減数分裂期テロメアの分子構造を解明
~テロメア DNA と核膜の融合を指揮する分子反応を特定~
澁谷 大輝、渡邊 嘉典(染色体動態研究分野)
Cell(11 月 19 日、オンライン版 11 月 5 日)|DOI 番号:10.1016/j.cell.2015.10.030
発表のポイント: ◆マウス生殖細胞で染色体(注1)のテロメア(注2)に結合するタンパク質 MAJIN(魔 人)と TERB2 を発見しました。 ◆テロメア DNA と核膜(注3)が融合する反応を分子レベルで解明しました。 ◆今回発見したタンパク質の遺伝子は、ヒトの不妊の原因遺伝子となっている可能性があり、 生殖医療の発展に寄与することが期待されます。 発表概要: 遺伝情報が子孫へと伝わる背景には、両親のそれぞれの生殖細胞(精子や卵子)で染色体が 正確に半分に分配された後、受精により、分配された染色体が再び組み合わさる仕組みがあり ます。この染色体の数を減らす特殊な染色体分配の過程(減数分裂)では、染色体の末端「テ ロメア」が中心的な役割をすると考えられていますが、その分子メカニズムの理解は進んでい ませんでした。東京大学分子細胞生物学研究所の渡邊嘉典教授と澁谷大輝助教(研究当時)ら の研究グループは、マウスの生殖細胞において、テロメアの構造を減数分裂に特化した構造へ と変化させる特殊なタンパク質 MAJIN と TERB2 を発見しました(図1)。通常、テロメア を構成する DNA はシェルタリン(注4)と呼ばれるタンパク質に覆われていますが、
MAJIN-TERB2 は、このシェルタリンを DNA から外すことで直接テロメア DNA に結合し、 テロメア DNA を核膜に融合させる活性を持つことが明らかになりました(図2、3)。さら に、MAJIN および TERB2 遺伝子のノックアウトマウスの解析から、MAJIN-TERB2 が形作 るテロメア構造が生殖細胞の形成に必要不可欠な構造であることを証明しました。本研究によ り 50 年来の謎であった減数分裂に特化したテロメアの分子構造が明らかになりました。将来 的にはこれらの知見が減数分裂の異常に起因する先天性遺伝子疾患の原因解明や治療に貢献す ることが期待できます。
発表内容: <研究の背景> 生殖細胞で染色体の数を半分に分配する過程は減数分裂と呼ばれています。減数分裂の異常 はダウン症(注5)や不妊症など、染色体の異常によって引き起こされる多くの先天性遺伝子 疾患の原因になることが知られています。また、今から 50 年以上前の電子顕微鏡観察により、 減数分裂期には、テロメアが核膜の脂質二重膜(注6)と融合した特殊な構造をとることが報 告されていました(図2)。これらの観察は、減数分裂期のテロメアが分子レベル・構造レベ ルで通常の体細胞(注7)のものとは大きく異なる可能性を示唆していました。しかし、DNA と脂質という分子組成の異なる細胞のパーツが融合するメカニズムや、その構造体の機能は、 長らく未解決な問題として残されていました。 <研究内容> 東京大学分子細胞生物学研究所の渡邊嘉典教授と澁谷大輝助教らの研究グループは、マウス の生殖細胞で、テロメア DNA と脂質二重膜の両者に結合する特殊な性質を持つタンパク質 MAJIN と、その補助因子である TERB2 を発見しました(図1)。通常の体細胞の染色体の 末端部分は、テロメア DNA とそこに結合するシェルタリンと呼ばれるタンパク質複合体で構 成されています。この構造は高等生物の細胞において普遍的なものと考えられてきました。し かし、今回見つかった MAJIN-TERB2 タンパク質複合体は、シェルタリンを DNA から外す ことで直接テロメア DNA に結合し、そしてその DNA を、核膜を構成する脂質二重膜へと融 合させる活性を持つことが明らかになりました(図3)。実際に、電子顕微鏡を用いた観察に より MAJIN-TERB2 が形作るテロメア核膜融合構造を可視化し、その詳細を解明することに も成功しました(図2)。またこの構造が相同染色体(注8)の対合に必要な「核膜に沿った 染色体運動」の基点となることを証明しました。この構造が形成されない MAJIN-TERB2 の 遺伝子欠損マウスでは、減数分裂が異常停止し、精子や卵の形成が全く見られないことが明ら かになりました。 <今後の期待> 本研究で発見された MAJIN や TERB2 遺伝子はヒトにも見つかっており、哺乳動物に共通 した減数分裂の分子メカニズムの解明に繫がる成果と言えます。従って、将来的には減数分裂 の異常に起因する先天性疾患の原因解明や治療に貢献することが期待されます。また、生殖細 胞では次世代へと伝達するためにテロメア DNA の伸張反応が特別に活性化すると考えられて います。今回見つかった新しいテロメアの構造が、これまでに知られていた体細胞のそれとは 全く異なるものであったことから、それらが生殖細胞特異的にテロメア DNA を伸張させる過 程にも関与していることが予想されます。今後の発展的研究が期待できます。 発表雑誌: 雑誌名:Cell(11 月 19 日、オンライン版 11 月 5 日)
論文タイトル:MAJIN Links Telomeric DNA to the Nuclear Membrane by Exchanging Telomere Cap
著者:Hiroki Shibuya, Abrahan Hernandez-Hernandez, Akihiro Morimoto, Lumi Negishi, Christer Höög, Yoshinori Watanabe
問い合わせ先: 東京大学分子細胞生物学研究所 教授 渡邊 嘉典(わたなべ よしのり) 〒113-0032 東京都文京区弥生 1-1-1 TEL: 03-5841-1466 FAX: 03-5841-1468 E-mail: [email protected] HP: http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/watanabe-lab/ 用語解説: (注1)染色体:遺伝情報を担う DNA とそこに結合するタンパク質からなる構造体。ヒトの 細胞では、父親と母親に由来する 23 組 46 本の染色体をもつことが知られている。 (注2)テロメア:染色体の両末端に存在する構造体。 (注3)核膜:疎水性の脂質二重膜から成る細胞内の膜構造で、その内部に染色体を取り囲む。 (注4)シェルタリン:テロメア DNA に結合したキャップタンパク質。テロメア DNA を保 護する役目をもつ。 (注5)ダウン症:減数分裂の異変に起因して、21 番染色体を一本余分に受け継ぐことにより 生じる病気。 (注6)脂質二重膜:細胞膜の大部分を占めるリン脂質による膜。表と裏の二層になっている。 (注7)体細胞:生物の体を構成する生殖細胞以外の一般の細胞の総称。 (注8)相同染色体:父親と母親に由来する 2 本 1 組の染色体。減数分裂では相同染色体を対 合させることでその分配を行う。 添付資料: