右下肢痛・腰痛で
受診した72歳男性の一例
札幌東徳州会病院 伊藤祥太郎 瀬戸内徳洲会病院 伊東直哉
【症例】
72歳男性
【主訴】
もともとADL自立の72歳男性。 入院2週間前に寝返りを打った後から、 チクチクする様な右大腿部痛を自覚。 入院10日前に当院外来を受診し、鎮痛剤を処方さ れ帰宅した。以降右下腿まで痛みを自覚するよう になった。 入院3日前から腰痛を自覚した。腰痛と右下肢の 痛みのため、両手を使わないと起き上がることが 困難となった。 症状が続くため、当院外来を受診した。
【現病歴】
Review of System
陽性:
倦怠感、食欲不振、咳嗽、血痰、 労作時呼吸困難、便秘陰性:
発熱、悪寒、戦慄、排尿障害、黒色便、血便既往歴:
陳旧性肺結核(14年前、加療後) 右ASO(右大腿動脈バイパス術、Ygraft 7年前)、 扁平上皮癌 左第2趾切断術(6年前)、 高血圧症、HCVキャリア、GERD、社会生活歴:
喫煙:Ex-smoker(詳細不明) 飲酒:Pastdrinker(詳細不明) ADL:完全自立服用歴:
・チオトロピウム (スピリーバレスピマット®)5
μ g/day
・シロスタゾール(プレタール®) 200mg/day
・エチゾラム(デパス®) 1mg/day
・ランソプラゾール 15mg/day
・テルミサルタン(ミカルディス®) 80mg/day
・アムロジピン 5mg/day
・ビプロロール(メインテート®) 5㎎/day
・トリクロルメチアジド(フルイトラン®) 1mg/day
・センノシド(フォルセニド®) 24mg/day
【身体所見】
身長:169cm、体重:57.4kg 意識清明、BP 162/58mmHg、脈拍 57回/分整、 呼吸回数 18回/分、SpO2 99%(室内気)、体温 36.3℃ ビア樽状胸郭 眼瞼結膜:貧血なし、眼球結膜:黄疸なし 心音:S1→S2→S3(-)S4(-)、雑音なし 肺音:呼吸音遠い、副雑音なし 腹部:平坦、軟、圧痛なし、腸蠕動音正常、肝腫大なし 背部:脊柱叩打痛なし、L2~L4レベルで右傍脊柱筋に圧痛あり 表在リンパ節(頚部・腋窩・鼠径)触知せず 直腸診:外観正常、圧痛(-)、腫瘤触知(-)、茶便付着 右大腿遠位部に圧痛あり 下腿:浮腫なし、冷感なし 両側足背動脈:触知良好【神経学的所見】
瞳孔:右3mm、左3mm、対光反射迅速 Barre sign:陰性 回内回外運動:正常 指鼻指試験:正常 構音障害:なし 脳神経:Ⅱ~Ⅻ異常なし 下肢:筋力低下なし 腱反射:亢進なし低下なし 温痛覚:右下肢全体で低下 振動覚:右内踝で低下(<5sec) SLR:両側で大腿裏面に疼痛出現来院時検査所見(初期検査) 白血球 Neu. Eo. Mono. Ly. 赤血球 Hb MCV 血小板 7290 /μ L 69.0 % 2.2 % 6.4 % 22.4 % 451万 /μ L 13.0 g/dl 81.8 fl 32.2万 /μ L AST ALT ALP LDH γ -GTP T-Bil CK TP Alb Na K Cl UA BUN Cre 血糖 16 IU/L 9 IU/L 564 IU/L 199 IU/L 28 IU/L 1.1mg/dl 59IU/L 5.8 g/dl 2.9 g/dl 134 meq/L 4.1 meq/L 95 meq/L 6.3 mg/dl 12.3 mg/dl 1.06 mg/dl 128 mg/dl Ca IP CRP HbA1c 8.5mg/dl 3.8mg/dl 3.18mg/dl 6.3% 尿定性 比重 PH 蛋白 潜血 糖定性 ケトン体 尿沈渣 赤血球 白血球 1.010 5.5 - - - - 1-3/HF 1-3/HF
Problem List
#1: 右下肢痛 #2: 腰痛 #3: 倦怠感 #4: 食欲不振 #5: 咳嗽 #6: 血痰 #7: 労作時呼吸困難 #8: 便秘 #9: 右下肢温痛覚・ 振動覚低下 #10: 正球性貧血 #11: 低タンパク血症 #12: 低Na血症 #13: ALP高値 #14: Cre軽度上昇 #15: CRP高値 #16: 胸部レントゲン異常 #17: 右ASO術後 #18: 左第2趾扁平上皮癌術後 #19: 高血圧症 #20: HCVキャリア #21: GERD #22: 陳旧性肺結核 #23: Ex-smokerWhat’s your diagnosis?
What will you do next?
Problem List
#1: 右下肢痛 #2: 腰痛 #3: 倦怠感 #4: 食欲不振 #5: 咳嗽 #6: 血痰 #7: 労作時呼吸困難 #8: 便秘 #9: 右下肢温痛覚・ 振動覚低下 #10: 正球性貧血 #11: 低タンパク血症 #12: 低Na血症 #13: ALP高値 #14: Cre軽度上昇 #15: CRP高値 #16: 胸部レントゲン異常 #17: 右ASO術後 #18: 左第2趾扁平上皮癌術後 #19: 高血圧症 #20: HCVキャリア #21: GERD #22: 陳旧性肺結核 #23: Ex-smokerWhat’s your diagnosis?
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腰痛の鑑別診断
整形疾患 腰椎捻挫(70%)、椎間板と椎間関節の退行性 変化(10%)、椎間板ヘルニア(4%)、脊柱管狭 窄症(3%)、骨粗鬆症による圧迫骨折(4%)、 腰椎すべり症(2%)、外傷による骨折(<1%)、 先天的疾患(<1%) 悪性腫瘍 転移性脊椎腫瘍(0.7% :多発性骨髄腫、転移 性癌、リンパ腫、白血病、脊髄腫瘍、後腹膜 腫瘍、脊椎腫瘍) 感染症 骨髄炎、椎間板炎、硬膜外膿瘍、IE 炎症性 強直性脊椎炎、乾癬性脊椎炎、反応性関節 炎、炎症性腸疾患 内臓疾患 前立腺炎、子宮内膜症、腎盂腎炎、AAA血痰の鑑別診断
感染/炎症 気管支炎、気管支拡張症、結核、アスペルギ ローマ、肺炎、肺膿瘍 腫瘍 原発性肺癌、転移性肺癌 心血管 肺塞栓症、肺動脈破裂、慢性心不全、僧房弁 狭窄症、外傷/異物、気管支動脈瘻 動静脈 奇形 血管炎 Wegener肉芽腫症、Goodpasture症候群、 Bechet病 その他 抗凝固療法、凝固障害、コカイン、突発性肺 血鉄症、月経随伴性気胸肝・胆・膵 胆嚢炎/胆管炎、総胆管結石 原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎 骨 転移性骨腫瘍、甲状腺機能亢進症 副甲状腺機能亢進症、骨軟化症 腫瘍 ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫 固形がん(骨肉腫、肺、消化管、婦人科など) 炎症 粟粒結核、側頭動脈炎 その他 サルコイドーシス、アミロイドーシス、 妊娠、小児
ALP高値の鑑別診断
【追加検査】
喀痰グラム染色: Geckler4, GPC-chain (+) 喀痰培養: 口腔内常在菌のみ 喀痰チール染色・培養(3連痰): 陰性 喀痰細胞診:Class Ⅰ 血液培養(2set): 陰性 ABI: 右0.92 (0.91~1.29) 左 0.97 下肢動脈エコー:動脈閉塞なし 大腿骨レントゲン:股関節~膝関節まで異常なし 上部消化管内視鏡検査: 胃前庭部に小びらん 下部消化管内視鏡検査: S状結腸φ7mm Ⅰsp Polyp臨床経過
気管支鏡検査のために、他院へ転院とした。
気管支肺胞洗浄(BALF):
Adenocarcinoma EGFR EML4-ALKキメラ アスペルギルス抗原 カットオフインデックス クリプトコックス抗原 (+) 変異なし (-) (+) 1.3 陽性臨床経過
気管支肺胞洗浄液より腺癌と診断した。
Performance Status4であり、
化学療法は行わずに、腰椎転移部に対して、
疼痛コントロール目的に放射線療法を施行
された。その後緩和ケア目的に当院へ転院。
最終診断
原発性肺癌
転移性脊椎腫瘍
・椎体領域の腫瘍で最も多いのは転移性腫瘍。 ・転移性腫瘍は一般的に硬膜外領域で発生。 ・原発巣では肺癌、乳癌、多発性骨髄腫が多い。 ・経過中に脊髄圧迫症状をきたしやすいのは多発性 骨髄腫、悪性リンパ腫、前立腺癌。転移性脊椎腫瘍
・脊髄圧迫症状のうち60%が胸椎、30%が
腰仙椎、10%が頸椎由来。
・多くは動脈を経由した転移であるが、前立腺癌 はBatson静脈叢が転移経路として重要。 2) Lancet Neurol. 2008;7(5):459.悪性疾患の腰痛 徴候
感度 特異度 LR+ LR- 50歳以上 84 69 2.2(1.8-2.7) 0.34(0.17-0.68) 癌の既往 55 98 24(11-49) 0.25(0.01-9.19) 説明できない体重減少 15 94 3.0(1.0-9.3) 0.87(0.68-1.12) 1か月の安静で改善しない 29 90 3.0(1.4-6.3) 0.79(0.58-1.07) ベッド安静で治まらない 100 46 1.7(1.2-2.2) 0.22(0.02-3.02) 1か月以上の持続痛 50 81 2.6(1.5-4.6) 0.62(0.36-1.06) 最近の背部外傷 0 82 0.2(0.0-3.0) 1.18(1.06-1.30) 胸部痛 17 84 1.2(0.4-3.7) 0.96(0.74-1.26) 重度の痛み 23 85 1.7(0.7-4.2) 0.88(0.65-1.20) 50歳以上、癌既往、体重減少、1か月 の保存治療で改善しないのいづれか 100 60 2.4(2.1-2.7) 0.06(0.00-0.91) 神経症状 0 91 0.4(0.0-6.5) 1.06(0.95-1.18) 神経徴候 0 97 7.5(0.7-84.2) 0.78(0.35-1.73) 37.8℃以上 0 98 1.8(0.1-27.2) 0.98(1.09) 3) Spine J.2007 Oct;16(10):1673-9.転移性脊椎腫瘍の身体症状
疼痛: 通常初期に出現する症状。臥位、夜間での増悪が 特徴。胸椎で最も痛みが強い。 運動障害: 脊髄円錐より上位ならば反射の亢進を認める。 感覚障害: 下肢から上向する感覚障害が典型的。 1~5椎体下のレベルで圧迫されていることが多い。5) Eur J Cancer. 1994;30A(3):396. 4) Neurother. 2005;5(6):831.
膀胱直腸障害:
脊髄圧迫障害としては晩期に出現する。 単独ででることは少ない。
ただしオピオイドを使用している場合は薬剤性 肛門括約筋圧低下が認められることがある。
6) Neurologic Complications of Cancer1995.
• 治療目標は疼痛管理と神経機能の温存である。 • 平均の予後は診断から約半年。 • 脊髄の不安定性によって治療が変化。 • 対症療法はステロイド、根治的治療は放射線療 法で脊髄不安定性があるならば外科的手術を 組み合わせる。 7) Tumori. 1998;84(4):472. 8) J Clin Oncol. 2005;23(9):2028.