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細胞のがん化につながる染色体不安定性の分子メカニズムの解明

1.会見日時: 2015 年 9 月 10 日(木)14:00 ~ 15:00 2.会見場所: 東京大学分子細胞生物学研究所 生命科学総合研究棟 B 3 階 301 号室会議室(弥生キャンパス内:文京区弥生 1-1-1) 3.出席者: 渡邊嘉典(東京大学分子細胞生物学研究所 教授) 丹野悠司(東京大学分子細胞生物学研究所 助教) 4.発表のポイント ◆染色体不安定性を示すがん細胞株の多くで、染色体のセントロメア(注1)の特異的な制 御機構に欠損があることを見出しました。 ◆染色体分配の異常は、ゲノムの不安定性を誘発し、がん化およびその悪性化を促進すると 考えられていましたが、その分子機構が本研究によりはじめて明らかになりました。 ◆制がん剤の開発に新たな方向性を与える成果といえます。 5.発表概要: ヒトの正常細胞では 46 本の染色体が安定に維持されているのに対して、がん化した細胞では 染色体の異数性(注2)が頻繁に見られることが知られています。細胞分裂のときの染色体分 配の異常は、染色体数およびゲノムの不安定性を誘発し、細胞のがん化およびその悪性化を促 進すると考えられています。この染色体の分配異常を引き起こす分子機構については、種々の 可能性が指摘されていましたが、その主要な分子機構は分かっていませんでした。東京大学分 子細胞生物学研究所の丹野悠司助教と渡邊嘉典教授らの研究グループは、染色体分配異常を示 すがん組織由来の細胞株の多くで、染色体のセントロメアの特異的な制御機構インナーセント ロメア・シュゴシン(ICS)ネットワーク(注3)が不安定になっていることを見出しました。本 研究は、細胞のがん化の鍵となるゲノムの不安定性を引き起こす普遍的な分子機構を明らかに した可能性が高く、制がん剤の開発に新たな方向性を与える成果といえます。 6.発表内容: ヒトの正常細胞では 46 本の染色体が安定に維持されているのに対して、がん化した細胞では 染色体の異数性が頻繁に見られることが知られています。染色体分配の異常は、染色体の異数 性およびゲノムの不安定性を誘発し、多くの遺伝子の発現の変動およびタンパク質の機能異変 をきたし、細胞のがん化およびその悪性化を促進すると考えられています。染色体の分配の間 違いを引き起こす分子機構については、種々の可能性が指摘されていましたが、その主要な分 子機構は分かっていませんでした。また、がんができる組織の種類あるいは個々のがん細胞に よってその原因がそれぞれ異なっているとも考えられていました。

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近年、染色体の分配を制御する機構として、細胞分裂のときに染色体のセントロメアに形成 されインナーセントロメア・シュゴシン(ICS)ネットワークが見いだされました(図1)。ICS ネットワークは、細胞分裂の時期に染色体のセントロメアに形成され、複製した染色体のセン トロメアの接着を守り、かつ染色体の動原体と微小管の間違った結合を修正する働きがありま す(図 1)。すなわち、染色体が正確に 2 つの娘細胞に分配されるために、必須の働きを持っ ています。東京大学分子細胞生物学研究所の丹野悠司助教と渡邊嘉典教授らの研究グループは、 種々のがん組織由来の染色体の分配異常を示す細胞株で、ICS ネットワークの局在を詳細に調 べました。その結果、多くのがん細胞株(14 株中 12 株)で、ICS ネットワークが不安定化(局 在の低下)していることを見出しました。ICS ネットワークの安定化には、ヒストン H3 のメチ ル化(注4)と染色体接着因子コヒーシン(注5)が関わっていることが先行研究から示唆さ れていました(図1)。今回の解析から、ほとんどのがん細胞株ではこのいずれか、あるいは 両方の経路に欠損があることが分かりました。重要なことに、多くのがん細胞株(9 株中 7 株) でこれらの経路の欠損を人工的に補強することにより、ICS ネットワークの安定性が回復し、 染色体分配の間違いが抑圧されることが分かりました。これらの結果は、がん細胞の染色体分 配異常の主な原因が、ICS ネットワークの不安定化にあることを示唆します。ICS ネットワーク の不安定化は、肺、大腸、皮膚、骨組織に由来するがん細胞株いずれにおいても見られたこと から、ヒトの細胞のがん化の普遍的な分子機構の一つであることを示唆します。また、よく知 られているがん抑制遺伝子 BRCA1 あるいは RB を正常細胞から欠損させると、即座に ICS ネット ワークの不安定化が引き起こされることも分かりました。このことも、ICS ネットワークの不 安定化それにともなう染色体分配の間違いが、細胞のがん化を誘導する汎用性の高い分子機構 である可能性を示唆します。 ICS ネットワークは、細胞の増殖にとって必須の、染色体の均等分裂を保証する制御機構で す。ICS ネットワークの不安定化により染色体の分配に間違いが起きるようになったがん細胞 は、ある意味、生死をさまよう状態で分裂を続けることになります。ICS ネットワークを完全 に不活性化すると、細胞は分裂できなくなり死滅します。すなわち、がん細胞では、染色体の 不安定性(それにともなう悪性形質転換能)を手に入れる代わりに、細胞分裂にともなう生存 率は一般に低下していると考えられます。したがって、増殖しているがん細胞を特異的に死滅 させるためには、ICS ネットワークをさらに脆弱化する手段が有効であると考えられます。本 研究は、がん細胞で染色体分配の間違いを誘導する分子機構として ICS ネットワークの脆弱性 を見いだし、制がん剤の開発の新たな標的候補になる可能性を示唆します。 7.発表雑誌: 雑誌名:Science

論文タイトル:The inner centromere-shugoshin network prevents chromosomal instability.

著者:Yuji Tanno, Hiroaki Susumu, Miyuki Kawamura, Haruhiko Sugimura and Yoshinori Watanabe* DOI: 10.1126/science.aaa2655

8.注意事項:日本時間9 月 11 日(金)午前 3 時 (米国東部時間:10 日(木)午後 2 時) 以前の公表は禁じられています。

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9.問い合わせ先: 渡邊 嘉典(わたなべ よしのり) 東京大学分子細胞生物学研究所 教授 〒113-0032 東京都文京区弥生 1-1-1 TEL: 03-5841-1466 FAX: 03-5841-1468 E-mail: [email protected] HP: http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/watanabe-lab/ (海外出張中のため、なるべくメールでお問い合わせください。) 丹野 悠司(たんの ゆうじ) 東京大学分子細胞生物学研究所 助教 TEL: 03-5841-1469 E-mail: [email protected] 10.用語解説: (注1)セントロメア:染色体の中心部分にある領域で、この部分に糸状の紡錘糸が結合して 染色体の分離が行われる。 (注2)染色体の異数性:一部の染色体の数が変異していること。 (注3)インナーセントロメア・シュゴシン(ICS)ネットワーク:染色体のセントロメアの接着 を守るシュゴシン・タンパク質と、動原体と微小管の間違った結合を修正するオーロラキナー ゼを中核とした複合体。2010 年に、渡邊教授らによって報告された (Science 327, 172-177, 2010; Nature 467, 719-723, 2010; Science 330, 239-243, 2010)(図1)。 (注4)ヒストン H3 のメチル化:セントロメア近傍に起きるヒストン H3 の修飾で、ヘテロク ロマチンタンパク質 HP1 を呼び込む働きがある。この HP1 がシュゴシンと結合して安定化する。 (注5)染色体接着因子コヒーシン:複製されて作られた姉妹染色分体のペアを連結する‘糊’ のタンパク質。分裂期に、分解されることにより染色体は分配される。

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12.会場地図:

東京大学分子細胞生物学研究所 生命科学総合研究棟B 3 階 301 号室会議室(弥生キャンパス内:東京都文京区弥生 1-1-1) (http://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam01_07_15_j.html) 東京メトロ南北線「東大前」駅下車徒歩5 分

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