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(1) ー資本蓄積の現実的進行過程について

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2 0 5

アメリカ金融危機と世界システムの再編成(1)

ー資本蓄積の現実的進行過程について

目 次 序 章 アメリカ金融危機が提起する問題

第一章

9 3 0 1

年代産業停滞と投資不足の理論的問題 第一節 第一次世界大戦後の産業停滞と新産業革命 第二節フォーデイズム論と消費需要主導説の問題点 第三節 投資需要減退の理論的課題

第二章 資本蓄積の動力とその統括機構 第一節資本主義的蓄積の二つの構造モデル

第二節資本蓄積の自己拡張とその金融コントロール機構

田中裕之

(2)

2 0

6

立正大学経済学季報第

5 8

4

序 章 ア メ リ カ 金 融 危 機 が 提 起 す る 問 題

序幕としてのアメリカ金融危機

2007

年にはじまるアメリカ金融危機は、信用力の低いクレジット利用者向 けの住宅ローンであるサプ・プライムローンを中心とした、住宅市場バプルの 崩壊に端をなしている。それは産業投資とは異なる、金融資産投資の過熱であっ

たが、どのような展開を見せたのか?

2000

年の

IT

バプル崩壊以降、アメリカの住宅・不動産市場が膨張し住宅抵 当ローンに基づく複雑な金融商品を軸とする資本市場がグローバルに拡大して いった。住宅ローン証券化の拡大は、あくまでも住宅価格の上昇を前提とする

2006

年にはアメリカの住宅価格高騰はピークをむかえ、それ以降住宅価 格が下落へ転じ、住宅ローン証券の市場へと波及していく。

2007

年になると、

住宅ローン債権、

CDO

CDS

等、金融デリバテイプ市場の暴落と資産価値の 低落による決済危機は、ヨーロッパ・アメリカ金融市場全体に急激な信用収縮

をもたらし、金融恐慌へと陥った。

2008

年末以降、

BIG3

に代表される自動車産業の経営危機といった、産業恐 慌へと移行しつつある。この世界大恐慌的状況は、アメリカの金融危機を序幕 とするならば、第二幕は、先進国の主軸産業である自動車関連産業の危機には じまる産業恐慌と言ってよい。

1930 年代世界大恐慌との比較

2008

年からの大恐慌は、資本主義に何を要求しているのか?景気の交替か?

それとも別の要囚か?上述した今回の大恐慌は、グローバルな金融市場の危機 から、資本主義の世界システムにおける中心国アメリカの産業実体、製造業の 危機へと展開しており、これを説明するためには、単なる景気の変動の一過程 ではなく、世界システムの再編成の一過程としてとらえる必要がある。そこで、

今日の大恐慌を、

1 9 2 9

年世界恐慌との比較関係に置くならば、その独自性が 明らかになろう。その比較基準として、始めに二つの問題を提起する。

(3)

アメリカ金融危機と世界システムの再編成(1)

0 7 2

•世界恐慌における「金融市場」と「産業構造」の再絹成と相互連関関係

•それを軸とした資本主義の世界システムの再編成の問題

まず、

1929

年恐慌をどのようにとらえるか?その特徴は、一般的には、

2008

年金融危機同様、

1 0

月のニューヨーク株式市場における株価の大暴落の 要因が強調されるが、国際金融市場を軸とした、資本主義の世界システムの危 機という

1930

年代の特殊性へと結び付ける必要があろう。

つまり、

1930

年代世界大恐慌の中心問題は、

1929

年金融恐慌にとどまらず、

31

年の金・ポンド交換停止である。金・ポンド交換によるポンド基軸体制は、

当時の資本主義システムの国際的交換・決済関係の中軸であり、その崩壊は、

資本主義の世界システムの再編成を意味するからである。そのポンド体制は、

当時どのような状況になっていたのか?

1 1930 年代世界大恐慌と2008 年アメリカ金融恐慌との比較推移

1

9 2

9

年米株式市場の暴落

3

1

年金・ポンド交換停止、国際 通貨制度崩壊、プロック経済化

国家による資本主義経済管理、

ニューディール型公共投資拡大

|

戦時経済体制

I

1 9 7

1

年金・ドル交換停止

ドルの過剰供給、過剰流動性 貨幣市場における過剰資金

1 9 8

0

年代株式・不動産バプル

2

0 0

0

IT

バプル、住宅バプル

2

0 0

8

年アメリカ金融危機

|

欧米先進国産業恐慌?

I

(4)

2 0

8 立正大学経済学季報第 5 8

4

の主軸産業

石炭による

古典的重工業世界であったが、それは世界的な鉄道投資プームに支えられてい た。第一次大戦後、ヨーロッパの投資プームが停滞すると、アメリカのドル資 金に依存した国際資本投資(株式・公社債投資)市場であるヨーロッパ資本市 場を軸に、従来のロンドンを中心とする国際的決済市場である貨幣市場が再建 された。それが、第一次世界大戦後の再建金本位制、ポンド基軸体制の復活の 実態である。

一端、 1 9 2 9 年株式市場の暴落によって緊張が起こり信用収縮になると、瞬 時に集中的にドル資金がアメリカヘと還流し、最終的な決済手段である金の ヨーロッパからの流出が増大し、ポンド・金交換の停止によって、ポンド基軸 体制が崩壊した。アメリカは、国内の金融危機から 3 9 3 1 年に金本位制制度か ら離脱し、国際通貨制度が崩壊し、各プロック経済へと分裂した。これは、ヨー ロッパ資本主義を軸とする泄界システム自体の再編成を意味した。

また、世界的な産業停滞の問題に対し、アメリカのニューデイール政策によ る公共事業の拡大をはじめ、国家が積極的に資本主義経済過程に介入し管理す る政策が欧米主要国でとられていく。ただし、その停滞問題は実際には、第二 次世界大戦への戦時経済の中で解決されることになる。

比較基準としての世界システムの危機、その異質性

今日のグローバル金融市場においては、第二次世界大戦後のドル基軸体制に よる国際通貨制度の再建後、 1 7 1 年ドル危機、 ドルの金交換の停止が、既に 9 出発点となっている。その後の展開は、 1 0 年代大恐慌とは違って、 ドル基 9 3 軸体制の崩壊から、資本主義の世界システムの危機への方向とは異なる道を進 むことになった。

金・ドル交換停止は、アメリカの国際収支赤字によるドルの過剰供給、過剰 流動性を生み、

70

年代以降基軸通貨の地位を保ちつつも、グローバル金融市 場の発端となる、貨幣市場と資本市場の膨張をもたらした。とりわけ 8 0 年代 以降、不動産バプル、株式市場バブルによる資本市場の膨張、 2 0 0 0 年の I T ドッ

トコムバプルを経て、住宅バブル、住宅ローン証券の市場の膨張をもたらし、

(5)

アメリカ金融危機と世界システムの再編成

( 1 ) 9 0 2

前述したように、

0 3 1 9

年代型の世界大恐慌を迎えつつある。

産業構造と金融機構との相互関係とその世界史的推移

以上、国際金融市場の側から、

9 2 9 1

年恐慌と今日の金融危機との簡単な比 較を行ったが、産業構造の側から更に中心的論点を以下にまとめてみる。

① 今日の大恐慌的状況は、ヨーロッパ・アメリカ資本主義の具体的な主軸 産業の停滞、産業投資の停滞の理論的問題を、どのように提起しているの か?

② 今日の世界大恐慌的状況は、従来のヨーロッパ・アメリカを主軸とした 資本主義の世界システムに対して、どのような変容を要求しているのか?

また、グローバル資本主義における他方の軸である、中国を中心とする 巨大世界市場をどのように再編成するか?

1) ①の論点の具体的課題は、直接には、自動車産業を軸とした加工組立機械 機器産業の停滞の解明となるが、始めに

2 9

年世界恐慌との比較で、自動車関 連産業成立の世界史的意義について再検討する必要がある。本論では次章以降、

第一次世界大戦以降、

0 9 2 1

年代、

0 3

年代の主軸産業の停滞問題、投資停滞の 理論的問題が、考察対象となる。 1

2) 自動車関連産業成立の世界史的意義は、「新産業革命」として示される。

その革命の意味は、新興産業として登場した自動車関連産業は、従来の主軸産

に る 業と た 「 産シス

テム」の担い手であった。今

H

では、

I T

機器産業が、パソコン・インターネッ トによる「新情報革命」の担い手であり、新産業革命に相当する。

1本論は、拙論田中]8020[ の主題である、生産と市場の対応関係、総供給と総需要との相 互関係の理論問題を、 1930 年代世界大恐慌の前後期の投資の停滞問題を軸に、具体的対 象において論及する。

(6)

2 1

0 立 正 大 学 経 済 学 季 報 第85 4

3)

論点②、③は、今

H

の新産業革命の独自の性格に依拠している。

IT

機器 産業は、主軸産業を担うのではなく、従来の主軸産業を中心とする産業構造に 対して、ネットワーク型のグローバルな産業再編を迫る、情報ネットワーク革 命である。

IT

機器産業自体は、アメリカ東部の

BIG3

GE

IBM

などの垂直 統合型の多国籍企業とは異なる、アメリカ西海岸シリコン・バレーの独立系集 積部品メーカーであるベンチャー産業として登場し、生産拠点を台湾、中国華 南を中心とする東アジアとのグローバルな水平分業として展開している。 2

4)

今日の新産業革命の独自性は、

6 1

世紀の初期資本主義以来のヨーロッパ 資本主義とその特殊形態としてのアメリカ資本主義内部の中心国(基軸為替、

主軸産業)の推移・変化という枠組みを超えた、世界史上のあらたなシステム への再編成を意味している。 3

5) 今後、世界大恐慌的状況によって、あらたな世界システムヘの再編成が、

加速されるのか、どうか?この問いの解明が、最終的課題であり、論点②は従 来のヨーロッパシステムである、老年期型資本主義の再編成問題であり、論点

③は壮年期型資本主義である中国世界を軸とする東アジアの再編成問題とな

2 アナリー・サクセニアンによれば、アメリカ東部ボストン周辺の一社総合主義的な大手 ハイテク企業群に対して、シリコンバレーを軸とした、アントレプレナーシップのグロー バルコミュニティは「分散型産業システム」であり、その地域的優位性が強調される。

サクセニアン

] 7 0 0 [ 2

による分散型産業システムの研究は、従来の世界経済の発展におけ る、中核国/周辺国の対立分析との異質性が明確であり、評価すべきである。ただし分 散型システム内部の拠点として、中国巨大世界市場の今後の推移をとらえるべきであろ

3 批界システムについては、ウォーラーステイン、プローデルたちの

6 1

世紀世界システム 形成論を再検討すべきであろう。重商主義時代の大航海の商業・交通・物流ネットワー

ク革命を機動力とするヨーロッパ資本主義の世界システム形成と中核国と周辺地域の移 動、推移は、彼らの主張の妥当性を明らかにする。ただし彼らが不明確にしている、古 代以来の地中海沿岸とシルクロードの商業ネットワークとの連関関係、

6 1

世紀大航海に 先行する華僑商業ネットワークの、ヨーロッパシステムとの同時並行性をとらえる必要 がある。それが今Hの中国を軸とする世界市場拡大の人類史的前提ではないか。

(7)

アメリカ金融危機と世界システムの再編成

( 1 )

112 第一章

1 9 3 0

年代産業停滞と投資不足の理論的問題

第一節第一次世界大戦後の産業停滞と新産業革命

ヨーロッバ主軸産業の停滞とアメリカ大胃牛痒システムの生成

第一次世界大戦後のヨーロッパ・アメリカにおける主軸産業は、古典的帝国 主義としての第一次世界大戦の産業基盤である、鉄鋼業を軸とする重工業で あったが、その成立背景はどのようなものであったか?

鉄鋼、あるいは石炭などの古典的重工業は、 9 世紀後半からの世界的鉄道1 投資プームに立脚する鉄道帝国主義の産業基盤であり、企業の集中・合併を通 して、カルテル・トラストなどの重工業独占として、社会的再生産を牽引する 産業であった。その後、第一次大戦の終了によって、前述したようにヨーロッ パ資本市場のドル資金への依存と同時に、 ドイツをはじめとして鉄鋼・重工業 の社会的牽引力は低下する。

それに対して、大戦の勝利国であるアメリカでは、新興産業である自動車産 業を中心とする加工・組立機械機器産業が新産業として登場する。その主力企 その 内製型大最生産システムの登場は、アメ リカ型大量生産システムの幕開けであった。第二次大戦後、 50 年代以降、19

B 1 G 3

に代表される大屎生産システムの展開は、大量生産・大最消費・大量廃 棄のアメリカ型大衆消費社会を生み出していく。

以上、今日的アメリカ資本主義の歴史的端緒として自動車産業の登場を位置 付けることができる。その新産業は、従来の重工業に対してどのような地位を

もっていたのか?この問いは、以下の二点に集約される。

自動車産業を代表とする大最生産システムの登場は、鉄鋼・重工業とは 異質な系列として登場する新典産業であるが、その独自性は何か?

アメリカにおいて登場するその新典産業は、第二次世界大戦以前におい ては、社会的再生産を牽引する主軸産業の地位にあったのか?

(8)

2 1

2

立正大学経済学季報第

5 8

4

フォードシステムの登場と新産業革命の意味

②は、アメリカ大量生産システムの

20

世紀初頭から、第二次世界大戦前ま での時期における産業的地位を問うものであり、①のアメリカ型大最生産シス テムの独自性に依拠する問題である。

デーヴィット・ハウンシェルによれば、その独自性は、精密部品である「互 換性部品」の生産とその機械的組立(アッセンプル)による機械機器生産であ 4 その生産は、互換性部品の製造とその加工精度を測るゲージシステム、

位置決めのセッティング装置など、多種多様な製造部門を必要とする。そのた め大量生産システムの互換性部品生産の多種多様なシステムは、コスト削減要 因ではなく、コストアップ要因とならざるを得ない。

このコストアップ要因を乗り越え、互換性精密部品生産システムとその技術 的人材を排出することができるのは、国家予算による陸軍銃機器の兵器産業の みであった。そこから、従来型重工業とは異なる産業において部分的に採用さ れながら、自動車産業におけるフォードシステムとして開花する。フォードシ ステムは、互換性部品生産を一貫した内製型大量生産によって、同一車種であ

T

型フォード車を大衆車として大量供給するものであった。

したがって、ハウンシェルンの研究から確認すべき重要なポイントは、以下 のようになる。大最生産システムの本質は、テーラー主義者が説く労働生産過 程に対する標準化による徹底管理とは異なり、多種多様な精密互換性部品生産 のための特殊な機械生産システムである。 5 それゆえ、大最生産システムを 担う新典産業は、「新産業革命」の地位に位置したと言える。

4 ハウンシェル著「アメリカシステムから大量生産へ」

] 8 9 9 1 [

を参照すべきである。

5 「フォードの取り組み方は、機械により労働を削減することであり、テイラー主義者が通 例やったように所与の生産工程をとりあげ、時間動作研究と差別的な出来高払い制度(あ るいは何らかの作業報酬)によって作業者の効率を改善することではない。 一 機 械 や 、 機械工程のセットアップの際に、時間動作研究が使われたかもしれないが、フォード社 での作業ペースを定めたのは最終的には機械であり、出来高でも、「公正なー8の作業」

に対する確定標準でもなかった。これが、組立ラインとそれに連なるあらゆる機械の本 質であった。」ハウンシェル

3 1 8 8 ] 1 9 9 [

(9)

アメリカ金融危機と世界システムの再絹成(1)

3 1 2

フォードシステムの限界と大量生産システムの過渡的性格

だが、フォードシステムの内製生産システムは、

2 0 1 9

年代初頭に限界が生 じる。フォードと競争関係にある、

GM

のスローン体制の登場である。それは、

内製一貫性型とは異なる分権型の生産システムによる、定期的モデルチェンジ であり、フォードも

T

型車依存からの脱却を迫られた。これは、自動車産業に おけるフォード型大最生産システム普及の困難性を意味した。 6

スローン体制は、互換性部品生産システムを、部品メーカーの並列的結合に よる大量生産システムであり、

GM

本社は、最終的なアッセンブル加工、ある いは販売金融に専念した。それは、単一車種ではなく、異なる車種とモデルチェ ンジを可能にし、消費者の買い替え需要や多様な市場形成を創出し、市場シェ アを拡大した。

GM

はフォード的な「垂直統合型」ではなく、部品生産の分権 型、下請け分散型の「柔軟な大量生産システム」であった。このシステムの登 場は、自動車産業を通した

2 0 1 9

年代の大量生産システムの「過渡期」的性格

を示すものである。

1 9 2

0

年代、新産業革命であるアメリカ自動車産業における精密互換性部品 の大量生産システムの独自性と、その過渡期的性格は、自動車産業を軸とする 加工・組立機械機器産業が、ヨーロッパ・アメリカ世界における主軸産業とし ての地位と、産業全体を牽引する動力を確立できず、

3 0

年代世界大恐慌へと 突入した主要因となる。高コストによる精密部品の大贔生産システムの一般的 普及は、戦時経済によって可能になり、自動車産業の主軸産業化は、戦後

1

9 5

0

年代まで待たなければならなかった。

以上が第二次世界大戦前夜の

2 0 1 9

年代、

0 3

年代のヨーロッパ・アメリカの 主軸産業停滞の根本問題であるが、これは資本主義経済の蓄積動力をめぐる論 争問題として提起されていた。その理論的問題を次節以降で検討していく。

6 「最少費用による最大生産というフォード

T

型車における格言は、計画化されたモデル チェンジに道を譲った。 これこそが「柔軟な大最生産」の時代である。このよう にして、大量生産が移行期にはいったのは、

GM

社がモデルチェンジ戦略を議論し始め

5 2 9 1

年から、

GM

社のみならずフォード社でもモデルチェンジが政策となった

2 3 9 1

年あるいは

3 3 9 1

年までの時期であった。」前掲書

1 3 3 ) 8 9 9 1 [

2 3 3 -

(10)

2 1

4 立正大学経済学季報第 5 8

4号

第二節 フォーディズム論と消費需要主導説の問題点 レギュラシオン派のフォーディズム論

ヨーロッパ・アメリカの主軸産業停滞に対する理論的問題の考察の導入とし て、アメリカ大鼠生産システムによる資本主義発展に関する一般的見解をとり あげ、その理論的難点を提起することで、考察を進めることにする。

フォードシステムは、その内製型大最生産システムによる労働の単純化と同 時に、高賃金インセンテイプを採用して、第二次大戦後の大最生産システムの 社会的確立と大量消費拡大の主導力を担っていた。それゆえ、戦後の高賃金制 度による大衆消費が、消費市場が拡大をもたらし、資本主義経済全体の発展を

もたらす、という見解が後に登場する。

これは、フォードシステムとアメリカ大量生産に対する一般的理解であり、

その理論的代表が、フランスのレギュラシオン学派のフォーデイズム論である。

レギュラシオン派によるフォーデイズム的循環は、以下に示すように労働者大 衆消費の拡大による自動車市場の拡大、産業全体の成長、社会的再生産拡大で あった。そして、 2 0 世紀後半のフォーデイズム型の資本主義的「蓄積体制」

として定義される。

7

図 2 フォーディズム的循環論の基本図式 生産性 賃金 消費(市場)

7山田]3991( 115 頁、ボワイエ]2991( 332 頁を参照すべきである。図2は、以上の箇所 の図を基本にして編集したものである。ここでは、明らかに「消費」が主導して、「投資」

や生産を決定する独立要因となっている。そのため、ケインズが説く「有効需要」の不足、

「投資」の不足の決定的問題は、この循環内部からは出てこない。

(11)

アメリカ金融危機と世界システムの再編成(1)

5 2 1

このフォーデイズム型蓄積体制は、「テーラー主義的労務管理」と高賃金制 度による労使協調の「独占的調整様式」を前提条件とする、高賃金一大量消費 の資本蓄積様式である。また、

5 0 1 9

年代以降

1 9 7 0

年代初頭までのヨーロッパ・

アメリカの資本主義経済の発展様式を特徴付ける蓄積体制とされる。

それに対して、

1 9

世紀、あるいは

20

世紀前半の資本主義経済は、低賃金に よる「競争的調整様式」として、高賃金制度、テーラー主義的管理体制の対立 関係に置かれる。したがって、第二次世界大戦前のフォードシステムは、「独 占的調整過程」確立以前の、過渡期的「競争的調整様式」にとどまるという。8

フォーディズム蓄積論の問題点

だが、既にみてきたように、

1 9 2 0

年代、

30

年代のアメリカ大量生産システ ムの過渡期的性格は、多種多様な互換性部品生産の独自性と、フォードシステ ムから「柔軟な大量生産システム」への移行という、生産システム自体の問題 であった。

テーラー主義と高賃金制度の未確立という、レギュラシオン派の主張は、生 産過程に対する外在的な制度要因に対する過度な評価であって、第二次世界大 戦後の

50

年代から

70

年代までのヨーロッパ・アメリカ資本主義における財政 政策、労使協調制度の歴史的特殊性を無視したものである。資本主義的蓄積の 結果である特殊・歴史的な国内的制度の未確立/確立を、資本主義発展の一般法 則や資本蓄積の原理としてとらえることは、理論的に無理である。 9

フォーデイズム蓄積論の中心問題は、高賃金一大量消費による社会的生産拡 張の理解であった。つまり、「消費」、「需要」を、社会的生産や「投資」に対 して独立した要因としてとりあげ、資本主義経済発展の決定要因としている。

はたして、それが理論的に妥当であるのかどうか、検討すべきである。

8 山田

] 3 9 9 1 [ 96

頁ー

99

9 フォーデイズム蓄積論は、

0 1 9 8

年代以降の制度危機に対して、ポスト・フォーデイズム という抽象的規定に留まっている。そのため、柔軟な大最生産システムと日本型自動車 産業の系列システムとの同質性や、 トヨタの地域的職場コミュニティ主義などを、考察 することができていない。

(12)

2 1

6

立正大学経済学季報第

8 5

4

過少消費説と古典派経済学批判

フォーデイズム論における、高賃金、大衆消費拡張によって経済発展を説く 論理は、逆に低賃金と大衆消費の低落によって社会的生産の縮小へ至る、とい

う主張になる。この主張は、経済学の理論において、

9 1

世紀のマルサスをは じめとする過少消費説に位置する。

過少消費説は、古典派経済学の生産の経済学に対するアンチ・テーゼとして 提起された。商品の過剰生産、一般的供給過剰の原因は、消費需要の不足であっ て、リカード、セーが想定する、「生産はそれ自身の市場を作りだす」、「総供 給=総需要」という販路説に対する批判となっている。 01

資本主義経済の全体における、総供給と総需要との関係が、総供給の増大、

価格の変動によって均衡へと至るととらえるか、それとも総需要が独立に変動 し、需要不足によって不均衡が生じるととらえるのか?この経済学上の重大論 争を

0 2

枇紀前半に再度取り上げ、

0 3 1 9

年代大恐慌と国際金融システムの崩壊 に直面して、古典派経済学、セーの販路説、「総供給=総需要」関係を批判して、

有効需要説を主張したのは、ケインズであった。

レギュラシオン派のフォーデイズム蓄積論は、第二次世界大戦後のケインズ 主義的財政政策、福祉政策を前提にした経済成長論であった。そこから、生産 と需要の二要因を、互いに独立した「経済発展の推進要因」とし、さらに「賃 金一消費」が軸となり需要と投資を決定する相互連関の分析となっている。 11

はたして、ケインズの販路説批判の内容、有効需要論における、投資と消費の 関係の基本要因はどうなっているのか?フォーデイズム論的理解と同じなの か?それとも異なる独自の内容なのか?その点を、投資需要の不足の問題を軸

に次節で検討してみる。

10 田中)8002[ 二章において、ツガン=バラノフスキー説に則して、過少消費説への理論的 批判を再評価した。

1

1 ボワイエ

) 2 9 9 1 [ 3 1 2

頁一

5 2 3

(13)

アメリカ金融危機と世界システムの再編成(1)

7 2 1

第三節投資需要の減退の理論的課題

ケインズの問題提起

ケインズの主著「屈用、利子、貨幣の一般理論

J 3 6 ( 1 9

年)は、古典派経済学、

セーの法則への批判からはじまっている。まずは、古典派経済学の理論的前提 を、リカードに則して示し、ケインズによるその批判点を概略してみる。

リカード理論においては、総商品の価値=商品内部に体現化された労働総量 であり、「賃金」+「利潤」として構成されている。そして、この二要因は次 のように展開する。

① 賃金部分(労働者の所得)→消費財を消費する。

② 利潤部分(企業所得)→ 企業が投資へと生産的に消費する。

ここで、商品の総価値の「総供給=総需要」が成立する条件は、①、②より、

賃金部分はすべて消費財の消費へ、企業利潤はすべて投資へと生産的に消費ヘ とまわる場合である。また、市場価格の変動による商品需給の調整が成立し、

貨幣は、商品相互の交換の仲介物にすぎない。古典派経済学において、貨幣は 流通手段としてとらえられ、貨幣数量説に属する。

これに対してケインズは、総商品の価値について、「総所得」=賃金+利潤 としてとらえた。そして、古典派とは異なり、ストックとしての蓄蔵貨幣、信 用貨幣を煎視するため、貯蓄部分を所得の構成要因とした。以下のように示さ れる。

・「所得=消費+投資」、

・「貯蓄=投資」

「貯蓄=所得ー消費」

所得は、消費と投資という二つの部分に分かれるとした。また、貯蓄とは、

所得の消費に対する超過分として示される。②について、リカードの想定は、

企業利潤部分がすべて総投資へまわる場合に限定されるとした。

(14)

218 立正大学経済学季報第58 4

言い換えるならば、企業利潤部分の自己消費に対する超過部分がすべて投資 される場合、すなわち、「貯蓄=投資」が成り立つ場合に、古典派の理論的前 提が成立する。 21 以上のような前提に対して、ケインズは、貯蓄と投資との 関係は、現実の資本主義経済の動態においては、常にアンバランスが生じると 批判する。

投資の不足の意味

古典派、リカードの想定に対し、現実には貯蓄の一部分が投資されない場合、

その逆の場合について、ケインズは以下のようにまとめた。

③ 貯蓄>投資の場合、総供給>総需要

④ 貯蓄<投資の場合、総供給<総需要

③は、投資の不足、貯蓄の過剰によって、扉用量、企業利潤の縮小、総供給 の過剰になり、デフレギャップが生じる場合である。それに対して、④は、投 資の過剰によって、扉用量、企業利潤の拡大し、総需要が増大し、インフレギャッ プが生じる場合となる。

ケインズが、ここで強調するのは、③の場合である。古典派経済学が想定し なかった問題として、第一次世界大戦後のイギリス経済、そして

3 0 1 9

年代の 世界大恐慌時における、「総供給>総需要」の意味を強調した。その意味は、「投 資需要」の不足の問題として提起された。 31

1

2 「それゆえ、貯蓄額は個々の消費者の集合行動の結果であり投資額は個々の企業者の集合 行動の結果であるにもかかわらず、これら二つの額は、いずれも所得の消費に対する超 過額と同等であるから、必ず等しくなる。あまつさえこの結論は、先に与えた所得の定 義の微妙さや特殊性には、少しも左右されない。所得は当期生産物の価値に等しいこと、

当期の投資は当期生産物のうち消費されない部分の価値に等しいこと、そして貯蓄は所 得の消費に対する超過額に等しいこと、これらはすべて常識にも合致し、大多数の経済 学者の伝統的な用語法とも合致している。」ケインズ []0802 上巻 88

1

3 同上 [8]020 第七章「貯蓄と投資の意味」を参照のこと。

(15)

アメリカ金融危機と世界システムの再編成

( 1 ) 9 1 2

設備投資の主導性とその不足の問題

投資需要の不足の問題を軸に、総供給と総需要との相互関係をとらえるとい うことは、資本主義経済の社会的再生産における、投資拡張要因を動力とする ことを意味する。すなわち、ケインズが、貯蓄に対する投資の不足によって、

生産縮小、雇用の減少がもたらされる点を強調することは、逆に、「投資の貯 蓄に対する超過額の変化は生産最の変化を決める動因」(ケインズ

1 1 1 ] 0 8 0 2 [

頁)であり、投資の増大が、資本主義の社会的生産拡大の甚本条件とならざる を得ない。

したがって、「有効需要の不足」とは、以上のような投資要因の不足であり、

「雇用、利子、貨幣の一般理論」では特に、民間企業の投資活動、期待活動の 構造的不足が強調され。そして有効需要の増大とは、投資要因の増大、投資期 待の増大を意味する。 14 それは、需要一般や消費需要ではない。

更に、ケインズの説く投資要因が、民間企業、とりわけ製造業にとって重要 な課題となるのは、機械設備部分である固定資本への投資、すなわち設備投資 の動因であろう。” した 世界 の主軸産業 炭重工業の停滞においても、固定資本部分の比璽の大きさとその更新の困難さ は、設備投資の不足の要因である。また、アメリカ型大量生産システムにおい

その 産システムの における

決定的意味をもつ。以上の点で、ケインズ有効需要論から、資本主義経済の投 資拡大による生産拡張と、投資減退による産業停滞との二面として導きだすこ

とができる。

1

4 「「貨幣論」の言葉を用いてそれ(新しい考え)を表現すると、投資の貯蓄に対する超過 額が増加すると期待される場合、屈用贔と生産屈が以前のままなら、企業者は雇用益と 生産最を増大させる誘因をもつ、ということになる。現在の議論も以前の議論も、肝腎 なところは、それらが雇用址は企業者が形成する有効需要についての期待によって決め られることを示そうとしていることにあり、「貨幣論Jで定義された、貯蓄に対する投資 の期待増加額は、有効需要増加の一つの H印なのである。」同上 []8002 上巻 111

”宇沢弘文氏は、ケインズにおける企業の活動原理を、パーリー=ミーンズ、ヴェプレン の企業組織論の影評の下に、固定設備の投資を軸とする企業の長期的期待行動に求めて いる。「解題ーケインズと「一般理論J」、同上 []0820 所収。

(16)

2 2

0

立正大学経済学季報第

8 5

4

過少消費説、消費主導説の問題点

これまで、ケインズの有効需要説における、貯蓄と投資のアンバランスを軸 とした、投資要因による資本主義経済の発展/停滞について検討してきた。こ こでその基本構図を、レギュラシオン派のフォーデイズム蓄積循環との対比関 係において、以下のように示してみる。

3

ケインズ型資本主義蓄積循環の基本図式

I

投 資 ー ー ヤ 生 産 性

1--

販売信用

フォーデイズム蓄積論や

1 9

世紀の過少消費説論による、賃金一消費や大衆 消費需要が主導する社会的生産性の拡大の主張とは異なり、ケインズ有効需要 説は、大衆消費を所与とし、そこから独立した投資動力が、社会的生産性を決 定する関係を説いている。その投資要因の問題提起は以下のようになる。

1) 投資一生産性を動力とすることは、その結果である企業所得、賃金所得の 派生要因としての消費、販売信用への投資の結果である消費市場を位置付ける ことになる。この主張は、生産の経済学の否定ではない。

2) 投資が減退した場合、公共投資によって雇用拡大、社会的生産拡大を行う、

有効需要政策が主張され得る。それは、

1 9 3 0

年代大恐慌、産業停滞における、

民間企業投資減退の構造的要囚に基づいている。従って、大衆消費が生産性動 因ではなく、有効需要=投資需要が生産性動囚であることが確定的になる。

(17)

アメリカ金融危機と世界システムの再編成

( 1 ) 1 2 2

有効需要の不足を政府投資で補い、財政赤字・国債発行によるニューデイー ル政策や第二次大戦後の福祉国家政策の展開は、マクロ政策の重要な構成要因 となり、ケインズ理論を正当化するだけでなく、「需要の経済学」として常識 化した。

だが、前述したように、過少消費説やフォーディズム論においては、投資動 力と社会的生産性の関係が不明確であり、 30 年代における産業停滞、投資需 本質的問題が、明らかにされない。その意味において、ケ インズの有効需要=投資需要の減退の理論的問題提起を再確認する必要があろ

設備投資の対象と所得分析の難点

他方で、有効需要説の展開は、「所得」を出発点としているが、

G D P

をはじ め国民所得分析の対象は、一定期間の財・サービスの「付加価値」の総和であ り、いわゆる中間生産物である、固定設備や原材料部分の価値を除いたもので ある。” そのため、設備投資の対象部分を軸とした資本主義生産の動因は、

明らかにならない。ケインズの所得概念が上記のレベルにとどまる限り、投資 需要と消費需要が並列化してしまい、大きな理論的難点となる。 71

そこで、資本主義経済の蓄積の動力とは何か?という観点から、投資の主導 性を整理し直す必要がある。投資対象の主軸は何か?投資決定のメカニズムと

は何か?という問いに答えることは、設備投資を軸とした資本主義的生産のメ カニズムの原理的解明にならざるを得ない。

1

6 国民所得分析は、一定期間の財・サービスの「付加価値」の総和であり、一定期間の「付 加価値部分」増加の割合をもって、国民経済の成長率とする分析方法であり、いわゆる「フ ロー」の事後的合計分析となる。それに対して、固定設備や原材料の総価値は、一定期 問の変化した平面量であるフローでは出てこない部分であり、ある一定の時点で、蓄積 された価値である「ストック」を含むものである。

”ケインズは、投資の「乗数効果」として示される経済成長分析を、消極的要因である「消 費性向」という総所得と消費の関数関係を前提としている。所得フロー分析は、一定期 間で変化した投資の合計はわかっても、ストックとしての固定設備への投賓が、どれほ ど経済全体を牽引するかは示されない。そのため、総所得分析からは、直接、設備投資 部分が、総生産物価値の増大を牽引しているかどうか、という因果関係は示されない。

(18)

2 2

2 立正大学経済学季報第 58 4 号 第 二 章 資 本 蓄 積 の 動 力 と そ の 統 括 機 構

第一節資本主義的蓄積の二つの構造モデル 資本蓄積をめぐる課題

これまで、

0 1 9 3

年代世界大恐慌における産業停滞、主軸産業の停滞を、ア メリカ大最生産システムの独自性と過渡期的性格においてとらえ、そのような 産業構造の再編成に対して、投資動力の減退という理論的問題を提起してきた。

投資動力の減退の根本理由を、消費停滞との対応関係に求めるのか?それと も産業投資、設備投資の減退に求めるのか?これは理論的重大問題であるが、

主軸産業停滞や新産業革命の過渡的性格は、明らかに後者の正当性をあきらか にする具体的問題である。

更に投資動力の具体的内容を、資本主義経済の基本原理に則して再度検討す る必要がある。投資拡張、資本蓄積をめぐる基本課題を、以下に示す。

A

資本蓄積の動力とその構造的パターンとは何か?

B

資本蓄積の自己拡張に対するコントロール機構とは何か?

A

は、まず「資本蓄積の動力は何か?」という問いに始まる。これまで、投 資の動力と主軸産業の問題としてとらえてきたが、それは資本蓄積の動力を、

投資の拡張にもとめる際、全産業ではなく、特定の産業部門の投資拡大による 全体への牽引となる。その意味は何か、問い直す必要がある。それを前提に、

資本蓄積過程における、投資拡大と減退との構造的差異、比較関係を解明して いく。

B

は、投資拡張の場合の資本蓄積の構造的パターンをとらえる場合、企業の 投資拡張の条件とその機構を問うものである。個々の企業の活動基準は、利潤 率(固定設備を含む全資本に対する利潤部分の割合)であるが、それに対する 利子率体系のコントロール機構と貨幣市場を軸とする金融統括機構の基本性格

となる。

(19)

アメリカ金融危機と世界システムの再編成(1) 322 投資拡張の自己目的性の意味

「資本蓄積の動力」を、投資の拡張ととらえる場合、あらゆる産業の全面的 投資拡張ではなく、投資拡大、設備投資拡大のオルガナイザーである主軸産業 の主導性の明確化となる。ここでは、オルガナイザーである特定の産業部門の

「自己拡張」によって、社会的再生産を牽引する、という資本主義的生産の独 自性が問われているからだ。

資本の蓄積過程の拡大、企業利潤の追加投資への拡大は、その競争を通じた

「自己目的性」を資本主義経済の基本原理としている。これは、古典派経済学 を批判的に継承したマルクスが「資本論

J

体系において、商品流通市場を通し た、貨幣蓄蔵の自己目的性を甚礎に、「貨幣の資本への転化」を説いて資本蓄 積過程の墓本動力としていることからも、明らかである。 18

マルクスの時代は、ヨーロッパ資本主義が、産業革命を通して

9 1

世紀半ば の世界市場恐慌、世界市場景気循環に直面していた。当時の新典産業であるイ ギリス綿工業は主軸産業として、周期的恐慌を媒介としたヨーロッパの世界市 場景気循環の産業的オルガナイザーであった。そのことは、世界市場競争を通 じた特定の綿工業を軸とした、「投資の自己拡張」による資本蓄積過程の成立 を意味する。

資本蓄積の二つの構造モデルとその具体的対象

投資の自己拡張による資本の蓄積過程は、特定の産業をオルガナイザーとし た自己目的的拡張であり、労働人口の自然増加を超える加速度的蓄積、発展で ある。主軸産業の確立期をはじめ、過当競争下の設備投資合戦を含み、戦後日 本の高度経済成長や現代中国の製造業の発展などが相応する。これは、古典派

リカード、マルクスが理論対象とした資本蓄積の構造パターンである。

1

8 マルクス)4691( 第一部、第二買「貨幣の資本への転化」、第七篇「資本の蓄積過程」を 参照のこと。資本蓄積の自己H 的性は、ツガン=バラノフスキーによる生産財生産の自 己拡張による社会的再生産の証明の前提となり、過少消費説批判の要となる。

(20)

2 2

4 立正大学経済学季報第85 4

それに対して、ケインズが理論対象とした、

0 1 9 3

年代の大恐慌期の資本蓄 積の構造的パターンは、貯蓄過剰、投資の停滞による不況圧力の下での資本蓄 積過程である。ここでは、有効需要=投資需要不足のために、政府投資の膨大 な投入が行われる。今日

2 1

世紀ヨーロッパ・アメリカ金融危機・産業恐慌に おける政府投資の拡大もこの資本蓄積の構造的パターンに相応する。

以上の二つの資本蓄積の構造パターンの比較関係は、以下の図として示され る。投資の自己拡張による資本蓄積は、壮年期資本主義蓄積モデルであり、投 資の構造的停滞モデルは、老年期資本主義蓄積モデルである。前者は、資本蓄 積の動力であるオルガナイザーの主軸産業が確立し、自己H的的拡張を行う。

後者は、主軸産業の自己拡張が困難であり、オルガナイザーの欠落、あるいは 政府がその代替組織とならざるを得ない。

投資の自己拡張による・

資 本 蓄 積 モ デ ル

◆リカードーマルクス型資本蓄 積モデル

I投 資 こ 貯 蓄 I Iオルガナイザー=主軸産業I

◆「壮年期資本主義型蓄積」

19

世紀ヨーロッパ、戦後日本 高 度 経 済 成 長 、 現 代 中 国 華 南・内陸部の発展

投資の構造的停滞による 資本蓄積モデル

●ケインズ型資本蓄積モデル

I

投 資 く 貯 蓄

I

オルガナイザー#主軸産業

I

⇒ 政 府

●「老年期資本主義型蓄積」

1 9 3

0

年代世界大恐慌、

1 2

紀ヨーロッパ・アメリカ金融恐

4

資本主義的蓄積の二つの構造モデル

(21)

アメリカ金融危機と世界システムの再編成 (1) 522 第二節資本蓄積の自己拡張とその金融コントロール機構

貨幣、貨幣資本のオルガナイザーとしての地位

投資の自己拡張による資本蓄積過程は、主軸産業を中心に、個々の企業の競 争を通じた、労働人口の自然増殖を超える労働力不足、賃金高騰による利潤率 の低下という資本過剰の事態が不可避になる。

だが、利潤率の低下自体は、蓄積の停止に至らないと見るべきであろう。な ぜならば、利潤率低下だけでは個々の企業の活動原理、蓄積が停止には至らず、

現実的には利子率の高騰による決済危機によって停止する。これは、利潤率と 利子率の対抗関係による景気循環過程が、資本蓄積の停止、周期的恐慌を媒介

とする、資本主義的生産の拡大の基本原理であることを意味する。 91

以上の資本蓄積過程では、利子率による利潤率のコントロール機能、利子率 による投資誘因の甚本性格が問われている。それは、「貨幣」が商品世界に対 するオルガナイザー、組織者であり、価格機構を通じたコントロール機能をもっ ているのに対して、より高次な銀行業務や為替業務を行う金融業の循環である

「貨幣資本」が、現実資本である諸産業に対するオルガナイザー、組織者であり、

利子率を軸としたコントロール機能を持つことである。

貨幣資本のオルガナイザーとしてのコントロール機能とは何か?この問い は、マルクスの「資本論

J

体系の「総過程」論における重要課題であったが、

整理し直すと以下のようにまとめることができる。

・産業や企業の個別分散的性格に対する、一定の社会性を持った金融機構

・企業間の信用取引を甚盤とする、利子率によるコントロール機構

1

9 資本主義経済の原理的法則である、躾気循環過程は、実際にはヨーロッパ資本主義にお けるイギリス綿工業を軸とする産業循環であり、

9 1

世紀半ばに成立する世界市場繋気循

とし の 主軸産業 業 と

換して、巨大装置による固定設備投資が必要になる。そのことは、固有の意味での周期 的産業循環が成立せず、世界市場景気循環の周期性は終焉すると見なければならない。

(22)

2 2

6

立正大学経済学季報第

8 5

4

金融の統括機構の意味

産業への利子率によるコントロール機構の基本性格は、個別の産業や企業自 体が直接社会的統括機能を有しているのではなく、決済や貸出の金融によって 企業を、貨幣の間接的な社会的貸借関係のネットワークに組織するオルガナイ ザーの側面である。

そのことは、銀行などの貨幣資本が、産業から完全に自立した存在であるこ とを意味しない。貨幣資本による産業のコントロール機構は、世界的貨幣市場 の一部分である近代的信用制度の成立を前提としており、その値用制度は、企 業間の取引、決済を基盤として成立している。

つまり、その統括機構の産業基盤の意味は、主軸産業を中心とした、企業の 資本蓄積の自己目的的拡張に対して、利子率を軸とした金融統括機構が、蓄積 のアクセルと同時にブレーキ機能をもつ、相互連関関係としての有機的全体で ある。それを図式化すると以下のようになるであろう。

5

資本蓄積の自己拡張とそのコントロール機構の基本図

(23)

アメリカ金融危機と世界システムの再編成(1)

7 2 2

5

は、貨幣資本のコントロール機構の国内的関係を抽象的に示したもので あるが、企業間信用を基盤とする階層構造の頂点に中央銀行信用を置く、近代 的貨幣市場の解明、つまり対外的決済市場に関わる中央銀行信用を軸に利子率 決定機構の解明を必要とする。何故なのか? 20

この問題は、

4 4 8 1

年のイギリスのピール条例における、金準備、対外決済 準備による中央銀行信用の抑制、中央銀行券発行の制約、という連動関係に遡 る。実際、この中央銀行制度によって、当時の国際ポンド基軸体制と同時に、

国内の近代的信用制度、政策の市場的甚礎が確立するからだ。 12

ピール条例をめぐる論争は、今日では、国内的な金融引き締め派か、緩和派 か、という論争に置き換えることができる。中央銀行利子率と、銀行間の短期 資金のインターバンク市場における利子率との相互連関関係の解明、さまざま な金利体系との連関関係も含めて、現代的問題として提起されている。

資本蓄積に対する貨幣市場のグローバルな地位

また、

9 1

世紀半ばのヨーロッパ資本主義において、投資の自己拡張による 資本蓄積過程は、イギリス綿工業を中心とする投資動力であったが、現実には、

綿工業拡張への貿易金融の役割を無視することはできない。

インドヘの綿糸の販売拡張は、貿易為替手形による企業間の信用販売が甚盤 となっていた。ロンドンシティの割引市場によって現金化することによる、投 資資金の拡大という投資動力であった。これは、ロンドンを世界市場の決済セ ンターとする貨幣市場が成立していることが、当時の主軸産業の投資の自己拡 張過程に対する前提条件であった、と言えよう。

2

0 宇野弘蔵は、恐慌論、景気循環論において、金準備、外国貿易の要因を排除して恐慌論 を展開しており、中央銀行信用論を欠いている。そのため、産業への金融の最終的統括 機構が解けていない。宇野の純枠資本主義の想定自体に難点があると言えよう。

2

1 マルクスの「資本論」第三部「賓本主義的生産の総過程論」における、利子論、信用論は、

虹稿段階の未整理な部分が多く、ビール条例をめぐる論争整理が不明確であり、中央銀 行利子率の決定機構を結果的に明確化できなかった。マルクスは経済学研究の初期から、

金流出に対する金廃貨論者への批判を試みているが、最終的には失敗したと言えよう。

またケインズは、第一次世界大戦後のヨーロッパにおいて金廃貨を主張したが、中央銀 行利子率の決定機構を解いているのか疑問が残される。

(24)

2 2

8 立正大学経済学季報第 5 8

4号

以上の資本蓄積の現実的進行過程から、 1 9 世紀の産業革命期における、綿 工業の自己拡張過程が、内部蓄積的競争関係に基づくと同時に、その貨幣市場 による投資動力が、当時グローバルな世界市場によって決定されていたことを 意味する。したがって、図 5 は、そのような世界市場的貨幣市場の一構成要素 である国内的金融統括機構を示したものにすぎない。 (以下続刊)

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