博士論文要旨
仏教系生命保険会社の生成と破綻に関する研究
2009年1月
滋賀大学大学院経済学研究科
経済経営リスク専攻
氏 名 深見 泰孝
指導教員 宇佐美英機
指導教員 筒井 正夫
指導教員 二上季代司
仏教系生命保険会社の生成と破綻に関する研究(要旨)
本論文は、仏教系生保を分析対象として、他社と比較して保険募集において優位性を もっていたにもかかわらず、短命に終わった要因を分析することを通じて、仏教系生保 の生成と破綻を明らかにし、保険業史において果たした役割を明らかにすることを目的 とした。 まず、本論文では、次の点について分析した。第1章、第2章では、仏教系生保が短 命に終わった原因を大まかに掴むことを意図して、明治28年から40年に営業してい た生保各社を取り上げ、一般の生保と仏教系生保を比較し、第1章では、仏教系生保の 経営実態を、第2章では資産運用上の特異性を分析した。 第1章では、保有契約高、平均保険金、事業費率、責任準備金の積立率という4つの 指標を用いて、一般の生保と仏教系生保を比較し、第2章では、明治28年から40年 の生保各社の預金先、有価証券投資を取り上げて、上位生保と下位生保の資産運用上の 特徴と、仏教系生保を中心とする消滅生保の資産運用の特異性を分析した。その結果、 仏教系生保は、事業費率が高く、経営は非効率的であった。それゆえ、責任準備金の積 み立てが少ないという特徴があった。そして、資産運用でも上位生保は、当時最もリス クが低いと思われる銘柄での資産運用を行っていたのに対し、仏教系生保を含む下位生 保は、役員が兼務する地方銀行、破綻や経営が悪化した銀行へ預金されていたことを明 らかにした。特に、消滅生保では、解散直前期に実態不明のハイリスク銘柄への株式投 資や、財政整理中の仏教教団への資金提供、不良銀行への多額の預金など、安全性、確 実性を求めねばならない生保の資産運用からは逸脱した資産運用が行われていたこと を明らかにした。 このことを踏まえて、以下の章ではこうした特異性がなぜ起こったのか、そして、な ぜ仏教教団は生保会社を設立したのかを個別会社を取り上げて分析した。第3章では、 宗教教団が生保会社を設立した目的を明らかにすべく、西本願寺が真宗信徒生命を設立 した目的を分析した。それは、従来言われていた教団の財政悪化ではなく、キリスト教 対策に教団が行おうとしていた慈善事業資金の獲得にあることを明らかにした。そして、 真宗信徒生命のビジネス・モデルがそれまでの仏教系生保とは明らかに異なること、以 後に設立された仏教系生保は、真宗信徒生命の影響を受けていたことを明らかにした。 第4章では、大阪生命事件から、当時の生保業界のコーポレート・ガバナンス実態と、仏教系生保の経営の杜撰さを分析した。当時の生保業界のガバナンスの実態は、大阪生 命が次々に敵対的買収をしていたことから、日本生命や帝国生命で乗っ取り防衛策が講 じられていた。ところが、真宗信徒生命は、一度大阪生命からの乗っ取りの危機に晒さ れていたにもかかわらず、対策を講じなかった結果、一時的ではあるが大阪生命に乗っ 取られてしまう。こうした経営の杜撰さが仏教系生保にはあったことを明らかにした。 第5章では、六条生命の破綻事例から同社の破綻理由と保険業法施行前の不良生保の 経営実態を考察した。六条生命の破綻理由は、多額の債務を抱えていた東本願寺は、執 事・石川舜台の方針で、営利事業の収益での債務償還を目指した。しかし、営利事業は 悉く失敗し、東本願寺の債務は増加した。そこで、六条生命の支配株主であった石川舜 台は、六条生命内部に資金が蓄積されていることに目をつけ、営利事業の失敗による債 務増大を隠蔽すべく、六条生命から東本願寺へ資金を供与させていた。このことは、外 部コントロールおよび会社内部の牽制機能とも機能不全に陥ったために起こったもの と結論づけ、こうした不良生保の存在が、保険業法の制定・施行に影響を与えたことを 明らかにした。 第6章では、日蓮宗が設立した日宗生命の設立目的、保険募集方法、破綻原因、そし て、日宗生命破綻が保険業界に与えた影響について分析した。日宗生命の設立目的は、 日蓮宗への資金提供であり、それゆえ教団も諭達や僧侶に保険募集をさせるなど、直接、 間接的な支援を行っていた。しかし、シナジー効果を狙って設立した日宗火災が破綻し、 それ以来、無謀な資産運用や生保経営者にはふさわしくない人物への支配権異動によっ て、新契約募集停止命令、解散命令を出されるに至ったことを明らかにした。 以上から、以下4点が言える。すなわち、1点目は仏教系生保の設立目的に関して、 従来の研究では、教団財政が逼迫し、その苦境を乗り切るべく仏教系生保を設立したと されていたが、真宗信徒生命の場合、西本願寺は真宗信徒生命からの寄付を別会計にし、 慈善事業費に充てていた。また、真宗信徒生命設立前後で教団への寄付の仕方や教団の 会社への関与の仕方などが大きく異なっていること。2点目は、保険販売に関して、仏 教系生保は宗教的側面が極めて強い募集方法によって、契約者募集をしていたことであ る。そして、そのことが結果的に、保険制度やその効用すら知らなかった人々に保険思 想を普及させることになったと思われることである。3点目は、短命に終わった仏教系 生保の資産運用が、常軌を逸していたことである。そして、4点目は資産運用も含めて、 仏教系生保が非効率、杜撰な経営を行えたのは、仏教系生保にはガバナンスという考え
方が生まれにくい環境におかれていたことが考えられることである。その結果、仏教系 生保は短命に終わったのではないかと結論づけた。