癒し技法としてのタッチの看護への応用
近藤 浩子
1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院保 学研究科 癒し技法としてのタッチとの出会い 私は, 人の手がもつ癒しの力に興味を持ち, 少しずつ研 究してまいりました. 今回, 研究紹介の機会をいただきま したので, 癒し技法としてのタッチについて紹介させてい ただきます. 私たちは, からだのどこかに痛みやコリを感じると, 自 然とそこに手をあてたりさすったりしていると思います. そのうちに少しずつ痛みが和らいで, コリがほぐれてくる, そんな経験をもつ方は多いのではないでしょうか. 人の手 には不思議な癒しの力があります. タッチに私が最初に興味を持ったのは, 東京の精神科リ ハビリテーション施設で働いていた 1980年代後半でした. リラクセーションを目的としたプログラムの時間, 絨毯敷 きの床の上にゴロンと横になった慢性精神障害者の方の傍 らに, 別の障害者の方がゆったり腰を下ろして背中にそっ と手をあてる. そうすると手をあてられた方がすやすやと 寝息を立てて眠りはじめる. 一体これは何だろうと不思議 に思いました. これが当時, 日本に紹介されたセラピュー ティック・タッチを応用した方法であったことを, 後に知 りました. 癒し技法としてのタッチとは セラピューティック・タッチは, 1970年代にニューヨー ク大学の Dr. Dolores Kriegerが開発した療法で, 手を用い て人間の微細なエネルギーを調整し, 病んでいる人を援助, もしくは癒す方法 です. 具体的には, 身体の表面から 5∼ 7 cm離れた空間に, 両手のひらを軽く前屈させてかざすよ うに置き, 優しく, ゆっくり移動させながらエネルギーの 流れの違いをアセスメントします. そしてエネルギーの停 滞やうっ滞のある部 に流れを生じさせるように意図して タッチを行い, また意図的にエネルギーを移送することに よってエネルギーバランスを再調整します. 主な効用とし て, 最初に現れる反応は全身的なリラクセーションで, こ の他, 疼痛の緩和, 治癒の促進, 心身相関症状の緩和といっ た反応が臨床実験で証明されています. このような療法に は, 科学的でないとか, 特別な能力が必要であるとか, 抵抗 を持つ方もあると思います. しかしセラピューティック・ タッチは, 人間には生来, 治癒を生じさせる自然な能力が 備わっているという理論的根拠に基づいており, 誰でも学 習によって身につけることができるといわれています. 私は, セラピューティック・タッチを学ぶ機会を探した のですが, なかなか機会が得られませんでした. しかし, と てもよく似た療法であるヒーリングタッチに巡りあい, 2006年の春, ハワイ島の 立病院で研修を受けることがで きました. この病院は, 物そのものも癒しの空間だった のですが, すべての入院患者の方々にヒーリングタッチを 提供するボランティア活動を行っていたことに感銘を受け ました. ボランティアの多くはかつての入院患者で, 自 ―309― 文献情報 投稿履歴: 受付 平成27年8月19日 修正 平成27年8月21日 採択 平成27年9月3日 論文別刷請求先: 近藤浩子 〒371-8514 群馬大学大学院保 学研究科 群馬県前橋市昭和町3-39-22 電話:027-220-8984 E-mail:hirokok@gunma-u.ac.jp流 れ
2015;65:309∼310がヒーリングタッチを受けてよかったと感じた方々がその 経験をお返しするためにヒーリングタッチを学んでボラン ティアをしているとのことでした. 私が研修を受けたとき も, がんのサバーバーの方が学ばれていました. このよう なシステムが, 日本でもできたらいいなあと深く思いまし た. 癒し技法としてのタッチの研究 ヒーリングタッチを学び始めると同時に, 私はタッチの 研究を始めました.私の研究は,セラピューティック・タッ チやヒーリングタッチのようなエネルギー療法とは程遠 い, 日常的に私たちが生活の中でできるタッチ, 看護の中 で えるタッチの研究です. なぜならエネルギー療法の習 得には数年単位の長い研修が必要になり, そこまで深い関 心を持ってくれる人は少ないだろうし, 手のもつ癒しの力 を看護に活用するなら, 誰にでも容易に行うことのできる タッチの研究をしたほうがよいのではないかと思ったため です. 私の研究 では, 相手の方の上背部にやわらかく手をあて るタッチによって, どのような効果が現れるのかを追求し ています. ただし相手の方に手をあてる前に, 手をあてる 側の心身の状態を整えるため, グラウンディング (しっか りと大地に足が着いている感覚をもつこと), センタリング (自 の中心に息を通すこと),アチューニング (相手のより よい状態を意図して, 相手と繫がっていくこと) を行って います. これはヒーリングタッチから応用したものです. この方法で 5 間上背部に手をあてると, タッチを受け た人に心地よいリラックスした状態がもたらされることが わかりました. 心拍変動解析によると, タッチ中は安静時 に比べて副 感神経活動の指標である HF が上がり, 感 神経活動の指標である LF/HF が下がった状態になって いました. これはタッチを受けた人にみられた効果ですが, これとは別に, タッチを行う人にも効果があることがわ かってきました. タッチを行う人は, 心身を安定した状態 に保って 5 間のタッチを行いますが, この状態を保つこ と自体が, 感神経系の活動を落ち着かせ, 穏やかな状態 を作り出しているようです. タッチの研究には, これまで多くの看護学生に協力して もらってきました. 看護学生によると, 実験室の中でタッ チをしたときはとても気持ちよかったけど, いざ自 でこ のタッチを再現しようとすると難しいとのことでした. こ れは実験室でみられたタッチの効果には, 実験環境に支え られて生じた部 があったためではないかと えます. 実 験室以外の場所で, 看護の臨床場面でタッチの効果を再現 するにはどのような工夫が必要なのかということが, この 研究の次の課題です. 私が取り組んでい る タッチ は, セ ラ ピューティック・ タッチのような深いレベルの癒しには及びませんが, リラ クセーションは提供できそうです. 今後は, このタッチが 看護の臨床でどのように応用できるのか, またタッチを行 う人自身に生じる効果をセルフケアに活用できないかとい うことに取り組みたいと えています. 興味をお持ちの方 があれば, お声をかけていただけると幸いです. 参 文献 1. 小島操子.エネルギー療法,セラピューティック・タッチ.治 療 (3増) 2007;89:1331-1337. 2. 近藤浩子, 小宮浩美, 浦尾悠子. 癒し技法としてのタッチの 受け者と施行者における効果に関する研究. 東京医療保 大学紀要 2013;7(1):1-10. 癒し技法としてのタッチの看護への応用 ―310―