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熊本県の企業等における女性活躍推進の現状と課題

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Academic year: 2021

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(1)

1.研究目的

 平成 28 年 4 月,「女性の職業生活における活躍の 推進に関する法律」(以下「女性活躍推進法」)が成立

した.同法により,常時雇用者 301 人以上の一般事 業主には,①自社の女性の活躍に関する状況把握,課 題の分析 ②状況把握,課題の分析をふまえた「一般 事業主行動計画」の策定,社内周知,公表 ③行動計 画を策定した旨の都道府県労働局への届出 ④女性の

熊本県の企業等における女性活躍推進の現状と課題

八幡(谷口)彩子・森本 茉衣**

Women’s participation and advancement in the workplace in Kumamoto Prefecture:

Current conditions and issues

--Based on company surveys-- Ayako Yahata-Taniguchi and Mai Morimoto

(Received September 30, 2019)

 Although the Act on Promotion of Womenʼs Participation and Advancement in the Workplace was established in 2016, the progress of companies in Kumamoto has been slow.

 The objectives of this paper are to assess current conditions on womenʼs participation and advancement in the workplace, and to consider relevant problems in Kumamoto prefecture.

 To achieve these objectives and promote participation and advancement by women, we analyzed the action plans of two companies certified under the Act and seven that were not, conducing interview surveys over the period of October 23 to December 7, 2018.

 Our results were as follows:

 1) The percentages of women in managerial positions stood at 44.8% and 2.4% for two companies certified under the Act. Their action plans included work reform, reduction of overtime work, initiatives designed to increase the rate of female workers in managerial positions, etc. Both companies accomplished each of their goals.

 2) For seven companies not certified under the Act, the percentages of women in managerial position was low, at 0-6%. This was the case regardless of the fact that most of them included initiatives to increase the percentage of women in managerial positions. Two uncertified companies were unaware of the certification system.

 3) The percentage of women in managerial position at the Kumamoto Prefectural Office and Kumamoto City Office stood at 7.5% and 6.9% respectively. They set their goals high, for example, with a view to increasing the percentage of women in managerial positions, men taking childcare leave, and so on. They did not accomplish these goals, however.

 4) According to the Kumamoto Labor Office, only a small number of companies apply for certification in Kumamoto, because Kumamoto-based companies tend to lack interest in certification and the Act on Promotion of Womenʼs Participation and Advancement in the Workplace.

Key words : Act on Promotion of Womenʼs Participation and Advancement in the Workplace, Kumamoto Prefecture, company survey

熊本大学大学院教育学研究科

** 株式会社KIS

(2)

活躍に関する情報の公表が義づけられた.行動計画の 策定・届出をした一般事業主のうち,女性の活躍推進 に関する取組の実施状況が優良な事業主は,都道府県 労働局への申請により,「えるぼし認定」を受けるこ とができる.しかし,平成 30 年 12 月 31 日現在,全 国における行動計画届出企業は 22,106 社,認定企業 は 775 社であるのに対し,熊本県における「行動計画」

届出企業は 190 社,認定企業はわずか 2 社にすぎない.

 本研究の目的は,熊本県内の行動計画届出企業等へ の聞き取り調査をもとに,熊本県における女性活躍推 進の取組状況を把握し,課題を考察することである.

2.研究方法

 研究方法として,まず,熊本県内の企業等における

「一般事業主行動計画」の策定・届出状況とその内容 について,ホームページ等に公開されている情報の把 握・分析を行った.次に,「行動計画」の取組状況等 について,「えるぼし認定」企業(2 社),認定は受け ていないが「行動計画」を策定し,女性の活躍に関す る情報を公表している企業(7 社),特定事業主であ る熊本県庁及び熊本市役所を対象に,平成 30 年 10 月 23 日~ 12 月 7 日に聞き取り調査を実施した.調 査内容は,「行動計画」に盛り込まれた数値目標の達

成状況,「行動計画」に記された取組内容の実施状況,

今後の認定申請予定の有無とその理由等である(聞き 取り調査項目については表 2 を参照のこと).さらに,

認定企業を増やすための働きかけ等について,熊本労 働局への聞き取り調査を実施した.

3.結果と考察

(1)認定企業の女性活躍推進の取組状況

 熊本県内の認定企業 2 社の女性活躍推進の取組状況 に関する調査結果は表 1 に示すとおりである.

 表1によると,熊本県における認定企業 2 社の認定 段階は,A 社が 3 段階目,B 社が 2 段階目、事業内容 は,A 社が医療・福祉,B 社が建設業である.従業員 数は, 2 社ともに 301 人以上で, 「一般事業主行動計画」

の策定・届出が義務付けられている企業である.労働 者に占める女性割合は,B 社は 5.1%と必ずしも高く ない.女性が少ないからこそ女性正社員の数を増やし,

活躍しやすい企業にしようと取り組んでいると考える.

 つぎに, 「一般事業主行動計画」の目標を比較すると,

えるぼし認定 3 段階目の A 社は,平均残業時間の削 減に関する目標 1 項目のみが掲げられている.これは,

えるぼし認定を受ける前からすでに様々な取り組みを 行っており,女性の採用や管理職比率,継続勤務年数

1.認定企業における女性活躍推進の取組状況

A 社 B 社

認定時期 平成 29 年 2 月 平成 30 年 9 月

認定段階 3 段階目 2 段階目

事業内容 医療・福祉 建設業

従業員数(女性従業員数) 344(279)人 733(46)人 管理職の女性割合(業種平均) 44.3%(43.4%) 2.4%(2.2%)

「行動計画」の目標 職員全体の月平均残業時間を 5%

以上削減する.

①採用者に占める女性の比率を増 やす.数値として 10%以上を目指 す.②女性のリーダーを育成していく.

「行動計画」の数値目標 平均残業時間の削減 採用者・管理職に占める女性の増加

数値目標の達成状況 未達成だが達成間近 達成済み

認定の評価項目達成状況 全て満たしている. 採用の項目のみ未達成 目標達成に向けて努力したこと ・業務の見直しを行い効率的に働

けるように努力している. ・取組内容の実施に努めている.

「えるぼし認定」を目指そうと思っ た理由

・以前から働きやすい職場を作ろ うとしていたところ,認定基準を 達成していた.

・企業イメージ向上

・優秀な人材の確保

・女性社員のモチベーション向上

「認定」を受けた前後での社内での 変化や採用においての女性応募者

数の変化 ・女性職員が増加してきている. ・今年認定を受けたので現段階で の変化はない.

今後の課題 ・平均残業時間を各部署バランス

よく削減すること ・女性社員の職域を広げること

(3)

等が高い水準にあったためと考えられる.

 認定 2 段階目の B 社は,女性の採用と管理職に関 する目標を掲げている.女性の活躍推進・キャリアアッ プとともに,採用における女性の採用比率が低いこと から採用に関する数値目標が設定されたとみられる.

 つぎに,認定企業等における数値目標と取組内容の 達成状況を検討する.

 A 社の達成状況については,職員全体の月平均残業

時間を 5%以上削減するという目標に対し,前年より

平均残業時間が削減されてきているということである が,詳細なデータは示されなかった.計画された取組 内容は全て実施済みである.平均残業時間の削減を目 標に掲げ,仕事を効率的に行うために働く環境の整備 や残業を減らすための制度の充実が図られている.

 B 社については,採用者に占める女性比率を 10%

以上にするという目標が掲げられているのに対し,平 成 26 年度から 6.7%(1 名)⇒ 18%(2 名)⇒ 20%(3

名)⇒ 13%(2 名),と推移しており,目標を達成し

ている.登用制度の整備や職域の拡大等に取り組むこ とで,採用者に占める女性比率の増加が図られている.

2 つ目の目標である女性リーダーの育成に関しては,

数値目標の設定はされていない.このうち,B 社では,

女性リーダーを育成するために,管理職になろうとい う意欲と能力のある社員を発掘するために,女性中堅 層(10 名程度)に対して,課題発見・解決型の社内 研修を実施している.女性リーダー女性管理職数に変 化はないが,研修を行い,積極的に女性リーダー候補 者を選定し,候補者の育成・研修に力を入れていると いうことであった.

 2 社ともに,計画した取組を順調に実施しており,

数値目標の達成も近いことから,行動計画を策定する 時点で,達成可能な範囲内の目標設定と取組内容の策 定がされていることがわかった.

 認定企業 2 社のおもな調査結果は次のとおり.

① 管理職の女性割合は 44.8%と 2.4%で,いずれも業 種別女性管理職割合の平均値を上回っている.

② 「目標達成に向けて努力したこと」については, 「業 務の見直しを行い効率的に働けるよう努力してい る」という回答があり,女性だけではなく企業全体 を通して働きやすい環境にしようとしていること がわかった.

③ 「「えるぼし認定」を目指そうと思った理由」とし ては, 「企業イメージの向上」や「優秀な人材の確保」

という「えるぼし認定」のメリットが挙げられた.

他に,「女性社員のモチベーションの向上」という 回答があり,「えるぼし認定」を受けることが,女 性社員にキャリアアップへの意識の向上や働くこ とへのやる気の向上に繋がる可能性があると推察

される.「会社がよりよくなるためにえるぼし認定 を目指した」という回答と,「以前から働きやすい 職場を作ろうと尽力していたところ認定基準を満 たしていたため,えるぼし認定を受けた」という回 答があった.認定企業 2 社には,認定を意図的に目 指したのか,意図的に目指したわけではなかった が,すでにある程度の水準を達成していたため,認 定を受けることができたという違いがみられた.

④ 「「認定」を受けた前後での社内での変化や採用に おいての女性応募者数の変化」については,「える ぼし認定」を受けたことが休暇等の制度を周知させ るきっかけになっているということである.認定さ れたばかりで現在変化はみられないが,マスメディ アによる業界への影響は大きく,女性応募者の増加 が期待される.熊本県では 2 社しか認定を受けてい ないため,認定を受けた際にテレビや新聞などで取 り上げられることで,企業の認知度も上がることが 期待される.

⑤ 「今後の課題」については,「平均残業時間を各部 署バランスよく削減すること」「女性社員の職域拡 大」が挙げられた.今後は実績を維持するとともに,

さらに女性が活躍しやすく,全ての社員が働きやす い環境を作る方向を目指していることがわかる.

(2)未認定企業等における女性活躍推進の取組状況

 未認定企業等 7 社の調査結果を表 2 に示している.

 今回聞き取り調査を行った未認定企業等の事業内容 は,酪農,教育,卸売業・小売業,印刷業,運輸業,

金融業などである.従業員数は 9 名から 2,277 名まで と幅広い.行動計画の策定・届出が義務となっている 301 人以上の企業等は 4 社,努力義務となっている企 業等は 3 社であった.女性労働者の割合は,約 20%

~ 50%で,女性労働者数が公表されていない企業が

3 社ある.管理職の女性割合は, 0%が 4 社, 1%が 1 社,

6%が 1 社,「データなし」が 1 社であった.

 未認定企業等における「一般事業主行動計画」目標 については,目標を複数設定している企業が多く,積 極的に女性活躍推進に取り組んでいることが窺われる.

女性の採用や女性労働者の比率に関する目標が 5 社,

女性の管理職・役職に関する目標が 3 社,休暇に関す る目標 1 社であった.女性活躍推進の根幹となる女性 労働者の数や割合に関する目標を掲げている企業が多 く,未だ男女の労働者数に偏りがあることがわかる.

女性労働者数が半数に近づいてきている企業は,次の

段階として女性管理職に関する目標を掲げている.ま

た,休暇に関する目標のように,女性だけでなく会社

全体に関わる目標を掲げる企業は 1 社であった.これ

は,調査企業を選定する際に,女性の活躍に直接関わ

(4)

2.未認定企業の女性活躍推進の取組状況 C社D社E社F社G社H社I社 事業内容酪農教育卸売業,小売業印刷運輸業卸売・小売業金融業 従業員数(女性割合)9人(44%)2,627人(50%)314人(27.2%)283 6.731.4 パート78.7%)20182人(24%)2,277人(16.2 93.399.3 31.4% パート100%) 管理職数(女性割合)2人(0%)データなし94人(1.1%)女性0人(0%)データなし女性0人(0%)237人(6.2%) 平均勤続年数員:4.33  女性6.1データなし男性15.6 女性10.5データなしデータなし員:21.5  女性11.5総合職:男性17.1年 女性12 一般職:男性29.2年 女性15.4 事務職:男性19.9年 女性15.4 1ヶ月の 平均残業時間正社員0時間データなし14.1時間データなし9時間正社員20時間19.923.1 18.314 間 嘱託6.1時間

「行動計画」の 目標

①管理職(課長級以

上)に占める女性割 合を

30%以上にする.

②労働者の年次有給 休暇の年間平均取得 日数

(年休取得日数) 2日以上増加させ る.

教員に占める女性割 合を 17%にする.①女性管理職2 女性係長クラス5名.

②女性総合職比率 15%. ③男女ともに長く活 躍できる制度

・環境 づくり.

①女性正規社員プリ ンターオペレーター を1名以上育成する. ②女性正社員採用率 の向上.

①正社員運転士の採 用区分で取組前に比 較して女性の採用人 数を

1名以上増加さ

せる. ②同区分の採用者に 占める女性割合も 15%上げ る.

正社員に対する女性 比率を現在の

16%か 20%へ引き上げる.

①管理職に占める女性の割合を 8.0%以上とする.(平成26年度

5.2%) ②役職者に占める女性の割合を 20.0%以上とする.(平成26年度 15.9%) 数値目標の達成状況未達成未達成達成済み達成済み達成済み達成済み達成済み ・以前従業員数が301 「行動計画」を策定し た理由(従業員が・助成金受給のため該当せず該当せず 300人以下の企業等)

人を超えていた. ・企業

のイメージア プ・PR

・女性の活躍推進を行

うことで人手不足が 補える. ・社内の活性化

該当せず該当せず

目標達成に向けて 努力していること

・コミュニケーション をとる.・環境整備に力を入 ている.・取組内容の実施に めている.・女性が働きやすい 場環境の整備に努め ている.

・採用・働く環境・制 ・人の育成・人事 という5つの軸に力 を入れている.

・取組内容の実施に努 めている.・取組内容の実施に努めている. 「認定」の申請をしな かった(もしくは申

請したが認定に至ら なかった)理由 申請:無 理由

:認定を受ける

メリットを感じない ため 申請:無 理由

:準備や体制が

整っていなかったか ら 申請:無 理由

:えるぼし認定

の存在を知らなかっ たから 申請:無 理由

:認定基準を満

たしていなかったか ら 申請:無 理由

:認定基準を満

たしていなかったか ら 申請:無 理由

:えるぼし認定

の存在を知らなかっ たから 申請:無 理由

:認定基準を満たしていな かったから

今後の認定申請予定 の有無とその理由 申請予定:無 理由

:メリットを感 じないため

申請予定:有 理由

:準備や体制が 整い次第申請したい.

申請予定:有 理由

:認定の存在を 知り,基準も通りそ うな内容だったから

申請予定:無 理由

:認定維持のた

めの手間やコストが かかるから 申請予定:有 理由

:認定を受けら

れる状態にまで整え られたら

申請予定:有 理由:実績を積んで

経過を見ながら進め ていきたい.

申請予定:有 理由:勤続年数の改善ができれ ば申請を行いたい. 今後の課題特になし・仕事に復帰したく

も保育園がなく復帰 できない人が多いこ と

・従業員とその家族

幸せになれる会社に していくこと

・女性の管理職比率 労働時間など・仕事と家庭の両立を できる職場環境作り と育成の強化

場の)の

関係を強くすること ・社員

が全て女性の営 業所をつくること

・女性のキャリアアップ意識の育 成

(5)

る目標を掲げた企業を中心に選定・調査したためであ り,実際は会社全体に関わる目標を掲げる企業が多い.

 未認定企業等の行動計画を全体的にみると,目標も 取組内容も企業によって異なっている.えるぼし認定 を受けていないからといって,女性活躍推進の取組に 消極的なのではなく,各企業の労働者や労働環境に適 した目標設定がなされており,目標達成に向けて尽力 している最中と考えられる.

 未認定企業等における数値目標の達成状況は,現時 点で数値目標を 1 つでも達成している企業等は 5 社,

2 社は未達成であった.数値目標を達成している 5 社 のうち 2 社は数値目標を 1 つのみ掲げている.3 社は 数値目標を 2 つ掲げており,目標のいずれかが未達成 となっている.全企業において,未達成の数値目標に 年々近づいてはいるものの未だ達成には至っていない.

女性管理職割合の増加や正社員における女性割合増加 等は,短期間での改善が困難である.特に,女性管理 職に関しては,管理職候補者や管理職になりたいとい う意欲のある女性を育てる必要があり,短期間で増加 させるのは難しい.

 取組内容の実施状況としては,行動計画にある取組 内容をすべて実施している企業が 5 社,これから実施 予定という企業が 2 社であった.取組内容の一部しか 実施していない理由は熊本地震による影響ということ であった.また,計画を前倒しして取り組んでいる企 業もあった.

 未認定企業の数値目標と取組内容の達成状況を全体 的にみると,ほとんどの企業において,掲げた数値目 標や取組内容を達成もしくは達成予定の状況にあるこ とがわかった.「えるぼし認定」を受けてはいないが,

積極的に女性活躍推進に取り組んでいる.このように 積極的に女性活躍推進に取り組む企業があるにも関わ らず,熊本県の認定企業が増加しない理由として,認 定基準の水準が高く,認定が得られないことなどが考 えられる.また,「えるぼし認定」を知らなかった企 業が 2 社あったことから,認定に関する情報の周知に も課題があると考える.

 未認定企業等におけるおもな調査結果は次のとおり.

① 今回調査を行った 7 社中 3 社は従業員数が 300 人 以下で,「行動計画」の策定は努力義務になってい る企業である.何故,時間もコストもかかるであろ う「行動計画」の策定を行ったのかを尋ねたところ,

「助成金受給のため」「企業イメージのアップ」「人 出不足が解消される可能性があるから」等の回答が あった.策定理由はさまざまであるが,女性活躍推 進法に取り組むメリットにつながる意見が多かっ た.

② 「目標達成に向けて努力していること」については,

「女性が働きやすい職場環境の整備」(4 社),「取組 内容の実施に努めている」(2 社),目標達成に限ら ず,女性活躍推進に取り組むうえで努力しているこ ととして,労働者同士の「コミュニケーションをと る」ことや「採用・働く環境・制度・人の育成・人 事に力を入れている」などの回答があった.

③ 「認定」の申請をしなかった(もしくは申請したが 認定に至らなかった)理由については,今回調査を 行った全ての企業は「認定」の申請を行っていな かったことがわかった.その理由として,「認定基 準を満たしておらず,受けられる状態ではない」(3 社),「認定の存在を知らなかった」(2 社),「認定 を受けるための提出書類の準備が整わなかった」(1 社),「認定を受けるメリットを感じない」(1 社)

等が挙げられている.このことから,「えるぼし認 定」の課題として,認定の基準が高く,基準を満た すのが難しいことや認定に関する情報が周知され ていないこと,認定申請やデータ公表の煩雑さ等の 課題があると考える.

④ 今後の認定申請予定の有無とその理由については,

申請予定の企業が 5 社,申請予定のない企業が 2 社 であった.申請予定の企業のうち 4 社が「課題が改 善されたら申請を行いたい」と回答しており,すぐ に申請をできる状態ではないことが窺われた.申請 予定の 5 社のうち 1 社は,認定の存在をこの聞き 取り調査によって知り,基準を通りそうであるため 申請したいとのことであった.申請予定のない企業 の理由としては,認定を受けられたとしても認定を 維持する手間やコストがかかるという回答があっ た.一度認定を受ければ終わりということではな く,認定基準を常に満たしていなければならないた め,認定申請に足踏みしていることが窺われる.

⑤ 「今後の課題」としては,「従業員と家族が幸せに なれる会社にすること」「仕事と家庭を両立できる 環境をつくること」「女性だけの営業所をつくるこ と」などの今後どのような職場にしたいのかを回答 した企業がある一方で,女性のキャリアアップ意識 の形成や女性管理職比率の増加等,各社の行動計画 の目標に関する課題を挙げた企業もあった.課題等 は企業によって異なっているが,女性活躍推進に関 する取り組みを通して会社をより良くしていきた いという前向きで強い気持ちを感じた.

(3)熊本県庁・熊本市役所における女性活躍推進の取組状況

 特定事業主である熊本県庁・熊本市役所への調査結 果を表 3 に示している.

 これによると,管理職の女性割合は,熊本県庁が

7.5%,熊本市役所が 6.9%であった.1 ヶ月の平均残

(6)

業時間に両者の差はほとんどみられず,一般事業主と 比べても残業時間が短いとは言えない.育児休業取得 率については,ともに女性が 100%に近く男性は 0%

に近い.年次有給休暇の取得状況は,熊本市役所の方 が約 1.5 日多い.特定事業主として一般事業主のモデ ルと取組状況を期待していたが,一般事業主と大差な く,特定事業主の取組状況にも課題があると考える.

 熊本県庁及び熊本市役所が策定した「特定事業主行 動計画」の目標数は,熊本県庁が 10 項目,熊本市役 所が 6 項目であった.

 熊本県庁の行動計画は,女性活躍推進法が策定され たことを受けて,平成 27 年 4 月 1 日から平成 32 年 3 月 31 日までの 5 年間を計画期間として策定し推進さ れていた,次世代育成支援対策推進法(以下「次世代 法」)に基づく特定事業主行動計画を見直し改定した ものである.改定後の計画期間は平成 28 年 4 月 1 日 から平成 32 年 3 月 31 日までの 4 年間である.次世 代法と女性活躍推進法の内容を合わせた目標となって いるため,子育てに関する目標や休暇に関する目標が 多く掲げられている.

 熊本市役所の行動計画の計画期間は,平成 28 年 4 月 1 日から平成 32 年 3 月 31 日までの 4 年間である.

どちらも事前に行われたアンケート調査の結果を行動 計画に取り入れている.熊本県庁は平成 26 年 12 月 にアンケートを行い,課題を分析して行動計画に取り 込んでいる.また,熊本市役所は平成 26 年 9 月に行っ た,男女共同参画に関するアンケートの結果を一部取 り入れている.目標の内容としては,女性管理職割合,

男性の育児休業等取得率,時間外勤務がどちらにも共 通した目標となっている.熊本県庁は子育て制度の周 知率や行動計画の周知率等,すべての職員に周知する ことを目標に掲げている.

 全体的にみると,熊本県庁と熊本市役所の「特定事 業主行動計画」は,「一般事業主行動計画」と比べて,

目標数や数値目標数が多く,目標の水準も高く設定さ れており,一般事業主をリードするモデルになるもの と考える.

 しかし,熊本県庁・熊本市役所のいずれにおいても,

現段階までに数値目標は達成されていない.

 熊本県庁では,掲げられた数値目標 10 項目のうち 7 項目が未達成であり,3 項目は次回のアンケートに よって結果がでるため達成しているか判断はできない 状況である.未達成 7 項目のうち 3 項目は目標に接近 しており,達成の目処がたちそうな状況である.平成

3.熊本県庁・熊本市役所における女性活躍推進の取組状況

熊本県庁 熊本市役所

職員数 4,214 人 3,534 人

管理職の女性割合 7.5% 6.9%

1 ヶ月の平均残業時間 12.7 時間 11.2 時間

育児休業取得率 男性 0.0% 女性 100.0% 男性 0.9% 女性 99.3%

年次有給休暇取得状況 12.2 日 13.7 日

「特定事業主行動計画」

の目標

①時間外勤務時間を前年度と比べて減少 を継続する.

②全職員の年次有給休暇取得平均日数を 15 日にする.

③夏季休暇取得率を 100%にする.

④子育て関連制度の周知率を 100%にす る.⑤子育てと仕事の両立に対する不安を平 成 26 年度比減.

⑥男性の育児休業取得率を 13.0%にす る.⑦男性の育児関連休暇取得率を 100%に する.⑧役付職員に占める女性職員の割合を 24.6%にする.

⑨ 管 理 職 に 占 め る 女 性 職 員 の 割 合 を 10.0%にする.

⑩特定事業主行動計画の計画内容まで把 握している職員の割合を 100%にする.

①一般行政職における管理職の女性割合 を 10%以上とする.

②全職種における管理職の女性割合を 13%以上にする.

③教育職における管理職の女性割合を 16%以上にする.

④時間外勤務の目標値設定・進捗管理

⑤子どもの出生時における男性職員の 5 日以上の休暇取得率を 70%にする.

⑥男性職員の育児休業の取得率を 5%に する.

数値目標の達成状況 未達成 未達成

(7)

28 年度の時間外勤務の増加や年次有給休暇取得日数 の減少,夏季休暇取得率の減少は,熊本地震によって 震災復興業務が追加されたことによるものである.時 間外勤務は平成 28 年度に比べると減っているものの,

震災前に比べると依然として多く,目下の課題は時間 外勤務を震災前に戻すこととなっているようである.

目標とは程遠い結果が出ているものとして,男性の育 児休業取得率が挙げられる.年度によって取得率は異 なるが,近年最も取得率が高い年でも 5.9%と目標の

13%には届いていない.平成 29 年度は 0%で取得者

が 0 人であり,課題がある.

 熊本市役所では,数値目標を掲げた 6 項目のうち 5 項目で未達成であり,残り 1 項目は数値目標ではなく,

「実施済み」という状況である.未達成項目のうち 2 項目は目標値に接近しており,達成間近であるが,子 どもの出生時における男性職員の 5 日以上の休暇取得

率を 70%にするという目標達成には程遠い.

 熊本県庁も熊本市役所も男性の育児休業・休暇に関 する目標の達成が困難な状態である.女性管理職比率 については,どちらも目標に近づいている.女性管理 職候補など基盤となる職員の育成が以前から進められ ており,女性管理職数も増加している.一般企業にお いては数値目標を達成しているところが多かったが,

特定事業主である熊本県庁や熊本市役所では達成して いるものがなかった.その理由として,目標が高く設 定されていること,企業に比べて職員数が多いため,

取組内容を職員全体に周知し,行動につなげることが 困難であることが考えられる.また,一般事業主とは 異なり,認定制度が設けられていないため,目標の達 成への動機づけが難しい面があると考える.

 熊本県庁・熊本市役所の取組状況は次のとおり.

① 「目標達成に向けて努力していること」については,

熊本県庁・熊本市役所のいずれも「行動計画の各目 標に力を入れている」という回答であった.

② 「行動計画」策定前後における庁内・所内での変化 や採用における女性応募者数の変化については,熊 本県庁では庁内の雰囲気や職員の意識が変化した ことを挙げており,熊本市役所では女性管理職の横 の繋がりが強化されたことを挙げている.熊本県庁 では,行動計画の周知に力を入れているため,職員 の意識変化につながったのではないかと考える.

③ 今後の課題については,熊本県庁では,震災業務に よって増えた時間外勤務の削減と男性の育児休業 取得者増加,熊本市役所では,各目標を達成するこ とと,取組の職員への周知徹底,女性職員への啓発 や意識づけ,が挙げられた.

(4)熊本労働局への聞き取り調査結果

 認定企業と未認定企業等への聞き取り調査結果をふ まえ,熊本労働局に対して,企業等へのえるぼし認定 支援に関する働きかけや熊本県の女性活躍推進の課題 等に関する聞き取り調査を実施した.以下に,熊本労 働局への聞き取り調査結果について述べる.

 ①企業等の認定申請の状況

 認定申請をする企業は少ない.企業から申請があっ たが認定しなかったということはない.認定基準が通 るかどうかを事前に相談してきた企業は数社あるが,

認定を受けるのは難しいと判断し申請を断念している.

 ②認定申請の状況について

 「えるぼし認定」,女性活躍推進法に対する企業の関 心は低い.女性活躍推進法の施行日は平成 28 年 4 月 1 日であったが,平成 28 年 4 月 14 日に熊本地震が発 生したため,取組が進まなかったことも一因と考える.

 ③熊本県における認定企業数について

 熊本県の認定企業は現在 2 社しかなく,少ないので 増やしたいと考えている.

 ④「えるぼし認定」を受けるメリット

 企業のイメージアップ,優秀な人材の獲得,人材の 定着などがある.また,公共調達による加点評価,日 本政策金融公庫の低利融資,両立支援等助成金受給な どのメリットがある.

 ⑤えるぼし認定基準についての考え

 えるぼし認定基準の 5 つの評価項目のうち,基準を 満たさない項目については 2 年以上連続してその実績 が改善していることが,認定 1 段階目,2 段階目とも に必要であり,この条件により 1 段階目でさえも認定 を受けることが難しくなっている.また,その中でも 評価項目 1 の採用に関する基準を超えられず,認定申 請を諦める企業が多い.採用者数の少ない中小企業は,

年によって男女の競争倍率が大きく異なる.採用者数 は男女で同程度であったとしても,女性の応募者数が 多く,男性の応募者数が少ない場合は,女性の競争倍 率が高くなる.

 ⑥熊本県全体での女性活躍推進に関する課題  熊本県の女性雇用者の産業別構成比を見ると,医療・

福祉や卸売業・小売業において,女性雇用者の割合が 高い.男性がさまざまな業種で働いているのに対し,

女性が多く働く業種には偏りがあり,女性が働く業種 を拡大させていくことが重要となってくる.非正規雇 用者の割合も多いことから,正社員として継続就業す るための課題の解決に個々の企業が取り組むことを期 待したい.労働局としては,女性活躍推進に取り組む 意義の啓発やえるぼし認定の周知が課題である.

 ⑦熊本労働局としての企業等への働きかけ 

 「行動計画」の策定が義務づけられている企業の行

(8)

動計画策定率はほぼ 100%であるが,えるぼし認定企 業を増やすため,認定に関する周知を図ることに努め ている.労働局内外で「えるぼし認定」に関する説明 会を行う,ブライト企業に対して文書を送る,別件で の企業訪問の際に認定について案内を行う,チラシを 作成し配布する,等の働きかけを行っている.

4.まとめ

 調査結果をまとめると以下の通り.

① 熊本県における「一般事業主行動計画」の策定・届 出状況は,常時雇用者 301 人以上の企業 146 社中 145 社,300 人以下の企業 45 社であった(平成 30 年 12 月末現在).

② 熊本県における認定企業 2 社の事業内容は,医療・

福祉と建設業で,いずれも常時雇用者 301 人以上 である.管理職の女性割合は 44.8% と 2.4% であり,

いずれも業種別平均女性管理職割合を上回ってい る.「行動計画」の内容としては,残業時間の削減 などの働き方改革と,採用者や管理職に占める女性 の増加などを掲げており,1 社は数値目標達成済み,

もう 1 社は数値目標の達成間近であった.「えるぼ し認定」を目指した理由として,「企業イメージ向 上」「優秀な人材の確保」「女性社員のモチベーショ ン向上」等が挙げられた.

③ 今回調査を行った未認定企業 7 社は,雇用者数 301 人以上の企業 4 社,300 人以下の企業 3 社であった.

管理職の女性割合は 0% ~ 6%と低い.「行動計画」

の内容としては,採用者や管理職に占める女性割合 を数値目標に掲げる企業が多く,数値目標を 1 つ以 上達成している企業は 5 社であった.「認定」申請 を行っていない理由として,「基準を満たしていな い」という理由に加えて,「えるぼし認定を知らな かった」という企業が 2 社であり,認定に関する周 知不足がうかがわれる.「申請予定がある」と回答 したのは 5 社であった.

④ 特定事業主である熊本県庁と熊本市役所の職員数は,

いずれも 3,000 人をこえており,管理職の女性割合

は,7.5%,6.9%であった.「行動計画」には,管 理職に占める女性比率や男性の育児休業取得率の 数値目標のほか,子育て制度の周知率など多岐にわ たる目標が掲げられていた.目標の達成状況は,い ずれの数値目標も達成していない.認定制度が設け られていない特定事業主では,一般事業主に比べて

「行動計画」の目標水準が高く,内容も多岐にわたっ ており,職員数が多いために取組内容の周知が難し

いことなどがその理由とみられる.

⑤ 熊本労働局への聞き取りによると,熊本県において 認定申請をする企業が少ない理由として,「えるぼ し認定」や「女性活躍推進法」に対する企業の関心 の低さが挙げられた.労働局では,熊本における認 定企業を増やすために,「えるぼし認定」の説明会 や PR 活動を行っているが,どの認定段階において も基準を満たさない項目については,2 年以上連続 してその実績が改善している必要があるなど,認定 に関するハードルの高さも認定が進まない一因と 考えられる.

⑥ 今後の課題として,「女性活躍推進法」や「えるぼ し認定」に関する情報の周知や企業ごとの女性活躍 推進に対する意識改革に加えて,認定申請がしやす いよう制度の改善も求められる.さらには,「行動 計画」の策定・届出が義務付けられている対象企業 を現在の「常時雇用者数 301 人以上」から引き下 げていくことも望まれる.

 熊本県における女性活躍推進の環境整備が各所で進 められていくことを期待したい.

謝辞

 本研究にあたり,ご協力いただきました熊本県庁,

熊本市役所,熊本労働局,有限会社エッグ,国立大学 法人熊本大学,積水ヒノマル株式会社,トッパン・

フォームズ西日本株式会社,熊本電気鉄道株式会社,

熊日都市圏販売株式会社,株式会社肥後銀行,株式会

社 SYSKEN,医療法人春水会山鹿中央病院の皆様,

担当者の皆様に厚く御礼申し上げます.

おもな参考文献

1)井上仁志(2015)「女性の活躍推進に向けた雇用の現 状と課題 ―女性雇用の実態からの考察―」『大阪産業 大学経営論集』第16巻 第2・3合併号,pp.133-154 2)大束貢生(2016)「女性活躍推進政策の展開と課題」『佛

教大学総合研究所紀要』第23号,pp.31-45 3)厚生労働省 女性活躍推進法特集ページ 

h t t p s : / / w w w. m h l w. g o . j p / s t f / s e i s a k u n i t s u i t e / bunya/0000091025.html(20187月閲覧)

4)中小企業庁 中小企業・小規模事業者の数

http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/chu_

kigyocnt/2018/181130chukigyocnt.html

5)内閣府男女共同参画局(2016~2018)「男女共同参画 白書(平成28年版~平成30年版)」

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