− 191 − 中学ヰ交国語科における古典学習指導の研究 一大村はま氏の音読・朗読による古典学習指導を中心に-耕ヰ・領域教育専攻 言語系コース(国語) 渡遺萌子 1.研究の目的 古典の指導について中央教育審議会答申では 「古典の指導については,我が国の言語文化を 享受し継承・発展させるため、生涯にわたって 古典に親しむ態度を育成する指導を重視す る.Jと記され、生涯を通して古典を読んでい く態度の育成が期されている。しかし、中学生 にとって伝統的な言語文化の享受はなかなか に困難であることを、教育実習や朝交ボランテ ィアで痛感した。そんな時に出会った、大村は ま氏の古典に親しむための群読を要とした『平 家物語』の授業実践は、私のこれまでの古典の 授業の概念を覆すもので、あった。 そこで、本研究の目的は大村はま氏の古典の 学習指導の分析によって、古典に親しむための 学習指導のあり方を明らかにすることにある。 本研究は、以下の手1)慎で進める。 (1) 大村はま氏の傍注資料について先行研 究を整理し、解明されていなし瀞題を明らかに する。 (2) 大村はま氏の傍注資料について、読み を左側に示すことの効果を脳科学的に分析する。 (3) 大村はま氏の朗読台本、とりわけ群読 台本を、集団による呼吸や発声について身体論 的に分析する。 2. 論文の構成 序章研究の目的と方法 指導教員 余郷裕次 第 1章大村はま氏の傍注資料の脳科学的分析 第2章大村はま氏による朗読台本の身体論的 分析1 (現代文の場合) 第3章大村はま氏による朗読台本の身体論的 分析II (古文の場合) 結章研究のまとめと今後の課題 3. 論文の概要 第 1章では、先行研究をもとに、傍注資料の 概要を、萩原慶道の『源氏物語平利や、新斗 書の傍注の付け方、年代ごとの大村はま氏の傍 注資料と比較ヰラ討斤を行いながらまとめていっ た。先行研究として取り上げた佐々木勝司が述 べる、大村はま氏の傍注資料における古典の本 文の左側に読み仮名を付けるとしづ傍注は「飛 躍している」としづ論述をさらに深く掘り下げ るため、脳科学の分野から、傍注資料の学習効 果を分析する樹割こ至った。 結果として、文章理解のプロセスに当てはめ ると、大村はま氏の音読を聞きながら、傍注資 料を見るとしづ学習は、大村はま氏の深い古文 の本文理解をトップダウンてきに享受すること と、傍注口語訳などについた傍注を見るとし1う ボトムアップ。的な処理との相互作用モデルにな っており、この大村はま氏の音読を聞きながら 傍注資料を見ることは効果的であることが類推 できた。
− 192 − また、視覚の情報処理のプロセスでは両眼性 競合や、読みにおける習慣、さらには十周恵覚統 合におけるマガーク効果(目で見ている文字の 音韻が耳で聞いている音声と異なる場合、目で 見ている文字の音韻に影響されて、音声が異な った音韻として認識される効果)により、左に 読み仮名、右に現代語訳を書いている傍注資料 は、右に読み仮名、左に現代語訳といった普遍 的な傍注の付け方に比べ、より古典に親しみゃ すい工夫となっていると結論付けることができ た。 第 2章では、大村はま氏の朗読観や、谷木由 利の先行研究を見ていき、大村はま氏の現代文 の朗読台本の概要を整理していった。次節から は、実際に使用された『ひばりの子』や『爪王』 の朗読台本を、「日刊及J (イキ)による身体論的 分析を行っていった。これにより、大村はま氏 の作成した朗読台本は、呼吸の仕方や発声をコ ントロールさせることで、体験的に文学を鑑賞 することを可能としていることが明らかとなっ た。 第3章では、大村はま氏の昭和49年、中学 2年生を対象に実践された「古典への門一平家 物語によってー」の朗読台本、所謂群読台本を 分析していった。この結果、集団や個人といっ たさまざまな朗読の方法を取り入れた群読によ って、立体的に、かっ臨場感のある朗読になる ことが考察で、きた。さらに、一体感や緊張感に より、身体を通して体験的に文章のイメージを 捉えることが可能であると推測できた。また、 大村はま氏が朗読修業として「ことばの勉強会」 に通っていたことより、山本安英や木下順こか らどのような影響を受けたのか、朗読に対する 考え方を考察していった。さらには木下順二の 書いた