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武田恒平根津克己 いった適応的な側面がある一方で, 反すうが過剰適応の不適応的な側面と関連があることが明らかになっている そして, その反すうに介入する方法の一つとして MCT が挙げられる そこで本研究では, 過剰適応者の不適応を促す反すうを抑えることによって, 精神的健康を維持することを目的とし

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メタ認知的信念が過剰適応者の反すうに与える影響

武田 恒平

  根津 克己

2  本研究では,過剰適応と抑うつ的な反すうに対するメタ認知的信念の組み合わせが,精神的健康 における不眠と抑うつに「与える」影響について検討することを目的とした。大学生を対象に過剰 適応傾向,精神的健康,メタ認知的信念を測定する質問紙調査を行った。まず過剰適応傾向の各下 位尺度においてクラスタ分析にかけた結果,過剰適応傾向が一様に低い群と高い群の2クラスタに 分類された。また,メタ認知的信念の各下位尺度においても同様にクラスタ分析にかけた結果,各 下位尺度得点が一様に低い群と高い群の2クラスタに分類された。次に,過剰適応の各クラスタと メタ認知的信念の各クラスタを独立変数,精神的健康における不眠と抑うつをそれぞれ従属変数と して分散分析を行った。その結果,松岡・スンデル・野村(2013)で見られたような交互作用は見 られず,過剰適応傾向の高低に関わらず,反すうに対するメタ認知的信念の強い方が弱い方よりも 不眠と抑うつの傾向が高いことが示された。本研究の結果から,過剰適応者の反すうにもメタ認知 的信念が影響していることが明らかとなった。そこで,実際に過剰適応者の反すうにメタ認知療法 (Wells,2009)のような介入を行うことにより精神的健康にどのような影響が表れるか実践的に 検討していく必要があると考えられる。  キーワード:過剰適応,反すう,メタ認知的信念,不眠,抑うつ

問題と目的

 過剰適応とは,「内的な欲求を無理に抑圧してでも, 外的な期待や欲求に応える努力を行うこと」(石津・ 安保,2008)と定義される。過度に周りの期待に応 えようとしたり,自分の欲求を抑え込みすぎたりする ことから,健康を損ない,バーンアウトのような不適 応に陥ることが考えられる。実際に,これまでに抑 うつ(石津・安保,2007;加藤・神山・佐藤,2011; 益子,2009b)や本来感の低下(益子,2009a,2010, 2013b),ストレス反応(加藤・神山・佐藤,2011)など, 様々な不適応との関連が示されている。一方で,小澤・ 北斗(2015)は“内的な欲求を抑圧して外的な期待や 欲求に応える努力を行うこと”は社会への適応におい て必要とされることを示唆している。実際に,石津・ 安保(2008)の研究では過剰適応の一側面である,他 者配慮,人からよく思われたい欲求,期待に沿う努力 が学校適応感を,石津・安保(2009)の研究では他者 配慮,人からよく思われたい欲求が友人適応を高める ことが示されている。  自己注目とは,思考,感情といった自己に関連した 内的な情報を認識する状態であり,感覚器を通して 入力された外的な環境の情報を認識することとは対 照的な状態であると定義される(Ingram,1990;山 本・杉森・嶋田,2010)。過剰適応と自己注目に着目   1 東京成徳大学大学院心理学研究科 2 東京成徳大学大学院 した松岡・スンデル・野村(2013)の研究では,まず, Trapnell & Campbel(1999)の研究を参考に自己注目 を大きく二つに分けた。一つは,自己への脅威や損失, 不正によって動機づけられる,ネガティブで慢性的か つ持続性の強い自己注目である“反すう”,もう一つ は,知的好奇心に動機づけられた,適応的な自己注目 である“省察”とした。そのうえで,過剰適応者と反 すう・省察の組み合わせが精神的健康に「与える」影 響について検討した。結果,過剰適応者の反すうが精 神的健康を低下させること,反すうを行うか否かとい う自己注目の仕方によって過剰適応者の精神的健康度 に違いがみられることを明らかにした。またこのこと から,反すうに対して介入し,反すうを減少させるこ とで,過剰適応の適応的な側面を残しながら,健康を 保つことができる可能性を示唆した。  松本(2008)は,反すうに関する先行研究を概観 したうえで,反すうを軽減するためには,自分の感情 や思考,行動傾向を客観視させ,その傾向の不適応な 側面を理解させ,適応的な側面への移行方法を教える /身につけることによって,認知的再評価を促すこと が効果的であることを示している。こうした,反すう を含む自己注目の仕方に焦点をあてるような認知的 再評価の方法として,メタ認知療法(Metacognitive  Therapy:MCT)が挙げられる。MCTとはWells(2009) が提唱した療法で,認知に対する信念(メタ認知的信 念)に焦点をあて,反すうのような,否定的な思考に 対する問題の反応パターンの改善を目指している。  以上のように,過剰適応には友人適応感を高めると

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いった適応的な側面がある一方で,反すうが過剰適応 の不適応的な側面と関連があることが明らかになって いる。そして,その反すうに介入する方法の一つとし てMCTが挙げられる。そこで本研究では,過剰適応 者の不適応を促す反すうを抑えることによって,精神 的健康を維持することを目的とした。そのため,まず は松岡ら(2013)のフォローアップ研究を行う意図も 含めて,「過剰適応傾向」・「反すう」・「精神的健康」に, 新たに「反すうに対するメタ認知的信念」を加えた, 4つの概念の関係性を調べることを本論の目的とし、 質問紙調査による実証研究を行った。

方  法

調査対象者  首都圏の4年制私立大学の学生を対象に質問紙によ る調査を実施した。そのうち,回答に不備があった ものを除き,149名(男性63名,女性86名,平均年齢 =18.85,標準偏差=1.03)を分析対象とした。 調査時期  2016年7月に実施した。 調査材料  人口統計データ 回答者の基本情報として,年齢・ 性別を記入するよう求めた。  過剰適応傾向 青年期前期用過剰適応尺度(石津・ 安保, 2008)を用いた。この尺度は過剰適応傾向を測 定する尺度である。「他者配慮」,「期待に沿う努力」,「人 からよく思われたい欲求」,「自己抑制」,「自己不全感」 の5因子,計33項目から構成され,回答は「1.まっ たくあてはまらない」から「5.とてもあてはまる」 の5件法で求めた。合計得点と下位尺度得点を算出で き,合計得点が高いほど,過剰適応傾向が高いとする。   メ タ 認 知 的 信 念  日 本 語 版LARSS(Leuven  Adaptation of the Rumination on Sadness Scale:以 下LARSSと す る;Raes, F., Hermans, D., Williams,  J. M. G., Bijttebier, P., & Eelen, P., 2008 松本・望月, 2015)を用いた。この尺度は5項目の原因分析因子, 6項目の理解因子,6項目の制御不能性因子の計17項 目から構成される,抑うつ的な反すうに対するメタ認 知的信念を測る尺度である。原因分析因子および理解 因子は反すうに対するポジティブなメタ認知的信念に 基づく反応としての反すうを反映し,制御不能性因子 はネガティブなメタ認知的信念に基づく反応としての 反すう,すなわち反すうに対するネガティブなメタ認 知的評価を反映している。各項目は,“悲しくなったり, 落ち込んだり,ブルーな気分になったとき…”という 先行リード文に続く形で提示されており,回答者はそ れぞれの項目に対して「1.全くそうでない」から「5. とてもそうだ」の5件法で回答を求めた。  精神的健康 松岡ら(2013)の研究では,過剰適応 と反すうを独立変数,精神的健康を従属変数とした ところ,精神的健康の下位尺度のうちの「不安と不 眠」および「うつ傾向」について有意な交互作用が見 られた。そこで,本研究では「不眠傾向」を測る尺 度としてアテネ不眠尺度(Soldatos CR, Dikeos DG,  & Paparrigopoulos TJ, 2000)を茨城県健康科学セン ター(井上・谷川・柳生,2003)が日本語訳したも のを使用している。この尺度は計8項目から構成さ れ,“過去1ヶ月間に少なくとも週3回以上経験した もの”に当てはまるものを4つの選択肢の中から選ぶ, 4件法による回答を求めた。目安としては,合計得点 が4~5点の場合,不眠症の疑いが少しあり,6点以 上の場合,不眠症の疑いがあると考えられている。ま た,「うつ傾向」を測る尺度としてK6質問票日本語版 (Furukawa TA, Kesseler R, Andrews G, & Slade T,  2003  川上・近藤・柳田・古川,2010)を用いた。こ の尺度は計6項目から構成され,回答は「0.全くな い」から「4.いつも」の5件法で求めた。各項目の 合計得点を計算する。5点以上の者を「陽性」とした 場合,うつ病を含む気分・不安障害のスクリーニング において感度76 ~ 100%,特異度69 ~ 80%,陽性反 応的中率16 ~ 25%となる。  また,質問紙の最後に,本研究のあとに実施する予 定の介入研究への参加を希望される方には,任意で連 絡先を書いていただいた。 Table 1 各測定尺度間の相関関係と平均値,標準偏差

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倫理的配慮  調査依頼時に調査内容に関して調査対象者に十分な 説明を行った。実施にあたっては、無記名であること や得られたデータは研究以外の目的には使用しないこ と、調査への協力は個人の自由であること、回答を拒 否しても不利益を被らないことなどを説明し、回答を もって同意とみなした。また,回収されたデータ、記 入済みの質問紙およびデジタル化されたデータは研究 実施責任者が、一定期間厳重に管理・保護し、研究終 了後、一定期間経過後粉砕・破棄する。そして,デー タ処理の際には、匿名性が保持されるように、得られ たすべてのデータを入力する時点で数値化して統計的 に処理する。なお,本研究は、東京成徳大学大学院研 究倫理審査委員会による、倫理審査を受けている(No.  16-1-13)。

結  果

 過剰適応尺度については,「他者配慮」,「期待に沿 う努力」,「人からよく思われたい欲求」の下位尺度得 点を合計した「外的側面」得点と,「自己抑制」,「自 己不全感」の下位尺度得点を合計した「内的側面」得 点を算出し,分析に用いた。また,LARSSについては, 「原因分析」,「理解」の下位尺度得点を合計して「ポ ジティブな(メタ認知的)信念」得点として算出し,「制 御不能性」の下位尺度得点を「ネガティブな(メタ認 知的)信念」得点として,分析に用いた。 各測定尺度間の相関関係  青年期前期用過剰適応尺度と,LARSS,アテネ 不眠尺度,K6質問票の相関関係を検討するために, Pearsonの積率相関係数を求めた(Table 1)。  精神的健康の下位尺度における「不眠」と,過剰適 応傾向の下位尺度における「他者配慮」,「期待に沿う 努力」,「人からよく思われたい欲求」の下位尺度合計 得点からなる「外的側面」の間には相関が見られなかっ た。それ以外の,過剰適応とLARSS,不眠尺度,K6 の各下位尺度間においては,r=0.27 ~ 0.77,(p<.05, p<.01)の弱~高程度の正の相関が見られた。 過剰適応傾向のクラスタ分析結果  過剰適応傾向の各下位尺度得点の組み合わせパター ンを知り,個人の特徴と心身の状態との関連をより詳 細に捉えるため,過剰適応尺度の各下位尺度得点の標 準得点を用いて,Ward法によるクラスタ分析を行っ た。その結果,デンドログラムの解釈の可能性から, 2つのクラスタによる分類を採用した。各クラスタの 特徴を以下に示す(Figure.1参照)。  第1クラスタは,過剰適応尺度における下位尺度「他 者配慮」,「期待に沿う努力」,「人からよく思われたい 欲求」,「自己抑制」,「自己不全感」の全ての標準得点 がどれも低く,過剰適応傾向が低いクラスタと言える。 よって「低過剰適応クラスタ」と名付けた。  第2クラスタは,過剰適応尺度における下位尺度「他 者配慮」,「期待に沿う努力」,「人からよく思われたい 欲求」,「自己抑制」,「自己不全感」の全ての標準得点 がどれも平均値より高く,過剰適応の特徴が全般的に 表れており,過剰適応傾向があると考えられる。よっ て「全般性過剰適応クラスタ」と名付けた。 メタ認知的信念のクラスタ分析結果  メタ認知的信念についても同様に,メタ認知的信念 の各下位尺度得点の組み合わせパターンを知り,個人 の考え方の特徴と心身の状態との関連をより詳細に捉 えるため,LARSSの各下位尺度得点の標準得点を用 いて,Ward法によるクラスタ分析を行った。その結 果,デンドログラムの解釈の可能性から,2つのクラ スタによる分類を採用した。各クラスタの特徴を以下 に示す(Figure.2参照)。  第1クラスタは,LARSSにおける下位尺度「原因 分析」,「理解」,「制御不能性」の全ての標準得点がど Figure.2 クラスタ毎の各下位尺度標準得点の平均 Figure.1 クラスタ毎の各下位尺度標準得点の平均

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れも平均より低く,メタ認知的信念を反映した反すう 傾向が少ないクラスタだと思われる。よって「低メタ 信念クラスタ」と名付けた。  第2クラスタは,LARSSにおける下位尺度「原因 分析」,「理解」,「制御不能性」の全ての標準得点がど れも高く,反すうに対するメタ認知的信念が強いクラ スタだと考えられる。よって「全般性高メタ信念クラ スタ」と名付けた。 過剰適応とメタ認知的信念のパターンにおける精神的 健康の差の検討  過剰適応(低過剰適応クラスタ,全般性過剰適応ク ラスタ)とメタ認知的信念(低メタ信念クラスタ,全 般性高メタ信念クラスタ)を独立変数,精神的健康に おける不眠(アテネ不眠尺度)とうつ傾向(K6質問票) の尺度得点をそれぞれ従属変数として2要因(2水準 ×2水準)の分散分析を行った。その結果,どちらの 分散分析においても有意な交互作用は見られなかっ た。不眠傾向については,低過剰適応クラスタにおい て,全般性高メタ信念クラスタの方が低メタ信念より も優位に得点が高かった(F(1, 145)=9.79, p<.01)。また, うつ傾向については,全般性過剰適応クラスタにおい て,全般性高メタ信念クラスタの方が低メタ信念ク ラスタよりも優位に得点が高かった(F(1, 145)=22.38,  p<.001)。 そ れ ぞ れ の 結 果 を 以 下 に 示 す(Figure.3, Figure.4)。

考  察

 本研究では,過剰適応者の不適応を促す反すうを抑 えることによって,過剰適応者の適応的な側面を残し つつ,精神的健康を維持することを目的としている。 そこで,「過剰適応」および「反すう」と「精神的健康」 との関連を調査した松岡ら(2013)の研究を踏まえて, 新たに「反すうに対するメタ認知的信念」という概念 を加えて,大学生に対して質問紙による調査を行った。 過剰適応パターン  過剰適応尺度におけるクラスタ分析の結果,過剰適 応の外的側面,内的側面が一様にやや高い「全般性過 剰適応クラスタ」,両側面が一様に低い「低過剰適応 クラスタ」に分類された。このことから,前者は,過 剰適応尺度の各下位尺度「他者への配慮」,「期待に沿 う努力」,「人からよく思われたい欲求」という他者志 向的な特性と,「自己抑制」,「自己不全感」という内 面的な特性の2側面を有していることが明らかとなっ た。一方で後者は,全下位尺度が一様に低い。よっ て,過剰適応傾向のパターンには,全下位尺度に渡っ て低い人と高い人の2つのタイプがあることが示唆さ れた。  この2側面の特性を有しているか否かで過剰適応傾 向のパターンが分かれることが本研究で示されてお り,この2側面の特性のバランスが心身の適応や健康 状態に影響を与えることが予想される。実際,石津・ 安保(2008)は,過剰適応的であることが非適応的で あるとは必ずしもみなせない可能性があることを示唆 する一方で,主体感を持たない受動的な方略によって 支えられている適応感の背後にはストレスが存在する 可能性があること,また,その適応感が他者志向的な 適応方略に支えられているという可能性を示唆してい る。山田(2010)は,過剰適応尺度の両側面が高いク ラスタについて,過剰適応者自身の主観においては, 社会に適応できていない心理的葛藤を有していると言 えるだろうと述べている。このことから,本研究にお いては,「全般性過剰適応クラスタ」というパターン において,期待に沿おうとする努力や他者配慮に気を 使うと同時に,自分の気持ちを抑制したり,自己に対 する不全感を抱えたりすることで,過度の抑制や不全 感からくる,他者に気づかれにくい心理的葛藤が生じ ている可能性があることも予想される。一方で,低過 剰適応クラスタについては,過剰適応尺度の両側面が 低いことから,山田(2010)のマイペース群と同様の 群と考えられ,自分の気持ちを素直に表現していて, Figure.3 過剰適応・メタ信念のパターンごとの不眠傾向得点 Figure.4 過剰適応・メタ信念のパターンごとのうつ傾向得点

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無理をせずに社会生活を送っていることが窺え,心理 的適応感と社会的適応感が一致した,心理的葛藤が生 じていない状態とされている。  過剰適応尺度の両側面が平均より高い群と,両側面 が平均より低い群の2つにクラスタが別れたことや, 外的側面と内的側面の得点との間に中程度の正の相関 が確認されたことは,松岡ら(2013)の研究を支持す る結果であった。また,外的側面が高く,内的側面が 低いクラスタと,外的側面が低く,内的側面が高いク ラスタが検出されなかった結果も先行研究を支持する 結果となったが,松岡ら(2013)はそのように極端な 過剰適応クラスタに分かれることについて,ある集団 では過剰適応的であり,別の集団では過剰適応的では ないという人が分類されずに含まれている可能性を示 唆している。本研究においても,学級ではなく学科と いう,明確に全体集団として意識されにくい「大学生」 が対象であったことがクラスタ分析の極端な2分化に 影響していることが予想される。 メタ認知的信念パターン  LARSSにおけるクラスタ分析の結果,ポジティブ なメタ認知的信念から生じる反すう反応,ネガティブ なメタ認知的信念を反映している反すう反応の,両側 面が一様に高い「全般性高メタ信念クラスタ」,両側 面が一様にやや低い「低メタ信念クラスタ」に分類さ れた。このことから,前者は,抑うつ的な反すうに対 して「原因分析」,「理解」というポジティブなメタ認 知的信念と,「制御不能性」というネガティブなメタ 認知的信念の2側面の信念を強く抱いていることが窺 える。一方で,後者は,LARSSの各下位尺度標準得 点が全てやや低いことから,前述の2側面の信念をあ まり持っていないパターンだと考えられる。よって, メタ認知的信念のパターンには,全下位尺度に渡って 低い人と高い人の2つのタイプがあることが示唆され た。  この2側面の信念を抱いているか否かで本研究にお けるメタ認知的信念パターンが分かれており,このよ うな抑うつ的な反すうに対する信念は考え方や心身の 状態に影響を与えることが予想される。実際に,ポジ ティブなメタ認知的信念からくる反すう反応とは,原 因分析的・理解的な反すうを繰り返すことであり,松 本・望月(2015)は、そのような反すうを繰り返すよ うになると,反すうに対する制御不能性ともいえるネ ガティブなメタ認知的信念が活性化し,その反応とし て反すうが行なわれると述べている。本研究において も,ポジティブなメタ認知的信念による反すうとネガ ティブなメタ認知的信念による反すうの得点の間に, 高い相関が示されており,松本・望月(2015)の研究 を支持する結果となった。また,両側面の信念とうつ 傾向との相関も高く,抑うつ的な反すうに対するメタ 認知的信念がうつ傾向に影響を与えていることが考え られる。これらのことから,本研究における「全般性 高メタ信念クラスタ」のように,反すうをすることに よる利益に関するポジティブな信念があると同時に, 反すうを繰り返すことを制御することができないとい うネガティブな信念も有している場合,その両側面が 精神的健康の維持を妨げていることが予想される。ま た一方で,本研究における「低メタ信念クラスタ」の ように抑うつ的な反すうに対して両側面の信念が薄い と,反すう自体を繰り返さずに精神的健康が維持され る可能性も予想される。 過剰適応・メタ認知的信念パターンと精神的健康との 関連  過剰適応の各クラスタとメタ認知的信念の各クラス タ,アテネ不眠尺度の得点との関連性を検討した。そ の結果,交互作用は見られず,過剰適応傾向の低いク ラスタにおいて,全般性高メタ信念クラスタの方が低 メタ信念クラスタよりも不眠傾向の高いことが示唆さ れた。次に,過剰適応の各クラスタとメタ認知的信念 の各クラスタ,K6質問票の得点との関連性を検討し た。その結果,交互作用は見られず,過剰適応傾向の 高いクラスタにおいて,全般性高メタ信念クラスタの 方が低メタ信念クラスタよりもうつ傾向の高いことが 示された。両者に共通する点としては,交互作用が見 られなかったことと,全般性高メタ信念クラスタの方 が低メタ信念クラスタよりも,不眠傾向とうつ傾向の 得点が高かったことが挙げられる。すなわち,過剰適 応傾向の高低に関わらず,メタ認知的信念を反映した 反すうを行うことが不眠・うつ傾向に影響を及ぼして いることが考えられる。 先行研究との比較  本研究では,松岡ら(2013)の研究に「反すうに対 するメタ認知的信念」の概念を加えて,検討を行った。 しかしながら,過剰適応における外的側面と精神的健 康における不眠との間に相関が見られなかったこと や,過剰適応傾向と本研究で用いたその他の尺度との 有意な交互作用が見られなかったことについては,松 岡ら(2013)の研究とは異なる結果となった。  本研究では過剰適応傾向を測る尺度以外は,松岡ら (2013)とは異なる尺度を用いており,この違いが結 果に影響を与えた可能性がある。また,松岡ら(2013) と比べて,年齢層が19歳前後,つまり大学1年生が多 く調査対象に含まれていたことも影響していると考え られる。大学に入学して1年目の学生にとっては,大 きな環境変化が生活習慣や内面の変化に対して影響を 与え,環境変化に合わせた不規則な睡眠や,新たな集 団への過剰な適応意識に繋がっている可能性も予想さ れる。不眠傾向に関してはほとんどが4~5点以上を

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示しており,多くの大学生に不眠症の疑いが少しある ことが示唆された。不眠傾向に関するこの結果は,イ ンターネットやスマホなどが普及してきた現代社会に 生きる大学生の深夜型化を表しているとも考えられ る。三宅・岡本・神人・永澤・矢式・内野・磯部・高田・ 小島・二本松・吉原(2015)によると,大学生におい ては講義の他に,夜間のアルバイトやサークル活動, 研究室での活動など多くの活動に追われ,睡眠が不足 するケースが多いことが指摘されており,そういった 活動が不眠障害につながる可能性と,生活リズムへの 十分な配慮が必要であることを示唆している。また, 先行する不眠がうつ病の発症につながることも報告さ れている(Ford & Kamerow, 1989)。本研究において も,過剰適応の他者志向的な特性(外的側面)と精神 的健康における不眠とが大きく関係しているのではな く,対象である大学生特有の生活リズムが不眠傾向に 大きく影響を及ぼしているのかもしれない。 まとめ  本研究では,反すうに対するメタ認知的信念が過剰 適応と精神的健康とどのように関連しているか調べる ため,質問紙による調査を行った。その結果,過剰適 応傾向が一様に高いパターンと一様に低いパターンと で分かれたこと,また,抑うつ的な反すうに対するポ ジティブかつネガティブなメタ認知的信念が一様に高 いパターンと一様に低いパターンとで分かれたことが 明らかとなった。また,過剰適応傾向の高低に関わら ず,抑うつ的な反すうに対するメタ認知的信念を抱い ていると,精神的健康の維持を妨げる可能性が示唆さ れた。 今後の課題  本研究では,メタ認知的信念による反すうが不眠や うつ傾向を促している可能性が示唆された。しかし, 過剰適応傾向との交互作用は見られず,松岡ら(2013) の研究とは異なる結果となったことから,用いた尺度 が本研究の趣旨や対象と合わなかったことも予想され る。今後は,松岡ら(2013)との結果の違いが表れた ことについて,どのような原因があるのか,より精査 する必要がある。  本研究で得られた知見の一つとして,過剰適応者の 不眠や抑うつを促す反すうに「メタ認知的信念」が影 響していることが明らかになったことが挙げられる。 このことにより,今後,過剰適応者の反すうに対して メタ認知療法的な介入を行う意義が見出されたと考え られる。また今回,過剰適応傾向との交互作用は見ら れなかったが,過剰適応の外的側面と内的側面がそれ ぞれメタ認知的信念や不眠,うつ傾向と相関があるこ とが示された。今後,実際に過剰適応者に対してメタ 認知療法的な介入を行うことによって,メタ認知的信 念や精神的健康に変化が表れるのか,また,過剰適応 の傾向やパターンの変化が表れるのかどうか検討する 必要があると思われる。

謝  辞

 本修士論文は,筆者が東京成徳大学大学院心理学研 究科臨床心理学専攻修士課程在学中の研究成果をまと めたものである。本論文をご査読頂きました本学副指 導教員の吉田富二雄先生と,井上忠典先生に心より感 謝致します。  調査にあたっては,堀切大史先生のご協力を頂きま した。心より深謝致します。そして,質問紙調査に回 答して下さった学生の皆様には,感謝の念にたえませ ん。本当にありがとうございました。

引用・参考文献

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The influence of metacognitive belief on the influence of over

adaptation

Kohei TAKEDA

 (Master Program in Psychology Tokyo Seitoku University)

Katsumi NEZU

 (Master Program in Psychology Tokyo Seitoku University)

  In  this  study,  we  aimed  to  examine  the  effect  of  combination  of  over  adaptation  and  metacognitive belief on depressive rumination on insomnia and depression in mental health.  Questionnaire survey was conducted for university students and as a result of cluster analysis,  each subscale of over - adaptation was classified into two types of uniformly lower cluster and  higher cluster. In addition, metacognitive beliefs were classified into two types, subclasses of  uniformly lower clusters and higher clusters. Next, we performed variance analysis with each  cluster of over adaptation and each cluster of metacognitive beliefs as independent variables,  insomnia and depression in mental health as dependent variables respectively. As a result, no  interaction was observed, indicating that the stronger the metacognitive belief for ruminants,  the  higher  the  tendency  of  excessive  adaptation, the  higher  the  insomnia  and  depression  tendencies than those with weak cognitive beliefs. This research is a follow-up to the research  of Matsuoka, Sunder, Nomura (2013). However, the fact that there was no interaction with  over adaptation and the fact that there was no correlation between the external aspects of  over adaptation and insomnia in mental health was not the case with Matsuoka et al. (2013)  Different results were obtained. From now on, it is necessary to investigate what kind of cause  caused the result difference. The results of this study also revealed that meta - cognitive beliefs  are also affecting rumors of over - adaptation. Therefore, it was thought that it is necessary to  examine what kind of influence appears on metacognitive belief and mental health by actually  performing meta - cognitive therapy intervention on the contrary of excess adaptation. Key Words: over adaptation, metacognitive belief, depressive rumination, insomnia, depression Bulletin of Clinical Psychology, Tokyo Seitoku University 2017, Vol. 17, pp. 97-104

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