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簡便で効率的なヒト iPS 細胞由来成熟肝細胞誘導法の開発

1.発表者: 木戸 丈友(東京大学分子細胞生物学研究所 発生・再生研究分野 助教) 宮島 篤 (東京大学分子細胞生物学研究所 発生・再生研究分野 教授) 2.発表のポイント: ◆ヒト iPS 細胞から、簡便で効率的な肝細胞および胆管上皮細胞の分化誘導(注1)系の開 発を行いました。 ◆新たに肝前駆細胞(注2)マーカーとして Carboxypeptidase M(CPM、注3)を同定し、こ の発現を指標として自動磁気分離装置による簡便なヒト iPS 細胞由来肝前駆細胞の分離・培 養法を樹立しました。 ◆創薬研究や再生医療研究のみならず、肝炎ウイルスやマラリアの感染機構の研究ツールと しても貢献が期待されます。 3.発表概要: 創薬研究や再生医療への応用を目的に、ヒト iPS 細胞から肝細胞を作製する取り組みが始ま っていますが、未だ簡便で効率的な肝細胞作製法は開発されていません。 東京大学分子細胞生物学研究所の木戸丈友助教と宮島篤教授らの研究グループは、新たに肝前 駆細胞の細胞表面マーカーとして Carboxypeptidase M(CPM)を同定し、ヒト iPS 細胞から肝細 胞への分化誘導系から CPM の発現を指標にして自動磁気分離装置によって、簡便に効率よくヒ ト iPS 細胞由来の肝前駆細胞を分取することに成功しました。この肝前駆細胞は、肝細胞と胆 管上皮細胞への分化能を維持したまま増幅することが可能です。この細胞から分化誘導した肝 細胞は、成熟肝細胞の性質を長期に渡って維持することから、薬物の毒性試験、新規薬物の探 索、細胞治療などへの利用が期待されます。 4.発表内容: 研究の背景 肝臓は、代謝、解毒、恒常性の維持などの多種多様な機能を有する高度に発達した臓器で あり、これらの多彩な肝機能を担う肝実質細胞(肝細胞)と肝非実質細胞(肝類洞内皮細胞、 肝星細胞、肝中皮細胞、胆管上皮細胞など)から構成されています。特に、肝細胞は種々の代 謝酵素を発現し、肝機能の中心を担うことから、近年、創薬研究や再生医療研究への応用を目 的として、ヒト iPS 細胞から肝細胞を誘導する試みが活発に行われています。しかし、既報の iPS 細胞からの肝細胞分化の問題として、様々なサイトカインによる多段階かつ長期間の分化 誘導を必要とすること、また、全ての iPS 細胞を均一な成熟肝細胞に分化させることは困難で あるといった問題がありました。肝細胞と胆管上皮細胞は共通の前駆細胞から分化しますが、 胎児肝臓から分離した胆前駆細胞は体外で増幅することが可能で、しかも肝細胞と胆管上皮細 胞へと分化誘導することが可能です。そこで、iPS 細胞から増殖能と肝細胞と胆管上皮細胞へ の二分化能を有する肝前駆細胞を作製することができれば、効率的な肝細胞の調製が可能にな ると期待されます。

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研究内容 ヒト iPS 細胞から簡便で効率的な成熟肝細胞誘導系を樹立するため、単一マーカー分子の発 現を指標としたヒト iPS 細胞由来肝前駆細胞の分離法の確立と、それらの成熟肝細胞への誘導 系の開発を試みました。新たに肝前駆細胞の細胞膜タンパク質マーカーとして Carboxypeptidase M (CPM)を同定しました。マウス肝臓の発生過程での解析結果から、CPM は、 マウス胎児期の肝前駆細胞に強く発現し、肝細胞や胆管上皮細胞へ分化成熟する過程で、その 発現は消失することから肝前駆細胞のよいマーカーとなることが分かりました。さらに、CPM の発現は、ヒト iPS 細胞の肝臓細胞への分化誘導系において、肝前駆細胞ステージで増強する ことから、CPM 陽性細胞を分取してみたところ、アルファフェトプロテインや HNF4αといった 各種の肝前駆細胞マーカーを発現していました。さらに、この細胞は長期に継代培養すること ができ、増幅した細胞は肝細胞へと分化成熟し、従来法で iPS 細胞から誘導した肝細胞と比較 して、高いアルブミン、尿素産生能や種々の薬物代謝酵素の発現および活性を示しており、2 週間以上の長期に渡り成熟肝細胞の性質を維持しました。また、CPM+肝前駆細胞から胆管上皮 細胞へと分化誘導することも可能であり、三次元培養系において極性形成を伴うシストを形成 し、各種の胆管上皮細胞マーカーを発現しました。このように、iPS 細胞から得た CPM 陽性の 肝前駆細胞は高い増殖能と肝細胞および胆管上皮細胞への分化能を保持していることが分かり ました。さらに、このように増幅した CPM 陽性細胞は凍結保存も可能であることから、簡便に 成熟肝細胞を供給することが可能となりました(図)。 社会的意義・今後の予定 既に、ヒト iPS 細胞から肝細胞を誘導する試みは数多く報告されていますが、誘導された肝 細胞は成体肝細胞と比較し、機能が著しく低く、成熟肝細胞とは言い難いものです。さらに、 多くの方法は、多段階の分化誘導と長期間の培養、サイトカインなど高価な試薬を多量に必要 とするため、肝細胞の調製にかかる時間とコストの問題もあります。本研究の成果である、簡 便で効率的なヒト iPS 細胞由来成熟肝細胞調製法の開発は、迅速かつ低コストで肝細胞の大量 調製を可能にするものであり、創薬研究や再生医療研究への利用が期待されます。また、こう して作製した肝細胞には、B 型および C 型肝炎ウイルスやマラリアが感染する可能性もありま すので、感染機構研究のツールとしての可能性も期待されます。 本研究は、独立行政法人科学技術振興機構の「人工多能性幹細胞(iPS 細胞)作製・制御等 の基盤技術」研究領域の研究助成および日本学術振興会の科学研究費助成の支援のもと行われ ました。 5.発表雑誌:

雑誌名:Stem Cell Reports「オンライン版:9月10日、 掲載:10月13日(米国東部時 間)」

論文タイトル:CPM is a useful cell surface marker to isolate expandable bi-potential liver progenitor cells derived from human iPS cells

著者:Taketomo Kido*, Yuta Koui, Kaori Suzuki, Ayaka Kobayashi, Yasushi Miura, Edward Y. Chern, Minoru Tanaka, and Atsushi Miyajima*

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6.注意事項: 日本時間9月11日(金)午前1時(米国東部時間9月10日(木)正午)以前の公開は禁 じられています。 7.問い合わせ先: 東京大学分子細胞生物学研究所 教授 宮島 篤(みやじま あつし) 〒113-0032 東京都文京区弥生 1-1-1 TEL: 03-5841-7884 FAX: 03-5841-8475 E-mail: [email protected] 8.用語解説: (注1)分化誘導 細胞を形態的、機能的に変化させること。 (注2)肝前駆細胞 増殖能と肝細胞および胆管上皮細胞への分化能を有する未分化な肝臓細胞。 (注3)Carboxypeptidase M(CPM) Carboxypeptidase ファミリーのひとつ。細胞膜表面に発現し、ペプチドやタンパク質の C 末 端から arginine, lysine 残基を切断する。 9.添付資料: 図:CPM は肝前駆細胞に発現する。(上図)肝発生過程における CPM の発現。(下図)CPM の発 現を指標としたヒト iPS 細胞由来の肝細胞と胆管上皮細胞の誘導。

参照

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