344 氏名(生年月日) 本 籍
学位の種類
学位授与の番号 学位授与の日付 学位授与の要件学位論文題目
論文審査委員
(111) イリ エ カズ ノリ入江一憲(昭和3
博士(医学) 乙第1358号平成5年3月19日
学位規則第4条第2項該当(博士の学位論文提出者)
Ilistological and biochemical analysis of the fibrous tiss親e induced by implanta重ion of synthetic ligament(Dacron):An experimental study in a rat model 〔人工靱帯(ダクロン)により形成された線維性組織の組織学的,生化学的 研究(ラットモデルでの実験)〕 (主査)教授 伊藤 達雄 (副査)教授 小林 愼雄,高倉 公朋論 文 内 容 の 要 旨
目的 靱帯再建術に対して各種人工靱帯が使用されてお り,移植人工靱帯により靱帯様線維性組織が形成され ることが知られている.しかし,形成された線維性組 織がどれだけ正常靱帯に近いかについては不明の点が 多い.今回,ダクロン人工靱帯により形成される線維 性組織の性状とその新生過程を調べる目的で次の実験 を行った. 対象および方法 Lewisラットの膝蓋靱帯をダクロソ人工靱帯で置換 するモデル(ダクロン移植群)を作製し,24週までの 期間で組織学的,生化学的手法により検討を行った. 組織学的手法としてはHE染色及び非特異的エステ ラーゼ染色を行った.生化学的手法としては,(1) hydroxyproline量,(2)III型コラーゲンの比率,(3) 24時間当たりの3H-prolineの取り込み量,(4)コラー ゲンの可溶性,の測定を行った.また,同系尾腔で置 換するモデルを作製(同系尾腱移植群),同様の解析を 行い,ダクロン移植群との間で比較検討を行った. 結果 ダクロン人工靱帯により形成された線維性組織は, 組織学的にはダクロン線維周囲を取り囲む形でのみ存 在した.ダクロン線維に接する部分には大食細胞及び 異物多核巨細胞が多数浸潤し,血行も豊富であった. この組織学的特徴は24週まで基本的には変わらなかっ た.一方,同系郷里移植群では移植した尾腱と境界を 接して線維性組織の新生が見られ,ダクロン移植群に 見られる大食細胞や異物多核巨細胞の浸潤はまったく .見られなかった. 生化学的にはダクロン人工靱帯により形成された線 維性組織は24週までの全期間で同系尾腱移植後の線維 性組織に比して,コラーゲン以外の蛋白含有量が多く, コラーゲンの可溶性が低く,m型コラーゲンの比率が 高いという結果を得た.考察
ダクロン移植群に見られる組織像は形成される線維 性組織が異物性肉芽組織であることを表わしている. 、移植後に形成される線維性組織の量はダクロン移植群 と同系山畑移植群とでは基本的な差異はなかった.し かし,形成されるコラーゲンの性質とタイプにはかな りの差が見られた.コラーゲン以外の蛋白量,コラー ゲンの可溶性の点からは同系尾腱移植群の場合はかな りもとの膝蓋靱帯に近いものが形成されたが,ダクロ ン移植群ではむしろ搬痕に近い組織が形成されたとい うことができる.ダクロン移植群においてIII型コラー ゲンの比率が高いこともコラーゲン線維の未熟性を表 している.療痕に近い線維性組織であっても臨床的要 求に答えられるのかもしれないが,少なくとも自家移 一978一345 植の方がより理想的な再建靱帯が形成されるというこ とができる. 結論 ダクロン人工靱帯により形成された組織は未熟なコ ラーゲン組成を持つ異物性肉芽組織とその外層の整列 性の線維性組織より成っている.その構造は靱帯移植 後2週と24週とで基本的な変化はなく,いずれも正常 靱帯とは異なっている.