• 検索結果がありません。

藤 村 和 宏

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "藤 村 和 宏"

Copied!
30
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

香 川 大 学 経 済 論 叢

75巻 第 1 20026 111‑140

レストラン・サービスにおける スクリプトの共有が

顧客満足に及ぼす影響に関する実証分析

藤 村 和 宏

は じ め に

サ ー ビ ス 消 費 に お い て は , 顧 客 も サ ー ビ ス ・ デ リ バ リ ー ・ プ ロ セ ス に 参 加 し,彼らに期待されている役割を果たしながら,従業員と協働を行ったり,他 の顧客と相圧作用を展開したり,さらには機器や設備を操作したりすることが 必要とされる。そして,顧客の参加の仕方やその程度が彼らが享受するサービ ス品質の決定において重要な役割を果たし,結果として彼ら自身のサービス消 費に対する満足/不満足形成にも重大な影響を及ぼす。

このために,顧客もサービス・デリバリー・プロセスに積極的且つ適切に参 加できるような仕組みが必要とされるが,そのひとつがスクリプトの共有であ る。スクリプトとは, l3 々の反復的な出来事における相互作用を容易にする-~

般的知識であり (Smithand Houston,  1983, p. 60),  出来事に関連する標準的行 動,性質,対象から構成されるものである (Abboott and  Black,  1980, p. 5) このような定義から,スクリプトは,サービス消費においても,顧客がデリバ リー・プロセスに参加し,協働するための台本として機能することが考えられ る。そして,顧客とサービス組織の従業員が適切なスクリプトを学習・共有す ることで,両者ともサービス・デリバリー・プロセスに積極的且つ適切に参加

し,効果的且つ効率的に協働を行うことが可能になる。

また,スクリプトには,因果的・時間的順序において関連している一連の諸 行動が含まれていることから,評価基準の提供や予測性の向Lといった機能も

(2)

備えている (Smithand Houston,  1983)。評価悲準の提供とは,人は彼が保有す る基準との比較においてしか刺激を評価できないために(Helson, 1964),  顧客 が消費したサービスに対する満足/不満足形成を行う際にも基準を必要とする が , こ の 基 準 の 憎l辺を提供するということである。サービス品質は提供された もの(結果品質)とその提供のされ方(過程品質)に関わるものから構成される が,スクリプトが提供する悲準は後者のデリバリー・プロセスでの経験に関わ るものである。すなわち,サービス・デリバリーで起こる出来事やその時間的 順序,そこでの従業員の行動,従業員や他の顧客との相圧作mに関わるもので

ある。そして,顧客の保有するスクリプトとサービス・デリバリー・プロセス での経験との—•致度が高い場合には,過程品質に関わる満足は向上し, ー^致度 が低い場合には,不満足が形成される。

また,予測性の向卜^機能も重要である。スクリプトを学習することで,将来 においてどのようなことが起こるのかを予測でぎるようになるために,安心感 が牛み出される,あるいは不安感やイライラ感が低減される。たとえば,初め ての海外旅行の場合,国際線の航空機内やそれから降りた空港内でどのような 出来事がどのような順序で起こってくるのかが分からないために,不安感が常 に付き纏うかもしれない。しかし,海外旅行の経験が増えるにつれて,それら が予測できるようになり,不安感は無くなっていく。また,車を運転していて 渋滞につかまったが,渋滞の先頭があまりにも遠かったり,あるいはすぐ直前 に大刑トラックが止まっていたりして,なぜ渋滞が生じ,それがどこまで続い ているのかを把握できない場合, ドライバーのイライラ感は非常に高いものに なる。しかし,同じように渋滞につかまったとしても,視謡的に見通しが良かっ たり,あるいは渋滞に関する情報が提供されていたりして,渋沸の原因とその 長さを把握できる場合には,時間的に先のことが予測でき,それに対する対応 を検討できるために,前者の場合に比べてイライラ感は低減するであろう。こ のように予測性は人間の感情(情動)に軍大な影臀を及ぼすために,顧客がサー ビス・デリバリー・プロセスに関わる適切なスクリプトを学習することは, 予 測性の向上を通じて,サービス消費経験中の顧客の感情にポジティブな影響を

(3)

113 

レ ス ト ラ ン ・ サ ー ビ ス に お け る ス ク リ プ ト の 共 有 が 顧 客 満 足 に 及 ぽ す 影 響 に 関 す る 実 証 分 析

及ぼすことが衿えられる。

‑113‑

さらに,このf測性の向上は顧客の知貨コントロールを翡めることでも,顧 客満足にポジティブな影響を及ぽすことが考えられる。知鎚コントロールとは サービス・エンカウンター中に顧客および従業員が知覚する状況に対するコン トロール水準であり (Bateson, 1985,  1991),  顧客だけでなく従菓員も,彼自 身がデリバリー・プロセスをコントロールしていると知覚するほど,それぞれ の満足は向上するとされている。このようなことが生じるのは,人間は環境に 対してコントロール欲求を持っており,コントロールしていると知覚するほど ポジティブな感情を抱く傾向があるためである。このようなことが生じるとす れば,サービス・デリバリー・プロセスが顧客が保有しているスクリプトと一 致するかたちで展開される場合,現実に顧客がプロセスをコントロールしてい るかどうかにかかわりなく,顧客はプロセスをコントロールしていると知覚

し,彼の満足形成にポジティブな影響が及ぶことが考えられる。

以上のように,スクリプトには協働の台本機能,評価基準の提供機能,予測 性の向上機能があるために,サービス組織によって適切なスクリプトが構築さ れ,それがサービス・デリバリーに参加・協働する従業員および顧客に情報と して提示され,両者の間で共有されることで,デリバリー・プロセスは効果的 且つ効率的に展開されるだけでなく,各参加者の満足にポジティブな影響が及 ぶことが期待される。医療サービスの分野で利用が進展しているクリテイカル パスは明ホ的スクリプトとして機能すると考えられるが,このクリテイカルパ スの導人が患者満足に及ぽす効果を実証的に考察をした研究(藤村, 2001) は,クリテイカルパスは前述のような 3つの機能を備えており,それらは患者 満足の構造に対して影響を及ぼすことが推測されている。

そこで本稿では,レストラン・サービスにおける顧客と従業員の間でのスク リプト共有が顧客満足に及ぼす影響について実証的に考察を行いたい。

(1)  こ の 研 究 は , 平 成 11年 度 〜 平 成 12年 度 科 学 研 究 費 補 助 金 ( 基 盤 研 究 (C) (2):J 題 番 号 11630110) を受けて行った成果の一部である。

(4)

II  . サ ー ビ ス ・ デ リ バ リ ー ・ プ ロ セ ス に 関 わ る ス ク リ プ ト の 共 有

(1)  スクリプトの共有を促す要因としてのデリバリー・プロセスの標準化 スクリプトの共有を促す大きな要因として,サービス・デリバリー・プロセ スの標準化がある。マクドナルドを代表とするファーストフード・レストラン では,この標準化が採用されている場合が多く,それによってデリバリー・プ ロセスヘの参加者(従業員および顧客)間でのスクリプトの共有が促されている。

あるサービス組織のサービスを初めて利用する場合には,そのデリバリー・

プロセスが標準化されているかどうかにかかわりなく,顧客はそのデリバリ ー・プロセスの展開の仕方やそこでの従業員や彼自身に期待される行動を予測 できないために,そのプロセスが終「するまで不安感を抱き続けるかもしれな い。さらに,顧客は適切に参加し,従業員との間で効果的且つ効率的にサービ ス・エンカウンターを展開できないために,デリバリーに時間がかかったり,

それが中断してしまったり,あるいはその他のさまざまな問題を引き起こす可 能性も高いであろう。当然,そのサービスが属するサービス・カテゴリーにお ける他のサービス組織の利用経験に基づいて,従業員,デリバリー施設内の雰 囲気,および設備・機器などを手掛かりとして,そこで用いられるであろうス クリプトは類推できるであろうが,それが実際のデリバリー・プロセスとどの 程度―•致しているのかについては,プロセスが終「するまで評価できないであ

ろう。

しかし,デリバリー・プロセスが標準化されている場合には,同じサービス 施設を反復的に利用することで,あるいはそれが多店舗化ないしはフランチャ イズ化されているとすれば,その標準化したデリバリー・プロセスヘの参加経 験が増大することで,そのサービス・デリバリー・プロセスでの従業員の役割 だけでなく,その役割を果たすための具1本的な行動や会話の内容までが理解で きるようになる。さらに顧客は,彼自身が果たすべき役割も理解できるように なるために,サービス・デリバリー・プロセスに積極的且つ適切に参加し,他

(5)

115 

レストラン・サービスにおけるスクリプトの共有が

顧客満足に及ぼす影響に関する実証分析 ‑JJ5‑

の参加者と効果的且つ効率的に協働を行うことが可能になる。このことはま た,デリバリー・プロセスに関する顧客の予測性を高めることで安心感を生み 出すし,デリバリー・プロセスに関して形成される期待を適切なものにするこ とで,期待と現実(実際のデリバリー・プロセス)の呑文度を高めることにな る。そして,これらのことは顧客満足にポジティブに作用することから,標準 化はサービス組織における璽要な戦略の一つであると考えられる。

しかし,このような標準化にはさまざまな問題も伴うであろう。顧客満足に ネガティブな影饗を及ぽすであろう問題に限っても,重大なものとして 3つの ものを挙げることができる。その第 1の問題は,官僚制の問題として指摘され ることであるが,従業員も顧客も,名前のない,顔のない人間としてデリバリ ー・プロセスに参加するということである。従業員は高度に専門分化した同種 の作業を繰り返し行い,そこでは最小限の技術的能力しか必要とされないため に,いつでも交換可能な存在でしかない。従業員は機械を構成する部品の一つ と同じであり,創造性を働かせることや,状況に柔軟に対応することを認めら れていない。そのため,標準化されたデリバリー・プロセスから乖離した出来 事が発牛した場合には,機能不全に陥り,デリバリー・プロセスの遅延あるい は中断を導くだけでなく,そこから発生する問題に柔軟に対処してもらえない 顧客を不満にすることになる。

また,サービス・デリバリー・プロセスにおける顧客と従業員の人的接触は 標準化され,最小限度必要なものに限定されているために,真鋏な感情(情動)

が交換されることはなく,顧客と従業員の間に感情的な繋がりは形成され難 い。さらに,平均的な(交換可能な)従業員はパートタイムとして,数ヶ月しか そこで働かないために,従業員と顧客との間に人間関係も形成され難い。サー ビス消費には「顕名性(有名性)」という特質があり,サービス組織がこの特質 を巧みに活用することで,反復利用客が享受するサービス品質を高め,固定客 化を図ることが可能になる。しかし,標準化によって従業員と顧客との間に人 間関係が形成されない場合,反復利用客も常に新規顧客と同じ立場にあり,反 復利用は彼に何らの便益をもたらさないために,顧客とサービス組織の間に良

(6)

好で長期的な関係は形成され難いであろう。

2の間題は,安心感をもって利用できるサービスの提供は可能であるが,

大きな喜びや感動を経験できるようなサービスの提供はできないということで

ある。標準化はデリバリー・プロセスに関わる顧客の期待を実際のそれと—一致

するかたちで形成することになるが,このことはデリバリー・プロセスにおい て顧客がポジティブな 驚き ,すなわち予期していなかったポジティブな出 来事の生起を抑制するということにもなる。この結果として,顧客の満足度は,

デ リ バ リ ー ・ プ ロ セ ス の 展 開 が 期 待 と 一 致 し て い た と い う 点 で は 満 足 で あ る が,実際のデリバリー・プロセスが期待を大きく上[川ることによって形成され る,ポジティブな感情(情動)を伴った大きな満足であるということはほとんど 起こらないであろう。

3の問題は,顧客それぞれのニーズに対応できないという問題である。顧 客によりニーズや価値観が異なっており,経験価値が重視されるようになるに つ れ て , 顧 客 は 個 客 化 さ れ た デ リ バ リ ー ・ プ ロ セ ス や 結 果 を 期 待 す る よ う に なっているし,それらが顧客満足を高め,顧客を長期的に維持することにおい て重要な役割を果たすようになっている。さらに,標準化されたデリバリー・

システムでは,初めて利用する顧客もロイヤルティの高い顧客も同じように扱 われてしまい,サービスの特質である顕名性(有名性)を活用して,反復利用 客に対する過程品質,さらには結果品質を向上させていくことができないとい

うこともある。

このような問題の結果として,顧客は標準化のもたらす満足を享受しながら も,常により魅力のある(より高い満足を提供してくれそうな)代替的サービス を探求することになるであろう。顧客の消費したモノあるいはサービスに対す る 満 足 度 と 実 際 の 再 利 用 の 間 に は 弱 い 関 連 性 し か 見 出 さ れ て い な い が (Newman and Werbel,  1973; LaBarbera and Mazursky,  1983),  この原因の 1 っとして,標準化がもたらすこのような問題があるのではないかと考えられる。

標準化がもたらす利点と問題点を, Ritzer(1996)は 「 マ ク ド ナ ル ド 化Jとい

う概念を用いることで論じていることから,ここでは,彼の言説を参考にしな

(7)

117 

レストラン・サービスにおけるスクリプトの共有が

顧客満足に及ぼす影響に関する実証分析 ‑1]7‑

がら,標準化の利点と問題点についてもう少し検討してみたい。 Ritzer Max

Weberの合理性理論とファーストフード・レストランの成長に対する彼の関心 を 結 び つ け る こ と で , マ ク ド ナ ル ド 化 と い う 概 念 を 提 示 し て い る が , こ れ は

「ファーストフード・レストランの諸原理がアメリカ社会のみならず世界の

(2) 

国 々 の , ま す ま す 多 く の 部 門 で 優 勢 を 占 め る よ う に な る 過 程 」 を 意 味 し て い る。彼の基本的な問題意識は,マクドナルドはアメリカで生まれ,アメリカで 育ち,そしてアメリカ社会に効率性,予測可能 性,計算可能性,および技術体 系の進歩などの多くの利、点をもたらしたが, しかしその一方で,合理化過程が 非合理性をもたらしたという点にあり,個々の利点や問題点が詳細に論じられ ている。そして,彼は驚きをもって,アメリカ人の多くが, Weberの指摘した

「合理性の鉄の檻Jの現代版,すなわちマクドナルド化の社会現象やマクドナ ルド化していく生活を大いに気に入っていること,さらにはマクドナルド化を 希求さえしていることを,豊富な資料を提示しながら描いている。

Ritzerによると,マクドナルドが成功を収め,さらには社会がマクドナルド 化しているのは,消費者,従業員,および経営者に効率性,計算可能性,予測 可能性,そして制御を提供できたことによる。

効率性とは,消費者,従業員,および経営者にある点(状態)から別の点(状 態)に移動するための最適な方法を提供することであるとされている。たとえ ばマクドナルドは,消費者に対しては空腹から満腹へ移動するために利用でき る最適な方法を提供しており,従業員および経営者(店長)に対しては多くの消 費者のニーズをより速くより簡単に満たすための効率的な方法(組織の規則や 規定など)を提供している。そして,マクドナルド化した社会では,人々は自 分のH的を達成するための最適の手段を自分で探しだすことは稀であり,多く の場合,「さまざまな社会状況においてすでに発見され制度化された最適手段 を利用する」ことになると指摘している。なお,効率性の増大には,「多様な

(2)  Ritzer,  G. (1996),  The McDonaldization of Society,  Revised Edition,  Pine Forge Press.  正岡寛ri]監訳,『マクドナルド化する社会』,早稲田大学出版部, 1999 17‑18 (3)  Ritzer,  前掲邦訳書, 71貞

(8)

過程を簡素化すること,製品を単純化すること,そして従業員よりも先に客を 働かせるべきという課題の解決」が必要であるとされている。

計算可能性とは,過程(たとえば,消費あるいは生産に要する時間)と結果(た とえば,製品の分量や,消費あるいは生産に必要な費用)を数量化できるとい うことである。マクドナルド化した社会では,数えられるものを重視し,「量 は質に等しいものJと見倣すことで,製品が大きいことやその人手時間が短い

ことは品質が良いものに違いないと考える傾向があるとしている。たとえば,

消費者はどの程度の分量のハンバーガーをどの程度の時間と金銭で人手でぎる のかが分かることで,ファーストフード・レストランでハンバーガーを食べる 方が家で同じようなものを作るよりも時間と金銭との節約になることを計算で き,前者を選好することになる。また従業員は,作業のばらつきが小さくなる ように活動の標準化やマニュアル化,システム化,機器の設備の設計などが行 われることで,作業の質的側面よりも量的側面を重視し,どれだけ手早く与え

られた作業をこなすかに専念するようになる。

予測可能性とは,将来のある時空間において何を期待すべきかが分かるとい うことである。このことは,マクドナルド化されたシステムを持つサービス組 織がデリバリーする結果とその過程はいつでも,どこでも同一であるという保 証となるということでもある。つまり,そのようなサービス組織では,いつで もどこでも全く(あるいはほとんど)同じ結果を提供するために,利用の度ごと に顧客は期待通りの結果を得ることができるということである。さらに,デリ バリー・プロセスにおける従業員はマニュアルに従って行動するために,彼ら の振る舞い方は予測可能なものとなり,顧客はマニュアルを保持してはいない が,デリバリー・プロセスに参加したり,従業員とのサービス・エンカウンタ ーに参加することが容易になり,安心感がもたらされる。 一方,従業員の側で

も,デリバリー・プロセスにおける顧客の行動やサービス・エンカウンターの (4)  Ritzer,  前掲邦訳甚, 73

(5)  Ritzer,  前掲邦訳書, 31

(6)  Ritzer  (1996) は , 顧 客 に 予 測 可 能 な 行 動 を と ら せ る 要 因 と し て 3つ の も の を 挙 げ て いる。その第1は , 顧 客 に 彼 ら に 期 待 さ れ て い る も の が 何 か を 示 す 手 掛 か り の 提 供 で あ

(9)

119 

レ ス ト ラ ン ・ サ ー ビ ス に お け る ス ク リ プ ト の 共 有 が

顧 客 満 足 に 及 ぼ す 影 響 に 関 す る 実 証 分 析 ‑]J9‑

各場面における顧客の行動が予測可能なものとなるために,彼らもそれらに容 易に対応できるし,顧客との接触を伴わない場面では,思考を働かせることな

く効率的に作業を行うことができるようになる。

制御とは,非人間的技術体系(たとえば,作業ライン,行列すべきライン,

座り心地の悪いイスなど)による人間の制御であり,「とりわけ人間技能の人間 によらない技術体系への置き換え」であるとされている。あらゆる合理化され たシステムに見られる不確実 性,予測不可能性,非効率はそこに参加する人々,

すなわち経営者,従業員,および顧客によってもたらされるため,これらの人 間を技術体系で制御しようとするものである。したがって,制御には,活動の 標準化やマニュアル化,システム化,機器の設備の設計などを通じて従業員の 行動を制御するだけでなく,サービス・デリバリー・プロセスを効果的且つ効 率的に展開できるように顧客の行動を制御することも含まれる。なお,技術体 系には,機械や道具だけでなく,原材料,技能,知識,規則,規程,技法など

も含まれるとされている。

Ritzerは,マクドナルド化されたシステムを導人することで組織の合理化が 可能になり,上述のような利点をもたらす一方で,環境や健康に対するマイナ スの影響や,顧客と従業員の脱人間化という間題をもたらすことも指摘してい る。サービス・デリバリー・プロセスとの関係では,顧客と従業員の脱人間化 という問題が璽要であり,この間題の結呆として,両者とも満足が低下する危 険性を秘めている。顧客満足と従業員の職務満足の間には循環的な相互影響関 係が存在しているために(藤村, 1997), どちらかの満足低ドは他方の満足にネ ガティブな影響を及ぽす可能性がある。たとえば,マクドナルド化されたシス テムによって従菓員が機械の一部となることで,彼らの職務満足は低いものと なり,それが彼らの行動や態度に反映されるならば,顧客の満足は低下するで

り(たとえば,多くのごみ箱の配置など),第2は , あ る 応 定 の 方 法 で 顧 客 の 行 動 を 誘 導 す る よ う な 構 造 上 の 制 約 で あ り ( た と え ば , 待 ち 行 列 の ラ イ ン を ぷ す 張 ら れ た ロ ー プ など),第3は , 顧 客 が 守 ら な け れ ば な ら な い 自 明 の 規 範 の 内 面 化 で あ る ( ゴ ミ を 片 づ けるとか,待ち行列に牝ぶということを親やその他の人から教えられるなど)ぐ9

(7)  Ritzer,  前掲邦訳書, 34

(10)

あろう。さらに,それによって不満を感じた顧客がそれを彼らの行動や態度を 通じて従業員に示すならば,そのような行動や態度のために,あるいはそのよ うな状況に柔軟に対応できないために,従業員の職務満足はさらに低下すると いう連鎖が発生してしまう。また,マクドナルド化されたシステムによってサ ービス・エンカウンターが非人間的になることで,顧客の満足が低下し,それ が相互作用を行う従業員の職務満足にネガティブな影響を及ぼし,悪循環が始

まる危険性もあるであろう。

以上のことから,標準化はデリバリー・プロセスヘの参加者がそこで必要と される適切なスクリプトを共有することを可能にする手段の 1つであり,スク リプトの持つ 3つの機能や, Ritzerの挙げるような利点を通じて顧客満足にポ ジティブな影響を及ぼす」方で,前述のような問題発生のプロセスや脱人間化 を通じてネガティブな影響を及ぼす可能性もあるために,その採用については 注意が必要とされるであろう。

しかし,標準化の内容と制御の仕方を変更することで,それがもたらす問題 点を若干解決することも可能であるかもしれない。たとえば,標準化を「行動 の標準化」と[価値基準の標準化」に区別するならば,行動の標準化は前述の マクドナルド化されたシステムに相%するものであり,デリバリー・プロセス での従業員の役割だけでなく,その役割を遂行するための具体的な行動や会話 内容まで規定するものである。 i,価値基準の標準化とは,従業員の意思決 定に影響を及ぽす価値基準を標準化するものであり,その価値基準に従う行動 であれば許容するというものである。この価値基準は, リーダーによって生み 出された企業活動の中核となる価値が,彼ら自身の行動と言葉で伝えられ,組 織全体に浸透させられ,強化されたものである。この価値基準の標準化の場合,

従業員は多様な行動(あるいはあらかじめリーダーによって選択された行動代 替案)の中から状況に応じて選択できるために,行動の標準化がもたらす脱人 間化に伴うさまざまな問題を低減することが可能になるであろう。また顧客 も,予測可能性を保ちながら(行動の標準化の場合に比べると低減するが),彼 のニーズや期待により適合したデリバリー・プロセスを亨受する可能竹:や,ポ

(11)

121 

レストラン・サービスにおけるスクリプトの共有が

顧客満足に及ぼす影響に関する実証分析 ‑12/‑

ジティブな驚きを経験できる可能性が高まるために,より高い満足が得られる 可能性があるであろう。なお,このような価値基準の標準化を採用する場合,

従業員は比較的高い能力と教菱水準を備えていることが必要とされる,という 問題がある。

また,標準化を維持するための制御についても,「人間による制御(管理)」

と「人間によらない技術体系による制御」に区分することができ,マクドナル ド化されたシステムは,行動の標準化を人間によらない技術体系による制御で 維持していこうとするものである。なお,ここでの人間によらない技術体系に

よる制御とは,前掲の Ritzerが論じている,機械道具,原材料,技能,知識,

規則,規程,技法などによる従業員の制御であり,人間による制御とは,伝統 的な,管理者による部下の直接的且つ対面的な管理である。人間による制御に も,人間関係における好き・嫌いや管理者のパーソナリティによって歪められ たり,あるいは時間と費用を必要とするという問題点はあるが,前述のような 問題の低減が可能となるであろう。

このように標準化の内容とそれを維持するための制御の方法を修正すること で,先に指摘したような標準化に伴う利点は多少低減するであろうが,問題も 低減することが期待できるであろう。なお,標準化と制御をそれぞれ二つに区 分したが,このことは,それぞれについて一オ者択をを行うということは意味し ていない。標準化については,行動の標準化と価値基準の標準化とを両極とす る線分上のどこかの位置を選択する(両標準化の組み合せの程度を決定する),

あるいはデリバリー・プロセスを構成する職務ごとに選択する位置を変更する ということである。制御についても同様であり,これは選択された標準化の内 容に応じて,人間による制御と人間によらない技術体系による制御とを両極と する線分」`.のどこかの位置を選択するということである。

(2)  スクリプトに関する 2つの認識ギャップ

医療サービスおよびビジネスホテル・サービスにおける質的および量的調介 によって,顧客と従業員の間にサービスの結果,デリバリーのあり方,および

(12)

協働ルールについて認識ギャップが存在しており,それらは顧客のサービスに 対する満足および従業員の職務満足にネガティブな影響を及ぽしていることが 明らかになっている(藤村, 1998)。今回のレストラン・サービスにおける贔的 調査の実施前にもいくつかのレストランでインタビューを行ったが,やはり認 識ギャップが存在していることが明らかになった。

スクリプトに関する認識ギャップに限れば,それらは大きく―ーどつに分類する ことができる。一つは特定のサービス・カテゴリー(たとえば,ファミリー・

レストラン,フレンチ・レストランなど)でのデリバリー・プロセスに標準的 なスクリプトに関する認識ギャップであり,もう‑つは特定のサービス組織に 固有のデリバリー・プロセスに関わるスクリプトに関する認識ギャップである。

前者の認識ギャップは,顧客が特定のサービス・カテゴリーをそれ以前に利 用したことがないことによって生じやすいものである。たとえば,シティ・ホ テルの利用経験しかない顧客がビジネスホテルに宿泊する場合,その顧客はシ ティ・ホテルでのスクリプトをそこでも用いるかもしれない。その結果,ビジ ネスホテルの従業員と顧客との間に認識ギャップが生じ,顧客は荷物を部屋ま で運んでくれないことやルーム・サービスを利用できないことに不満を感じる ことになる。サービス経済化が進展し,次々と新しいサービス・カテゴリーが 生み出されているときには,それらが市場導人された初期段階では,顧客はそ の利用において既存サービスの中で近いと知覚されるサービスのスクリプトを 代用しようとするために,このような認識ギャップが生じ,従業員と顧客間で,

あるいは顧客同士の間で問題が発生しやすいであろう。

後者の認識ギャップは,サービス・カテゴリーは利用したことがあるが,そ れに属する特定のサービス組織を利川したことがなく, しかもそこで採用され ているデリバリー・システムが同じカテゴリーに属する他のサービス組織のも のと乖離していることから生じやすいものである。たとえば,サービス組織の 経営者が顧客のニーズや行動を十分に把握しておらず,顧客の期待するサービ ス品質を彼らのニーズや行動の観点からデリバリーできるようなシステムを構 築していない場合や,ある文化の中で構築されたサービス・デリバリー・シス

(13)

123 

レストラン・サービスにおけるスクリプトの共有が

顧客満足に及ぼす影響に関する実証分析 ‑123 

テムを他の文化圏に移転する場合に,そのような乖離が生じやすいであろう。

サービス経済化の中で次々と出現してくるサービスに対する顧客の利用経験が 増すにつれて,サービス組織にとって重大な問題となるのは,このサービス組 織に固有のデリバリー・システムに関わるスクリプトに関する認識ギャップで ある。固有のスクリプトを顧客が適切に理解・保有していない場合,顧客自身 の行動や要求が不満原因となるだけでなく,協働する従業員もシステムに制約

されてそれらに対応できないことによって不満を感じることになる。

サービス組織に固有のデリバリー・システムに関わるスクリプトを参加者

(顧客および従業員)が共有していないことで発生するコンフリクトを抑制し たり,それがもたらす参加者それぞれの不満足形成や牛産性低下を抑制する方 法としては,次の 2つのものが考えられる。その第 1の方法は,サービス組織 に固有のシステムを顧客の認識するサービス品質の観点から適切に構築すると ともに,システムに対する顧客と従業員間の認識ギャップの程度を低減するよ うに情報を提供することである。第2の方法は,デイズニーランドのようにそ の固有のデリバリー・システムとそこにおいて適切なスクリプトを事前に顧客 に認識させ,それに従う意思のある顧客だけを選別して参加を認めるという体 制を採用するというものである。デイズニーランドでは最高のサービスを提供 するために,弁¥l5や酒などの日常的なモノを持ち込まないとか,キャストの指 示に従うとか,といったシステムに従う顧客だけに人場を認めている。そして,

そうすることが満足につながることを顧客も認識しているから,彼らも積極的 に固有のシステムに従おうとしている。この方法はデリバリーの効果および効 率の向上の点では優れているが,多くのサービス組織では顧客の選別が困難な

ことから,第 1の方法の方が採用しやすいであろう。

このことから以ドでは,サービスの結果およびそのデリバリー・プロセスに 関する情報を事前に顧客に提示することが顧客満足に及ぽす影響を,レストラ

ン・サービスの消費というコンテクストで実証的に考察したい。

(14)

皿.スクリプトの提示が顧客満足に及ぼす影響 に関する実証的者察

(1)  調 査 実 施 概 要

参加者間でのスクリプトの共有が顧客満足に及ぽす影響を考察するために,

レストラン・サービスの利用者に情報(メニュー内容と従業員の行動に関する 情 報 ) を 事 前 に 提 示 し た 場 合 と し な い 場 合 で , ス ク リ プ ト の 機 能 お よ び 満 足 に 関 す る 評 価 が ど の よ う に 異 な る の か の 分 析 を 行 っ た 。 そ の た め に ア ン ケ ー ト 調

18) 

査を実施したが,その実施概要および調在対象者の属性は以下の通りである。

調 査 対 象 者 : 高 松 市 内 に 立 地 す る ホ テ ル 「 ロ イ ヤ ル パ ー ク ホ テ ル 高 松 」 内 の レ ス ト ラ ン [ タ ン ト タ ン ト 」 の 利 用 者

調 奔 票 : A 4 (裏表) 3

調 法 : 会 計 時 に 配 布 , 郵 送 圃 収

調査時期.・ 2000 年 8 月 28 日 ~2001 年 2 月 28 ll 

但し, 2000828H~12 月 29 日の期間は情報 を提ホしないかたちで調介を実施し, 2001 110

日 ~2 月 28 日の期間においてば情報を事前に提供し

たかたちで実施した。

事 前 提 ホ 情 報 :メ ニ ュ ー 内 容 お よ び 従 業 員 の 行 動 に 関 す る 情 報 の 提 示 1) メ ニ ュ ー に 関 し て は , 取 り 揃 え メ ニ ュ ー と そ の 料 金 を 書 い た パ ネ ル を ホ テ ル 人 口 に 置 き , メ ニ ュ ー の 写真をレストラン内に置いた。

2) 従 業 員 の 行 動 に つ い て は , 従 業 員 は 顧 客 が 要 求 す る ま で 対 応 し な い こ と を 説 明 し た カ ー ド を テ ー ブ ル の上に置いた。

(8)  調 在 の 実 施 に 際 し て は , 穴 吹 興 産 株 式 会 杜 ・ マ ー ケ テ ィ ン グ 字 の 匝 谷 係 長 , タ ン ト タ ン ト の 阿 部 支 配 人 , お よ び レ ス ト ラ ン の 従 業 員 の 方 々 に ご 協 力 を い た だ き , 貴iF.:なお時 間と労))を割いていただきましたことを,ここに感謝いたします。

(15)

125 

レストラン・サービスにおけるスクリプトの共有が 顧客満足に及ぼす影響に関する実証分析

有 効 同 収 数 : 事 前 情 報 の 提 示 無 : 58 事前情報の提示有:39

‑/25‑

有効[o]収率は約 20%と低かったが,このことがも たらす影響については別の機会に考察を行いたい。

有効回収票の属性:有効回収票における匝答者特性は下記の通りである。

性 別 人 数 構成比(%) 飲食内容 人 数 構成比(%)

男 性 14  14.4  昼 食 86  88  女 性 80  82.5  夕 食 62  不 明 3.1  その他 2.1  97  100.0  不 明 3.1  97  100  年 齢 人 数 構成比(%)

() 5.2  過去の利用回数 人 数 構成比(%)

: 3

  () 7.2  0 29  29.9  0 32  33.0  1 6.2  0 19  19.6  2 11  11.3  0 22  22.7  3回 12  12.4  0

, 

9.3  4 52  不 明 3.1  5 7.2  97  100.0  6  0 7.2   5 4.1  6回以上 82 

不 明 8.2  97  1000 

(2)  情報の事前提示が利用者評価に及ぼす影響

前述のようにスクリプトには協働のための台本機能,評価基準の提供機能,

予測性の向上機能があるが,事前情報の有無によって,これらの機能に関わる 評価がどのように異なるのか,の分析を行った。表 lのクロス集計表は,事前 に情報を提ぶした利用者グループと提示しなかった利用者グループの評価を比 較したものである。尚,各評価は【 】内のステートメントに対して, =「そ

う思わない」 ~s= 「そう思う」の 5 点尺度で聴取している。

グループ間で統計的に有意な差異が見られたのは,「3.店に人ってから出 るまでの間の従業員の行動は事前に予期していた通りであった」だけであり,

評価ぱ情報を提供しなかったグループの方が高くなっている。この結果は,顧 客と従業員がスクリプトを共有することに意味があるのではなく,どのような

表 1 :  事前情報の有無による評価の違い 【 1.  店に入ってから出るまでの間、予期していなかったような状況が生じることはなかった。】 \  事前情報の有無 そう思わない どちらとも そう思う 小 計言えない 1  2  6  8  2 2  3 9  有 ( 2
表 2:  事前情報の有無による満足及びその後の行動意向の違い 【全体的満足: 「不満足一満足」測度】 ミ 事前情親の有無 不満足である どちらとも言えない ゜ ゜ 2  20 有(‑) (‑) (5.1) (51

参照

関連したドキュメント

ドリル教材 教材数:6 問題数:90 ひきざんのけいさん・けいさんれんしゅう ひきざんをつかうもんだいなどの問題を収録..

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

「1 つでも、2 つでも、世界を変えるような 事柄について考えましょう。素晴らしいアイデ

以上の基準を仮に想定し得るが︑おそらくこの基準によっても︑小売市場事件は合憲と考えることができよう︒

けることには問題はないであろう︒

○安井会長 ありがとうございました。.

真竹は約 120 年ごとに一斉に花を咲かせ、枯れてしまう そうです。昭和 40 年代にこの開花があり、必要な量の竹

大村 その場合に、なぜ成り立たなくなったのか ということ、つまりあの図式でいうと基本的には S1 という 場