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加藤 重一・*富樫 宏由*中村 武弘*

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(1)

1987年台風12号による防波堤決壊状況と その原因究明及び今後の対策に関する研究

加藤 重一・*富樫 宏由*中村 武弘*

A Study on Factors of Breaks of Breakwaters   by Typhoon 8712 and Countermeasures

by

Juichi KATOH*, Hiroyoshi TOGASHI*and Takehiro NAKAMURA*

  Typhoon 8712 struck Nagasaki district on August 30−31,1987. Maximum instantaneous wind speeds were 55.6 m/s at Fukue,53.2 m/s at Hirado and 52.1 m/s at Izuhara. These set up new records respectively. A total amount of damages were 87.8 billion yen in Nagasaki district. It also renewed past record. About 1/3 in the total amound of damages was of the fac量lties of harbours and fishing ports. In Nagasaki district, there are 110 harbours and 286 fishing ports. The 46 harbours and 111 fishing ports were damaged by this typhoon. Moreover about 90%of the damage amount on facilities was of breakwaters.

  In this paper, factors of breaks of breakwaters by this typhoon will be圭nvestigated and counterme・

sures will be proposed.

1.まえがき

 1987年8月30日から31日にかけて,大型で強い台風 12号は,五島列島の西約70㎞を通過し,対馬列島の西 岸をかすめて,日本海に抜けた.長崎県にとっては進 路の東側に当たる最悪のコースであった.台風12号は 極めて強い風台風で,最大瞬間風速は福江で55,6m/s,

平戸で53.2m/s,厳原で52.1m/sに達し,従来の記録を 更新した.長崎県の被害総額は878億円(1987年9月30 日現在)に達し,台風被害としては,史上最高額を記 録した.なかでも港湾・漁港施設関係の被害額は被害 総額の約1/3に達し,またそのうちの約90%は,防波堤 の被害額である.

 本論文は,この様に甚大な被害を蒙った防波堤に関 して,破壊状態からいくつかの決壊パターンに分類し,

それぞれの決壊原因をつきとめ,その特性を明らかに すると同時に,今後における対策について論ずる.

2.港湾・漁港施設の被害概況1)

 長崎県下には,110の港湾があり,その内の42%にあ たる46港が被災した.港湾の位置及び被災港をFig.1 に示す.被災件数は175件で,その内訳を防波堤,岸壁,

護岸,道路,桟橋,船i揚場の6項目に分類し,Table 1 に示す.港湾の被災額は,約24億円であり,その内訳 も同じ項目に分類し,Table 1に示す.他方,漁港は 長崎県下に,286港があり,その内の39%にあたる111 港が被災した.漁港の位置および被災港をFig.1に示 す.被災件数:は248件,被災額は212億円であり,それ

らの内訳をTable 1に示す.

 以上より,港湾・漁港の被災港の割合はそれぞれ42%,

39%とほぼ等しいにもかかわらず,被害額は漁港の方 が港湾の8.8倍と圧倒的に大きいことがわかる.防波堤 以外の被害額は港湾・漁港ともに約14億円と同じであ ることからして,被害額の差は防波堤の被害額め差で あることもわかる.漁港の防波堤の被害額は198億円で,

港湾の防波堤の被害額を加えた208億円は港湾・漁港施 昭和63年9月30日受理

 *土木工学科(Department of Civil Engineering)

(2)

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(3)

Table l Numbers and amounts of damaged      facilities of harbours and fishing      ports in Nagasaki district

Harbour Fishing Port

number amount number amount Breakwater 33 1,006 91 19,842

Quaywall 10 52 16 337 Sea wall 123 1301 , 105 701

Road 2 14 14 219

Landing Pier 6 33 11 98

Boat lifting slope 1 7 11 50 Total 175 2,413 248 21,247

設の総被害額の88%にも達する.

(Unit二milliOn yen)

3.被災例

 ここでは,防波堤に甚大な被害を被った3漁港を取 り挙げその被害状況を説明する.

 (1)新長崎漁港2)

 最も被害の大きかった漁港である.沖合い600m,水 深20mの湾口に位置し,全長1,090mの南防波堤には,

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Fig.2 New Nagasaki fishing port     (aerial photo after disaster)

一十

Fig.3 Photo of damaged breakwater

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Fig。4 Cross section of damaged breakwater

中央屈曲部のセルラーコンクリート堤(30m)を挟ん で長さ20mのケーソンが西側に19函,東側に34函据え 付けられていた.その内の42函が滑動又は転倒した.

特に屈曲部の東側では水面に見えるのは僅かに7函で 他の23函は完全に水没している.他に突堤,岸壁等に も被害を受け,被害額は1,242百万円に上り,これだけ で全漁港の被害総額の59%に達している.被災状況を Fig.2,3に被災断面をFig.4に示す.

 ② 木津漁港

 湾口部の西防波堤は先端部2函がケーソン堤(L=

15m)で,残り4函はセルラーブロック堤(L=15m)

Fig.5 Kizu fishing port

    (aerial photo after disaster)

Fig.6 Photo of damaged breakwater

(4)

制響

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Fig.7 Cross section of damaged breakwater

であったが,その全延長90mが滑動又は転倒した.転 倒の内1函はケーソン堤,2函はセルラーブロック堤 である.湾奥部の東防波堤はブロック積堤であり,3 函(延長30m)の上部が転倒した.被災状況をFig.5,

6に,東防波堤の被災断面をFig.7に示す.

 (3)大宝漁港

 南防波堤中央部78mの区間が滑動,転倒し,決壊し た.被災箇所の先端側は5函のケーソン堤(L=12.5 m)で残りの区間(L=15.5m)はブロック乳堤であ

Fig.8 Daihou fishing port     (aerial photo after disaster)

Fig.9 Photo of damaged breakwater

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Fig.10 Cross section of damaged breakwater

る.堤前面は8tの異形ブロック(中空三角ブロック や六二ブロック)で被覆されていた.背面も異形ブロッ クで被覆されていた先端部の2函のケーソン堤は被災 していない.被災状況をFig.8,9に,ケーソン堤の断 面図をFig.10に示す.

4.決壊の状態について

 決壊の状態は多様でまたその直接原因も種々あるこ とがうかがえる.現地調査により列記しよう.

 (D 波力に対する強度不足による諸原因  a)堤体の滑動,転倒あるいはブロック等の逸散  堤本体の強度不足のため,滑動,転倒あるいは消波 ブロックの重量及び組合せが不十分で逸散した場合等 である.ここでは次のような原因が考えられる.

 ①設計波の見積りの過少  ②滑動係数の不足

 ③①の場合において,入射波状態が想定と違った   場合,たとえば重複波入射として設計したが実際   は砕波入射状態であったような場合

 ④消波ブロックの重量や積み方が妥当でない時  b)堤防構造論的見地よりみた弱点の存在  防波堤(堤防を含む,以下同じ)は概して異った構 成材料によって築堤されるわけで,波力に対して防波 堤は一体として働くことが前提となる.たとえば,単 に捨石上にケーソン等を設置するとか,ケーソン内の 詰め石が移動又は動揺する等である.これらの場合は 概して施工不良のうらみがある.

 ①捨石へのケーソン等の十分な根入れ

 ②捨石の個々の重量が十分であり,組合せの妥当   なこと

 ③適当な大きさとその構造(たとえばケーソン内   の区切りや適当な消波ブロックの施工等)

 ④コンクリート方塊積の場合,各方塊問の接合部   の密着性を大きくすること

(5)

 ⑤ケーソンの積み上げに対して施工十分なこと 等があげることが出来る.

 c)異常な入射波力による場合

 特殊な決壊状況を示す場合で,2度,3度の反射波 の重複によって不慮の巨大な波力を受けた場合や水深 が偏差により高くなった場合などが今回の調査にみら

れた.

 d)老朽化が弱点となった場合

 築堤後の修理補修の不備により堤体に老朽個所が あった場合.b)と同様な過程で決壊に至る.老朽の 状態の主なものとしては,平素の波浪による堤脚地盤 の洗掘,負圧による盛土の吸い出し,それによる防波 堤基礎等における空洞化,六二による洞穴の存在,防 波堤外部の欠損部分の存在や又,全体的に堤体がルー ズ化している場合等があげられよう.

 (2)二次元帯状構造物の特質による諸原因  e)施工の斉一性を保つことの困難なこと  一般に防波堤は法線方向に長い距離をもつ.した

がって,各セクションを標準断面と同一に施工するこ とが難かしく,その変化点が弱点となる場合がありが ちである.又,材質も法線方向に一様ということは種々 の見地より困難な場合がある.行政,工費の節約等は 現場にはつきものである.今回の災害もこの種の原因 による決壊が目立つ.

 f)海岸線の不規則性によること

 一般に海岸線は複雑でしたがって,屈曲した防波堤 設置が普通である.これは風浪の入射に時としては決 定的な外力を生起することになるからで,現場ではご く普通にみられる.海岸は開放性,閉塞性,屈曲型,

多島海鼠に分類され,風浪,海の流れなど防波堤への 外力に著しい影響を与えるものである.

 9)地盤の斉一性が乏しいこと

 地盤が局部的に沈下,洗掘等を生起し,これが弱点 となって,決壊に至らしめる場合も珍しくない.

 h)堤防の局所的な変化個所の存在によるもの  たとえば隅角部,足場(漁夫,漁船係留のため)等

の突出部が往々にして破壊されている場合をみる.

 i)二次的原因によるもの

 防波堤のある一部分又は消波ブロックのある個所等 が越波により欠損し,これらが弱点となって本体が決 壊する場合である.たとえば堤前壁の逆方向への倒壊,

連続的な決壊状況を示す場合はこの原因によるもので

ある.

 以上は防波堤の風浪による被害原因を分析したもの である.これはいわゆる天災的な決壊として修復され つつある.なぜなら防波堤築堤工事の制限下で妥当と

思われる設計波乱を想定して建設され,決壊は不可抗 力とみられるからである.しかしながら,応々にして,

不適当な外力状態(これをしも予算的に採算を考慮し て設計された準天災的な決壊とみることが出来るかも しれないが)の想定がその因となっている場合が皆無 ではないかもしれない.たとえば開放海域での外洋に 直接面した防波堤前面形状の不適当な場合や,行政事 情もあって,多様多種な消波ブロックの使用,これが ひいては,各種ブロック毎の特性の異なることが無視 された場合におこる直接原因の発生やさらに直感(と くに施工)のみによる諸設計等が挙げられる.災害の 最も重要な要素はこれらの点にあり,次に述べる通り

である.

5.風浪による防波堤決壊原因について

 何故に決壊したか.どのような外力を受けたかとい うことは,一応既存の波圧強度計算式で説明しうる.

これらの計算(設計)手法は,簡易化したモデルによっ たもので,実情は決してそう単純なものではない.例 えば,入射波が重複波か砕波かなど区別し得るもので はなく,一般に,沖の重複波(部分重複波)は,堤体 に入射する瞬前に何らかの局所的な要素(地形,水位,

堤体形状及び構造等)によって,砕波条件を満足し,

集中荷重として砕波点衝撃又はそれに近い巨大な波圧 強度をうけるものと思われる.

 今回の被害はかなり大きい確率波浪によるものには 相違ないが,だからといって従来通りの設計手法を踏 襲し単に強度(安全度)を大とするのみでよいかどう か.もっと大きい波浪が来ないという保証がない限り,

この種の災害は後を絶たないであろう.この際,防波 堤の入射波に対する特性を考慮に入れ,今一度防波堤 建設計画設計指針に根本的考え方を新たに導入する必 要がないであろうか.

 (1)入射波のモデル化とその特性

 実際に防波堤に入射する台風時の波浪は,かなり複 雑で,一般に不規則波と称される.普通は数回反射し た重複波(=部分重複波)であり風により白波がたち,

水位の偏差も加わって,異常な状態となる.したがっ て揚圧力等も考慮に入れる必要がある.その基本的特 性を知るため,ここでは防波堤の法線方向に対して直 角に入射する有義波とし,防波堤標準断面の前面壁は 直線でかつ単一勾配と仮定する.

 a)部分重複波

 我々がみる波は一般に部分重複波であるといいうる.

普通は数度,種々な反射率をもつ波が重なった部分重 複波が基本となろう.そこで微小振幅波理論を用いて

(6)

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Fig.11 Loci of water molecular motion of partial clapotis(water surface)

10%反射,50%反射および80%反射の各場合の水分子 運動軌跡を再記する3)とFig.11のようである.

 ここで留意すべき点は,図からわかるように水分子 の閉曲(楕円)運動の軸が回転することで,時には多 極的(星形の閉曲運動)となることである.さらに水 分子速度は極付近でゆるく,極と極との間で大となる ことに注目すべきである.これは入射波が重複波で あっても,イナシャーにより普通の計算値よりかなり 大となる.又前面壁が垂直でなく,それに近い傾斜壁 でも砕波点衝撃を受ける場合のあることを示唆してい る.これは重要なことがらである.

 b)砕波点衝撃

 砕波は形状で崩れ波,巻き波そして砕け寄せ波と分 類されているが,これは十分合理的でないように思わ れる.このことはさておき,ここでの基本となる重要 な砕波は砕け寄せ波と称呼されるものであろう.20分 の1勾配以下のゆるい海浜に打ち寄せるような砕波の 特性を知る必要がある.詳細4)は省略するが,水深が岸 に向かって徐々に小さくなると,入射する波はその波 形をついに保ち得ず砕ける.そのところの波形は,理 論上の特異点で実際では複雑な波形となる.それを概 念的に砕波点と呼んでいる.この砕波点が丁度防波堤 等の前面壁上に生起した場合は想像に余る衝撃圧が加 わるのである.これを砕波点衝撃と呼ぶことにする.

防波堤等の決壊はこの衝撃圧が最たるものとなるわけ である.

 c)防波堤等にあたる波

 防波堤に入射する波の状態は複雑であるが,モデル

化して考えるとこれを規制する条件は主として次の諸 要素によっておおよその入射状態が決まることに特に 注目したい.

 自然条件

  1 入射波の規模(波形勾配 Steepness, H/L)

   の大きさ

  II 岸または構造物基部の水深  人工的な要素

  III岸または構造物の前面形状(主として前面勾    配)

  IV 曲線施工の有無

 種々な岸または前面形状の構造物に入射する波の状 態を説明するために,その基本的な形状を主に単一勾 配の傾斜面より3つに分けて説明しよう.

 1)直立形状  2)緩勾配形状  3)その他

 1)直立堤に入射する波の状態

 すでに知れるように,垂直的な壁面に入射する波の 状態は,(a)重複波で入射する場合,(b)砕波で入射する 場合の二様がある.

 (a)の場合は,入射波の規模が水深に比して小なる場 合か,その基部の水深が入射波の規模に比して大なる 場合の何れかで,ともに入射波は重複波として壁面に 反射する.この場合の反射率は,実際は80%以下とみ なしてよいであろう.後述のようにその時の波力は砕 波入射の場合に比して小さく,この場合は実際上はあ

まり重要ではない.

(7)

 しかるに,(b)の砕波入射の場合は,前者(a)とは全く 異なった状態を示す.すなわち,砕波入射と一口にいっ ても,前述の砕け寄せ波にみるように砕波には砕波点

(B.P.),砕波高の最大となる点(M. P.)および巻き 込んで一挙にエネルギーを放出する落下点(D.P.)な

どの著しい状態が生起するわけで,砕波入射はこれら の特徴的な状態の何れの個所で壁面に入射(衝突)す るかを知る必要がある.なぜならば,これらの著しく 異なった状態の波力は互いに全く異なるからであり,

一概に砕波入射として片付けるわけにはいかないので ある.この点が実際,計画設計に際してあまり指摘さ れていないうらみがないでもない.これは,災害に直 結する事柄で,波浪構造物全般のポイントといって過 言ではない.

 砕波点衝撃は堤防構造論中取も重要な事柄で,丁度 砕波点が瞬間的に壁面に発生する場合の入射状態をい

う.一見これは直前まで重複波であるので,重複波入 射と錯覚しやすく,かつ見積りも困難である.つまり 入射波と水深との関係から,極めて微妙に重複波より 砕波に急に変化するわけである.しかもこの砕波点衝 撃が他のどの入射状態の場合より波力は強烈で,それ は意外なほどである.入射波の規模が大きくなれば極 めて危険な状態となることが首肯しうる.この状態を 説明するに,波が壁面に入射する時にB.P.が生ずる とはその瞬間に空気の層が閉じ込められ,これが圧縮 されて爆発的に強い力が壁面にかかるといわれている.

これをBagnold効果といっている.

 つぎに入射前に砕波点が生じ,砕け寄せる場合につ いては,B. P.を除いた後の砕波状態で壁面にあたる場 合である.この場合はM.P.で壁面に入射する時が最

も波力が大きく,他の各点で入射する場合はそれ以下 であることはいうまでもない.この場合は,前者と比 して同一状態の入射波の波力は比較にならないほど小

さい.

 要するに,直立堤に入射する場合は砕波点衝撃を マークすることが,最も大切なのである.

 また直立堤に曲線を挿入した場合について述べよう.

折線堤防断面では極めて派手に波を打ち上げるが,曲 線施工の場合は曲線に沿って這い上がるのみで,衝撃 圧は生じないことが確められている.このように,曲 線施工は防波に対して有効であるが,その曲線の度(曲 率)と入射波の不規則性から常にスムーズに入射する 場合のみとは限らないことに注意すべきである.その 好例を航行する船舶先端の打ち上げにおいてもみるこ

とができる.

 2)緩勾配堤,その他類似の壁面に入射する場合

 この場合の入射状況は,前面直立壁入射の場合とは 全く異なる.この場合は堤脚部(基部)の入射状態が 重複波であっても砕波であっても,傾斜断面への入射 状態は画一的に規制される.つまり,傾斜壁面上のど こかの点で入射波高と水深の関係から必ず砕波点が生 じ,その短区間で最高点をマークし,そらにその近傍 で巻き込んで落下する.のち,残存勢力は傾斜壁に沿っ て流れとなって遡上し,その後,流れは沖方に引き返 してつぎの波に重複することを繰り返す.つまり傾斜 上の水深は一様に変化しているので,砕波指標からも わかるように斜面のある個所(入射波高とほぼ等しい 水深のところ)で,必ず砕波点が生ずるわけである.

堤脚以前に砕波である場合も砕波点以後の状態は傾斜 面でも同様である.つまり傾斜壁では砕波点衝撃は発 生しないという防災上の利点をもっているということ ができる.

 3)その他の場合

 上記の2つの基本型以外の壁面形態は無数にあり,

それらはすべていま述べた2つの防波堤基本型の変形 を示すものに過ぎない.実用的な一例として大階段を もつ堤防は,堤脚部で砕波点B,P.を人工的に発生せ しめ,減上を最高点M.P.が移行する(この間でエネ ルギーを減殺させる)ようにその長さを決定し,のち 立ち上がり壁面直前で落下点D.P.が生ずるよう設計

した堤防断面形状である.入射波力を減殺するに合理 的な堤防断面ということができよう.

 (2)合理的な防波堤等の標準断面形状について  傾斜壁では,その基部の水深を基準としてその断面

に対し,入射する波が重複波であっても,砕波であっ ても,その傾斜面上では砕波点,最高点および落下点 が順次短い距離(時間)の間で明確に生起して,入射 波エネルギーを瞬時にではなくて,ある時間内に消耗 させるに役立つ.これは,前述基本とした砕け寄せ波 におけるB.P., M. P.およびD. P.の生ずる距離が傾 斜の大きい程短くなることを意味する.逆に傾斜度が 緩なる程,B. P., M. P,およびD. P.の距離が長くなっ て入射波エネルギー消耗を徐々に放出消耗されること になって波圧強度に対して有利となる.

 一方垂直壁をもつということは,この壁面上に砕波 以前の重複波,砕波点,最高点および落下点,その後 の遡上域等のいずれかの現象が個々に単独に生起する

ことを意味し,もしその壁面(垂直面)上に丁度砕波 点が生起した場合は,Bagnold効果を伴った爆発的衝 撃荷重がかかることになるわけである.つまり垂直壁 では砕波点衝撃の起こる可能性が存するわけである.

要するに傾斜面では砕波点衝撃は生起しないが,垂直

(8)

面では生起する可能性を持っているわけである。

 これが防波堤設計の基本であるが,実際では前述の ように,数度の反射,つまり反射波の繰り返しが不規 則に現出し,たとえ重複波入射と想定しても,実情は,

大低の場合沖波の規模での砕波入射となるものとして よい.つまり設計重複波の砕波限界をマークする必要 があるというわけである.ゆえに,重要港湾の防波堤 にあっては,外洋に直接面する防波堤が垂直壁をもつ ことは,大いに疑問視されるゆえんなのである.原点 にかえって設計する,入射波特性を考慮するというこ とはこのことである.傾斜堤は工費がかさむことは当 然である.そのことだけの理由で,もし設計の基準が 決められているならば,重大事である.そのような防 波堤建設は技術的ないしは科学的でないといえよう.

6.今後の課題

 防波堤は傾斜堤が基準でなければならないことを,

これまでの考察で理解しえた.そこで,どの程度の傾 斜が妥当であるかが問題となる.つまり,傾斜度と,

B.P.〜D. P.の距離との関係を知る必要がある.これ については全くこれまでに研究がなされていない.傾 斜度(防波堤前面壁と海底面との角度θ)が小さい程,

入射波強度に対しては有利であるが,施工,工費に対 しては困難となる.この辺の事情を総合的に考慮した 水理実験の結果が待たれるわけである.次号はそれに

ついて報告しよう.

        謝     辞

 被災調査を行うに際し,長崎県水産部漁港計画課,

土木部港湾課,五島支庁建設部,有川土木事務所,長 崎土木事務所河港課,諌早土木事務所河港課,県北振 興局建設部河港課,有川町役場建設課,新魚目町役場 建設課,小浜町役場建設課の方々には,災害査定の多 忙な時期にもかかわらず調査に御協力を頂き,心より 感謝申し上げます.

        参 考 文 献

1)加藤重一・富樫宏由・中村武弘:港湾・漁港施設 の災害,1987年九州西北部における台風12号による 強風災害の調査研究,文部省科学研究費重点領域〔自 然災害〕研究成果(研究代表者 元田雄四郎),PP.

73〜118, 1988.

2)中村武弘・富樫宏由・松尾貞巳・平山康志:台風 12号による新長崎漁港の被害概況,自然災害科学研 究西部地区部会報,第5号,PP.59〜65,1988.

3)加藤重一・白石英彦:部分重複波について,農業 土木研究,26巻6号,PP.22〜25.1959.

4)加藤重一:水産土木概論,恒星社厚生閣,PP.182

〜187, 1984

Table l Numbers and amounts of damaged      facilities of harbours and fishing      ports in Nagasaki district

参照

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