2016 年度
上智大学経済学部経営学科
網倉ゼミナール卒業論文
誰がサッカースタジアムに来ているのか
〜スタジアムデートはありかなしか〜
2017 年 1 月 15 日 A1343898 経済学部経営学科 久保祐斗はじめに 近年日本を含め世界中でサッカー人気が高まり、スポーツビジネスとしても 巨額の取引が行われている。日本でも 1993 年に J リーグが発足し日本サッカ ーの発展に多大なる貢献をしてきた。日本代表戦は毎回大勢のファンをスタジ アムに集め、テレビでも高視聴率を叩き出している。しかし J リーグは 2000 年代後半を境に人気が低迷し始めグローバル化が進むサッカー市場において取 り残されつつあるのではないかと感じた。私は J リーグの現状について調査し ている中で一番の大きな問題はスタジアムにあるのではないかと感じた。現在 世界を代表するイングランド・プレミアリーグ、ドイツ・ブンデスリーガのス タジアムの収容率はいずれも平均 90%を超えているが、J リーグのスタジアム 入場率は平均 50%しかないのである。その一方日本サッカー代表は常にスタジ アムは満員で高い人気を維持し続けている。そこで日本代表の試合と J リーグ の試合には誰が来ているのか調査しどんな違いがあるのかを考察していきたい。
目次 I. 導入 ・・・・・2 1. J リーグとは 2. J リーグの現状 II. 疑問 ・・・・・7 III. 仮説 ・・・・・8 IV. 検証方法 ・・・・・9 V. 検証、考察 ・・・・・12 VI. 結論 ・・・・・13 VII. 終わりに ・・・・・13
I. 導入 1. J リーグとは J リーグは正式名称を「日本サッカープロリーグ」と呼ぶ。1993 年にこれま であった企業クラブがプロ化することでスタートした。『日本サッカーの水準 向上およびサッカーの普及促進』・『豊かなスポーツ文化の振興および国民の心 身の健全な発達への寄与』・『国際社会における交流および親善への貢献』を活 動理念にしている。2017 年現在、38 都道府県に 53 クラブがトップリーグであ る J1 リーグ(通称 J1)から下位リーグの J2、J3 のいずれかに所属している。 2. J リーグの現状 1) 売上及び構成比率 J1 の売上は 2015 年度では約 600 億円であり、下記の図のように年々と売上 が増えているのが分かる。 図1 ※単位は百万円 出典:J リーグ公式サイト「Jクラブ個別情報開示資料より」 一方 2014/2015 プレミアリーグは 44 億£(1£=140 円で計算 約 6,160 億円)、 2014/2015 ブンデスリーガは 24 億€(1€=120 円で計算 約 2,880 億円)(どちら も Deloitte)となっており、J リーグの売上は増えているものの両リーグとの 差は非常に大きいのが現状である。 続いて J1 リーグ、イングランド・プレミアリーグ、ドイツ・ブンデスリー
ガの売上及び内訳を紹介したい。J1 リーグを含め、世界中のフットボールクラ ブ収入源は大まかに分けると以下のようになっている。下記の表を参考にした 上で各リーグの収入内訳を見るとそれぞれの個性が見えてくる。 収入項目 内容 広告料 スポンサーからの協賛金 入場料 チケット代 J リーグ分配金 放映権料、J リーグに対するスポンサーからの協賛金 アカデミー関連収入 下部組織の収入 その他 グッズ販売、移籍金等 図2 出典:J リーグ公式サイト「Jクラブ個別情報開示資料より」
図 3 出典:Bundesliga Report より 図 4 ※ブンデス、プレミア両リーグは 1 シーズンが年を跨ぐため 2 つの西暦でシーズンを表す 出典:スポーツビジネス最強の教科書 これらのグラフから見て分かるように J リーグの収入の約 40%が広告料つまり スポンサー収入であり、放映権収入はわずか 7%程度しかない。しかしプレミ ア、ブンデスの両リーグは J リーグに比べ放映権料収入が大きな割合を占めて いる。特にブンデスリーガはすべての項目において比率が約 25%となっており バランスの取れた経営がなされていると言える。
3) J リーグの入場者数 これから紹介するのは J1 に所属するチームのホーム 17 試合の 10 年間の入 場者数平均の推移である。 図 5 出典:J リーグ公式サイトより このグラフから直近 10 年間でスタジアムの来場者はほぼ横這いであると言え る。続いて表は 2015 年度 J1 リーグのスタジアムの平均収容率である。これは 1 試合でスタジアム収容数に対しどれほど人が来ているのかを割合で示したも のである。 2015 年度 J1リーグ スタジアム収容率ランキング 1 川崎 80.20% 10 浦和 55.50% 2 湘南 76.80% 11 神戸 53.90% 3 大宮 76.40% 12 鹿島 49.30% 4 仙台 75.50% 13 鳥栖 48.10% 5 磐田 74.80% 14 名古屋 47.90% 6 柏 69.90% 15 新潟 45.40% 7 G 大阪 64.20% 16 F 東京 44% 8 甲府 61.70% 17 横浜マ 37.20% 9 福岡 59.30% 18 広島 31.10% 図 6 出典:J リーグ公式サイトより
この表によると 1 位の川崎フロンターレが年間平均で 80%も埋まっているのに 対し、最下位の広島はわずか 30%程度とクラブによってかなりの差があること が分かる。これらを平均すると 58.4%になりスタジアムの約半分が埋まってい ないということになる。一方プレミアリーグとブンデスリーガでは J リーグと ほぼ同じクラブ数ながらどちらも平均が 90%を超えている。 また入場者数がほとんど変化していないにも関わらず 2-(2 図1で紹介した ように J1 の売上が伸びているのはなぜか。これは J1 クラブの平均収入の内も っとも比率が高い広告料が増えたためだと考えられる。つまり今の J リーグに 所属するクラブはほとんどが親会社、スポンサーからの出資に支えられて経営 している状況なのである。親会社の経営状況によってはクラブへの出資が減ら されていく可能性があり、好ましい状態であるとは言えないのではないだろう か。
II. 疑問 ここまで J リーグの現状を紹介したが、サッカー日本代表の試合ではどうだ ろうか。次の図 6 はサッカー日本代表の 5 年間のスタジアム平均入場者数であ る。 図 7 出典:football GEIST より サッカーの国際試合は規定により収容規模が 4 万人以上のスタジアムで開催 しなければならないことになっている。つまり日本代表の試合ではスタジアム がほぼ満員の状態となっていることがわかった。これらのスタジアムは J リー グの試合でも普段使われているものであり、設備、アクセス等が普段と異なる というわけではない。同じサッカーの試合にも関わらずなぜ J リーグには人が あまり来ず、代表の試合には大勢の人が来るのだろうか。ここまでの差が出る 原因はなんなのであろうか。
III. 仮説 私は上記の疑問を解消するに当たってサッカー観戦に来る人は 4 つのカテゴ リーに分類されると考えた。「熱心なサポーター」「ライトサポーター」「上 記の内誰かに誘われて行く人々」である。「熱心なサポーター」は毎回 J リー グの試合を見に行き、ゴール裏で旗を振り、応援歌を歌う人たちである。「ラ イトサポーター」は応援しているチームはあるがそこまで熱心ではなく観戦に 行くわけではない人々を指す。「誰かに誘われて行く人々」はサッカー自体に あまり興味がなく誘われたから行くというスタンスである。これを元に以下の 仮説を展開していく。 仮説 1:「スタジアムに行く人は「熱心なサポーター」のみである。」 J リーグの試合には毎回スタジアムに足を運び、ゴール裏で一生懸命に応援 する「熱心なサポーター」しか行かない。サッカーには興味があるがそこまで 熱心に応援しない人や興味本位で観戦に行く人は 1 度や 2 度しか見に行かない。 J リーグのスタジアムには「ライトサポーター」は少ないのではないだろうか。 仮説 2:「代表選を見に行く女子はサッカーの試合ではなく、スタジアムの一 体感、盛り上がり、有名な選手を見られることに期待している」 日本代表の試合は本田圭佑、香川真司と言った海外で活躍する有名選手が多 く集まり、W 杯予選やその他大会など一試合一試合が大切な試合であるため緊 迫感もあり大勢の人が集まる。一方 J リーグの試合は 1 年間で 1 クラブ最低で も 34 試合はあるため優勝や残留がかかった試合以外は上記に挙げた「盛り上 がり」要素が少ないため見に行かない。つまり仮に男性が女性をデートに誘っ た場合 J リーグよりも日本代表戦の方が一緒に来てくれる可能性が高い。 というものである。 IV. 検証方法 2 つの仮説を検証するにあたって Google アンケートフォームを使いアンケ ートを作成した。アンケートは日本代表と J リーグの試合それぞれについて同 じ質問を行った。詳細は以下の通りである。 実施期間 :2017 年 1 月 3 日〜1 月 10 日 実施方法 :Facebook やランダムに決めたライングループに投稿 年齢及び人数:10 代〜60 代まで男性 54 人、女性 47 人の計 101 人
アンケート項目及び結果 1. これまで試合を見に行ったことがありますか 2. 観戦に行かない理由を教えてください(複数選択可) ※1 の質問で「いいえ」と答えた人が対象(日本代表での質問では 74 人、J リ ーグでは 57 人)が対象 日本代表 ・サッカーに興味がない・・・30.1 % ・サッカーには興味があるが試合内容に興味がない・・・6.8 % ・テレビ、インターネットで見られるから・・・53.4 % ・誘われたことがない・・・34.2 % ・スタジアムが遠いから・・・17.8 % ・その他・・・8 % J リーグ ・サッカーに興味がない・・・40.4 % ・サッカーには興味があるが試合内容に興味がない・・・21.3 % ・テレビ、インターネットで見られるから・・・21.3 % ・誘われたことがない・・・18.3 % ・スタジアムが遠いから・・・6.4 % ・その他・・・8.5 % 3.試合を何回見に行ったことがありますか ※以下 1 の質問で「はい」と答えた人(日本代表での質問では 28 人、J リーグ での質問では 54 人)が対象
4. 誰と試合を見にいきましたか(複数回観戦した人は最も多く見に行った人 を選択) 5. 試合を見に行ったきっかけを教えてください(複数回答可) 日本代表 ・家族、友人に誘われて・・・64.3 % ・恋人に誘われて・・・7.1 % ・テレビ、インターネットを見て・・・10.7 % ・雑誌やポスターを見て・・・なし ・有名な選手がプレーしているから・・・35.7 % ・スタジアムの雰囲気に惹かれて・・・14.3 % ・スタジアムのアクセスが良いから・・・なし ・その他・・・ なし
J リーグ ・家族、友人に誘われて・・・72.2 % ・恋人に誘われて・・・7.4 % ・テレビ、インターネットを見て・・・7.4 % ・雑誌やポスターを見て・・・1.9 % ・有名な選手がプレーしているから・・・11.1 % ・スタジアムの雰囲気に惹かれて・・・13 % ・スタジアムのアクセスが良いから・・・5.6 % ・その他・・・13 % 6. 実際に試合を見てどこに魅力を感じましたか 日本代表 ・スタジアムの雰囲気や一体感・・・78.6 % ・試合内容やプレー・・・50 % ・有名選手を直接見ること・・・64.3 % ・スタジアムで販売されている飲食物・・・3.6 % ・特に感じなかった・・・3.6 % ・その他・・・なし J リーグ ・スタジアムの雰囲気や一体感・・・79.6 % ・試合内容やプレー・・・44.4 % ・有名選手を直接見ること・・・33.3 % ・スタジアムで販売されている飲食物・・・7.4 % ・特に感じなかった・・・3.7 % ・その他・・・なし 7. 今後も見に行きたいですか 以上がアンケート項目及び結果である。
V. 検証、考察 これらのアンケート結果を元に 2 つの仮説についての検証及び考察を行った。 仮説 1:「スタジアムに行く人は「熱心なサポーター」のみである。」 質問 3「試合を何回見に来ているか」では「1 回」「2 回」と回答した人が 「誘われて見に行く人」、「3 回」「4 回」を「ライトサポーター」、「5 回」 「6 回以上」を「熱心なサポーター」と定義した。J リーグの試合においては 「どのクラブを応援しているか」という要素も絡んでくるが今回アンケートが 取れたのがほぼ首都圏内であるため、「J リーグ全体のサポーター」という定 義でアンケートを行った。日本代表の試合においては「1 回のみ」が占める割 合が半数を越していたが、J リーグの試合では「1 回」「2 回」「6 回以上」が 占める割合が非常に高く「誘われて見に行く人」と「熱心なサポーター」がほ ぼ二分しているという結果になった。また「ライトサポーター」「誘われて見 に行く人」は質問 7「今後も見に行きたいですか」に対して「一人でも見に行 きたい」と答えた人はわずか 1 名だったにも関わらず、「熱心なサポーター」 は約 6 割の人が「一人でも見に行きたい」と答えた。 また J リーグが行った「J league FAN SURVEY 2015」によると「10 年以上」 サポーターである人が全体の 44.8%を占めており、平均年齢が 41.1 歳であった。 40 歳台のサポーター割合に関しては 2010 年の調査から一貫して上がり続けて おり、30 歳台のサポーター割合が減っているためスタジアムに来る人は 5 年前 と変わっていないということになる。 これらの結果から仮説 1 のように「ライトサポーター」及び「誘われて見に 行く人」と「熱心なサポーター」には試合に行く回数に大きな差があり、「ラ イトサポーター」及び「誘われて見に行く人」は一人では見に行きにくい環境 が現在の J リーグのスタジアムに存在しているということが分かった。「熱心 なサポーター」たちによる応援歌やグループがすでに出来上がっているため 「ライトサポーター」「誘われて見に行く人」達は「熱心なサポーター」の友 達と一緒に行き応援や観戦のノウハウを教えてもらうか、同士で見に行くしか ない状況が出来ているのではないだろうか。 仮説 2:「代表選を見に行く女子はサッカーの試合ではなく、スタジアムの一 体感、盛り上がり、有名な選手を見られることに期待している。」 このアンケートを作る上で私は「日本代表戦を観戦しに行く人は J リーグの 試合を観戦する人よりも多い」と予測していたがこの結果では J リーグの試合 を見る人の方が多かった。これは日本代表の試合が全国各地で行われるもので あり、アンケートをとった地域が首都圏に集中していたためスタジアムに訪れ る機会が少なかったからであると推測できる。代表選は観戦したことがあるが J リーグは観戦したことがない女性は 4 名だったのに対し、その逆は 16 名いた。
首都圏内でも数多くのスタジアムがあり、試合回数の多い J リーグの方が観戦 難易度的には低いのであろう。 質問 5,6 のきっかけ、魅力調査においても「有名な選手がプレーしているか ら、直接見られるから」では日本代表の方の割合が高かったものの、「スタジ アムの雰囲気」に関してはどちらもほぼ同じ割合であり、決定的な差があると は言い切れなかった。また質問 5 のきっかけ調査では全て「友人、家族に誘わ れたから」が占めており、恋人に誘われたから見にいった人は誰もいなかった。 また質問 2「誰に誘われたら行きたいと思いますか」で「恋人」と答えた人は 日本代表と J リーグの試合どちらの結果でも 20%程度しかなかったこと考慮す るとサッカーの試合そのものがデートの一部として認められてはいないのかも しれない。よってこの検証からは「女性にとって代表選と J リーグの試合との 大きな差は存在せず誘われれば観戦には行くが、デートとして誘われると少し 抵抗がある」という結果が推測される VI. 結論 「誰が J リーグの試合に行くのか」という問いに対して「熱心なサポーター」 が今のスタジアムを支えているということが判明した。今のスタジアムでは新 規のサポーターは増えにくい状況が作り出されており、今後スタジアムの来場 者を増やして行くにはその対策を行うことが必要であると考えられる。 また女性がサッカーを見る際には J リーグや日本代表の試合など内容につい てではなく、スタジアムの雰囲気や一体感を感じられることに魅力を感じてお り、その多くが家族や友達に誘われたから行くというものであった。このこと から友達と盛り上がるためにサッカー観戦に行くという人が多いのではないか ということが推測される。アンケート結果を見て検証して行く際に「誰が代表 選を観戦しているのか」という次の疑問が生まれたが今回の議論では明確にな らなかった。一つ言えることはデートの誘いでサッカー観戦を提案することは 女性にとってあまり魅力的には映らず、男性は気をつけるべきだということが 明らかになったのではないだろうか。 VII. 終わりに 「サッカーに関する論文にしよう」と決めたのは一年前だったが、この論文 のテーマを決めるにはかなりの時間を費やしてしまった。結局は網倉教授のご 指導を受けながらこのテーマ設定に至った。「誰がスタジアムに来ているのか」 を調べるべくアンケートを行ったが、問いに対する質問が出来ていたとは到底 思えず、サンプル数も十分ではなかったことを自覚している。最も難しかった のは問題提起、仮説、検証である。これらを論理的につなぎ合わせて行く作業 が非常にハードだった。しかし自分にとって納得出来た部分も多少得られたの でそれは良かったのではないかと思う。 また 2 年間網倉ゼミナールのゼミ長を努め他の生徒よりも教授と関わる機会 が多かったわけだが、「自分たちで考える」という教授の考えはゼミ以外の時
間でも非常に感じることが出来た。「言われたままではなくどうすればより良 い方向、解決に向かうのか」これは勉学だけではなく、自分が今後生きて行く 上で欠かせないことだと思う。2 年間を通してこのことを教えてくださった網 倉教授には深く感謝を申し上げたい。
参考文献 ・J league FAN SURVEY 2015: http://www.jleague.jp/docs/aboutj/spectators-2015.pdf ・J リーグ公式サイト:http://www.jleague.jp/ ・football GEIST:http://footballgeist.com/ ・Bundesliga Report:http://www.bundesliga.de/de/liga/news/bundesliga-report-2015.jsp ・スポーツビジネス最強の教科書:平田竹男 東洋経済新潮社 ・KPMG Insight: https://home.kpmg.com/jp/ja/home/insights/2015/09/sports-advisory-20150915.html