多目的フィードフォワード制御による 磁気ディスク装置のショートシーク制御
1. はじめに
磁気ディスク装置(HDD)の磁気 ヘッド位置決め制御系には,ms オー ダの高速性と nm オーダの精度とい う,高い制御性能が要求される.この 要求を満たすため,現在までに先進的 な制御理論・設計手法が積極的に適用 されてきた.
中でも 1~数百トラック間の移動を 行うショートシーク制御(図 1)は,
さまざまな制御系設計手法や最適化計 算が適用しやすいことから,多数の研 究成果が報告されている.本稿では,
これらの一部と,筆者らが提案する多 目的制御による設計手法を簡単に紹介 する.
2. 現在までの研究
ショートシーク制御系の先導研究 は,フィードフォワード制御入力(以 下,FF 入力)の生成方法に関するも のが多い.まず,FF 入力の加速度変 化率(以下,JERK)を最小化するこ とによって,制御対象であるキャリッ ジの機械共振励起を防ぎ,シークの高 速化と高精度化を図る手法が挙げられ る(1).文献(2)では,FF 入力のパワー スペクトルを機械共振周波数で局所的 に低減することによって,より高精度 なシークを実現できることが報告され ている.また,ディジタル制御系の観 測周期と制御入力周期が異なるマルチ レート制御の応用として,N-Delay 制 御を用いたシーク騒音の低減化手法が 文献(3)で,完全追従制御によるシー ク高速化手法が文献(4)で提案され ている.
3. 多目的制御による FF 入力の 設計
以下から,筆者らが提案する FF 入 力の設計手法について簡単に紹介する.
提案する設計手法は,シークの高速 性に関する仕様を H2ノルム,FF 入 力の周波数成分に関する仕様を H∞ノ ルム,入力波形の滑らかさに関する仕 様を JERK によって与える,多目的 フィードフォワード制御である.
図 2 に多目的 FF 制御の評価システ ムを示す.図中 F(z)が設計すべき フィードフォワード制御器であり,イ ンパルス入力が印加されると FF 入力 を出力する.図 2 のシステムでは,ま ず,FF 入力を制御対象モデルに入力 して得られるシーク軌道と,目標ト ラックとの差の 2 乗面積,すなわち H2ノルムを評価し,シークの高速化 を図る.同時に,制御対象の共振周波 数でゲインを高く設定した周波数重み 関数を用い,F(z)の H∞ノルムを評 価する.これによって,共振周波数に おける FF 入力のパワースペクトルが 低 減 さ れ る. さ ら に,FF 入 力 の JERK も評価し,加減速の激しい切換 えがない,滑らかな入力波形を得られ るようにする.以上,三つの評価項目 を同時最小化する最適化問題を解くこ とによって,目標トラックに高速に シークし,かつ機械共振を励起しない,
滑らかな FF 入力(フィードフォワー ド制御器)を求めることができる.な お,上記の最適化問題は LMI(線形 行列不等式)として定式化され,容易 に解くことが可能である.
図 3 に提案する多目的 FF 制御を実 際の HDD に適用したときの,シーク 軌道と目標トラック到達後のヘッド位 置の残留振動スペクトルを示す.図中 実線が多目的 FF 制御による応答であ るが,従来技術である JERK 最小化 制御(点線)と比較して,目標トラッ クにより高速にシークし,かつ機械共 振の残留振動を低減できていることが わかる.
4. おわりに
本稿では HDD のショートシーク制 御についての先導研究と,筆者らが提 案する多目的制御による設計手法の紹 介を行った.今後も,より高速・高精 度なシークを実現するため,先進的な 制御理論の応用が期待される.
(原稿受付 2008 年 9 月 26 日)
〔石原義之 (株)東芝研究開発セン ター 機械・システムラボラトリー〕
( 1 )Mizoshita, Y. ほ か,Vibration Minimized ●文 献 Access Control for Disk Drives, IEEE Trans. Magn., 32-3(1996),1793-1798.
( 2 )平田光男・ほか,終端状態制御によるハー ドディスクのショートシーク制御,電気学 会論文 D,125-5(2005),524-529.
( 3 )高倉晋司,N-Delay2 自由度制御による目標 値追従システムの構成と磁気ディスク装置 への応用,電気学会論文集 D,119-5(1999),
728-734.
( 4 )藤本博志・ほか,マルチレートサンプリン グを用いた完全追従制御法による磁気ディ スク装置のシーク制御,電気学会論文集 D,
120-10(2000),1157-1164.
図 1 ショートシーク制御
1〜数百トラック
磁気ヘッド ディスク
ボイスコイル モータ
キャリッジ
ショートシーク制御
図 2 多目的 FF 制御の評価システム
−
周波数 重み関数 制御対象 モデル 目標トラック
シーク FF入力 軌道
H₂ノルム の評価出力
(シーク高速性)
H∞ノルム の評価出力
(共振励起防止)
JERK の評価出力
(入力の滑らかさ)
F(z)
ステップ 関数 インパルス
入力
フィードフォワード 制御器
同時最小化
+
図 3 シーク軌道と残留振動スペクトル
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 0
1 2 3
60 50 40 30 20 10 0
時間(サンプル数)
残りトラック
0 1 000 2 000 3 000 4 000 5 000 6 000 7 000 周波数(Hz)
残留振動スペクトル(dB)
多目的FF制御
JERK最小化制御
機械共振の残留振動を低減
日本機械学会誌 2009. 2 Vol. 112 No.1083