統計物理学 1(2 学期): 担当 水島健(Email: mizushima@mp.es.osaka-u.ac.jp, 居室 D318 号室)
第
10
回:ミクロカノニカルの方法:連続準位と古典近似
2018年 12 月 5 日 前回までで孤立系の統計力学の手法であるミクロカノニカルの方法を学び,『等重率の原理』とエントロピー の定義式 S = kBln W (1) を導いた.調和振動子系(アインシュタイン模型)や 2 準位系などの具体的な問題を通して,熱力学的重率 W の求め方を学び,量子力学から熱力学量を導出することを示した.今回は,出発点として量子力学の代 わりに古典力学(解析力学)を用いてエントロピーなどの熱力学量を導出してみる.最後に,『理想気体』と 『調和振動子』の場合の計算を例題として載せた.必ず式を追って,計算をしておくこと.付録として n 次 元球の体積の公式の導出を記載した. 参考にしたのは,[1] の第 2 章(とその練習問題).また,ミクロカノニカルの方法(古典統計近似を含む) についての演習問題は [2] の第 5 章に網羅されている.1
自由粒子のエネルギー準位
N個の自由粒子からなる理想気体系の統計力学を考えるために,まず自由粒子のエネルギー準位を復習し よう.1.1
1
個の 1 次元自由粒子のエネルギー準位
第 6 回でみたように,量子力学的粒子のエネルギーはとびとびの値に量子化される.まず簡単のために,1 個の 1 次元自由粒子のエネルギー準位を考えよう.シュレディンガー方程式は −¯h 2 2m d2 dx2ϕn(x) = Enϕn(x) (2) で与えられる.この波動関数の典型的な境界条件としては以下の2つがある: 長さ L の有限領域:これは第 5 回で詳しく見たように,境界条件は ϕn(x = 0) = ϕn(x = L) = 0,で与えら れる.これを満たす波動関数とエネルギー準位は ϕn=N sin(knx), En = ¯ h2kn2 2m (3) であり(N は規格化因子),波数 kn は kn= nπ L , n = 1, 2, 3,· · · (4) として,とびとびの値のみが許される (kn = π/L, 2π/L, 3π/L,· · ·). 長さ L の周期境界条件:波動関数に以下のように長さ L の周期境界条件を課すことを考える: ϕn(x + L) = ϕn(x) (5) つまり,x = L と x = 0 の 2 点を同一視する.これを満たす波動関数とエネルギー準位は『長さ L の有限 領域』の場合と同様にして導くことができ(第 5 回の講義ノートを参考), ϕn(x) =N eiknx, En= ¯ h2k2n 2m (6)ଗȨɍɫȮĘർǻ௶ּ 図 1: (a)3 次元自由粒子の波数空間におけるエネルギー固有値の分布の様子.(b) マクロなサイズの系 (L→ ∞) における W (E) と Ω(E) の対応. として与えられる.周期境界条件を満たす波数 kn は kn= 2πn L , n = 0,±1, ±2, · · · (7) となる. 『長さ L の有限領域』の場合との違いは,2 倍の係数が余分についていることと,n の定義域が拡大して いることである.これに応じて,波数も kn=−∞, · · · , 2π/L, 0, π/L, · · · + ∞ の値をとることができる.こ の違いに応じて,どちらのエネルギー準位から出発するかで熱力学的重率やエントロピーの計算過程で違い が生じるが,その違いは些細なものであり,結果的に得られる熱力学量などは同じである.そこで,以下で は『長さ L の周期境界条件』の結果から出発することにする(長さLの有限領域 については練習問題として 各自確認しておくと良い).
1.2
3
次元自由粒子への拡張
3次元自由粒子 1 つのエネルギー準位はシュレディンガー方程式 [ −¯h2 2m ( ∂2 ∂x2 + ∂2 ∂y2 + ∂2 ∂z2 )] ϕn(r) = Enϕn(r) (8) を解くことで与えられる.周期境界条件 ϕn(x + L, y, z) = ϕn(x, y, z), ϕn(x, y + L, z) = ϕn(x, y, z), ϕn(x, y, z + L) = ϕn(x, y, z) (9) を適用すると,エネルギー準位は En= ¯ h2 2m ( k2x+ k2y+ k2z), kx= 2πnx L , nx= 0,±1, ±2, · · · (10) と与えられる(ky, kz も同様).やはり波数は量子化されている. 実際の系(物質系)はマクロなサイズである.そこで,L→ ∞ とすると,波数の『とび』2π/L は 0 と なり,ゆえに自由粒子はほぼ連続的な波数をとることが許される.それに伴ってエネルギー準位も連続的と なる.このような連続準位を持つ系において,どのように熱力学的重率 W を数え上げるかということを次 節で見ていく.2
理想気体の統計力学
前節に示した自由粒子のエネルギー準位から,どのように熱力学的重率 W を数え上げるかについて議論 する.理想気体系でのエントロピーの計算については,次節の古典統計近似にも関係してくる.2.1
連続準位を持つ系における熱力学的重率 W
まず練習問題として,式 (10) を持つ 3 次元自由粒子 1 つを考え,その熱力学的重率 W を数え上げてみよ う.まず,準備として,あるエネルギー E 以下の全状態数 Ω(E) を数え上げる.この Ω(E) を波数空間で数 え上げよう.これは Ω(E) = ( 波数空間における等エネルギー面内の領域の体積 )/( 波数空間内の状態の密度 ) (11) を計算することになる.波数空間 (kx, ky, kz)中でどのように状態が存在してるか考えてみよう.式 (10) で示 されているように,ある波数方向に 2π/L 進む毎に 1 つの状態が存在する.つまり,波数空間の中で,(2π/L)3 の微小体積につき 1 つの状態が存在する.つぎに,波数空間中での等エネルギー面内の体積を考える.これ は,エネルギー準位の式 (10) より En= ¯ h2 2m ( kx2+ k2y+ kz2)≤ E (12) を満たす領域に相当する.この式を kx2+ k2y+ kz2= 2mE ¯ h2 (13) と書き直すことにより,半径√2mE/¯hの 3 次元球内部の体積に相当することがわかる.以上より, Ω(E) = 1 (2π/L)3 × ( 半径√2mE/¯hの 3 次元球内部の体積 ) (14) これを具体的に計算すると, Ω(E) = V (2π¯h)3 4π 3 (2mE) 3/2 (15) ここで,V = L3 とした. さて,今計算したのは『あるエネルギー E 以下の全状態数 Ω(E)』である.これを『あるエネルギー E に おける状態数 W (E)』と対応させる.まず注目したいのは,理想気体のエネルギー準位 En(式 (10))の離 散間隔は,おおよそ,¯h2/2mL2 である.つまり, L→ ∞ のマクロなサイズの系を考えるとエネルギー間隔 は 0 となり,ほぼ連続的にエネルギーが分布していると見なせる.エネルギー E 以下の全状態数 Ω(E) を 用いて W (E) を計算するために,以下のように考える: W (E) = E から E + ∆E の間の状態数= Ω(E + ∆E)− Ω(E) (16)
∆E → 0 とすれば W (E) の本来の定義となる.∆E → 0 では
W (E) = dΩ(E) dE ∆E (17) と書き直すことができる.ちなみに, D(E) = dΩ(E) dE (18) は『状態密度』と呼ばれ,エネルギー E においてどのくらい状態が詰まっているかを表す. ちなみに,量子力学的な粒子のエネルギーは観測時間 ∆t (どんな物理量の観測にも必ず有限の時間がか かる)に対して不確定性 ∆E ∼ h/∆t (19) を持つ(h = 2π¯hはプランク定数).つまり,完全に孤立している系でもエネルギーと時間に対する不確定 性原理によりエネルギーは量子的に揺らいでいる(熱的な揺らぎはもちろんない).上記で導入した ∆E は
そのような量子力学的な揺らぎに起因するエネルギー幅とみなすこともできる.このとき,∆E は微小では あるが有限値にとどまることになる. 連続準位を持つ系における熱力学的重率 W (E) 実は,連続準位を持つ系における熱力学的重率 W (E) の定義は式 (17) で完全ではない.完全な定義式は W (E) = 1 N ! dΩ(E) dE ∆E 波動関数は空間全体に広がっている場合:理想気体など dΩ(E) dE ∆E 波動関数は空間的に局在している場合:調和振動子など (20) である.波動関数は空間全体に広がっている場合に N ! の因子が余分につく理由については後ほど述べる. 式 (20) は古典統計近似でも用いることができる.
2.2
N
個の自由粒子からなる理想気体のエントロピー
さて,これまでは自由粒子 1 つのみを考えてきた.この結果を N 個の自由粒子へ拡張することは単純で ある.まず,N 個の自由粒子系のエネルギー準位は En = E(1)n + E (2) n + E (3) n +· · · + E (N ) n (21) と表される.ここで,E(j)n は j 番目の自由粒子のエネルギー準位であり,式 (10) で与えられる.j 番目の 自由粒子の持つ波数を (kx(j), k (j) n , k (j) z )とすると,N 粒子系の波数空間は 3N 次元空間となる.あるエネル ギー E 以下の波数空間の領域は ( kx(1) )2 + ( ky(1) )2 + ( kz(1) )2 +· · · + ( kx(N ) )2 + ( k(N )y )2 + ( k(N )z )2 ≤2mE ¯ h2 (22) と表される.これは,3N 次元空間における半径√2mE/¯hの球の体積に等しい.一方で,波数空間には,あ る方向に 2π/L 進む毎に1つの状態が詰まっている.つまり,波数空間には (2π/L)3N の領域につき 1 つの 状態が詰まっている. 以上から,N 個の自由粒子系におけるエネルギー E 以下の全状態数は,式 (14) を拡張して, Ω(E) = 1 (2π/L)3N × ( 半径√2mE/¯hの 3N 次元球内部の体積 ) (23) と与えられる.n 次元空間における半径 R の球の体積 Vn(R)は Vn(R) = 2πn/2 nΓ(n/2)R n (24) と与えられる1.この体積の公式を用いると, Ω(E) = V N (2π¯h)3N 2π3N/2 3N Γ(3N/2)(2mE) 3N/2 (28) 1ガンマ関数 Γ(z) の定義は Γ(z) = ∫ ∞ 0 tz−1e−tdt (25) ガンマ関数の基本的な性質は, n を 0 を含む正の整数とすると, Γ(n + 1) = n!, Γ ( n +1 2 ) = (2n)! 22nn! √ π (26) 上記の性質より, Γ(n + 1) = nΓ(n) (27)N 個の自由粒子からなる理想気体のエントロピー 以上より,N 個の自由粒子からなる理想気体の熱力学的重率 W は式 (20) と (28) より与えられる.こ の結果より,エントロピー S = kBln W は S = N kB { 3 2ln [ 4πmE 3(2π¯h)2N ] + ln ( V N ) +5 2 } + kBln ( ∆E E ) (29) となる.ただし,右辺第 1 項が N kB のオーダーであるのに対して,第 2 項は kB のオーダーであるから Nが大きい時には無視することができる(少し上で触れたように,∆E は微小ではあるが有限なので). 以上から,N が十分大きい時の理想気体のエントロピーは S≈ NkB { 3 2ln [ 4πmE 3(2π¯h)2N ] + ln ( V N ) +5 2 } (30) 式 (30) はエントロピーが示量変数 (E, V, N ) の組みで表されている: S = S(E, V, N ) (31) 示量変数を任意の定数 λ 倍したものに置き換えてみると,エントロピーの値も λ 倍されることがわかる: S(λE, λV, λV ) = λS(E, V, N ) (32) つまり,エントロピー S は示量性を持つことがわかる.さらに,状態方程式 1 T = ∂S ∂E, P V = ∂S ∂E ⇒ E = 3 2N kBT, P V = N kBT (33) が導かれる.これは,熱力学の回でみたように,理想気体に対する経験則(実験事実)と無矛盾な結果であ る.つまり,熱力学では経験則によって与えられた状態方程式を,ハミルトニアンという量子力学から非経 験的に導出することができた.もちろん,第 5 回の演習問題 1 で示したような,断熱曲線や各種の熱力学量 も量子力学から非経験的に導出することができる.
2.3
N !
の物理的意味
さて,式 (20) で現れた N ! の因子について考えてみよう.理想気体の場合に,もし N ! を無視していると, エントロピー (30) の ln(V /N ) の項が以下のように異なってくる. S≈ NkB { 3 2ln [ 4πmE 3(2π¯h)2N ] + ln V +5 2 } (34) このままでは,示量性の条件式 (32) を満たさないので,熱力学的なエントロピーの性質と矛盾する.よって, N !の因子は不可欠であることがわかる. それでは,N ! の因子の意味は何であろうか?これを説明するために,まず,量子力学では『同じ粒子は区 別することができない』ことを思い出そう.まず簡単のために,箱の中に 2 つの自由粒子がある場合を考え よう.2 つの古典粒子の場合は,図 2 の左に示すように,粒子に番号をつけて時々刻々とその軌跡を追うこ とができる.つまり,2 つの粒子は,たとえ同じ種類であっても(例えば同じ原子であっても),明確に区別 される.しかしながら,量子力学では 1 つの粒子の波動関数は箱全体に広がっており2,どこに粒子が存在 するか(観測するまで)決めることはできない.箱の中に 2 つの粒子を入れると,図 2 の右に示しているよ うに 2 つの状態が区別できないのである.つまり,古典的には “1” と “2” の 2 つの粒子の配置に関する2状 態は区別できていたが,これが同一視される. これを N 個の場合に拡張することは単純である.N 個が同種粒子であり区別できないとき,その N 個の 粒子のラベルを入れ替えただけの状態は N ! 通り考えられる.この N ! 通りの状態が全て量子力学的には同 じ状態であるとみなされる.そのため,式 (20) では状態数を数えるあげる時に『粒子についているラベルを 取り去るために N ! で割る』のである. 2たとえば周期境界条件の場合は ϕ(r)∝ eir·r であり,箱の中のある位置 r に粒子を見出す確率は|ϕ(r)| = 1 である.図 2: 箱の中の 2 つの古典粒子の様子(左図)に対応する量子力学的状態の様子.量子力学的状態では同じ 粒子は区別することができないので,“1” が左にいる場合と “1” が右にいる状態の 2 つの状態が同じ状態で あるとみなされる. 注意点は,この因子は『波動関数が空間的に広がっている場合』を想定していることである.例えば調和 振動子の波動関数は ϕ(x)∼ e−x2/a2 (35) のように与えられる(a は適当な定数).つまり,波動関数は原点(振動の中心)に局在しており,空間的な 広がりを持たない.そのような系では,各粒子(今の場合は各振動子)は『区別が可能』であり,N ! の因子 は不要である. 一般に, • 理想気体は広がりをもつので N! が必要 • 調和振動子は局在した波動関数を持つので N! は不要 その他については,ケースバイケース.
3
古典力学から熱力学へ
これまでは,量子力学から出発して,熱力学量を計算する方法を紹介してきた.ここでは,古典力学から 出発して熱力学量を計算する方法を考えよう.量子力学では粒子のエネルギーを求めるためにシュレディン ガー方程式をわざわざ計算する必要があった.しかも,シュレディンガー方程式を手で解くことができのは 非常に限られた場合のみであり,通常は数値計算などの技法が必要である.しかしながら,古典力学におけ るエネルギーはそのハミルトニアンそのものである.古典力学を出発点とすることで,何も計算することな く,系のエネルギーがわかっているという点で非常にアドバンテージがある.しかしながら,後で示すよう に,古典力学の適用可能な範囲は限られており,注意が必要である. 古典力学に従う粒子のエネルギーは連続である.つまり,その熱力学的重率 W の計算には式 (20) がその まま利用できる.つまり,先ほどの理想気体と同様にして S = kBln W ≈ kBln ( dΩ dEE ) (36) を計算すれば良い.ここで,ln(∆E/E) の項は無視した. さて,解析力学の復習をしよう.古典粒子の運動(状態)はその位置 r と運動量 p により指定される.位 置座標 r と運動量座標 p によって張られる空間 (r, p) を位相空間とよぶ.N 個の粒子の場合は位相空間は 6N 個の座標 (r1, r2,· · · , rN, p1, p2,· · · , pN) (37) で張られ,『各位相点が各古典的状態に対応』する.古典的ハミルトニアンはこの位相空間上の関数として定 義される3: H = H(r1, r2,· · · , rN; p1, p2,· · · , pN) (38) 3古典粒子の運動はこのハミルトニアンを用いてハミルトン方程式を解くことで与えられる.しかしながら,統計力学にはこの情報 のみで十分であるから,ハミルトン方程式の詳細は省く.この『古典的ハミルトニアンはそのまま系のエネルギー E を与える』ので,エネルギー E 以下の全状態数は Ω(E)∝ ( 6N 次元の位相空間のエネルギー E 以下の領域の体積 ) (39) として,位相空間の体積として与えられるだろう.以下では,具体的な例を用いて,位相空間の体積の計算 と,『比例係数』の意味を考えていく.
3.1
例:1 次元調和振動子
1次元調和振動子 1次元調和振動子(質量 m, 振動数 ω)1 つに対するハミルトニアンは,振動子の位置座標と運動量座標 を (x, p) とすると, H(x, p) = p2 2m+ 1 2mω 2x2 (40) で与えられる.このハミルトニアンより,エネルギー E 以下の状態数 Ω(E) を求めてみよう. 式 (39) より,まずエネルギー E 以下の位相空間の体積を考える必要がある.これを A(E) としよう.古 典的ハミルトニアンはそのまま系のエネルギー E を与えることから,計算すべきものは,等エネルギー面 H(x, p) ≤ E (41) 内の位相空間 (x, p) の体積である.等エネルギー面は,具体的に, p2 2m+ 1 2mω 2x2≤ E (42) として,2 つの異なる長さの軸√2mEと√2E/mω2 を持つ楕円体として与えられる.つまり,エネルギー E 以下の位相空間の体積 A(E) はこの楕円の面積に相当する 4: A(E) = 2πE ω (43)さて,『A(E) は求めるべき Ω(E) そのものではない』ことに注意しよう.Ω(E) は状態数であり無次元の数 であるが,A(E) は次元を持った量であり無次元の数ではない.Ω(E) と A(E) の対応関係の間で何かの因子 が抜けていることは明白であろう. ここで,位相空間 (x, p) は量子力学では意味をなさないことを思い出そう.量子力学では『粒子の位置と 運動量が同時に定まらない不確定性原理』がある.そのため,各量子状態は位相空間の各点 (x, p) で明確に 指定することはできず,位相点は『ぼやける』ことになる.位相空間の不確定性原理によるぼやけ度合いは 以下のようにして求めることができる:調和振動子のエネルギー準位は,簡単のためゼロ点エネルギーを無 視すると, En = n¯hω, n = 0, 1, 2,· · · (44) と与えられる.これを式 (43) のエネルギー E に代入すると A(E) 7→ A(En) = 2πEn ¯ hω = (2π¯h)n (45) これは,いわゆる,『ボーア・ゾンマーフェルト (Bohr-Sommerfeld) の量子化条件』である.つまり,量子化 条件により,古典力学では位相空間内で連続であった状態が『量子化されとびとびの位相点しか許されなく なる』.よって,『1 次元振動子 1 つの場合,位相空間 (x, p) に (2π¯h)につき一つの状態が分布している』こ とになる. 4楕円の面積は,[長軸の長さ]× [短軸の長さ] × π である.
古典力学による状態数 今の場合は,1 次元空間における振動子 1 つを考えていたが,一般に,d 次元空間の N 個の粒子を考え ると,位相空間は (2π¯h)dN につき一つの状態が分布していると見なせる.つまり, Ω(E) = 1 N ! 1 (2π¯h)dNA(E) 波動関数は空間全体に広がっている場合:理想気体など 1 (2π¯h)dNA(E) 波動関数は空間的に局在している場合:調和振動子など (46) ここで,式 (20) のときと同じ理由で余分な因子 N ! が現れる.