な煽動者を完全におさえ てきた」 33)のである。ここに,経営の計画であっても, ウイスラーによる, 代議政体を通じて の労使協同の可能性の示唆をよみとることができる。これを明確ならしめるためには,さらにす すんだ考察を必要とする。

産業統治についての専門家の計画に関連して,ウイスラーは,科学的菅理法と産業における代 議政体との合致 (congruity)性を明確に認める。専門家は,「かしゃくな法の申し子 (creatureof  inexorable law)」であり,「計算尺の規定 (lawof the slide rule)にすべてを平準化しようと努 める」が故に,専門家の提出する計画というのは「独裁者による統治である。」 そこで,「能率専 門家は労働者代表制 (workerrepresentationplans)と衝突する傾向がある。」 34) これについ て,ウイスラーは,「むろん,科学的管理法と産業における代議政体との結合 (combination)に なんらの不一致も存在しない」という。「最高の産業技師と最高の労働指遥者はひとしくこのこ とに同意する。」 この合致の要件として,職務の保全と労働者の代議政体による十分な統制権 が挙示されるのである。産業のこの共同による改善こそ産業代議政体の最高の理想なのである。

「職務保全の確実な保証があったところでは,共同一致 (jointagreement)による産業の科学的

30)  W. Wissler, op. cit.,  p. 334.  31)  W. Wissler, op. cit.,  pp. 334335. 

32)  W. Wissler, op. cit.,  p. 335.  33)  W. Wissler, op. cit.,  p. 335.  34)  W. Wissler, op. cit.,  p. 339. 

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管理に向ってのかなりの進歩がみられた。労働者およびその指導者たちが,職務保全のためには その生計のかてを得る産業の科学的管理に依存せざるをえないということに気づくとき,ならび に搾取から身を守るためにその代議政体における十分な統制権 (control)をもつと感じるとき,

かれらはそれに賛成する。産業のこの共同の改善 (jointimprovement)は産業における代議政体 の最高の理想である。この理想を果しうる,労働と資本ないしは労働者と経営者のなんらかの結 合はささいな敵対や階級的対立を克服するであろう。」 35)

具体的事項について,ちなみに職務に関連して,ウイスラーは, 「従業員代表制がおこなわれ る次第に増加する多くの場合に,あるいは外部組合との合意があるところでは,労働者の代表者 ないしは労働者自身でさえもが職務明細書にもり込まれる資料の収集と系統化に協力する」とい う。さらにつづけて,職長と労働者に識務分析のねらいを理解させ双方を和解させ,そのような 手続の適正さにしたがわせるよう努力がなされるべきであると36)。また,かれは労働者の判断を ももとめる。時間・動作研究がなされても職務を構成する全要素を考慮していないと,労働者に よって感じられている。いくつかの諸要素の一ーすくなくとも当面は一一正確な測定は不可能で あり,判断にまかせざるをえない。「この理由のために,これら諸要素にたいして使用者だけの 判断を示す価値をおくことは不公平かつ不賢明であるように思える。もしわれわれが労働者を満 足させることに関心を示すならば,同様にかれらの判断を得ることを望むべきである。」 37)

使用者の計画にたいして,「・・・・・・アメリカ組織労働の計画には新らしいものがほとんどないこ とを知るであろう。」 38) ウイスラーは,アメリカの労働組合, A.F.L.は使用者の<工場委員 会>制 ("shopcommittee" systems)の普及を好意的にみつめはしないが,進歩的組合としてのア メリカ合同衣服労働組合 (AmalgamatedClothing Workers  of America)は代議政体に重大な関 心を有していることを指摘する。合同組合による代議政体こそ,かれの注意を強くひきつけると ころのものなのである。「一般に急進組合とみなさ」れ,「A.F.L.の職能別組合からの機能的分 離」 39)の「先駆的」 40)役割を果したアメリカ合同衣服労働組合は,「……実際の行動において,

産業における代議政体に重大な関心を示す•…••。」 「合同組合が使用者との合意にいたったとこ ろでは,工場委員会制が,またなしうる場合にはイギリスの職場委員制(shopstewardssystem)の 様式にいくぶんか類似したやり方によるが,しかしすくなくとも初期の段階にはこれに加えて,

共同で選任され給料支払のおこなわれた公正議長を有するマーケット・システムが設けられ た。」 41) 職場委員制は,イギリスにおいて「もともと労働者によって監視され,統制されうる

35)  W. Wissler, op. cit.,  p. 339.  36)  W. Wissler, op. cit.,  pp. 348349. 

37)  W. Wissler, op. cit.,  p. 388.  38)  W. Wissler, op. cit.,  p. 337.  39)  W. Wissler, op. cit.,  p. 338.  40)  W. Wissler, op. cit.,  p. 337.  41)  W. Wissler, op. cit.,  p. 338. 

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であろう個々の工場 (plant)に統治体をもち込もうとする努力」であって,アメリカでこれに最 も近いのは合同衣服労働組合の「<職場議長制 (shopchairmanplan) >」である。 ここでは,

「組合代表者は,その組合とその使用者との間の合意のもとでかれらに与えられる権利を労働者 に納得させるために個々の工場ないしは部門ごとに選任される。」しかしながら, アメリカとイ ギリスとの間ではつぎのような根本的な相違がある。すなわち, 「前者にあってはその制度は組 合によって創設されたのにたいして,後者ではむしろ全国組合にたいする組合の一般組合員内で の反乱であった。」 42)

合同組合が代議政体の形態をつくるにあたってモデルにしたのはニューイングランド市の会合 であった。「それは討論による統治である。その精神は協議 (negotiation)のそれである。それ故に,

その機構は,執行機能によるよりもより以上に司法的ないしは解釈的機能によって統制される。

合同組合はつぎのことを支持する。すなわち,産業における法は対立する要求の調整(adjustment of  opposing needs)から生まれるのであり,そして法の管理はそれをつくり,そのために代価を 支払わねばならない人たちの同意によってのみ有効である。結果として,シドニー・ヒルマンや その部下たちの労働手腕のなかに,産業における代議政体の他の形態にはほとんどみられない統 治機能の現実主義と直接性が存在する」 43)のである。

そのいう代議政体の内容についても示唆されるところが多い。その基軸になるのは「協議」で あろう。協議について,ウイスラーの考えるところはつぎのごときである。ウイスラーは,労使 関係について協議を共通の用語 (acommon dialcet)とすることの必要を主張する。「労使関係を 特徴づける激しい憎悪の多くはその源泉を協議の共通語の欠如にある」44)という。かれは,紛争 の解消のための仲裁 (arbitration)制度とかかわらしめてこれを説明する。「仲裁は,正義は論争 者たちのほぼ中間にあるということを想定する場合が多い。裁定は大概の場合…..・意見の分裂 か,強い方に多くの分け前を与えるかのいずれかである。この二つのうち後者の方がよい。けれど も両者は資本と労働との間にある紛争の複雑性の根本的な心理的側面を無視しており,論争中の 言葉を産業実践の管理上の言葉で表わすことの失敗をしている。」 「この共通の基盤の発展をも たらすための機構として,合同組合は……公正議長によって統轄される共同の産業裁判所 (joint industrial courts)を備えた。」 しかし,「公正議長に責任が転嫁されないが故に,それぞれの側は 行動の共通の基盤を作りあげることの必要のために元の状態に帰せられた。」 「結局,公正議長 の機能はますますおざなりなものとなった。ますます,かれの役割は——征服ないしは収奪の闘争 をおこなう二つの異なった陣営間の気転のきいた判断者としてではな<―運営協約 (working agreements)の単なる型通りの確認のそれとなった。最後には,公正議長は,<職務を失うこ

42)  W. Wissler, op. cit.,  p. 337.  43)  W. Wissler, op. cit.,  p. 338.  44)  W. Wissler, op. cit.,  p. 424. 

‑ 34‑

(11)

と>によってその完全な成功をおさめた。」 45)

このように協議を共通語たらしめるために,かれは,そのいう産業見地に立脚することの必要 を主張する。「協議による共通語のこの発展は……産業を階級闘争といわれる不自然な圧迫から解 き放つ最終段階とみなされる。しかし,いかなるそのような共通語も,産業が共同成果に向うす べての貢献者にとっての最大公約数となされない限りは達成されることができない。要するに,

産業はつぎのようなみずからの法則に支配される実行者 (operative)とみなされるべきである。

すなわちそれは,機械を搾取のための用具として入手したとおのずと考える特定集団の指令によ るものではなく,それに代わって生産能力のより効果的な利用と交換を可能ならしめるために最 もよくあてにされる社会組織としてみなされる産業機構の結果であるところの法則である。」 46)

産業にこのようなすべての貢献者に共通する使用価値の生産と交換のための社会機構としての概 念を与え;これを通して協議を共通語たらしめることができるのである。かれの労使協同論も,

この機構の最適利用をねらったものであり,これについては後にふれるところである。

これまでの使用者,専門家ならびに組織労働の計画についてのウイスラーの叙述を通して,か れは,科学的管理法とこれへの労働による参加とが矛盾しないことを,またこのための機構とし て代議政体をはっきりと是認していることを知りうる。グッド・ウイルの創出と発展はこれを通 して確保せられのであろう。これがひっきよう産業の改善を招来せしめるのである。かれがグッ ド・ウイルを産業における統治とかかわらしめる (GoodWill and Government in Industry) 47) 

のも,この意味においてであろう。そして,これがまた人間的色彩を払しょくした制度としての 経営の運営を規定する準則 (workingrules)の設定と改訂を可能ならしめることができるのであ ろう。

さて,ウイスラーが合同組合のやり方に合意を与えるのは,むしろかれの労働組合観に,さら には階級協調論に根ざすところである。つぎに,これの考察に移ることとなる。これを通して,

かれの産業指向的思考を究明していきたい。

IV 

A.F.L. について,ウイスラーはつぎのようにみなす。「よき管理 (goodmanagement)は本来 使用者に帰属するものであり,さらに非所有型経営者が,最初に組合の組織化を正当化した搾取 のやり口を継承していくと考えられるならば,使用者に収奪物のより多くを漸次はきださせるよ う仕向ける計画が論理的にでてくるように思える。 これが, 本質的に A.F.L. の哲学,いわゆ るビジネス的組合主義 (businessunionism)となる。」 48) このような組合主義からは, 経営の

45)  W. Wissler, op. cit.,  pp. 424425.  46)  W. Wissler, op. cit.,  pp. 425426.  47)  W. Wissler, op. cit.,  p. 329.  48)  W. Wissler, op. cit.,  p. 416. 

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