第2回 最小作用の原理
1 安定な運動と、静止物体の釣り合いの問題 ニュートンの運動方程式 Fr mx&r&
= の解はいつでもユニーク(一つに決まる)であり、同じ 初期条件であればいつでも必ず同じ運動をします。これは、その運動が『安定』である と言ってよいでしょう。
1.1 「安定な運動」
「安定な運動」の意味をもう少しはっきりさせるために、アナロジーとして物体の釣り合い を考えてみましょう。
物体が安定な位置に停止する条件は、∂
∂ U
x =0、かつ
∂
∂
2
2 0
U x >
3次元なら、∇U =r
0、かつ
∂
∂ ∂
2U x xi j
の固有値が全て正という条件になります。
⇒いつでも、次元が変わったらどういう式になるか考えると面白いです。
運動の安定性という問題でも、何かポテンシャルUのよう な量が存在して、それが現実に起こる運動に対して極小 値を取っているのではないでしょうか?
もちろん、これは何か法則があって述べているわけでは ありません。何となくそういう気がするのではないでしょう か、と言っているだけです。新しい理論はたいてい、そう いうところから始まります。
1.2 ラグランジアンと作用積分
運動の場合は、釣り合いとは異なり、ある有限時間の間持続するものですから、何かの
関数を S =
∫
tt2L(q,q&)dtのように時間で積分したものが極小になると考えて良いでしょう。t q
( )
tδ
q( )
t q( )
t q( )
t q +δ
現 実 の 運 動 と少 し ずれ た 運動とは?
ここで t1と t2は運動の始点と終点であり、qとq&は、座標とその時間微分です。平たく言 えば、xと
υ
ですね。いきなり、qとか書かれておじけづかないように。⇒どうしてqと書くのでしょうか。「デカルト座標」に限定しないからです。
あとで出てきます。(角度とか、曲線の長さ、etc.) 1.3 多自由度系(多次元、多粒子)
もちろん、これも、3 次元空間での運動であれば、qrとqr
&のようにベクトルとなるでしょうし、
もっと拡張して、多くの物体の運動であれば、もっと多くの座標{q1,q2,…,q&1,q&2,…}とな ります(N個の粒子が三次元空間内を運動する場合は6N個の座標変数です)。
1.4 Lagrangian U T
L= − と定義します。Tは運動エネルギー、Uはポテンシャルエネルギーです。
どうしてこんなものを定義するのかが今日のGoalです。
一次元空間を運動する一つの粒子なら、 2 2 x
T =m & です。
三次元空間を運動する二つの粒子なら、
(
12)
2 1 2 1 2 1 2 1 2 1 1
2 x y z x y z
T =m & + & + & + & + & + &
ポテンシャルエネルギーの例、U Fr xr
⋅
−
=
いつでも同じ力が働いている空間。Fr =
(
0,0,−mg)
とすれば重力 万有引力
2 1
2 1
r r
m U Gmr r
− −
= G= 6.67259×10−11 m3s−2kg−1
バネ 2 2x U =−k
このような自乗のポテンシャルを調和ポテンシャル(Harmonic)と呼びます。
由来はギリシャ哲学─この世は全て整数比の「調和」で成り立っている。振動数も。
1.5 作用積分action integral
定義 S =
∫
0tm2q&2 −U( )
q dtベクトルで書けば S =
∫
0tm q −U( )
q dt2
2
&r r
二次元なら、qr=
(
rcosθ
,rsinθ )
三次元なら、qr=
(
rsinθ
cosϕ
,rsinθ
sinφ
,rcosθ )
多粒子なら、S =
∫
0t m q +m q + −U(
q1 q2)
dt2 2 2 2 1
1 , ,
2 &r L r r L
&r
1.6 最小作用の原理
作用積分の表式に「現実の運動」を代入してそれが最小になることを見てみよう。
現実の運動とは、、、
〔例〕等速直線運動q
( )
t =υ
0t+q0, q&( )
t =υ
0〔例〕単振動q
( )
t =Asinω
t, q&( )
t =Aω
cosω
t〔例〕等速円運動qr
( ) (
t = rcosω
t,rsinω
t)
, q&r
( ) (
t = −rωsinωt,rωcosωt)
注)これからは単振動とは言わない。調和振動と言う。
バネとは言わずに調和ポテンシャルと言う。
「現実の運動」から少しずれた運動を考える。
q
( )
x +δ
q( )
x と q&( )
x +δ
q&( )
x ただし、δqは非常に小さな関数 1.7 作用積分Sにq
( )
x +δ
q( )
x を代入すると、(
q+ q)
=∫
tm(
q+ q)
−U(
q+ q)
dtS 0
2
2δ δ
δ & &
( ) ( ) ( )
∫
+ − −≈ t qdt
dq q q dU U q q m q
0
2 2
2 & &δ& δ
一項目と三項目をまとめると元のSなので、
( ) ( )
∫
−+
= t qdt
dq q q dU m q
S
0 2 &δ& δ
ここで積分の中の第一項を部分積分してδq&を消去すると、
∫
0tmq&δ
q&dt =mq&δ
q t0 −∫
0tmq&&δ
qdt=−∫
0tmq&&δ
qdt となるので結局、( ) ( )
∫
− −+
=
+ t qdt
dq q q dU q m S
q q
S δ 0 &&δ δ
( )
∫
+
−
= t qdt
dq q q dU m
S 0 && δ
(
+)
− =≡
∴
δ
S S qδ
q S( )
∫
+
− t qdt
dq q q dU
0 m&& δ
を得ます。
1.8 ニュートンの運動方程式と最小作用の原理
( )
q dq F dU qm&&= =− がニュートンの運動方程式ですから、これを代入すると、
( )
tq
S
δ
δ
= ∀∴ 0 for
となって、現実の運動から、ちょっとだけ外れた運動では必ずSは一定 つまり、極小値を取ると言うことがわかります。
すなわち、
ニュートンの運動方程式 ⇔ 最小作用の原理 が導かれました。
※厳密には、極大では無いことを証明するために、
( ) ( ) ( )
22( )
q q2q q S q q q S S q q
S
δ δ δ
∂ +∂
∂ +∂
= +
と二階変分を計算して、正であることを確かめる必要があります。
1.9 多次元・多粒子の場合
( )
( ) ( ) ( )
∫
+ + + + − + +=
+ +
+
t
dt q
q q q q U
q m q q m
q q q q q q S
0 1 1 2 2
2 2 2 2 2 1 1 1
1 1 2 2 1 1
, 2 ,
, ,
,
L L
&
&
&
&
L
δ δ δ
δ
δ δ
δ
( ) (
q q)
q dtq q U q
q q q U
q m q q m
S t & & & & L L L −L
∂
−∂
∂
−∂ + +
+
≈
∫
1 2 22 1 2
1 1 1
1
0 1 1
δ
1 1δ
, ,δ
, ,δ
部分積分して、
( ) (
q q)
q dtq q U q
q q q U
q m q q m
S t && && L L L +L
∂ +∂
∂ +∂ + +
−
=
∫
1 2 22 1 2 1 1 1
1
0 1 1
δ
1 1δ
, ,δ
, ,δ
( ) (
q q)
q dtq q U q m q q
q q q U q m
S t && L && L +L
∂ +∂
∂ + +∂
−
=
∫
1 2 22 1 1
0 1 2 1 1
1 1 1
1
δ
, ,δ δ
, ,δ
( ) (
q q)
q dtq q U m q q
q q q U m
S t && L && L +L
∂ +∂
+
∂ +∂
−
=
∫
1 2 22 1
0 1 2 1 1
1 1
1 , ,
δ
, ,δ
それぞれの〔〕の中はニュートンの運動方程式から全てゼロになるので、
全ての座標q1,q2,Lについて、Sは極小値を取ることになります。
図示出来るのは二次元
(変数が二つという意味です)の場合 のみで、右図のようになっています。
但し、軸q1,q2は単なる座標ではなく、
現実の運動に対応した時間の関数です。
1.10 最小作用の原理の意味
この運動がどうしてそんなに安定なのでしょうか?
どうしてこの宇宙では、ニュートン力学に従う運動が選ばれたのでしょうか?
それは作用積分を良く見るとすぐにわかります。まず、運動エネルギーT は常に正であ ることに注意すると、
現実の運動
q1
q2
S
値でなく、関数 の種類を表す 座標軸
{
L t
dt U T S =
∫
0 −なのですから、積分を小さくするためには、 T 小かつU 大 というところでゆっくり動け ば良いことになります。このことは当たり前で、ポテンシャルの高いところでは運動エネ ルギーが小さくなってゆっくり進む、ということに他なりません。
1.11 オイラーラグランジュの方程式
∫
= tLdt
S 0
のままで変分を適用してみます。ここで、L=L
(
q,q&)
です。「どういう運動」かとは、q
( )
t とq&( )
t が、どういう時間の関数かということです。例)静止
( )
( )
=
= 0
0
t q
q t q
& 自由落下
( )
( )
−
=
− +
=
gt t
q
gt x
t q
0
2 2 1 0 0
υ υ
&
回転
( ) ( )
( ) ( )
=
−
=
=
=
t r
t q t r
t q
t r t q t r t q
y x
y x
ω ω ω
ω
ω ω
cos ,
sin
sin ,
cos
&
&
作用積分Sを変分してみます。Sの変分を取るということは積分の中身のラグランジアンLを ちょっとだけずらすことです。Lをずらすということはその中身の座標と速度をずらすということ です。座標と速度は変数ですが、時間に依存するので「時間の関数」とみなせます。
この関数をずらすので変分になるわけです。
( ) ( )
∫
∫
= ∂∂ +∂∂= t t q t dt
q t L q q t L
d L
S 0 0 &
&
δ δ
δ δ
T 小、U 大
T 大、U 小 ゆっくり進んで時間を稼ぎ、
作用積分を小さくさせる さっさと進んで、 速度
作用積分を大きく させない
Lの変数はqとq&であって、
それ以外の変数は含まな いという意味。
但し、
δ
q( )
0 =δ
q( )
t =δ
q&( )
0 =δ
q&( )
t =0とします。ここまで来ればあとは先週のレシピを思い出して、部分積分すれば、
( ) ∫ ( )
( )
∂
− ∂
∂ + ∂
∂
= ∂
=
t t
t d t q q L dt t d q q t L
q q S L
0 0
0
δ δ
δ
δ
&43 42 1
第一項は、ずれ関数
δ
q( )
t の定義からゼロで、積分の中身は任意のδ
q( )
t 関数でゼロになら ねばならないので、結局、最小作用の原理 =0
∂
− ∂
∂
∂
q L dt
d q L
&
ということになります。この方程式をEuler-Lagrange方程式と言います。
一体全体どういう方程式かと言うと、
例) ポテンシャルU
( )
q の中に置かれた質点の場合、L=mq −U( )
q2
&2
ですから、
=
∂
− ∂
∂
∂
q L dt d q L
& −
( )
= − =0∂
−∂ mq f mq dt
d x
U & &&
となってニュートンの運動方程式が出てきました。これは今日の前半で確かめたことです。
以上より本日の結論は、
最小作用の原理 Newtonの運動方程式Euler-Lagrange方程式
ということになります。E-L は微分方程式なので、積分方程式の最小作用の原理に比べて取 り扱いが簡単です(みなさんには同じに見えるかも知れませんが、、、)。
※ 次回はラグランジアンのご利益。どうして便利なのか?
( )
t q( )
tq +
δ
=少しだけずれた関数( )
tq =元の関数
δ
q( )
t =ずれ(両端ではゼロとする) t
t 0