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剖検例の筋組織におけるジストロフィンの免疫組織化学的研究

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43 原 著

倭女医糠、夢63巻磯謬説〕

剖検例ゐ筋組織におけるジストロフィンの免疫組織化学的研究

 東京女子医科大学 小児科学教室(主任:福由幸夫教授) イケヤ キ ヨ コ  サイトウカ ヨ コ  コンドウ  エ リ   コミネ   サトシ

池谷紀代子・斎藤加代子・近藤 恵里・小峯  聡

ヤマウチ       オオサワマ キ コ   ミシマ  マユミ  タ高地シリ エ コ

山内あけみ・大澤真木子・三島 眞弓・高橋里恵子

ハラダ タカヨ フクヤマ ユキオ

原田 隆代・福山 幸夫

(受付平成5年6月22日) Immunohistochemical Analysis of Dystrophin iR Muscle Specimens from Autopsy Cases Kiyoko IKEYA, Kayoko SAITO, Eri KONDO, Satoshi KOMINE, Akemi YAMAUCHI,         Makiko OSAWA, Mayumi MISHIMA, Rieko TAKAHASm,       Takayo HARADA and Yuldo FUKUYAMA       Department of Pediatrics(Dir㏄tor:Prof. Yukio FUKUYAMA)       Tokyo Women’s Medical CoUege   Postmortem degradation of dystrophin was investigated immunohistochemically.   ImmunGhistGchemical analysis of dystrophin was performed on samples froln eight autQpsy cases. In two of the e量ght cases,samples which had been completely thawed once and re−frozen were prepared and studied. To examine the relation of dystrophin degradation and the time after death, frozen specimens from rat femoral muscle were studied. Spectrin immunostaining was performed to est董mate the state of the cell membrane in autopsy samples, including the re−frozen samples.   The hematoxylin and eosin staining pattern of all autopsy and rat samples showed no definite changes in cellular architecture. Spectrin immunostaining revealed a d量scontinuous pattern in the re−frozen samples and samples in which the time since death was 120r more hours. In these samples, markedly weak and discontinuous dystrophin staining was observed when antibodies recogniz量ng C−terminals were used. These results suggest that dystrophin immunostaining requires samples obtained less than 12 hs postmortem as well as good conditions for frozen sample preservation.   One case with congenital muscular dystrophy showed faint spectrin staining. The majority of cell membranes of muscle fibers were dystrophin−negative with C−terminal recognizing antibodies. The muscle cell membrane三n this case was suspected to be extremely fragile.       はじめに

 Duchenne型およびBecker型筋ジストロ

フィー(DMD, BMD)の原因遺伝子が同定されD, その遺伝子産物であるジストロフィンの抗体を用 いた免疫化学的検討2)が神経筋疾患の診断に広く 応用されるようになって,これらの疾患の診断は, 以前と比べ格段に確実性を増した.我々はリンパ 球より抽出したDNAを用いた遺伝子診断を行う と共に,生検筋のジストロフィン免疫組織染色と

イムノブロットを行って,診断に役立ててき

た3》∼13).その結果,採取直後に急速に凍結されて作 製され,かつ保存状態の良いサンプルであれぽ, 9年前に採取された生検筋も,充分に免疫組織染 色やイムノブロットに用いることができ,診断の 参考にすることが可能であった.さらに,クリオ スタットで薄切し,スライドガラスにはりつけた

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状態で凍結保存したサンプルでは,4年前のもの でも染色性の低下は見られるものの,使用可能で あった.すなわち,長期の冷凍保存自体は,筋組 織のジストロフィン免疫反応性または染色性に殆 ど影響を与えないと考えられた.しかしながら, 採取されたときにはすでに筋組織の崩壊が始まっ ていると推測される解剖例において,死亡から凍 結サンプルの作製までに長時間を要した場合,筋 組織のジストロフィソ染色反応性に変化を生じさ せないかという疑問が残る.  我々は,死亡からサンプル作製までの時間が 種々異なる8例のヒト剖検例,およびラットの骨 格筋において,抗ジストロフィン抗体を用いた免 疫化学的検討を行い,筋細胞膜のジストロフィン 免疫反応性,および抗スペクトリン抗体に対する 反応性の変化について検討した.        対象および方法  1.対象  ラットは屠殺後,室温(25∼28℃)に保存し,

死亡直後,1,2,4,6,9,12,18,24時間

の9点において大腿筋を採取した.  またヒト剖検筋としては,臨床的に先天性筋ジ

ストロフィー(CMD)と診断された3例,

Werdnig・Hoffmann病1例, Down症候群1例, ミトコンドリア脳筋症1例,進行性ミオクローヌ スてんかん1例,neuronal ceroid lipofuscinosis 1例の計8例の肋間筋あるいは横隔膜を用いた (表).男3例,女5例,年齢は0歳5ヵ月から29 歳1ヵ月である.剖検時の季節は,12月から2月

の冬季は3例,6月から8月の夏季が3例,9月

から11月の秋季が2例であった.遺体はすべて剖 検時まで室温に置かれ,死亡より凍結サンプル作 製までに要した時間は,50分から12時間30分で あった.  2.方法  採取した骨格筋は,直ちに,液体窒素で冷却し たイソペンタンで急速に凍結し,凍結標本とした. 作製したサンプルは,包埋剤に包埋し,パラフィ ルムに包んでからビニール袋に入れて,検討時ま で一80℃に保存した.クリオスタットで7μmの厚 さに薄切りして,Hematoxyhn and eosin染色 (HE染色)と抗ジストロフィソ抗体,抗スペクト リソ抗体を用いた間接蛍光免疫組織染色に用い た.Werdnig−Ho鉦mann病の1例(case 6)と, CMDの3例中1例(case 8)については,いった ん凍結されたサンプルを5時間氷上に置いて完全 に融解し,再び液体窒素で冷却したイソペンタン で凍結させた,再凍結サンプルも作製した.免疫 組織染色の具体的な方法についてはすでに報告し た1D.  今回使用した抗ジストロフィン抗体は,以下の 6種である.ウサギポリクローナル抗体POO(認識 部位アミノ酸番号11∼60),PO4(440∼489), P23(2,360∼2,409), P34(3,495∼3,544)は,国 立精神神経センターの小沢鎮二郎博士から供与さ れた.また,それぞれPO4, P34と同部位を認識す るマウスモノクローナル抗体2−5E2,4−4C5は富士 レビオ株式会社から供与された.いずれも, Koenigら14)により報告されたジストロフィン

cDNAの塩基配列に基づいて合成されたアミノ

酸に対して作製された抗体である.我々は以前よ り,これらの抗体を用いて生検筋におけるジスト 表 ヒト剖検対象例一覧 症例 剖検までの時間 年 齢 性 剖 検 診 断 剖検月日 1 50分 0歳5ヵ月 ミトコンドリア脳筋症 12月29日 2 2時間 2歳9ヵ月 Down症候群 10月7B 3 3時間 19歳10ヵ月 男 neuronal ceroid lipofuscinosis 6月22日 4 3時間30分 14歳0ヵ月 男 非福山型先天性筋ジストロフィー 1月23日 5 5時間30分 17歳3ヵ月 女 福山型先天性筋ジストロフィー 2月8日 6 7時間30分 0歳11ヵ月Werdnig・Hoffmann病 8月8日 7 9時間 29歳0ヵ月 女 進行性ミオクローヌスてんかん 9月15日 8 12時間30分 14歳4ヵ月 男 福山型先天性筋ジストロフィー 8月8日

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45 ロフィン免疫組織染色を行ってきており,これら の抗体が,コントロール筋細胞膜を均一に連続的 に染色するが,DMD筋においては,筋細胞膜と反 応しないことを確認している3)4}7)心9)11)12).さらに, ジストロフィンと同じく細胞膜蛋白であるスペク トリソを膜障害のマーカーとして用いるために, 東京女子医科大学生化学教室高桑雄一教授より, スペクトリンのポリクローナル抗体を頂いて,同 時に検討した.          結  果  1.ラット大腿筋染色性の変化  図1にラット大腿筋の検討結果を示す.HE染 色では死亡24時間後も基本的細胞構築は保たれて いたが,2時間後,4時間後,6時間後,9時間 後,12時間後,24時間後のサンプルでは,サンプ ル作製時に生じたと思われるice holeが見られ た.  抗ジストロフィン抗体を用いた免疫組織染色で は,ラット骨格筋の抗体反応性はヒトに比べて弱 かったが,すべての抗体で死後12時間までは細胞 膜の連続的染色性が観察された.ice holeはジス トロフィン染色性に影響しなかった.死後18時間 で,C端側を認識するP23, P34および4−4C5抗体 に対する染色性の著明な低下が見られた.N端側 を認識するPOO, PO4および2−5E2抗体は,死後24 時間たっても細胞膜との反応が見られた.今回の 検討に用いた抗スペクトリン抗体はラット骨格筋 と反応しなかった.  2.剖検筋染色性の変化  図2に,剖検時に作製され,そのまま一80℃に 欄驚 撃 曇 群 き        図1 ラット大腿筋の死後変化 a∼f:HE染色, g∼1:ジストロフィン抗体POO, m∼r:ジストロフィソ抗体P23. 縦列は左から順に死後2.4,6,12,18,24時間での結果を示す.POOでは,24時間後まで染色性 が見られる(g∼1).P23での検討で,膜の連続的染色性は12時間までは保たれている(m∼p)が, 18時間以後(q,r)は失われている.

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 縞馬、

,叢織論   ・鱒霧 騨繍 図2 霧全山 嚢

難1

髪嬢羅

      剖検筋のHE染色 a:case 1, b:case 2, c:case 3, d:case 4, e:case 5, f:case 6, g:case 7, h:case 8. サンプル作製までに12時間30分を要したcase 8(h)においても基本的な細胞構築は保たれていた が,サンプル作製時に生じたと思われるice holeが細胞質内に多数見られ, eosin染色性が不均一と なっている.

保存されていた凍結サンプルのHE染色の結果

を示した.死亡からサンプル作製までにがかった 時間は50分から12時間30分であり,作製後の一

80℃での保存期間は1年2ヵ月から3年8ヵ月に

及んだ.今回の検討では,実験を行ったすべての サンプルで,筋細胞の形態は保たれており,核の 染色性も生検筋の核の染色性とほぼ同様であっ た.たまたま筋線維の縦断面を観察しえたcase 7(死亡後9時間)では横紋構造も観察された.case

8ではサンプル作製時に生じたと思われるice

holeのために,細胞質のeosin染色性は不均一に なっていた.  剖検時に作製され,そのまま一80℃に保存され ていた凍結サンプルにおける,連続切片の抗スペ クトリソ抗体と抗ジストロフィソ抗体を用いた間 接蛍光免疫組織染色の結果を図3∼5に示した.  筋ジストロフィーではなく,サンプル作製まで の時間の短かったcase 1,2,3,6の細胞膜は,抗 スペクトリン抗体により連続的に染色された. FCMDと診断された症例のうち, case 5では,細 胞膜に明らかな連続的な反応が認められたが, case 8では,細胞膜の連続性が低下した線維がめ だった(図3A). case 1,2,3,6では,いずれの 抗ジストロフィン抗体を用いた検討でも,筋細胞 膜を均一に連続的に染色し,ジストロフィン異常 のない疾患の生検筋における染色性と殆ど区別は つかなかった.case 5と8(ともにFCMD例)で は,抗体によるジストロフィン染色性の違いは観

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(A) (B)  図3 剖検筋のスペクトリソ染色(A)とジストロフィン染色(B) a:case 1, b:case 2, c:case 3, d:case 5, e:case 6, f:case 8。 ジストロフィン抗体はポリクローナル抗体PO4を用いた. case 8の細胞膜の反応は,ス ペクトリンで軽度に低下しているが(A・f),ジストロフィンではさらに連続性が低下 している(B・f).

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察されなかったが,筋線維ごとにジストロフィン の反応性に差があり,かなり強い反応を示すもの から,ほとんど反応しないものまで様々であった. case 5よりもcase 8で,ジストロフィン反応の低 下した筋線維が多く存在した.また,一本の線維 で染色性の強い部分と弱い部分とがある,いわゆ る非連続的な染色性を示している線維も混在して いた(図3B).  このような所見はFCMDの生検筋のジストロ フィン染色で一般に報告され15),我々も観察して いるものであり9)12)13),剖検筋に特異的なものでは ないと考えた.  case 7は,サンプル作製までに9時間を要した 進行性ミオクローヌスてんかん例である.細胞膜 の連続的なスペクトリンの反応が失われてきてお り,細胞質に軽度の反応が見られる筋線維も観察 された.抗ジストロフィン抗体による反応では, N端側を認識する抗体POO, PO4および2−5E2を用 いた場合は,細胞膜は,連続的な染色性を示した. しかし,C端側を認識する抗体P23, P34および 4−4C5を用いたとぎは,染色性の低下した細胞が 混在していた(図4).  3.剖検筋再凍結サンプルの染色性  case6と8における再凍結サンプルを用いたHE 染色,スペクトリン染色,ジストロフィソ染色の 結果は,図5に示した.どちらの例でも,HE染色 では筋細胞形態に変化は見られなかった、しかし, スペクトリン染色では,case 6,8のどちらも,融 解させなかったサンプル(図3A)よりも細胞膜の 染色性が低下しており,膜の連続性の消失や軽度 の細胞質の反応が観察された.ジストロフィン染

色では,ジストロフィン分子のN端側の抗体

POO, PO4および2−5E2は筋細胞膜のほとんどと反 応したが,C端側の抗体P23, P34および4−4C5の 反応性は明らかに低下していた.この染色パター ンは,case 7で観察された結果(図4)と,極め てよく似ていた.  case 4の抗スペクトリソ抗体を用いた検討で     図4 case 7のスペクトリンおよびジストロフィン染色結果 a:スペクトリン,b:POO, c:PO4, d:P23, e:P34. スペクトリン(a),P23(d), P34(e)で,細胞膜の染色性低下が見られた.

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49 (A

麟髄欝

 麟 ’・D舖餓’

 ド 嚢・ 悲 (B 図5 再凍結したcase 6(A)とcase 8(B)のHE,スペクトリン,ジストロフィン  染色結果  a:HE, b:スペクトリン, c:POO, d:PO4, e:P23, f:P34。  HE染色(a)で基本的な細胞構築は保たれているが,細胞膜のスペクトリン反応の  低下,細胞質の相対的な反応の上昇が見られる(b).ジストロフィン反応はN端側  抗体の反応は保たれているが(c,d),C端側抗体の反応は著明に低下している(e, f).

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    図6 case 4のスペクトリンおよびジストロフィン染色結果 a:スペクトリン,b:POO, c:PO4, d:P23, e:P34. スペクトリン(a),C端側抗体の反応(d, e)は,剖検までの時間の長かったcase 8で の結果(図3A, B−f)よりも低下している. は,FCMD症例であるcase 5と8に比べても,明 らかに反応性が低下しており,量的にも減少して いると考えられた.さらにジストロフィン反応は, 剖検までの時間が筋ジストロフィー例の中で最も 短く,サンプル作製後は一80℃に保存させていた にもかかわらず,ジストロフィン分子のN端側を 認識する抗体POO, PO4および2−5E2に比べて, C 端側を認識する抗体P23, P34および4−4C5による 染色性が明らかに低下していた13)(図6).          考  察  個体の死と同時に,全身の血流は途絶し,各臓 器の組織細胞は,その酸素欠乏に対する感受性に 応じて,相次いで死滅し,崩壊して行く.顕微鏡 的に細胞の死が確認されるまで要する時間は,細 胞の種類や代謝活性などの内部的要因とその細胞 がおかれた温度などの外部的要因とによって様々 である.  生きている細胞は,濃度勾配に抗して,外界よ ◎必要な物質を取り入れ,不要な物質を排出して いる.この細胞膜の選択的透過性は核膜など細胞 質内小器官の膜にも存在するが,エネルギー依存 性の現象であるので,細胞の死と同時に消失する. その結果,細胞内の1ysosome膜の透過性が充進 して,酵素が細胞質内に放出,活性化され,細胞 微細構造の破壊が起こる.この変化は,電子顕微 鏡や特殊染色によって確認される,核膜の透過性 の変化はクロマチンの凝集や崩壊を起こす.また, 細胞外からの周辺組織液の流入による細胞内pH の変化やCaイオンの流入のため,細胞構成蛋白 の凝固が起こってくる16).このような細胞の自己 融解の速度は,組織によって非常に異なり,胃, 胆嚢,小腸の粘膜では特に早く,脳,腎尿細管上 皮細胞もかなり早いと記載されている17).骨格筋 の変化は,これらの組織ほど早くない.  光学顕微鏡的には,細胞の死は,まず核の濃縮, 融解,崩壊といった変化として認識される.時間

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51 の経過と共に,死んだ細胞の核は全て消失してい くが,その間に細胞質も好酸性の穎粒状の不透明 な塊に変じてしまう18).剖検材料では,一般の酵素 組織学的反応は,死後24時間くらいまで可能とい われている19>.  ラットにおける死亡後の時間経過と組織像の検 討(図1)では,今回の実験の最長時間である24 時間でも,HE染色上,細胞構築にはっきりした異 常はみられなかった.ヒトとラットの種のちがい はあるが,ヒトでも死亡後24時間はHE染色上の 変化は認められないと思われた.しかし,細胞膜 のジストロフィン染色性は,死亡後12時間までは 保たれていたが,死亡後18時間のサンプルでは, 細胞構築が保たれていたにもかかわらず,著しく 低下していた.この低下は,ジストロフィン抗体 によって差を認め,N汐井抗体に比べてC端側抗 体で,より低下していた.すなわち,ラット細胞 膜のジストロフィン染色性は,死後12時間程度ま では保たれるが,その後,HE染色で細胞構築の変 化が観察されるより前に,C端側抗体との反応か ら失われていくと考えられた.Matsumuraらは, ウサギの骨格筋を室温に放置したところ,2時間 でイムノブロット上,ジストロフィン反応を認め なくなったと報告している20).ウサギとラットと いう種の違いと,イムノブロットと免疫組織染色 というジストロフィン検出方法の違いが,この結 果の差にかかおっているものと考えた.

 剖検例のHE染色(図2)において,死後3時

間のcase 3は,50分置case 1,2時間のcase 2と 比較すると細胞膜が平滑でなく,細かく波打って いるように見える.しかし,生検サンプルにも時 に同様の搬が観察されることがあり,3時間30分 および5時間30分を経過したcase 4,5には見ら れなかったことから,死後変化というより,採取 されたサンプルの処理の段階で生じた変化と考え た.いずれにしろ,この搬による身ストロフィソ の染色性に対する影響はなかった.また,case 7 のHE染色では,横紋が観察されて,死後9時間 の段階では横紋構造を破壊させるような変化は生 じていないことがわかった.  ジストロフィンはN野村から,アクチン結合ド メイン,三重ヘリヅクスの繰り返しによるロッド ドメイン,システインリッチドメイン,C端ドメイ ンよりなる,細長いタンパク質である14)21).最近の 研究により,ジストロフィンはそのシステイン リッチドメインにおいて数種の結合蛋白を介して

筋細胞膜に結合していることが明らかになっ

た22)∼24).DMD, BMDの臨床症状の重症度に,こ のシステインリッチドメインの有無が関係してい ることが知られている25)26).さらに,常染色体性遺 伝形式をとる筋ジストロフィーの一部(severe childhood autosomal recessive muscular dystro− phy)に,ジストロフィン結合蛋白の欠如が報告さ れ27),ジストロフィン以外の蛋白の異常による筋 ジストロフィーの存在が明らかになった.  今回の検討では,細胞膜と抗ジストロフィン抗 体との反応の低下は,ラットの18時間以後のサン プル(図1),死亡後9時間を経過して凍結サンプ ルが作製されたcase 7(図4),凍結させた剖検筋 を融解し,再凍結させたcase 6と8のサンプル (図5)で観察された.case 7ではHE染色で横紋 が観察されていて,ジストロフィシ反応の低下は, かなり早い時期に生じることを示している.これ らの例では,いずれも,結合部位であるシステイ ンリッチドメインに近いP23, P34,4−4C5抗体に 対する反応性が,遠いPOO, PO4,2−5E2に対する 反応性よりも低下していた.さらにヒトでは,ス ペクトリンの染色性にも異常が見られ,細胞膜の 連続的なスペクトリン反応が損なわれている線維 や,細胞質に軽度の反応が認められる線維が存在 していた.これは,これらの例に見られるジスト ロフィンの染色性の変化が,膜の障害に起因する 二次的なものであることを示唆している.  case 8は,剖検までの時間がcase 7より長かっ た(12時問30分)が,スペクトリンの染色性はcase 7より良好で,ジストロフィンの染色性も保たれて いた.すなわち,組織の死後変化が,case 7より も軽度であると考えられた.その理由は不明であ るが,case 7と8の死亡に至るまでの経過が,何 らかの影響を与えている可能性が考えられる.い ずれにしろ,サンプル作製までに時間のかかった 検体の場合は,診断に際して十分注意する必要が

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ある.診断確率を上昇させる面から,多くの種類 の抗体を用い,なるべく短時間の内にサンプルを 作製することが重要であるし,作製されたサンプ ルの保存にも,よりいっそうの注意が必要と思わ れた.  case 4は,臨床的にはむしろDMDの経過を示 した例であった.剖検組織の筋細胞膜めスペクト リン染色性は,他の再凍結されたサンプルと比較 しても非常に低下しており,筋線維ごとの染色性 の差も大きかった.ジストロフィン抗体によって 細胞膜は一応染色されたが,筋線維ごとに染色性 の差が大きく,かなり強く染まっているものから 僅かに反応しているものまで様々で,非連続的に 染色されている線維もあった.この非連続的な染 色性はcase 4以外にも,FCMDと診断されている case 5,8にも見られたが,死後の経過時間の長い case 5や8よりも,死亡後3時間30分のcase 4で, より著しかった.さらに,case 4では,サンプル の保存に問題がなかったにもかかわらず,C端側 の抗体に対する反応が低下していた.これらの結 果から,case 4の染色性の低下は,死亡後経過時 間や保存状態によるものではなく,基礎疾患に起 因するものと考えられた13).          結  論  死後50分から12時間30分の剖検例についてジス トロフィンとスペクトリンの免疫組織染色を行っ た。また,ラットを屠殺し,その直後から24時間 後まで経時的に大腿筋を採取して,ジストロフィ ン染色性の変化を観察した.  抗ジストロフィン,抗スペクトリン抗体に対す る細胞膜の反応性の低下は,HE染色で細胞構築 に変化が観察されないサンプルでも認められ,ジ ストロフィンの染色性は,C端側抗体から低下し ていた.今回の結果からは,死亡後12時間程度ま ではジストロフィン反応は認められると思われた が,死亡までの経過や作製されたサンプルの保存 状態も,染色性に大きな影響を与えると考えられ た。  死後経過時間が短く,サンプルの保存にも問題 はないと思われたが,ジストロフィソ,スペクト リンの反応が著明に低下している例が認められ, この症例における細胞膜の不安定性が示唆され た.  抗体を快く供与して下さいました国立精神神経セ ンター小沢岱二郎博士,東京女子医科大学生化学教室 高桑雄一教授,ならびに富士レビオ株式会社に深謝致 します.  なお本研究の一部は,平成4年度文部省科学研究費 補助金一般研究A(課題番号02404046),平成4年度文

部省科学研究費補助金奨励研究A(課題番号

04770651),平成4,5年度厚生省精神神経疾患研究委 託費(2指一2),平成4年度厚生省精神神経疾患餅究 委託費(2指一3)によった.          文  献  1)Koe皿ig M, Hojfma韮EP, Berte董son CJ et al:   Complete cloning of the Duchenne muscular   dystrophy (DMD)cDNA and preliminary   genomic organization of the DMD gene in   normal and affected individuals. Ce1150:   509−517, 1987  2)Arahata K, Hojfman EP, K眺nkel LM et a1:   Dystrophin diagnosis:comparison of dystro−   phin abnormalities by immunoHuorescent and   immunoblot analysis. Proc Natl Acad Sci USA   86:7154−7158, 1989  3)斎藤加代子,池谷紀代子,山内あけみほか:ジス    トロフィンと筋ジストロフィー。小児内科 23:   179王一1798, 1991  4)大澤真木子,斎藤加代子,池谷紀代子ほか:Du−   chenne型筋ジストロフィー症の遺伝相州。脳と神   経  43:429−252, 1991  5)斎藤加代子,山内あけみ,池谷紀代子ほか:Du・   chenne型筋ジストロフィー(DMD)一遺伝子異常   と臨床一.小児内科 23:119H198,1991  6)Saito K, Ikeya K, Yamaucb三Aet a1:Molec.   ular genetic analysis of Duchenne/Becker mus−   cular dystrophy families,伽Fetal and Per.   inatal Neurology(Fukuyama Y, Suzuki Y,   Kamoshita S et al eds)pp46−59, Karger, Basel   (1992)  7)Ikeya K, Saito K, Hayashi K et al:Molecu・   lar genetic and immunological analysis of   dystrophin of a young patient with X−linked   muscular dystrophy. Am J Med Genet 43:   580−587, 1992  8)斎藤加代子,池谷紀代子,山内あけみほか:Beck・   er型筋ジストロフィー3例の分子遺伝学的,免疫   学的検討.厚生省精神神経疾患研究委託費「筋ジ   ストロフィーおよび関連疾患の成因と治療法開発

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53   に関する研究」平成3年度研究報告書:67−72,   1992 9)福山幸夫,池谷紀代子,斎藤加代子ほか:先天性   筋ジストロフィーの筋組織におけるジストロフィ   ンの研究.厚生省精神神経疾患硬究委託費「筋ジ   ストロフィー.の臨床病態と遺伝相談および疫学に   関する研究」平成3年度研究報告書:281−285,   1992 10)斎藤加代子,山内あけみ,池谷紀代子ほか:PCR   の臨床面.厚生省精神神経疾患研究委託費「筋ジ   ストロフィーの臨床病態と遺伝相談及び疫学に関   する研究」平成3年度研究報告書:357−361,1992 11)池谷紀代子,斎藤加代子,山内あけみほか:Beck・   er型筋ジストロフィー3例の分子遺伝学的,免疫   細胞化学的検討.東女医大誌 62:1145−1154,   1992 12.)池谷紀代子,斎藤加代子,山内あけみほか:小児   神経筋疾患における.ジストロフィソテストの臨床   的有用性.脳と発達 25:328一.334,1993 13)近藤恵里,斎藤加代子,池谷紀代子ほか:Duchen−   ne型筋ジストロフィ.一の臨床経.過をとった兄の   剖検骨格筋と,先天性筋ジストロフィー.である妹   の生検骨格筋ジストロフィンの検討.東女医大誌   63(臨増) :60−69, 1993 14)Koenig M, Monaco AP, Kunkel LM:The   complete sequence of dystrophin. predicts a   rod・shaped cytoskeletal p.rotein. Cell 53:   .219−228, 1988 15)Arikawa E, Ishiura T, No勲aka I et al:Im−   munocytochemical analysis of dystrophin in   congenital muscular dysちrophy. J Neurol Sci   105:79−87, 1991 16)小.野江盲目:物質代謝障害(退行性病変).「新病   理学総論」(武田勝男編)pp101−105,南山堂,東   京(1981) 17)竹岡 成:細胞の障害.「小病理学書」p34,金芳   堂,東京(1975) 18)森  亘,桶田理喜監訳:ロビンス基礎病理学    [1]第3版.p28,廣.川書店,東京(1985) 19)檜澤一夫,埜中征哉:骨格筋の病理組織学および   組織化学.「筋病理学」(檜澤一夫,埜中征哉,小   沢鎮二郎編)p86,文光堂,東京(1989) 20)Matsumura K, Sbimizu T, Mannen T:In   vitro degradation of the Duchenne muscular   dystrophy gene product(dystrophin). Biomed   Res 10:325−328,1989 21)Monaco AP:Dystrophin, the protein product.   of the Duchenne/Becker muscular dystrophy   gene. Trends Biochem Sci 14:412−415,1989 22)Campbell KP, KaM SD:Association of   dystrophin and an integral membrane glyco−   protein. Nature 338:259−262,1989 23)Ervasti JM, Campbell KP:Membrane orga−   nization of the dystrophin−glycoprotein com−   plex. Cell 66:1121−1131, 1991 .24)Yoshida M, Ozawa E:Glycoprotein complex   anchoring dystrophin to sarcolemma. J Bio−   chem 108:748−752,1990. 25)Beggs AH, Ho∬man】i】P, Snyder JR et a1;   Expioring the molecular basis for variability   among patients with Becker muscular dystro・   phy:dystrophin gene and protein studies. Am J   Hum Genet 49:54−67,1991 26)Arahata K, Beggs AH, Honda H et a1:   Preservation of the C−terminus of dystrophin   molecule in the skeletal muscle from Becker   muscular dystrophy. J Neurol Sci 101:    148−156, 1991 27)Matsu!uura K, Tome FMS, Co垂lin H et al:   Defidency of the 50kDa dystrophin−associated   glycoprotein ip severe childhood autosomal   recessive muscular dystrophy. Nature 359:   320−322, 1992

参照

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