著者
幸田 浩文
著者別名
Koda Hirofumi
雑誌名
経営論集
巻
34
ページ
101-149
発行年
1990-03-24
URL
http://id.nii.ac.jp/1060/00005729/
Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja101
経 営 管 理 論 に お け る 人 間 観 と 組 織 観 の 変 遷TheChangeofViewsoftheWorkerandtheOrganizationintheBusinessManagementTheories
幸
田
浩 文
目 次 はじめにI. 管理への関心 の高まりn. 科学的管理 Ⅲ. 管理職能論TV. 初期人間関係論V. 行動科学的人間関 係論VI. 行動科学的意思決定論vn. 経営戦略論V Ⅲ. 経営管理論における人間観と組織観の変遷 むすびにかえて は じ め に これまで数多 くの研究者 たちが,経営という経験対象 から人間 (個人・集 団),職能,組織(企業), 技術などとい った認識対象を抽出 し,経営 に関す る概念, 理論,原則 そして技法を創り出して きた。 われわ れが これらの総合 体系として の学問であ る経営学 の性格を把握しよ うとするには, まずそ れが 何を研究対象としてい るか, どのような視点,接近 法( アプ ロ ーチ) に基づ いているのかを明 らかにす る必 要があ る。本稿で取り上げよ うとする アメリ カ経営学の性格 につ いては,一般的に,管理論・組織論中心 の経営学 であ る との指摘がなされてい る1)。それ は,経営学が,工場の管理 や組織の問 題を研 究対象として生成 し, そ れを中心とする研究で発展を遂げ て きたという経緯 があるからである。 具体的 に は, アメリカにおける1870 年代 か ら1890 年代 に みられた経済不況 の激化, 企業合併の激増, 移民労働者 の企業 への参入,労働組合運動の展開といった, 企業 を取り 巻 く経済・ 社会労働問題が,管理 や組織への関心を呼び起こし たのである。 こうしてアメリカ経営学 は,当 時 の経営者や管理者 の実践上の必要性 から,必然的 に実用主義的 な色彩の濃い ものとなった。 とくに管理論 は工場を その研究対 象とし たため,一般的 な管 理論 ではなく経営管理論 (businessmanagement;businessadministra-tion ) として成立す ることとなった。 こ のような性格を もつ アメ リカ経営学が, 学として成立 して わずか百数十 年 しか経過して いない。しかしその発展はめざ ましく, その史的展開を体系 的 かつ科学的 に概観し,理解 するには, いくつ かの接近法(研究方法) かお る2)。 そこで本稿 は,経営管理論におけ る人間観 や組織観 の変遷を たど るため, まず最初 に,その展開を①伝統的 アプロ ーチー 成行管理・科学的管理・管理 職能・原則論−(1880 年代∼1920 年 代),②人間関係論的 アプロ ーチ一 人間 関 係論− (1920 年代∼1940 年代), ③行動 科学 ( 現代人間関係論) 的 アプ ロ ーチー リーダーシップ論・動機づ け論−(1940 年代∼1960 年 代),④現代 的 アプ ロ ーチ一 行動科学的 意思決定論・環境適応論・経営戦略論−(1940 年 代∼ 現代卜 という大枠でとらえ ることにし た。 というのは, ①では仕事の組 織づ くり,②と③では人間 の組織づ くり, そして④で は人間のための仕事 の 組織づ くり が中心課題であ ったからであ る。 換言す れば, それは仕事の合理 性と人 間への配慮といった二次元で,管 理の関心 という “振り子” がいず れ に振 れてい るかという視 点で の整理 の仕方 が便利であったからである。 このように本稿で は,経営管理(組 織)論 の史的 展開 とその過程での各パ ラダイ ムにおけ る人間観と組織観 の変遷を みるのだが, その手順 としては, 上 で述 べたよ うな接近法に区 分 し, そ の枠 内 で代表的 な学 説を 吟味してい く。こ の際次 のようないくつ かの問題意識を もって検討することにする。 ①人 間観 と組織観が形成さ れる背景とな った組織環境 ②と くにその時代時代 の中心 的課題(パ ラダイム)とその解決者 ③その時支配的であった経営管 理論 におけ る人間観と組織観 それでは以下, 経営管理 の代 表的 な学説を取 り上 げ概観してみよう。
経営管理論 におけ る人間 観と組織観の変還103 注1 ) 権 泰 吉 教 授( 明 治 大 学 )は,経 営 学 が 本 質 的 に 社 会 労 働 を 研 究 対 象 と し て い る以 上 ,管 理 ・ 組 織 問 題 抜 きに は内 容 的 に 成 立 せ ず,こ の 意 味 で,管 理 ・ 組 織 問 題 が と く に ア メ リ カ 経 営 学 だ け の 研 究 対 象 で は な く, ひ ろ く 経 営学 の中 心 課 題 で あ る と述 べ て い る。 権 泰 吉 「 ア メ リ カ 経 営 学 の性 格 と 主 要 学 派 」『 明 治 大 学 経 営 学 研 究 所JVol.27,No.2,1979 年,p.44.2 』 一 つ は, 研 究 者 の 著 作 や 論 文 を 中 心 と す る「 文 献 考 証 史 的 方 法」, 次 に, そ の 理 論 が 生 じ た歴 史 的 , 社 会 的 , 経 済 的 背 景 と の 関 連 あ る い は生 成 の 必 然 的 要 請 を 解明 す る「因 果 関 連 史 的 方 法 」(工 藤 達 雄『 経 営 管 理 論 の 史 的 展 開 』学 文 社,1981 年 ,p.6. )。三 つ 目 に は,こ れ ま で に あ ら わ れ た主 要 な 管 理 学 説 の 方 法 に 関 す る 内 面 的 発 展 の関 連 を 把 握 す る 「 方 法 史 的 方 法 」(雲 嶋 良 雄 『 経 営 管 理 学 の 生 成 』 同 文 舘,1964 年.p よ )。 四 つ 目 は, ヒ ッ ク ス(H.G.Hicks )や レ ン(D.A.Wren ) らに み ら れ る よ う に, ① 科 学 的 管 理 以 前 の 時 代一 初 期 の 管 理 思 想 の 時 代 , ② 科 学 的 管 理 の 時 代, ③ 人 間 関 係 論 の 時 代 − 「 社 会 人 」の 時 代, ④ 精 緻 化 ・ 拡 大 ・ 統 合 ( 行 動 科 学 ) の 時 代一 現 代 , と い う 管 理 思 想 を 基 準 と し た「 時 期 区 分 の方 法 」(H.G.Hicks,TheManagementofOrganization,McGraw-Hill,NewYork,1967,pp.336-340.D.A.Wren,TheEvolutionoftheManagementThoug-hts,2nd.ed.,JohnWiley&Sons,Inc.,NewYork,1979.D.A. レ ン『 現 代 経 営 管理 思 想 − そ の 進 化 の 系 譜 − (上 )( 下 )』(車 戸 賓 監 訳 ) マ グロ ウ ヒ ル 社,1984 年 )。 そ し て 五 つ 目 は, 四 つ 目 と ほ ぼ 同 じ だ が, ク ー ン ツ(H.Koontz )の 学 派 分 類 に み ら れ る よ う に,学 派 の 発 展 過 程 を「 時 系 列 的 に と ら え る 方 法 」 が あ る(H.Koontz,"TheManagementTheoryJungle",JournaloftheAcademyofManagement.Vol.4 ,No.3,Dec,1961,pp.174-188."TheManagementTheoryJungleRevisited",TheAcademyofManagementReview,Vol.5,No. ・2,Apr..1980,pp.175-185 )。 経 営 管 理 論 の 史 的 展 開 を 概 観 す る た め の指 標 と し て 学 派 の系 譜 が あ る。 も っ と も言 及 さ れ引 用 さ れ て い る も の に ハ ロ ル ド ・ ク ー ン ツ の 学 派 分 類 が あ る。 そ れ は, フ ァ ヨ ー ルを 始 祖 と す る 管 理 原 則 論 が 管 理 過 程 論 を 経 て , 隣 接 諸 科 学 の 知 識 を 取 り 入 れ た オ ペ レ ー シ ョ ナ ル ・ ア プ ロ ー チ を 中 心 に , そ の 他 の ア プ ロ ー チ の 分 化 の過 程 を 時 系 列 的 に 整 理 し て い る。 そ の 進 展 の様 を “マ ネ ジ メ ント の ジ ャ ン グ ル化 ” と ク ー ン ツ が 呼 ん だ こ と は あ ま り に も有 名 で あ る。 こ れ に つ い て は次 の よ う な 文 献 が 詳 し い。 島 弘 「H. ク ー ン ツ の 経 営 学 の学 派 分 類 と 現 代 経 営学 」『 企 業 会 計JVol.81,No.1,1981 年,pp.121-128. 岩 永 宏 治 「 ア メ リカ 経 営 学 の『 学 派 』分 類 に つ い て 」『経 営 論 集 』明 治 大 学 経 営 学 研 究 所,Vol.28,No.2,1980 年,pp.177-197.
I 管 理への関心の高 まり 1. 科学的管理 の前史18 世紀後半 か ら19 世紀初頭にかけて イギ リスを中心 として起こ ったいわ ゆる産業 革命 も,アメ リカで は1880 年代に入 ると終焉を むかえ る。激しい機 械化競 争 の結果, 産業 には未発達と はいえ工 場制 度 が登場 す る。 単に人力 (マ ンパ ワー)に取 って代 わるような機械を導入した工 場で は,そ れほど生産 速度と生産高を向上 させるには至 らず, まだまだ大量生 産に は, より多 くの 機械と労働力を投入す る必要 があ った。 と はいえ,生産工 程の技術 の進展に より, 生産性向 上 の可能性 は残されていた。 例えば,金属製造業 では,工場 内 の作業の統合が, また金属加工業で は,作業工程 の専門化 と細分化が生産 性向上の鍵 であ った。実際, 金属製造業で は, 熔鉱炉,圧 延工場, 仕上げ工 場を統合して, また金属加工業で は,機械,組 織設計,経 営実績を改善 して 生産性向 上を 企て た。 こうした費用低減の要 請 と組 織設 計 の改良 への関 心 は,1873 年 の経済恐慌を契機として高まった。さらにこの激しい不況 により ト ラスト が結 成 され,1880 年 代に は大規模 な統 合企業 が誕生 す ることにな る。さらに1890 年頃 の不況期の後に合同運動 が起こり,企業合 併があ らゆる 産業で行われるようになった。 その原因は,①不況 によ るカルテル維持が難 しいこと, ② カ ルテルは非合法だが, 持株会社が合法であ ること, ③企業家 や出資者 たちが, 合併 により多大 な利益 が得られること, にあ った1)。 こうして巨大化 した統合企業 は, 金融市場 から資金の調達 をす る必要に迫 られたい 企業への大量 の資金の流入は,株式所有権 の分散化を 意味する。経 営 の実権がこれまでの資本家・出資者 の手 から, 俸給者 であ る専門 経営者の 手 へと移 る, い わゆる「所有と経営 の分離」 が起 こったのであ る。 これに加 えて, 東欧 や南欧 か らの言語・風習・習慣 の異 なる雑多 な不熟練移民 の労働 市場への参入 と,1886 年 のアメリカ労働総同盟 (AmericanFederationofLabor<A.F.L. 〉)の結成 にみるように,労働組 合運動 の活発化により,「管 理 への関心」 がい よいよ もって高まるのである。 こうし た企業 の外部環境要 因だけで なく,企業内部要因によ っても「管理 への関心」 が喚起さ れる。 つ まり, ①万能機械 から単能機械 への転換, ②未熟練労 働者の増加と熟練 の高 度化, ③管理業 務の量的増加 と質的 複雑化 が起 こったのであ る2)。そ れではこ の管理 の合理 化 の担 い手として その任にあ だった のは誰 であ っ たのだろ う
経営管理論における人間観と組織観の変還105 か。それは機 械 技 師(mechanicalengineer )たち で あ っ た。彼 ら の本 来 的 な 職務 は,生 産 の組 織 的 合 理 化 に よ る生 産 能 率 の向 上 にあ った が, 多 数 の未 熟 練 労 働者 の 作業 場 へ の流 入 に よ って √工 場 管 理者 を 兼 務 す るこ と にな っ た。 そ の結果, 経 済 合 理 性 の観点 か ら生 産 能 率を 取 り上 げ ざ るを 得 な くな り, 工 場 会 計的 な仕 事 を す るこ と と な っ た。 つ まり 経営 者 は機械 技 師 に 会 計士 的 な 能力 を要求 し た ので あ る3)。 科 学的 管 理 の 前 史 あ る い は萌 芽 期 と もいう べ き1860 年 代 か ら1900 年 代 に か け て,企業 は,企 業 家 企 業 と して 資 本 家 の手 にあ っ た。一方 労 働 市 場 に は, 手 工 業的 道 具 や機 械 を巧 み に 使 う一 部熟 練工 と, 大量 の移民 を 含 む不 熟 練 工 が存 在 した。 と く に, 欧 州 か ら の 移民 は, 本 国 ( 出生 地 ) か ら離 れて 「見 知 ら ぬ土 地 で労 働を 始 め る と, ま っ た く別 人 の よ うに 過度 の搾取 」 に堪 え た4)。 こ のこと が, 当 時 の ア メ リカ 経 済 の発 達 に大 いに貢 献 した。 機械 が 登 場 し て く る まで は, 労 働 者 は道 具 や 自 ら の肉 体 を用 い て 作業 して きた。 し か し, 産 業 革 命の影 響 によ る機 械力 の 産 業 へ の導入 によ り, 労 働 が分 業 化 , 細 分化 さ れ, 伝習的 な秘 伝 と し て生 理 的 肉 体 的 作業 と動力 に こ めら れて い た 熟 練 が 解 体 さ れ, 機 械 へ と代 位 し て い っ た。こ こで の管 理 ・ 監督 者 であ る機 械 技 師 は, す で に述 べ たよ う に生 産 の 組 織 的 合 理性 と経 済合 理 性 を追 求 す る こ と に関 心 を もって い た が, 彼 ら が 経営 管 理 的 職能 とし て, い まで い う と ころ の人 事 管 理 (personnelmanagement ) を 実 践 し て は いな か っ た。 つ ま り, 人 的 資 源 の利 用 とそ の組 織 化 は, 古 く か ら み ら れ たと はい え, 独立 し た も の と して 現 れて きて い なか っ た ので あ る。南 北 戦 争 の終 結(1865 年 )か ら20 世 紀 初 頭 に か けて, か なり の企 業 規 模 の増 大 が あり, 各部 門 が 専門 職 と し て, 財 務 , 会 計, 生 産 そ して 新 し く誕 生 し た販 売− マ ーケ テ ィ ン グを 担 当 し て い た。 当時 この3 部門 が も っと も一 般 的 な 部 門 であ っ た。 人事 部 門 の出現 は, ビ ジ ネ ス の 発展 と, あ い つ ぐ 経営 管 理 の専 門 家 の登場 に よ っ て促 進 さ れ る の を 待 つ こ と に なる。 2. 科学的管理 の時代1873 年の経済恐 慌,1886 年 のアメリカ労働総同盟(AFL )の結成,1890 年 の シャーマン反ト ラスト法(theShermanAnti-trustAct )の成 立, さらに は1890 年 代中頃 の不況 と アメ リカ の産業を取り巻 く経済・社会労 働環境 は 目 まぐるしく変化 した。こうした中 で,産業 は,経済不況を克服するために,
ト ラストやカ ルテルによる合併・統合を行 った。 工場で は,多 くの機械の導 入 と大量の未熟練労働者の流人 により, 費用概念を もつ ことを要求された機 械技師といった新しい工場管理者 が登場し た。 作業場で は,機械 の導入 によ り, 手工業的 作業者が伝習的秘伝であ る熟 練を解体さ れレ 機械 の操作者 へと 代位させられていった。 こうして作業場 は,人 間 と道具 の未分化状態の場か ら, 人間 と機械 の分化状態 の場へと移って い った。 ここに作業場 は科学 の適 用 の可能 性を生 じさ せた。 この工場 や作業 場 にお いて, 管理 の新 しい組 織 的・ 科学的方法を開拓したのが,上述 した機械 技師たちであ った。 彼らは, 組 織設計 の改良 に努 めたが, そ れは なかな か生 産 能率 の向上 に結 びつ かな かった。そ れは,当時の賃金制度 が, 請負給, 日給, そして単純出来高給を 採 ってい たために,一時的に生産能率を向上さ せ高 賃金を獲得しても, しば らくすると賃率 が引 き下げられることとなり, それに対 抗するため,労働者 は, 組織的 怠業 とい われる生産制限を行 ってい たからであ る。 そこで機 械技師協会は,労働力 の最高能率化を図 るために, 従来 の賃金制 度を改革しようとした。その背景とな った要因 には次のような ものかおる‰ ①高 賃金が低原 価を もたらす可 能性があ ったこと。 ②日給制 や単純出来高給制 に組織的 怠業を生 じさせ る致 命的欠陥があ るこ とがわかったこと。 ③労 働者 の創意を獲得するために 賃金の刺 激性を利用しようとす る傾向が あ ったこと。 ④新しい賃金制度によって新 しく起 こって くる労 働問 題とこれまでの能率 問題を一 挙に解決しようとしたこと。 また,人的 資源の有効活用によ っ七, 生産性 の極大化を図 るための技術開 発におおいに関心を もつ 機械技師 たちは,選抜,訓練, 金銭的刺激によって かなり高水準 の生産性向上が達成で きると考えて いた。 彼 らは人 事部門 の形 成 に ほとんど興味をしめさなかったが, 従業員 の選抜 ・教育訓練の方法,そ して適正 な報酬プロ グラムの開発に, 経営管理者 が注意を払う必 要があるこ とを訴え た。 この初期のIE (IndustrialEngineering ) アプロ ーチの主 たる 内容 は, 従業員 を満足させ,かつ効率よぐ働 かせるために,物的条件,作業 方法 そして金銭的刺激を増大させる方 法を開発す ることに力点 が置かれてい
経営管理論における人間観 と組 織観の変還107 だ 。 こ う し た 研 究 に 携 わ っ た 機 械 技 師 た ち の 中 で た ぶ ん 最 も 有 名 な の が フ レ デ リ ッ ク ・ ウ ィ ン ス ロ ー ・ テ イ ラ ー (FrederickW.Taylor ) で あ ろ う 。 彼 は , 科 学 的 管 理 の 父 あ る い は 伝 統 的 経 営 管 理 論 の 創 始 者 と 呼 ば れ て い る 。 彼 の 業 績 に 関 し て は , こ れ ま で い ろ い ろ な 角 度 か ら 数 多 く の 研 究 が な さ れ て き た 。 し か し 最 近 に な っ て , 現 代 の 生 産 と 労 働 と い っ た 視 点 か ら , 再 び 科 学 的 管 理 へ の 関 心 が 高 ま っ て き て い る6)。 注1 )A.D.ChandlerJr.,"TheUnitedstates:EvolutionofEnterprise",inPeterMathiasandM.M.Postaneds. ,TheCambridgeEconomicHistoryofEurope,Vol.7,CambridgeUniversityPress,1978,p.110.A.D. チ ャ ンド ラ ー 『 チ ャ ンド ラ ー ア メ リ カ 経 営 史 』( 丸 山恵 也 訳 ) 亜 紀 書 房,1989 年,p.86.2 ) 向 井 武 文 『 科 学 的 管 理 の基 本 問 題 』 森 山 書 房,1983 年,pp.4-11.3 ) タ ウ ン(H.R.Towne )が, 機 械 技 師 た ち が 自 ら の仕 事 の 中 に 経 済 合 理 性 , つ ま り利 潤 を 追 求 す る義 務 が あ る こ と と , 生 産 費 に 影 響 を 及 ぼ す 諸 要 素 を 分 析 す る 必要 が あ る こ と を 説 い た の は,1886 年 の ア メ リ カ 機 械 技 師 協 会 (TheAmeri-canSocietyofMechanicalEngineers 〈ASME 〉 )の年 次 大 会 で の報 告 ,「 エ コ ノ ミ ス ト と し て の 技 師 」 の中 で あ っ た。H.R.Towne,"TheEngineerasAnEconomist",TransactionsofASME,Vol.7,1886.pp.428-432.4 ) マ ッ ク ス ・ ヴ ェ ーバ ー『 プ ロ テ ス タ ン テ ィ ズ ム の 倫 理 と 資 本 主 義 の 精 神 』( 大 塚 久 雄 訳 ), 岩 波 書 店,1989 年,p.35.MaxWeber,DieprotestantischeEthikundder 》Geist 《desKapitalismusGesammelteAufatzezurReligionsso-zioloffie.Bd.1,1920,SS.17-206.5 )向 井 武 文 『 前 掲 書Jpp.20-22.6 』「p.F. ド ラ ッ カ ー が 論 文『 科 学 的 管 理 の 再 発 見 』(1976 年 ) に お い て 経 営 の 視点 か ら, 現 代 の生 産 と 労 働 の管 理 に お け る 科学 的 管 理 の重 要 性 を 主 張 し た こ と が 契 機 と な っ て, そ の 後 科 学 的 管 理 に 関 す る 研 究 が 続 々 と し て 登 場 し て き て い る。」 中 川 誠 士 「『 科 学 的 管 理 』 概 念 の 再 検 討 」『 企 業 経 営 の 国 際 化 と 日 本 企 業 』 日 本 経 営 学 会 編 , 千 倉 書 房,1988 年 ,p.161. n. 科学的管理1. テイラーの「科学的 管理」 この科学的管理 (ScientificManagement ) は,生 産上 の種々 の要素間の 関係を研究す る科学であ る。とくに,人的 要素と機械的要 素の関 係を研究す
る ものであ る。 その目的 は, このような諸要素 の合理 的利用 により,最適 な 産出高を確保しようとすることであ る。 ただ,科学的 管理 は, ティ ラーの業 績か ら出発したが,現在で は別個 の科学 として存在していると考えられる。 それはティ ラー以 降, 科学 的管 理がかなり進歩したからであ る。それゆえに, ティ ラーのいう「科学的管理」と一般的・総称的な科学的管理 の混同,さ ら には, そ れらとティラ ー・ システム, ティ ラリズムとの概念の混同 があ るよ うにみえ る1)。 ティ ラーも,自らの管理法を最初「出来高給制度」 と呼んだことは認 めて い る。 しかし,彼 は自 ら「ティ ラー・ システム」 と称 したことがなく, その よ うな名を付けられたことに遺憾の意を表している2)。この「ティ ラー・ シス テム」 という用語は, いわゆるティ ラー一 派がティ ラーの 「課業管理 法」 (tasksystem )に対 してっ けた名称であ る3)( したがって以下,このような混 乱を避け るため,とぐにティ ラ ーの「科学的管理」に言及す る場合 には,「 」 で表示 することとす る)。一 般的に,「科学的管理」あ るいは「 ティ ラー・ シ ステム」という用語は,① ティ ラーの考案 した管理法全般に対す る総称, ② 伝習的管理(role-of-thumbmanagement )や成行管理 (driftingmanage-merit )に対 して,合理的 な管理 という意味 で使 われている。いず れにせよ, この「科学 的管理」 とい う用語 は,機械的,経済的, 社会的,人 間的諸力を 意味している。 またそれはスローガ ンあ るいは産業上 の教条としての意味合 いを もって使われている。 ティ ラーは, すでに述 べたよ うに当時 の機械技師たちがそうであ ったよ う に, 作業 の組織的・経済的合理性を追求 するなかで, 一人, 組織的怠業 と いった生産制限,組合運動 の展開 によ る労使間の対立,労働者の最大能率 へ の動 機づけ といった労働(労 務)問 題を解決しようとする。 その手段として ①差別出来高給制度, ②計画部制度, ③職能 的職長制度, ④指図票制度 と いった課業 管理制度 の確立 を提 唱す る。 こ の課業管理 とは, 作業を科学 的に 分析し, その結果設定さ れる課業 を基礎 にして,工場 の作業を全体的に管理 しようとするものである。すなわち, 作業を分 析し, 組分 けし, 分類 し, 法規・ 規則化しようとするものである。換言 す れば, 作業を科学化 することによっ てつ くられた作業が課業 である。 ティ ラーは科学を次 のように定義 する。 「心 の中に分類さ れず存在していた知識を一つとこ ろ に集 め, こ れを 法 則,
経営管理論 におけ る人間 観と組織観の変還109 規則または方式 にまとめれば,知識を分類 した ものに相違ない」 と4)。 そしてそ の実 例として,①銑鉄運搬(ズクはこび)作業,② ショベル作業, ③煉 瓦づ み作業,④自転車用珠の検査作業, ⑤ 金属切削 作業 の科学をあげ る のである。 それではテイラーが解決しようとした問題 について 個別 にみていこう。 テイラーの「科学的管理」 は,生産 に関す る人的要素 と機械的要素の関係 を研究するものであるが, その対象は機械そ のもので はなく, また目的 も一 義的にその能率的利用 にあるので はない。 あ くまで作業場 におけ る人間(個 人) が対象であり, 目的 はその能率的利用, つ まり合理的 な仕事組織に適応 す るよう人的要素を選抜・訓練することにあ った。 当時 の機械技師たちの共通 の関心事であ った,①生産費用 の低減や②組織 設計の改良 とい った問題 は,合理的な仕事組織 や階層制づ くりを目的 として い る。そのために,彼 は一流労働者 の作業 を観察し,要素 に分解 し,そして, ストップウ ォッチによって,要素別作業単位時間を計測 し,人的要素のもつ 無駄 な作業を 排除するという手順で解決を試 みる。作業 の科学化により課業 を設定するのである。 この課業を管理す る制度 として,計画部と職能的職長 制度 がある。 次に, ③組 織的怠業といった生産制限, ④労働組合運動 の進展による労使 対立,さらに は⑤労働者 の最大能率 への動機づけ とい った労 働(労 務)問題 に対 して は, 理念的に は精神革命実現 のための四 つ の原 則−1 真 の科学の 開 発,2. 労 働者 の科学的選択,3. 労働者の科学的教育と訓練,4. 管理者及び 労働者の親密 な協働− を掲げ て解決を試 みる。 具体的 には, ③ の問題 に対し ては,動作・時 間研究によ る標準作業量 柴設定 し, それに基づい た差別出来 高給制度で対処 する。 ④に対しては,労使双方 の精神革命を通して,換言す れば,「科学 的管理 の要素」であ る「兄 弟のような心 か らの協働」によって信 頼感を取り戻 そうとする5)。 そして⑤に対 して は, 差別 出来高給制度により, 「高賃金低生 産費(労務費)」を達成 し, 労使の共益性を確保しようとする。 このように, テイラーの「科学的管理」 は, 基本的に①調 査(作業 の科学一 動作・時間研究),②標準化(規格化・統一 化・単純化一 課業 の設定一 動作・ 時間研究), ③統 制(合理的階層制一 計画部 と職能的職長 制度), ④協 働(精 神革命)とい う四つの範躊に区分できよ う。
このテイラーの「科学 的管理」 は,企業側 だけでなく労働者 側か らみて も 最適であ るよう に, 人的 要素・資源を活用 する手段を達成す る ための, まさ に最初 の試 みであ った。しかし,「科学的管理」は,長 い間労働者 や組合 から 非難されて きた。 それ は次のような点 にお いてであ る6)。 ①労働者 の創意を喪失さ せてしまう。 ②生産性向上 により失業者 が発生する。 十 ③一 流労働者を基準とす るためそれ以外の者を排除 する。 ④低生産費によ る企業の利益 に比 して賃金の増加額 が少 ない。 「科学的管理」が導入さ れる以 前 は,職長の権限が強 いとはいえ,道具 と労 働者が未分化 な状態 では, あくまで作業の能率 は労働者 の創意 に依存してい た。しかし,作業 の執 行が動 作・時間研究に基づく管理に代 わると, ①自由裁量 の余地 がなくなる一 人間の機械化− とい う意見であ る。 こ れに つ いて下院特別委員会 の議長 は, 次のような疑問をなげかけ る7)。 「工業 が科学的 管理法 によ って,す なわち ひとり の中心知力 によ って指導 さ れ, かつ労働者が幸福である 不幸であるかはその中心知力 によ って決 めら れるという事実 はとり もなおさず, 使用人の幸福いかんを決 める力 が使用者 の手 にあるということになり はしませんか」 と。 テイラーは, こうした科学的管理 の統制者 は経営者 の一人であ るとの批判 に対 して, ただ規則 を悪 用 した場合 には当 然罰 が下 ると しか反論 して い な い8)。 ②の生産性向上 と失業 の問題 は, 技術や機械 の導入 の際にか ならず持ち上 が る問題である。古 くは紡績機械 の導入,新しくはコ ンピュ ータ技術の導人 にみられた。実 際, 技術革新が省力化 ・省人化を もたらすの も事実である。 ただ, これらによって新たな雇用が創造されるのも事実である。 ③ は,いわゆる¬-流労働者論 である。「科学的管理」の当 初の目的 であ る生 産費 の削減による合理的 な仕事組織づ くりを達成するには, どうして も基準 を一流労 働者 に求 める必要 があ った。 こうした失業を 引き起 こす可能性 のあ る問題に対して は, どうして も労 働者 は敏感に反応する傾向 があ る。
経営管理論における人間観と組織観の変還111 ④ の配 分 上 の問 題 であ る が, 高 賃 金 低 生 産費 ・ 労 務費 は, そ もそ も二 律 背 反 的 な問 題 で あ る。 そ れを 解 決 す る に は, 生産 量 を 増加 さ せ る こ と に より , 単 位あ たり の固 定 費 を 低 減 さ せ, 変 動 費 として の賃 金 の増 加 分 を 捻 出 す るし か ない ので あ る。 た だ そ の際 の生 産 速 度 の最速 化 か, 無 駄 はな い が余 裕 もな い作 業編 成 を と ら せ る こ と に な っ た の は間 違 い ない。 2.成行管理と科学的管 理 これまで, アメリカ経営学 の性格を明 らかにす るために,そ の中心的性格 とい われる管理論 につい て考 察を 加え て きた。 管 理への関心 を喚 起 したの は,あくまで利潤追求す る上で発生 した, 機械化に伴う作業 の合理化,つ ま り労働者の能率的活用の要請に ほか ならない。作業 の科学化により作業 は課 業 となり, それを統制す る職能と して管理職能 があ らわれたのであ る。 その 職務を担 ったのが,工 学 的能力 だけでなく会計的能力 を も具備し た機械技師 たちであ った。彼 らは,作業を執行 するにあたって, 旧来 の職長 による労働 者の成行管理あるい ぱ 創意と奨 励” の管理 (managementof “initiativeandincentive" )にかわ って, い わゆる科学的管理を実践し たのであ る。 この古い型 の管理と新し い管理 との違いをそのシステ ムの有無 に求 め, テ イ ラーの 「科学的管理」 を 理解しようとしたのが, ケンダール (Henryp.Kendall )である。ケ ンダ ールは,管理 の型を① システム化 されて いない管理 (UnsystematizedManagement ), ② シス テ ム化 さ れ て い る管 理 (Sys-tematizedManagement ), そして ③科学的管理(ScientificManagement ) に区 分し,A 会計,B 購買,c 材料 の保管,D 作業 の執行,E 労 働者 の能率 に ついて, そのシステ ム化 の程度 と能 率性 の関係で整理している9)。 ① システム化 されてい ない管理 で は,文 字通り,会計,購買, そして材料 保管 といった職能 が無計画,無秩序 であるうえ,職能間が体系的 に結 びつい ていないため,経営管理者 や監督者 たちは,合理的 な管理をすることができ なか った。 そこで,表面的 に は彼 らの支配力 が強いとはいえ, 経営の能率 や 生 産性の向上 はひとえ に労 働者 の創 意工夫に依存してい た。 したがって, こ う七 た状態 におかれた労 働者を動機 づけるには,経 済的誘因 に強く訴え る刺 戟制賃金一 単純出来高給 制度を採 るしかなかった。 しかし, 職務や標準作業 量の不確定 と,それに誘 発さ れた(経営者 によ る)恣意的 な賃率引 き下 げが, 労働者に組織的怠業 とい う抵抗手 段を採 らせ たこと は上 述 した とおりであ
る。 ①の タイプ にみられた職能の欠陥を,制度,手 続,標準化 によ って整備し, 組織化 したのが②の タイプ であ る。 ケンダールによれば, このタイプ は, う ま く組織化 され,管理さ れて いる工場 での管理 の型 であ るという。 こうした 工場で は, 経営管理者たちが理論的・体系的 に各部門 を調査し制度化してい た。ただ,①から②の段階 への移行 は容易な ことで はなかった。というのは, 旧来の管 理者(① のタイプ の監督者一 職長) がその急 激な変化についていけ なか ったか らであ る。 とはいえ,① に比 して② の管理 タイプを採用す ること で労 働者 の能率 は高まった。ケ ンダールによ れば,1910 年代には,70 % の工 場が①の タイプであ ったというlO)。 ② の タイプ でなくて も, 十分経営するこ とがで きたのであ る。 それに は,競争企業 が同じよう な管理の型をとってい たことや, 原価と販売価格とがかなり掛け離 れてい たこと, さらに はこうし た組 織的 能力 の欠如 を補完 する ほど の能力 を もっ た経営 者 が存在 したとい う,経営 にとって好条件がそろっていたという背景 があ る。 しかし, このよ うな タイプ の工場 も, 時とともに次第に③の科学的管 理に移行するか,淘汰 さ れるか の選択を迫 られることになる。 そして,最後 の③の タイプであるが, ② の タイプ との違 いはどこにあ るの だろうか。これについて山本純一教授 は,② の タイプで いうところの「“シス テ ム” は, じつ はシステ ム本来の体系 とか秩序を具備 してい ない。真の シス テ ムは生産 の内在的な運動法則を その中心原理 におい て計画化したと きには じめて実践性を もつのであ る」と指摘するU)。つ まり,②では,一部門の シス テ ムは当該部門 のためだけ のものであ って, 全体的 な システムを考慮した シ ステムで はないのであ る。 ②と③ のタイプの違 い は, 集権的な計画化 と仕事 の統制の有無にある。 ここでいうシステムは, その独 自性を維持しつつ,な おかっ, 環境の変化 やビジネスの成長とと もにつねに変化しなければならな い性質を もつ ものであ る。 注 1) こ れ に つ い て は, 次 の よ う な 指 摘 が な さ れ て い る。「 テ ィ ラ ー の生 前 に, 既 に テ ィ ラ ー の 考 え る『 科 学 的 管 理 』と 世 に 言 う『 科 学 的 管 理 』と の 乖 離 が 始 ま っ て い た 。し か も両 者 は と も に ,そ の 乖 離 が 進 行 し た 後 も,ティ ラ ー・ シ ステ ム や科 学 的 管 理 と い う 名 で呼 び馴 ら さ れ て き た。」 中 川 誠 士 「F.W. テ ィ ラ ーの 両 義 性−
経 営 管 理 論 に お け る人 間 観 と 組 織 観 の 変 還113 『科 学 的 管 理 』 研 究 の た め の 代 替 的 戦 略 に 関 す る 若 干 の考 察− 」『 福岡 大 学 商 学 論 叢JVol.33,No.2,1988 年 ,p.517.2 』F.W.Taylor,"Testimony",ScientificManagement,Harper&Row,1964,pp ・5-6.Firstpublishedin191L 「科 学 的 管 理 法 特 別 委 員 会 に お φ る 供 述 〈1912 〉」 『 科 学 的 管 理 法 』 上 野 陽 一 訳 ・ 編 , 産 業 能 率 大 学 出 版 部,1988 年,pp.339-340.3 ) 中 川 誠 士 「F.W. テ イ ラ ーの 両 義 性 」『 同 上Jp.520.4 』Taylor,op.cit.,pp.41-42. 『 前 掲 書Jp.361.5 』Ibid.,p.30. 『 同 上 書Jp.354.6 』 山 本 純 一 『科 学 的 管 理 の 体 系 と 本 質 ( 第 二 増 補 版 )』森 山 書 店,1985 年,p.104. ま た,E.A. ロ ッ クは,「科 学 的 管 理 」 に つ い て の 次 の八 つ の批 判 点 の う ち. ④ を 除 い て ほ と ん ど が, 的 外 れ の 批 判 で あ る と 述 べ て い る。 ① 動 機 づ け に つ い て の 不適 当 な 理 論 , ② 社 会 的 諸 要 因 の 無 視, ③ 独 裁 主 義 ,④ 過度 の専 門 化, ⑤ 人 間 の 機 械 視 √ ⑥労 働 者 の搾 取 , ⑦ 反 組 合 主 義 , ⑧ 不 正 直E.A よocke,"TheIdeasofF.W.Taylor:AnEvaluation",AcademyofManagementReview,Vol.7,No.1,1982.pp.14-24 ・7 )Taylor,op.cit,p.212. 『 前 掲 書Jp.484.8 』Ibid.,p.212. 『同 上 書Jp.469.9 』Henryp.Kendall,"TypesofManagement",inScientificManagementsinceTaylor,byEdwardEyreHunt,ed.,HivePublishingCompany,Easton,1972,pp.14-30.Reprintedfrom “AddressesandDiscussionsattheConfer-enceonScientificManagement,Oct.12,13 ,14,1911 ”,publishedbytheAmosTuckSchool,Hanover,NewHampshire. 10 )11 ) Kendall,op.cit.,p.14 ・ 山 本 純 一 『 前 掲 書JP.49. . 管理職能論 1. ファヨ ールの管理論1880 年代 から1930 年代にかけて,作業場 におけ る人間(個人)を対象とす る経営管理論の一大潮流がみられた一方 で, 作業場 におけ る職能を対象とす る ものがあ った。 いわゆる管理原則論, 管理職能論,あ るい は管理過程論と 呼ばれるものである。 その基 礎を築い た代表的 な人物 がア ンリ・ファヨール (HenriFayol )である。彼の著作『産業 ならびに一 般の管理』(Administra-tionIndustrielleetG6n6ral )は1916 年に出版さ れたが,そ れがイギリスの ア ーウィック(Urwick )によってアメ リカに紹介されたのは1930 年代のこ
とであった。 それは, その後 のアメリカ経営学 に多大 な影響 を与えた1)。 ファヨ ールは, 周知 のとおり, 経営者 の実体験を通 して管 理教育 に欠けて い る「管理 の学理」(doctrineadministration )を追究 し,それを基盤に「管 理の科学」の確立に取り組んだのであ る。 彼は, 企業活動を ①技術的職能, ②商業的活動, ③財務的職能, ④保全的活動,⑤会計的職能, ⑥管理的機能 の六つに区分する。 このような職能あ るいは活動 は, 事業 の規模 や形態にか かわらずあらゆる経営過程のなかで みられるものであ る。 ファヨール理論 は,⑥ の管理的機能において,管理原 則の範囲 内で管理要 素の作用を社会的有機体 に及ぼし,他 の職能を通 じて物的有機体 を管理しよ うとするものであ る。 管理的職能 は,管理者職能とい った担当者職能で はな い。 すべての階層 の従業員 が分担してい るものであ る。従業員 が管理的職能 を遂行す るということ は他の職能を遂行してい ること になる。 とす ると われ われはその職 能つまり活動をどう客観化すればよいの だろ うか。 それ は,各 職能に必 要な能力 という形でしか表現せざ るを得ない。 つ まり, ファヨ ール は, 管理 職能論を管理能力論にお きかえて,管理的機 能 の客観化を図 ったの である,その結果,「上位の職務担当者の主要能力 は管 理的能力 であ る」とい う結論 に達 する2)。ただ,なぜ管理的機能が,上位階層 の職務担当 者にとって 重要 な能力で あ る のかという問題 が残 る。管理 的能力 が上位 階層 にお いて 「支配的」であ るとい うの みであ る。しかし,これまで みて きたよう に,例え ば,構造的形成 の原理か らも上層において支配的 にならざるを得 ないような 社会的組織 の構造 にな っていることからす れば当然であ る。管理的職能 は命 令系統を通 じて社会的組 織と物的組織を統括す る。 そ れは命令一元性と指揮 統一の原理 に もとづ いて階層を貫 くコミュニケーショ ン・ ルートを通七て, 各職能 に情報 の収集 や伝達(命令)する。 このように,管 理的職能 は各職能 の進行を確保 することによ って,経営資源から最大限 の利益 を上げることを 目的としてい る。管理的職務 は,他の職能 の助 けなくして は, 経営目的を達 成できないのであ る。 2. 管理原則 と管理要素 組織体 は, 原材料, 設備,資金など の物 的有機体 と人間 (個人あ るい は集 団)の社会的有 機体で構成 される。 フ ァヨールは, この社会的有機体を社会 体(corpssocial )と呼ぶ。これは,端的にいえ ば従業員あ るいはその集団を
経営管理論における人間観と組織観の変還115 意 味 して い る。 管 理 的 職 能 で は経 営 にお け る人 間 の問 題 だ け が管 理 の対 象 と な る。組 織 体 を 健 全 に運 営 し てい くに は一 定 の原 則 が 必 要 で あ る。 た だそ の 原 則 の厳 密 性 や絶 対 性 にこ だ わ る必 要 はな く, す べて が 程 度 問 題 で あ る。 こ うして フ ァ ヨ ー ル は, ①分業, ②権限 と責 任, ③ 規 律 , ④ 恰 令一 元 性, ⑤ 指揮統一 , ⑥ 個 人 的利 益 の一 般的 利 益 へ の従 属, ⑦ 公 正 な報 酬, ⑧集 中, ⑨ 階層化 ,⑩ 秩 序, ⑩公正 ,⑩ 従業 員 安定 ,⑩ 創意 力 , ⑩団 結 と い っ た14 の 管 理 の一 般 原 則 を 提 示 す る。 こ れ ら は,A. 社 会 的 有 機 体 (社 会 体 ) の構造 化 の原 則と,B. 社 会 体 の組 織 化 の原 則 に まと め る こ と が で き よ う3)。 A. 社会的有 機体(社会体) の構造化の原則a. 「自然 の秩序」 としての有機体必須の原則: ①⑧b. 命令系統基盤 の確立の原則:②④⑤⑨B. 構成員 の組織化の原則a. 個人 の組織体へ の配置: ⑩⑩b. 行為基準 の確立 の原則: ③⑥c. 協働意志 の獲得 の原則:⑦⑩⑩⑩ フ ァヨ ー ル は,管 理 的 職能 を ①計 画(prevoyance ), ② 組 織化 (organisa-tion ), ③ 命 令 (commandement ), ④調 整 (coordination ), ⑤ 統 制 (con・trole
)と い った要 素 に区 分 す る。 た だ, こ れら五 つ の管 理 要 素 が ど のよ うな 順 序 で実 行 さ れ るか に つ い て は, フ ァヨ ール 自身 は言 及 し て い な い が, ①か ら⑤ の順 序 で列 挙 さ れて い る と みて よ かろ う4)。 フ ァヨ!- ルに よ れ ば, 学 理 と は, 経 験 や 観察 に よ って 検 証 さ れ た「 原則, 規則 ,方 法,手 順 」 を一 体化 した もの であ る5)。 そ う な ら ば,管 理 原 則 は,文 字 通 り管 理 の原 則 あ るい は規則, 管 理 要 素 は, 管 理 の方 法 あ るい は手 順 にあ たろ う。 換言 す れ ば, 管 理 原 則 は社会 体 (人 間 ) を 管 理 す る 規 則 で あ り, 管 理 要 素 は管理 目的 を 達 成 す る方 法 で あ る。 3. システム概念 の示唆 社会体の一般的 な形態 は, 事業 の従業員 の数, 性質, そ七 て価値 によって 異なってくる。 事業 の発展とと もに,通常社会体の数 は増加 し, それに伴い 組織に階層 が生 じて くるというのが,フ ァヨールの組織観 であ る。 フ ァヨー
ルは,この社会体 の発展段 階を機 械,植物 そして動物 にたとえる。すな わち, 有機体の中 の細胞数が増加 するにつれて各器官 が出現し,分化し,完成 する といった具合であ る。 社会体がたんに従業員 (人間) の集団 ではなく, それが単 なる総和以上 の ものであることや,各管理職能 が個別的,並列的関係で はなく,相互依存的, 補完的関係にあ ることを強調 していることを考え れば, ファヨ ールはシステ ムという言葉 は用いて いない が, 彼が企業を活動 のシステムとして理解して い るといえ る。この点 につ いて,佐々木恒男教授(武蔵大学)によれば,フ ァ ヨールが企業を システムと して理解 してい るならば, 企業活動 は①生産, 営 業,財務,保全,会計の五つ の業務活動,②①に対して予測,組織化,命令, 調整,統制といった管理過程によ って作用を及 ぼす経営活動, そして③①と ② の全体を目的 に方向づけ, 導く リーダーシップ活動 の三つの サブ・ システ ムに区分できるとい う6)。このように,テイラーの「科学的管理」の目的 が課 業 の構造化 であ ったのに対 し, フ ァヨールは社会体(人間)の構造化 と組織 化を目的 として理論を構築 した のである。 4. フ ァヨ ールの管理 につ いての問題意識 フ ァヨールは,① フランスの実業学校で は,将来 の管理者を育成す る教育 プ ロ グラム(科目)を設置す る努力 を していない, ②管 理的 な能力 は実 践で の み体得で きるので はなく, 技術的能力同様学 校教育 で獲得で きる, そして ③それには学理 が必要で, そ れは経営者たちの経験に基づ く個人的見解 の比 較 と討論を 通じて手に入 れることがで きるとい った問題 意識か ら管理論 を構 築し た7)。ファヨール自身,鉱 山技師としての経験 かお るだけに,技術的職能 を遂 行す る能力 だけで は経営 を実 践で きないこ とを認 識 して いたに違 い な い。 そのことがフ ァヨ ールを して 技術的教育一辺 倒からの脱却を いわし めた のである。 このフ ァヨ ールの管理教育 の必要性と可能性 の提唱 が今日 の経営 学教育 の拠り所となって いる。 管理教育に必要な知識 の成文化を目的 として出発し たこの管理論 は, 時代 を経 るとともに後継者の手 によ って精緻化さ れていく ことになる。 この経緯 について は紙幅の関係で ここで は触 れないが,彼 らが マネジメ ント の知 識を ど のよ うに分類し たら教育 効果を向上さ せることがで きるかという点 に, あ まりに熱心 になったために, 実務に役立 たなくなってい るという批判 が出て
い る のも事実 であ る8)。 経 営 管 理 論 に お け る人 間 観 と組 織 観 の 変ii117 注 1) 佐 々 木 恒 男 「 現 代 フ ラ ン ス経 営 学 研 究 の 意 義 と そ の課 題 」『 武 蔵 大 学 論 集JVol.26,No.2,1978 年 ,p.4.2 』HenriFayol,AdministrationIndustrielleGenerale,Dunod,1981,pp.11.FirstPublishedin1916. 『 産 業 な ら びに 一 般 の 管 理 』 山 本 安 次 郎 訳 , ダ イ ヤ モ ン ド 社,1985 年,p.18.3 )田 村剛「『 管 理 原 則 と 管 理 要 素 』の 研 究− フ ェ イ ヨ ル の 所 説 を 中 心 と し て ー 」『 鹿 児 島 経 大 論 集 』,Vol.6,No.1.1965 年,pp.58-68.4 ) 北 野 利 信 編 『 経 営 学 説 入 門 』 有 斐 閣,1984 年,p.26. 後 世 の 学 者 は, フ ァ ヨ ー ル の 「 記 述 を そ の ま ま 時 系 列 的 に た ど って 実 施 し て い く 循 環 過 程 と み な す 」 よ う に な っ た の で あ る。5 )Fayol,op.cit.,p.15. 『 翻 訳 書Jp.24.6 』 佐 々 木 恒 男『 ア ン リ ・ フ ァ ヨ ー ル ー そ の人 と 経 営 戦 略 ,そ し て 経 営 の 理 論J 文 員 堂,1984 年,p.247.7 )Fayol,op.cit.,pp.15-16. 『 翻 訳 書Jpp.22-24.8 』 ミ ン ツ バ ー グに 代 表 さ れ る 職 務 活 動 学 派(theworkactivityschool) は, フ ァ ヨ ー ルを 始 祖 と す る管 理 過 程 論 一 伝 統 学 派 を 次 の よ う に 批 判 し て い る。 ① 実 際 の 経 営 管 理 者 の 活 動 か ら は, ど の活 動 を 組 織, 調 整 そ し て 統 制 と 呼 ん で い い の か 分 か り に く い 。 ② こ の よ う な 基 本 的 管 理 要 素 と 実 際 の 経 営 管 理 者 の 活 動 と の関 係 が 不 明 で あ る。 ③ 経 営 管 理 者 の 実 際 の 仕 事 を 全 然 記 述 し て い な い。 拙 稿 「 職 務 活 動 学 派 の 経 営 管 理 論 史 上 の 意 義 一 そ の ア プ ロ ー チ に 対 す る 評 価一 」『 経 営 論 集JNo.28.1987 年,p.219. 卜 IV. 初期人間関係論1. 人間的側面 への関心 の高 まり一産業心理学の台頭 テイラーが「科学的管理」により個別課業 の構造化を目指し だの は,19 世 紀末期から20 世紀初 頭のことであった。同 じ頃,フ ランスで は,フ ァヨ ール が事業の統治を目的として, 政治的要素であ る行政 概念を導入し, 社会的組 織の組織化・構造化 の理論を構築 した。両者 はそ れぞれ科学的 管理の父,管 理過程論あるい は古典的組織論 の父として,その後のIE や経営管理論の発展
に多大 な貢献をし た。こうし た技術, 職能あ るい は組織とい った面 がこのよ う な産業人 を中心 に研究さ れ,生産性向 上に役 立て られてい た。しかし,こうし た労働の強化策 は労使関係を悪化 させた。テイ ラーの「科学的管理」が,すでに みたようにアメリカ鉄鋼業や機械工業を中心 として労 働者 の猛烈 な反発を受 け たのと同 様, ファヨ ールもフ ランス中 部の石炭 や鉄鋼業 の激しい労 働運動 に直面していた。それはなにも彼らだけでなか った。当時 の経営者 は生産性向 上問 題とと もに労働問題の克服に腐心 していたのであ る。 こうした労 働組合主義への懐柔策 として,労 働者に対して,住宅,医療, 教育施設, レ クリエーショ ン活動, さ らには今日のソ ーシャル・ワ ーカー的 な仕事 もする社会・福祉担当者(social,welfaresecretaries) が出現 す る。 そして 企業内 に人 事職能(personnelfunction )が生 まれてく るのは19 世紀 末期か ら第一 次世界大戦前のことであ った。 この人事職能の主 な目的 は,他 の職能同 様,生産性の向上であり, 利潤 の獲得であ った。1900 年 初頭, 心理学 の成果を実際生活で の問題解決 に役立 てようとして誕 生 したのが産業心理学(industrialpsychology )であ ったり。1913 年 には産 業心理学 の始祖といわれるミュンスターベ ルク(HugoMunsterberg ) が, 実験室心理学と経済 の問題を媒介する新しい科学 として,経済心理学(Eco-nomicPsychology )の確立を目指 して『心 理学と産業 能率』を刊行する2)。 さ らに, 第一次世界大戦中には,心理学 が人事 部門 で活 用されるようにな っ た。 また, 大企業 において人的資源の有効活用 を容易 にする客観的テストが 大 規模に使用されるようにな ったのもこの時期 であった。戦後のたゆまない 産業 の進歩 とアメリカ陸軍(theU.S.Army ) の人事プ ログラムの成功 の結 果,人事管理(personnelmanagement )は1920 年代に急速 に発展する。こ の時期 の人事部門(personneldepartment )で は,選抜,募集,訓練,方法 改善,従業員福祉といった内容を取 り扱 った。 と くに従業員福祉は労働組合 対策 として の役目を大いに果たし たが, そ の目的 はそ れだけではなか った。 そ こに ぱ 幸福な従業員 は生産的な従業員 であ る” とい う考え方 があ ったの であ る。 2. ホーソ ン工場実験1920 年代 の中頃(1924 年)か ら,シカ ゴ郊外にある・ウェスタン・エレクト リック社(WesternElectricCompany )の ホーソ ン(Hawthome )工場 で
経営管理論における人間観と組織観の変還119 一 連 の実験 ( ① 照明 実 験, ② 継電 器 組 立 実 験 室, ③面 接 実 験, ④ バ ン ク配 線 作業 室) が始 め ら れた。 そ れ は数年 (1932 年 ) に もわ た り人 事 管 理 分野 に か なり の影 響 を及 ぼ し た。 こ の実 験 の当 初 の目 的 は, 照明 (質 と 量) が産業 能 率 にど のよ う な影響 を及 ぼ すか を 確 か め る こ と で あ っ た。 そ こ に は人 的要 素 で あ る労 働者 の能率 を 労 働条 件 の変化 によ って 操 作 で き ると い う「 伝 統的 な 管 理 論」 の考え が貫 か れて い た。 し か し, そ の 実 験 か ら は照 明 効 果 と能 率 と の相 関性 を は っ きり と確 認 す る こ と が で き な か った。 つ まり 所 期 の 仮説 を立 証 す ること がで きな か った ので あ る。 そ の後 の実 験 か ら,生 産 性 は従業 員 の 感 情 (心 理 状 態) や対人 関 係, と く に共 に働 く人 々 や上 司 か ら の注 目 の程 度 とか 種類 に影響 さ れて い るこ と が は っ きり し た。 こ う し た メ イ ヨ ー (EltonMayo )や レ ス リス バ ーガ ー(F.J.Roethlisberger )らが,ホ ーソ ン実 験 を基 盤 に 展 開 し て い っ た 一 連 の 研 究 が, い わ ゆ る 人 間 関 係 論 (HumanRela-tions )と呼 ば れ る もので あ る。と くに ホ ー ソ ン実 験 を その 後 の行 動 科学 的 色 彩 の強 い研 究 と区 別 し て初 期人 間関 係 論 ("Old"HumanRelations ) と呼 ぶ 場 合 があ る3)。 い わ ゆる科 学 的管 理 は, 一 般 的 に, 技 術 的 側 面 を 強調 す る経 済人 仮 説あ る い は機械 人 仮 説 に も とづ く管 理 論 と し て, こ の人 間 関 係 論 の人 間 的 側面 を 強 調 す る社 会 人 仮説 に対 立 す る もの と し て 位 置 づ け ら れて い る。 こ こ で留 意 し な け れば な ら な いの は, 科学 的 管 理 が人 間 的 側面 を 無 視 し た わけ で はな い と い う こと であ る。つ まり科 学 的 な 人 事 選 抜,専門 の教 育訓 練方 法,疲労 研 究, 職業 病, 従業 員 福 祉と い っ た個 人 の心 理 や生 理 につ い て の研 究 , さ ら に は労 使関 係 や人事 管 理 部門 や労 働者 代 表 な ど の集 団 の 心 理 につ いて の研 究 に も目 を 向 け て い た ので あ る4)。ただ 科学 的管 理 は,集 団 よ り も個 人 を重 視 し た。人 間 関 係 論 の源 流 と な った ホ ーソ ン実 験 に して も当 初 か ら個人 相互 間 の関 係 が 能 率 的 に作 用 す る こ とを確 か め る た め の もの で は なか った。 す な わち, 労 働 者 の動 機づ け に 使 っ た賃 金 と い う労 働 条件 の 要素 を, 照 明 とい う要 素 に置 き 換 え たにす ぎな か っ た。 作業 条 件 の改 善 を 人 的 要 素 を介 して 生 産性 向 上 に結 び付 け よ うと し た の であ る。 と ころ が, 両 者 の間 に明 確 な 相関 関 係 が みら れ な い と いう予 期 せ ぬ結果 を み るに 至 る。 そ こ で 初 期 の仮説 に疑 問 を もっ たメ イ ヨ ーらは, そ れを 継電 器 組立 実験 室 で 検証 し よ うと し た ので あ る5)。 ま た, そ れ に続 く③面 接 実験 と④ バ ン ク配 線 作 業 室 は, ② の 実験 で 見 落 と し た点 を 補 う た め設 け ら れた もの であ る。 そ の新 しい 仮 説 と は, レ ス リ スバ ーガ ーら
によ ると, ① 従業 員 の態 度 はあ る種 の感 情 の シ ステ ム (systemofsenti-merits ) に支 配 さ れて い る, ② 経営 組 織 は感 情 の シ ス テ ム と い う社 会 的 組 織 で あ る, ③ 労 働 環 境 で 起 こ った こと はす べて こ の感 情 の シス テ ムの対 象 と な る, ④ 従業 員 の 満 足 ・ 不 満足 は, そ の人 の地 位, 社 会 組 織 そ して 仕 事 に対 す る欲求 と の 相 互 作 用 と そ の影 響 を理 解 す れば わか る, と い っ た こ と であ る6)。 その結 果, 自 然 発 生 的 に う ま れた小 集団 が非公 式 的 (informal ) な り ー ダ ー の もとで一 つ の組 織 を形 成 して い る こ とが分 か った。 そ れで は な ぜ人 間 は こ のよ うな 非 公 式 的− イ ンフ ォ ーマ ルな組 織 に所 属 し た が る のか, また そ の組 織内 の規 律 に し た が って, 例え ば生 産 制 限 とい った 行動 を取 る のだ ろ う か。 それ は, メ ンバ ーが そ の集団 内 で 彼 ら の社会 的 欲求 を充 足 さ せ る こと が で き るか らで あ り, そ の 組 織 に は対 内的 機 能 (internalfunction ) とい う メ ン バ ーの行動 を 規制 す る機能 を ,ま た そ れは対外 的 機 能 (externalfunction ) と い う組織 に対 す る外圧 か ら身 を 守 ろ うと す る防 衛 機 構 (protectivemec-hanism ) を も って い るか らであ る7)。 その後 の調 査 か ら, 職 場 で の人 間状 況 や社 会 状況 が生 産 性 に関 係 して い る こ と, そ れに は 従業 員 の社 会 的 欲求 の充 足 が重 要 であ る こ と が分 か っ た。 こ うし た ホ ーソ ン実験 の成 果 は, そ の後 ア メ リカ産 業 に お い て 人 間関 係運 動 (HumanRelationsMovement ) と呼 ば れ る も の の基 礎 と な った。 し か し, よ り重 要 な こ と は, 経 営 者 に 従業 員 福 祉 の重 要性 を認 識 させ た こと であ る。 管理 者 の従 業 員 に対 す る態 度 や動 機 づけ の違 い が, 業 績 や生 産 性 そ して 利 益 に か か わ る の で あ る。 こ のよ う に ホ ーソ ン実 験 は, 産 業 労 働 者 につ いて の最 初 の行 動 科 学 的 研 究(behavioralscienceresearch )であ っ た。しか し, そ れ が産 業 に 何 ら か の 影 響 を 与え るよ う に な っ た の は1940 年 代 に な って か らで あ っ た。 注 1) 馬 場 昌 雄 「 産 業 心 理 学 の 歴 史 的 展 望 」『 経 済集 志JVol.54,No.4,1984 年 ,P.139.2 』HugoMunsterberg,PsychologyandIndustrialEfficiency,HoughtonMiffinCo.,Boston,1913.3 ) 進 藤 勝 美 『 ホ ー ソ ン・ リ サ ー チ と 人 間 関 係 論 』 産 業 能 率 短 期 大 学 出 版 部,1978 年 √p.1.4 )PaulDeviant,ScientificManagementinEurope,ArnoPress,NewYork,
経営管理 論における人間 観と組織観 の変還1211979,pp.170-171.5 )遠 藤 勝 美 『 前 掲 書Jp.32.6 』 レ ス リ ス バ ー ガ ー ら は, 経 営 組 織 を 社 会 シ ス テ ム と し て 捉 え る 。 そ れ は技 術 的 組 織 と 人 的 組 織 に わ か れ, 後 者 は フ ォ ー マ ル 組 織 と イ ン フ ォ ー マ ル 組 織 に 細 分 化 さ れ る 。 フ ォ ー マ ル組 織 は「 費 用 の 論理 」「 能 率 の論 理 」 に 基 づ く の に対 し, イ ンフ ォ ー マ ル 組 織 は 「 感 情 の 論 理 」 に 基 づ く シ ス テ ム で あ る。F.J.RoethlisbergerandW.J.Dickson,ManagementandtheWorker,Har-vardUniversityPress,Cambridge,Mass.,1939,pp.358-359.7 )阪 柳 豊 秋「 人 間 関 係 論 の 特質 と そ の 組 織 論 的 意 義 」『 経 済 研 究JNo.66,1983 年 ,pp.47-48. V 。 行動科学的人間関係論 1. リーダ ーシップ と生産性
レビン(KurtLewin )は,リピット(R.Lippitt )や ホワイト(R.White )
らとの共同研究を通 じて,型 の違 った りーダーによってメ ンバ ーの行動がど のように違 って くるかを観察し た。 この結果, リーダーシップによ って, グ ループの能率や凝集力, またメンバ ーの満足度 に差 がつくことを明 らかにし た。 しかし,寛大 で民主的 なりーダーシップ の型を示唆 した ホーソ ン実験の 研究成果の方 が, レビ ンらの アイ オア大学の研 究者 たち の伝統的, 権威的 リーダーシップ 技術 の研究より も受 け入れられた。 このような研究 は,1950 年代の大規模企業 に採用 されたプ ロ グラムにおけ る監督者 や管理者 の人間関 係訓練に新風を 巻 き起こした。1960 年 代に入 ると,こうした専制的な りーダーシップ に対す る批判 がなさ れるようになって きた。リッカート(RensisLikert )らの ミンガ ン大学の研 究者たちのリーダ ーシップと生産性についての研究 は, 人間性を重視 する集 団 参加型 リーダ ーシップにょ って, 従業員自身の欲求 が満 たされるよ うな高 い業績目標を設定で きることを提唱した。 人間関係運動 は明 らかに組織維持目標に結び付け られ, これまで の従業員 福祉の延長線上で助長さ れる一方,生 産性目標 も積極的 に推進 されるように なった。人間関係論 アプロ ーチによ れば,民主的 リーダー シップ は職務に満 足 した従業員を生 み出し, より効果的 な業績を上 げ, より生産性向上に貢献 するという。この従業員の職務満足と生産性 の関係につい ては,1950 年代か
ら1960 年代にかけて数多 く研究 がなさ れた。しかし,人間関係論的 アプ ロ ー チは必 ずし も生 産性向上 に結 び付 か ないということ が次 第に明 らかと なっ た。 これについての一 般的 な見解 は,人間関係は生産性あ るいは職務満足 に 影響を与え る可能性 はあ るが,同時 に両者を満 たすことがで きるとはいえ な いとい うものであった。こ のように,行動 科学 が生産性 と満足 の ジレンマを 解決で きないと はいえ, その研究成果 は多 くの人事の実践面 で, より技術的 革新的な アプ ロ ーチの開発を促進 したこと は間違いない。 2. 賃金による動機づけと生産性 科学 的管理 に基づ く「合理的経済的人間観」, その反動 として1920 年 代末 期か ら1950 年 代 にかけて ホーソ ン実 験から展開 されたメイヨ ー一 派の人 間 関係論 に基づ く 「社会的人 間観」, そして1950 年代以降, マ ズロ ー (A.H.Maslow ) の欲求階層説でい うと ころ の自尊・自己実現欲求 を追求 す る 「自 尊人」「自己実現人」とい った人間観が台頭してくる1)。 また シャイン(E.H.Schein )は時・場 所・状況 に応 じて人はつ ねに もっともふさ わしい適応 の仕 方を示す「複離人」 であると もいう‰ 経済人的人間観によれば,金 銭は差別出来高給制 にみられるよ うに, 人を 労働へ とかりたてる「強化 剤」「刺激剤」であったが,それが ホーソ ン実験 に よって くつがえさ れた。 この人間関 係論において は, その研究対象 が監督者 のリーダーシップ におか れ,組織 メ ンバーの金銭動機, 金銭が及ぼ す人間行 動, そして動機づけ要因 として の賃金制度が意識的に軽 視あ るい は無視さ れ た。 これに対 して, 賃金 について の従業員 の反応に関 し積極的に理 論展開 し たのがパ ースパーク(FrederickHerzberg )である。だが彼は賃金の動機づ け要因 としての機能 に は否定的であ った。 パ ースパ ークは,賃金に関 して従 業員が言及 する時に はかならず不満事象に関連しているということから,賃 金を「衛生要因」 に分類 したが, これとて賃金が人事管理で重要 でなくなっ たとい うことを証明 しようとし たので はない。 賃金 は衛生要因 ないし不満要 因 として重要であると主張 しようとしたのであ る。しかし,やがて1960 年代 に入 ると,賃金制度 の仕事意欲 への関心 が高まって くる。そして1960 年 後半 になる と, 人間行動 にかか わるすべての要因を取り上げて,動機づけの機能 を説明 しよ うとする研究が みられ るよ うにな る。1964 年 にはヴルーム(V,H.Vroom )が,期待理論(expectancy-theory )
経営管理論における人間観と組織観の変還123 を 応 用 し た道 具性 理 論(instrumentality-theory )を 構築 す る。こ れは,1930 年 代 に ト ー ルマ ン(E.C.Tolman ) や レ ヴ ィ ン らが 公 式化 し た期 待理 論 を 作 業 へ の動 機 づ け に応 用 し た も の で あ る。 ま た こ の時 代 で と く に 注 目 す べ き は,動 機 づ け に対 す る賃 金制 度 の効 果 に着 目 し た ポ ー タ ー(L.W.Porter )と ロ ー ラー(E.E.Lawler Ⅲ) の 研 究 (1968 年 ) で あ ら だ。 こ れ は期 待理 論 を 理 論 的 基 盤 と す る もの で 賃 金 の 仕 事 意 欲 に 及 ぼ す 影 響 に 関 す る もの で あ っ た。 ただこ の 研究 対 象 は, 直 接 賃 金 制 度 にあ っ た わけ で はない。 期待 理 論 の 検 証 に賃 金 を 用 い た に す ぎ な い の で あ る3)。 さ ら に1971 年 に な る と, ロ ー ラ ーは その著 作 『給 与 と組 織 効 率』 に お い て リ ッカ ート, パ ー スパ ーク, そ し て マ ズロ ーらの理 論 構 築 を批 判 し, 賃 金 を動 機 づ け要 因 とし て不 可 欠 な も の であ るとい う画期 的 な 試 みを 発 表 す る4)。こ こ で のロ ー ラー の関 心 は,人 々 を 動 機づ け る ため の賃 金制 度 の確 立 にあ り , そ の た め に理 論的 基 盤 と して 期 待 理 論 と公正 理 論 (equity-theory ) を 導 入 し た の で あ る。 人 間機 械 観 と い った伝 統 的 管 理 論 に み ら れ る差 別 的 出来 高給 制一 つ と って み て も, 当 時 の人 的管 理 の基 本 に 高賃 金→ 高成 果 と い う公式 があ っ た にち が い な い。動 機づ け の方 法 が,奴 隷 社 会 に み ら れ る よ う な力 によ る管 理(man-agementbyforce ) か ら,上 記 の よ う な経 済人 を対 象 と し た誘因 によ る管 理 (managementbyincentive ), そ して 人 間 関 係論 に立 脚 し た同 一化 に よ る 管 理 (managementbyidentification ), さ ら に マ ズ ロ ー理 論 あ るい は人 的 資 源 アプ ロ ー チ に 基 づ く 自 己実 現 に よ る 管 理 (managementbyself-actualization ), 目 標 に よ る管理 (managementbyobjectives )へ と変 わっ て き た。つ ま り,動 機 づ け の方 法 が,外 的(extrinsic )動 機 か ら内 的(intrin-sic )動 機 へ と 移 って きた わけ で あ る5)。 注 1)古賀行雄編『経営行動の科学/ 産業心理学』協同出版,1974 年,pp.56-57.2 )安藤瑞夫 『産業心理学』新曜社,1982 年,p.231.3 )西田耕三 『なにが仕事意欲をきめるか』白桃書房,1977 年,p.95 ・4 )E.E.Lawler Ⅲ.PayandOrganizationalEffectiveness:APsychologicalView,McGraw-Hill,NewYork,1971. 『給与と組織効率』(安 藤瑞夫訳)ダイヤ モンド社,1972 年.5 )岡村一成『現代産業心理学』八千代出版,1976 年,pp.37-38.
VI. 行動科学的意思決定論 1. 組織 との関連 での管理行動一二つの視点 伝統的管理論 の下で は, 組織メ ンバ ーは公式的組 織 において, 費用と能率 の観点 から,「意識的」「合理的」行動を要求さ れた。 そのために却 って組織 効率を低下 させ るこ ととなった。 その反動からか,人 間的側面へ の関心 が高 まるとと もに, そ れへの接近が試みられるようになっ た。 その結果, 組織に は非公式的組 織が存在す ること, そこでは人間が社会 的欲求一 感情の論理 に よ って,「没論理 的」「慣習的」行動を取 ることが明 らかとな った。さらには, 組織での個人 や集団 の態度 や動機と生 産性 の関 係が追求 さ れた。 次に組織 との関連 で取り上げられるようになった研 究 テーマは,管理行動 について の ものであ った。こ れは管理者 の行動の内容 と仕方 (理由)に関 す るもので,一 つ ぱ 管理者 は何を するのが ,い ま一つ ぱ 管 理者 はどのよう にして行動 するのが ,といったことを究明す るものであ る。最初の管理者 が 何をするのかといったテ ーマ‘について は,すでに述 べたようにフ ァヨールの 管理原則論 や, それを発展させた管理過程論がこの質問 に答えて きた。 そ して経営者(executive )の責務 に関する数多 くの研究者 の中で,管理活 動について最初 に成文化 したのがバーナード(C.I.Barnard ) であ った。 彼 は,主 たる経営者 の職能(役割) として①共通目的, ②協 働意欲, ③コ ミュ ニケ ーションといった組織ニ ーズをあげ,経営者 が生 き抜 くに は組織のため に何をすべ きかを われわれに教示 してくれた0。 また経 営者 の実際 の行動を 観察 し, 彼 らの活動 と役 割を探り 出 そうとした のが ミンツバ ー グ(HenryMintzberg ) である。 彼 は実際の管理者行動を正確 に記述 していないと伝統 的 な職能論に対して批判的立場を取 る2)。そして, 最後 は管理者 が直面 してい る意思決定 のタイプ に注目するチャンドラー(A.D.ChandlerJr. )であ る。 彼は,企業 の資源配分に関 する経営者 の意思決定 と, すでに配分 された資源 の利用に関 す るオペレーティングな意思決定 について述 べている3)。 その他, マイルス= スノー(R.E.Miles &C.C.Snow )は,組織 を環境 にいかに適応 させるかは, 経営者 の下 す企業的,技術的そして管理的意思決定 にかかって いるという。 さて次は,管 理者 はどのように行動 するのかといったテ ーマである。 これ は管理者 の行動 の仕方 や理由 について論理的 に説明 することを研究課題 とし