• 検索結果がありません。

血管の分化発達、病態と再生 Vascular development, pathology, and regeneration 横 山 詩 子 Utako YOKOYAMA

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "血管の分化発達、病態と再生 Vascular development, pathology, and regeneration 横 山 詩 子 Utako YOKOYAMA"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

東医大誌 78(1)

: 8

-

15, 2020

特 別 講 演

血管の分化発達、病態と再生 Vascular development, pathology,

and regeneration

横 山 詩 子 Utako YOKOYAMA

東京医科大学細胞生理学分野

Department of Physiology. Tokyo Medical University

【要旨】 組織のしなやかさを規定する弾性線維は発達とともに形成されるが、成人ではその形成能は 低下する。弾性線維が破壊される様々な疾患では、その破壊の程度が各疾患の予後を規定する。また、

弾性線維を再生させる治療も未だ実現してないことから、弾性線維形成の機序を明らかにすることは 重要な課題である。筆者らはプロスタグランディン

E(PGE)受容体 EP4

やメカニカルストレスに焦 点を当てて血管弾性線維の制御の分子機序について研究を行ってきた。

 動脈管は胎生期の生命維持に必須であり出生直後より閉鎖に向かう。動脈管開存症は未熟児の生命 予後を左右し、動脈管の速やかな閉鎖は小児医療上極めて重要である。動脈管では隣接する血管と異 なり、血管弾性線維が極めて少ない筋性血管である。EP4受容体は動脈管特異的に高発現し、エラス チン架橋酵素を分解して弾性線維形成を負に制御することが明らかとなった。つまり、胎盤由来の

PGE

は動脈管を出生後の閉鎖に向けて収縮しやすい血管へと分化させていることが示唆された。

 筆者らは、EP4がヒト腹部大動脈瘤でも多く発現することを見出した。血管特異的

EP4

過大発現マ ウスはアンジオテンシン

II

投与により全例が大動脈瘤の破裂で死亡した。EP4刺激は平滑筋細胞から インターロイキン

6

を過剰に産生し、炎症性単球の浸潤を促進することで、弾性線維を破壊して瘤を 拡大させることが明らかとなった。PGE-

EP4

刺激は発達段階では血管弾性線維形成を抑制し、疾患で は弾性線維の破壊を促進すると考えられた。

 血管系は常に血圧に曝されていることから、筆者らは近年周期的加圧を培養細胞に適用し弾性線維 の再生を試みた。足場材料なしで細胞のみから弾性線維を有する人工血管を作製し、動物の大動脈へ の移植に成功した。本技術は血管組織の再生に有用であると考えられた。加圧条件を詳細に検討する ことでさらに弾性線維形成を促進できる可能性が示されており、現在圧力を感知する分子機序につい て検討中である。

2019

11

16

日 第

184

回東京医科大学医学会総会における特別講演 キーワード

:

血管、細胞外基質、弾性線維、炎症、人工血管、再生医療

(別冊請求先

:

160

-

8402 東京都新宿区新宿 6

-

1

-

1 東京医科大学細胞生理学分野)

(2)

動脈管の閉鎖機構

動脈管は大動脈と肺動脈をつなぐ血管であり、胎 生期の生命維持に必須である。動脈管は出生直後よ り閉鎖に向かうが、その後もしばしば開存したまま となる。動脈管開存症は特に未熟児の生命予後を左 右し、肺高血圧、右心不全、感染症、呼吸障害を引 き起こす。1,500グラム以下の早産児では動脈管開 存症の割合は

30%

を超える

1)

。また、動脈管開存症 は正期産の新生児ではおよそ

500

人に一人の発症率 であり、先天性心疾患のうち多くの割合を占める

2)

一方、肺動脈閉鎖や、大動脈離断のように動脈管に 血流を依存する先天性心疾患にとって動脈管の開存 は生命の維持に必須である。このため、動脈管の開 存と閉鎖の分子メカニズムを解明し、開存と閉鎖を 制御できるようになることは、小児医療上重要な課 題である。

動脈管の閉鎖は

2

つの機序から成る。ひとつ目は

「機能的閉鎖」であり、出生直後の肺呼吸の開始と ともに直ちに動脈管平滑筋の収縮が始まる。

2

つ目 は、「解剖学的閉鎖」であり、胎生中期から始まり、

出生後数日までの間に血管壁の構造が変化する(血 管リモデリング)。これら

2

つの過程は哺乳類に共 通する動脈管閉鎖の機序である。動脈管の閉鎖に とって血管リモデリングが非常に重要な過程である ことは明らかであり、動脈管で胎生後期から内膜肥 厚に代表される血管リモデリングが起こるという現 象は

1970

年代の研究で既に明らかにされていた。

しかしながらその形成に関与する分子機構は現在に 至るまでほとんど解明されておらず、動脈管開存症 に対する現在の内科療法は唯一、プロスタグラン

ディン

E(PGE)合成阻害剤による血管収縮を目的

としたもののみであり、解剖学的閉鎖を促進する治 療法は現時点では存在しない。

動脈管における細胞外基質産生と平滑筋細胞遊走 動脈管の血管壁のリモデリングは胎生中期より始 まり、出生後にさらに急速に進行し動脈管は器質的 に閉鎖する。血管内膜肥厚は隣接する大動脈や肺動 脈には見られず、動脈管に特徴的な所見である

3)

血管内膜肥厚は、血管が経皮的血管形成術などに よって傷害された場合や、動脈硬化の時などにみら れる変化として有名であるが、動脈管においてはこ れらが生理的に形成される。内膜肥厚は、①内弾性

板の断裂、②弾性線維の低形成、③細胞外基質の沈 着と血管平滑筋細胞の遊走、といった過程を経て形 成され、出生後の完全な閉鎖に寄与する(図 1A-

B)。

動脈管開存症の患者や動物の動脈管開存症では、こ の内膜肥厚が十分に形成されないことが報告されて いる

4) 5)

ことからも、この血管壁の変化は器質的な 動脈管閉鎖に極めて重要な役割を果たしていると考 えられる。

PGE 2

は、ホスホリパーゼ

A 2

(PLA

2

)によってリ ン脂質から遊離されたアラキドン酸にシクロオキシ ゲナーゼ(cyclooxygenase : COX)や膜結合型

PGE

合成酵素(microsomal prostaglandin E synthase : mPGES)

が作用することにより産生される。PGE

2 は胎盤と

1 ヒト動脈管のリモデリング

A.

ヒト動脈管と大動脈組織の弾性線維染色。スケー ルバー:200 µm。B.大動脈組織と比較した動脈管の リモデリングの模式図。血管中膜の弾性線維(紫色)

は形成が低下している。内皮細胞と内弾性板の間隙が 細胞外基質の貯留による大きくなり、断裂した内弾性 板から中膜の平滑筋細胞が内皮細胞側へ遊走する。

C.

動脈管(左)と大動脈(右)の弾性線維染色。スケー ルバー:50 µm。D.

EP4

抗体を用いたヒト動脈管と 大動脈組織の免疫染色。スケールバー

: 50 µm。文献

12

より改変して引用。

(3)

動脈管自体から産生され、その受容体には

EP1、

EP2、EP3、EP4

4

種類があり、それぞれ異なる 細胞内シグナル系を介して様々な生理作用をもたら

6)

。PGE

2 は EP4

を介して動脈管を強力に拡張さ せる

6) 7)

。しかしながら、EP4欠損マウスでは予想 に反して動脈管が出生後も開存してしまうことが報 告された

8)

。筆者らは、EP4欠損マウスでは動脈管 の内膜肥厚が形成されないことを見出した

3)

。さら に、この

EP4

欠損マウスでは、動脈管でのヒアル ロン酸産生が著しく低下していたことから、PGE

2

-

EP4

-サイクリック

AMP(cAMP)

-プロテインキナー

A

(PKA)

シグナルが 2

型ヒアルロン酸合成酵素 の発現を増加させ、ヒアルロン酸の貯留が平滑筋細 胞の内腔面への遊走を亢進させることで内膜肥厚を 形成させることを明らかにした

3) 9)

(図 2)。

筆者らはまた、PGE

2

-

EP4

刺激により産生される サイクリック

AMP

の標的分子である

Exchange Pro- tein Activated by cAMP 1

Epac1

)が胎生後期に向かっ て動脈管で発現が増加し、平滑筋細胞を遊走させる

ことで動脈管内膜肥厚形成に関与することを明らか にした

10)

(図2)。

動脈管における弾性線維形成低下の分子機構 血管中膜の弾性線維形成低下は動脈管にみられる リモデリングの特徴の一つである。弾性線維が疎で あることから、平滑筋細胞が中膜から内膜へと遊走 しやすくなるため、弾性線維の形成は内膜肥厚形成 とも関連が深い(図

1A

-

B)。また、中膜に幾重に

も層をなす弾性板・弾性線維は血管が管腔構造を保 つために必要な支持体である。このことから、弾性 線維が低形成であることはさらに動脈管を閉塞しや すくしていると考えられている。さらに、動脈管開 存症では、弾性板の断裂が乏しく、平滑筋細胞の内 腔面への遊走が認められないことがヒトや動物モデ ルから示されていることからも

11)

、弾性線維の形成 は動脈管の閉鎖に深く関与している。

筆者らは、胎生中期・後期にかけて

PGE 2

-

EP4

激が動脈管の弾性線維の形成を抑制することを

EP4

ノックスとマウスやヒト動脈管組織の検討から見出 した

12)

。動脈管では

EP4

が高発現し、弾性線維は 低形成である。一方、大動脈は弾性線維が高度に形 成されており、EP4の発現は低い(図

1C

-

D)。弾性

線維は、フィブリリン1、フィブリリン

2

といった 足場蛋白にエラスチンをはじめとした複数の蛋白質 が沈着し、最終的にリシルオキシダーゼでエラスチ ン蛋白が架橋結合されることで形成される。これら の過程のうち、PGE

2

-

EP4

シグナルはリシルオキシ ダーゼをエンドサイトーシスでとりこみ、リソソー ムで分解することで弾性線維の形成を抑制する。ま た、この作用はフォスフォリパーゼ

C(PLC)を介

するものであり、EP4シグナルにおける主要なセカ ンドメッセンジャーである

cAMP

の作用とは異な ることが明らかになった

12)

(図2)。

これらのことより、胎生中期から後期にかけて胎 盤から多く産生される

PGE 2

EP4

受容体を介して、

胎生期での動脈管の拡張を促すことで循環動態を維 持すると同時に、出生後の閉鎖に向けた血管リモデ リングを促進していることが明らかになった。

病態における

PGE 2

の役割

PGE 2

は代表的な脂質メディエーターであり、心 血管系の様々な病態に伴い産生が亢進し、その病態 における作用が注目されている。大動脈瘤では

2 PGE2

-

EP4

シグナルによる血管リモデリング

EP4

受容体に結合した

PGE2

は、Gs蛋白を活性化し、

ア デ ニ ル 酸 シ ク ラ ー ゼ に よ り サ イ ク リ ッ ク

AMP

(cAMP)を産生する。cAMPはプロテインキナーゼ

A

を介して

II

型ヒアルロン酸合成酵素(HAS2)の転写 を亢進させてヒアルロン酸産生を促す。

cAMP

はまた、

Epac1

を介して

Rap1

を活性化させる。これらの作用 により、平滑筋細胞は内皮細胞側へと遊走し、動脈管 の内膜肥厚を形成する。EP4刺激はまた、cAMP系路 とは独立してホスホリパーゼ

Cγ(PLCγ)を介して cSrc

を活性化させてリシルオキシダーゼを分解させ、

弾性線維の形成を低下させる。この弾性線維形成の低 下も内膜肥厚形成に関与している。

(4)

PGE 2

の産生が亢進していることが知られており

13) 14)

これらの疾患の進行、増悪に寄与している可能性が 高い。大動脈瘤で産生が亢進していることが知られ ている

COX-2

を欠損させたマウスや、COX-2阻害 薬を用いた検討により

COX-2

の抑制が大動脈瘤を 抑制すると報告されている

15) 16)

。このことからも、

PGE 2

が大動脈瘤の病態の進行に大きく関与してい ることが裏付けられている。

大動脈瘤は無症状のうちに経過し突然破裂に至る が、破裂後の救命は極めて困難であり、臨床上の大 きな問題点となっている。大動脈瘤は加齢とともに 罹患率が上昇し、エコーによるスクリーニングでは、

60

歳以上の男性では人口の

4

-

5%

3 cm

以上の大 動脈瘤を有していると報告されている

17) 18)

。現在は、

人工血管置換術または自己拡張性スプリング(ステ ント)に人工血管(グラフト)を縫着したステント グラフトの留置といった外科的治療が主流であり、

疾患の進行を抑制する薬物治療は存在しない。

大動脈瘤における

EP4

シグナルの作用 大動脈瘤は、血管弾性線維を主体とする細胞外基 質が減少するために血管壁が脆くなり、血圧負荷の ため血管が拡大してゆくことで増悪する。マクロ ファージを主体とする炎症細胞が血管壁に浸潤して 炎症を持続させる。特にインターロイキン

6

inter- leukin

-

6 : IL

-

6)や IL

-

等が炎症性メディエーター として働くことが知られている

13) 19)

。また、平滑筋 細胞やマクロファージなどからマトリクスメタロプ ロテアーゼ(matrix metalloproteinase : MMP)が産 生され、なかでも

MMP

-

2、MMP

-

9

の活性が増加す ることで弾性線維の断裂や減少が起こる

20) 21)

PGE 2

が大動脈瘤の進行に関与している可能性が 報告されていたことから、筆者らはヒト大動脈瘤組 織で

PGE 2

受容体の発現を検討した。健常者の大動 脈に比べて、大動脈瘤部位の平滑筋細胞には

EP4

が多く発現することを見出した

22)

。また、血管弾性 線維の破壊がみられる部位で

EP4

は高い発現を示 した

22)

。大動脈瘤組織中のマクロファージが

EP4

を多く発現し、サイトカインを産生することは知ら れていたが

23)

、血管組織の大半を占める平滑筋細胞 でも大動脈瘤で

EP4

が過剰に発現することが明ら かとなった。

さらにヒト大動脈瘤からの初代平滑筋培養細胞を 用いて

EP4

を刺激すると、MMP-

2

活性と

IL

-

6

生の増加が見られた

22)

。2種類のマウス大動脈瘤モ デルを用いて

EP4

の役割をさらに検討したところ、

EP4

ヘテロ欠損マウスでは塩化カルシウムによる大 動脈瘤形成が

73%

抑制され、EP4

ApoE

のダブ ル欠損マウスで、アンジオテンシン

II

による大動 脈瘤の形成が

76%

抑制された

22) 24)

筆者らは大動脈瘤が部位特異的に発症することか ら、免疫細胞の関与だけではなく、血管自体を構成 する平滑筋細胞の役割が重要であると考えた。そこ で平滑筋特異的

EP4

過大発現マウスを作製して検 討したところ、EP4を介して平滑筋細胞から

IL

-

6

が過剰に産生されることで、炎症性単球・マクロ ファージの血管への浸潤と活性化を促進し、大動脈 瘤の増悪に関与していることが示された(論文投稿 中)。

EP

受容体を標的とした大動脈瘤治療の可能性 次に

EP4

拮抗薬が大動脈瘤の進行を抑制できる かを検討したところ、ApoE欠損マウスにアンジオ テンシン

II

を投与して作成した大動脈瘤は、

EP4

拮抗薬の経口投与により、45-

87%

の有意な抑制が 認められ、この大動脈組織では、EP4拮抗薬により 弾性線維の分解と

MMP

-

2

活性が有意に抑制されて いた

22)

(図3)。さらに

EP4

拮抗薬の大動脈瘤に対す る同様の抑制効果は、その後他のグループによって も示された

25)

さらにヒト大動脈瘤組織の器官培養でも、EP4 抗薬は

MMP

-

2

活性と

IL

-

6

産生を有意に抑制した。

マクロファージに発現する

EP4

MCP

-

1

の産生を 抑制するため、EP4拮抗薬は

MCP

-

1

を増加させ大 動脈瘤を増悪させる可能性も示されているが

26)

、筆 者らのヒト大動脈瘤組織の器官培養の実験では、

EP4

拮抗薬は

MCP

-

1

の産生は増加させなかった

22)

これらの結果より、PGE

2

は病態で過剰に発現す る平滑筋細胞における

EP4

受容体を介して、免疫 細胞の活性化を引き起こすことで大動脈瘤の病態に 関与することが明らかとなり、過剰な

EP4

シグナ ルを抑制することが大動脈瘤の治療につながる可能 性が示された。

弾性線維の再生の現状

弾性線維はコラーゲンと並ぶ生体内二大細胞外基 質である。しかしながら、弾性線維を形成する能力 は出生後に臓器の発達が止まると急速に失われ、一

(5)

度破壊された弾性線維は再生させることができな い。すなわち現時点では、体外においても細胞から 弾性線維を構築することができないため、生理的な 人工血管も存在しない。

先天性心疾患の外科治療ではゴアテックスなどの 人工材料から作製された血管グラフトが使用されて いるが、小児患者が成長しても血管グラフトが成長 しないために、多くの場合術後遠隔期に狭窄をきた

し再手術が必要となる。再生医療を目指した細胞か らの三次元組織構築法の研究が著しい発展を遂げて いるが、血圧に耐える強度と弾性を求められる血管 組織ではその開発は極めて遅れている。このため、

人工材料を使わずに細胞だけで作る、成長する可能 性のある血管グラフトがあれば、小児用の血管グラ フトとして理想的である。

弾性線維の形成には、まず細胞表面にフィブロネ クチン原線維が構築されることが重要なステップで ある。このフィブロネクチン原線維に前述のように フィブリリンなどのマイクロフィブリルが結合し、

さらにエラスチンやファイブリン

5

などの複数の蛋 白が沈着し、リシルオキシダーゼが架橋結合するこ とで機能的な弾性線維が構築される。しかしながら、

通常フィブロネクチンは可溶性の状態で存在し、線 維形成していない。フィブロネクチンがインテグリ

α 5 β 1

と結合することで、低分子量

G

タンパク質 の一種である

RhoA

のシグナル経路の活性化とアク チン重合を介して立体構造変化が起こることで、

フィブロネクチン同士の結合が可能になり線維形成 されることが知られている

27)

近年、軟骨細胞において静水圧を印加することで

RhoA

の発現増加がおこり骨分化が促進されるとい う報告がなされた

28)

。RhoAがアクチン重合を介し たフィブロネクチン集合に関わっているという報告 もあることから

29)

、筆者らは静水圧を印加すること で、フィブロネクチン集合・線維形成が促進するの ではないかと着想した。また、軟骨細胞に静水圧を 印加することで細胞外マトリックスの発現が増加し たという報告があり

30)

、さらに

RhoA

が、臓器サイ ズをコントロールする

Hippo

-

YAP

経路を制御して いるという報告があることから

31)

、静水圧を印加す ることにより

RhoA

YAP

を介したフィブロネク チンの発現増加も期待できると考えた。

周期的静水圧印加による弾性を有する 人工血管の開発

筆者らは細胞のみから構成される動脈用血管グラ フト作製を目指して、血管平滑筋細胞に静水圧を加 えることで、フィブロネクチンの足場を形成させ、

三次元的に平滑筋細胞を配置できるかを検討した。

まず初めに、周期的静水圧印加ができる装置を大 阪大学の金子らと共同で開発した(図4)。市販のヒ ト動脈平滑筋細胞をシリンジに入れ、周期的静水圧

3 PGE2

-

EP4

の抑制は大動脈瘤形成を抑制する

A.ApoE

欠損マウスにアンジオテンシン

II(AngII)を

投与すると、大動脈瘤が形成されたが、EP4拮抗薬の 投与で大動脈瘤形成は抑制された。スケールバー:1

mm。 B.

上図の腹部大動脈組織の弾性線維染色。スケー ルバー:500 µm。文献

22

より改変して引用。

(6)

印加を行うと、110-

180 kPa 0.002 Hz

の条件でシー ト状の構造物が作製された。免疫細胞化学染色を 行ったところ、この培養条件で、Fアクチンの増加 と細胞表面のフィブロネクチン原線維形成の促進が

確認された(図

4B)。

次に、多層の細胞シートの作製を目指し細胞播種 と圧力印加を交互に行ったところ、三次元的な層構 造を有する多層細胞シートが作製できた。一方、大 気圧で同様の工程を行っても十分な層構造は確認で きなかった。さらに、弾性線維形成能がより高いラッ ト新生仔血管平滑筋細胞を用いて同様の工程で

10

層のシートを作製したところ、高い弾性を有する シートを得た(図

4C

-

D)。成体ラットへの移植実

験では、細胞シートが血圧に耐えただけではなく、

グラフト移植部分の血管内腔側がホストの内皮細胞 によって完全に被覆されることが明らかになった

32)

ラット由来細胞で移植可能な血管グラフトが作製 できたことから、分娩時に得られたヒト臍帯から臍 帯動脈平滑筋細胞を初代培養し、同様の工程である 細胞播種と周期的な圧力印加を繰り返して血管グラ フトを構築した。作製した血管グラフトの破断応力

1,261 mmHg

であり、ヒトの大伏在静脈と同等の 強度を有していたため、これらの血管グラフトを ヌードラットの大動脈へ移植した。血管パッチグラ フトとして移植可能であり、移植後

1

-

3

カ月時点で、

血管グラフト内腔は完全に内皮化し、閉塞は認めな かった。

次に、圧力印加が細胞に与える影響を明らかにす るために、ヒト臍帯動脈平滑筋細胞を用いて網羅的 解析を行い、静水圧反応性の新規分子としてアンジ オポエチン関連タンパク

4

(ANGPTL4)を同定した。

これらの結果より、周期的加圧培養により、ヒト 血管平滑筋細胞を材料とした移植可能な血管グラフ トの実現性を示すことができた。ANGPTL4には フィブロネクチン発現の安定化の作用が報告されて おり、圧力印加に対する細胞応答の一端を担ってい る可能性が示唆された。

血管において

PGE 2

は、平滑筋細胞に対する拡張 作用が広く知られていたが、これらの研究により、

発達における血管と疾患において弾性線維形成に関 連が深いことが示された。特に、大動脈瘤では

EP4

拮抗薬が大動脈瘤の進行抑制薬または治療薬として 有効である可能性が示唆された。EP4拮抗薬が、現 在根本的治療が存在しない大動脈瘤における新規の 薬物治療となることが期待される。また、弾性線維

in vitro

での再生ができたことから、ファロー四

4 周期的静水圧印加による弾性を有する血管グラフトの

作製

A.

周期的静水圧印加装置の模式図。圧縮空気をコン ピューター制御のもと加圧容器に送り込み、加圧容器 の中に静置された培養細胞が制御された圧力パターン で 培 養 さ れ る。B.周 期 的 静 水 圧 印 加(110-

180kPa

0.002Hz)による F

アクチンの増強とフィブロネクチ

ン原線維形成を示した蛍光免疫染色。スケールバー:

50 µm。C.

加圧培養によって作成された

10

層の平滑 筋細胞シートは高い弾性を示した。D.Cの細胞シート の弾性線維染色。スケールバー:100 µm。文献

32

り改変して引用。

(7)

徴症の右室流出路狭窄に対するパッチ手術など、小 児先天性心疾患の治療における臨床応用の可能性が 示唆された。今後は実用化に向けて、ヒト由来細胞 を用いた血管グラフトのさらなる改良や検討が必要 である。

謝   辞

稿を終えるにあたり、これらの研究を支援して頂 いた横浜市立大学医学部循環制御医学の石川義弘教 授、同教室の皆様、免疫学教室の田村智彦教授、黒 滝大翼先生、外科治療学の益田宗孝教授、鈴木伸一 診療教授、産婦人科宮城悦子教授、東京慈恵会医科 大学細胞生理学の南沢享教授、神奈川県立こども医 療センターの麻生俊英先生、大阪大学工学部の金子 真教授、大阪大学医学部心臓血管外科の澤芳樹教授、

宮川繁教授、上野高義先生、金谷知潤先生、東京工 業大学の高山俊夫先生、ほか共同研究者の先生方に 深く感謝申し上げます。

文   献

1) Van Overmeire B, Allegaert K, Casaer A, Debauche C, Decaluwe W, Jespers A, Weyler J, Harrewijn I, Langhendries JP : Prophylactic ibuprofen in prema- ture infants : a multicentre, randomised, double

-

blind, placebo

-

controlled trial. Lancet 364 : 1945

-

1949, 2004.

2) Mitchell SC, Korones SB, Berendes HW : Congenital heart disease in 56,109 births.

 

Incidence and natural history. Circulation 43 : 323

-

332, 1971.

3) Yokoyama U, Minamisawa S, Quan H, Ghatak S, Akaike T, Segi

-

Nishida E, Iwasaki S, Iwamoto M, Misra S, Tamura K, Hori H, Yokota S, Toole BP, Sugimoto Y, Ishikawa Y : Chronic activation of the prostaglandin receptor EP4 promotes hyaluronan

-

mediated neointimal formation in the ductus arteriosus. J Clin Invest 116 : 3026

-

3034, 2006.

4) Gittenberger

-

de Groot AC, Strengers JL, Mentink M, Poelmann RE, Patterson DF : Histologic studies on normal and persistent ductus arteriosus in the dog. J Am Coll Cardiol 6 : 394

-

404, 1985.

5

) 

Gittenberger

-

de Groot AC, van Ertbruggen I, Mou- laert AJ, Harinck E : The ductus arteriosus in the preterm infant : histologic and clinical observations. 

J Pediatr 96 : 88

-

93, 1980.

6) Yokoyama U, Iwatsubo K, Umemura M, Fujita T, Ishikawa Y : The prostanoid EP4 receptor and its signaling pathway. Pharmacol Rev 65 : 1010

-

1052, 2013.

7) Yokoyama U, Minamisawa S, Ishikawa Y : Regulation

of vascular tone and remodeling of the ductus arteriosus. J Smooth Muscle Res 46 : 77

-

87, 2010.

8) Nguyen M, Camenisch T, Snouwaert JN, Hicks E, Coffman TM, Anderson PA, Malouf NN, Koller BH : The prostaglandin receptor EP4 triggers remod- elling of the cardiovascular system at birth. Nature 390 : 78

-

81, 1997.

9) Yokoyama U, Minamisawa S, Katayama A, Tang T, Suzuki S, Iwatsubo K, Iwasaki S, Kurotani R, Oku- mura S, Sato M, Yokota S, Hammond HK, Ishikawa Y : Differential regulation of vascular tone and remodeling via stimulation of type 2 and type 6 ade- nylyl cyclases in the ductus arteriosus. Circ Res 106 : 1882

-

1892, 2010.

10) Yokoyama U, Minamisawa S, Quan H, Akaike T, Suzuki S, Jin M, Jiao Q, Watanabe M, Otsu K, Iwasaki S, Nishimaki S, Sato M, Ishikawa Y : Prostaglandin E2

-

activated Epac promotes neointimal formation of the rat ductus arteriosus by a process distinct from that of cAMP

-

dependent protein kinase A. J Biol Chem 283 : 28702

-

28709, 2008.

11) de Reeder EG, van Munsteren CJ, Poelmann RE, Pat- terson DF, Gittenberger

-

de Groot AC : Changes in distribution of elastin and elastin receptor during inti- mal cushion formation in the ductus arteriosus. 

Anat Embryol

Berl

182 : 473

-

480, 1990.

12) Yokoyama U, Minamisawa S, Shioda A, Ishiwata R, Jin MH, Masuda M, Asou T, Sugimoto Y, Aoki H, Nakamura T, Ishikawa Y : Prostaglandin E2 Inhibits Elastogenesis in the Ductus Arteriosus via EP4 Signaling. Circulation 2013.

13) Walton LJ, Franklin IJ, Bayston T, Brown LC, Green- halgh RM, Taylor GW, Powell JT : Inhibition of prostaglandin E2 synthesis in abdominal aortic aneurysms : implications for smooth muscle cell via- bility, inflammatory processes, and the expansion of abdominal aortic aneurysms. Circulation 100 : 48

-

54, 1999.

14) Holmes DR, Wester W, Thompson RW, Reilly JM : Prostaglandin E2 synthesis and cyclooxygenase expression in abdominal aortic aneurysms. J Vasc Surg 25 : 810

-

815, 1997.

15)  King VL, Trivedi DB, Gitlin JM, Loftin CD : Selective cyclooxygenase

-

2 inhibition with celecoxib decreases angiotensin II

-

induced abdomi- nal aortic aneurysm formation in mice. Arterioscler Thromb Vasc Biol 26 : 1137

-

1143, 2006.

16) Gitlin JM, Trivedi DB, Langenbach R, Loftin CD : Genetic deficiency of cyclooxygenase

-

2 attenu- ates abdominal aortic aneurysm formation in mice. 

Cardiovasc Res 73 : 227

-

236, 2007.

17) Collin J, Araujo L, Walton J, Lindsell D : Oxford screening programme for abdominal aortic aneurysm in men aged 65 to 74 years. Lancet 2 : 613

-

615, 1988.

18) Scott RA, Ashton HA, Kay DN : Abdominal aortic

(8)

aneurysm in 4237 screened patients : prevalence, development and management over 6 years.

 

Br J Surg 78 : 1122

-

1125, 1991.

19) Treska V, Kocova J, Boudova L, Neprasova P, Topol- can O, Pecen L, Tonar Z : Inflammation in the wall of abdominal aortic aneurysm and its role in the symptomatology of aneurysm. Cytokines Cell Mol Ther 7 : 91

-

97, 2002.

20) Freestone T, Turner RJ, Coady A, Higman DJ, Green- halgh RM, Powell JT : Inflammation and matrix metalloproteinases in the enlarging abdominal aortic aneurysm. Arterioscler Thromb Vasc Biol 15 : 1145

-

1151, 1995.

21) Guo DC, Papke CL, He R, Milewicz DM : Patho- genesis of thoracic and abdominal aortic aneurysms. 

Ann N Y Acad Sci 1085 : 339

-

352, 2006.

22

) 

Yokoyama U, Ishiwata R, Jin MH, Kato Y, Suzuki O, Jin H, Ichikawa Y, Kumagaya S, Katayama Y, Fujita T, Okumura S, Sato M, Sugimoto Y, Aoki H, Suzuki S, Masuda M, Minamisawa S, Ishikawa Y : Inhibition of EP4 Signaling Attenuates Aortic Aneurysm Formation. 

PLoS One 7 : e36724, 2012.

23) Bayston T, Ramessur S, Reise J, Jones KG, Powell JT : Prostaglandin E2 receptors in abdominal aortic aneurysm and human aortic smooth muscle cells. J Vasc Surg 38 : 354

-

359, 2003.

24) Mamun A, Yokoyama U, Saito J, Ito S, Hiromi T, Umemura M, Fujita T, Yasuda S, Minami T, Goda M, Uchida K, Suzuki S, Masuda M, Ishikawa Y : A selective antagonist of prostaglandin E receptor sub- type 4 attenuates abdominal aortic aneurysm.

 

Physiol Rep 6 : e13878, 2018.

25) Cao RY, St Amand T, Li X, Yoon SH, Wang CP, Song H, Maruyama T, Brown PM, Zelt DT, Funk CD : Prostaglandin receptor EP4 in abdominal aortic

aneurysms. Am J Pathol 181 : 313

-

321, 2012.

26

) 

Tang EH, Shvartz E, Shimizu K, Rocha VZ, Zheng C, Fukuda D, Shi GP, Sukhova G, Libby P : Deletion of EP4 on bone marrow

-

derived cells enhances inflam- mation and angiotensin II

-

induced abdominal aortic aneurysm formation. Arterioscler Thromb Vasc Biol 31 : 261

-

269, 2011.

27) Mao Y, Schwarzbauer JE : Fibronectin fibrillogene- sis, a cell

-

mediated matrix assembly process. Matrix Biol 24 : 389

-

399, 2005.

28) Zhao YH, Lv X, Liu YL, Zhao Y, Li Q, Chen YJ, Zhang M : Hydrostatic pressure promotes the prolif- eration and osteogenic/chondrogenic differentiation of mesenchymal stem cells : The roles of RhoA and Rac1. Stem Cell Res 14 : 283

-

296, 2015.

29

) 

Zhang Q, Magnusson MK, Mosher DF : Lysopho

-

sphatidic acid and microtubule

-

destabilizing agents stimulate fibronectin matrix assembly through Rho

-

dependent actin stress fiber formation and cell contraction. Mol Biol Cell 8 : 1415

-

1425, 1997.

30) Mizuno S, Tateishi T, Ushida T, Glowacki J : Hydrostatic fluid pressure enhances matrix synthesis and accumu- lation by bovine chondrocytes in three

-

dimensional culture. J Cell Physiol 193 : 319

-

327, 2002.

31) Yu FX, Zhao B, Panupinthu N, Jewell JL, Lian I, Wang LH, Zhao J, Yuan H, Tumaneng K, Li H, Fu XD, Mills GB, Guan KL : Regulation of the Hippo

-

YAP pathway by G

-

protein

-

coupled receptor signaling. 

Cell 150 : 780

-

791, 2012.

32

) 

Yokoyama U, Tonooka Y, Koretake R, Akimoto T,

Gonda Y, Saito J, Umemura M, Fujita T, Sakuma S,

Arai F, Kaneko M, Ishikawa Y : Arterial graft with

elastic layer structure grown from cells. Sci Rep

7 : 140, 2017.

参照

関連したドキュメント

 スルファミン剤や種々の抗生物質の治療界へ の出現は化学療法の分野に著しい発達を促して

にて優れることが報告された 5, 6) .しかし,同症例の中 でも巨脾症例になると PLS は HALS と比較して有意に

しかしながら生細胞内ではDNAがたえず慢然と合成

(注妬)精神分裂病の特有の経過型で、病勢憎悪、病勢推進と訳されている。つまり多くの場合、分裂病の経過は病が完全に治癒せずして、病状が悪化するため、この用語が用いられている。(参考『新版精神医

つの表が報告されているが︑その表題を示すと次のとおりである︒ 森秀雄 ︵北海道大学 ・当時︶によって発表されている ︒そこでは ︑五

(2011)

そのため、ここに原子力安全改革プランを取りまとめたが、現在、各発電所で実施中

3  治療を継続することの正当性 されないことが重要な出発点である︒