物質の状態評価 はじめに
材料の様々な物性(硬さ、延び、電気的特性、色などなど)はもちろん物質固有の ものですが、それぞれの特性は物質中の状態に依存します。私たちが物を利用して文 明に利用する際、これらの性質と物質中の状態を知る必要があります。この講義では、
物質中の様々な状態を有する固体中の様子を評価する方法としての放射線について も学びます。
固体表面、局所、微小領域
私たちが日頃最も材料を見たり、触ったりと認識しているのは固体の表面である。
電子デバイスの薄膜化や多層膜化、微細構造化あるいは触媒や電極特性に対しては表 面積や表面電子状態の活性化などが取り組まれている。また、優れた機能を持つ材料 の特性はサブミクロンと呼ばれる微小領域での物理特性、化学組成、結晶構造、粒界、
形状あるいは電子状態、電子結合、欠陥構造などに大きく依存している。これらの特 性評価(キャラクタリゼーション)には表面分析、微小領域に特化した分析方法が必 要不可欠となってくる。近年では、より新たな特性を有する物質を発現するために結 晶を限り無く小さくすることにより、本来の固体とは物理的性質とは異なる物質を創 成できることが分かってきているナノテクノロジー(10000000 分の 1m のオーダ ーの技術)で作製された材料のキャラクタリゼーションが必要とされている。文字通 り、このような物質は肉眼では到底確認できないほど小さいが、その極微小サイズの 構造や組成をも測定しなければならない。
図 1 電磁波及び粒子の波長とエネルギーの関係
我々が物を見るという行為は、物理的にいうと光(可視光)を利用して、この光と 物質との相互作用により出てくる光の波長から(物質に当たった光は特定の波長(エ
波長 X線 紫 可視光線 赤
粒子の波長 中性子 電子
m
nm μm
短波 VHF UHF γ線
エネルギー 1GeV 1MeV 1keV 1eV
10
-15m マイクロ波 電波
10
-5eV
元来は光をその振動数(波長)成分に分析することを分光といい,分光器を用いてスペクトルを研究す ることを分光法(スペクトロスコピー)と呼ぶ.その後,電磁波や音波のような波動に限らず,原子,分 子,電子その他の粒子をも含め,対象を何らかの意味における成分に分析して研究することをスペクト ロスコピーとよぶ.
ネルギー)の光を吸収や散乱し、残った波長の光のみが反射される)補色として評価 している。(分光法:スペクトロスコピー1) これまで述べた微小領域の状態を評価す るには、可視光は捕らえようとする原子や電子のサイズに比べあまりにも波長が長す ぎて相互作用が弱い。しかし、物を見るという観点から考えると原子サイズと同等の 波長の光や波動性を持つ粒子を使えば、肉眼で物を見るのと同じように原子や電子を 見ることができるようになる。図のように光は電磁波の一種で、原子サイズと同等の レベルの波長の光としては X 線などや、粒子としては電子、中性子、陽電子などがあ る。これらの光や粒子などを探針(プローブ)として利用し固体中、固体表面及び微 小領域のキャラクタリゼーションを行う。(図 2)
図 2 対象物のサイズと種々の測定手法のサイズ分解能 これまでのキャラクタリゼーション 2 はある状態の物質を取出し、観察する「静的」
な観察が一般的であったが、近年では同様の観察手法を用いるも、応力を加えたり熱 を加えた状態でのその場(in-situ)観察を行うという「動的」な測定が材料の使用環境 下における挙動や、これまである特定の状態と同じと考えられてきた条件下(例えば 高温、極低温)などでの本来の状態を再現するために必要不可欠と考えられてきてい る。さて、様々な物性測定法は主に X 線、電子、中性子あるいはγ線などを利用した ものが多い。そこでこれらの放射線(電磁波や粒子線)を得る方法と、それらの性質 について考えてみる。
結晶粒 析出物 原子空孔
格子間原子
10-2 10-3 10-4 10-5 10-6 10-7 10-8 10-9 10-10(m)
nm Å
µm mm
cm
肉眼 虫眼鏡 光学顕微鏡 電子顕微鏡 高分解能電顕
RBS (CHANNELING) ボイド 転位
PIXE
S IMS TEM, S EM, STEM
F IM, FEM 陽電子消滅寿命測定 バルク結晶
原子
素粒子
キャラクタリゼーション:化学的分析法(chemical method of analysis)ともいう.分析化学におけ る分離・精製・検出法のうち,主として化学的物質の認識に基づくものをいう.主として電磁波と 物質との相互作用に基づく分光分析などの物理的分析法(physical method of analysis)に対比する.
重量分析,容量分析,クロマトグラフィー,溶媒抽出,化学センサー,電気化学分析などを総称す る場合が多い.その物質の構成成分となっている化学種(分子,原子,同位体など)の種類を知ること を目的とする定性分析と,成分化学種の量的関係を知ることを目的とする定量分析がある.最近で は定性分析の分野が拡大して,状態分析,キャラクタリゼーション(characterization)などといわれ,
物質の均一性,局在化,構造形態,酸化状態,配位状態,あるいは不安定中間種の寿命同定などを 含む領域にも対象が拡がっている.定量分析の対象も拡大しつつあり,試料中の元素,化合物の量 の測定にとどまらず,酸化状態,結晶状態,反応速度その他に関わる量の測定などにも及ぶ.