残暑の厳しかった九月も10月の秋へと季節は移りました。9月23日の秋分の日以降、11 月8日の立冬までが秋の後半となっています。この時期の里山は実りの季節で、稲穂は頭を垂れ、 たわわになった柿は色づき、カエデ・ツタ・ヤマハゼは赤や黄色に装い、里山を飾り付けます。 昨年は秋の虫たちを紹介しました。今年は植物を取り上げてみました。 まず、定番の秋の七草。春の七草が栄養を考えた食べるための7つの草を題材にしているのに 対し、秋の七草は草花を愛でることをテーマとした7種が選ばれています。 春の七草は七草がゆなどでよく知られていて、「芹(せり)なずな ごぎょうはこべら 仏の 座 すずなすずしろ これぞ七草」と詠われています。作者は四辻左大臣(よつつじのさだいじ ん)との説がありますが、異論もあり、詠み人知らずとした方が良いのかも知れません。これに 対して秋の七草の方は出典と作者はよく知られていて、万葉集に山上億良(やまのうえのおくら) が2首の和歌を詠んでいます。参考までに次に掲げておきます。 • 『秋の野に 咲きたる花を 指折り(およびおり) かき数ふれば 七種(ななくさ)の花』 • 『萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 女郎花 また藤袴 朝貌(あさがお)の花』 このように古くから五七五七七調で親しまれてきた秋の七草も今では身近で探すのは難しくな っています。里山で見ることの出来るのは、7種のうち、尾花(ススキ)、葛花(クズ)と萩の 花(ハギ)の3種類だけです。オミナエシは4年前まで万灯山にあったのですが、それ以後、見 たことはありません。なお、歌の中の「朝貌の花」は、「朝顔」「木槿(ムクゲ)」「桔梗」「昼 顔」などの説がありますが、一般的には「桔梗」とするのが有力で、辞典類も「桔梗」とするも のが多いです。 それにしても七草を覚えるのは大変ですね。覚え方もいろいろありますが、私はこれが気に入 っています。七草の頭文字を取って並び替え、「お好きな服は?」と覚えます。もちろん、(お ミナエシ/すスキ/きキョウ/なデシコ/ふジバカマ/くズ/はギ)の最初の1文字をとったも のです。
<オミナエシ>オミナエシ科オミナエシ属 オミナエシを漢字で書くと女郎花、かわいらしい花として秋の七草のひとつに選ばれ、古くか ら歌に詠まれてきた花です。オミナエシは細く長い茎をもち、風になびく様子が女性的であり、 女性へのあこがれ・ときめきを詠んだ歌がおおいようです。 上の写真左は4年前の秋に万灯山で撮したものです。右のオミナエシは里の職員によって植え られたものですが、どちらも現在では見ることは出来ません。 <ススキ>イネ科ススキ属 ススキは身近な植物で茅葺きの屋根の材料や家畜のえさとして昔から利用された植物で、茅場 (かやば)と呼ばれるススキ草原が村落の近くにあって大切にされました。ススキ草原は定期的 に刈り込まれたり、火入れを行わないと草原からアカメガシワやアカマツなどの陽樹の雑木林へ と代わってしまいます。茅葺き屋根も無くなり茅場も必要とされなくなるにつれススキも少なく なりました。9月の中秋にはススキやだんごを供えて月見をする風習も消えつつあります。 秋の七草では尾花(おばな)と呼ばれています。 <オギ>イネ科ススキ属 里のセンターを通りすぎ、斜面を登ると小草池に出ます。登り切った左側にススキの群落が目 に入ります。ススキ群落と書きましたが、ここにはススキとオギが混生しています。オギは漢字 で荻と書きます。西尾市吉良町に荻原(おぎわら)の地名があります。矢作古川をはさむこの辺 りは、おそらくオギの茂る地域であったと想像します。この植生、オギの野原がそのまま地名の 荻原(おぎわら)になったと推測されます。オギはススキと同じ仲間であり、茅葺きの材料とし
てススキ同様に扱われてきました。ススキとオギはおなじように茅(かや)と呼ばれていました。 ススキとオギのちがいはなかなか難しいので すが、いくつかの違いがあります。それぞれの 花穂(かすい)についた小穂(しょうすい)を くらべると、ススキには芒(のぎ)があります がオギには芒がありません(右写真)。ススキ には「のぎ」があることから芒の漢字を当てる こともあります。左がススキ、右はオギ。この 穂を触ってみると、ススキに比べてオギは小穂 の毛が長いので、柔らかく感じます。一度、手 にとって感触の違いを比べてみてください。 ススキには短い地下茎があってそこから多数の茎が伸び出るので1カ所からたくさんの茎が出 ているような大きな株となります。 オギは地下茎をのばして増えていくのでススキのような株 立ちはなく、独立した茎が地下茎から伸びていることになります。 生育場所にも違いがあり、ススキは乾燥に強いがオギはススキよりも湿った場所を好みます。 河川敷などではその違いがよく分かります。水の流れに近い方にオギは多く、土手の上の方には ススキが多く見られます。オギは秋の七草ではありませんが、ススキとよく間違えられるので取 り上げました。 <カワラナデシコ>ナデシコ科ナデシコ属 今夏は「なでしこジャパン」の活躍が目覚ましく、多くの方が観戦したことと思います。とこ ろで植物のナデシコを実際に見たことはありますか。この季節、是非探して見てください。 カワラナデシコはナデシコ、ヤマトナデシコの異名がありますが、カワラナデシコが正式な和 名です。秋の七草のナデシコはもちろんこのカワラナデシコのことです。
ナデシコの5枚の花弁の先端は細く糸状に裂けて、ナデシコ特有の花形を造っています。ナデ シコの語音から子供や女性にたとえられ、和歌などにも歌われています。古風な日本的な女性を ヤマトナデシコと称しますが、これはセキチクをさして言うカラナデシコに対してカワラナデシ をヤマトナデシコと呼んだのです。セキチクやカーネーションもナデシコの仲間です。 <クズ>マメ科クズ属 クズは漢字で葛と書きます。よく知られている葛 切りや葛餅などはクズの根から取ったデンプンが材 料となっています。クズの名は葛粉の産地が現奈良 県の国栖(くず)であったことから名付けられてい ます。繁殖力旺盛なクズは河川敷や林縁などいたる ところに生い茂って、雑草として嫌われているよう です。それでも最近では、特定外来生物に指定され ているウリ科のアレチウリが勢力をひろげ、同じ生 育環境を持つクズが追いやられています。 マメ科のクズの花はマメ科特有の形を見せ、たく さん集まって穂状花序を形成します。花は下の方か ら順に上へと咲いていきます。クズの花の写真(上 右)では、上の方につぼみの状態が見られます。 花の後には、枝豆に似た枝豆よりやや小型の果実 が右写真のようにつきます。 クズは食品としてだけでは無く、葛粉は葛根湯と して風邪を引いたときや、胃腸不良の時の栄養食品 に利用されてきました。また、つるを乾燥して固く なる前に「かご」を編み上げたり、繊維を取りだして葛布(くずふ)を編んだりして利用してい ました。クズは生活に密着した植物だったのです。
<ハギ>マメ科ハギ属 ハギと名のつくでいきものふれあいの里で見ることの出来る植物にはメドハギ、ヤマハギ、ネ コハギ、ヌスビトハギ、アレチヌスビトハギ、マルバハギ、シバハギなどがあります。ハギはマ メ科ハギ属の植物の総称ですが、主としてヤマハギのことを指しています。 マメ科の植物の特徴として根粒菌との共生がありますが、そのため痩せた土地でもよく育つこ とから、土砂が流れ出すのを防ぐために工事現場等で道路斜面の吹き付け資材や、緑化資材とし て活用されています。 左はヤマハギ、右はシバハギです。花だけでは区別しにくいのですがヤマハギはハギ属でシバ ハギは引っ付き虫で有名なヌスビトハギのなかまです。果実を比べるとよく分かるのですが、ヤ マハギは1個の種子しか出来ませんが、シバハギは引っ付き虫のアレチヌスビトハギの種子によ く似ていて、ひとつの莢(さや)に4~5個の種子が出来ます。種子にそってくびれがあって、 熟すとくびれで切れてばらばらになります。この点もアレチヌスビトハギに似ています。 シバハギは愛知県では近い将来絶滅の危険性の高い植物(絶滅危惧ⅠB 類)に分類されていま す。いきものふれあいの里でも1カ所しか確認されていない貴重な種類です。 秋の七草もあと<キキョウ>と<フジバカマ>となりました。しかし残念なことに手元に写真 が無いので、<キキョウ>の代わりに<キキョウソウ>キキョウ科キキョウソウ属を<フジバカ マ>の代わりに<ヒヨドリバナ>キク科ヒヨドリバナ属をあげておきます。 キキョウソウを選んだの は、キキョウと同じ仲間で、 名前にキキョウとあること や、花の色が青紫でキキョ ウと同じ色であることから 選びました。 ヒヨドリバナを選んだの はフジバカマによく似てい るからです。それぞれにつ いての詳細は今回は割愛させていただいて、次の機会に紹介したいと思います。フジバカマは愛 知県ではシバハギと同じ絶滅危惧ⅠB 類に分類されていますが、環境省では更に厳しい、準絶滅 危惧(NT)に分類されています。秋の七草も少なくなって、植物園に行かないと見ることが出来 なくなってしまうかも知れません。今あるものを大切にして次世代へ残したいものです。