1
2017.1.6 十和田火山防災協議会
(参考)専門家 意見照会結果をふまえた論点の整理
(類似意見を事務局が集約・マージしたもの。
赤字は複数の方からの類似の意見を集約したもの、相反する意見。)
1.想定火口の位置の設定について
◆噴火実績を考慮して、中湖の中心から御門石までを含む円の範囲と設定すれば、陸域も含まれる。
◆浅水域および陸域の火口を想定すべき小規模の噴火は、噴火実績に基づく想定が困難である。こ
のような小規模噴火をハザードマップの作製で考慮すべきか、また考慮する場合にはどの範囲に
火口を想定すべきかについては、議論の機会が必要。
◆カルデラ壁内の陸域も含めるべきか。
◆タール火山の事例が参考になる。
2.想定する噴火様式の設定について
(1)マグマ水蒸気噴火を想定すべきか及びそのときに発生を想定すべき現象について
◆少なくとも、比較的浅い水域で噴火が発生した場合には、マグマ水蒸気噴火の発生が想定される。
◆火山噴火予知連絡会では、水深500m 以浅で活動が認められない海底火山は、活火山として選定
しない、としている(林・宇平、2008)。伊豆東部火山群のハザードマップ作成例がある。
◆必ずしも火口の水深の変化によらず、例えば噴出率の変化に伴い発生すると想定するのが合理的
である。噴火エネルギー(マグマ噴出量)とマグマ水蒸気噴火の規模に関する関係式が必要。(洞
爺湖で行った未整理の実験データがある)
◆中湖はすべてマグマ水蒸気噴火の想定域とする。
◆発生は考えられるが、降灰とベースサージという発生現象はマグマ噴火と同じなので、特別に設
定する必要はない。
◆爆発に伴う噴石
◆降灰とベースサージ
◆火砕サージ
◆噴火に伴う湖水の変動
中湖の湖水域のみ(水深何m以下など)とするか、あるいは湖の浅水域~周辺の陸域まで含め
るか、陸域まで含める場合の設定の考え方について
1)火口が水深何m以浅にできた場合に、マグマ水蒸気噴火を想定すべきか
2)発生を想定すべき現象
2
(2)陸域で噴火した場合に、発生を想定すべき現象について及び水蒸気噴火を想定すべきか
◆御倉山のような溶岩ドーム形成の可能性があり、この場合はドーム崩落型の火砕流を想定してい
く必要がある。
◆高粘性のマグマ(安山岩から流紋岩まで想定)噴出による溶岩ドームの形成およびそれに伴う水
蒸気噴火、規模の小さい爆発的マグマ噴火が想定される。
◆サブプリニー式~プリニー式噴火による降灰、噴石、火砕流、火砕サージ。
◆水域に近ければマグマ水蒸気噴火の発生が想定される。その場合には、火砕サージが発生する可
能性がある。御倉山の噴火では火砕サージ発生の証拠は見つかっていない。
◆過去の噴火において水蒸気噴火の堆積物を確認することはできていないが、湖周辺では発生する
可能性があることを指摘し、御嶽で発生した程度の事象については示すべき。
◆過去の履歴を重視するならば、水蒸気噴火の想定は必要ない。
◆水蒸気噴火は、過去の堆積物がないことをもって、今後も発生しないとすることはできない。
◆発生したとしても、影響範囲はマグマ噴火・マグマ水蒸気噴火の影響範囲に内包されるので、想
定する必要性は低い。
◆プリニー式噴火の前駆現象として水蒸気噴火が発生する可能性はある。1991 年ピナツボ噴火の例。
◆仮想小規模噴火の場合、他火山の例を参考に「火山防災マップ作成指針」の例に従い妥当なパラ
メータによりいくつかの代表的なケースについて計算するしかない。
(3)中湖深水域で噴火した場合に、発生を想定すべき現象について
◆深水域での噴火なので、噴煙柱が空中に到達しない可能性がある。
◆爆発的噴火とはならずに、湖底溶岩ドームの形成となる可能性もある。
◆溶岩の湖底への貫入による湖の浅水化と、それに伴うマグマ水蒸気噴火、ベースサージの発生。
◆噴火エネルギーによっては大きなマグマ水蒸気噴火を生じる。
◆十和田湖の急激な水位の変化(津波の発生や奥入瀬川の洪水)も考えられる。
◆いずれの場合も、湖水変色や漂流軽石などの発生が想定される。
◆過去の海底火山噴火の事例研究を行い検討する。例えば、明神礁は水深 50m~300m付近になる
が、マグマ水蒸気噴火によるベースサージのほか、軽石の放出などが発生している。
1)発生が想定される現象
2)水蒸気噴火の発生について
3
(4)噴火現象の推移に伴い、上記の想定火口位置が変化すること、噴火様式が変化することを想定
する場合、ハザードマップにどのように表現すべきか
◆深水域、浅水域、陸域に火口がある場合について個別に作成する。
◆火口位置を番号、噴火様式を記号で表し、影響範囲は両方を組み合わせて番号と記号で表現する。
◆表示する内容が多い場合は複数枚のマップを作成する。
◆平安噴火および中掫噴火を想定した場合、火口位置の変化は特に想定する必要はない(結果に影響
を及ぼすような変化はない)。
◆火山防災マップ作成指針(平成25 年公表)では、想定火口位置を包絡線で結んだ領域を表示して
いる(例:富士山や鳥海山のハザードマップ)。噴火現象の推移に伴って火口位置が変わる場合も
同様の考え方で良い。
◆アトサヌプリや雌阿寒岳では、規模と様式によって図を表示している。
(5)その他
◆中湖深水域でVEI が 2 以下の噴火が発生した場合、水面より上に噴出物が到達しない噴火となる
可能性がある。過去にそのような噴火があったのかどうかを実証するデータはまだないはずであ
るので、湖底ボーリング調査などで検証できれば望ましい。
3.想定現象の設定とその影響の想定方法について
◆いずれの噴火様式においても発生する。
◆水深が深い場合、地表には達しない可能性が高い。
◆「大きな噴石」はまぎらわしいので防災用語として不適当。
大きな噴石 →「噴石」とする。
低温の放出岩塊 → 弾道軌道を描いて放出される。水蒸気爆発・マグマ水蒸気爆発に伴う。
火山弾 → 可塑性を持った溶岩塊が弾道軌道を描いて飛散する現象。(通常の定義)マグマ水蒸
気爆発あるいはブルカノ式噴火で放出される。
(2)放出岩塊の到達範囲として、想定火口から何 km を設定すべきか
◆実際に爆発的噴火したエピソードC のベースサージの到達距離を参考に爆発エネルギーを想定し
て、放出岩塊の分布域を推定する(シミュレーションする)。
(1)噴火に伴う放出岩塊(大きな噴石、火山弾)の発生が想定される噴火位置、噴火様式に
ついて
4
(3)噴火に伴う降下火砕物の影響範囲として、実績到達距離・積灰厚を参照したマップ作成とする
こと以外に、影響の想定方法について
◆実績到達距離・積灰厚では不十分。
◆季節毎の平均的な風向・風速を基にした何段階かの降灰分布想定を示すのがよい。
◆平安噴火および中掫噴火の降下火砕物については、層厚および粒径分布のデータがあるため、こ
れを再現するような噴火パラメータを決定し、それに基づいて気象パラメータを変化させた結果
を計算する方法が考えられる。ただし、結果は単に実績に基づく場合と大差ない気がする。
(4)火砕流・火砕サージの影響範囲として、エナジーコーンによる想定とすることもしくは実績到
達距離を参考に同心円で描くこと以外に、影響の想定方法について意見があれば回答ください。なお、
使用する地形データ解像度やその他条件設定(H/Lなど)について
◆エナジーコーンの結果は参考にしても良いが、分布実績に重点を置いて想定すべき。
◆実績到達距離に関する評価に注意が必要であり、既往文献間で毛馬内火砕流と火山泥流の認定が
異なっている可能性がある。
◆既往の地理院公開 DEM によって、とくに奥入瀬川や西・南側のカルデラ壁に低い部分を通過す
るケースを想定して、既往の火砕流・火砕サージ堆積物の分布が説明できるか検討し、その上で
現象・規模を何通りか設定して予測計算する。遠方の高所に到達したとされる部分を灰雲サージ
堆積物とするか、低アスペクト比火砕流堆積物とするかでHまたはH/Lの条件が大きく変わる
可能性がある。
◆H/Lについては、例えば、毛馬内火砕流の流下限界を抑えて検討するのが適当ではないか。
◆同心円以外の選択肢はなさそう。
◆地形的に考えて、毛馬内レベルの火砕流では到達しないと思われる地域があるため、同心円で単
純に影響範囲を描くことには疑問がある。
◆同心円で描くと、影響範囲が過剰に広域になる可能性がある。
◆火山防災マップ作成指針ではシミュレーションを利用した方法を掲載している。火口域から遠方
域まで共通のメッシュで計算すべきで、国土数値情報の10mメッシュで十分。
◆可能な限り高分解能のDEMを使用するべき。
5
(5)中湖の水域でベースサージの発生を想定する場合、影響到達範囲として、想定火口から何 km
を設定すべきか。また、一律距離による想定とすること影響の想定方法について
◆一律の距離で決めるよりも、過去の分布実績を参考にして決めるべき。
◆地質学的記録によれば、噴火エピソード E、C では、火砕サージの到達範囲は十和田カルデラ内
と推定される。
◆噴火エピソードA では十和田カルデラ外へも広く分布している。
◆影響範囲については、広井ほか(2015)による火砕サージの分布(Oyu-S、Oyu-4、Oyu-2b)を
参考にするのが良いと思う。ただし、広井ほか(2015)による Oyu-2b の全てが火砕サージであ
るかどうかは、再検討の余地がある(全てを火砕サージと判断すると、影響範囲が相当広域とな
る)。
(6)溶岩流、溶岩ドームの発生を想定する場合、影響の想定方法について
◆影響の想定については、御倉山溶岩ドームの規模を想定してはどうか。
◆湖底噴火の場合は考慮すべき影響があるかどうかよくわからない。
◆溶岩の下に閉じ込められた水の爆発的沸騰現象に注意。
(7)その他
◆まずは平安噴火および中掫噴火を忠実に再現した場合の想定を行ってみることが最初の作業にな
る。
4.噴火に伴い発生する土砂移動現象の設定とその影響の想定方法について
(1)噴火後の降雨に伴い発生する土石流の影響想定については、対象となる全ての渓流に関するシ
ミュレーション計算は行わず、対象エリア内の砂防調査結果を参照してマップ作成することについて
◆降灰による影響範囲内にある土石流危険渓流や土砂災害警戒区域を明示する方法もある。また、
土砂災害防止法の対象渓流抽出基準参考にするのが良い。
◆砂防調査結果に加えて、平安噴火でどの程度地形が変わった証拠が見つけられているかを把握し
た上で、ある程度の層厚の火砕物堆積が想定される場合は、その上での土石流(泥流)予測(シミ
ュレーション)をする。
◆噴火エピソードA の時には、米代川沿いに規模の大きなラハールが発生し、最近の研究では津軽
平野側にもラハールが来ているという報告がある。この火山泥流は噴火後に発生しているが、お
そらく融雪ではなく、また降雨によるものかも不明である。堰止め湖決壊型の可能性もある。
6
(2)積雪期に噴火に伴う火砕流等を熱源として発生する可能性のある融雪型火山泥流について、上
記火口位置、噴火様式等に伴う発生有無について。また、積雪時に泥流が流下開始する場所の考え方
について。
◆数億立米以上の火砕流が流下する場合、火口の位置はほとんど無関係と考えてよい。
◆平安噴火を想定した場合の火砕流堆積物、中掫噴火を想定した場合の降下火砕堆積物によって融
雪型泥流の発生を想定する必要がある。
◆噴火規模・タイプを分けて何通りか想定し、被災域の規模イメージを掴むのが良い。
◆これまで把握されている平安当時の下流部での推定堆積範囲と比較してみる。
◆熱源としては、火砕流だけ検討すれば十分。
◆短時間の融雪よりも、堰止め湖形成への融雪水・降水の役割が大きい。
(3)融雪に寄与する火砕流の方向・流域別の分配及び設定について
◆火砕物量が大きいので、変化させても影響は小さいのではないか。
◆流域の表面積で按分する。
(4)火砕物温度と融雪効率の設定について
◆松浦・植木(2008)が見積った毛馬内火砕流の温度を参考に検討すべき。
◆融雪効率については、富士山ハザードマップ検討委員会で検討された値などが公開されている。
(5)噴火に伴い十和田湖の湖水が湖外へ溢流することの想定必要性の有無と、想定する場合に溢水
流量・波形の考え方あるいは影響想定方法について
◆降雨以外に噴出物の崩落や火口縁の崩壊等による湖水の溢流があった場合、奥入瀬川水系につい
てはその影響を検討すべき。
◆降雨に伴う土石流や融雪型火山泥流よりも大きな災害をもたらす可能性があり、ぜひ検討すべき。
◆柿沼ほか(2013)などを参考にすると良い。
(6)その他
◆VEI4 の噴火を想定した場合の影響範囲は、915 年のハザードの実績を下回らないことが重要。
◆降雨→土石流、融雪→火山泥流という仮定そのものを検討すべき。
◆プリニー式噴火後の軽石堆積物が土砂移動する場合、現象は簡単ではない。軽石は大きなものが
低密度で遠方まで浮遊運搬される。
◆過去の噴火では低地に堰止め湖が生じ、その決壊により発生した火山泥流もあったはず。想定は
難しいが、堰止め湖決壊型泥流(土石流)を懸念する。
以上