現代青年の親友関係における関係性高揚と主観的ウェルビーイング
一文化的自己観を踏まえた検討-
田 上 綾 子 * ・ 柴 山 謙 二
A d o l e s c e n t 1 s S u b j e c t i v e W e l l - b e i n g a n d E n h a n c e m e n t o f C l o s e F r i e n d S h i p
: M o d e r a t i n g R o l e o f t h e l n t e r d e p e n d e n t - I n d e p e n d e n t C o n s t r u a l o f t h e S e l f
AyakoTANouEandKenjiSHIBAYAMA
( d O e v e i c e R c t o b e r 3 , 2 0 1 1
)
T h e p u r p o s e o f t h i s s t u d y w a s
( m c e a n h e n n e e 1 t w e n b i o t l a e ) e r a t g t i e s v i n o t e n t o f c l o s e f i F i e n d s h i p a n d t h e
m e n t a l h e a l t h o f J a p a n e s e c o l l e g e s t u d e n t s , a n d ( 2 ) t o e x a m i n e w h e t h e r t h a t r e l a t i o n s h i p v a r i e d w i t h s t u d e n t o s
s c o r e s o n i n t e r d e p e n d e n t - i n d e p e n d e n t c o n s t r u a l o f t h e s e l f
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Theresultsshowedthatbothboysandgirlsevaluated''activeenhancement''and'ipassiveenhancement''、And enhancementrelatedpositivelytotheirsubjectivewell-being,Whethertherelationbetweenenhancementand subjectivewell-beingchangeddependingonextentfromwhichinterdependentorindependentconstrualoftheself wasbeingintemalizedwasexamined、Butaclearinfluencewasnotseen、Therewerediffbrencesbetweenthesexes i n t h e p r o c e s s o f e n h a n c e m e n t
.
K e y w o r d s
: r i e s e f c l o o n , a t i e l r n d s h i p , s u h j e c t i v e w e l l - b e i n g , c o n s t r u a l o f t h e s e l f
問 題
従来から,精神的健康を維持するためには自分自身 あるいは自分を取り巻く世界について,正確で首尾一 貫した認識を持つことはAllport(1961)らの研究に
より,精神的健康の重要な指標であるとされてきた.
しかし,近年こうした見方に疑問を唱え,社会認知的 アプローチの観点から探る研究が増えている.その きっかけを作ったのが,nlylor&Brown(1988)の主
張である.彼らは,社会的認知に関する研究を通じて,
人は自分自身に都合の良い枠組みに従ってさまざまな 事象を解釈していることを明らかにした.そして,ポ ジティブに傾いた自己概念を持っていることが精神的 健康につながるという,新たな精神的健康観を提唱し た.そして,こうした能力や傾向性を「ポジティブ・
イリュージョン(positiveillusion)」と名付けた.そ
のポジティブ・イリュージョンは「実際に存在するも の・ことを.自分に都合よく解釈したり想像したりす
る精神的イメージや概念」と定義されている(Tnylor
&Brown,1988).しかしながら,欧米とは対照的に日
*熊本大学大学院教育学研究科学校教育実践専攻
本においては精神的健康に影響を及ぼすポジティブ・
イリュージョンは一貫して見出されていない(外山・
桜井,2000).
日本において自己高揚が精神的健康をもたらさない 理由の1つに,それぞれの文化において優勢な「文化 的自己観」の違いがあると考えることが出来る.欧米 においては,他者とは異なる自己の価値ある独自性や 個性を表現していくことが重視される.しかし,日本 においては,他者との協調性や類似性が重視される.
Markus&Kitayama(1991)は欧米的自己観を「相
互独立的自己観」と呼び,日本的自己観を「相互協調 的自己観」と呼んだ.また,遠藤(1997)は,重要 な人間関係をポジティブなものとみなすことは自己の 社会的側面に対する間接的な肯定であり,日本人は自 分自身という個人を対象として直接的に自己をポジ テイブに評価するよりも,自分も含めた人間関係を対 象として間接的に自己をポジティブに評価する傾向が 高いことを示した.そして,この関係をポジティブに 評価する現象を「関係性高揚」と名付けた.
黒田ら(2004)は,文化的自己観を考慮したうえで,
大学生の親友関係における関係'性高揚と精神的健康と
( 1 4 5
)
の関係について調査した.その結果,相互協調性を重 視する日本人は,直接的に自己の評価を高揚させるの ではなく,自分を含めた親密な関係の評価を高揚させ ることによって,間接的に自己評価を高めていること を示唆したのである.
しかしながら,今までの研究の中では,関係性高揚 と精神的健康の因果関係がはっきりとしていない.本 研究では,先行研究(遠藤,1997など)を踏まえて,
関係性高揚が精神的健康をもたらすという流れを仮定 する.また,関係‘性高揚を示すまで,そう思える行動 やその目的や目指していることなどの認知が関係して
くる.そこで,本研究では「ビリーフ→親友関係構築・
維持行動→関係性高揚→精神的健康」という関係'性 高揚を示すまでのプロセスを仮定し,検討する.
現代青年に関しては,対人関係の希薄化により友 人関係のあり方が変化したとの指摘がある.上野ら (1994)は,現代青年の友人関係として,表面的な親 密さや楽しさを求める傾向,関係が深まることを恐れ る 傾 向 な ど が 共 通 し て い る こ と を 指 摘 し た 黒 田 ら (2004)の大学生の親友関係における関係』性高揚を検 討した結果では,積極的な関係‘性高揚が見られ,高い 自己評価や充実感が見られた.このことは,「自分た ちの親友関係は,他の(表面的な)関係とは違って,
親密であると思いたい」という欲求が働いた結果であ り,そのような欲求に基づく関係‘性高揚が,青年の高 い自己評価や充実感に結びつく,と黒田らは指摘して いる.そこで,本研究では親友の有無と,現代大学生 は親友関係をどうあるべきと捉えているのか,また,
関係を構築し維持するためにどのような行動をとって いるのかを調査する.
さらに,友人との付き合い方には性差があることが 指摘されている.男子では力や支配が重要な意味を持 ち.ライバル意識を強く持ちながら,自立したつきあ いが多いこと,女子では関係性の維持に気を遣い,情 緒的な共有を求める交流が中心にあることが示されて いる(落合・佐藤,1996).このことから,本研究で は男女別に分析を行い,性差を比較検討する.
ポジティブ心理学の観点からDiener(2000)が中
心となり研究している新たな精神的健康の指標として の主観的ウェルビーイングは,個人生活の自分自身の 評価であり。‘情緒的・認知的側面によって分類されて いる概念である.認知的側面として“全体的な生活満 足感”と‘‘特定の領域における満足感,,,情緒的側面 として“快感情(肯定的感情経験が多いこと)”と“不 快感情(否定的感情経験が多いこと)”の4つの基本 要素から構成されている.本研究では友人関係満足感 を測定することができ,かつ,全般的生活満足感や情 緒的側面も同時に測定することが出来る主観的ウエル
ビーイングは,現代青年の親友関係におけるポジティ ブ・イリュージョンが日常生活において果たす機能を 分析できると考え,主観的ウェルビーイングを精神的 健康の指標とする.
以上のことから次の仮説を立てた.
仮説l他者との協調や結びつきを重視する相互協調 的自己観が高い日本人は,親友との関係にお いて関係‘性高揚を示し,さらにその関係性高 揚は主観的ウェルビーイングと関係するだろ
う .
仮説2他者との協調や結びつきを重視する相互協調 的自己観の高い場合の方が低い場合よりも,
関係‘性高揚と主観的ウェルビーイングとの関 係が強いであろう.
仮説3自己と他者との独立'性を強調する相万独京的 自己観が高い場合より低い場合の方が他者と の関係を重視するため,関係‘性高揚と主観的 ウェルビーイングとの関係が強いであろう.
仮説4関係性高揚を示す背景には,親友関係につい てのビリーフと,そのビリーフに基づく親友 関係を柵築・維持するための積極的な関わり があるという,「ビリーフ→親友関係構築・
維持行動→関係‘性高揚→精神的健康」とい うプロセスがあるだろう.
方 法
1.調査対象および実施時期
A大学の学生234名(女子126名・男子108名)
を対象とした.調査は11月下旬に授業時間などを利 用し,実施した.親友がいると答え,全質問項目に完 全回答した被験者データについて分析した結果,男女 とも94%の被験者が“親友はいる',と答え,有効被 験者数は女子118名,男子101名の合計219名となっ た .
2.質問紙の構成
質問紙は①個人的背景要因,②親友に関するビリー フテスト,③親友関係櫛築・維持行動尺度,④関係性 高揚尺度,⑤満足感尺度,⑥感情経験尺度,⑦相互協 調的一相互独立的自己観尺度からなる.
1)個人的背景要因
性,学年,学部.親友の有無 2)ビリーフテスト
事前にA大学の学生50名(女子29名,男子21名)
に親友関係のあり方の中でもEllis(1994)の不合理
な信念の体系として考えられるものを最大5個まで自
平 均 値 標 準 尺 度 α 係 数 ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ 当てはまるかを,5件法で回答を求めた.
(2)感‘情経験尺度
鈴木(2002)の感情経験尺度10項目を用いて,それ ぞれ最近どの程度感じたかを,5件法で回答を求めた.
由記述してもらい,それらをまとめた項目と,親友関 係のあり方について大学生を対象に岡林(2005)が 行った調査で使用した親友関係のあり方を問う質問紙 を照らし合わせ,岡林の質問紙を加筆・修正した.親 友に関するビリーフテスト12項目を用いた.回答は 各項目に対して,被験者の持つ親友関係についての考 えとどの程度当てはまるかを5件法で回答を求めた.
3)親友関係構築・維持行動尺度
2)の親友関係のあり方を問う全項目から「~であ るべき.~でなければならない.~で当然だ.決して
~ない.いつも~だ」という部分を削除し,行動だけ の文体に修正した.これを12項目から成る親友関係 を構築し維持する行動を測るテストとし,5件法で回 答を求めた.
4)関係性高揚尺度
遠藤(1997)の尺度12項目を用いて5件法で回答 を求めた.データ入力の際,ネガティブな側面の項目 については,得点が高いほど,自分たちの親友関係は 他の親友関係よりネガティブな側面が当てはまらない ことを意味する.以後,ポジティブな側面の合計得点 を「積極的な関係性高揚」と表し,ネガティブな側面 の合計得点を「消極的な関係性高揚」と表す.
5)相互協調的一相互独立的自己観
高田(2000)の尺度の短縮版10項目を用いた.被験 者にどの程度当てはまるかを,7件法で回答を求めた.
6)主観的ウェルビーイング (1)満足感尺度
鈴木(2002)の生活満足感尺度の下位尺度である 全般的生活満足感尺度と,友人関係満足感尺度の合計
12項目を用いて,被験者の気持ちや生活にどの程度
結 果
1.因子分析
各尺度の内容的一貫性を検討するために,因子分析 (主成分法.promax回転)を行った.各尺度で十分な
因子負荷量を示さなかった項目は削除した.
2.各尺度の平均値・標準偏差.q係数・尺度間相関 と関係‘性高揚現象の検討
各尺度の平均値,標準偏差,α係数,ならびに尺度 間の相関係数を求めた.結果は表1,表2に示されて いる.関係性高揚現象を確認するために,関係性高揚 尺度の各項目の平均値と中央値(=3)との違いをt 検定により検討した(表3,表4).その結果,男女とも,
全ての項目について有意な結果が得られた.すなわち,
「自分たちの親友関係は他の人々の親友関係よりも良 い関係,もしくは,悪い関係ではない」という関係性 高揚現象が男女ともに見られた.
3.関係性高揚と主観的ウェルビーイングの関係 本研究の仮説lを検討するために,関係性高揚と主 観的ウェルビーイングの各変数との相関係数を求め た.結果は表1,表2(点線枠内の相関係数)に示さ れている.
表1.女子の各尺度の平均値・標準偏差.α係数と,各尺度間の相関係数
、64緒、24蛙
、 ★ 5 4 *
注)☆P<、05妹p<・01.N=118
. 0 3 、 1 2 、 0 1 . 、 0 6 、 2 が
、15、28*★、06..06、27判、肯
J●・・・●・●・oODODO●●●●●●●、●●●●、●●●ooODoOopoロロロロ・ロ●ロ・ロ。・・●$
;、27**、34☆☆、14‐、12;、02
:、34鋒.27★★、06..26蒜;~・o1
8oOO●oOoO。●、●ロ●。,。□●ロ●。、。、●。●。●。、●OG・・・。・・●・●O●●●OOOOo8
、34妹、47朝n片一・36歯*..23★
、21★.、26舶片,02
.01‐、01
.18
、01 .10 .01 .08
. 2 7
* 肯
.0、9
・10 . . 1 2
. . 4 7
★ ★
覗蕊 ・岬
》》》 》》
、07
.31蛾
、51妹
闘両鰹副花即氾布ね伽 ●●●●●●●●●●
u妬弱叱釦⑩花哩泥泥 ●●a●●●●。●● 6533332443
釦妬記顕、蛇田記翫加 遜犯狙皿泌塑皿瓦墾皿
表2.男子の各尺度の平均値・標準偏差.α係数と‘各尺度間の相関係数
平 均 値 標 準 偏 差 t 値
平 均 値 標 準 尺 度 α 係 数 ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩
平 均 値 標 準 偏 差 t 値
州》州》
、54★★、13 .39結
.、0826片★、21*、09.、28**
、18、16、27*★、11.、09
8●・●・ロ、・・・●・●。■、。。●●●QDoo●ロ。●、●、。●、。●・ロ、。、●ロ。。、●●。□。。●$
、47*☆;、2齢、38☆☆、13.、14§
;20☆、21☆.、02‐、10§
$。。・・ロ・・・。・・。・・・.。.。.。。.・・・。・・・・・・・・・・・。。・・。。。・・。・・。・・2
.37引侭鷹.42領n片.、29間nh
.34妹、10
.0、 3 30.63
35.10 27.43 19.35 28.67 15.78 20.49 17.76 28.64 16.72
、記記詔妬柳副銘記“ ●●●g●●◆●。G 7643623454 兜的駆、帥沼師泥惣髄 ●●●●●●●●●●
締池畑哩鯛廻妬皿鎚
、 1 1
. 2 0
★
、14 -.02
23*
-.07 .16
.、12
-.61蒜
3 . 5 0 3 . 7 2 4 . 1 4 4 . 1 0
3 . 4 9
4 . 0 7 4 . 4 1 4 . 1 1 3 . 8 4 4 . 2 0 3 . 9 03 . 3 0 注)☆p<・05蒜p<、01.N=101
表4.男子の関係性高揚尺度のt検定の結果 表3.女子の関係性高揚尺度のt検定の結果
親密である 気が合う 必要な 良い感じ 支援的 安心できる 楽しい 退屈な関係 不誠実である 長くは続かない 不満を感じる 情|柚である
4.相互協調的自己観と関係性高揚・主観的ウェルビー イングとの関係
相互協調的自己観を中央値(各項目の中央値=4)
鈴鍔鈴識鈴鍔織鍔鈴鍔榊鍔 嗣踊駆鎚舶羽鍋剖“皿別的 Z21102610380 12212222211
により高群・低群に分割し,高群・低群それぞれでの 関係性高揚と主観的ウェルビーイングとの相関係数を 比較した.
まず,女子の相互協調的自己観高群における関係性 高揚と主観的ウェルビーイングとの関係について検討 した.積極的な関係性高揚は全般的生活満足度(r=
.27,p<、01)・友人関係満足度(F,29,p<,01)と有意な
正の相関を示した.消極的な関係′性高揚は,全般的生 活満足度(r=.39,p<、01)・友人関係満足度(r=、31,p<、01)
と有意な正の相関を示し,不‘快感情経験(F-.24,p<、05)
と比較的有意な負の相関を示した.相互協調的自己観 高群の結果と対照的に,低群は積極的な関係性高揚・
消極的な関係‘性高揚のいずれも主観的ウェルビーイン グとの間に有意な相関を示さなかった.
注)鍔p<、001,N=118
まず,女子の結果から検討する.積極的な関係性高 揚は,全般的生活満足度と友人関係満足度との間に有 意な正の相関が見られた.消極的な関係性高揚も全般 的生活満足度と友人関係満足度との間に有意な正の相 関,不快感情との間に有意な負の相関が示された.
男子は積極的,消極的な関係性高揚ともに,全般的 生活満足度と友人関係満足度との間に有意な正の相関 が見られた.関係性高揚は快感‘情・不快感4情とも相関 を示さなかった.
親密である 気が合う 必要な 良い感じ 支援的 安心できる 楽しい 退屈な関係 福耀である 長くは続かない 不満を感じる 情M的である
鈴鐸鍔需鍔鈴搾鍔鍔鈴識帯 蜘噸迦却蝿城噸畑地恥睡畑 で11▲イ上可上勺上
船路Ⅶ銘躯面倒布禰測沼W ●●由●●●ら●●●、● 鯛伽馴闘Ⅲ朋犯恥拠朋船“ 11
111
研皿偲偲別⑲別柳偲弱弱船 ●●G●。、、●●●0● 344434444443
幽鈴p<、001,N=101.
、 3 1
★ ★
の相関を示し,消極的な関係‘性高揚は全般的生活満足 度(r=、34,p<01)・友人関係満足度(r=、34,p<、01)と
有意な正の相関を示した.
続いて,男子の相互独立的自己観の高群における関 係性高揚と主観的ウェルビーイングとの関係につい て検討した.積極的な関係‘性高揚のみ友人関係満足 度(r=.37,p<、01)と有意な正の相関を示した.相互
独立的自己観の低群では,積極的な関係性高揚と全般 的生活満足度(F32,p<、05)・友人関係満足度(r=、38,
p<、Cl)との間に有意な正の相関を示した.
続いて,男子の相互協調的自己観高群における関係
‘性高揚と主観的ウェルビーイングとの関係について検 討した.男子の相互協調的自己観高群において,積極
的な関係性高揚のみ全般的生活満足度(r=、25,p<,05)
と友人関係満足度(F,36,p<、01)と有意な正の相関を
示した.相互協調的自己観高群の結果と対照的に,低 群は積極的な関係性高揚・消極的な関係性高揚のいず れも主観的ウェルビーイングとの間に有意な相関を示 さなかった.
5.相互独立的自己観と関係性高揚・主観的ウェル ビーイングとの関係
仮説2の手順と同じように相互独立的自己観を中央 値により高群・低群に分割し,各群における関係性高 揚と主観的ウェルビーイングとの相関係数を比較した.
まず,女子の相互独立的自己観の高群における関 係性高揚と主観的ウェルビーイングとの関係につい て検討した.積極的な関係性高揚は全般的生活満足 度(r=.37,p<、01)・友人関係満足度(F、33,p<,01)と
有意な正の相関を示した.消極的な関係仙性高揚は全般 的生活満足度(F、35,P<,05)と有意な正の相関を示
し,不‘快感情経験(r=-.39,p<、01)と有意な負の相関
を示した.相互独立的自己観の低群では,積極的な関 係性高揚は友人関係満足度(1=‘36,p<、01)とのみ正
6.関係性高揚のプロセスの検討
ビリーフ,行動,関係性高揚から主観的ウェルビー イングの発生プロセスを検討するために,仮説4「ビ リ ー フ → 親 友 関 係 構 築 ・ 維 持 行 動 → 関 係 性 高 揚 → 主観的ウェルビーイング」というプロセスを重回帰分 析により検討した.標準偏回帰係数が5%水準で有意 になった結果を図1,図2に示す.
まず,女子のビリーフから関係構築・維持行動に対 する重回帰分析の結果,重回帰式は有意になり(p<‘01,
R2=、39),ビリーフから正のパス(p<,01,β=、62)が
示された.次に,ビリーフと関係栂築・維持行動から 積極的な関係‘性高揚に対する重回帰分析の結果,重回 帰式は有意になり(p<、01,R2=21),関係構築・維持
R'=、13妹
R,=.21★* 一室一一
ユ ョ ー ⑨ 、 FL可IIJ
図1.女子の関係性高揚のプロセス
J ろ - 5 】 妃
R2=、15★★
●9●●●●D■q①●D■“。。□●”●●◆●。●●◆●●Q◆●●●●●①●■■■●①ppq●●●b●●a●●。●●e◆◆◆●●●“pゆp■■ロ●●●●■・■ロ●●●●●●●●合●・◆pb6ee◆◆●●●q●●●①p■■■DCb■●●a◆◆。●O●◆◆●●●q●◆●●●●e●&■q●●D■。●●。■●●由。●●●●●●●q●●
. * * 7 3 、
全般的生活満足度
図2.男子の関係性高揚のプロセス
R2=、18☆★
L』
R2=、12★
快感傭経験
・ ・ * 6 2
行動から正のパス(p<、01,β=、50)が示された.他
方,ビリーフと関係構築・維持行動から消極的な関係 性高揚に対する重回帰分析の結果,重回帰式は有意に
なり(p<,01,R2=、12),関係構築・維持行動から正の パス(p<、01,β=、43)が示された.最後に,「ビリー
フと関係構築・維持行動.関係性高揚→主観的ウェ ルビーイング」について重回帰分析を行った.全般的 生活満足度に対する重回帰分析の結果,重回帰式は有 意になり(p<、01,R2=.13),消極的な関係性高揚から
のみ正のパス(p<、01,β=、28)が示された.友人関
係満足度に対する重回帰分析の結果,重回帰式は有意 になり(p<、01,R2=.15),積極的な関係性高揚からの
み正のパス(p<,01,β=、22)が示された.
続いて,男子のビリーフから関係構築・維持行動に対 する重回帰分析の結果,重回帰式は有意になり(p<、01,
R2=、29),ビリーフから正のパス(p<,01,β=、54)が 示された.
次に,ビリーフと関係構築・維持行動から積極的な 関係‘性高揚に対する重回帰分析の結果,重回帰式は 有意になり(p<,01,R2=16),関係構築・維持行動か
ら正のパス(p<、01,β=、45)が示された.他方,ビ
リーフと関係構築・維持行動から消極的な関係性高揚 に対する重回帰分析の結果,重回帰式は有意になり (p<、05,R2=.08),関係構築・維持行動から正のパス
(p<、01,β=、32),ビリーフから負のパス(p<、05,β
=-.26)が示された.最後に,「ビリーフと関係構築・
維持行動,関係性高揚→主観的ウェルビーイング」
について重回帰分析を行った.全般的生活満足度に対 する重回帰分析の結果,重回帰式は有意になり(p<、01,
R2=.15),ビリーフからのみ正のパス(p<,01,β=、31)
が示された.友人関係満足度に対する重回帰分析の結
果,重回帰式は有意になり(p<、01,R2=、18),積極的 な関係性高揚からのみ正のパス(p<、01,β=、30)が
示された.不快感情経験に対する重回帰分析の結果,
重回帰式は有意になり(p<,05,R3=、12).ビリーフか らのみ負のパス(p<、01,β=-.37)が示された.
考 察
本研究の結果から,男女ともに,積極的な関係性高 揚,消極的な関係性高揚が確認された.そして,その 関係性高揚が強くなるほど主観的ウェルビーイングの 全般的生活満足度と友人関係満足度が高まることが示
され,仮説lが部分的に支持されたと言える.
仮説2は,女子については関係‘性高揚と全般的生活 満足度・友人関係満足度との間に有意な正の相関,不 快感‘情と有意な不の相関を相互協調的自己観高群のみ
が示していることから,支持された.男子については,
積極的な関係‘性高揚と全般的生活満足度・友人関係満 足度との間に有意な正の相関を相互協調的自己観高群 のみが示していることから,仮説は部分的に支持され たと言える.
関係性高揚と主観的ウェルビーイングの関係におい て,相互独立的自己観の高低に明確な差は見られな かった.男女とも相互独立的自己感の高群・低群とも に主観的ウェルビーイングの全般的満足度・友人関係 満足度と相関を示しており,その相関係数は低群の方 が強いが,本研究の「自己と他者との独立性を強調す る相互独立的自己観が高い場合よりも低い場合の方が 関係性高揚と主観的ウェルビーイングとの関係が強い であろう」という仮説3は支持されたとは言えない.
関係‘性高揚が起こるプロセスは,女子において「ビ リーフ→関係構築・維持行動→関係'性高揚→満足 度」というプロセスが確認され,ほぼ仮説4通りに影 響し合っていると言える.ビリーフを持つ女子は関係 構築・維持のために親友に積極的に働きかけ,そのよ うな積極的な働きかけが関係性高揚現象を生み出す.
青年期において友人関係が精神的健康に大きく影響を 及ぼすことから,結果としてその関係性高揚は全般的 生活満足感や友人関係満足感に影響を及ぼすと考えら れる.
女子と比べ,男子においては「ビリーフ→関係構 築・維持行動→関係性高揚→友人関係満足度」とい うプロセスは確認されたが,さらにビリーフが直接全 般的生活満足度に直接的に正のパスを示し,消極的な 関係性高揚と不快感情経験に負のパスを示した.この ことから,男子の場合,仮説のプロセス以外にビリー フが直接的に影響しており,仮説4は支持されたとは 言えない.
全体的に見て,男子の場合,消極的な関係性高揚が 主観的ウェルビーイングと関係していなかったことを 踏まえると,消極的な関係性高揚の質問項目が男子の 親友関係の実態に沿っていなかった可能性があると考 えられる.男子は表4からもわかるように,自分の親 友関係にポジティブな質問項目は当てはめるが,ネガ
ティブな質問項目を強く否定するまでの高い関係性高 揚は示さない傾向があるのではないだろうか.このこ とから,女子よりも男子の方が客観的に自分たちの親 友関係を見ている可能性が示唆されたと考える.もし そうならば,全般的生活満足度へのパスがポジティブ・
イリュージョンである関係‘性高揚を介さずにビリーフ から直接影響を受けていることへの説明にもなる.
表1,表2の分析結果から,ビリーフや親友関係・
主観的ウェルビーイング・自己観との関連には‘性差が
あることが確認された.例えば,女子は友人関係満足
度が高くなればなるほど不快感情は低減したが,男子 は,友人関係と不‘快感情の間には関係が見られなかっ た.男女とも友人関係満足度と快感情との間には正の 相関が見られたことから,男子は友人関係が満足して いると快感情は高まるが,不快感情までは変化しない ということが考えられる.さらに,女子は相互協調的 自己観が高くなればなるほど親友に対する行動が増え るのに対し,男子は相互独立的自己観が高くなればな るほど親友に対する行動が増えるという結果が出てい る.このことから,女子は密接した共存的な関係を作 るために行動しているのに対し,男子は独立した自立 的な関係を作るために行動していると考えられる.
女子は生活で最も気にしていることは仲間・友人の ことであるという報告もあり(菅原,1979),女子に とって相互協調的な自己でいることと,友人関係に満 足していることは生活において重要な位置を占めてい ると考えられる.しかしながら,女子が相互協調的自 己観と全般的生活満足感が負の相関を示し,相互独立 的自己観と全般的生活満足度が正の相関を示したこと
より,女子にとって他者と親和・順応し,他者からの 評価を気にするということは不快まではいかないにし ても,部分的に負の側面を持っているのではないだろ
うか.
本研究において男子の結果で相互協調的自己観と不 快感情の正の相関が見られたことや相互独立的自己観 と親友関係構築・維持行動の正の相関の関係が見られ たということと,落合・佐藤(1996)の男子は友だ ちと自分は異なる存在であるという認識を持っている という結果,一般的に男子は女子よりも相互独立性が 高く,相互協調性が低いという高田(1999)の結果 は一致していると言えるだろう.
本研究では文化的自己観(協調的一独立的)の高低 によって関係‘性高揚と主観的ウェルビーイングの関係 が異なるかどうか検討した結果,はっきりとした差は 示されなかった.黒田ら(2004)の結果では,関係 性高揚と精神的健康との関係は,相互協調的自己観な いし相互独立的自己観が自己に内在化されている程度 によって異なることが示されている.黒田らの結果と 本研究の結果が一致しなかった理由として,使用した 尺度の違いがまず挙げられる.黒田らは精神的健康を 測る尺度として相対的幸福感,自尊感情,充実感,抑 うつを使用している.他者との関係に焦点を当てるの ならば,精神的健康を測る尺度も他者や周囲との関係 の中での精神的健康が測れる尺度を使用した方がいい のではないかという点,また,大学生にとって友人関 係が精神的健康の重要な要因であるならば,友人関係 が全般的生活満足へ影響を及ぼすはずであるという点 から,本研究では友人関係満足度が含まれる主観的
ウェルビーイングを使用した.その精神的健康を測る 尺度の違いが結果に表れたと考えられる.しかし,主 観的ウェルビーイングには感情経験尺度が含まれてお り,‘快感・情経験や不快感‘情経験の原因が親友関係にあ るとは限らないという問題点があった.‘快感情経験や 不快感情経験尺度の質問項目自体が親友関係場面での 感情経験と限られているものではなかったことが,関 係性高揚と主観的ウェルビーイングの検討において感 情経験とほとんどの分析で相関を示さなかった原因と 考えられる.
また,相互独立的自己観の高群.低群でははっきり とした差がみられなかった原因は主観的ウェルビーイ ングと自己観尺度にあると考えられる.本研究では二 つの自己観は相対的に独立していると考えて高田の尺 度(2000)を使用したが,個人の中に相互独立的自 己観と相互協調的自己観の2つの表象が存在し,相対 的に優勢なものが活性化され,その活性化された表 象が個人の行動を決定すると捉えるべきという木内 ('995)の指摘もある.本研究の場合,相互協調的自 己観の高群・低群の人数比と相互独立的自己観の高群.
低群の人数比が大きく違ったことは,高田の双方の自 己観が高水準(または低水準)の場合があるという指 摘と合致していよう.しかし,女子が相互協調的自己 観と全般的生活満足度との間に負の相関を示し,男子 も相互協調的自己観と不快感情との間に正の相関を示 したことから,アンケート上で双方の自己観が高水準 を示しているものの,表面的な自己観と望んでいる自 己観は異なるのではないかという予想が立てられる.
これらを踏まえると,木内の独立的自己観と協調的自 己観の記述が一次元に正と負の対立する関係で記述さ れ,どちらが被験者の現実の姿により近いかを問う質 問紙の方が優勢な自己観がどちらか一つとなり,はっ
きりとした自己観による主観的ウェルビーイングの差 が出たのかもしれない.
先行研究から,欧米で見られる自己高揚の代わりに,
日本人においては自己と他者の関係性についての評価 を高揚させる関係性高揚が存在すること,さらに文化 的自己観が関係していることが明らかにされた(黒田.
有年・桜井,2004).本研究はこれらの研究を発展さ せ,関係性高揚が起こるプロセスモデルを提示したこ
と,親友関係や友人関係を検討するにあたって'性差に 言及し,今後は男女を区別して検討する必要性を示唆
したという点で,意義あるものと考えられる.しかし
ながら,親友についての定義があいまいだった点や本
研究での関係性高揚の測定法が妥当だったかという問
題点がある.また,本研究以外のプロセスモデルの検
討も今後必要だろう.
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