• 検索結果がありません。

RESEARCH PAPER 53 雇用形態別にみる ALT の実態 ALT の属性および学校との関わり方の分析 園田敦子 キーワード ALT ( 外国語指導助手 ) 雇用形態 JET プログラム直接任用中学校 要旨令和元年において学校現場で外国語教育に携わる ALT は約 2 万人にのぼる 人数の

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "RESEARCH PAPER 53 雇用形態別にみる ALT の実態 ALT の属性および学校との関わり方の分析 園田敦子 キーワード ALT ( 外国語指導助手 ) 雇用形態 JET プログラム直接任用中学校 要旨令和元年において学校現場で外国語教育に携わる ALT は約 2 万人にのぼる 人数の"

Copied!
16
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

雇用形態別にみる ALT の実態

―ALT の属性および学校との関わり方の分析―

園田 敦子

キーワード

ALT (外国語指導助手) 雇用形態 JETプログラム 直接任用 中学校

要旨

令和元年において学校現場で外国語教育に携わるALTは約2万人にのぼる。人数の増加に 伴い、滞在歴からALTとしての動機、また雇用条件に至るまで、ALTの属性および労働形 態も多様化している。本論文では、(1) JET プログラム参加者として学校現場に赴任する

ALT、(2) 労働者派遣または請負の形で民間企業から派遣される民間ALT、(3) 地方自治体

の直接任用によって働くALTという3つの労働形態別にALTの属性および学校内での働 き方を714名の中学ALTのアンケート結果をもとに分析する。

1 はじめに

日本人の英語コミュニケーション能力向上のために学校教育における英語教育の充実の 必要性が叫ばれて久しい。ALT(Assistant Language Teacher)は、日本人教員が外国語 を指導する際の助手として、生きた英語を指導する役割を担う重要な役割を担ってきてい る。1969年にわずか4-7名の英語指導助手(Fulbright English Teacher)をアメリカ合 衆国から招聘する形で始まったとされるALTの原祖であるフルブライト助手制度は、1976 年に現在のJETプログラム(The Japan Exchange and Teaching Programme)の前身で ある文部省英語指導主事助手(Monbusho English Fellows)制度に引き継がれ、1984年時 点では235 名のアメリカ人が英語指導の知識を有するアドバイザーとして活躍した。イギ リスとの国際交流を背景とした英国人英語指導教員招致事業(British English Teacher

Scheme)もほぼ同時期に開始され、1987年には、これらの制度を合わせた形でJETプロ

グラムが始まった。文部科学省の英語改革に後押しされ、アメリカやイギリスだけでなく、

様々な国からのJETプログラムとしてのALT(JET-ALT)が来日した。時代とともにALT の需要は高まり、現在では民間会社や直接任用での ALT(non-JET)が全体の半数以上を 占めるようになっている。

生徒にとっては「英語の授業に来てくれる外国の先生」という認識であるALTであるが、

(2)

このような歴史的な ALT の増加に伴い、実際には来日年数や出身国、就労動機から母語、

およびどのような契約の元に働いているかという雇用条件まで、ALT の多様性も豊かにな ってきている。

本稿では、JETプログラム・民間会社・直接任用という3種類の雇用形態上の違いに焦 点を当て、ALTの年齢層や日本滞在歴といった属性およびALTになった動機意識を分析す るとともに、学校内における日本人英語教師(Japanese Teacher of English、以下 JTE)

との交流や行事の関わり等について分析する。

2 ALT の雇用形態

令和元年度における小中高あわせたALTの純数は約2万人におよぶ。文部科学省による 英語教育実施状況調査(2020)では、ALTの雇用形態を「JET」、民間会社と契約を結ぶ「労 働者派遣」「請負」、地方自治体の教育委員会が直接雇用する「直接任用」という 4 種類で 分類している(表1)。

校種/形態 JET 民間会社

直接任用 その他 合計 労働者派遣 請負

小学校 2,651

(19.9%)

2,789

(20.9%)

1,186

(8.9%)

2,639

(19.8%)

4,061

(30.5%) 13,326

中学校 2,771

(33.8%)

2,201

(26.8%)

856

(10.4%)

1,562

(19.0%)

813

(9.9%) 8,203

高校 1,707

(61.3%)

343

(12.3%)

108

(3.9%)

478

(17.2%)

147

(5.3%)

2,783

純計 5,117

(25.9%)

4,490

(22.8%)

1,733

(8.8%)

3,656

(18.5%)

4,733

(24.0%)

19,729

※「純計」は兼務の重複を調整した人数 ※( )は各項目の合計数に占める割合

※「その他」は留学生や英語が堪能な日本人等の地域人材の活用

表1.ALTの雇用形態別人数(文部科学省, 2020)

本稿では、これらの雇用形態を(1) JET-ALT、(2) 労働者派遣および請負(業務委託)で 民間会社と契約を結んでいるALT、(3) 直接任用のALTという3形態の順でその特性を詳 述する。労働者派遣と請負は指揮命令系統等の違いが存在しており、後者は教育現場での 活用は現在推奨されていないが、その違いと根拠については(2)民間ALTの中で詳述する。

2-1 JET-ALT

JET プログラムの正式名称は「語学指導等を行う外国青年招致事業」であり、国が外国 語教育の充実と地域の国際交流を目的とした事業として主導している。スポーツ関連事業 や文化交流事業に携わるALT以外の職種もあるが、90%以上の JETプログラム参加者は ALTとして学校または教育委員会に配属され、学校現場で教育を通した国際交流に携わる。

(3)

令和元年度ではALTの4人に1人はJETプログラムから派遣されたALTであるが(文部 科学省, 2020)、JETプログラムは前述の通り最も初期から存在するALTの採用母体である。

初年度には848名であったアメリカ・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド4カ 国からのJET参加者は、現在57ヵ国5,117人へと広がりを見せている。ALTの採用は外 務省が各国の日本大使館を通して行い、一次の書類選考および二次の面接試験を通して決 定される。いわゆる大学生の留学と異なる大きな二点として、まず、大学学士以上の学位 を取得していることが前提条件であるという点が挙げられる。また、文部科学省を通して 地方の教育委員会と契約関係を結び職務を遂行する責任があり、年間およそ 336 万の報酬 が与えられる。地域レベルでの国際交流を図るというプログラムの精神に則り、週35時間 程度の勤務時間の中で、ALT は生徒と共に給食を食べたり、積極的に部活動や学校行事に 参加したりすることを期待されている。

JET-ALTは、国のプログラムの一員として、期間内の待遇については一律の保障が与え

られる。健康保険および傷害保険といった福利厚生が約束されており、雇用保険にも加入 する。年齢制限はなく、家族を連れて来日することも許可され

ているが、契約期間は原則として1年単位の最長3年であるた めに、JETプログラムの契約下で永住するという人生設計は不 可能である。ただし、学校や地域によく馴染み、特に優れてい るALTには最長5年間の滞在が認められる。

後述するnon-JET ALT(民間会社のALTおよび直接雇用の ALT)と一線を画する特徴としては、大都市よりも小・中規模 の都市や、小さな町や村に配属されることが多いことが挙げら れる(CLAIR, 2015)。その背景としては、JETプログラムの 目的が、地域レベルでの国際化の推進であること、また大 都市は外国人の数が多いこともあり、派遣会社に登録して いる民間会社ALTが多いこと理由として考えられる。

2-2 民間会社からの ALT

ALT黎明期においては存在しなかったものの、現在ではALT全体の約32%とJET-ALT を凌ぐ割合を占めているのが民間会社と雇用関係を結ぶALTである。民間会社の規模およ び業態は、ALT 派遣業務を専門にする企業から、留学事業や英会話講師派遣等といった業 務の一部として ALT派遣を扱う企業まで多様である。地域に根付いた小規模な ALT派遣 会社がある一方、海外の複数都市に採用ネットワークを持ち、毎年千人規模の外国籍人材 を新規雇用しながら研修および派遣を請け負う全国展開型の企業もある。

まとまった人数のALTを新規採用する教育委員会の中には、ALTを個人単位で直接募集 する代わりに、ホームページ等を通してALT派遣会社等に周知し、プロポーザル方式でALT を一括採用することも多い。プロポーザル方式とは、複数の民間ALT会社に企画や予算を

図1.JETプログラム参加者用

ハンドブック

(4)

提案してもらい、その中から最も適した業者を選ぶ方式である。例として選定基準を公式 に明らかにしている地方自治体の提案評価ポイント例を下に挙げる。

・ALTの管理体制:日常生活支援も含めたALTの労務管理体制が適切か

・学習指導要領に即した指導:指導要領を踏まえ、子どもの資質育成に寄与するか

・ALTの採用および研修体制:質の高い教育のためどのような研修を行っているか

・教員に対する指導体制:ALTが教員に対して指導方法を積極的に提案できるか

・価格評価点:市の提案上限額を基準にした一定の計算式のもと得点として加点

次項で説明する直接任用との違いの一つは、直接任用においては教育委員会や学校等が 雇用主であるのに対して、民間会社ALTの雇用主は民間企業になるということである。し たがって、たとえば労働の対価として教育委員会が契約額支払期間の支払総額を契約月数 で分割した額を毎月民間 ALT会社に支払うものとすると、その金額の中の一部は ALT 会 社の収入に充てられ、一部は労働者であるALT自身に支払われるということである。福利 厚生も派遣元である民間会社の規定が適用されるために、条件によっては健康保険および 傷害保険等が保障されない場合もある。結果として、賃金や生活の安定は派遣会社の条件 によって ALT 間でも差が生まれる。不安定または不当な状況下にある ALTの存在につい ては行政も認識しており、JET や直接任用との労働条件格差および公的保険未加入などの ALT に不利益な状況改善を三省(文部科学省、総務省、外務省)が推し進めている。しか しながら地方自治体にとって民間会社を介することのメリットもある。たとえばALT自身 が慣れない日本という国において生活およびコミュニケーション上の問題を抱えた時に、

雇用主である民間会社がALTをサポートしてくれることは学校にとっては安心材料となり うる。また、上記プロポーザル内容が示唆するように、自治体は赴任した時点で既に授業 内容の提案ができるALTを期待している。いわゆる民間会社内の研修で培っているであろ うALTの即戦力を期待しているのである。

ここまで表1に示した「労働者派遣」と「請負(業務委託)」を一括りにしてきたが、両 者の違いについて教育の質保障の問題という観点から言及する必要がある。まず、教育委 員会が提示するALT募集の仕様書には、ALT業務の一部として、日本人教員と協力して授 業計画を立てるというティーム・ティーチングの内容が含まれていることが多いが、「請負

(業務委託)」は円滑なティーム・ティーチングを妨げうる法律上の縛りがある。それは「労 働者派遣」が派遣先の学校教員からの指導法や生徒との関わり方といった点での指示・依 頼を受けることが可能であるのに対して、「請負契約」下の ALT は、法律によって、派遣 先の教員から指示を受けることを禁止されているという点である。つまり、業務の遂行方 法や休暇に関する事項を請負ALTに指示できるのは、ALTの請負事業主のみであると労働 省告示の中で規定されているため、学校がALTに授業の指導方法について改善を求めたり、

労働時間外に打ち合わせを行ったりすることは「偽装請負」として労働者派遣法の違反に あたってしまうのである。実際に、請負契約下でティーム・ティーチングを実施したため

(5)

に労働局から市教育委員会が指導を受けるという事実が明るみになり (読売新聞, 2007)、

文部科学省が理想的な形として求めるALT-JTE間ティーム・ティーチングが請負では違法 とみなされる矛盾が指摘されるようになった。教育の分野において請負という形が不向き であることは以前より指摘されているが(金沢, 2008)、依然として 9%の教育委員会が業 務委託を通してALTを採用している。文部科学省は、この事態を改善するために、雇用方 法を請負からJETプログラムまたは直接雇用に切り替えるよう呼びかけている。

2-3 直接任用の ALT

文部科学省の調査に基づくと、ALTを必要としている地方自治体が直接ALTを募集する という直接任用ALTは全体の19%にのぼる。各自治体によって採用人数や時期および条件 は多種多様であるが、たとえば、JETプログラムの基本 3 年間が終わり、さらに最長の5 年を満了した優秀なALT が、地方自治体と ALT 両者の希望のもとに直接任用に切り替え ることもある(内閣府, 2015)。また、随時必要が生じた時点でホームページ等を通してALT を公募する自治体もある。本稿執筆期間に得られた中学ALTの募集を行っている地方自治 体の情報は11件であったが、条件の多くは、地方公務員法22条に定める「会計年度任用 職員(パートタイム)」として一年間の任用期間であった。一年を終えた後の再任用の可能 性については、「無し」と明記する自治体から「再度の任用は2回まで、4年目は公募」等 の回数を要項に記す自治体もあった。しかしながら、これらの制限は必ずしも期間後に離 職を促すために設定されているわけではない。あくまで会計年度毎に広く募集を行い、適 正な競争試験のもとに任用が行われるべきであるという考えのもと、この条件が記載され ているのである。このことは「任用の回数や年数が一定数に達していることのみを捉えて、

一律に応募を制限することは 平等取扱いの原則や成績主義の観点から避けるべき」という 総務省からも推し量ることができ(総務省, 2019)、同一のALTが、再び公募のプロセスを 経て複数年継続するということは可能であることが分かる。

募集にあたって開示する情報量および書式については、日本語の不慣れなALTのために 英語と日本語で情報を併記する自治体から、勤務時間や報酬といった必要最低限の情報の み日本語で提示する自治体まで様々であり、決まりがないことが窺えるが、必ずしも日本 語運用能力を要求しないJETプログラムと異なり、直接任用のALTには、職務遂行上ある いは自力で生活できるだけの日本語運用能力を求めている場合が多かった。

公開されていた栃木市のALT募集を一例として挙げると、業務内容としては小中学校に おける授業補助、スピーチコンテストや課外活動等への協力、教職員に対する研修補助が 含まれる。勤務条件として、週5日の午前8時半から午後4時半のうちの7時間15分の労 働対価として月額 28 万以上の報酬が与えられ、公務員と同様に健康保険、厚生年金保険、

雇用保険に加入することが明記されている。

(6)

3 調査課題

これらの雇用主体の違いが、構成するALTの多様性および学校での働き方にも何らかの 特性や違いをもたらしている可能性があるという仮説に立ち、本稿では、(1) ALTの年齢や 日本滞在歴および就労動機といった ALT の属性および背景 (2)学校での働き方について、

上述した雇用形態別に何らかの特性が確認されるかについて、探索的課題として量的分析 を行う。

4 調査概要

本調査にあたって使用したデータは、小学校・中学校・高等学校に勤務するALTを対象に した大規模アンケート(上智大学, 2017)の中の、中学校ALTの回答である。調査は全国 の市町村教育委員会を経由して ALT へ周知がなされ、オンラインサイト SurveyMonkey を利用して回答された。回答した中学ALT総数は 890

名であったが、そのうち雇用形態について無回答だった 165 名および「その他」を選択した 11 名を除いた 714 名の回答について分析対象とする。その内訳は、

JETプログラム下で勤務するALTが295名、派遣や業 務委託の形で民間会社との契約下にあるALTが329名、

教育委員会や学校との直接雇用下で勤務するALTが90 名である(表 2)。アンケートは多肢選択および自由記 述を含む 60 項目から成る。本研究で扱った質問項目を 抜粋して付録に掲載した。

5 分析結果

5-1 雇用形態別にみる ALT の背景および属性

ALTの中には、すでに長期にわたり日本に住み家族と居を構えるALTもいれば、母国で 本格的な就職をする前の自己研鑽の機会として短期的に来日する若年ALTもいる。ここで は様々な背景をもつALT を、「年齢」「日本滞在歴」「ALTとしての教歴」「ALT として働 く予定年数」「ALT として働くことを決めた動機」という質問項目を組み合わせることで、

雇用形態別のALT像を分析する。

5-1-1 年齢および日本滞在歴

ALT の年齢および日本滞在歴を雇用形態別にまとめたものが表3・4である。JETプロ グラムから各学校へ赴任してくる典型的ALT像として、日本に来て間もない若者像が浮か び上がる。9割以上が大学卒業直後から30 歳までの若年層であり、8割以上が日本で暮ら 表2.雇用形態別ALT内訳

(7)

し始めて3年に満たないことが分かる。JET応募に年齢制限はないものの、30代以降の応 募者は極めて一部であることも窺える。対照的に、直接任用ALTは30歳以下の割合が36%

と3群の中で最も少なく、30代の年齢層が37%、40代以上のALTが27%を占めている。

6割の直接任用ALTはすでに6年以上日本に住んでいると回答し、地域に根ざしているALT が多いことも窺える。直接任用の応募における資格要件として、ALT として一定の実績を もっていること、TESOLといった学歴、および日本語でのコミュニケーション能力が必要 とされる場合もあり、そういった条件がこの年齢層の特徴に関係しているとも考えられる。

また、前述のように、JET プログラムの上限期間を迎えた時点で直接任用に切り替わった ALTはすでに教歴を5年有していることになり、そのため年齢および教歴が長い傾向にな っているという可能性もある。民間会社から派遣されるALTの年齢および日本滞在歴につ いては、JETと直接雇用の中間的な分布を示した。民間ALTは会社の種類が多岐にわたる こともあり、このことが多様性を生み出していると考えられる。25歳から40歳までの年齢

層が75%を占めており、滞在歴は1年未満から10年以上までと幅広い分布であった。

表3.ALTの年齢構成(雇用形態別)

表4.ALTの日本滞在歴(雇用形態別)

5-1-2 動機および今後のALTとしての継続見込

次に、ALT という仕事に就いてからの年数および今後どの程度の長期的視野で ALT と して教育に携わる予定があるか、またALTとして日本の学校現場で働くことを選んだ理由 について「ALTとして働いて何年になるか(表5)」「今後ALTとして何年働く予定か(表 6)」「なぜALTとして働くことを決めたか(複数回答可)(表7)」という項目の質問結果を

(8)

使って分析する。

JET-ALTは3群の中で最も年齢層が低く、滞在期間が短いことを前述したが、教歴・ALT

として働く予定期間においても 3 群の中で最も短いことが表 5 と表 6 より読み取れる。

86%のALTが教歴3年未満であり、また8割は3年以上ALTを継続する意思を示してい ない。JETプログラムとしての契約期間そのものが1年から3年であることを鑑みると、

プログラムでの採用と同時にALTの仕事および日本滞在を開始し、契約の切れる3年以内 にALTとしてのキャリアも終える予定であるということが推測される。ALTになる理由に ついては「日本で働くという経験を得る」という自分の人生設計上のメリットを動機の 1 つとして選んだALTが84%いた。複数回答で回答率が高いものとして「教えることが好き である(68%)」「友人等の勧め(37%)」という理由が続いたが、およそ3名に1名の割合 で「給料が良い(35%)」を選んだ点が民間および直接任用ALT群と一線を画す特徴でもあ った。20代という年齢で、海外経験を積みながら得られる報酬としては336万という年額 が満足いくものであると考えていることが分かる。JET-ALTが記載した「その他」の自由 記述には自分の職業観や日本への思いが綴られていた。頻度の高い順番に記述理由を挙げ ると「日本語を身につけるため」「日本(文化)への興味」「海外経験がしたい」「自分の資 質を見極めるため」等があった。

表5.ALTとしての教歴(雇用形態別)

表6.今後ALTとして働く予定年数(雇用形態別)

(9)

*複数選択可 表7.ALTになった理由・動機(雇用形態別)

派遣や業務委託といった民間会社の契約下で働く民間 ALT は、日本滞在歴、ALT 歴、

ALT予定年数の全てにおいてJETと直接雇用の中間的な分布を示した。約半数の民間ALT は滞在歴3年未満であり、3年から 10年までの滞在歴が約3分の1であった。JET-ALT ほど教歴は短くないものの、6割以上の民間ALTは教歴3年未満であった。今後ALTとし て働く予定年数についても、JET-ALTよりわずかに長い傾向があるものの、やはり6割以 上は何らかの理由で3年以上ALTを継続する意思を示さなかった。動機として最も高かっ た2つの理由は、「日本で働く経験を得る(64%)」、「教えることが好きである(64%)」と いう理由であり、「その他」の自由記述の中において、これらの理由を補足する形で改めて

「子どもが好き」「やりがいがある」と強調する ALT もいた。他の動機として「自分自身 の日本語力の向上」「日本に住むため」「日本文化が好きだから」といった自分と日本との つながりを説明する ALT や、「家族を支えるため」または英会話学校など前職を辞したた めという経済的な観点からの補足もあった。「給料が良い」を選択した民間ALTは10%未 満と3群の中で最も低く、自由記述の中で待遇や生活の厳しさを訴えるコメントも3件と 少数ながら確認された。多くの民間ALTにとって給与が労働のインセンティブになってい ないことが読み取れる。

自治体等で直接雇用されたALTの特徴を端的に表すと、長期的という言葉に集約される。

約6割の直接雇用ALTは日本に滞在して6年以上経過しており、ALTとしての教歴も他の 2群よりも長い。また20%のALTは10年以上の教歴を持ち、6年以上10年未満(15%)

のALTと合わせると、約3人に1人は6年以上のALTとしての実績を積んでいることが 分かる。今後のALTとしての予定も長期的で、教歴と同様、約3人に1人は今後6年以上 働きたいと回答している。直接雇用の条件においては会計年度任用職員として単年度が多 いと前述したが、実際には長期的な視点でALTという職に携わっていることが分かる。一 方で、年齢層が高くキャリアも長いこともあり、ALT になった動機として「日本で働く経

(10)

験を得る(38%)」という回答は3群中で最も低かった。「教えることが好き(58%)」とい う理由が ALT としてもっとも高い就労動機であることが窺える。「その他」の自由記述に は、「家族や子どものため」といった理由が民間 ALT よりも多い件数で挙がっていたが、

一方で、「他に職業の選択肢が余りない」「外国人にできる数少ない仕事として」というよ うな、地域的な特性のために消極的選択をしているALTもいた。

5-2 雇用形態別にみる ALT の学校での働き方

次に、ALTの雇用形態別に、授業内外でどのような働き方をしているか分析する。

5-2-1 JTEとの交流頻度および授業準備における役割

授業内におけるALTとJTEのインタラクション頻度は、ティーム・ティーチングの活性 度を知る一つの目安になりうる。ALTには、授業内においてどの程度の頻度でJTEとやり とりをしているかという質問に対して‘1. Never’から‘5. Very Often’の5段階で選択しても らった。選択肢は順序尺度ではあるが、3 群のコミュニケーション頻度を比較するために、

頻度を‘Never=1’から‘Very Often=5’と数値化し、クラスカル=ウォリス検定および多重比較 により群間の差を分析した。

表8が3群の結果を示すが、全体的に民間会社ALTが残り2群に比べて交流頻度が低い ことが窺える。Scheffeの多重比較においても、民間とJET、および民間と直接雇用の間に 有意な差が確認された。

表8.JTEとの授業内での交流頻度

次に、ALTがどの程度授業計画を任されているかについて‘1. None’から‘5. All’の5段階 で選択してもらった。JET-ALTは、前述の教室内インタラクション頻度については半数以 上が「頻繁に」または「とても頻繁に」JTE とやりとりをしていると回答したが、授業準 備においては16%が「全く(None)」授業計画に関わらず、42%が「ほんの少しだけ(Only

a little)」しか授業計画に関わっていないことが明らかになった(表9)。一方で、授業内で

は他の2群よりもJTEとのやりとりが少ないものの、最も授業準備を任される度合いが高 い群は民間会社ALTであり、約半数が半分以上(23%)または全て(24%)授業計画を作

(11)

成していると答えている。前述の頻度と同様に、ALTの授業準備における負担量を‘None=1’

から‘All=5’と数値化し雇用別3群の回答の数値の平均値を取った結果、JET-ALT は 2.4、

民間ALTは3.4、直接雇用ALTは2.9であった。多重比較の結果、3群全ての間に有意差

が検出された。雇用形態別に任される授業準備の量が異なると解釈できる。

表9.授業の準備におけるALTの責任

ここでALTの授業準備における本来のあり方について補足する。文部科学省は、授業準 備におけるJTEの責任およびALTの関わり方について、ALTは「学校(担当教員)が作 成した指導計画・学習指導案に基づき、授業の打ち合わせを行うとともに、教材作成等を 補助する(文部科学省, 2011)」役割であり、あくまでもJTEが授業準備の主導および責任 を負うものと明記している。これをふまえると、数値化して平均を比べることそのものよ

りも、‘None=1’および‘All=5’という両極の望ましくない状況に目を向ける必要がある。教員

間の協働が必要とされる中、全く授業計画に関わらないというJET-ALTが比較的多いこと、

反対に、授業準備の責任が ALTに全て任されるケースが特に ALT が民間出身である場合 に多いという事実は一考すべき結果である。

授業内の交流頻度だけでなく、授業外においてALTとJTEがどの程度コミュニケーショ ンを取っているかについてもたずねた。下表10を見るとJET、民間、直接雇用の順に交流 頻度が高い傾向が読み取れるが、平均値はそれぞれJET-ALTが3.3、民間ALTが 3.5、直 接任用ALTが3.7であり、統計的な有意差が確認されたのはJETと直接任用の間のみであ った。

表10.JTEとの授業外での交流頻度

(12)

授業以外の活動について、どのような時間に生徒と交流しているかを知るために、ALT が参加している活動を多肢選択式で回答してもらった結果を表11に示す。どの群において も 7 割以上の ALT が学校祭に参加しており、体育祭や球技大会といったスポーツ行事や 日々の給食に参加しているという回答が次に多かった。「その他」の活動として ALT が挙 げた活動として、スピーチコンテストや生徒との清掃活動があった。独立性の検定および 残差分析の結果、統計的に有意な傾向として確認されたことを労働形態別にまとめると、

(1) JET-ALTは、英語クラブに参加する比率は低い一方、3群の平均で見ると遠足に行く比

率がやや高い、(2)民間ALTは英語クラブに参加する率が全体の比率の中で高い傾向にある、

(3) 直接雇用ALTは給食を生徒と一緒に食べる比率が高いということであった。

表11.ALTが参加する活動・行事

6 考察とまとめ

英語教育を支えるALTの属性や働き方は多様でありながら、一連の分析を通して雇用形 態別の傾向が読み取れた。JET プログラムは報酬や任期および契約諸条件が明確に定義さ れており、短期でありながら日本に住むだけの生活費が保障されていることを十分条件と する若者が、日本での経験を求めて集まる傾向にあることが分かる。JET-ALTは教歴の短 さだけでなく授業準備の割合が他群より低い点でも特徴づけられたが、JET プログラムの 本来の目的が外国語教育の充実だけでなく地域レベルの国際交流を図る交流事業であるこ と、またほとんどのJET-ALTが大学卒業して間もない青年であるという事実がこの結果を 説明する一助となりうるだろう。JET-ALTと比べるとnon-JETには年齢や教歴はじめ様々 な面で多様性が見られたが、民間会社ALTは授業計画の負担が2群に比して大きく、授業 の即戦力として期待されていることが分かった。同時に、4人に1人が授業準備を全て自分 だけで請け負っていると回答した事実は、民間ALTに授業計画丸投げとも取れる問題を浮 き彫りにしたともいえる。地方自治体からの直接任用で働くALTはより日本および学校教

(13)

育現場との関わりが長い傾向にあり、授業内外においてJTEと交流する頻度も多い傾向に あった。また、non-JETにとって給与面での待遇はALT就労における動機づけに寄与して いないことも分かった。

英語教育のために学校現場でALTは欠かせない存在でありながら、同時に、ALT自身に も当然のことながらそれぞれの人生設計があることを一連の分析を通し改めて認識させら れる。ALTという職がALTに与えうるものは家族を支える糧であったり、人生を豊かにす るための経験であったり、ALT 自身の日本語力であったりと多種多様であるが、限られた 教育財源を最大限に活用しつつ英語教育を前進させるには、指導力を身につけた優秀な ALT が、契約や待遇上の制約が原因で学校を離れずにすむ環境作りが鍵であると考えられ る。たとえば、当初は短期的な海外経験のつもりでいたALTが、地域や赴任校との信頼関 係を築くうちに、より長期的に英語教育に携わりたいと気持ちを新たにするかもしれない。

ALT は「アシスタント」という名の通り補助的な立場にあり、雇用も短期的で不安定な身 分に留まりがちであるが、もし安定した生活を保障された上で、雇い止めの心配から自由 になることができれば、長期的に日本に留まり、地域への帰属意識をもってより積極的に 指導力向上のため力を注ぐことが可能になるだろう。

JET から地方自治体の直接雇用への切り替えの流れが一部にあるものの、国の財政支援 は地方自治体の独自採用に対しては支援額が少なく、JET の報酬や勤務条件を維持したま ま継続雇用をすることが難しい状況である(内閣府, 2015)。新学習指導要領においては、

小学校で外国語を正式に教科化しただけでなく、プログラミング導入やICTの充実化など、

教育財源を必要とする分野が各所にある。同時に、ともすると教育の世界では「子どもの ために」という合い言葉のもとに教育に携わる者は仕事の負担をやりがい意識で相殺しが ちな側面もある。しかしながら、学校教育の中の「教諭」という役割ではなく「アシスタ ント」とう地位にあり、異国である日本という学校現場の中で腰を据えて指導に携わって いく人材としてALTを期待するならば、彼らの多様性や強みを活かしながら、長期的に雇 用を可能にする財源およびシステムが期待されるだろう。

謝辞

本研究は、(株)インタラック(現、リンク・インタラック)の委託研究のデータを使用 させていただいたものであり、多大なご支援に感謝の意を表する。また、吉田研作教授、

和泉伸一教授はじめ、本研究の母体となる上智大学の研究メンバー、アンケートに協力い ただいた ALT の方々、査読委員の方々に深謝する。

文献

一般財団法人自治体国際化協会 (CLAIR)(2015)「Q&A. 4.16. I would rather not be placed in an isolated area. What are my chances of being placed in a big city?」

http://jetprogramme.org/ja/faq01/

(14)

金沢信之(2008)「シリーズ 『教育現場の非正規雇用』第1回 ALTの業務民間委託(直 接雇用・非常勤外国語指導助手)」

http://www.edu-kana.com/kenkyu/nezasu/no42/hiseiki.htm

上智大学[研究代表者 吉田研作](2017)「小学校・中学校・高等学校におけるALT の実 態に関する大規模アンケート調査研究 最終報告書」

https://www.bun-eido.co.jp/aste/alt_final_report.pdf 総務省(2019)「会計年度任用職員制度について」

https://www.soumu.go.jp/main_content/000638276.pdf

内閣府(2015)「外務省 平成27 年の地方からの提案等に関する対応方針に対するフォロ ーアップ状況」

https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/teianbosyu/doc/tb_h27fu_08_mofa_a.pdf 文部科学省(2011)「文部科学省が一般的に考える外国語指導助手(ALT)とのティーム・

ティーチングにおけるALTの役割」

http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1304113.htm#contentsStart 文部科学省(2020)「令和元年度 『英語教育実施状況調査』概要」

https://www.mext.go.jp/content/20200715-mxt_kyoiku01-000008761_2.pdf 読売新聞, 2007年3月23日, 「外国語指導助手雇用で大阪労働局が6市教委を指導」

付録

Survey for ALT research (Junior High School) [抜粋]

16. How much responsibility is given to you for the preparation of classes?

(a) None (b) A little (c) About half (d) More than half (e) All

19. How often do you interact with JTEs during class?

(a) Never (b) Rarely (c) Sometimes (d) Often (e) Very often

20. How often do you interact with JTEs outside of class?

(a) Never (b) Rarely (c) Sometimes (d) Often (e) Very often

40. What events / activities do you take part in with students? Select all that apply.

(a) Lunch (b) English club (c) Clubs not related to English (d) School festivals (e) Field trips (f) Sports events

(g) If others, please specify:

(15)

44. How old are you?

(a) 18-24 (b) 25-30 (c) 31-40 (d) 41-50 (e) 51-60 (f) Over 60

46. How many combined years have you lived in Japan?

(a) Less than 1 year (b) 1-3 years (c) 3-6 years (d) 6-10 years (e) More than 10 years

47. How many combined years have you worked as an ALT?

(a) Less than 1 year (b) 1-3 years (c) 3-6 years (d) 6-10 years (e) More than 10 years

54. Why did you decide to work as an ALT? Select all that apply.

(a) To gain some experience working in Japan

(b) Because I like teaching (c) Because the pay is good (d) Because of a recommendation from friends / acquaintances (e) Other (please specify)

55. How long do you plan to continue to work as an ALT?

(a) 1-2 years (b) 2-3 years (c) 3-5 years (d) 5-10 years (e) More than 10 years

56. What is your current employment status?

(a) Hired under the JET program (b) Hired by a private company

(c) Directly hired by the board of education or by the school (d) If others, please specify:

(16)

Abstract

Analysis of Assistant Language Teachers by Employment Status:

Japan Exchange and Teaching Program, Private Companies, and Direct BoE Employment

Atsuko Sonoda

Assistant Language Teachers (ALTs) have contributed to language education and grassroots international understanding in Japan for more than 40 years. As demand for them increased, schools gained more options for recruiting ALTs, most of who are employed through one of the following: the Japan Exchange and Teaching (JET) Program, private companies, and Boards of Education (BoEs). This paper highlights the characteristics of ALTs working under each of these contractual arrangements and seeks to identify any differences among the three groups in their school life. Questionnaire responses from 890 junior high school ALTs were analyzed, revealing the following characteristics of the three ALT groups: (1) JET-ALTs are the youngest of the three groups and most are 30 or younger; they plan to work as ALTs for a shorter time, and the amount of responsibility for class preparation is smaller than among other groups.

(2) ALTs from private companies showed great diversity in age distribution, length of

career as an ALT, and length of stay in Japan; although this group interacted least with

the JTE in the classroom, the amount of responsibility for class preparation was higher

than in other groups. (3) The number of ALTs employed directly by BoEs was the

smallest of the three groups; their age was higher than other groups, and they had stayed

in Japan and worked as ALTs for comparatively longer periods.

参照

関連したドキュメント

ニードル型プラグに関する 1MPa 水準の キャビテーション形態.. 汎用プラグにおける流量係数と

本章では,現在の中国における障害のある人び

 第1報Dでは,環境汚染の場合に食品中にみられる

工学部の川西琢也助教授が「米 国におけるファカルティディベ ロップメントと遠隔地 学習の実 態」について,また医学系研究科

⑹外国の⼤学その他の外国の学校(その教育研究活動等の総合的な状況について、当該外国の政府又は関

 英語の関学の伝統を継承するのが「子どもと英 語」です。初等教育における英語教育に対応でき

小学校学習指導要領総則第1の3において、「学校における体育・健康に関する指導は、児

第二の,当該職員の雇用および勤務条件が十分に保障されること,に関わって