水マスタープランから見た大学との連携に期待する もの (和光大学教育GPシンポジウム 流域主義によ る地域貢献と環境教育)
著者 鈴木 研司
雑誌名 東西南北
巻 2010
ページ 23‑27
発行年 2010‑03‑18
URL http://id.nii.ac.jp/1073/00001552/
国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所所長の鈴 木と申します。よろしくお願い申し上げます。日頃か ら皆さまには色々な立場でお世話になっていると思い ます。ありがとうございます。
本日、和光大学の教育
GP
シンポジウムが盛大に開 催されていますこと、お祝い申し上げます。また、こ のような貴重なプログラムで話をする機会を与えてい ただきまして、誠にありがとうございます。「水マスタープランから見た大学との連携に期待す
るもの」というタイトルですが、「水マスタープラン」は、中身が非常に先駆的 で素晴らしいものなので、色々な方々に鶴見川を良くする運動に入ってもらおう、
そういうことから見た大学との連携に期待するものとはどのようなものかについ てお話ししたいと思います。
堂前先生のお話の中で、鶴見川水協議会、財団、
TR
ネット、京浜河川事務所 の関係が話題になりましたが、学生活動、和光大学と京浜河川事務所が全然繋が っていませんでした。普段から私ども京浜河川事務所、あるいは行政が大学とも の凄く連携しているかというと、実はそうではないかもしれないと思います。──京浜河川事務所の仕事
我々の事務所は鶴見川流域の下流域、鶴見川河口近くにあります。国土交通省 が管理しているのは、鶴見川の本当に下流の十数キロと、支川の一部です。和光 大学は鶴見川の上流域にあるということで、場所が少し離れており、今まではな かなか連携が薄かったかもしれません。
和光大学教育GPシンポジウム:流域主義による地域貢献と環境教育
水マスタープランから見た 大学との連携に期待するもの
鈴木研司 国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所長
いわゆる国がやっていることは直轄管理と言います。京浜河川事務所は役割分 担をして鶴見川の直轄管理をしています。3 つも 4 つも行政があるので分かりに くいと思いますが、おおまかにいって鶴見川の下流側を国が、上流側を東京都や 神奈川県、一部横浜市などが管理しています。
我々が一番昔からやっている仕事としては、洪水、氾濫を防止し、安全に皆さ んが暮らしていくための川づくりと管理をすることです。具体的には、堤防を作 る、堤防を整備する、補強する、あるいは浚渫しゅんせつをする、遊水地を作る、そして洪 水情報を皆さんに提供する、ということをやっています。
非常時の洪水の時はもちろんですが、それと同時に地域のみなさんに楽しんで いただけるような綺麗な、楽しい鶴見川を作っていきたい、あるいは管理をして いきたい、ということで仕事をしています。具体的には、水量が十分ある、水質 が十分良い健全な水循環であるように、そして親水性、つまり皆さんに水に親し んでいただけるように努力しています。
──鶴見川の水害と治水事業
もともと鶴見川というのは下流が低平地で蛇行しており、危ない所でした。鶴 見川は昔から暴れ川で、水害がたくさんありました。明治、大正時代も水害がた くさんあったのですが、戦前で一番ひどかったのはおそらく1938(昭和13)年と 1941(昭和16)年の水害ではないでしょうか。そして、戦後最大の水害が1958
(昭和33)年の狩野川台風のときで、このときの被害が一番ひどいものでした。
50年ほど前の台風が一番ひどかったというわけです。
水害による被害は1966(昭和41)年にも、1976(昭和51)年にもありました。
昔から水害があった流域が、都市化したことによって保水力が落ちてさらに水害 がどんどん酷くなっていると言えます。
1982(昭和57)年は、鶴見川も、隣の多摩川も、相模川も、最近では一番大き な水害があったときです。一昨年の 9 月に比較的大きな台風がありましたし、去 年も 8 月末に 3、4 日間連続して夜中に洪水警報が出ました。ゲリラ豪雨もあり ましたので危険は増しているわけです。
水害の話は我々が学生の頃からありました。私が学生だった昭和50年代にも、
流域の中がどんどん都市化していくということで、鶴見川がどんな対策をしてい るのか見学に行った覚えがあります。そのくらい、鶴見川は日本でも有数の都市 河川で、治水対策のトップだったということです。
都市化すると洪水がたくさん起こります。そこで、総合治水ということをやり ました。総合治水というものは鶴見川のために作られた、と言えるのではないか と思います。
総合治水として、川も広くし、遊水地も作ります。ポンプ場も下水道対策をし
て、雨水排水をなんとかします。それから防災調整池を作ります。また、小学校 の校庭などに大雨が降ったら水が溜まるようにします。鶴見川流域の中には、防 災調整池、池や水溜りが約3
,
300カ所あり、その受け入れ可能容量は全て足すと 270万m
3という数字になります。ちなみに、小机にある鶴見川多目的遊水地に水 が満々に入ると総貯水容量390万m
3です。本当に地道な努力を沢山やっていただ いて、みんなで安全を高めているということです。また、流域対策や浸透対策と いうのもあるので、いろいろな場所でやっていただくとありがたいです。鶴見川の洪水年表
*内水被害:内水域に降った雨が内水排除施設能力を上回ったり、本川の水位が上昇し、本川へ流れ込んでいる小さな川や水路等から排水が十 分に行われず湛水することによって生じる被害。
鶴見川流域水協議会『バクさんが案内する鶴見川流域BOOK』2008年3月、「鶴見川の洪水年表」より抜粋作成。
昭和13年 6月28日
〜 7月3日 昭和16年 7月19日
〜23日 昭和33年 9月26日 昭和41年 6月27日 昭和46年 8月31日 昭和48年11月10日 昭和49年 7月 8日 昭和51年 9月 9日 昭和52年 9月10日 昭和54年10月19日 昭和56年10月22日 昭和57年 9月12日 平成元年 7月31日 平成 3年 9月19日 平成 6年 8月20日 平成10年 7月30日 平成16年10月 9日
台風 台風及び前線 台風22号
(狩野川台風)
台風4号 台風23号 前線豪雨 台風8号 台風17号及び前線 台風9号 台風20号 台風24号 台風18号 前線豪雨 台風18号 前線豪雨 前線豪雨 台風22号
370 213 343 307 151 106 96 160 200 128 180 218 177 287 167 66 294
−
− 綱島61 都田34 鶴川54 綱島29 都田43 鶴川53 都田66 長津田27 川崎・鶴見34 日吉47 鶴見89 荏田49 都田71 都田64 川崎55
−
− 510 500 340 330 490 690 600 390 760 1050
− 1020
−
−
−
*内水被害
内水被害 内水被害 内水被害 床上浸水:約4,000戸
床下浸水:約7,800戸 床上浸水: 2,140戸 床下浸水: 4,590戸 床上・床下浸水:
20,000戸以上 床上浸水: 6,779戸 床下浸水: 11,840戸 床上浸水: 93戸 床下浸水: 1,240戸 床下浸水: 34戸 床上浸水: 330戸 床下浸水: 780戸 床上浸水: 1,210戸 床下浸水: 2,730戸 床上浸水: 440戸 床下浸水: 650戸 床上浸水: 80戸 床下浸水: 370戸 床上浸水: 6戸 床下浸水: 280戸 床上浸水: 910戸 床下浸水: 1,800戸 床上浸水: 7戸 床下浸水: 190戸 床上浸水: 27戸 床下浸水: 30戸 床上浸水: 1戸 床下浸水: 11戸 床上浸水: 1戸 床下浸水: 73戸 床下浸水: 190戸
年月日 原因 流域平均
2日雨量(mm)
観測所時間 最大雨量(mm)
【末吉橋】最大流量
(m3/秒)被害状況
事業の紹介ですが、下流側で堤防の補強工事をここ 2、3 年、毎年どこかでや っています。特に小机から下、新羽などで堤防を改善改良しています。これは、
鶴見川の下流側の堤防が昔に作ったものなので若干弱いということと、本当に水 が浸透したら壊れかねないということで対策をしています。昨年も11月から 3 月 くらいまで工事をしてきており、これからもまだまだ続きます。最下流の方では 浚渫をしています。川底に堆積している土砂を取って川の断面を広げる、という 事業です。
鶴見川は本当に日本一、日本初が沢山あります。
1979(昭和54)年に総合治水特定河川になったのは日本で最初です。また、国 土交通省の河川事務所は全部で100から200あるのですけれども、1987(昭和62)
年、当時の京浜工事事務所に「流域調整課」という流域を調整する課が出来まし た。現在でもこの課があるのはここだけです。
流域内の人口密度も全国の一級河川の中で第 1 位です。1
km
2あたりに8,
000人 もの人が住んでいるのは、鶴見川流域が全国で日本一です。おそらく、流域が市 街化したスピードも日本一でしょう。それから、みなさんが鶴見川に遊びにきて いる人数を数え、それを河川(区域)面積で割ると、日本で一番人が来ているの も鶴見川です。また、先ほどの防災調整池等が3,
300カ所あるのはきっと鶴見川 だけでしょう。都市河川なので、水害も多発しますが、もうひとつの問題は水環境も悪かった ことです。ドブ川と言われ、生活排水がどっと流入していました。残念ながら、
流域の人々にとっては親水性の乏しい川だったわけです。1972(昭和47)年から 現在まで36年間、日本全国の水質ワースト 5 に入っています。過去 1 回か 2 回だ けワースト 1 です。これは、全国の一級河川の限られた計測範囲での数値なので、
本当はもっと小さくて汚い川が日本には沢山あります。一級河川の大きい川では 鶴見川は水質ワースト 5 です。ちなみにワースト 1 や 2 は、大阪の大和川か埼玉 と東京下町を流れている中川、綾瀬川のあたりです。
しかし、鶴見川は昔ほど汚くはなっていないのです。最近は綺麗になりました。
ここで水循環の話、「水マスタープラン」につながります。
「水マスタープラン」というのは、水循環を健全化することです。ヨーロッパ では統合水資源管理というのがあるようです。それは、皆さん住んでいる場所も 分野も様々ですが、すべての利害関係者の方々が一緒になって水問題を考えてい こうということです。これは10年くらい前からヨーロッパの河川、水資源管理で 主流になっているようです。
鶴見川の「水マスタープラン」は、水循環を健全化するために様々な関係者、
市民団体も市民も行政も連携をして解決を図るもので、ヨーロッパの考え方を先 取りしたわけです。
──大学に期待するもの
大学に期待するものということで、まず流域学の研究をしていただくなど、シ ンクタンクの役割を担ってほしい。例えば、先ほどの行政界を越えて、という堂 前先生のお話もありましたが、私たちも実はそう思っているのです。例えば、川 であれば、先ほどの水循環も治水もそうですし、あるいは生物の連続性の話もあ るので、流域という単位で物事に取り組める枠組みが重要だと思います。
鶴見川の河川管理でも、国がいて東京都、神奈川県がいて、横浜市がいて、複 雑なのでひとつの組織体を作って管理したらどうかと思うわけです。あるいは洪 水、治水だけでなく、農業用水だったり環境だったり、鶴見川の水問題を考える 組織体をひとつ作るということを研究されたらどうか、というのが私の提案です。
そういう場合の組織や制度はどうしたらいいか、流域住民はどういう風に関われ ばいいかということを研究していただいたらいかがでしょうか。
そして、キャンパス全体でそのような情報発信も流域学での研究発表もしてい ただくと良いのではないでしょうか。
そして、すでに出掛けられているとは思いますが、いろんなイベントにも出張 していただいたらどうか。そして是非、流域の子どもに環境教育も防災教育も指 導をお願いしたい。
TR
ネット(鶴見川ネットワーキング)の方もすでにやってい ますが、是非学生のみなさんにやっていただくとありがたいと思います。将来は、我々と学生が一緒に河川の管理をやるということです。
また、流域内の大学同士で連携をしたらいかがでしょう。鶴見川流域には本当 にたくさんの大学があり、色々な大学で役割分担をしたらいかがでしょうか。例 えば、和光大学の敷地を全部遊水地にしたり、A大学では子どもの情操教育をす べて担ったりするのはどうでしょう。そういった役割分担をしながら連携をした らいかがでしょうか。つまりは、
TR
ネットの大学版のようなことをしたらいい のではないでしょうか。流域学の拠点、情報発信の拠点、学生で教育を進める、流域内の大学同士の連 携、というようなことを期待しております。学生の皆さんが次世代を担っていま す。今日いる学生のみなさんにその次の世代を育てていただき、安全で安心で、
良い鶴見川をずっとこれからも守っていただきたいと思います。これで話を終わ りたいと思います。どうもありがとうございました。
[すずき けんじ]