Title
エネルギー分解質量分析法による糖鎖構造解析技術に関す
る研究( 内容の要旨(Summary) )
Author(s)
大黒, 周作
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 乙第130号
Issue Date
2009-03-13
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/33631
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。
氏
名(本(国)籍)
学
位
の 種 類学
位
記 番 号学位授与年月
日学位授与の要件
学 位
論 文 題 目審
査委
員
会
大 黒 周作
(広島県)
博士(農学)
農博乙第130号
平成21年3月13日
学位規則第3条第2項該当
エネルギー分解質量分析法による糖鎖構造解析技術
に関する研究 主査岐阜大学
副査静岡大学
副査岐阜大学
副査信州大学
授 授 授 授教
教
教
教
真
市
治
満
泰 秀曽
氷 田 田木
碓 石廣
論 文 の 内容
の 要 旨 高度な生命機能に関わる糖鎖の構造を明確にするための「構造解析技術」が求められて いる。しかし、糖鎖は増幅できない分子種であり、また糖鎖の膨大な多様性を考慮すると その差異を明確にできる分析法の確立が全世界で急務となっている。 本学位論文では、質丑分析法(MS)のみを用いた極微魚粉鎖構造解析技術に関す研究、な らびにその優れた分析技術の将来性について述べる。 第一章では、energy・reSOIvedmassspectrometry(ERMS)と糖鎖コンビナトリアルライブラリーを用いた構造解析の有用性を示す。ERMSは衝突誘起解離(CID)を基礎とする分
析法であり、CIDエネルギーを変化させることにより、分析対象イオンのエネルギーに対 する構造情報を得ることができる。ここから得られた各糖鎖イオンに対するエネルギー情 報は、一般的に得られているスペクトル情報とは別次元であり、多様性を考慮した構造解 析に適している。また、糖鎖コンビナトリアルライブラリーは化学的に可能と考えられる 構造(位置異性体、アノマー異性体)に関して天然・非天然を問わず化学合成により得てい る。したがって、両者を用いた構造解析は他に類をみない手法となる。まず、ERMSを用 いフコース(Fuc)、ガラクトース(Gal)から成る二糖ライブラリーの分析を行った。この時、 一般的な CID・MSnでは特徴的なフラグメントイオンを示さない限り識別が不可能である ことが示された。一方、ERMS分析によればアノマー、及び、結合位置に従い差異を確認 することができた。さらにERMSから得られるパラメータを用いると16種類全ての化合 物で明瞭な差異が示された。これはERMSが異性体の微妙な桃造的差異を識別することが できる優れた手法であり、多様性を考慮した柄造解析に適していることを示している。次 にFuc、Gal、及びグルコ丁ス(GIc)から成る三糖コンビナトリアルライブラリーのERMS 分析では、Fucのアノマー毎にクラスターを形成するということを初めて示した。この一 般性を柵造解析に応用することにより、スペクトルマッチング法では成し得なかった「構 造推測」を可能にすることが期待できる。また、ERMS・MS2時に構造が異なったイオンでー100-あってもERMS・MS3時に同一構造を持つ単一イオンで.あれば同様のERMS結果を示すと いう未知糖鎖の構造解析において有用な結果を初めて示した。以上のように、糖鎖のコン ビナトリアルライブラリーを質免分析法により得られる構造情報源として用い、ERMS法 による詳細な解析を行うことで、従来得ることができなかったアノマー異性、結合異性に 関する情報を得ることができた。 第二章では、糖鎖ライブラリーから効率良く多くの構造情報を得るためのアグリコンの 検討を行った。本研究においてアグリコンは、異性体混合物としてランダムに合成される 糖鎖ライブラリーを高速繚体クロマトグラフィーにより分離・分取するための疎水性タグ としての械能も果たしている。このアグリコンを変化させることにより椰造解析に有用な 「糖鎖のみ」の構造情報を得ることを目的とした0用いたサンプルはLactose・R(R=オク チル基、プロモプチル基、アミノプチル基)である○ オクチルグリコシドの場合、糖鎖の みのイオン種であるB・ionが得られたがイオン強度の減衰が著しく次段のMS分析には適 応できないことが判明した。次にブロモプチルグリコシドでは、B-ionが高効率で産生さ れた。ブロモプチルグリコシドは合成中間体としての難点を有するが、アグリコンに反応 起点を設けることが有用であることが示唆された0次にアミノプチルグリコシドではB・ 及びC・ionが効率良く産生することが示された0また、反応時には環状中間体の形成が示
唆されたためアルキル鎖長を変化させ、最も優れたアグリコンの探索を行ったところ五員
環遷移状憶を中間体とするアミノプチルグリコシドが高効率でB・及びC-ionを産生するこ とが明らかとなった。さらに、ここから得られたC-ion(ヘミアセタール)はアノマーの立体 を保持しているという結果が初めて得られ、糖脂質(GM3)との比較により構造解析が可能 であることを示した。 第三章では、本研究にて開発したStage・discriminatedcorrelation(SDC)法を用い質故 分析計のみによる異性体混合物の級別を行った。SDCはERMS(MSn)途中段階でプレカー サーイオンを選択し、さらにERMS(MSn叫を行うことで異性体の存在を識別する手法で ある。糖鎖構造解析は桝造未知糖鎖が単一化合物から成る場合にのみリファレンスとなる 糖鎖コンビナトリアルライブラリーと比較することができる0 したがって、構造未知糖鎖 のERMS分析前段階においてSDCを行うことで迅速な椰造解析を行うことができる。実 際にSDCを単一化合物、異性体混合物、及びへミアセタール(市販)に対し行ったところ、 理想直線(y=Ⅹ)からの距離(d)の総和が1・5以下のものが単一化合物であることを明らかに した。また、SDCを質址分析計内の各イオン種(A・,B・,C・,Y-ion)に対して行ったところ、 単一な構造を有しているイオン種はC・、及びY・ionであることを初めて示すこ′とができた0 さらに、SDCの有用性を示すため任意の割合で混合した糖鎖に対してHPLC前後の分析 を行ったところ、明確に異性体の存在を示すことが可能であった0 これはSDCが構造解 析にのみならず、合成医薬品やその他の化合物、複合糖質を含む天然物等の分析において 第一段階の分析手法と成り得ることを示している。 以上のように本研究結果から、質弛分析法のみを用いた極微放構造解析が躍進的進歩を 遂げると共に、これまで不十分であった糖鎖の機能解析を明l瞭にする先駆けとなる構造解 析技術となることを示した。-101-審 査 結 果 の 要 旨
平成21年1月23日、岐阜大学において口頭による公開論文発表の後、本論文を審
査した。
高度な生命機能に関わる糖鎖の構造を明確にするための「構造解析技術」が求められ
ている。しかし、糖鍬ま増幅できない分子種であり、また糖鎖の膨大な多様性を考慮す
るとその差異を明確にできる分析法の確立が全世界で急務となっている。
本学位論文では、質盈分析法(MS)のみを用いた極微盈糖鎖構造解析技術の確立、なら
びにその優れた分析技術の将来性について述べている。
第一撃では、energy・reSOIvedmassspectrometry(ERMS)と糖鎖コンビナトリアノンライ
ブラリーを用いた構造解析の有用性を示す。ERMSは衝突誘起解離(CID)を基礎とする分
析法であり、CIDエネルギーを変化させることにより、分析対象イオンのエネルギーに
対する構造情報を得ることができる。ここから得られた各糖鎖イオンに対するエネルギ
ー情報は、一般的に得られているスペクトル情報とは別次元であり、多様性を考慮した
構造解析に適している。また、糖鎖コンビナトリアルライブラリーは化学的に可能と考
えられる構造(位置異性体、アノマー異性体)に関して天然・非天然を問わず化学合成に
より得ている。したがって、両者を用いた構造解析は他に類をみない手法となる。まず、
ERMSを用いフコース(Fuc)、ガラクトース(Gal)から成る二糖ライブラリーの分析を行
った。この時、一般的なCID・MSれで鱒特徴的なフラグメントイオンを示さない限り識別
が不可能である・ことが示された。一方、ERMS分析によればアノマー、及び、結合位置
に従い差異を確認することができた。さらにERMSから得られるパラメータを用いると
16種類全ての化合物で明瞭な差異が示された。これはERMSが異性体の微妙な構造的
差異を織別することができる優れた手法であり、多様性を考慮した構造解析に適してい
ることを示している。次にFuc、Gal、及びグルコース(GIc)から成る享糖コンビナトリア
ルライブラリーのERMS分析では、Fucのアノマー毎にクラスターを形成するというこ
とを初めて示した。この一般性を構造解析に応用することにより、スペクトルマッチン
グ法では成し得なかった「構造推測」を可能にすることが期待できる。また、ERMS・MS2
時に構造が異なったイオンであってもERMS・MS3時に同一構造を持つ単一イオンであ
れば同様のERMS結果を示すという未知糖鎖の構造解析において有用な結果を初めて示
した。以上のよ■うに、糖鎖のコンビナトリアルライブラリーを質量分析法により得られ
る構造情報源として用い、ERMS法による詳細な解析を行うことで、従来得ることがで
きなかったアノマー異性、結合異性に関する情報を得ることができた。
第二牽では、糖鎖ライブラリーから効率良く多くの構造情報を得るためのアグリコン
の検討を行った。本研究においてア`グリコンは、異性体混合物としてランダムに合成さ
れる糖鎖ライブラリーを高速液体クロマトグラフィーにより分離・分取するた.めの疎水
性タグとしての機能も果たしている。このアグリコンを変化させることにより構造解析
に有用なr糖鎖のみ」の構造情報を得ることを目的とした。用いたサンプルはLactose・R(R
=オクチル基、プロモプチル基、アミノプチル基)である。オクチルグリコシドの場合、
糖鎖のみのイオン種であるB・ionが得られたがイオン強度の減褒が著しく次段のMS分
析には適応できないことが判明した。次にプロモプチルグリコシドでは、B・ionが高効率
で産生された。プロモプチルグリコシドは合成中間体としての難点を有するが、アグリ
コンに反応起点を設けることが有用であることが示唆された。次にアミノプチルグリコ
シドではB・及びC・ionが効率良く産生することが示された。また、反応時には環状中間
体の形成が示嘩されたためアルキル鎖長を変化させ、最も優れたアグリコンの探索を行
ったところ五員環遷移状憶を中間体とするアミノプチルグリコシドが高効率でB・及び
-102-c・i。nを産生することが明らかとなった。さらに、ここから得られたC・ion(ヘミアセタLT
ル)はアノマーの立体を保持しているという結果が初めて得られ、糖脂質(GM3)との比較
により構造解析が可能であることを示した。
第三草では、本研究にて開発したStage・discriminatedcorrelation(SDC舷を用い質塵
分析計のみによる異性体混合物の識別を行った。SDCはEMS伽Sll)途中段階でプレカ
ーサーイオンを選択し、さらにERMS(MSn+1)を行うことで異性体の存在を識別する手法
である。糖鎖構造解析は構造未知糖鎖が単一化合物から成る場合にのみリファレンスと
なる糖鎖コンビナトリアルライブラリーと比較することができる。したがって、構造未
知糖鎖のERMS分析前政階においてSDCを行うことで迅速な構造解析を行うことがで
きる。実際にSDCを単一化合物、異性体混合物、及びヘミアセタール(市販)に対し行っ
たところ、理想直線(y=Ⅹ)からの距離(めの総和が1.5以下のものが単一化合物であるこ
とを明らかにした。また、SDCを質屋分析計内の各イオン種(A・,B・,C・,Ylion)に対して
行ったところ、単一な椰造を有しているイオン種はC・、及びサionであることを初めて
示すことができた。さらに、SDCの有用性を示すため任意の割合で混合した糖鎖に対し
てHPLC前後の分析を行ったところ、明確に異性体の存在を示すことが可能であった。
これはSDCが構造解析にのみならず、合成医薬品やその他の化合物、複合糖質を含む天
然物等の分析において第一段階の分析手法と成り得ることを示している。
このように本研究結果から、質盈分析法のみを用いた極微出構造解析が躍進的進歩を
遂げると共に、これまで不十分であった糖鎖の機能解析を明瞭にする先駆けとなる構造
解析技術となることを示した。
以上について、審査員全員一致で本論文が岐阜大学大学院適合度学研究科の学位論文
として十分価値あるものと認めた。
学位論文の基礎となる学術論文
1)Anomericinformationobtainedfrom
a series ofsynthetic trisaecharidesusingenergyresoIvedmassspectra
ShuBakuDaikoku,TaknroAko,・AyakoEurimotoandOsamuXanie
よ肋ββ郎ec出・以刀リ2007;42:714・723
2)Discriminationof16StructuralIsomersofFucosylGalactoside
basedonEnetgy・ResoIvedMassSpectrometry
ShuBakuI)aikoku,Tal【urOAko,RumikoEato,Isao Ohtsukaand Osamu Eanie
よA皿βoc.此払βぶ馳e血℃皿,2007;18:1873-1879
3)Ion・traP
maSS SPeCtrOmetry unVeils the presence ofisomericoligosaccharidesinananalyte:Stage・discriminatedcorrelationofERMS
ShusakuDaikokn,AyakoKurimoto,SachikoMutsuga,TaknroAkn,Takuya
Kanemitsu,‰kiShioiri,AtsukoOhtake,RumikoKato,ChikakorSaotome,Isa。Ohtsuka,SatomiKoroghi,SujitK.Sarkar,AkifumiTbbe,ShinAdachi,
KatsuhikoSuzukiandOsamuKanieCb)i)OhYd甥teRbs.,inpress
ー103-既発表論文
1)SynthesesofModelCompoundsRelatedtoanAntigenicEpitopeinPectic
PolysaccharidesfromBLQhumm点katumL.(Ⅱ)
YuhuaJin,Noriyasu Hada,Junko Oka,Osamu Kanie,ShusaknDaikoku, %shimiKanie,Haruki%madaandTadahiroTakeda
αe皿用朗Ⅶ.月厄〟,2006;54(4):485・492
2)Analysis
of Energy・ResoIved Mass Spectra at MSDin a Pursuit toCharacterizeStructuralIsomersofOligosaccharides AyakoEurimoto,ShusaknDaikoku,SachikoMutsugaandOsamuKanie A刀βヱCあe.ロ.,2006;78:3461・3466
3)Solid・PhaseSynthesesofSialylTnAntigen
TakuyaKanemitsu,SlmsakuDaikokuandOsamuKanieJ曲j仏和血(逝e皿,2006;25:361・376
4)OrthogonalGlycosylation
Reactions on Solid Phase and Synthesis of aLibraryConsistingofaCompleteSetofFucosylGalactoseIsomers OsamuKamie,IsaoOhtsuka,TakuroAko,ShusakuDaiknku,「ゐshimiKanie, Ru血ikoKato A刀g℃耽αe皿..Int.Ed.,2006;45:3851・3854
5)SynthesisofaLibraryofFucopyranosyl・galactopyranosidesConsistingofa
CompletesetofAnomericConfigurationsandLinkagePositions IsadlOhtsuka,TakuroAko,RumikoKato,SlmsakuDaiknku,SatomiKoroghi, TaktiyaKanemitsuandOsamuKanie(泡ヱ血如血触.,2006;341:1476・1487
6)High・YieldingandControlledDissociationofGlycosidesProducingB・and
C・ion Species under Co11ision・Induced DissociationMS/MS Conditions and UseinStructuralDetermination
Katsuhiko Suzuki,ShusaknDaikoku,Takuro Ako,%kiShioiri,Ayako
Kurimoto,AtsukoOhtake,ShjitK.Sarkar;andOsamuKanie
A鮎止C鮎皿.,2007;79:9022・9029
7)Sequentialenzymatic
gbTCOSyltransferreactions
on amicrofluidic device:Synthesisofaglycosaminoglycanlinkageregiontetrasaccharide
%sunariOno,MotokiKitajima,ShusakuDaikoku,Shiroya℃Nishihara
S,%shimiKamie,KatsuhikoSuzuki,SatoshiGotoandOsamuXamie