• 検索結果がありません。

キュレーション・サービスによる新たな読書体験についての研究

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "キュレーション・サービスによる新たな読書体験についての研究"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1

キュレーション・サービスによる新たな読書体験についての研究 A Study on The New Reading Experiences by Curation Service

5117E004-5 今村 真 指導教員 長 幾朗 教授

IMAMURA Makoto Prof. CHO Ikuro

概要: 本研究は、従来の読書体験自体を改めて再考し、既存「読書」の枠に捉われない「新しい読書体験」につ いて検討しキュレーション・システム「

Qead

」という読書システムを提案したものである。卒業研究では、視線 追跡装置を用いた電子書籍アプリ

Eye Readear

を提案した。これは既存の電子書籍における読書をより良くする ための研究であったが、本論文では「読書」という大きな枠組みで問題を捉え直した。読書とは複数の本を多読 することによって、情報を獲得し自分の知見を多角的に深める行為であるが、従来の読書体験だと一人で完結し てしまう。これからの読書体験はそのような読者の思考の変遷を他の読者とソーシャルに共有することによって 相互に影響される新たな体験であるべきと考察し、筆者はそれを「キュレーション」と定義した。本論文では実 験によって被験者に

Qead

を体験してもらい、新たな読書体験の有用性を検証した。

キーワード:キュレーション、読書、ソーシャル

Keywords:Curation, Reading, Social

1.読書体験の変革

本というメディアはフィジカルなメディアか らデジタル化によってよりフレキシブルなメデ ィアとして変革を迎える過渡期に来ている。情報 を取得するだけだった形態から発展し、自分が情 報を他の読者に与える側になったり、他者とのコ ミュニケーションを創出するような形態に変わ っていくことが考えられる。しかし今の電子書籍 は既存の本というメタファを捉われ過ぎていて デジタル化されたことによるフレキシビリティ を殆ど活かせていないのが実情である。他の産業 に目を向けると、Spotify によって音楽を聞く体 験が、Netflix によって映像を観る体験が大きく 変わった。それによって産業の構造も変革してき ている。書籍を読む体験は他の産業と比べてもま だ発展途上の段階にあり、他の産業のように電子 書籍の特性を活かした読書体験というものを再 考しなければならないだろう。

2.「キュレーション」という読書体験 我々人間は、古来より粘土板やパピルスなど 様々なメディアに情報を記録し、またそれらから 情報を獲得して発展してきた。増え続ける情報を 管理するためにテクノロジーの発展やイノベー ションが起きて本というメディアが確立し、そし て物質化したメディアが非物質化したメディア へ と 発 展 し た 。 既 存 の 読 書 サ ー ビ ス で あ る Kindle Unlimited と Glose について考察した結

果、様々なユーザーをソーシャルに結びつける要 素があることが分かった。しかし一方で古くから 続く物質的なメディアの紙の本をメタファとす るあまり本がそれぞれ乱立した状態であり相互 に関連しあっていない。これからの読書体験とは、

読者が本から得た情報を元に読者の思考の変遷 を共有し他人へ影響を与えるものと変化する。筆 者はこれを「キュレーション」と定義し、ソーシ ャルな読書体験によって本は一冊という単位か らコンテンツとコンテンツが関連し結びつきネ ットワークを構築するものとなるだろう。読者に よって常にネットワークが更新され、キュレーシ ョンを通して情報が管理され、より情報を獲得し やすくなるだろう。

3.読書システム「Qead」の提案

本とそれに伴う読書体験の変革による考察を 元に、読書システム「Qead」を提案する。

1. Qead

の概念 (今村、2019)

(2)

2 Qead は書籍から得た情報を元に読者の思考の変 遷を共有するシステムだ。これによって読者はソ ーシャルに結びつき、従来の読書体験とは違った 新しい読書の在り方となる。読書し、思考の変遷 をキュレーションとしてまとめ、他の読者とそれ を共有することによって読書体験を活性化させ ることが大きな狙いの一つである。Qead の特徴 は本一冊と本一冊が二次元的に関連づけられて いるのではなく、本のコンテンツと本のコンテン ツが三次元的に関連づけられていてネットワー クが形成される点だ。

4. 実験・考察

実験では、提案した「Qead」のシステムを検証 し、キュレーションという新たな読書体験がどの ように読者相互に影響を及ぼすかを調査し読書 体験全体の評価を行った。一次実験では用意した デザインに関する 30 冊の本を 30 分間自由に選読 し、その後キュレーションを作成してもらった。

二次実験では作成したキュレーションを被験者 に閲覧してもらい、全体を通したキュレーション による読書体験についての評価をアンケート調 査した。実験の結果より、従来の読書の体験と違 い、提案したキュレーションによる読書体験に対 して好意的な意見が多数集まった。他者のキュレ ーションを閲覧することによって自分の知見を 深めたり、興味関心を広げることができるシステ ムであり、新たな読書体験として有用性が示され た。また被験者によって関連付けられたキュレー ションの相関図が図 2 になる。

2.

キュレーション相関図(今村、2019)

被験者が全てのキュレーションと自分のキュ レーションと比較し「近い」と「遠い」という尺 度で 3 つまで選んでもらった。この相関図は線で 結ぶことによって近さを、オブジェクトの位置関

係によって遠さを表している。なお太い線はキュ レーション作成者相互に近いと評価したことを 意味する。図 2 から、4 番と 13 番のキュレーシ ョンは遠隔に位置しているが、選読した本が 2 つ被っている。この図からも二次元的な関連付け による推薦ではなく、取り扱うコンテンツに寄り 添ったキュレーションを推薦が可能となり、それ に伴い次に読むべきコンテンツの指針が立つと 考えられる。リンクが近接するキュレーションを 読むことによって手軽に素早く自分の知見を深 めることができ、また遠隔に位置するキュレーシ ョンを読むことによって自身の興味・関心の幅を 広げることが可能となると考えられる。

5. まとめ

書籍のコンテンツをトピックやテーマによっ て分け読者自身が再編集して閲覧可能にするこ とを目的とした

Qead

というシステムは断片的 ではあるがある程度の情報を共有することが可 能となった。それらによって本の表紙やタイトル からは想像できない情報を知るきっかけとなり 読者の知見を深めたり、関心や視野が広がること が分かった。本実験では、著作権の関係上

Qead

のシステムを実書籍を利用して擬似的に作り出 した。今後、読者がすぐに情報を得たいと思った 時に必要となる情報をすぐに閲覧できる状態を 作らなければならない。キュレーションのみによ る情報収集ではなく、平行して書籍とキュレーシ ョンの連携を図り、相互にアクセスし閲覧しやす くする必要がある。そのためには各出版社の協力 が不可欠であり、書籍を電子化しコンテンツによ って部分的に閲覧可能にする段階に進まなけれ ばならないだろう。

参考文献

1.

ケヴィン・ケリー『<インターネット>の次来る もの 未来を決める

12

の法則』

(NHK

出版、

2016

年)

2. 海保博之、原田悦子、黒須正明『認知的インター フェース』(新曜社、1991 年)

3. ヒュー・マクガイア、ブライアン・オレアリ『マ ニフェスト 本の未来』(ボイジャー社、2013 年) 4. テッド・ネルソン『リテラリーマシン ハイパー

テキスト原論』(アスキー出版、1994 年) 5. 松岡正剛『情報の歴史 ——象形文字から人工知能

まで』(NTT 出版、1996 年)

6. 松岡正剛『情報の歴史を読む ——世界情報文化史

講義』(NTT 出版、1997 年)

参照

関連したドキュメント

従って、こ こでは「嬉 しい」と「 楽しい」の 間にも差が あると考え られる。こ のような差 は語を区別 するために 決しておざ

睡眠を十分とらないと身体にこたえる 社会的な人とのつき合いは大切にしている

 手術前に夫は妻に対し、自分が死亡するようなことがあっても再婚しない

この 文書 はコンピューターによって 英語 から 自動的 に 翻訳 されているため、 言語 が 不明瞭 になる 可能性 があります。.. このドキュメントは、 元 のドキュメントに 比 べて

る、関与していることに伴う、または関与することとなる重大なリスクがある、と合理的に 判断される者を特定したリストを指します 51 。Entity

このように資本主義経済における競争の作用を二つに分けたうえで, 『資本

点から見たときに、 債務者に、 複数債権者の有する債権額を考慮することなく弁済することを可能にしているものとしては、

参加者は自分が HLAB で感じたことをアラムナイに ぶつけたり、アラムナイは自分の体験を参加者に語っ たりと、両者にとって自分の