学位申請論文
インプラント術前検査としてのデンタルエックス線撮影を用いた
歯槽骨密度測定の信頼性と妥当性
樋口 隆晴
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 機能再生・再建科学専攻 インプラント再生補綴学分野
指導教授
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 インプラント再生補綴学分野 窪木 拓男
緒言
現在,北米(米国,カナダ),欧州(フランス,スペイン,イタリア,イギリ
ス,ドイツ),日本,オーストラリアの 9 つの先進国での骨粗鬆症患者は 4900
万人に達し,世界的には 2 億人以上の患者が存在するとされている1).中でも本
邦では,急速な高齢化により骨粗鬆症患者が増加し,潜在患者を含めると 1300
万人を超えると推定されている.
骨粗鬆症は,「低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし,骨の脆弱性が増
大し,骨折の危険性が増大する疾患」である 2).骨粗鬆症による骨密度低下は,
骨基質タンパク質を合成する骨芽細胞の活性化や,石灰化に必要なカルシウム・
ビタミン D の欠乏,閉経によるエストロゲンの欠乏により生じ,全身の骨リモ
デリング異常がその本態であり,この全身の骨密度低下は,顎骨の骨代謝にも影
響を及ぼし3),大腿骨頚部や踵骨の骨密度が低いと下顎骨の骨密度も有意に低下
することが報告されている4, 5).
歯牙喪失部での咬合回復に重要である口腔インプラント治療の成否はインプ
ラント体のオッセオインテグレーションの獲得と維持で評価されるが,口腔イ
ンプラント体埋入部位の骨質が脆弱であると,オッセオインテグレーション獲
得率は低下し,口腔インプラント体の生存率(オッセオインテグレーション維持
率)も低くなることが報告されている 6).現在,口腔インプラント領域で広く使
用されている骨質評価法はLekholmとZarbの骨質分類7)であるが,これらは骨削
合時の術者の主観的評価に基づく.近年,骨質は「骨折への抵抗性を示す骨の総
合的な特徴」であると定義され8),①骨微細構造(bone architecture),②骨代
謝回転(bone turnover),③石灰化(mineralization),および損傷の蓄積(damage
accumulation)などから構成される概念 9)とされている.したがって,主観的な
評価に基づく LekholmとZarbの骨質分類7)が骨質そのものを妥当性高く評価し
ているかには疑問がある.また,実際に骨を削合しなければ評価できないため,
有用な術前検査には成り得ていないのが現状である.
一方,骨密度低下もオッセオインテグレーションの獲得および維持のリスク
と考えられている.Radi らは,メタ分析にてアダプテーションテクニックを用
いれば,骨密度が低下した骨粗鬆症患者でも,正常患者と同等のオッセオインテ
グレーション獲得率および維持率を得られる可能性が高いとしたが,検討した
文献は11編と少なく,そのエビデンスレベルは低い 10).骨密度と口腔インプ
ラント治療に関する報告が少ない一因として,口腔インプラント体埋入部位と
なる上顎骨歯槽突起や下顎骨歯槽部の骨密度の評価方法,すなわち歯槽骨密度
評価法が十分普及していないことがある.なお,本研究では以後上顎骨歯槽突起
ならびに下顎骨歯槽部を歯槽骨と定義する11).
これまで,口腔インプラント体埋入部位の歯槽骨密度評価には,医科用CT か
ら測定する CT ハンスフィールド値(CT 値)や,CT 値から算出する歯槽骨密度が
使用されてきた.しかし,医科用CTを用いた歯槽骨密度評価は,治療に不必要
な部位を含む広範囲な被曝や医療コストの面で問題がある上,撮影可能な施設
が限られるため広く実施するのは難しい.また,現在汎用されている歯科用コー
ンビームCTでは,CT 値が測定できないため歯槽骨密度を導くことはできず,こ
れまでインプラント体埋入部位局所の歯槽骨密度を,医院の設備や歯科医師の
経験年数を問わず客観的かつ簡便に評価できる方法並びに判断基準はなかった.
近年,デンタルエックス線画像を用いて歯槽骨密度を評価可能なソフトウェ
アが開発された.このソフトウェアは,医科保険適用の骨密度検査である
Microdensitometry (MD)法と同様の方法を採用している.すなわち,コントラス
トが明瞭な参照体を用いて撮影した画像上で関心領域を設定し,一定のアルゴ
リズムに基づいた計算式から測定データの正規化と標準化を行うことで,関心
領域の輝度とコントラストから歯槽骨密度を算出する12, 13).この評価法は,医
科用CTを用いた骨密度評価に比べて,皮質骨量や骨形態の影響を受けやすいと
いうデメリットはあるものの,簡便かつ低侵襲・低コストに,多くの歯科医院で
歯槽骨密度を評価することが可能になるという大きなメリットを有する.また,
歯槽骨密度評価ソフトウェアBoneRight(デンタルグラフィック・コム社,姫路,
日本)では,下顎小臼歯部の歯槽骨密度(al-BMD)が 84.9 以下の場合は骨密度低
下,162.5以上の場合は骨の硬化性変化が生じている可能性が高いというカット
オフ値が報告されている14).
この評価法を口腔インプラント体埋入予定部位に応用できれば,術前に骨密
度低下の兆候を把握できるばかりか,骨異形成症,ならびに,顎骨壊死の兆候の
一つである骨の硬化性変化も評価できる可能性がある.しかし現在,歯が欠損し
た部位の歯槽骨密度を測定する際の関心領域の設定方法が確立されておらず,
術前検査としての信頼性および妥当性も不明である.
そこで本研究では,歯槽骨密度評価ソフトウェアによる骨質評価をインプラ
ント術前検査へ導入すべく,本ソフトウェアを用いた歯牙欠損部の新たな歯槽
骨密度測定法,すなわちソフトウェア上での関心領域の設定方法(欠損部歯槽骨
密度測定法)を考案し,まず献体の歯牙欠損部で撮影したデンタルエックス線写
真から算出した歯牙欠損部の歯槽骨密度(al-BMD)と医科用CTとの計測値を比較
することで測定方法の再現性および妥当性を確認することを目的とした.
対象および方法
1.研究対象
本研究は,岡山大学研究倫理審査専門委員会の承認を受けて実施した(承認番
号:研 1905-034).目的対象は下記の包含基準の全てを満たすものとし,除外基
準に該当するものは除外した.
1.1 包含基準
1) 2018 年4月1 日から2020年3月31 日の間に死亡し岡山大学に安置され た献体
2) 生前に,臨床研究への参加に同意を得ていた献体
3) 低ホルマリン固定された献体 4) 歯の欠損を有する献体
1.2 除外基準
1) 低ホルマリン固定による組織の硬化により開口量に制限があり,デンタ ルエックス線写真の撮影が困難であると判断された献体
2) 歯槽頂の骨吸収が著しく,デンタルエックス線写真の撮影が困難と判断 された献体
2.信頼性の検討
信頼性の検討にはテスト・リテスト法を用いた.1 つのデンタルエックス線画
像から,事前にキャリブレーションを行なった補綴学分野を専攻する歯科医師
(検者 1)および日本口腔インプラント学会専修医である歯科医師(検者 2)の 2名
の検者が 1週間の間隔をあけて 2回,独立してal-BMD の測定を行った.キャリ
ブレーションでは本測定法での関心領域の設定方法ならびにソフトウェアでの
測定方法を確認した.2回の測定時に検者が画像を特定できないようにするため,
1回目と 2回目の測定では異なる画像識別番号を付与し,読影順序がランダムに
なるよう工夫した.また,画像識別番号の付与は,検者以外の第三者が行い,乱
数表を用いてランダムに番号を付与した.その後,級内相関係数を用いて,2名
の検者が測定した 2 回の測定結果の検者内一致度,および 2 名の検者間一致度
を算出した.検者間一致度の算出には,それぞれ2回測定した結果のうち,1回
目の測定結果を用いた.
2.1 デンタルエックス線撮影方法
各献体の開口量および欠損部の顎堤の形態から,検者 1,検者 2,日本インプ
ラント学会専門医である歯科医師(検者 3)の 3 名の歯科医師にて口腔インプラ
ント体埋入想定部位(撮影対象部位)を決定し,デンタルエックス線写真撮影を
行った.
本研究では,デンタルエックス線撮影および CT撮影にあたり,臨床検査と同
様に撮影用ステントを作製することが望ましいと考えたが,低ホルマリン固定
によってタンパク質が硬化変性し,献体の開口量が制限されたため,印象採得が
困難であった.また,対象が高齢者で残存歯が少なく,歯牙支持,粘膜支持のい
ずれの撮影用ステントも口腔内に維持することが困難であった.従って,本研究
では,口腔インプラント体埋入想定部位を明示するため,WHOプローブの先端を
顎堤に置いて撮影を行なった.
撮影には,汎用歯科エックス線診断撮影装置デントナビハンズ(株式会社ヨシ
ダ,東京,日本)およびデジタルデンタルエックス線 CCD センサー(株式会社ア
ールエフ,長野,日本)を使用し,CCD センサーにはアルミニウム製の参照体を
貼付した(図1a,b).
撮影条件は,使用したエックス線撮影装置の仕様に基づき,管電圧:60kV,照
射時間は,上顎前歯部位:0.30-0.35秒,小臼歯:0.20-0.30秒,大臼歯部位:0.45-
0.55秒,下顎前歯:0.15-0.20秒,小臼歯:0.20-0.30秒,大臼歯:0.35-0.45秒を
基準とした.
そして,参照体であるアルミステップウエッジの全ての領域が撮影されてい
ること,歯槽骨密度測定に十分な骨領域が撮影できていることを基準に,平行法
にてデンタルエックス線撮影を行った(図1c, d).
2.2 歯槽骨密度測定方法
歯槽骨密度の測定には,歯槽骨密度評価ソフトウェア BoneRight(デンタルグ
ラフィック・コム社,姫路,日本)を用いた.歯槽骨密度の測定手順は,ソフト
ウェアの操作マニュアルに従って行なった.まず,ソフトウェアにデンタルエッ
クス線画像を高さ 135mm,幅90mmの規格サイズに表示し,解像度 300dpi以上で
あることを確認した.そして,インプラント埋入想定部である参照体領域を関心
領域として選択し,その濃度分布を元に,画像の濃度および輝度の補正を行っ
た.そして,歯槽骨密度測定対象となる関心領域の指定(後述)を行い,歯槽骨密
度を測定した.なお,本ソフトウェアでは測定される歯槽骨密度をal-BMD と表
記するため,以降はal-BMD と記載する.
2.3 関心領域の設定方法
関心領域は,インプラント埋入想定位置に設定するため,デンタルエックス線
画像上に示されたWHOプローブの先端を測定領域の中央とし,WHOプローブ先端
から,検者 1,検者 2ぞれぞれが任意にインプラント体埋入方向を想定し(図2a),
線を中心に長方形の領域1〜3 を設定した(図2b).この 3領域は,上からそれぞ
れインプラント体上部,下部,インプラント体直下部とした.
領域のサイズは,レギュラーサイズのインプラント体埋入を想定し,デンタル
エックス線画像上に写る参照体の白領域の短辺(実測値 5mm)が,関心領域の短辺
と同じ長さとなるようにし,縦横比 1:2 となる様にし,各領域が 5mm×10mm の
長方形となる様に設定した.骨の傾斜等で長方形の領域指定を行うことができ
ない場合は,歯槽頂部の形態に合わせて範囲指定を行った(図2b).
そして,3領域のal-BMD を平均した値を,このデンタルエックス線写真のal-
BMD値とした.歯槽頂部の高さが不十分であり,3領域の設定を行なうことがで
きない場合は,2領域の平均値をal-BMD値とした.
3.妥当性の検討
妥当性は,医科用CT 画像から測定した歯槽骨密度および腰椎骨密度をゴール
ドスタンダードとし,al-BMD値との相関を確認した.
3.1 CT撮影方法
参照体として骨塩定量ファントムB-MAS200 (京都科学株式会社,京都,日
本)を撮影部位に置き,全身用エックス線CT診断装置 Alexion (Canon メディ
カルシステム株式会社, 宇都宮, 日本)にて頭部から腰部までのCT撮影を行
なった.そして,撮影データを3D 医用画像解析システムAZE Virtual
Place(Canon メディカルシステムズ株式会社,大田原,日本)にて DICOMデータ
として構築した.撮影条件は濃度分解能:12 bit,管電圧:120 kV,管電流:
自動,スライス厚:1.0 mm,再構成間隔:0.2 mmに設定した.
3.2 医科用CTデータを用いた歯槽骨密度の測定方法
構築した DICOMデータを,医療画像管理ソフトウェアOsiriX (Pixmeo 社,ベ
ルネックス,スイス)に取り込み,解析を行った.
3.2.1 関心領域の設定方法
関心領域の設定を行うスライスは,デンタルエックス線写真撮影を行なった
部位と同部位と考えられる顎骨横断面スライスとした.スライスは,CT 画像上
にて残存歯,対合歯,反対側同名歯,解剖学的特徴(切歯管,切歯乳頭,鼻翼,
ハミュラーノッチ,舌小帯,オトガイ孔,レトロモラーパッド)を基準とし,基
準との距離や位置関係から,デンタルエックス線写真を撮影した部位と同部位
と推測される位置に設定した.
設定したスライス上にて関心領域の設定を行った.関心領域の大きさは,レギ
ュラーサイズの口腔インプラント体埋入を想定し,骨頂から垂直方向に 15 mm
程度,頬舌的に中央の位置にて,皮質骨を含まないように設定した.また,画面
上で視認できる骨硬化像,下顎管や切歯管,空気の迷入部等を避けて領域指定を
行なった(図3a).
3.2.2 歯槽骨密度測定方法
測定は 1名の歯科医師(検者 1)が行った.まず骨塩定量ファントムのCT 値を
測定し,今回のCT撮影条件における骨密度算出用一次関数式を規定した.そし
て,関心領域から測定した歯槽骨密度をこの式に代入し,歯槽骨密度を算出し
た.
なお,2 名の歯科医師(検者 1,検者 2)にて事前に確認した本法の再現性を示
す級内相関係数は,検者内一致度 0.87,検者間一致度 0.70 であった.
2.3 医科用CTデータを用いた腰椎骨密度測定方法
構築した DICOMデータを,医療画像管理ソフトウェアOsiriX に取り込み,解
析を行った.
3.3.1 測定対象椎体の決定
測定対象椎体は,第一腰椎(L1)から第五腰椎(L5)とした.ただし,圧迫骨折
や骨棘などの局所的な硬化性変化を有する椎体の骨密度は,健常椎体と比較し
骨密度が高く算出される可能性がある15, 16)ため除外した.圧迫骨折および骨棘
の有無は,1名の歯科医師(検者 1)と 1名の整形外科医が相談して決定した.圧
迫骨折の判断には,半定量的評価法(semiquantitative measurement: SM 法)17)
を用いた.半定量的評価法は,各椎体の矢状断面スライスで椎体高および椎体面
積を確認して基準図と対照し,その低下率に応じて,グレード 0(正常)からグレ
ード 3(高度骨折)に分類する方法である.本研究では,2012 年度椎体骨折評価
基準18)に基づき,グレード 1 以上の椎体を除外した.基準図は 2012年度椎体骨
折評価基準にて示された基準図を引用いた.また,アーティファクトの著しい椎
体は除外した.
骨棘はその有無を確認し,骨棘ありの椎体の骨密度が,隣接椎体と比べて 1.0
標準偏差以上の差がある場合には,その椎体を除外した(図4).
3.3.2 腰椎の関心領域の設定
1椎体につき,垂直断面上で 3部位(椎体上部,椎体中央,椎体下部)の水平断
スライスを決定した 19).関心領域は各スライス上で,皮質骨を含まないなるべ
く大きな範囲とし,顕著な皮質骨や骨硬化像,空気の迷入部分や血管を避けて設
定した20, 21)(図3b).
3.3.3 腰椎骨密度の算出方法
測定は整形外科医の指導の元,1名の歯科医師(検者 1)が行った.医科用CTデ
ータを用いた歯槽骨密度測定と同様に,まず,ソフトウェア上で骨塩定量ファン
トムの CT 値を測定し,今回の CT 撮影条件における骨密度算出用一次関数式を
規定した.そして,各関心領域から測定したCT 値をこの式に代入し,各スライ
スの腰椎骨密度を算出した.本研究では,3 スライスの骨密度の平均値をその椎
体の骨密度とした.なお,2 名の歯科医師(検者 1,検者 2)にて事前に確認した
本法の再現性を示す級内相関係数は,検者内一致度 0.94,検者間一致度 0.86と
ほぼ一致していた.
4.統計解析
信頼性の検討では,検者内一致度および検者間一致度を求めるため,2名の検
者(検者 1,検者 2)の測定値の級内相関係数(ICC)を算出した.検者間一致度は,
2名の検者(検者 1,検者 2)の 1回目の測定値どうしを用いて級内相関係数(ICC)
を計測した.
妥当性の検討においては,医科用CTにて測定した欠損部の歯槽骨密度および
腰椎骨密度をゴールドスタンダードとし,al-BMD値との関連を,Spearmanの順
位相関係数を用いて確認した.また,全身の骨密度の代表値である腰椎骨密度と
al-BMD値との関連を,Spearmanの順位相関係数を用いて確認した.
統計解析には,統計ソフトウエア SPSS Statistics 17.0(日本IBM株式会社,
東京,日本)を使用し,統計学的有意水準は5%未満とした.
結果
1.対象
包含基準,除外基準を満たした目的対象は 32献体であった.目的対象のうち,
al-BMD 測定に適切なデンタルエックス線写真が一枚も撮影できなかった 3献体,
圧迫骨折により腰椎骨密度の測定が可能な椎体を有さなかった 1 献体を除外し
た.
信頼性の検討において評価したのは 29 献体(死亡時平均年齢:84.2±8.1 歳,
男/女:18/11体)であった.妥当性の検討において評価したのは 28 献体(死亡時
平均年齢:84.2±8.3歳,男/女:17/11体)であった(表1).
2.信頼性の検討
信頼性の検討に採用したデンタルエックス線写真は,88枚(上/下顎:39/49枚,
前/臼歯:30/58枚)であった.2名の検者のal-BMD平均値は,検者1で 130.5±
18.4,検者 2 で 131.3±13.3 であり,デンタルエックス線写真上でBoneRightを
用いて測定し,テスト・リテスト法にて算出した al-BMD値の検者間一致度 ICC
は 0.950 であった.領域ごとの検者間一致度ICCは,領域1 では 0.957,領域2
では 0.872,領域3 では 0.870 であり,LandisとKochの基準22)に照らすといず
れもalmost perfect(ほぼ完全な一致)であった.
検者内一致度ICCは,検者 1 では 0.958,検者 2 では 0.906 であった.領域
ごとの検者内一致度ICCは,検者 1 では領域1 で 0.819,領域2 で 0.903,領域
3 では 0.900 であった.検者 2 においては,領域1 で 0.982,領域2 で 0.911,
領域 3 では 0.881 と,同様に Landis と Koch の基準 22)に照らすと almost
perfect(ほぼ完全な一致)と判断されたが,全体を通して領域3 がやや一致度が
低い傾向がみられた(表2).
3.妥当性の検討
3.1 医科用CT から測定した歯槽骨密度とal-BMD値の相関
解析対象は,デンタルエックス線写真 86 枚(上/下顎:38/48 枚,前/臼歯:
30/56枚)で,平均歯槽骨密度は 107.1±23.5 mg/cm3であった.男女別の平均歯
槽骨密度は,男性が 111.9±24.9 mg/cm3,女性が 94.2±10.8 mg/cm3であった.
そして,デンタルエックス線画像から測定したal-BMD 値と,医科用CT 画像
から測定した歯槽骨密度は,有意な強い相関を認め(ρ=0.76,p<0.01),デンタ
ルエックス線画像から測定した al-BMD 値が高いほど医科用 CT 画像から測定し
た歯槽骨密度が高いことが示された(図5).
3.2 医科用CT から測定した腰椎骨密度とal-BMD値の相関
解析対象は,圧迫骨折および骨棘をみとめた 19椎体を除いた 121椎体(363 ス
ライス)であった.5椎体全てが評価可能であったのは 21献体で,1献体あたり
の平均評価椎体数は 4.3椎体であった.
そして,平均腰椎骨密度は,78.8±17.4 mg/cm3,男女別の平均腰椎骨密度は,
男性が85.1±17.9 mg/cm3,女性が65.3±23.4 mg/cm3であった.
デンタルエックス線から測定した al-BMD 値と医科用 CT 画像から測定した腰
椎骨密度は,有意な相関があるとは言えなかった(ρ=0.21,p=0.61)(図6).
考察
本欠損部歯槽骨密度測定法は,デンタルエックス線写真から欠損部の歯槽骨
密度を定量的に評価可能な方法であり,医科用CTを用いた場合の様な大きな被
曝や撮影設備を要せずに,術前に歯槽骨密度を評価できる全く新しい手法であ
る.本研究は,本法の信頼性および妥当性を,患者を対象にした臨床研究を行う
前に,献体において測定方法の信頼性・妥当性を検討したものである.
その結果,本法の検者内一致度・検者間一致度は,LandisとKochの基準22)に
照らすと almost perfect(ほぼ完全な一致)と評価され,1 枚のデンタルエック
ス線画像から al-BMD値を測定する際の信頼性は非常に良好であることがわかっ
た.本研究で測定したal-BMD値の平均値は 130.5±18.4(男性平均132.7±19.6,
女性平均125.0±13.9)であった.これは,84.9 以下の場合は骨密度低下,162.5
以上の場合は骨の硬化性変化という高石らの基準14, 23)に照らし合わせると,正
常域の上位 40 パーセンタイルに位置していた.al-BMD値の年代別の平均値は明
らかではないが,今回採用した献体の平均年齢を考慮すると比較的高い al-BMD
値と考えられる.本法は,エックス線撮影画像から骨密度を測定するため,皮質
骨の厚みや骨全体の厚みの影響を完全に除外することはできない.そのため,皮
質骨の厚みが大きい歯槽骨においては,骨密度の測定値が上昇してしまう.ま
た,今回採用した献体は歯の欠損が多く,歯槽骨の高さが減少している方が多か
ったため,皮質骨が厚い上下顎骨の基底部を測定範囲に含んでいた可能性も考
えられる.本法と同様に,エックス線撮影画像の輝度濃淡から骨密度を測定する
手法であるMD法では,若年成人平均(YAM)値や年代ごとの標準値域を明らかに
することにより,骨粗鬆症診療ガイドラインにおいても,骨粗鬆症診断に使用で
きるとされており,本法においても YAM 値や年代ごとの標準値を明らかにする
必要があると考えられた.
本研究では,同一の写真を 2 回,al-BMD 測定した場合の信頼性,すなわち読
影の信頼性を確認したが,デンタルエックス線写真撮影から al-BMD値の測定ま
でを実施する検査全体の信頼性は確認できていない.これは,献体の撮影可能時
期が限られていたことや,撮影用ステントが使用できず,インプラント埋入想定
部位を同一条件にて 2 名の撮影者(検者)が独立して 2 回,撮影すること自体
が困難であったためである.今後は,撮影用ステントを使用できる生体におい
て,デンタルエックス線写真撮影を含む検査全体の信頼性を確認する必要があ
る.
本研究では,al-BMD値と医科用CT 画像から測定した歯槽骨密度に有意な強い
相関を認め,臨床上十分な妥当性が確認できた.歯槽骨密度の平均値は 107.1±
23.5 mg/cm3(男性献体平均 111.9±24.9 mg/cm3,女性献体平均 94.2±10.8
mg/cm3)であった.既報によれば,医科用CT から測定した日本人の平均歯槽骨密
度は,112±78 mg/cm3(平均年齢62歳,女性のみ)24),坂東らの報告では有歯顎
者の平均歯槽骨密度は 174.3±41.1 mg/cm3(平均年齢63.2±5.5歳,女性のみ),
無歯顎者 194.9±53.7 mg/cm3(無歯顎者群 65.6±2.8 歳,女性のみ)25)と報告さ
れている.これらの報告から考えると,今回の対象の歯槽骨密度は低く,これは
平均年齢がこれらの研究より高いためと考えられる.
医科用CT 画像から歯槽骨密度を測定する際,測定対象スライスは,デンタル
エックス線写真撮影部位と同じ部位となる様に設定するのが理想的である.本
来であれば,撮影用ステントを用いることで,デンタルエックス線写真撮影部位
と医科用CTスライス設定部位の誤差を少なくすることができる.しかし本研究
では,撮影用ステントを用いることができなかった.そのため,医科用CTスラ
イス設定部位とデンタルエックス線写真撮影部位に誤差が生じていた可能性は
否定できない.しかし,事前に医科用CTスライスの設定から歯槽骨密度測定ま
での一連の手順の信頼性を確認した結果,検者内一致度は 0.87 となり Landis
とKochの基準22)に照らすとalmost perfet(ほぼ完全な一致)となった.同様に,
検者間一致度は 0.70 となり substantial(かなり高い一致)と評価できる.した
がって,本研究における医科用CTスライス設定に大きな問題はなかったと考え
られる.
al-BMD値と腰椎骨密度には,有意な相関を認めなかった.これは,献体特有
の条件が影響している可能性が考えられる.ホルマリン固定された献体におい
て,骨密度は変化しないと報告されている 26).しかし今回,低ホルマリン固定
を行なった献体の医科用CT 画像では,脂肪組織や軟組織の漏出とともに生じた
と思われる空気の迷入が見られた.関心領域を設定する際に,視認できる空気領
域は避けて測定を行なったが,微細な空気領域は除去が困難と考えられ,測定値
を実際よりも低下させた可能性がある.一方で,高齢者の腰椎海綿骨において
は,不顕性圧迫骨折による骨密度の上昇が生じる場合もあり,このような測定値
の誤差によってal-BMD値との相関がみられなかった可能性がある.また,本研
究では,献体の死亡時から固定までの時間,固定からデンタルエックス線写真や
医科用CT撮影までの期間が献体により異なることも,結果に影響したかもしれ
ない.
一方で,歯槽骨は全身の骨密度の変化とは独立した特異的な変化を見せる可
能性も考えられる.腰椎や大腿骨の骨密度は,皮質骨,海綿骨を問わずに加齢に
伴い減少し,特に骨代謝回転の早い海綿骨においてはその減少が大きいことが
知られている 27).しかし歯槽骨は,咬合力や歯周疾患の影響により,全身とは
独立した特異的な変化を内包すると報告されている28) 29) .Bassi らは,43歳か
ら 68歳の 17名の下顎骨密度と腰椎骨密度を医科用CT 画像から測定し,下顎骨
密度と腰椎骨密度の間に有意な相関はなかったと報告している 28).また
Klemetti らも,閉経後の女性77名の無歯顎下顎骨と腰椎および大腿骨頸部の骨
密度を,医科用CT 画像から測定した結果,有意な相関はみとめなかったと報告
している 29).一方で歯科用パノラマエックス線写真を用いて測定した下顎骨基
底部の皮質骨の形態指標と脊椎の骨密度に相関を認め,下顎骨から骨減少症な
らびに骨粗鬆症のリスクを特定できる可能性があるとの報告もある 30).これは
下顎骨基底部においては歯槽部と比較し,咬合力や歯周疾患の影響を受けにく
いことが影響していると考えられる.しかし,歯槽骨密度および下顎骨密度と腰
椎骨密度の相関関係については報告が少ないうえ,日本人を対象とした報告は
なく,結論を導くには,生体を対象としたサンプルサイズの大きな臨床研究を行
う必要があると考えられた.
今回,開発した本欠損部歯槽骨密度測定法を臨床応用できれば,オッセオイン
テグレーション獲得のリスク因子である加齢や基礎疾患に伴う歯槽骨密度低下
や骨異形成症,炎症を伴う骨の硬化性変化の程度を,インプラント体埋入前に客
観的な検査数値から予測することができるようになる可能性がある.今後は臨
床応用に向けて,インプラント体埋入予定患者において本検査の信頼性・妥当性
の検討を行うとともに,実際に埋入を行う欠損部の al-BMD と埋入時の Lekholm
とZarbの骨質分類との相関関係や,埋入後の共鳴振動周波数計測によるインプ
ラント体の安定性評価との相関関係を明らかにする必要がある.さらにはイン
プラント体埋入部位の歯槽骨密度と,インプラント体の予後との関係を明らか
にすることで,本検査の有用性を確認し,口腔インプラント治療の術前検査とし
て欠損部歯槽骨密度検査を確立することが望まれる.
結語
口腔インプラント治療の術前検査への導入を目標に,専用ソフトウェアを用い
て,デンタルエックス線画像から欠損部の歯槽骨密度を測定する欠損部歯槽骨
密度測定法を考案し,献体を対象に,その信頼性と妥当性を検討した.その結果,
1. 検討内一致度・検者間一致度は高く,十分な信頼性を有していた.
2. 本法により測定された歯槽骨密度は,医科用CTにて測定された歯槽骨密度 と有意に相関し,良好な妥当性が確認できた.
3. 本法により測定された歯槽骨密度は,医科用CTにて測定された腰椎骨密度 と有意な相関があるとは言えなかった.
謝辞
稿を終えるにあたり,御懇切なる御指導と御校閲を賜った岡山大学大学院医
歯薬学総合研究科インプラント再生補綴学分野窪木拓男教授に深甚なる感謝の
意を表します.また,研究の遂行に際し,多大な御教示,御示唆をいただいた岡
山大学病院新医療研究開発センター大野(木村)彩講師,岡山大学大学院医歯薬
学総合研究科分子医科学分野大野充昭准教授,岡山大学大学院医歯薬学総合研
究科インプラント再生補綴学分野三野卓哉助教,岡山大学病院新医療研究開発
センター黒崎陽子助教,岡山大学大学院医歯薬学総合研究科インプラント再生
補綴学分野中川晋輔助教,岡山大学病院クラウンブリッジ補綴科徳本佳奈医員
に謹んで感謝の意を表します.そして,研究に際し,御理解,御協力をいただき
ました岡山大学大学院医歯薬学総合研究科整形外科学分野中原龍一助教,岡山
大学医歯薬学総合研究科人体構成学分野大塚愛二教授,また人体構成学分野の
皆様に感謝の意を表します.
最後に本研究を進めるにあたり種々の御配慮,御援助,御助言をいただきまし
た岡山大学大学院医歯薬学総合研究科インプラント再生補綴学分野諸先生各位
に厚く御礼申し上げます.
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