《論説》
仲裁判断の概念
—
ニューヨーク条約の適用を受ける仲裁判断とは何か— 中 村 達 也
1.はじめに
1958 年に作成された外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(昭和 36 年 7 月 14 日条約第 10 号)通称ニューヨーク条約(以下「NY 条約」という)は、
2018 年に 60 周年を迎え、2018 年 9 月 28 日現在、締約国が 159 か国に上り、
最も成功した条約と言われるが、解釈上見解の分かれる問題も相当数あり、
既に、NY 条約の改正の要否についての議論もあるが1)、本稿では、解釈問題 の1つとして、仲裁判断の概念を取り上げる。
NY 条約は 1 条 1 項において、「この条約は、仲裁判断の承認及び執行が 求められる国以外の国の領域内においてされ、かつ、自然人であると法人で あるとを問わず、当事者の間の紛争から生じた判断の承認及び執行について 適用する」と、同 2 項において、「『仲裁判断』とは、各事案ごとに選定され た仲裁人によってされた判断のほか、当事者から付託を受けた常設仲裁機関 がした判断を含むものとする」とそれぞれ定め、仲裁判断は当事者間の紛争 から生じたものであり、事件毎に選任された仲裁人による仲裁判断のみなら ず、常設仲裁機関(permanent arbitral bodies)による仲裁判断も適用対象 とするが、仲裁判断それ自体を定義していない。したがって、NY 条約の適 用を受ける仲裁判断とは何か、この問題は、NY 条約の解釈問題となる。
1) 拙稿「ニューヨーク条約の改正論議における問題点について」(国際法外交雑誌 118 巻1号(2019)所収予定)参照。
比較法制研究(国士舘大学)第 41 号(2018)1-34
以下では、まず、NY 条約の解釈基準、その趣旨・目的を確認するとともに、
NY 条約の適用を受ける仲裁判断であるか否かであるという問題(以下「仲 裁判断適格性」ということがある)を判断するのに適用すべき基準について 考え、その上で、仲裁判断の種類毎に仲裁判断適格性について具体的に考察 する。
2.NY 条約の解釈基準
NY 条約の締約国が適用する解釈ルールに統一性はないが2)、UNCITRAL の調査によれば、多くの締約国は、条約法に関するウィーン条約(Vienna Convention on the Law of Treaties)31 条、32 条に従って解釈すべきである と回答している3)。この規定は慣習国際法であると解されており4)、したがっ て、NY 条約もこれに従って解釈することになる5)。
条約法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という)の解釈に関す る一般的規則を定める 31 条によれば、第 1 に、条約は誠実に解釈されなけ ればならず、第 2 に、条約中の用語は通常の意味に従って解釈されるべきで あり、第 3 に、用語の通常の意味は、抽象的ではなく、条約の文脈により、
かつ、条約の趣旨および目的に照らして決定されなければならないとされ る6)。31 条は、文理解釈、体系的解釈、目的論的解釈のすべてを統合しよう
2) See Wolff (ed.), New York Convention: Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards of 10 June 1958 Commentary (C.H.
Beck・Hart・Nomos 2012) [hereinafter Wolff, NYC Commentary] 19.
3) Report on the survey relating to the legislative implementation of the Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards (New York, 1958), U.N. Doc. A/CN.9/656 (2008).
4) See Wolff, NYC Commentary 20. 酒井啓亘ほか『国際法』(有斐閣、2011) 276 頁〔濵本正太郎〕参照。
5) See International Council for Commercial Arbitration, ICCA Guide to the Interpretation of the 1958 New York Convention: A Handbook for Judges, International Council for Commercial Arbitration, 2011, available at http://
www.arbitration-icca.org/publications/NYC_Guide.html (last visited 28 September 2018) [hereinafter ICCA Guide] 12.
6) 波多野里望 = 小川芳彦編『国際法講義〔新版増補〕』(有斐閣、2002)65 頁〔広部和也〕
参照。
とする規定であり、これらの解釈手法の相互関係は定められていない7)。次い で、解釈の補足的な手段を定める 32 条によれば、31 条に基づいてもなお意 味があいまいであったり不明瞭な場合、あるいは、その結果が明らかに常識 に反したり不合理である場合、条約の準備作業および条約締結の際の諸事情 を含む補足的手段を用いて解釈することができるとされる。
以下ではこの解釈ルールに従って考察を進めるが、その前に NY 条約の趣 旨・目的を確認しておく。外国仲裁判断の承認・執行に関する多数国間条約 としては、NY 条約より前に作成されたものとして、国際連盟の主催の下に 締結された2つの条約、すなわち、第4回国際連盟総会の承認を得て 1923 年9月 24 日ジュネーヴで署名された「仲裁条項に関する議定書」(昭和3年 条約第3号)および第8回国際連盟総会の承認を得て 1927 年9月 26 日ジュ ネーヴで署名された「外国仲裁判断の執行に関する条約」(昭和 27 年条約第 11 号)がある8)。前者は、仲裁合意の効力を国際的に承認することを主な目 的とする。後者は、前者が定める仲裁合意に基づく外国仲裁判断の執行を目 的とする。
前者は、それぞれ異なる締約国の裁判権に服する当事者間の仲裁合意の効 力を承認するとし(1条)、後者は、前者の適用対象となる仲裁合意に基づ き締約国の領域でなされた仲裁判断を適用対象とし、仲裁判断の適用範囲が 狭い。また、仲裁判断を援用する当事者が主張、立証すべき仲裁判断の承認・
執行要件として、仲裁判断地国で確定したこと(final)が求められ、外国仲 裁判断の承認・執行のために仲裁地国の執行許可および執行地国の執行許可 の2つが必要となる、いわゆる二重の執行許可(double exequatur)が求め られ、執行要件が厳しいという問題があった9)。
NY 条約は、かかる不備を改善し、国際取引から生じた紛争を訴訟ではな く仲裁により解決する場合における仲裁判断の執行力を国際的に保障するこ 7) 酒井ほか・前掲注(4)286 頁〔濵本〕参照。
8) 阿川清道「外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約について(上)」ジュリス ト 231 号(1961)18 頁参照。
9) See Wolff, NYC Commentary 11.
とにより国際取引の実務の要請に応えるとともに、その発展に寄与するた め10)、仲裁判断および仲裁合意の承認・執行を促進し、実際に適用し得る効 果的な国際的法的枠組みを構築することを目的として作成されたものであ る11)。
3.仲裁判断適格性を判断する基準
NY 条約は、仲裁判断の概念が各国で共通しておらず12)、これを定義するこ とが困難なため定義していない13)。したがって、まず、NY 条約の適用を受け る仲裁判断であるか否か、すなわち、仲裁判断適格性をどのような基準で判 断すべきかが問題となるが、NY 条約も他の条約と同様に、国内法に依拠す るのではなく、条約の解釈に関する一般的規則に従い、自律的解釈(autono- mous interpretation)によるべきであると考えられる14)。
学説は幾つかの見解に分かれるが、NY 条約は、各締約国に対し、他の締 約国の領域においてなされた仲裁判断の承認・執行についてのみ NY 条約を 適用する旨を相互主義の原則に基づき宣言すること、および、国内法により 商事と認められる法律関係から生じる紛争についてのみ NY 条約を提供する 旨を宣言することを認めていることから(1 条 3 項)、仲裁判断適格性につ
10) 阿川・前掲注(8)18-19 頁参照。
11) See Wolff, NYC Commentary 4; ICCA Guide 14-15.
12) See Julian D. M. Lew, Loukas A. Mistelis, et al., Comparative International Commercial Arbitration (Kluwer Law International 2003) 628.
13) Wolff, NYC Commentary 32.
14) See ICCA Guide 13; Ulrich Haas, Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards, New York, June 10, 1958 in Frank- Bernd Weigand (ed.), Practitioner's Handbook on International Arbitration (C.H. Beck Djøf 2002) [hereinafter Haas, NYC] 402, 419; Wolff, NYC Commentary 33. See also Domenico Di Pietro, What Constitutes an Arbitral Award Under the New York Convention?, Emmanuel Gaillard and Domenico Di Pietro (eds), Enforcement of Arbitration Agreements and International Arbitral Awards: The New York Convention in Practice (Cameron May 2008) 142.
いても、NY 条約の各締約国が法廷地法を適用して NY 条約の適用を受ける 仲裁判断の概念を決すべきであるという見解がある15)。また、仲裁判断は仲 裁地法に基づくものであるから、仲裁地法上仲裁判断と認められないものは NY 条約上も仲裁判断の資格を有し得ないという見解もあるが16)、これらの見 解に対し法廷地法と仲裁地法を重畳的に適用する見解もある17)。
これらの見解のうち、法廷地法によるべきであるという見解は、NY 条約 の統一的な解釈という NY 条約の趣旨・目的に反することになり、妥当な解 釈ではなく、また、法廷地法と仲裁地法の重畳的適用も、NY 条約の適用対 象となる仲裁判断の範囲を狭めることになり、NY 条約の趣旨・目的に照ら して採用することはできないと考えられる18)。
これらの見解に対し、いずれの見解も締約国の裁判所で支配的というわけ ではなく19)、学説上、自律的解釈が広く支持されていると指摘した上で、仲 裁地法によるべきであるが、NY 条約の統一的な適用に資するには、その適 用の結果、NY 条約の自律的な解釈と整合しているかを確かめることになる という見解が主張されている20)。
15) Emmanuel Gaillard and John Savage (eds), Fouchard Gaillard Goldman on International Commercial Arbitration (Kluwer Law International 1999) [hereinafter Gaillard/Savage, Arbitration] 967. See Marike R. P. Paulsson, The 1958 New York Convention in Action (Kluwer Law International 2016) [hereinafter Paulsson, NYC] 115. See also Stefan Michael Kröll, Part II:
Commentary on the German Arbitration Law (10th Book of the German Code of Civil Procedure), Chapter VIII: Recognition and Enforcement of Awards,
§ 1061 – Foreign Awards in Patricia Nacimiento, Stefan Michael Kroll, et al. (eds), Arbitration in Germany: The Model Law in Practice (Kluwer Law International 2015 2nd ed.) 448.
16) Haas, NYC 420; Albert Jan van den Berg, The New York Arbitration Convention of 1958: Towards a Uniform Judicial Interpretation (Kluwer Law and Taxation Publishers 1981) [hereinafter van den Berg, NYC] 46; See Wolff, NYC Commentary 33.
17) Wolff, NYC Commentary 33.
18) See Wolff, NYC Commentary 33.
19) See ICCA Guide 17.
20) See Wolff, NYC Commentary 33-34.
思うに、NY 条約は 5 条 1 項(e)において仲裁判断が仲裁地国の裁判所 で取り消されたことを仲裁判断の承認・執行拒絶事由としている、すなわち、
仲裁判断が仲裁地国で無効となる場合には、他の締約国で仲裁判断は承認・
執行されず、NY 条約は、締約国における仲裁判断の承認・執行の許否を仲 裁判断の仲裁地法上の効力にかからしめていることから、これと同様に、締 約国で承認・執行の対象となる仲裁判断については、仲裁判断の概念が各国 で共通していないことを所与の前提とし、仲裁地法上、仲裁判断の資格を有 するものを前提としているものと解されるが、上記見解と同様に、これに加 え、NY 条約の趣旨・目的に照らし、それと相容れないものは、仲裁地国で 仲裁判断としての効力を認められているものであっても、NY 条約の適用を 受けないものと解することが妥当ではなかろうか21)。
そして、NY 条約の趣旨・目的に照らして仲裁判断の概念を決する際、NY 条約が国際取引から生じた紛争を訴訟ではなく訴訟に代替する仲裁により解 決する当事者の合意に基づき仲裁廷が終局的に判断した仲裁判断の執行力を 国際的に保障することを目的としていることから、NY 条約が訴訟の対象と なる具体的な権利義務関係の争いの解決を当事者から委ねられた第三者であ る仲裁廷がその争いについて終局的に判断したものを適用対象としているこ とに異論はないものと考えらえる22)。また、NY 条約5条 1 項(b)の規定か らも明らかなように、仲裁判断は、当事者に対し公正な第三者による手続保 障が確保された手続に基づくものでなければならない。
以上の考察を踏まえ、以下では、仲裁判断の種類に応じて各仲裁判断の仲 裁判断適格性について見ていくこととする。
21) Kröll, supra note 15, at 448 は、NY 条約の自律的解釈および仲裁地国における 判断の性質が考慮されることになるという。
22) See Gary B. Born, International Commercial Arbitration (Kluwer Law International 2nd ed. 2014) [hereinafter Born, Arbitration] 2926: Paulsson, NYC 115.
4.個別的検討
(1)一部仲裁判断
仲裁廷は当事者から付託された紛争の全部、すなわち、仲裁申立人の請求 の全部について終局的な判断をすることを任務とするが、このいわば全部仲 裁判断に対し、当事者が仲裁廷に付託した紛争の一部、すなわち、仲裁申立 人の請求の一部について仲裁廷が終局的に判断したものも仲裁判断適格性を 有すると考えてよいか。
上述したように、NY 条約が適用対象とする仲裁判断は、訴訟に代替する 仲裁により紛争を解決する当事者の合意に基づき、当事者から付託された紛 争を仲裁廷が終局的に解決するものであると解されるので、仲裁廷が当事者 から解決を委ねられた紛争の一部を他と切り離して先に終局的仲裁判断をす る場合も、かかる仲裁判断は、NY 条約の適用対象になると解すべきである と考える23)。また、訴訟との関係では、わが国の民事訴訟法 243 条 2 項が定 める全部判決に対する一部判決に相当し、たとえば、売買契約に関する仲裁 において、買主が契約違反を理由に契約を解除し、代金返還および損害賠償 を請求しているのに対し、仲裁廷が代金返還請求について先に仲裁判断をす る場合、実務上、一部仲裁判断(partial award)と呼ばれることがあるが24)、 仲裁判断適格性は、呼称や形式に関係なく、その内容、性質によって判断す べきである25)。
23) See ICCA Guide 17-18; Haas, NYC 424; Wolff, NYC Commentary 46; Jean- François Poudret and Sébastien Besson, Comparative Law of International Arbitration (Sweet & Maxwell 2nd ed. 2007) [hereinafter Poudret/Besson, Comparative Law] 819. UNCITRAL Guide UNCITRAL Secretariat Guide on the Convention on the Recognition and Enforcement of Foreign Arbitral Awards(New York,1958), available at http://www.uncitral.org/pdf/english/
texts/arbitration/NY-conv/2016_Guide_on_the_Convention.pdf (last visited 28 September 2018) [hereinafter UNCITRAL Guide] 12 によれば、NY 条約締約国 の裁判所も同様に解釈しているとされる。
24) See ICCA Guide 17-18.
25) See Wolff, NYC Commentary 35; Gaillard/Savage, Arbitration 737; Born,
判例も、同じ見解に立っている26)。たとえば、ドイツの判例として、テュー リンゲン高等裁判所は、本案の一部について判断する仲裁判断は、手続的争 点についての判断ではなく、NY 条約の適用対象となる旨を判示している27)。 また、コロンビア最高裁判所も、一部仲裁判断は、仲裁廷に付託された紛争 の全部について判断するものではなく、仲裁廷の任務は終了しないが、本案 の一部について終局的に判断をする限り、NY 条約の適用対象となる旨の判 断を示している28)。米国においても、ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所 は、仲裁に付託されたすべての請求について終局的に処理した仲裁判断でな くても、他のものと切り離して独立した一部の請求について終局的かつ明確 に処理した仲裁判断も NY 条約の適用対象となる旨の判断を示している29)。 また、仲裁廷は、当事者間に別段の合意がない限り、適当と認める方法に よって仲裁手続を進めることができると解され30)、適宜、一部仲裁判断をす ることができるものと考えられる31)。
この一部仲裁判断は、日本法上も、仲裁判断となるか。仲裁法 40 条 1 項 が定める「仲裁判断」は、仲裁手続を終了させるものでなければならないこ とから、当事者が複数の請求を申し立てしている場合においてその全部につ いて判断する全部仲裁判断を指しているが32)、一部について判断する一部仲 Arbitration 2923; Judith Gill, The Definition of Award Under the New York Convention, 2 No.1 Dispute Resolution International (2008) 114, 120-121.
26) UNCITRAL Guide 16.
27) OLG Thüringen, 8 August 2007, 4 Sch 03/06.
28) Colombia No. 8, Drummond Ltd. v. Instituto Nacional de Concesiones – INCO et al., Corte Suprema de Justicia, Civil Cassation Chamber, 19 December 2011 and 3 May 2012, Yearbook Commercial Arbitration 2012 - Volume XXXVII( Kluwer Law International 2012) 205.
29) Alcatel Space, S.A. v. Loral Space & Comm. Ltd., 2002 WL 1391819 (S.D.N.Y.
2002).
30) UNCITRAL 国際商事仲裁モデル法 19 条 2 項参照。
31) See Lew, Mistelis, et al., supra note 12, at 632, 633; Born, Arbitration 3016.
But see Poudret/Besson, Comparative Law 635; Nigel Blackaby, Constantine Partasides, et al., Redfern and Hunter on International Arbitration, 6th edition (Oxford University Press 2015) 521-522.
32) 近藤昌昭ほか『仲裁法コンメンタール』(商事法務、2003)221 頁、小島武司 =
裁判断を仲裁判断から排除しているとは解されない33)。したがって、仲裁地 が日本国内に所在する仲裁手続において仲裁廷によりなされた一部仲裁判断 は NY 条約の適用対象になると考える。
(2)中間的判断
仲裁廷が仲裁申立人の請求について判断する上で必要不可欠でその前提と なる当事者間の紛争について判断する仲裁判断は、仲裁判断適格性を有する か。仲裁廷が仲裁申立人の請求についての仲裁判断に先立ち審理手続の途中 で前提問題に関する判断を示す仲裁判断には、仲裁権限の有無に関する仲裁 判断のほか、審理を損害論と責任論を分け先に責任の有無だけを仲裁廷が判 断する仲裁判断や本案の判断基準となる準拠法の決定など実体に係わる仲裁 判断があるが、これらが NY 条約の適用対象となるか否かが問題となる。こ れは、訴訟との関係では、わが国の民事訴訟法 245 条が定める中間判決に相 当するものである。
すなわち、わが国の民事訴訟法上、審理を段階づけ整序することを目的と して、訴訟要件の存否、訴えの取下げの効力等、本案判決の内容に影響をも つ実体法上の問題に関しない訴訟手続に関する争い、いわゆる中間の争いに ついての判決、訴訟物たる権利の内容であるその存否とその数額との双方に 争いがある場合において審理を 2 段階に区切って先に権利の存否について審 理するときの権利の存否についての判決、いわゆる原因判決、独立した攻撃 防御の方法についての判決の3つの中間判決が定められている34)。本稿では、
本案の仲裁判断の前提問題についての仲裁判断を便宜上、「中間的判断」と 呼ぶこととする。
中間的判断については、一般的に、本案についての判断に必要不可欠でそ の前提問題に関する紛争であっても、これによって、当事者が本案について 猪股孝史『仲裁法』(日本評論社、2014)392 頁、小島武司 = 高桑昭編『注釈と論 点 仲裁法』228 頁〔猪股孝史〕(青林書院、2007)参照。
33) 拙著『仲裁法の論点』(成文堂、2017)36 頁参照。
34) 兼子一ほか『条解 民事訴訟法〔第 2 版〕』(弘文堂、2011)1326-1329 頁〔竹下守夫〕。
紛争の解決に至ることもあり35)、当事者が仲裁廷に付託した紛争を仲裁廷が 終局的に判断するものである限り、仲裁判断適格性を肯定する見解が示され ている36)。
まず、仲裁廷による仲裁権限の有無についての仲裁判断については、NY 条約の適用を否定する見解と肯定する見解とがある37)。前者は、かかる判断 は本案についての仲裁判断をするための前提となる判断に過ぎず、本案に ついての仲裁判断と別個に承認・執行の対象とはならないことを根拠とす る38)。これに対し後者は、仲裁廷が紛争の一面であっても、それを終局的に 判断する限り、仲裁判断として認めるべきであるから、このような限定的な 解釈は妥当ではないという見解もある39)。
判例の立場はどうか。コロンビア最高裁判所は、NY 条約は 1 条 1 項にお いて、仲裁判断は当事者間の紛争から生じたものでなければならないと定め ているので、本案についての判断ではない単に仲裁権限に関する判断は NY 条約の適用を受ける仲裁判断ではないとの判断を示しているが40)、NY 条約の 適用対象となる立場を示す判例もある。たとえば、ドイツのハンブルク高等 裁判所は、仲裁権限を肯定する判断とともにそれまでに要した仲裁費用の負 担割合に関する判断を示した仲裁判断は、仲裁廷による終局的かつ当事者を 35) Di Pietro, supra note 14, at 153.
36) See Wolff, NYC Commentary 34, 363; Domenico Di Pietro and Martin Platte, Enforcement of International Arbitration Awards The New York Convention of 1958, Cameron May 2001(hereinafter Pietro/Platte, NYC Commentary) 31- 32; ICCA Guide 18. Haas, NYC 419 は、「仲裁判断」の用語を解釈するに当たっ ては、NY 条約の目的ができる限り多くの仲裁判断を適用範囲に引き込むことで あることが考慮されなければならないという。
37) Born, Arbitration 2936. See Wolff, NYC Commentary 46; UNCITRAL Guide 15.
38) Gaillard/Savage, Arbitration 739.
39) Di Pietro, supra note 14, at 152. See Gaillard/Savage, Arbitration 739.
40) Colombia No. 3, Merck & Co., Merck Frosst Canada Inc., Frosst Laboratories Inc. v. Tecnoquímicas SA, Corte Suprema de Justicia, 26 January 1999 and 1 March 1999 in Albert Jan van den Berg (ed), Yearbook Commercial Arbitration 2001 - Volume XXVI (Kluwer Law International 2001) 755, 759-760. See UNCITRAL Guide 15.
拘束する判断であるから NY 条約に基づき執行し得る旨の判断を示し41)、ま た、オーストラリアのクイーンズランド州最高裁判所控訴裁判所部も、仲裁 権限を否定する判断とともにそれまでに要した仲裁費用の負担割合に関する 判断を示した仲裁判断の執行に関し、本案についての判断でないことが NY 条約の適用を受け得る仲裁判断であるか否かとは関係しない旨の判断を示し ている42)。
このように見解は分かれるが、仲裁権限の有無についての判断は、本案と 違い、当事者の仲裁合意により仲裁廷に付託された紛争ではないが、一般に 仲裁廷には自己の仲裁権限の有無について判断する権限、Competence/Com- petence が認められており43)、この権限の下、仲裁廷が当事者から付託された 紛争である本案の判断の前提としてそれに必要不可欠な問題を終局的に判断 するものであり44)、また、仲裁権限を肯定する判断は、本案についての仲裁 判断により示される場合、仲裁判断の一部を構成するものであるから、本案 とは切り離しそれとは別に判断が示される場合であっても、これ自体を仲裁 判断と観念することができるのではないかと考えられる45)。したがって、仲 裁廷が仲裁権限を否定する場合を含め、仲裁権限の有無に関する争いを仲裁 廷が終局的に判断している限り、かかる判断は仲裁判断適格性を有すると解
41) OLG Hamburg, 14 March 2006, 6 Sch 11/05. また、OLG Hamburg, 18 January 2007, III ZB 35/06 もこれと同様に、仲裁廷が仲裁権限を肯定する判断 とともにそれまでに要した仲裁費用の負担割合に関する判断を示した仲裁判断は、
同一の問題について仲裁廷が更に判断をするものではない仲裁廷による終局的な 判断であり、かかる仲裁判断の承認、執行を拒絶することは、当事者の救済を奪 うことになると判示している。
42) Australia No. 19, Austin John Montague v. Commonwealth Development Corporation, Supreme Court of Queensland, Court of Appeal Division, Appeal No. 8159 of 1999, DC No. 29 of 1999, 27 June 2000 in Albert Jan van den Berg (ed), Yearbook Commercial Arbitration 2001 - Volume XXVI(Kluwer Law International 2001) 744, 749.
43) See Blackaby, Partasides, et al., supra note 31, at 339-340.
44) See Wolff, NYC Commentary 364.
45) See Born, Arbitration 1100. See also Di Pietro, supra note 14, at 150;
Gaillard/Savage, Arbitration 739. また、拙著・前掲注(33)297 頁参照。
することができるのではなかろうか。
また、このことは、NY 条約が仲裁判断の承認・執行拒絶事由として、仲 裁合意が有効でないことを挙げていることからも是認し得ると考える(5 条 1 項(a))。すなわち、仲裁権限を肯定する仲裁判断は、仲裁権限を肯定する 判断を含む本案についての仲裁判断と同様に、NY 条約締約国において、仲 裁合意が有効でなく仲裁権限が否定されると判断される場合、その承認・執 行が拒絶されることになる(5 条 1 項(a))。これに対し、仲裁権限を否定 する仲裁判断については、この 5 条 1 項(a)は適用し得ず、承認・執行拒 絶事由が問題となる。5 条 1 項(c)は、「判断が、仲裁付託の条項に定めら れていない紛争若しくはその条項の範囲内にない紛争に関するものであるこ と」を承認・執行拒絶事由と定め、これは、仲裁廷が仲裁権限を有しないに もかかわらずそれを肯定した場合であるが、仲裁廷が仲裁権限を有するにも かかわらずそれを否定した場合も、この承認拒絶事由に当たると解する余地 がなくはなく46)、この規定を類推適用することが考えられる。
仲裁権限の有無に関する仲裁廷の判断が国内法上、仲裁判断となるのか否 かは、各国の仲裁法によって決せられることになる。わが国の仲裁法は、23 条 4 項において、仲裁廷が自己が仲裁権限を有する旨の判断を示す場合、仲 裁判断前の独立の決定または仲裁判断により、自己が仲裁権限を有しない旨 の判断を示す場合、仲裁手続の終了決定によることになるとそれぞれ定める。
46) See Stefan Kroll, Recourse against Negative Decisions on Jurisdiction,20(1) Arbitration International (2004) 68-69. 同論文が指摘するように、仲裁判断の取 消しの居面ではあるが、「国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する 条約(Convention on the Settlement of Investment Disputes between States and Nationals of Other States)」(昭和 42 年条約第 10 号)(以下「ICSID 条約」
という)に基づく仲裁において、仲裁廷が仲裁権限を否定する場合、仲裁判断に より判断を示すことになり(ICSID 仲裁規則 41 条 6 項)、仲裁廷が仲裁権限を否 定したときには、この 5 条 1 項(c)に対応する、仲裁廷が明らかに権限を踰越し た場合を仲裁判断の取消事由とする条約 52 条 1 項 b の規定によって取り消され得 ることになる。この点に関し、Christoph H. Schreuer, The ICSID Convention:
A Commentary (Cambridge University Press 2nd ed. 2009) 947-948 を参照。ま た、拙著・前掲注(33)300 頁をも参照。
仲裁廷が仲裁判断前の独立の決定、仲裁手続の終了決定を仲裁判断として判 断を示すことができるか否かという問題については、肯定説と否定説とがあ るが、NY 条約について述べたことと同様の理由により、肯定説が妥当であ ると考える47)。また、諸外国においても取扱いが異なるが48)、たとえば、シン ガポールでは、仲裁廷が自己の仲裁権限を肯定する場合も否定する場合も仲 裁廷は仲裁判断として判断を示すことになる49)。
したがって、私見によれば、仲裁地法上、仲裁権限の有無についての判断 が仲裁判断の資格を有しない場合は、NY 条約に基づく承認・執行の対象と ならないと解するが、そうではなく仲裁地法上、仲裁判断の資格を有する場 合には、かかる仲裁判断は NY 条約の適用対象となり、NY 条約の締約国に おいて NY 条約に基づき承認・執行されることになると考える。
次に、仲裁権限の有無に関する紛争ではなく、審理を損害論と責任論の 2 段階に分け先に責任の有無だけを仲裁廷が判断する仲裁判断や本案の判断基 準となる準拠法の決定など本案について判断する上でその前提となる当事者 間の紛争について判断する実体に係わる仲裁判断も、仲裁判断適格性を有す るか。
判例は、イタリア破棄院が、仲裁廷が権利の存否についての中間的判断と その数額についての仲裁判断の2つの仲裁判断をした事件において、NY 条 約に基づく仲裁判断の執行に関し、後者の仲裁判断は前者の仲裁判断とは別 個に判断されると判示したが、傍論として、前者の中間的判断も NY 条約の 適用対象となり、NY 条約に基づき執行し得るとの立場を示している50)。 47) 拙著・前掲注(33)295-300 頁参照。
48) See Born, Arbitration 1098-1104.
49) Michael Hwang, Lawrence Boo, et al., National Report for Singapore (2015) in Jan Paulsson and Lise Bosman (eds), ICCA International Handbook on Commercial Arbitration (Kluwer Law International 1984, Supplement No. 86, 2015) 33.
50) Italy No. 144, WTB - Walter Thosti Boswau Bauaktiengesellschaft v.
Costruire Coop. srl, Corte di Cassazione, 6426, 7 June 1995 in Albert Jan van den Berg (ed), Yearbook Commercial Arbitration 1997 - Volume XXII (Kluwer Law International 1997) 727, 732. ま た、Hyosung (America) Inc. v. Tranax Techologies Inc., No. C 10-0793 VRW, 2010 WL 1853764 (N.D. Cal. May 6,
これらの中間的判断についても、仲裁申立人の請求についての仲裁判断の 前提問題に関する判断ではあるが、この前提問題に関する紛争は仲裁合意の 対象であり、仲裁廷に付託された紛争であると解されるので、仲裁廷が仲裁 申立人の請求についての仲裁判断に先立ち別に判断する場合であっても、仲 裁判断適格性を肯定することになると考えられる51)。
また、この場合も、一部仲裁判断の場合と同様に、仲裁廷は、当事者間に 別段の合意がない限り、適宜、かかる仲裁判断をすることができると解され る52)。
これに対し、わが国の仲裁地法上、中間的判断は仲裁判断の資格を有する か。これを否定する見解が有力であるが53)、上記 NY 条約について述べたこ とは、基本的に仲裁法の解釈にも妥当し、中間的判断は仲裁法上も、仲裁判 断と解する余地があると考える54)。
(3)暫定的保全措置命令
仲裁廷による暫定的保全措置命令は、NY 条約の適用対象か。この問題に 関する支配的な見解は、仲裁廷の判断の形式に係わらず、暫定的保全措置を 命じる仲裁廷の判断は、仲裁廷が付託された紛争を終局的に判断するもので はなくあくまでも本案についての仲裁判断がなされるまでの間の暫定的なも のであることを理由に仲裁判断適格性を有しないとされる55)。
2010) においてカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所は、仲裁廷の 2 段階審 理による責任論に関する韓国仲裁判断に対し、NY 条約の適用の有無に関し当事 者間に争いがなかったが、理由を示さず NY 条約を適用している。
51) See Wolff, NYC Commentary 46; Di Pietro, supra note 14, at 150; ICCA Guide 18. See UNCITRAL Guide 12; Born, Arbitration 2937.
52) 拙著・前掲注(33)37 頁参照。
53) 小島 = 猪股・前掲注(32)390 頁、山本和彦 = 山田文『ADR 仲裁法〔第 2 版〕』
(日本評論社、2015)356 頁。
54) 拙著・前掲注(33)36-37 頁、295-300 頁参照。
55) Wolff, NYC Commentary 48; Di Pietro, supra note 14, at 155-156; ICCA Guide 18; Lew, Mistelis, et al., supra note 12, at 635; Poudret/Besson, Comparative Law 546.
これに対し、van den Berg は、仲裁廷が命じる暫定的保全措置の対象事項 は、NY 条約 1 条 1 項の当事者間の紛争に関するものであると解することが でき、また、暫定的性質を有する判断を執行することに障害はなく、暫定的 保全措置命令を NY 条約に基づき執行することは国際仲裁の効力を大いに高 めることに繋がるといい、暫定的保全措置命令は、仲裁地で仲裁判断の資格 を有する限り、NY 条約に基づき執行されるという56)。また、本案についての 判断を仲裁手続の形成(organization)に関する判断以外のすべての判断で あると解するならば、暫定的保全措置もまた、本案についての判断に当たり、
また、判断の終局性を本案について裁判所の審査に服さないことであると解 するならば、暫定的保全措置が限られた期間に対し発令されるという事実か ら NY 条約の適用を受ける仲裁判断から除外されることにはならず、NY 条 約は暫定的保全措置命令に適用があるとの見解もある57)。
判例は、オーストラリアのクイーンズランド州最高裁判所が、NY 条約 1 条が定める当事者間の「紛争(differences)」は、仲裁に付託された紛争を解 決しない暫定的(interlocutory)または手続上の(procedural)指示(direction)
または命令(order)というよりはむしろ、当事者によって付託された紛争 の対象事項をはっきりと言及しており、暫定的または手続上の指示または命 令は、当事者間の紛争の結果として直接になされたものではなく、NY 条約 1 条が定める当事者間の紛争「から生じた(arising out of)」という表現を非 常に広義に解したとしても、NY 条約の適用対象とはならないとし、仲裁廷 が仲裁判断をするまでの間、暫定的に当事者に命じた一定の事業活動の禁止 等を命じた判断は、当事者の権利義務関係を終局的に解決する判断ではなく、
暫定的であり、仲裁廷により爾後取り消され、停止され、変更され、あるい
56) Albert Jan van den Berg, The Application of the New York Convention by the Courts, in Albert Jan van den Berg (ed), Improving the Efficiency of Arbitration Agreements and Awards: 40 Years of Application of the New York Convention, ICCA Congress Series, Volume 9 (Kluwer Law International 1999) 25, 29.
57) Wolff, NYC Commentary 366. See Born, Arbitration 2515, 2934-2935.
は再審理され得るものであり、NY 条約の適用対象とはならない旨の判断を 示している58)。
このように見解は分かれるが、先述したとおり、NY 条約は、訴訟に代替 する仲裁により仲裁廷が当事者の具体的は権利義務関係の存否に関する紛争 について終局的に判断した仲裁判断の執行力を国際的に保障することを目 的として作成された条約である。そして、この NY 条約の目的に照らすと、
NY 条約は、2 条 1 項で、仲裁合意の対象となる紛争について本案訴訟の裁 判所の管轄権は排除される旨を明記していることからも、私人間の権利義務 または法律関係をめぐる紛争について裁判所が公権的な判断を下す手続であ る狭義の民事訴訟手続すなわち判決手続に代替する仲裁手続に基づく仲裁判 断の承認・執行を対象としており、権利の実現を図る強制執行の実効性を確 保するため実現されるべき請求権を保全するための暫定的保全措置である民 事保全手続に相当する仲裁手続に基づく判断は、当事者が保全請求権の存否 についての紛争の解決を仲裁廷に委ね、仲裁廷の判断に従うという合意に基 づき仲裁廷が終局的に判断するものであっても、実体法上の権利の存否を確 定する判断とは異なり、仲裁判断適格性を有しないと解するのが妥当ではな いかと考えられる59)。
これに対し、わが国では、旧法下において、仲裁廷は仲裁判断により暫定
58) Australia No. 11, Resort Condominiums International Inc. v. Ray Bolwell and Resort Condominiums, Pty. Ltd., Supreme Court of Queensland, 389, 29 October 1993 in Albert Jan van den Berg (ed), Yearbook Commercial Arbitration 1995 - Volume XX (Kluwer Law International 1995) 628, 636-637.
この判例に関しては、拙稿「暫定的保全措置を命じる仲裁人の権限(2)―契約 上の地位保全を中心としてー」JCA ジャーナル 45 巻 9 号(1998)30 頁、34-35 頁参照。
59) See Poudret/Besson, Comparative Law 546. また、わが国の学説として、野 村秀敏「仲裁廷による暫定・保全措置とニューヨーク条約(2・完)」専修法学論 集 125 号(2015)77 頁、103-104 頁は、NY 条約の趣旨・目的は、「国際商事仲裁 の促進、容易化」という非常に一般的なものではなく、「ジュネーヴ条約の若干の 要件の廃止による承認・執行の容易化」というものの方が重要であるとし、仲裁 廷による暫定・保全措置までをも NY 条約の適用対象とする拡大解釈は国際法上 採り得ない旨の見解を述べている。
的保全措置を命じることができ、この場合、時間的に限定された範囲内であ るが、その限りでは終局的な仲裁判断であり、執行判決を得ることができる との見解60)が示すように、保全請求権の存否についての紛争の解決を仲裁廷 に委ね、仲裁廷の判断に従うという合意に基づく仲裁廷による終局的な判断 は仲裁判断と解する余地があるようにも思われる。しかし、現行法下におい て、仲裁法は、24 条で、仲裁廷の特別の権限として暫定的保全措置を命じる 仲裁廷の権限を明文で定めるとともに、13 条 1 項で、民事上の紛争を仲裁合 意の対象とした上で、45 条 1 項で、仲裁判断は、確定判決と同一の効力を有 するとし、また、14 条 1 項で、仲裁合意の対象となる民事上の紛争について 訴えが提起されたときは、裁判所は、被告の申立てにより、訴えを却下しな ければならないと定めていることから、仲裁法は、訴訟における判決手続に 相当する権利の存否を確定する手続を仲裁手続とし、民事保全手続に相当す る手続については、24 条の暫定的保全措置に委ねているものと解するのが妥 当ではなかろうか61)。
(4)手続命令・指示
実務上、仲裁廷は、仲裁手続において、審理予定、文書提出、証人の出頭、
証拠許容性に関する手続命令・指示(procedural order and direction)を行 うが、この命令・指示は、当事者の請求について終局的に判断するものでは 60) 斎藤秀夫ほか『注解民事訴訟法(10)〔第 2 版〕』(第一法規、1996)501-502 頁
〔河野正憲〕、中野俊一郎「国際商事仲裁における実効性の確保―仲裁と保全処分 の関係、ならびに仲裁判断の『終局性』の概念についてー(2・完)」神戸法学雑 誌 38 巻 2 号(1988)458-461 頁。拙稿・前掲注(55)32-33 頁参照。
61) これに対し、野村・前掲注(59)110 頁は、「暫定・保全措置によって一時的な 規律の対象となった紛争も、当事者間の実体的な法律関係に関する紛争であ」り、
かかる意味において、「その紛争の性格は、終局的な本案の仲裁判断の対象である 紛争と異なら」ず、他方で、仲裁廷による暫定・保全措置を命じる「決定に対し ても執行力を認めることが好ましいということには、学説上次第に一致が見られ るようになってきていると言ってよい」と述べた上で、「そうであれば、仲裁法上、
仲裁判断の概念の拡大解釈は困難であるとしても、その承認・執行に関する規定
(仲裁 45 条・46 条)を類推して、仲裁廷の暫定・保全措置の執行を認めるべきで はあるまいか」という。
なく仲裁判断適格性を有し得ないと解される62)。判例はどうか。(3)で取り 上げたクイーンズランド州最高裁判所による判例は、暫定的に当事者に命じ た一定の事業活動の禁止等のほか、仲裁手続への証人の出頭等証拠方法に関 する措置等を命じた判断は、当事者の権利義務関係を終局的に解決する判断 ではないことを理由に NY 条約の適用対象とはなり得ないとの判断を示して いる63)。また、わが国の仲裁法上も同様に解される。
(5)和解に基づく仲裁判断
仲裁手続において当事者間で和解が成立した場合、仲裁廷がその内容に基 づき仲裁判断をすることがある。わが国の仲裁法は、38 条 1 項において「仲 裁廷は、仲裁手続の進行中において、仲裁手続に付された民事上の紛争につ 62) See Wolff, NYC Commentary 44; Born, Arbitration 2927. See Di Pietro,
supra note 14, at 155; ICCA Guide 18; Pietro/Platte, NYC Commentary 35.
63) 合弁関係が決裂した当事者間で納税記録の提出義務があるか否かが争われ、
仲裁廷が仲裁申立人によるその他の請求とは別に仲裁被申立人に対しかかる納 税に関する情報を仲裁申立人に提供することを命じる命令を出し、この命令が NY 条約の適用対象となるか否かが争われた Publicis Commc'n v. True North Commc'n, Inc., 206 F.3d 725 (7th Cir.2000) において、米国連邦第 7 巡回控訴裁 判所は、本件において文書の提出は単に手続的事項ではなく、仲裁申立人が仲裁 で求めているものであり、仲裁廷の命令はこの争いを終局的に解決したもので あるから、仲裁廷が仲裁判断ではなく命令という名で判断をしても、この命令 は NY 条約の適用対象となる仲裁判断である旨の判断を示している。この判断に ついて、Poudret/Besson, Comparative Law 643 は、この判例によれば、仲裁 廷による手続上の決定が終局的であるというだけで NY 条約の適用対象となる として妥当でないという見解を示す。また、判旨によれば、この事件において当 事者は仲裁廷に対し UNCITRAL 仲裁規則 26 条に基づく暫定的保全措置を申し 立てたようであるが、Poudret/Besson, Comparative Law 548 が指摘するよう に、この命令が手続上の決定である可能性は否定し得ないとしても、納税記録の 引渡し自体が仲裁申立てに係る請求の1つであるとするならば、本案についての 仲裁判断であることに変わりがなく、仲裁判断適格性を肯定する判断は妥当であ ると解される。この判例について、Lew, Mistelis, et al., supra note 12, at 631 は当事者の権利義務に影響を及ぼす実体的争点について終局的に判断をするもの はすべて仲裁判断となるとの見解を示す。See also Marc J. Goldstein, Publicis Communications and Publicis S.A. v. True North Communications, Court of Appeals for the Seventh Circuit - 14 March 2000, 18(4) ASA Bulletin(2000) 830.
いて当事者間で和解が成立し、かつ、当事者双方の申立てがあるときは、当 該和解における合意の内容とする決定をすることができる」と定めた上で、
同 2 項において、この決定は、仲裁判断としての効力を有するとし、UNCI- TRAL 国際商事仲裁モデル法 30 条と同様の規定を置いている。この和解に 基づく仲裁判断(consent award)は仲裁判断適格性を有するか。NY 条約の 作成のため 1958 年 5 月 20 日から 6 月 10 日までの期間、ニューヨークの国 際連合本部で開催された「国際商事仲裁会議(United Nations Conference on International Commercial Arbitration)」(以下「国際商事仲裁会議」という)
において、オーストリアが和解に基づく仲裁判断が NY 条約の適用対象とな ることを明記することを提案したが64)、これは採用されず、NY 条約は、和解 に基づく仲裁判断について規定を置いておらず、この問題について判断を示 した判例もない65)。和解そのものが NY 条約の適用対象とならないことは明 らかであるが66)、仲裁手続において当事者間で成立した和解に基づく仲裁判 断が NY 条約の適用対象となることを肯定するのが支配的な見解である67)。 上述したとおり、NY 条約の作成時において、和解に基づく仲裁判断が NY 条約の適用対象となることを明記する提案がされたことからも窺えるよ うに、実務上、仲裁手続において当事者間で成立した和解に基づき仲裁廷が 仲裁判断をすることが行われてきており、かかる仲裁判断についてもその執
64) U.N. Doc. E/CONF.26/L26. See U.N. Doc. E/2822, at 7, 10; U.N. Doc. E/
CONF.26/4. See also Wolff, NYC Commentary 51.
65) UNCITRAL Guide 17. もっとも、Clinique La Prairie, S.A. v. Ritz Carlton Hotel Co., LLC, No. 07 Civ. 4038 (PAC), 2009 WL 884671 (S.D.N.Y. March 27, 2009) は、スイスを仲裁地とする仲裁廷による当事者の和解に基づく仲裁判断が 終局的でかつ当事者を拘束するものであるとしてその確認の申立てを認めている。
66) See Haas, NYC 426.
67) Wolff, NYC Commentary 50; Di Pietro, supra note 14, at 156-160; Haas, NYC 426-427; UNCITRAL Guide 18; Edna Sussman, The New York Convention through a Mediation Prism, 15 Dispute Resolution Magazine (2009) 10, 12;
James T. Peter, Med-Arb in International Arbitration, 8 American Review of International Arbitration (1997) 83, 89; Winnie Jo-Mei Ma, Enforcing Mediated Settlement Agreements under the New York Convention: From Controversies to Creativities?, 7(1) Contemporary Asia Arbitration Journal (2014) 69, 75.
行力を国際的に保障することが国際取引の発展に寄与するという NY 条約の 目的と整合することになることから、和解に基づく仲裁判断も NY 条約の適 用対象となると解するのが妥当であると考える。したがって、仲裁地法上、
和解に基づく仲裁判断が仲裁廷が本案について判断をした仲裁判断と同じ効 力が認められている場合には、かかる仲裁判断は NY 条約締約国において NY 条約に基づき承認・執行されることになると解される。
仲裁手続中の和解ではなく、当事者が調停を試み、その結果、和解が成立 し、かかる和解に執行力を付与するため、当事者が調停人を仲裁人に選任し、
仲裁人が和解の内容を仲裁判断とする場合、かかる仲裁判断は NY 条約の適 用対象となるか。この問題に関し否定する見解と肯定する見解とがある68)。 前者は、仲裁廷に紛争を付託するには、仲裁人選任時に紛争が存在している ことが必要であり、仲裁人選任時に当事者間で和解が成立している場合には、
仲裁人に付託すべきものはなく、当事者による仲裁人の選任は無効であり、
仲裁廷は仲裁判断を行う権限を有しないという69)。これに対し、後者の肯定 説は、NY 条約 1 条 1 項は、NY 条約が当事者間の紛争から生じた仲裁判断 の承認・執行について適用すると定め、紛争が何時の時点で存在していなけ ればならないかについては明示しておらず、この文言を柔軟に解釈し調停に より解決された紛争から生じた仲裁判断も NY 条約の適用対象と解すること ができるという70)。
68) Sussman, supra note 67, at 12-13.
69) Christopher Newmark & Richard Hill, Can a Mediated Settlement Become an Enforceable Arbitration Award?, 16(1) Arbitration International (2000) 81, 83; Yaraslau Kryvoi & Dmitry Davydenko, Consent Awards in International Arbitration: From Settlement to Enforcement, 40 Brooklyn Journal of International Law (2015) 827, 863-867; Peter, supra note 67, at 89. See Ma, supra note 67, at 75; Brette L. Steele, Enforcing International Commercial Mediation Agreements As Arbitral Awards Under the New York Convention, 54 UCLA Law Review (2007) 1385, 1401-1403. この否定説に立つ論者は、当事 者が調停手続を開始する前に仲裁人を選任することにより NY 条約の適用を受け る仲裁判断となるという。この点に関し、たとえば、Newmark & Hill, supra, at 69 を参照。
70) Sussman, supra note 67, at 12-13; Abramson, Mining Mediation Rules
否定説は、紛争の存在を問題とするが、紛争の存在は、仲裁判断による和 解合意の終局的解決を求める当事者の意思に求めることができ、和解条件に 関し具体的な意見の対立がない場合であっても、当事者が紛争の蒸返しを未 然に防ぐため和解の内容に基づく仲裁判断を求めるときには、紛争性を肯定 することができると解されるのではないか71)。このように解するならば、仲 裁人選任前に当事者間で成立した和解の内容に基づく仲裁判断は、仲裁手続 中に成立した和解に基づく仲裁判断と同様に、仲裁判断適格性を有すると考 えられる72)。
for Representation Opportunities and Obstacles, 15 American Review of International Arbitration (2004) 103,108; Ellen E. Deason, Procedural Rules for Complimentary Systems of Litigation and Mediation-Worldwide, 80 Notre Dame Law Review (2005) 553, fn. 173.
71) 拙著・前掲注(33)41 頁参照。
72) UNCITRAL は、2018 年の第 51 会期において「調停による国際的和解合意に 関する国際連合条約案(draft of United Nations Convention on International Settlement Agreements Resulting from Mediation)を確定するとともに、2002 年 UNCITRAL 国際商事調停モデル法を改正する国際商事調停および調停によ る国際的和解合意に関する 2018 年 UNCITRAL モデル法(UNCITRAL Model Law on International Commercial Mediation and International Settlement Agreements Resulting from Mediation, 2018(amending the UNCITRAL Model Law on International Commercial Conciliation, 2002))を採択し、同条約案に ついては、2018 年の国連総会で採択され、シンガポール調停条約(Singapore Convention on Mediation)と呼ばれ、2019 年8月1日、シンガポール政府主催 の調印式で署名開放される予定となっている(See UNCITRAL Press releases, UNIS/L/264 16 July 2018, UN Commission on International Trade Law concludes 51st Session in New Yorkhttp://www.unis.unvienna.org/unis/en/
pressrels/2018/unisl264.html (last visited 28 September 2018)。同条約案およ び同モデル法によれば、仲裁判断として記録され執行し得る和解合意(settlement agreements that have been recorded and are enforceable as an arbitral award)は適用対象から外れており、仲裁人選任前に成立した和解に基づく仲裁 判断がこの和解合意に当たる場合には、同条約案および同モデル法の適用対象か ら外れることになる。仲裁判断として記録された和解合意が仲裁判断として執行 し得るか否かを、裁判上の和解と同様に(条約案 1 条 3 項(a)、モデル法 16 条 3 項(a))、仲裁地法により決するか、あるいは、執行地法により決するかは、議論 されたが、執行地国の裁判所の判断に委ねることとなったようである(U.N. Doc.
A/CN.9/929, para. 27; A/CN.9/934, para. 24)。仲裁地法による場合、調停手続 により成立した和解合意が、仲裁地法上、仲裁判断として記録され執行し得る、
すなわち、和解的仲裁判断の資格を有し得るときは、仲裁地国以外の執行地国で は、同条約、モデル法の適用はなく、NY 条約の適用の有無が問題となる。同条
また、わが国の仲裁法上も、これと同様に、紛争性は肯定され、調停によ る和解の内容を仲裁判断とすることができると解される73)。
(6)仲裁鑑定
仲裁に類似しているが、これと区別されるものとして仲裁鑑定(expert determination)がある。一般に、仲裁が具体的な権利義務関係の争いを解 決する制度であるのに対し、仲裁鑑定は、法律関係の前提となる事実を確定 する制度であり、仲裁人が法律関係の確定を任務とするのに対し、仲裁鑑定 人は事実の確定を任務とし、この点に両者の違いがある74)。仲裁鑑定の例と しては、事実を事実として確定する純然たる事実の存否の鑑定、物品の品質 等を評価する鑑定、事故と損害との因果関係の存否、加害者の過失の存否な ど事実が一定の法概念に該当するかどうかを確定する鑑定などが挙げられ る75)。
また、この仲裁鑑定と区別されるものとして、第三者による契約の補充
(filling of gaps in contracts)、契約の適応(adaptation of contracts)がある。
すなわち、前者が、当事者が契約締結時に情報不足等のため決定しなかった 契約条件について第三者にその確定を委ね、それに服する旨の合意に基づき 契約を補充するための手続であるのに対し、後者は、当事者が契約締結後の 事情変更に契約内容を適応させる任務を第三者に委ね、その判断に服する旨 約案、モデル法については、U.N.Doc. A/73/17, Report of the United Nations Commission on International Trade Law Fifty-first session, Annex Ⅰ , Ⅱを参 照。
73) 小島 = 猪股・前掲注(32)454 頁、山本 = 山田・前掲注(53)365 頁参照。もっ とも、ADR 和解の執行力を検討する文脈において、山本和彦「ADR 和解の執行 力について(下)」NBL868 号(2007)24-25 頁は、「和解が成立してから仲裁合 意を結び決定することは、仲裁法 38 条に言う『仲裁手続の進行中において』成立 した和解と言えるか、疑義が否めない。いずれにしろ、脱法行為としての側面が強」
いと指摘する。また、徳田和幸ほか「シンポジウム ADR 法の改正課題」仲裁と ADR9 号(2014)68 頁、87 頁〔濵田陽子報告〕も、「和解成立後に仲裁合意を得 ることは、制度が本来予定していない方法である」 という。
74) 拙著・前掲注(33)27 頁。
75) 拙著・前掲注(33)28 頁。
の合意に基づき契約を改訂するための手続である76)。
仲裁鑑定および第三者による契約の補充、適応の両者は、前者が確認的判 断をするのに対し、後者は形成的判断をし、この点において両者は性質が異 なることから、前者のみを仲裁鑑定と呼ぶ立場もあるが、両者は、仲裁とは 異なり、主に、専門的、技術的知識、経験を有する第三者が特定の争点につ いて限定的に争いを解決するという点とともに、仲裁合意と同様に、第三者 による裁定に当事者が服するという点において共通し、後者も広義の仲裁鑑 定と観念する国もある77)。以下では、第三者による契約の補充、適応も仲裁 鑑定と呼ぶこととする。
この仲裁鑑定による仲裁鑑定人の裁定は、仲裁判断適格性を有するのであ ろうか。仲裁鑑定が NY 条約上仲裁判断の資格を有するか否かを仲裁地法上 仲裁判断の資格を有するか否かを基準に判断すべきではなく、NY 条約の自 律的な解釈から仲裁鑑定が当事者の権利義務関係を確定するものであるか否 かを基準に判断すべきであるという見解78)がある一方、仲裁地法上仲裁判断 の資格が与えられているか否かを基準に判断すべきという見解79)もあり、こ の見解に立つ判例もある80)。既述したとおり、仲裁地法上、仲裁判断の資格 を有しないものは、NY 条約上も仲裁判断の資格を有しないと解されるが、
仲裁地法上、仲裁鑑定人の裁定が仲裁判断の資格を与えられている場合、
NY 条約上も仲裁判断の資格を有するか。
訴訟に代替する手続においてなされた仲裁判断のみが NY 条約の適用対象 となり、仲裁鑑定は、NY 条約による承認・執行の対象となる仲裁判断の資 76) 同上。
77) 同上。
78) Marcin Tustin, Enforcing an Expert Determination Award under the New York Convention, 28 New York International Law Review (2015) 25, 44-45.
79) Haas, NYC 426; Di Pietro, supra note 14, at 144-145.
80) フランス民法 1592 条に基づく第三者による株式譲渡価格の決定が NY 条約が 適用対象とする仲裁判断に含まれるか否かが争点となった Frydman v. Cosmair, Inc., 1995 WL 404841 (S.D.N.Y. July 6, 1995) において、ニューヨーク州南部地 区連邦地方裁判所は、この決定は、フランス法上契約上の効力しか有せず、NY 条約の適用対象となる仲裁ではない旨の判断を示している。
格を有さないという見解があるが81)、仲裁地法上、仲裁鑑定が訴訟に代替し ない場合であっても、仲裁判断の資格を有する場合、事実の確定に関する仲 裁鑑定については、手続保障が確保された手続によるものである限り、これ に NY 条約上も仲裁判断の資格を付与し、当事者の紛争を終局的に解決する ことが NY 条約の趣旨・目的に適合するのではないかと考えられる。また、
契約の補充、適応については、手続保障に加え、紛争性が問題となるが、こ の点については、(5)の和解に基づく仲裁判断について述べたことと同様に、
紛争性は否定されず、かかる仲裁鑑定も仲裁判断適格性を有すると解するの が妥当である。
また、わが国の仲裁法上も、基本的にこれと同様に考えることができ、ま た、わが国の民事訴訟法上、訴訟では訴えの利益を欠くことから訴訟の対象 とはなり得ない紛争であっても、仲裁は、訴訟と異なり、当事者の合意に基 づく私的裁判所による紛争解決手続であり、裁判所の仲裁手続への関与は補 完的かつ限定的であり、司法資源を投入する裁判所の負担は判決手続に比し て極めて小さいことから、裁判所の負担や相手方の利益を考慮しても、仲裁 の対象となり得ると解され、したがって、当事者の合意に基づき付託された 紛争を仲裁廷が終局的に解決するという仲裁制度の目的に照らすと、仲裁鑑 定による仲裁鑑定人の裁定は、仲裁判断の資格を有し得ると考える82)。
この問題に関連して、イタリア法上、非正式仲裁(arbitrato irrituale)は 正式仲裁(arbitrato rituale)と異なり、仲裁人の判断には契約上の効力しか 認められていないが、この非正式仲裁による判断が NY 条約上仲裁判断の資 格を有するか否かという問題がある。学説の多くはこれを否定するが、判例 は、イタリアの破棄院の判例に傍論ではあるがこれを肯定するものがある一 方で、これを否定するドイツ連邦最高裁判所の判例がある83)。
81) Pietro/Platte, NYC Commentary 51-52.
82) 拙著・前掲注(33)42-43 頁参照。
83) Di Pietro, supra note 14, at 145-148; Pietro/Platte, NYC Commentary 52- 56; UNCITRAL Guide 17-18. But see Born, Arbitration 2925. Germany No.
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