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初心者セラピストにおける「居心地悪さ」体験とその変化

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平成 22 年度 修士論文

初心者セラピストにおける「居心地悪さ」体験とその変化

弘前大学大学院 教育学研究科

学校教育専攻 学校教育専修 臨床心理学分野

09GP108 山 口 裕 也

(2)

目 次

第 1 章 問題と目的 ... 1

第 1 節 はじめに:初心者の困難さと「居心地悪さ」 ... 1

第 2 節 セラピストの発達プロセスにおける困難さ ... 2

第 3 節 初心者セラピストの発達プロセスにおける困難さ ... 5

第 4 節 陰性逆転移としての困難さ ... 9

第 5 節 心理臨床非専門家の困難さ ... 10

第 6 節 本研究の目的 ... 12

第 2 章 質問紙調査からみる居心地悪さと変化のきっかけ ... 14

第 1 節 目的 ... 14

第 2 節 方法 ... 14

第 3 節 結果・考察 ... 15

第 4 節 まとめ ... 23

第 3 章 形容詞対への評定からみるカテゴリーと場面 ... 25

研究 1 形容詞対へ評定からみるカテゴリーの特徴 ... 25

第 1 節 目的 ... 25

第 2 節 方法 ... 25

第 3 節 結果・考察... 25

第 4 節 研究 2 に向けて ... 29

研究 2 形容詞対へ評定からみる居心地悪い場面の特徴 ... 30

第 1 節 目的 ... 30

第 2 節 方法 ... 30

第 3 節 結果 ... 30

第 4 節 考察 ... 37

第 5 節 まとめ ... 40

(3)

第 4 章 面接調査からみる「居心地悪さ」体験の変容過程と視点転換 ... 42

第 1 節 目的 ... 42

第 2 節 方法 ... 42

第 3 節 結果 ... 44

第 4 節 考察 ... 76

第 5 節 まとめ ... 82

第 5 章 総合考察 ... 87

文献 ... 90

(4)

この論文は,研究協力者である初心者セラピストを事例として行った研究で あり,面接調査部分については守秘義務が生じますので,広く公開される「弘 前大学学術情報リポジトリ」への登録に当たって,研究協力者により語られた エピソード(「第 4 章第 3 節 結果」の一部)は削除してあります。そのため,

「目次」に示したページと Web 上のページは一致しません。削除された部分の 閲覧を希望される場合は,下記にご連絡ください。

連 絡 先

〒036-8560 弘前市文京町 1

弘前大学大学院教育学研究科学校教育講座臨床心理学分野

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第 1 章 問題と目的

第 1 節 はじめに:初心者の困難さとしての「居心地悪さ」

1988 年に日本臨床心理士資格認定協会が発足し,その発足に伴う第一号認定を端緒とす る臨床心理士は,その数が年々増加している。日本臨床心理士資格認定協会(2010)によ れば,日本臨床心理士資格認定協会が発足した 1988 年には 1,595 名であった臨床心理士の 認定者数は 14 年後の 2002 年には 10,083 名となり,そして, 2009 年には 20,000 名を超え ている。

臨床心理士の増加には,臨床心理士を養成する指定大学院の校数増加が背景としてある。

1996 年より臨床心理業務を行う専門職としての臨床心理士の専門資質レベルを一定水準に 維持し向上を図るため,認定された大学院の修士課程修了者が臨床心理士資格試験の受験 資格を得ることができる大学院指定制度が導入された(日本臨床心理士資格認定協会,

2010)。制度発足当初は 14 校であった指定大学院数は,2010 年 7 月現在で 160 校にも上

る。大学院指定校制度の拡充に伴い,近年,1,500 名を超える臨床心理士が毎年誕生してお り,その結果,年齢が 20 代・30 代で,実務経験が 10 年未満の臨床心理士が半数を超える 現状となっている(塩谷・黒田,2009)。こうした若い世代の臨床心理士達には専門性を身 につけ,セラピストとしてのアイデンティティを確立し,成長していくことが求められる が,そのためにはまず,初心者が感じる困難さとその解決の道筋を明らかにすることが課 題になると思われる。どれほど優れたセラピストであろうと,誰しもが初心者という時期 を経験するものであり,その時期にどのような困難さを持ち合わせ,それをどのように乗 り越えたかを記述するは,今後の初心者,そしてその初心者に関わる者に示唆を与えるだ ろう。

初心者が感じる困難さについては,第 2 節,第 3 節で先行研究をまとめていくが,クラ イエントやカウンセリングの場そのものへの否定的感情としての陰性逆転移も困難さを感 じさせると思われるため,それについては第 4 節で見ていくこととする。このように,初 心者の困難さは,否定的感情や陰性逆転移,さらには心理療法教育の立場からセラピーの 効果に影響する要因をまとめている金沢(2002)が, 「悪化させる要因」についてクライエ ント-技法-セラピスト間の複雑な相互作用によるものであり,単純に特定することは容 易ではないとしながらも,セラピストが権威的,クライエントの問題に影響される,クラ イエントに対して落胆・敵意・イライラを感じる,回避的・受動的,介入の技術的レベル が低い,クライエントの病理を過小評価し心理療法における進歩を過大評価する,攻撃的 スタイルで即時の自己開示・感情表出や直面化あるいは態度変化を要求する,などのセラ ピスト側の要因もあることを指摘しているが,そのような状況にも初心者に困難さを感じ させるだろう。

セラピストだけではなく,心理臨床の非専門家であっても対人支援の場面では様々な戸

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惑いや自己不確実さを感じ,それを乗り越えることが課題となる。それは第 5 節でまとめ た。

ところで,カウンセリングの場はセラピストとクライエントがともに「居る」場であり,

カウンセリングとはクライエントに居場所を提供しつつ、セラピスト自身もそこを居場所 にしていく作業と言える。カウンセリングの過程について竹森(1999)は,互いに危険で ない,安心できる治療構造が形成されることで,それぞれの役割や関係性が守られる,そ して,カウンセリングが安定した居場所となり,その居場所でセラピストはクライエント の言葉に傾聴し,訴えに応じた支援を行うことで,クライエントの本来の力が回復してい く,と述べる。また,角田(1998)によれば,クライエントの気持ちが感じられない「共 有不全経験」や,集中力が続かない,眠気に襲われる,苛々して叱咤激励したい気持ちに なる,無力感にさいなまれてセラピストとしてやっていけない気持ちになる,クライエン トに対して攻撃的な気持ちになるなど,セラピストにとって骨の折れる体験をセラピスト にとって居心地の悪い体験としている。そこで本論においても,セラピストが体験する面 接中の困難さから,否定的感情,陰性逆転移まですべて包括して「居心地悪さ」体験とし て括りたい。

第 2 節 セラピストの発達プロセスにおける困難さ

初心者セラピストが経験を重ねて熟達者へと至るプロセスとはどのようなものであるの か。また,その際にセラピストはどのような困難に直面し,乗り越えていくのであろうか。

第 2 節では,セラピストの発達プロセスと,その中でセラピストが直面する困難さに関す る文献を展望する。

なお,第 1 章においては引用元の表記を優先して示すものとするが,この中で表記され る「セラピスト」「心理臨床家」「カウンセラー」 「治療者」は同義のものとして捉える。し かし,本研究において用いる場合には「セラピスト」に用語を統一して表記するものとす る。

2-1.セラピストの発達プロセス

金沢(1998)は,セラピストの発達モデルとして有名な Skovholt と Rønnestad による カウンセラーの発達段階,および Stoltenberg と Delworth の統合的発達モデル(Integrated

Developmental Model:IDM)の 2 つのモデルを紹介している。

Skovholt と Rønnestad は,アメリカのミネソタ州に住む大学院生から大学院修了後 40

年を経た臨床家まで, 100 名の心理臨床家を対象に行った面接調査の結果を 1992 年と 1995

年にまとめている(金沢・岩壁,2006)。彼らは,職業人としてのカウンセラーの発達段階

として, 「一般常識で行動する段階(Conventional Stage)」 「専門家としての訓練に移行す

る段階(Transition to Professional Training Stage)」「エキスパートを模倣する段階

(7)

(Imitation of Experts Stage)」「条件的自律の段階(Conditional Autonomy Stage)」 「探 求の段階(Exploration Stage)」「統合の段階(Integration Stage)」「個性化・個別化の段 階(Individuation Stage)」「高潔で欠けることのない段階(Integrity Stage)」,という初 心者の段階から,専門家として独り立ちし,最後は引退するまでの 8 段階を見出している

(金沢,1998)。

Stoltenberg と Delworth の IDM では,動機づけ(motivation),自律性(autonomy),

自他への気づき(self-and-other-awareness)の 3 つの構造的側面による違いをもとに,ス ーパーヴァイザーに依存的な「初心者の段階」 ,セラピストとして自信がつき,自立への意 欲が高まる一方で,スーパーヴァイザーに頼らざるを得ない自分への苛立ちという葛藤が ある「試行錯誤と試練の段階」,セラピストとしてのアイデンティティと自信を強化してい く「チャレンジと成長の段階」という 3 段階を提示し,各段階ごとに具体的なスーパーヴ ィジョンの方法を論じている(金沢,1998;金沢・岩壁,2006)。

Skovholt と Rønnestad の発達段階, Stoltenberg と Delworth の IDM の 2 つのモデルよ り,セラピストの発達的な変化としては,何をどうしたらいいのか分からず,自信もなく,

不安の高い初心者の段階から,諸技法を統合した自分なりのスタイルをもち,相手がいろ いろ変わってもそれに応じて柔軟に対応できる上級者の段階へと,訓練と経験によってセ ラピストが変化していくこと,また,初心者に対しては,構成的で体系化された訓練プロ グラムによって,スモールステップ方式のスキル習得と具体的な「こういう時にはこうす る」という指示的な訓練,訓練生が模倣しやすいような明確なモデルの提示の必要性が示 されている(金沢,1998)。

セラピストとしての発達ではないが,アセスメント能力に関する初心者から熟達者まで の発達的な変化についての検討として,新保(2004)がある。新保(2004)は,カウンセ ラーを 5 年毎の経験年数別に初心者群(臨床心理学分野の大学院生) ,初任者群(臨床経験 1~5 年),中堅者Ⅰ群(臨床経験 6~10 年),中堅者Ⅱ群(臨床経験 11~15 年),熟練者群

(臨床経験 16 年以上)の 5 群に区分し,各群のカウンセラーの心理アセスメント能力の特 徴を横断的に検討し,抽出している。アセスメントの質的変化として,初心者群から初任 者群にかけてケース理解の仕方及びその精度,またそれを言語化する能力などの点におい て非常に大きく飛躍し,初任者群から中堅者Ⅰ群へ至る際にはアセスメント能力がより精 緻なものへと変化する。そして,中堅者Ⅰ群から中堅者Ⅱ群の間に自己の臨床家としての スタイルが徐々に確立しはじめ,臨床家としての安定性が増す。その後,思考レベルの一 層の洗練化が進み,カウンセラーとしての個性化が非常に顕著である熟練者群へと至る,

という変容を見出している。新保(2004)においても,知識・技術・自己への信頼などの 点で不十分なために,短期間の間に正確なアセスメントをすることが困難な初心者像,及 び独自な臨床観に基づき,無駄・ムラのないアセスメントを行う熟達者像が示されている。

これらのセラピストの発達に関するどの知見においても,知識や技術に乏しく,自分自

身に自信がなく,不安の強い初心者から,己の経験をもとに独自の臨床観を形成し,無駄

(8)

の削ぎ落とされた熟達者へと至る発達のプロセスが示唆されている。ただし,このプロセ スを考える際に直線的なプロセスは考えにくい。それは,どの発達的段階においてもそれ ぞれの困難さが存在すると考えられるためである。セラピストの成長・発達モデルに関す る文献展望から,セラピストの成長・発達は,常に右肩上がりの直線的なものではなく,

むしろ,行きつ戻りつしながら,そして時には停滞したり,退行したりということを含み 込みながら進んでいく,「漸進的モデル」として捉える方がより現実的であることを新保

(2000)が示唆しているように,行きつ戻りつの発達的プロセスとして考えられる。

2-2.セラピストの困難さと対処

では,セラピストはその発達プロセスの中でどのような困難さに直面し,どのように対 処しているのだろうか。

金沢・岩壁(2006)は,Orlinsky らを中心とした国際研究チームによる 20 カ国の心理 臨床家を対象とした調査を紹介している。Orlinsky らは,18 の困難(「クライエントの痛ま しい生活状況を何ともしてあげられない自分の無力感に苦しむ」「クライエントとの心理療法を 建設的な方向に動かすきっかけを作りだすことができない」「自分が行うことをわざわざ邪魔す るクライエントへの苛立ちを感じる」など)に対して,対象者がどれくらい頻繁にそれを体 験しているか, 「0 :全くない」から「5 :非常に頻繁に体験する」の 6 件法で回答を求めた。

平均値が 2 点を超えた項目は「クライエントに対して効果的な援助を行う自信がない

(M=2.35,76%の対象者の評定値が 2 点以上) 」であり,多くの臨床家が体験する困難であ ると考えられた。また,18 項目を因子分析した結果,「職業的自信の喪失」「苛立ちを覚え るケース」 「ネガティブな個人的反応」の 3 つの次元が得られている(金沢・岩壁, 2006)。

Orlinsky らはさらに,心理療法場面で困難な状況に直面した際の対処法として 26 の対処

法を挙げ,心理臨床家がそれらをどのくらい頻繁に用いるのか,「0:全く用いない」から

「5:とても頻繁に使う」までの 6 件法で回答を求めた。その結果,「どのようにしてその 問題が生じたのか一人で振り返る(M=3.53,58%の対象者の評定が 4 点以上) 」 「異なる視点 から問題を見るように試みる(M=3.49, 54%) 」 「同僚とその問題について話し合う(M=3.44,

56%) 」「より経験のある臨床家にその事例について相談する(M=3.30,53%) 」の 4 項目に

対して多くの臨床家が用いると回答しており,心理臨床家が困難に対して行いやすい反応

は自分自身のリソースに頼ること,信頼できる仕事仲間の助けを借りることの 2 つである

ことが示された。続いて,「あなたとクライエントが一緒に困難な状況を扱うことができる

か様子を見る(M=3.08,42%) 」「たとえ臨床家であっても,困難あるいは不安といった気

持を感じても許されると思う(M=3.28,49%) 」の 2 項目の平均値が高く,その困難な状況

にしばらく身を置き, 「待つ」という姿勢を表していることがうかがえる。26 項目の因子分

析を行った結果,「反省的統制を試みる(問題について自分の中で考え,異なる角度から見

直す)」「コンサルテーションを求める(信頼できる同僚に相談する)」「クライエントと一

緒に問題を解決する(クライエントに困難について開示し,一緒に話し合う)」「援助の枠

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組みを再設定する(治療契約を改めたり,治療的アプローチを修正する)」「面接以外の満 足を求める(心理療法以外の活動に満足を求める)」「治療的かかわりを避ける(問題を扱 うことを避けて,そのうち改善するだろうと期待する)」の 6 因子が得られている(金沢・

岩壁,2006)。

日本では,岡本(2007)が臨床経験 10 年未満の心理臨床家及び臨床経験 10 年以上の心 理臨床家を対象に,仕事上で感じた困難さ,その困難さが克服された経緯について検討し ている。仕事上の困難さについては,職業人としての悩みと問題及び心理職固有の悩みと 問題の 2 つに大別され,心理職固有の問題には,見立て・方針が立てられないなど仕事を 始めて間もないころ経験する悩み,クライエントの症状が悪化するなどのクライエントの 関係における問題,専門家としての十分に機能しているかなどの心理臨床家としての揺ら ぎが心理職固有の悩みと問題に含まれていた。問題への対処・克服に関しては,職場や心 理職仲間の人間関係による支え,研修への参加などの外的な環境要因と,カウンセラーの 内面の成長に関する内的要因の 2 つが示された。また,職業的発達として仕事について 1 年~数年の間は,見通しの立てられない不安や経験不足からくる自信のなさが,専門職と しての存在を揺るがせ,10 年以上の経験者から熟考された独特な表現が聞かれるなど,個 性化が進んでいることがうかがえるなど, Skovholt と Rønnestad の発達段階, Stoltenberg

と Delworth の IDM における発達的変化と類似の特徴が見出されている。

以上,Orlinsky らや岡本によると,ある程度経験を積んだセラピストにおいても,自身 の臨床活動が十分に機能しているのかどうかが懸念され,困難さとして経験されること,

困難さを乗り越えていく過程には,同僚や仲間が支えとなるなどの外的要因,そして,個 人内でのふり返りやアセスメントや技術の熟達といった成長などが要因としてあることが 見出せる。

第 3 節 初心者セラピストの発達プロセスにおける困難さ

次に,初心者セラピストを扱った文献について展望する。第 3 節では,初心者セラピス トの発達プロセス,及び初心者が経験する困難さに関する知見から,初心者の特徴を抽出 することを試みる。

3-1.初心者セラピストの発達プロセス

まず,初心者セラピストの発達プロセスを示した研究として,花屋・田上(2007)と山 本・花屋(2009)を取り上げる。

花屋・田上(2007)は,初心者セラピストの発達的変化として,セラピストとしての自

らのあり方の適切性の基準を外的なものに求めていたものが,自分自身の内面という資源

を頼りにクライエントと関わっていく「他律性から自律性」への流れ,そして,最初期に

はセラピスト自身の感情を認識し損ねたり,感情を抑制しようとする動きが見られるが,

(10)

次第に自らの感情の変化に対する感受性が高まるものの,自らの感情に翻弄されたり,十 分に扱いきれない段階を経て,感情を認識しつつ,それに取り込まれることのない状態で 面接に臨むようになるという発達のアウトラインを示している。

山本・花屋(2009)では陽性感情をめぐる治療者の発達的変化に着目し,初心者が自身 の感情を治療に活用できるようになるまでの過程の記述を試みている。初心者が自らの感 情を活用するようになる過程として,最初期は自らの陽性感情に目を向けず,感情の赴く ままにクライエントと関わることが多いが,面接の停滞やスーパーヴァイザーからの指摘 を契機として,また,治療者である自分自身のあり方に対して生じ始めた違和感に向き合 うことを通して,自身の内面に起きていることに目を向ける姿勢が養われていくことがう かがわれた。また, 「役割意識」, 「治療者の注意の方向」, 「陽性感情の認識の程度」の 3 つ の要素が,最初期は,役割意識が不明確で,治療者の注意は自分自身に向けられ,自分の 感情を認識するまでには至っていないが,次の期に進むと,治療者は役割意識を保持しよ うとしはじめ,治療者の注意は治療者自身からクライエントへと移行し,面接中の自分の 感情の動きを認識しようと努めるようになるが,治療場面で生じていることに翻弄され,

内的世界の明確化は難しいが,さらに次の期に進むと,役割意識は保持され,注意はクラ イエントに集中し,自分の感情を認識する感度が増すとともに,その場での陽性感情の治 療的有用性を見極める技量を身につけていく,という発達的な変容を示している(山本・

花屋,2009)。

花屋・田上(2007)と山本・花屋(2009)からは,初心者は自らの感情に翻弄され自分 自身の動きを認識することで精一杯の状態から,自らの感情を認識し,翻弄されなくなり,

内的資源とともに自律的にクライエントと関わるようになること,セラピストの注意の方 向が自分自身からクライエントへと移り,クライエントを中心に据えたセラピーへと移行 していく,という特徴が見出せる。

3-2.初心者セラピストの経験する困難さ

次に,初心者の経験する困難さについてまとめた,ザロ・バラック・ネーデルマン・ド レイブラット(1987),Skovholt & Rønnestad(2003),小俣・野島・荒木(2007)を取 り上げる。

ザロ・バラック・ネーデルマン・ドレイブラット(1987)には,彼らの行ってきた心理 療法の訓練生に対するスーパーヴィジョンの経験に基づいた知見が記されている。ザロら

(1987)によれば,他者を助けることがやりがいのある,価値あることだという体験をも

っており,セラピストになることで同様の満足を得られるものだと期待している初心者が

経験する混乱の要素として,心理療法という仕事に引き入れた契機やクライエントの体験

を自らが体験した枠組みに当てはめて捉え,枠外の側面を無視しがちになることがあるこ

とを指摘している。また,初心者の恐れとして,初心者はセラピストという役割を新しく

取ったばかりという事実から生じる自己批判や自己不信を抱いているが,セラピストとし

(11)

ての振る舞いの適切さの基準が曖昧で不明確なために,自己批判や自己不信が一層高めら れること,クライエントやスーパーヴァイザー,そして同僚たちに無能だと思われる恐怖 はクライエントを失う恐怖と結びついていること,初心者は治療を一面的に捉え,中断を 決定する要因が他にも数多く存在することを見過ごしているため,早すぎる中断をセラピ ストとしての力量不足に帰属させてしまうことをザロら(1987)は述べている。

Skovholt & Rønnestad(2003)は,これまでのセラピスト研究から,初心者が経験する 困難さを, 「acute performance anxiety (深刻な行動不安:不安が意識をセラピスト自身に 焦点づけ,セラピーの遂行を困難にする)」「the illuminated scrutiny of professional gatekeepers(専門職としてのゲートキーパーによる監督:倫理規定の存在や,尊敬する師 であり,かつ脅威を持つ評価者でもあるスーパーヴァイザーの存在)」「porous or rigid

emotional boundaries (不安定あるいは固い情緒的な境界:初心者は感情を調整し,クライ

エントとの間に適切な線引きを引くことが困難である)」「the fragile and incomplete practitioner-self(脆く,不完全な実践家としての自己:実践家としての自己が不完全であ り,熱意と自信なさの両方を感じやすい)」 「inadequate conceptual map(不適当な概念地 図:非専門家による被援助経験をもとに援助活動を組み立ててしまう)」「glamorized ex-

pectations (美化された期待:セラピスト側の努力の影響力を過剰に期待する)」 「an acute

need for positive mentors(積極的メンターの希求:積極的に支援,指導するスーパーヴァ イザーを求める強いニーズ)」

注1

の 7 つのカテゴリーに分類している。

日本心理臨床学会で開催されてきた心理臨床初級者の不安や問題をディスカッションし,

共有する場として企画されたシンポジウムの中で扱われたテーマや話題を,小俣・野島・

荒木(2007)はまとめている。小俣ら(2007)によれば,心理臨床初級者が直面する主な 課題として,組織の中にどんなスタンスで入っていき,自分の役割・居場所を確保するか という『「場」に馴染む』,いかに心理臨床家としてのアイデンティティを構築し,その専 門性をアピールしていけるようになるのかに関する『「心理臨床家」は何をする人か』,同 一職種内での連携,他職種との連携,他機関との連携をどのようにとっていけばいいのか という『連携のとり方』 ,知識,経験の少なさをどうの乗り越えるのかに関する『知識や経 験の少なさ』の 4 つにまとめている。小俣ら(2007)の示す初心者セラピストが経験する 困難さは,岡本(2007)同様,職業人と職場にいかに入っていけるのかという職業人とし ての困難さと心理職固有の悩みとが混在している。

上述したザロら(1987)は自らのスーパーヴァイザーとしての経験を記し,Skovholt &

Rønnestad(2003)はこれまでの研究のレビューによる知見であり,実証に基づくもので はない。次に,初心者を対象行われた上野(2010),遠藤・池田・石津・大島・千葉・内田

(2010),内海・小田(1997),内海(1997),阿部(2009)の研究を取り上げる。

上野(2010)はカウンセラーを志望する大学院生の動機と臨床実践で感じる困難との関 係について検討している。カウンセラーを志望する大学院生が実践で感じる困難としては,

注1 括弧内は筆者による訳,及び内容の要約である。

(12)

『対応の難しい被援助者』 『知識・経験・視野の欠如』 『中断』 『連携・協働』 『新奇場面』 『ス ーパーヴァイザー不在』などの困難な状況と,『パフォーマンスの「正しさ」の不安』『自 己コントロール』 『自意識過剰』 『他者評価へのとらわれ』 『思い通りにならないもどかしさ』

などの感情体験があった。また,動機と困難さの関係については,①強い不快感情を伴う 体験を修復する動機がある場合,その体験と類似した実践場面に遭遇した際に自身のパフ ォーマンスに不安が高まったり,自身の感情のコントロールが困難になる,②対人関係構 築の資質を認知していたり,他者を変化させることへの期待が強い場合,被援助者の変化 を感じられない時にもどかしさや苛立ちを感じる,③対人希求や人から必要とされたいと いう動機がある場合,葛藤が強まったり自身の言動や心理状態を過剰に意識し,思い通り に進まないと自責感や不全感を感じる,④権威性の獲得や知的に見られることへの憧れが ある場合,権威性を発揮できない時に不安や恐れが高まる,という 4 つのパターンを見出 し,これらは,被援助者と関わっているときや実践においてセラピストの自己意識が高っ ているときに生じた主観的困難と関係が深いことが推測された。

初心者の困難さには直接触れてはいないものの,初心者セラピストの失敗経験について 遠藤・池田・石津・大島・千葉・内田(2010)は取り上げて検討している。遠藤ら(2010)

は,経験年数 5 年未満のセラピストが臨床経験 1~2 年時の面接に関する失敗経験を聴き取 っている。失敗経験の語りから,精神病症状を呈するクライエントへの接し方に戸惑った り,表面を取り繕い,格好だけのよいセラピストを演じてクライエントと向き合うことを 避けていたり,中断を避けようとクライエントの求めるセラピスト像を維持する一方で,

クライエントの意向に沿うことへの抵抗もあり葛藤していたことや,専門家としての力量 を試される不安がセラピストにあることがうかがわれた。また,どの事例においてもセラ ピスト―クライエント関係の認識・構築に問題があったと語られていた。

内海・小田(1997)は,初心者の初回面接における特徴を座談会形式という特殊な方法 で検討している。初心者の初回面接はその初心者の「臨床に関する考え方の『固さ』」に規 定される側面が強く,それは初めてケースを持つ直前の学習,特に実践に近い学習に影響 を受けて形成されることが多いが,そのように初心者に学習されたものは部分的にしか理 解されていなかったり,あるいは歪められて理解されていることが多いため,初心者特有 の意気込みや緊張といった「臨床場面における態度の『固さ』」とあいまって,柔軟性に欠 ける面接になりやすいことを指摘している。ただし,これらの内海・小田(1997)の知見 は初心者の特徴に言及しているものの,初回面接に限られたものである。

また,阿部(2009)は面接中に生じた否定的・消極的感情の扱い方と初心者セラピスト

のパーソナリティについて検討している。初心者セラピストの特徴と個人的特徴によって

否定的感情が強まり,セラピストの面接中の動きが制限されることがほとんどであると述

べる阿部(2009)であるが,そのなかにも,高い感情表現の調整能力により感情を適切に

表出するなどの個人特徴が面接を進展させる場合や,スーパーヴィジョンの中で否定的感

情に関して新たな視点や選択肢を取り入れることで面接が展開するケースも見出だすこと

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ができる。

これらの初心者セラピストの経験する困難さや否定的感情に関する知見から,初心者の 困難さの背景として知識・経験不足である初心者としての自分自身への不確実感があるこ と,そしてその背景によって自らの行動への疑惑を抱くこと,情緒的な不安定さ,他者評 価の懸念,治療やセラピストの役割に対する過剰な期待といった初心者の特徴の存在がう かがわれる。また,困難さを乗り越える支えとなるものとして,阿部(2009)に見られる ように個人的特徴の他にも個人内でのふり返りやスーパーヴィジョンがあることが想定さ れる。さらに,小俣ら(2007)に見られるように初心者も職業人としての問題に直面する であろう。しかし,岡本(2007)に示されるように自分自身の力量や経験に不安を示すの が初心者の特徴であるし,心理的援助活動は心理臨床活動の中核であり,また,心理臨床 家としての技量や経験が試される領域であるためアイデンティティの基盤を置きやすく

(鑪, 2000),実践における経験がセラピストとしての成長が大きく関与していると考えら

れるため,今回は岡本(2007)の指摘している職業人としての困難さではなく,実践の中 で経験する困難さについての検討を行う。また,初心者セラピストは情緒的な不安定さを 持ち合わせており,自らの感情に翻弄されやすいことが示されており(花屋・田上, 2007),

初心者の困難さは否定的な感情を伴うものであることが推測される。

第 4 節 陰性逆転移としての困難さ

セラピストの経験する困難さの代表的なものにセラピストの陰性逆転移の問題がある。

松木(1997)によれば,そもそも逆転移は,分析的な治療関係におけるセラピストの無意 識の病的な転移から生じてきている逆転移のみを指していたが,現在はセラピストに湧き 上がってくる感情や思考すべてを指し,無意識の逆転移とクライエントからのコミュニケ ーションに連動している逆転移とがあり,後者の一つは,セラピストの健康で正常な反応 としての感情であり,もう一つはクライエントからセラピストに投影/排出されてきたこ とでセラピストが味わう感情として理解されている。また,逆転移にはセラピストが陰性 感情を抱く陰性逆転移と陽性感情を抱く陽性逆転移の 2 種類がある。このうち陰性逆転移 は,陰性感情を体験するためにセラピストにとって困難な体験として認識されやすいこと が想定される。他方,セラピストの陽性逆転移もセラピーの阻害要因となりうる側面を持 つことが指摘されている(中村,2001)が,クライエントの理解や受容及び共感を生む上 で,また,ラポール形成の上でも基盤にもなる陽性感情(ラッカー,1982)は困難さと認 識されにくいと思われ,本論においては陰性逆転移のみを取り上げる。

陰性逆転移の扱いに関する研究として,逆転移を「治療者と患者との意識的・無意識的 相互作用交流において生じた治療者のすべての感情反応」として捉え,治療者が抱く陰性 感情により治療が行き詰った事例と,陰性感情を抱きつつも治療が進展した事例を整理し,

陰性感情を克服・活用するための要因について検討した遠藤(1997)や,自らのカウンセ

(14)

リングの中で生じた陰性逆転移について詳述している富樫・寺田(2001)がある。

遠藤(1997)では,治療者としての役割意識を持つことや,適切なアセスメントが出来 ているか,治療者が素朴な援助欲求に基づく援助が出来ている,などの要因が治療者の陰 性感情を治療の「道具」として活用するために役立つことを述べている。また,富樫・寺 田(2001)においては,セラピスト自身の教育分析を契機に陰性逆転移を理解し,治療が 展開していった過程を記述している。これらの中では,自身の陰性逆転移に気づき,距離 を保つことで,クライエントやカウンセリングで生じる相互作用を理解し,面接が進展し ていくことが論じられている。

否定的感情について理解し直すことは陰性逆転移を扱った論考以外でも論じられている。

角田(1998)は,共感的理解のために否定的感情について理解し直すことを提唱する。共 感について角田は,“セラピストの体験として自我親和的に聞くことのできる場合は,過去 の経験が想起されたり,創造性が機能し,「その場に居合わせる観察者」の位置に比較的立 ちやすい。しかし,自我違和的な体験が生じる時は,セラピストは「その場に居合わせる 観察者」の位置になかなか立つことができず,居心地悪さを経験することになり,その体 験を「とらえ直し」の作業にかけることで,怒りや虚脱感,焦燥感,優越感あるいは注意 力の低下や眠気といった一見共感と思われない体験が,クライエントの無意識にある過去 の外傷的な体験や,内的な自己や対象の役割,葛藤状況の再現であったり,セラピストへ の無意識のメッセージ,あるいはそれらが混合したものだと認識されるなど,クライエン トとの関係の中に位置づけられる可能性が生まれ,共感的理解へとつながる”,と述べてい る。この居心地悪さを「とらえ直し」,クライエント理解につなげる過程は,陰性逆転移を 理解し,治療を展開していく過程と類似している。

以上から,セラピストに否定的感情が湧き起こった際には,否定的感情と距離を保ち,

そしてとらえ直すことで,セラピスト側の背景や,その感情を引き起こしたクライエント の理解,そしてカウンセリング場面での相互作用の理解が促され,面接の進展に役立つと 思わる。しかし,ある程度経験を積んだセラピストにおいても陰性逆転移や否定的感情の 扱いに苦難している様子がうかがえ,初心のセラピストならばなおさら苦労することが容 易に想定される。また,困難な体験は,特に面接場面における困難体験は,セラピストと しての自己が曖昧な初心者にとっては,セラピストである自分自身が揺らぐ体験となるこ とが推測させる。そのような体験は否定的な感情が伴うであろう。

第 5 節 心理臨床非専門家の困難さ

初心者が直面した困難さの対処に苦慮している様子は,これまでの文献展望の中で示さ

れている。その中で面接を進展させるのには,直面している困難さやセラピストに生じる

否定的感情にばかり目を向けているのではなく,それらがどうして生起するのか,自身の

内面や背景に着眼点を変えていかなければならず,この点はどのような個人的特徴をもつ

(15)

セラピストにも共通している。だが,これだけが否定的感情を乗り越えていく方法なので あろうか。遠藤(1995)は, “基本技術が習得されていない段階で生じた陰性感情は,主に 治療者個人の問題に由来する未熟な反応と臨床場面への新奇反応であり,治療資源として は乏しい”と述べていることからも,初心者自身の否定的感情に深く焦点を当て,見つめ 直していくことはセラピストとしてもちろん必要なことではあるが,その他の可能性を見 出す必要があると考える。その一つの可能性を心理臨床の非専門家から見出すことができ る。

専門的トレーニングや学習を行っていない非専門家による心理臨床活動の実践として,

心理学を専攻しておらず,相談業務にも携わったことのない非専門家相談員が相談業務を 行う「学習相談員」 (櫻井,2000)や,不登校児童生徒が通う適応指導教室に派遣され,不 登校児童生徒とともに活動する適応サポーター(豊嶋・長谷川・加川, 2002;豊嶋・近江・

斉藤,2004;長谷川,2002)が例として挙げられる。

このような心理臨床の非専門家が経験する困難さとして,櫻井(2002)では,非専門家 相談員が大学生活に戸惑いや不安を感じて来談する,自らの体験では馴染みのない来談学 生の姿や,多分に曖昧さ・複雑さを含み,簡潔に定義されえない「学習相談員」の業務内 容に意外性を感じていることや,非専門家相談員は来談学生に虚心坦懐に関わるために,

無自覚のうちに転移・逆転移に巻き込まれ,振り回されて苦労している,という困難さが 示されている。

また,豊嶋ら(2002)と豊嶋ら(2004)は,適応サポーターとして派遣されている対人 支援職志望学生の発達過程について検討しているが,その中では,サポート初期において,

不明確な役割像のためにどう関われば良いのかと戸惑い,自己不確実感に苦慮するサポー ターの様子が見られる。そして,豊嶋ら(2002)は,サポート開始当初の不明確な役割像 による自己不確実感が生じ,自分自身の内面に関心焦点を当てていたサポーターが,自ら の役割像を明確化できると通室生の成長に焦点が移行する過程があることを見出している。

また,指示・指導者役割で関わった失敗感や通室生の反応による困惑といった自己不確実 感にサポーターが直面し,その自己不確実感を乗り越える一つの契機として,通室生の内 面に焦点を当てる「他者へのまなざし」という「視点転換」があった(豊嶋ら,2004)。こ の成長過程は,自身の居心地悪さに焦点を当てつつもそこに深入りするのではなく,通室 生の内面へと「視点転換」することで通室生との関わりを進展させていったと見ることが でき,逆転移や否定的感情を理解していく過程以外の関係進展の方法,すなわち,セラピ スト自身ではなくクライエントの内面に視点転換する方法も有効であることを示唆してい る。もちろん,初心者セラピストと適応サポーターとには専門的訓練に差がある。しかし,

心理臨床という領域に初めて足を踏み入れた者という点では両者は共通しており,適応サ ポーターから得られた知見は初心者セラピストにも応用可能であると考える。

また,前述の逆転移における否定的感情の背景を探る動きについても,否定的感情から

自己の内面への「視点転換」として捉えることができる。さらに,阿部(2009)に見られ

(16)

たスーパーヴィジョンを通して否定的感情に関する新たな視点を取り入れることも,スー パーヴィジョンが「視点転換」を促す要素であること捉えることができる。

視点転換の有効性の指摘は福井(1990)にも見出すことができる。福井は,一般に,不 快な感情は有機体にとって知覚されている対人関係や置かれている環境が望ましくない状 態であり,進行中の行動が適切でないことを知らせる信号だと述べ,状況や行動を変えず に感情だけを操作して快い感情を求めることは現実を無視することととなり,行動を変え ることによって不快な感情を処理すべきだと指摘している。さらに,不快な感情を扱う際 のポイントとして,自分を客観化し,違った視点から状況や人間関係を見直し,欲求を修 正し,行動を調整すべきであると述べており(福井,1990),物事を見る視点を変える必要 性を示している。また,木村(2006)は,不適切な感情制御の方略として,ネガティブ感 情の表出・発散,ディストラクション,再評価,考えること,運動やリラクゼーション,

社会的サポートの 6 つの知見を紹介している。このうちのネガティブな出来事や感情から 無関連なものに注意を移し,ネガティブな対象から気を逸らし,そのことに関する反芻を 防ぐディストラクション(木村, 2006)は,否定的な感情から注意を逸らすという点で「視 点転換」として捉えることできる。ここからも,状況や人間関係など自らの感情以外のも のに「視点転換」することが,否定的感情の変容につながると考えられる。

第 6 節 本研究の目的

これまでセラピストの陰性逆転移を含む困難さを竹森(1999),角田(1998)にならって

「居心地悪さ」として括った上で,文献展望を行ってきた。にさらに初心者セラピストの 場合,自身の感情に翻弄され,認識し損なう場合もある(花屋・田上,2007;山本・花屋,

2009)ことや,基本技術が習得されていない段階で生じた否定的な感情は,主にセラピス ト個人の問題に由来する未熟な反応と臨床場面への新奇反応であり,治療資源としての価 値には乏しく,セラピストの感情体験を論じるには,セラピストがセラピストとして機能 し得る最低の技術を身につけていることが前提となる(遠藤,1995)との指摘から,明確 に認識される否定的感情もそれ以前の当惑も,感じている最中は居心地悪いという点で共 通すると考えられる。これらを踏まえ,初心者セラピストがどのような「居心地悪さ」体 験を経験し,どのようにしてその体験を乗り越えていくのか,その道程を明らかにするこ とを本研究の目的とする。またその際,第 5 節において指摘したように, 「視点転換」が「居 心地悪さ」体験を乗り越える有力な契機としてあること想定される。 「居心地悪さ」体験を 乗り越える過程の中で,初心者セラピストにとって「視点転換」が有効な契機となりうる のか,なりうるとすればどのような「視点転換」が用いられているのかについても検討を 行う。

また,本研究では初心者セラピストとして,臨床心理学を専攻する大学院生,ないし臨

床心理学を専攻する大学院を経て心理臨床職に従事して間もない臨床家を対象者として取

(17)

り上げる。初心者,熟達者の定義はこれまでも課題として取り上げられているものの,現 在においても不明瞭なままであり,本論においてもその定義を明確に提示することはでき ないが,少なくとも大学院で臨床心理学を学ぶ大学院生は心理臨床領域に足を踏み出した 初心者であると言えるだろう。

本研究では,質問紙調査と面接調査を実施し,その両面から初心者セラピストの経験す る「居心地悪さ」体験とその変化について検討を行う。質問紙調査によって,面接場面に おける具体的な居心地悪さと居心地悪さが変化する契機について探索し(第 2 章),形容詞 対への評定から居心地悪さのカテゴリーと居心地悪い面接場面の特徴について検討を行う

(第 3 章)。さらに,第 4 章では面接調査によって詳細なエピソードを収集し,質問紙調査 から得た知見を用いて,面接中の「居心地悪さ」体験とその変化の過程,及び「視点転換」

がどのように用いられているのかについてより詳細な検討を行う。

(18)

第 2 章 質問紙調査からみる居心地悪さと変化のきっかけ

第 1 節 目的

第 2 章では,初心者セラピストが面接場面で体験する「居心地悪さ」体験とその経過に ついて,質問紙調査によって検討する。その際,「居心地悪さ」体験にはどのようなものが あるのか,その具体的な内容と居心地悪さが変容する過程にどのような契機があるのか,

初心者自身は何を変化のきっかけとして捉えているのかについて探索する。

また,文献展望から想定された,「居心地悪さ」体験への対処方略としての「視点転換」

が行われているかに関しても検討を試みる。

なお,質問紙では居心地悪さを「落ちついて面接に臨むことのできない状態」と表現し た。例えば,角田(1998)の述べる, “クライエントの気持ちが感じられない「共有不全経 験」や,集中力が続かない,眠気に襲われる,苛々して叱咤激励したい気持ちになる,無 力感にさいなまれてセラピストとしてやっていけない気持ちになる,クライエントに対し て攻撃的な気持ちになるなど,セラピストにとって骨の折れる体験をセラピストにとって 居心地の悪い体験”などは,セラピストが落ち着いて面接に臨むことのできない状態を作 り出すと考えたからである。

第 2 節 方法 2-1.対象者

臨床心理学を専攻し,大学付設の相談室で臨床活動を行う 6 校の大学院生に調査を依頼 し,24 名(男性 6 名,女性 18 名)から回答を得た。

対象者の相談室でのケース担当歴は 4~28 ヶ月であり( M =9.4 ヵ月, SD =5.4),調査時 まで 1~7 件のケースを担当していた。

2-2.方法

自由記述による質問紙法を実施した。居心地悪さを「落ちついて面接に臨むことのでき ない状態」と定義し,これまでのケース担当において居心地悪さを感じたエピソードを最 も強く居心地悪さを感じたものから順に最大 3 つ想起してもらい,各エピソードに関して 以下の設問の記述を求めた。

1.居心地悪さが生じた経緯・状況

2.感じた居心地悪さが何に対するどのような思い・感情だったか

3-1.居心地悪さがどのように変化したかについて, 「1:すぐに解消」 「2:少しずつ低下」

「3:弱まったり強まったりしながら持続」 「4:変わらずずっと持続」 「5:少しずつ

増強」「6:その他」の 6 つの選択肢から一つを選択

(19)

3-2.変化した場合にはそのきっかけ

2-3.分析

各設問の自由記述を文意ごとに分割し,1 項目を 1 枚のカードに記述した。その後,KJ 法によりカードの分類を行った。なお,設問 3-2 において 2 項目を有効資料から除外した。

第 3 節 結果・考察

対象者から 49 のエピソードが得られた。これらのエピソードについて, 「2.感じた居心 地悪さが何に対するどのような思い・感情であったのか」,および「3.居心地悪さがどの ように変化したか,変化のきっかけ」の分析を行う。

3-1.居心地悪さの内容

(1)回答の分類

各エピソードの「2.感じた居心地悪さが何に対するどのような思い・感情であったのか」

について, KJ 法により, 【セラピストに起因するもの】 【クライエントに起因するもの】 【状 況に起因するもの】【その他】という 4 つのカテゴリーを得た(表 2-1)。

【セラピストに起因するもの】は,【①セラピストとしての根底的疑惑】【②どうすれば いいのか分からない戸惑い】【③うまくできないことへの否定的感情】【④セラピストとし ての行動への疑惑】という 4 つの小カテゴリーから構成される。 【①セラピストとしての根 底的疑惑】は,自分が本当にクライエントを受け持っていいのだろうかというセラピスト としての自分自身に対して疑惑を感じるものである。 【②どうすればいいのかわからない戸 惑い】は,面接中に何かしなければと感じるものの,どうしていいのか分からずに戸惑っ ている反応のまとまりである。【③うまくできないことへの否定的感情】に関しては,うま くクライエントと関わったり,行動できない自分自身に対して焦ったり,無力感など否定 的感情を感じているものである。また,【④セラピストとしての行動への疑惑】とは,クラ イエントに対して間違った対応をしてしまったのだろうかと,既にした自身のやり方に不 安を感じる反応である。

【クライエントに起因するもの】は,【⑤クライエントの言動】【⑥クライエントへの否 定的感情】【⑦面接のやりづらさ】【⑧来談動機の分からなさ】【⑨カウンセリングの無意味 さ】 【⑩クライエントの居心地悪さの伝染】という 6 つの小カテゴリーから構成されている。

【⑤クライエントの言動】では,居心地悪さを感じた時のクライエントの言動について述 べられている。 【⑥クライエントへの否定的感情】とは,クライエントの言動に苛立ったり,

負担感を感じるなど否定的感情を抱く反応である。【⑦面接のやりづらさ】とは,カウンセ

リング的関わりが難しいクライエントに対する面接のやりづらさである。 【⑧来談動機の分

からなさ】は,毎回親に連れて来られるクライエントの来談動機がつかめずにいるもので

あり,【⑨カウンセリングの無意味さ】は,カウンセリグの継続をクライエントは望んでお

(20)

らず,カウンセリングの継続にセラピストが無力感を感じているものである。【⑩クライエ ントの居心地悪さの伝染】については,クライエントが感じている居心地悪さをセラピス トも感じ,居心地が悪くなる反応である。

表 2-1.居心地悪さの内容のカテゴリー

セラピストに起因するもの(36) 60.0%

①セラピストとしての根底的疑惑(3) 自分が本当にクライエントを受け持っていいのだろうかという不安

を感じるもの 5.0%

②どうすればいいのか分からない戸惑い(13) 何かしなければいけないがどうしていいのか分からず,戸惑うもの 21.7%

③うまくできないことへの否定的感情(15) うまくいかない自分自身に対する否定的な感情 25.0%

③-1.焦り(7) うまく関わることのできないことへの焦り 11.7%

③-2.劣等感(2) うまくできない自分自身への劣等感 3.3%

③-3.無力感(3) うまくできない自分自身への無力感 5.0%

③-4.不安(1) クライエントの来談動機をつかめない自分自身への不安感 1.7%

③-5.自己嫌悪(1) 間違った行為をした自分自身への自己嫌悪 1.7%

③-6.いっぱいいっぱいさ(1) クライエントを理解しようとするだけで精いっぱい 1.7%

④セラピストとしての行動への疑惑(4) クライエントに対して間違った対応をしてしまったのだろうかと自

身のやり方に不安を感じるもの 6.7%

クライエントに起因するもの(16) 26.7%

⑤クライエントの言動(4) 居心地悪さを感じた時のクライエントの言動について回答している

もの 6.7%

⑤-1.応答の少なさ(1) クライエントが問いに断片的にしか答えないことによるもの 1.7%

⑤-2.非難(1) クライエントが不機嫌になり,セラピストを非難したもの 1.7%

⑤-3.抵抗(1) なかなか面接室に移動しないクライエントに何かしなければと思

うもの 1.7%

⑤-4.類似の問題(1) クライエントの話から,セラピストが元々持っていた評価への不安

が触発されたもの 1.7%

⑥クライエントへの否定的感情(8) クライエントの言動に対して否定的感情を感じるもの 13.3%

⑥-1.苛立ち(7) クライエントに言動に対する苛立ち 11.7%

⑥-2.負担感(1) クライエントが同じことを繰り返すことへの負担感 1.7%

⑦面接のやりづらさ(1) カウンセリング的関わりの難しいクライエントに対する面接のやり

づらさ 1.7%

⑧来談動機の分からなさ(1) 連れられても毎回来るクライエントの来談動機がつかめないもの 1.7%

⑨カウンセリングの無意味さ(2) カウンセリグを継続することをクライエントは望んでおらず,カウン

セリングの継続にセラピストが無力感を感じているもの 3.3%

⑩クライエントの居心地悪さの伝染(1) クライエントの感じている居心地悪さが伝わってきたことによるも

1.7%

状況に起因するもの(6) 10.0%

⑪前回とのギャップ(2) 前回とは大きく異なるクライエントや面接の雰囲気にギャップを強

く感じたもの 3.3%

⑫第三者の存在による不自由さ(4) セラピストとクライエント以外の第三者の存在があることで,セラピ

ストが動きにくさを感じるもの 6.7%

その他(2) 3.3%

クライエントを,問題を抱えた「もの」であるかのように感じたもの 1.7%

不安 1.7%

( )内は項目数

(21)

【状況に起因するもの】は, 【⑪前回とのギャップ】と【⑫第三者の存在による不自由さ】

の 2 つの小カテゴリーから構成される。 【⑯前回とのギャップ】は,前回とは大きく異なる クライエントや面接の雰囲気にギャップを強く感じたものである。 【⑰第三者の存在による 不自由さ】に関しては,親子合同面接などセラピストとクライエント以外の第三者の存在 があることで動きにくさを感じるものである。

【その他】には,クライエントのことを問題を抱えた「もの」であるかのように感じた 反応と,単なる不安の 2 つが含まれている。

(2)初心者の特徴

今回得られた回答には,セラピストとしての不確実感に関する記述が多く見られた

(60.0%)。本当にセラピストとしてやっていってもよいのだろうか,何かしなければと感 じつつも,どうしたらいいか分からずに戸惑う様子は,セラピストとしての基準の曖昧さ が,セラピストという新しい役割を担ったばかりという事実から生じる自己批判や不信に よって一層高められるというザロ・バラック・ネーデルマン・ドレイブラット(1987)の 指摘とも合致する。今回の結果でも,セラピストとしての自分自身に対する疑惑,そして,

セラピストとしての行動基準の曖昧さによる困惑,という初心者セラピストの特徴が,面 接中の居心地悪さとして体験されていることが示された。ザロら(1987)の指摘と得られ たカテゴリーから,経験不足に対する自己批判や自己不信といった【①セラピストとして の根底的疑惑】を背景に,セラピストとしての行動基準の曖昧さの表れとしての【②どう すればいいのか分からない戸惑い】や【④セラピストしての行動への疑惑】が喚起された と示唆される。 (図 2-1)。また,フリードマン・カスロー(1990)が,心理療法を行う専門 家としてのアイデンティティには治療者としての自分に対する信頼である「治療者のアイ デンティティ」という側面が不可欠であり,不可視で簡単に信じることのできない心理療 法のプロセスを何度も経験し,「治療者のアイデンティティ」に到達することを指摘してい ることからも,【①セラピストとしての根底的疑惑】が戸惑いや行動に対する不安の背景に あることが考えられる。さらに,【②どうすればいいのか分からない戸惑い】は,結果とし てうまくできていない感覚をセラピストに与え,【③うまくできないことへの否定的感情】

を生じさせることが考えられる。

また,セラピストの不確実感に関する記述が多いことから,面接のうまくいかなさを自 分自身に帰属させて考える初心者が多いことがうかがえる。阿部(2009)は,調査時の初 心者の語りの特徴として,自分自身の出来なさや無力感から,面接での失敗をほとんど自 己に帰属させていたと述べる。また,初心者の失敗事例の特徴について考察している遠藤・

池田・石津・大島・千葉・内田(2010)においても,クライエントへの苛立ちや焦り,セ

ラピストとして機能していない無力感などの否定的感情でセラピストが手一杯になり,ク

ライエントの理解へとつながらず,中断へ至ったと内省するなど,セラピスト側に帰属す

る傾向が見出せる。

(22)

阿部(2009)は,周囲からの評価に対する懸念が初心者の行動を縛り,個人の統制を崩 すほどの刺激となりうることを指摘する。今回得られた【⑫第三者の存在による不自由さ】

は,他者に自分の面接を見られることで,上手くいかない不確実感や他者からの否定的評 価の恐れが喚起されたことが示唆される。この点について,ザロら(1987)は,他の人は 自分よりもうまくやっているという誤解や,否定的評価に対する恐れから,初心者が抱い ている恐れを口にすることができない場合があると述べる。自分自身への不信から同僚セ ラピストを高く評価しているのであれば,自分よりも熟練したセラピストとの合同面接で はさらに不自由さや評価への懸念は高まるであろう。

セラピスト起因の居心地悪さに次いで,クライエントに起因する居心地悪さの反応が多 く見られた(26.7%)。ここでは, 【⑤-1.応答の少なさ】 【⑤-2.非難】 【⑤-3.抵抗】 【⑧来談動 機の分からなさ】など,居心地悪さを生み出すクライエント側の要素が挙げられた。遠藤

(1993)にも,陰性感情が生じる場面の要素として,クライエントによるセラピストへ非 難・攻撃,クライエントの援助の拒否,クライエントの問題意識・自覚の程度が低く,動 機づけが低いことが示されている。セラピストが窮地に立たされるクライエントからの非 難・攻撃はもちろんであるが,クライエントの反応の少なさや動機づけの低さ,治療抵抗 は,初心者にはクライエントとの関係を築くうえで特に戸惑いを生じさせるものと考えら れる。

図 2-1.居心地悪さの具体的感情のカテゴリーの想定される関連性

また,今回得られたカテゴリーから,居心地悪さを感じさせた【⑤クライエントの言動】

から,セラピストの苛立ちや負担感などの【⑥クライエントの否定的感情】が生じる流れ,

セラピストに起因するもの

①セラピストとしての根底的疑惑

②どうすればいいのか分からない 戸惑い

③うまくできないことへの 否定的感情

④セラピストとしての行動への疑惑

クライエントに起因するもの

状況

に起因するもの

⑥クライエントへの否定的感情 ⑨カウンセリングの無意味さ

⑩クライエントの居心地悪さの伝染

⑪前回とのギャップ

⑫第三者の存在による不自由

⑦面接のやりづらさ

⑤クライエントの言動 ⑧来談動機の分からなさ

は想定される流れを示す

(23)

及びクライエントの来談動機が読み取れない【⑧来談動機の分からなさ】から次第に,カ ウンセリングそのものに意味を見出せなくなる【⑨カウンセリングの無意味さ】を感じる 居心地悪さの流れが見出される。

このように初心者セラピスト自身の不信や不確実感,クライエントへの否定的感情が多 く語られる中で,クライエントの居心地悪さに共鳴し,セラピストも共に居心地が悪くな るという反応も少数ながら見られ,これを【⑭クライエントの居心地悪さの伝染】と命名 したが,クライエントの感じているものを感じとったものであり,セラピストが抱いた感 情を述べている他のカテゴリーとは異質なものである。

3-2.変化のきっかけ

(1)回答の分類

「3-1.居心地悪さがどのように変化したか」の回答を整理したところ,次のような結果 となった(表 2-2)。全エピソード中, 「少しずつ低下」を選択したものが最も多く(40.8%),

次いで「弱まったり強まったりしながら持続(20.4%)」, 「変わらずずっと持続(16.3%)」,

「その他(12.2%)」,「すぐに解消(8.2%)」,「少しずつ増強(2.0%)」という順であった。

変化には,そのセッション中に徐々に居心地悪さが低下していったものや,数セッション を経て徐々に低下していくものもあり,変化にかかる時間には差異があるが,概ね少しず つ居心地の悪さが低下していったと認識される場合が多い。面接中に感じる居心地悪さは,

すぐに解消されるものではなくある一定期間持続的に抱くものであることが示唆される。

表 2-2.居心地悪さの変化の仕方

選択肢 n (%)

すぐに解消 4 (8.2)

少しずつ低下 20 (40.8)

弱まったり強まったりしながら持続 10 (20.4)

変わらずずっと持続 8 (16.3)

少しずつ増強 1 (2.0)

その他 6 (12.2)

合 計 49 (100)

次に,「3-2.変化した場合,変化のきっかけ」の項目について,「変化なし」と記述され ていた 4 項目を除き,KJ 法により分類を行った。その結果, 【セラピスト側の変化】 【クラ イエントの変化】 【状況の変化】 【関係性の構築】 【スーパーヴィジョン】という 6 つのカテ ゴリーを得た(表 2-3)。

【セラピスト側の変化】は,【①セラピストの気持ちの切り替え】と【②セラピストの関 わり方の変更】の 2 つの小カテゴリーから構成される。 【①セラピストの気持ちの切り替え】

は,クライエントやその状況を受け入れたり,セラピストが元の状態に立ち返ろうとする

など面接への臨み方を切り替えることで,徐々に解消されていった項目のまとまりである。

図 2-2.変化のきっかけのカテゴリーの想定される関連性  3-3.「視点転換」をめぐって  初心者が行う視点転換の試みと考えられるものとして, 【①-1.受け止め】と【①-3.立ち戻 りの試み】の 2 つを挙げる。 【①-1.受け止め】は,否定的感情に巻き込まれないための初心 者なりの無意識的な距離の取り方であると考えられる。ただし,積極的にクライエントの 状態に目を向け,クライエントを理解した上で現状を受け止めるのではなく,「焦っても仕 方ない」「ゆっくりやっていこう」など,簡単に進展しない面接の状況を

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