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Microsoft Word - gps_rtk.doc

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スイス・ローヌ氷河における GPS-RTK 測量観

測結果報告(2009 年)

千葉大学大学院理学研究科 修士課程 2 年 北山 智暁 北海道大学環境科学院 修士課程 1 年 鍵和田 玄

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目次

1. はじめに

2. 研究対象地域

3. 観測方法

4. 結果

5. 考察

6. 参考文献

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1.はじめに

山岳氷河は山岳地の斜面を覆う積雪が、融けきらずに何年にも渡り残り、圧密および融解再 凍結を繰り返すことにより形成された氷である。山岳氷河の及ぼす影響は多岐にわたる。一つに 氷河の融解による洪水があげられる。これは、好天によって融解が一時的にスピードを速めたり、 雨によって大量の氷河が溶け出したり、氷河湖が崩壊したりすることで、下流に鉄砲水や土石流 として大量の水が押し寄せることで発生すると考えられる。実際に、スイスのアルプス山麓の村で は数十年に一度という洪水が起きている。また逆に、融解によって氷河が縮小したり消失したりす ることで、暖候期に溶け出す水の量が減り、氷河を水源としている河川の流域では水不足や渇水 に見舞われる可能性もある。また、上記のような災害だけではなく、近年では観光資源としても注 目を集めておりスキー場として活用されている氷河もある。このように、氷河の動態は我々人間の 生活にも密接に影響を及ぼしている。 氷河は気候の変化に応答してその大きさを変化させるため、気候変動の指標としても重要で ある。19 世紀以降、山岳氷河の融解が数多く報告され、近年の気候変動との関係が注目されて いる。また、下部には過去の氷期にできたものが融けずに残っており、これらを用いた古環境の 復元なども可能とされている。さらに、氷河は侵食、堆積を活発に行い、独特な氷河地形を生むこ とがわかっている。これらの氷河地形などからも、過去氷河がどのように挙動したのかを探ること が可能である。 このように氷河は重要な資源であると同時に、地球環境の変動を解明するための重要な因子 であり、その挙動を詳細に把握することが必要不可欠である。 そこで本研究では、近年の急激な氷河の縮小により氷河末端に新たな氷河湖が確認されてい るスイス・ローヌ氷河において、全地球測位システム(Global Positioning System: GPS) を用いて 氷床表面高度の変化を精度よく抽出し、降雪による質量増加(涵養)と融解による質量低下(消 耗)の収支の把握、また、2007 年以降継続的に行われている同様の観測との比較によって近年 の氷河動態変化の解明を目的とした。

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2、研究対象地域

調査はスイス・アルプス中央部、ローヌ谷の源流部に位置するローヌ(Rhone)氷河において行 った。その規模は表面積 15.94 ㎢とスイス国内では 9 番目に大きい氷河である(図 1)。このローヌ 氷河は、ヨーロッパの大河川の 1 つであるローヌ川の源流に位置し、近辺が交通の要所として栄 えていたこともあり、絵や写真などで 18 世紀半ばから氷河の姿についての記録が数多く残ってい る(図 2)。そのため、現在に至るまで氷河の末端が後退していく様子は絵や写真を見れば明らか で、この傾向は今もなお続いている。最近では、杉山ら(2007) により、航空写真解析や測量 をもとにした観測で、過去 100 年間ローヌ氷河の氷厚は約 50m 薄くなっていることが確認 されている(図 3)。 調査地域は、ローヌ氷河消耗域である(図 4)。先端部は近年氷河の融解水により氷河湖が形 成され、氷河末端部は浮氷舌となっている。氷河表面は黒く汚れており、有機物や生物などいわ ゆる雪氷生物が大量に繁殖していた。なお、2009 年 9 月の調査において、赤雪も部分的に観測さ れ、その生息形態も、パッチ状や融解水の流れた方向へ長く延びるような線上に分布するなど、 多様な形態を持っていることがわかっている。 図 1 スイス・ローヌ氷河の消耗域

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図 2 1900 年に発行された絵葉書

図 3: (a) 1878、1929、1980、2000 年におけるローヌ氷河の流線の表面高度の比較と (b)1878 年の高度を 0m とおいた時の各年の高度の変化.

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図 4: ローヌ氷河の末端付近.

(青線: 表面高度、赤丸: 2007 年 7 月に RTK 測量を行った地点、 赤線: 縦断、横断の各方向の測線、水色で塗られた地域: 氷河堰き止め湖)

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3、解析方法

氷河表面の高度を精度よく観測するため、キネマティック GPS システム(Leica GPS System 1200,Real-Time Kinematic Positioning)を用いた(図 5)。キネマティック GPS は基準となる固定局 からの 3 次元での相対座標を多点で移動観測する。キネマティックの特徴として 1 点を固定局とし て設置し(図 6)、もう 1 点が移動局として移動しながら観測を行うので(図 7)、二点を固定して観測 を行う static relative positioning に比べると精度が低かったり、その精度が受信衛星数に依存した りする欠点がある。しかし、位置を求めるまでの測定時間は static 観測より短く、数秒で位置が求 められるという利点もある。また今回採用したリアルタイムのもつ特性で、取得した位置のデータ は、無線を通して観測時にその場で固定局と移動局の間でやり取りされるためにその場で測定精 度などの情報を得ることができる。今回は 1 秒に 1 回の測定を 10 回行い、その 10 回の測定値の 平均値が各地点のデータである。ちなみにキネマティック GPS の誤差は通常数 cm 程度である。 なぜなら、観測時にはキーパッドの表示で誤差をその都度確認し、その値が数 cm 以下の時のみ 観測するようにしていたからである。また固定局と移動局間で無線が届く距離であれば観測は可 能である(目安としては、数 km 以内)。そして、流動方向(縦断方向)と流動方向に対して垂直方向 に沿って、過去の観測で用いた観測点とほぼ同じ地点を携帯用小型 GPS(GARMIN eTrex Vista HCx)の単独測位で捜し出してそれぞれ観測を行った。ちなみに携帯用小型 GPS の誤差は約 5m である。 観測は、主に、南北方向に 29 点、東西方向に 17 点を観測し、氷河表面の空間変動の観測 を行っている(図 4)。しかし、毎年、観測時期により、クラックなどの影響で観測が難しいポイ ントが数点存在することがあり、同様の点で年々変化を追えない場合もある。 2009 年の調査は 07 月 29 日、09 月 06 日の 2 回実施をし、南北方向および東西方向の側線に 沿った観測を行った。尚、報告者北山及び鍵和田は 09 月 06 日に RTK 調査に同行し、午前午後 の二回に分け、午前は携帯用小型 GPS による位置選定を杉山先生が担当し、キネマティック GPS による高度測定を北山が担当した。午後は携帯用小型 GPS による位置選定を午前同様、杉山先 生が担当し、キネマティック GPS による高度測定を鍵和田が担当した。 また、2007 年 07 月 31 日、09 月 08 日、2008 年 07 月 27 日、09 月 08 日と同地域においてキネ マティック GPS を用いた氷河表面高度の観測を行っているが、09 月 08 日に関しては観測点が他 の観測日に比べずれているため本解析では使用しなかった(表 1)。以上より、過去 3 年間の氷床 表面高度の変化を詳細に議論することができる。

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表 1 過去 3 年間の側線における観測点数

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図 6 固定局の選定と機器設定の様子(2008 年調査より)

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4、結果

4-1 表面高度の年々変動

2007 年から 2009 年の 3 年間で調査された 6 回のデータのうち、各年 7 月の観測により得られ た結果から、東西方向及び南北方向における三年間の高度変化を求めた(図 8‐1、8‐2)。結果、 両側線において 2007 年から 2009 年にかけ表面高度が減少していることが分かった。南北方向に は、2007 年から 2008 年にかけ平均 3.34m 減少し、2008 年から 2009 年にかけては平均 5.61m 減 少した。減少量は過去 3 年で増加しており、その増加幅は 2.27m と非常に大きい。また、減少量が 最も大きかったのは、S10 付近であり、ここを極大に上流下流にかけ変化量が減少していく傾向に ある(図 9-1)。 東西方向には、2007 年から 2008 年にかけ平均 2.95m 減少し、2008 年から 2009 年にかけては 平均 5.06m 減少した。減少量はこちらも過去 3 年で増加しており、その増加幅は 2.11m であること が分かった。東西方向で減少量が大きいのは両岸付近であり、2007 年から 2008 年においては内 陸につれその量が小さくなる傾向にあるが、2008 年から 2009 年にかけては両岸でその値は大き いものの、内陸部でもその値は大きく、前年度と同様の傾向を示しているとは言えない(図 9-2)。 この結果から、2007 年から 2009 年にかけ、ローヌ氷河消耗域は広域にわたり減少しており、特 に 2008 年から 2009 年にかけて大きな減少を示したことが観測より明らかとなった。

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図 9‐1 南北方向の 2007 年を基準とした 2008 年及び 2009 年の高度変化量

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4-2 表面高度の季節変動

次に、気温が一年を通じ最も高い 7 月から 9 月にかけての短期間の変動について把握するため、 同年における 7 月と 9 月の観測値から季節変動を求めた。なお、2007 年については、9 月の観測 点が同年 7 月を含めた他の調査と大きく異なるため、比較することが難しく、季節変動を議論する 際は 2008 年及び 2009 年の結果をもとに行うこととする。 まず、2008 年 7 月および 9 月の南北方向、東西方向の高度変化を示す(図 10-1、図 10-2)。こ れより、7 月から 9 月にかけ表面高度は減少していることがわかる。南北方向には平均 2.24m の 減少、東西方向には 2.30m で、南北方向で 2008 年 7 月から 2009 年 7 月までの一年間の減少量 の約 40%を、東西方向で 45%を約一ヶ月間に生じさせたことになる。 次に、2009 年 7 月および 9 月の南北方向、東西方向の高度変化を示す(図 11-1、図 11-2)。 2008 年同様、7 月から 9 月にかけ表面高度は減少していることがわかる。南北方向には平均 2.23m の減少、東西方向には 2.96m で、2008 年に比べ東西方向の減少量が若干ながら増加して いるが、南北方向には変化はあまり見られなかった。

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図 10-1 2008 年 7 月と 9 月の南北方向における表面高度

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図 11-1 2009 年 7 月と 9 月の南北方向における表面高度

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5、考察

5-1 表面高度の年々変動

本研究結果から、ローヌ氷河末端部消耗域において、氷河上の表面高度は年々減少傾向に あることがわかった。氷河の下にある山岳斜面(基盤)の高度が年々大きく変化する事は考えにく く、これは氷河の質量が年々減少しているためであると考えられる。 氷河の減少要因として考えられるものの一つに気候が挙げられる。氷河は気候の変化に応答 してその質量を変化させることがわかっており、降水により質量は増加(涵養)し、融解・削剥・昇 華により質量は低下(消耗)する。季節によっては降水の多い時期や融解の多い時期があり、一 年を通じた涵養量と消耗量が同じである場合は、年における質量の変化はない。本研究対象地 域のローヌ氷河末端部消耗域の場合は、年々質量が減少傾向にある。つまり、毎年涵養による 質量増加より消耗による質量減少が多いことを示している。さらに、その減少の割合も年々増加し ている。図 3 で示すように、長期的に見ても氷河の質量は年々減少傾向にあるが、近年の減少量 の割合は過去のそれより大きいものであることがわかった。この質量変化は、降水量の減少か融 解量の増加によるものであり、そのどちらも気候に大きな影響を受けていることが推測される。近 年、多方面で気候の変化が叫ばれており、中でも人的要因による地球温暖化は大きな問題であ る。地球温暖化により大気の温度が上がることは、単純に氷河の融解量を上昇させるだけではな く、極域の氷が溶けることで引き起こされる海面上昇により、気候に大きな影響を与える海流を変 化させ、ある地域の降水量を増加させることも考えられる。このように、人的要因による気候変動 により氷河の質量が減少傾向にあることも考えられるが、地球の自然的要因により気候変動がお こっていることも考えられる。気候変動に関しては今後も広く議論されていく必要がある。 また、気候以外の氷河の減少要因として、周囲の環境変化が挙げられる。ローヌ氷河は近年 新たに氷河湖を形成しており(図 4)、氷河が氷河湖に接することで融解量が増加した可能性も考 えられる。さらに、氷河表面には、有機物や生物などいわゆる雪氷生物が繁殖することにより色 が黒く変化している地点があり、赤雪も部分的に観測されている。色による光の吸収量は大きく異 なり、それにより各地点の融解量も変化する。近年、何らかの影響で氷河表面の有色である面積 が増え、融解量が増加したことも推測出来る。 以上のように、今後は氷河の質量収支を、降水量や日射量、気温等の気候や、氷河湖の影響 や有色の氷河の面積など、様々な視点からを考えていく必要がある。

5-2 表面高度の季節変動

本研究結果から、7 月から 9 月にかけた一年の 8%の期間で 、表面高度の減少量、つまり、氷 河の減少量が一年の減少量の約 40%以上である事がわかった。この結果より、氷河は気温が一 年を通じ最も高い夏季において多く融解すると推測される。 ここで、2008 年度の夏季における融解量と 2009 年度の夏季における融解量に大きな差がない 事に注目したい。先述したように、氷河の質量減少の要因は降水量の減少か融解量の増加によ るものであると考えられる。一ヶ月という短い期間ではあるが、この期間における融解量が年毎に

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大きな変化がないということは、一年間の融解量も年毎に大きな変化がないという可能性も考え られる。しかし、図 8 で示すように、氷河の減少量は年々大きくなっている。以上より、近年のロー ヌ氷河の質量減少要因は、融解量の増加によるものではなく、降水量の減少によるところが大き い可能性が示唆される。今後は、他の季節でも同様の調査を行い、季節による降水量や融解量 と氷河の減少量の関係を解明していく必要がある。

5-3 位置による質量変化の差異

本研究結果から、南北方向の氷河減少量は、より南の地点ほど減少量が大きい傾向が確認さ れており、特に S10 付近で極大値を示した(図 9-1)。これは、気温差や斜面の傾斜によるものでは ないかと推測される。 ローヌ氷河では北が山頂方向であり、南が谷方向である。一般的に、山の気温は標高が高い 地点ほど低い。標高の違いによる気温差が南北の減少量の違いに繋がっていると考えられる。ま た、標高がほぼ同一である東西方向の各地点では減少量に大きな差を確認する事は出来ない (図 9-2)。この事からも、標高による気温差と減少量は何らかの関係があるのではないかと考えら れる。 また、図 1 に示すように、ローヌ氷河は各地点で斜面の傾斜に差がある。斜面傾斜の違いは氷 河表面が受ける日射量と関係があると推測出来る。さらに、上下左右で傾斜に差がある地点はク レパスを生みやすく、クレパスにより氷河が日射を受ける面積が増えると、その融解量も増加する ことが考えられる。 東西方向の減少量は、大きな傾向は確認出来なかったが、氷河両岸に近い地点の減少量が 少なかった。氷河はその特有の性質から両岸を山に囲まれている。よって、両岸付近には影が出 来やすいため、日射量は他の地点に比べて少ない。このため、氷河の減少量が低くなるというこ とが推測される。今後は、より多くの地点で同様の観測を行うことに加え、地形なども考慮に入れ た研究が望まれる。

6、参考文献

西村大輔、杉山慎、Andreas Bauder、Martin Funk、2008、スイスアルプス・ローヌ氷

河における過去 100 年の流動変化

参照

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