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(外科系プライマリー・ケアー学専攻)

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(1)

糖質制限高脂肪食の摂取が外科侵襲時の 生体反応に及ぼす影響に関する基礎的検討

わ た な べ と も き

渡 邊 智 記

(外科系プライマリー・ケアー学専攻)

防衛医科大学校

平成 30 年度

(2)

目次

第1章 序文 1

第2章 糖質制限高脂肪食摂取が腸管虚血再灌流後の生存に及ぼす影響の検討 2-1.目的 4

2-2.実験1胃瘻造設マウスでの検討 4 2-2-1.対象 4 2-2-2.方法 4 --3.統計学的解析 6

2-3.実験1の結果 6 2-4.実験2経口摂取モデルでの検討 6 2-4-1.対象 6 2-4-2.方法 6 --3.統計学的解析 7頁

2-5.実験2の結果 7 2-6.考察 8 2-7.第2章の小括 9

第3章 糖質制限高脂肪食の経口摂取が腸管虚血再灌流後の循環動態に及ぼす影響 3-1.背景と目的 10 3-2.対象と方法 10 3-2-1.対象 10 3-2-2.方法 10

(3)

--3.統計学的解析 11 3-3.結果 12 3-4.考察 12 3-5.第3章の小括 13

第4章 糖質制限高脂肪食の経口摂取が腸管虚血再灌流後の一酸化窒素に及ぼす影

4-1.背景と目的 14 -2.対象と方法 14 4-2-1.対象 14 4-2-2.方法 14 4-2-3.小腸組織中のNO2- /NO3-濃度の測定 15 4-2-4. Western blotによる小腸組織中inducible nitric oxide synthaseの発現

解析 16 4-2-5.統計学的解析 17

4-3.結果 17 4-3-1.小腸組織中のNO2- /NO3-濃度 17 4-3-2.小腸組織中inducible nitric oxide synthase/GAPDH 17 -4.考察 17 4-5.第4章の小括 19

(4)

第5章 糖質制限高脂肪食の経口摂取が腸管虚血再灌流後の腸管組織傷害、サイト カイン、アディポカインに及ぼす影響

5-1.背景と目的 20 5-2.対象と方法 20 5-2-1.対象 20 5-2-2.検体の採取方法 20 5-2-3.小腸組織傷害度の評価 21 5-2-4.血清中サイトカインの測定 22 --5.小腸組織中サイトカインの測定 22 5-2-6.血清中アディポカインの測定 23 5-2-7.脂肪組織中アディポネクチンの測定 23 5-2-8.統計学的解析 23 5-3.結果 23 --1.小腸組織傷害度 23 5-3-2.血清サイトカインレベル 24 5-3-3.小腸組織中サイトカインレベル 24 5-3-4.血清中アディポカインレベル 24 5-3-5.脂肪組織中アディポネクチンレベル 25 -4.考察 25

5-5.第5章の小括 26

(5)

第6章 糖質制限高脂肪食の経口摂取が腸管虚血再灌流後の炎症シグナルとしての

NF-κBの活性化に及ぼす影響

6-1.背景と目的 28 6-2.対象と方法 28 6-2-1.対象 28 6-2-2.方法 28 6-2-3.Western blotによる小腸組織中NF-κB p65の発現解析 29 6-2-4.統計学的解析 29 -3.結果 29 6-4.考察 30

6-5.第6章の小括 31

第7章 考察 32

第8章 結語 37

謝辞 38

参考文献 39

図表 50

(6)

- 1 -

第1章 序文

糖質制限高脂肪食とは

近年、糖質制限高脂肪食(Low carbohydrate-high fat diet: LCHFD)による栄養介入が肥 満患者の耐糖能を改善し、体重減少や循環器リスクの改善にも有効であると報告され ている(1-6)。その機序に関して、糖質摂取の制限は血糖の上昇を抑制し、インシュリ ンの分泌を下げることで基礎代謝の亢進、中性脂肪合成の抑制、体重の減少をもたら すとされている。糖質制限は、日本糖尿病学会の食品交換表第1版(1965)においてエネ ルギー制限と並ぶ糖尿病治療の大原則とされていたものであり、その歴史は長い。人 間のエネルギー摂取源は大きくは糖質と脂質であることから、糖質が制限されれば必 然的に脂質の占める割合が大きくなるため、「糖質制限」は「低炭水化物+高脂肪 (LCHFD)」と同義となる。しかし、Seven Countries Study(7)が報告された1970年以降は 脂質摂取の増加と心血管疾患との関連が懸念され、十分な科学的検証がされないまま エネルギー制限のみが採用されるようになっていた。2007年のA to Z試験(8)2008 のDirect試験(9)において糖質制限食が体重減少や動脈硬化リスクの軽減に有効である 結果が示され、糖質制限食を糖尿病(10,11)や肥満症(12)の治療として採用するガイドラ インが増え、metabolic syndromeに対する治療オプションとして広く知られるようにな った。

LCHFD による栄養介入は、摂取カロリーの制限を伴う報告もあれば(3,5)、カロリ

ー制限は必要ないとする報告もあり(4)、その介入様式は一定していない。また、長 期間の栄養介入が生命予後にあたえる影響については明らかとはなってはいない。

(7)

- 2 -

糖質制限高脂肪食が侵襲に与える影響について

体重増加や metabolic syndrome の予防効果への期待から、LCHFD の摂取は糖尿病 患者や肥満患者だけではなく健常者の間にも広がりつつある。したがって、今後は待 機手術や緊急手術を行う患者にLCHFDの摂取者が増えてくる可能性がある。LCHFD 摂取では必然的に脂肪の摂取量が増えることになるが、過度な脂質の摂取は脂肪組織 内において慢性的な炎症を惹起すると報告される一方で(13)、LCHFD の摂取が全身 の炎症所見を改善するとの報告もある(3,4)。長期間の高脂質食品摂取が高度侵襲時の 生体反応に及ぼす影響については、酸化ストレスや炎症を増強して致死率を高めると いう報告があるが (14,15)、炎症反応や臓器障害の軽減をもたらすとする報告もあり

(16,17)、結論に至っていない。上記のLCHFD摂取人口の増加の可能性を鑑み、LCHFD

の長期摂取が侵襲時の生体にどのような影響を及ぼすかは、特に外科領域においては 今後明らかにすべき重要な臨床的疑問である。

研究の目的と方法

本研究では、LCHFD の摂取が外科侵襲時の生体反応に及ぼす影響を明らかにする ことを目的に、LCHFD の摂取が1)高度外科侵襲時の生存に及ぼす影響、2)外科 侵襲時における循環動態・臓器傷害・各種パラメーターに及ぼす影響、のふたつの観 点から実験的研究をおこなった。検討には、高度外科侵襲モデルである腸管虚血再灌 (Gut ischemia-reperfusionGut I/R)モデルを用い、LCHFDによる栄養介入をおこな ったマウスにおいて以下の実験を行った。

LCHFDの摂取が

1)マウスGut I/Rモデルにおける生存時間に及ぼす影響

(8)

- 3 -

2)マウスGut I/Rモデルにおける循環動態に及ぼす影響

3)マウスGut I/Rモデルにおける一酸化窒素に及ぼす影響

4)マウス Gut I/R モデルにおける臓器障害・炎症性サイトカイン・アディポカイ

ンに及ぼす影響

5)細胞内の炎症シグナルであるNF-κBに及ぼす影響

高度外科侵襲モデルとしての腸管虚血再灌流傷害(Gut I/R)の病態

高度の外科侵襲後にしばしば生じる炎症反応や臓器障害の機序のひとつとしてGut I/R の病態がある(18-20)。実臨床では、外傷や大手術などで腸管の血流が大幅に低下 した患者がその後の治療で血流が改善する際にGut I/Rが生じる 。その機序としては、

低灌流後に血流が回復した腸管で生じた活性酸素、phospholipase A (PLA)活性化、炎 症性サイトカインなどの炎症性刺激が腸管血管床を流れる血液中の多形核好中球の プライミングと活性化を誘導し、過度に活性化された好中球が体循環を介して遠隔臓 器に至り重度の臓器障害を引き起こすと考えられている(23,24)

また通常の腹部手術においても、腸管や腸間膜の把持、結紮、牽引などの手術操作 によって腸管の一時的な低灌流とそれに続く血流の回復(再灌流)が生じ、Gut I/R に類似した状況が生じていると考えられる。実際に、大腸手術において終刀時の腸管 血流が手術開始時に比べて約半分ほどに減少し、腸管の低灌流状態が生じているとの 報告もある(25)

今回の研究における動物実験プロトコールは東京大学の倫理委員会で承認され、東 京大学大学院医学系研究科・研究ガイドライン(実験系)

(http://www.m.u-tokyo.ac.jp/education/guideline.html)に則り研究を行った。

(9)

- 4 -

第2章 糖質制限高脂肪食摂取が腸管虚血再灌流後の生存に及ぼす影響の検討

2-1.目的

LCHFD 摂取が外科侵襲時の予後に及ぼす影響について、以下に挙げる栄養管理後

Gut I/Rを行って検討した。

1) 栄養摂取量のちがいによる影響を排除するために胃瘻を造設し、同一のエネルギ ー量を投与したマウスモデルでの検討

2)長期間のLCHFD摂取の影響を調べるための経口自由摂取モデルでの検討

2-2.実験1 胃瘻造設マウスでの検討 2-2-1.対象

5週齢のInstitute of Cancer Research (ICR)マウス(雄性)Charles River Laboratories

Japan, INC. Japan)を使用した。マウスは搬入後1週間環境順応させた後に実験を開

始した。動物施設の環境は、温度(24℃)と湿度(60%)、昼夜サイクル(明:12時間,暗:

12時間)を維持した。

2-2-2.方法 胃瘻の造設方法

マウスにケタミン 100 mg/kg とキシラジン 10 mg/kgの混合溶液を皮下に注入し 全身麻酔を施行。約2 cmの上腹部正中切開にて開腹、胃を同定したのちに挙上・反 転させ、胃の後面より滅菌処置をしたシリコンカテーテル(内径0.5 mm,外径0.8 mm

(10)

- 5 -

DETAKTA,Germany)を胃内に挿入し、胃瘻を作成した。カテーテルの近位端は、背側 正中に皮下トンネルを作成し、尻尾の中ほどで体外に出した。その後、専用の飼育ゲ ージ内に入れ、カテーテルを保護するため尻尾の一部を固定した。

栄養投与方法(IG-TPN:intragastric-TPN)

カテーテル挿入後、2日間の回復期間を設け、その間は標準固形食餌と水を自由摂 取させ、生理食塩水を胃瘻カテーテルより0.3 ml/時間で投与した。その後、以下の栄 養介入を行った。すなわち、マウスを通常食餌(Normal dietND)群(n=9)と低糖 質高脂肪食(LCHFD)群(n=13)のいずれかに無作為に割り当て、表 1 で示すよう に成分を調整した TPN製剤を胃瘻より5 日間投与した.(ND群:炭水化物 65% 20% アミノ酸 15%、LCHFD群:炭水化物 25% 脂質60% アミノ酸15%)

腸管虚血再灌流(Gut I/R)手技

栄養介入ののちにGut I/Rを施行した。ケタミン100 mg/kg とキシラジン10 mg/kg の混合溶液を皮下に注入し全身麻酔を施行。約2 cmの上腹部正中切開にて開腹し、

開 創 器 に て 開 創 し 術 野 を 確 保 し た 後 、 肝 下 面 を 展 開 し 上 腸 間 膜 動 脈(superior mesenteric artery;SMA)を同定、microvascular clipを用いて上腸間膜動脈を遮断した。

直ちに仮閉腹を行い、60分間の虚血を行った後に再開腹し、microvascular clipを解放 し虚血を解除した。その後直ちに、皮下に生理食塩水 1 ml を投与し、層々に閉腹し、

術後 72時間までの生存を観察した。術後 12時間までは2 時間毎、それ以降では 12 時間毎に生存確認を行った。

(11)

- 6 -

2-2-3.統計学的解析

本実験で得られた値はmeans±SE で表し、統計ソフトはWindows用のJMP Pro 12 (SAS Institute Japan Ltd, Japan)を使用した。P値は0.05未満にて有意差があるとした。

2群間の生存時間はLog-rank testにて検定。体重については、実験1Student’s t-test 実験2ANOVA repeated measureにて検定した。

2-3.実験1の結果 体重変化

栄養介入後の体重変動は、両群ともほぼ同様であり、群間に有意な差は認められな かった(表2)。

生存時間

再灌流後 72 時間まで生存観察を行い、両群間に生存時間の有意な差を認めなかっ た(p=0.89:図1)。

2-4.実験2 経口摂取モデルでの検討 2-4-1.対象

2-2-1と同様の方法で行った。

2-4-2.方法 栄養投与方法

(12)

- 7 -

1週間の予備飼育の後にマウスに通常食(ND)群(n=29)(AIN-96G、Oriental Yeast Co., ltd. Japan)と、低糖質高脂肪食(LCHFD)群(n=30)(HFD-60、Oriental Yeast Co.,

ltd. Japan)のいずれかに無作為に割り当て、それぞれ3週間自由摂取させた。各飼料

の成分は表3に示すようなエネルギー比率(ND群:炭水化物 65.1% 脂質16.1% 白質 18.8%、LCHFD群:炭水化物 19.6% 脂質62.2% 蛋白質18.2%)であった

Gut I/R手技

--2と同様の方法で行った。

2-4-3.統計学的解析

2-2-3と同様の方法で行った。

2-5.実験2の結果 体重変化

栄養介入後3週間の体重の推移は、平均値でLCHFD群がND群をわずかにうわま わるものの、統計学的な有意差は認めなかった(図2p=0.21 ANOVA repeated measure)。

栄養介入開始前と比較して、栄養介入後の各群の体重の増加率についても有意差は 見られなかった(図3;p=0.17:t-test)。

(13)

- 8 -

生存時間

生存時間の比較では、ND 群と比較して LCHFD群で良好な傾向がみられるも、統 計学的に有意な差を認めなかった(図4:p=0.06 Log rank test)。しかし、再灌流後12 時間の生存率は、ND群で79.3%、LCHFD群で100%LCHFD群で有意に良好であ った。(p=0.01)。

2-6.考察

本章で行った2種類の実験ではGut I/R後の生存に関して異なる結果が得られた。

まず、実験1についてであるが、IG-TPNを用いて摂取カロリー量を等しく調整し、

糖質・脂質の比率のみを変えて栄養介入を行った。結果、両群間には再灌流後の生存 時間に差を認めなかった。この結果から考えられる可能性として、1)LCHFD の摂取 は侵襲後の予後に影響を及ぼさない、2)設定した栄養介入期間が短すぎた、3)TPN 剤中の脂質(大豆油由来)では侵襲時の反応に影響を及ぼさない、などが考えられた。

栄養管理前よりも管理後のほうが両群ともに体重が軽くなっているが、この原因とし ては栄養投与を徐々に増加させたこと、TPN 製剤といういわば成分栄養のみを与え たことにより胃や腸管内に内容物が貯留していないことや胃瘻造設自体が手術侵襲 としてマウスに影響与えたものと推測される。

実験 2 では上記の2)の影響を排除するために、ND 群・LCHFD群ともに経口自由 摂取でかつ比較的長期間となる3週間の栄養介入とした。生存時間について有意差こ そは見られなかったが、LCHFD 群において改善する傾向がみられている。また、再 灌流後12時間という早期での生存率をみると、LCHFD群ではND群に比べて有意に

(14)

- 9 -

生存率が高いことから、栄養介入によって侵襲後早期に予後改善のための治療を行う 機会を提供できるかもしれない。

Gut I/R 後の病態生理として、再灌流後の好中球の活性化、炎症誘発物質や酸素・

窒素由来のフリーラジカルの放出によって血管透過性が亢進し、早期には低容量性シ ョックを後期には臓器障害を起こすことが知られている(26-28)。今日、LCHFD によ る栄養管理が特にGut I/R後の早期生存を改善させたことから、LCHFDが循環動態に 何らかの影響を及ぼしたことが示唆された。この結果をもとに、次章ではGut I/R の循環動態を評価した。

2-7.第2章の小括

本章では、ICRマウスに対して1週間の胃瘻からのLCHFD投与と3週間の経口自 由摂取によるLCHFD投与による栄養管理を行い、Gut I/R後の生存に及ぼす影響につ いて検討した。その結果以下のことが明らかとなった。

1) 胃瘻からの1週間のLCHFDによる栄養介入はGut I/R後の生存に対して影響を及 ぼさなかった。

2) 3週間の経口・自由摂取でのLCHFDによる栄養介入はGut I/R後早期の生存を改 善した。

(15)

- 10 -

第3章 糖質制限高脂肪食の経口摂取が腸管虚血再灌流後の循環動態に及ぼす影響

3-1.背景と目的

第2章にて3週間のLCHFDの摂取がGut I/R後早期の予後改善をもたらすことが 示された。Gut I/R 後早期の死亡の主因として、血液循環量の減少からくる循環動態 の悪化が報告されており(26)、LCHFD摂取がGut I/R後早期の予後改善をもたらす要 因として、循環動態への影響が予測された。本章では、LCHFDの摂取によるgut I/R 後早期の予後改善の機序を明らかにするためGut I/R後の主たる障害臓器である小腸 の血流動態と共に、全身の末梢血流動態に及ぼす影響を検討した。

3-2.対象と方法 --1.対象

第2章と同様の方法で行った。

3-2-2.方法 栄養投与方法

第2章・実験2と同様の方法で行った。

Gut I/R手技

第2章と同様の方法で行った。

(16)

- 11 -

腸管および尾静脈血流の測定

各栄養管理後に第2章の実験と同様の全身麻酔を行い、Gut I/R処置を施行。Moor VMS-LDF(moor instruments. Delaware USA)を用いて腸管血流(ND群:n=6, LCHFD 群:n=6)および尾静脈血流(ND群:n=6, LCHFD群:n=6)を測定した。Moor VMS -LDF は血管や組織の血流量をレーザードップラー法で測定する器械であり、レーザ ードップラー血流計はこれまでに胃・小腸などの腹腔内臓器の血流測定の基礎実験で 使用されている(29,30)。光ファイバーのプローベを用いた血流量の測定部位とタイミ ングに関しては、腸管はTreitz靭帯から5cmの空腸漿膜面を測定位置とし腸管虚血開 始前から再灌流後90分までの間10分毎の測定とした。尾静脈は尻尾の根元から2cm の静脈表面を腸管虚血開始前から再灌流後6時間までの間20分毎に測定した。腸管、

尾静脈共に同じ部位を3回測定しその平均値を用いた。

3-2-3.統計学的解析

本実験で得られた数値は全て means±SE で表し、統計ソフトは Windows 用のJMP Pro 12 (SAS Institute Japan Ltd, Japan)を使用し、P値は0.05未満にて有意差があるとし た。2群間の検定はANOVA repeated measureにて行った。

(17)

- 12 -

3-3.結果 空腸の血流

虚血開始後、両群ともに血流が低下し、再灌流とともに血流の回復がみられた。

LCHFD群は ND群と比べ虚血期間中の血流の低下を有意に軽減し、また再灌流後は

血流の回復の改善が有意であった(図5;p=0.01)。

尾静脈の血流

虚血開始後から両群ともに血流の低下がみられたが、LCHFD 群においてND 群と 比べ有意に血流低下の軽減がみられた(図6:p=0.04)。

3-4.考察

本章ではLCHFD 摂取がGut I/R後にみられる循環動態不全を改善する効果を与え

ているという仮説をたてて実験を開始した。LCHFD群においてGut I/R後の腸管血流 が保持され、末梢静脈血流低下の軽減が認められたことは、この仮説の妥当性を示唆 するものであると考えられた。

次に明らかにすべき課題は、Gut I/R 後の循環動態不全に影響を及ぼす因子を明ら かにすることである。Gut I/R 後の病態において早期から見られ、循環動態に影響す るものとして過剰な一酸化窒素(NO)の産生による血管障害と血管拡張がある(31)。

NOは微小血管を拡張させることで微小循環を改善する働きがあるが、高度の炎症下 で誘導される誘導型 NOS(iNOS)によって過剰に産生される NO はむしろ血管を弛緩

(18)

- 13 -

させ、低血圧を引き起こすことが知られている(31-35)。今回のLCHFDによる循環動 態の改善はNO産生の調節が重要な機序の一つであるかもしれない(36,37)。

-5.第3章の小括

LCHFD摂取はGut I/R後の腸管血流回復を促進させ、尾静脈の血流の低下を軽減し

た。侵襲後の腸管および全身の循環動態の維持がLCHFD 摂取群におけるGut I/R 早期の生存改善に関与している可能性が示唆された。

(19)

- 14 -

4章 糖質制限高脂肪食の経口摂取が腸管虚血再灌流後の一酸化窒素に及ぼす 影響

-1.背景と目的

第3章ではLCHFD の摂取がGut I/R後の循環動態悪化を軽減させることが示され た。この機序として、Gut I/R後に過剰産生され(38)、また虚血傷害の際に循環動態傷 害を引き起こすといわれる NO(39,40)の動態に着目した。本章では、LCHFD の摂取

Gut I/R後の障害臓器である小腸から産生されるNOに対してどのような影響を与

えるかを明らかにすることを目的とし、以下の検討を行った 1) Gut I/R前、Gut I/R後の小腸組織中のNOの濃度の評価

2) 炎症・侵襲時にNOの過剰産生を導く誘導型NOS(inducible nitric oxide synthase :

iNOS)Gut I/R後の小腸における発現解析

4-2.対象と方法 4-2-1.対象

第2章実験2および第3章と同様の方法で行った。

4-2-2.方法 栄養投与方法

第2章実験2および第3章と同様の方法で行った。

(20)

- 15 -

Gut I/R手技

第2章・第3章と同様の方法で行った。

小腸組織採取

これまでに述べた 2 種類の栄養介入(NDあるいは LCHFD 3 週間投与)後に全身 麻酔を行い、Gut I/R処置を施行。虚血前(ND群:n=5, LCHFD群:n=5)および再灌 流後3時間(ND群:n=5, LCHFD群:n=5)・6時間(ND群:n=5, LCHFD群:n=5)

のタイミングで、心腔穿刺による全血採取で犠死せしめた後に全小腸を摘出した(各 群とも)。小腸内腔を 20 ml の生理食塩水で洗浄後、全小腸の中点で口側小腸(空腸) と肛門側小腸(回腸)の半分に離断した。本実験では上腸間膜動脈の遮断と開放により 大きな障害をきたす空腸について以下の検討を行った。

4-2-3.小腸組織中NO2-/NO3-濃度の測定

組織中の NO の濃度は、NO の代謝産物である NO2-/NO3-の濃度を測定することで 評価を行った。

採取したマウスの口側5 cmの空腸組織100 mgを剪刀で細かく刻んだのち,組織用 懸濁液(50 mM Tris-HCl, pH 7.4, 0.5 mM EGTA, 0.5 mM EDTA) に浸漬し,POLYTRON を用いて氷上でホモジナイズ(15,000 rpm、40 秒)した(41)。得られた空腸ホモジネー トを遠心分離(15,000 rpm、30 分、4℃)したのち上清を取り出し,解析に用いるまで -80°C で保存した。解析の前に空腸ホモジネート上清は Amicon Ultra-4 Centrifugal Filter Unit with Ultracel-10 membrane(Millpore社)を用いて除蛋白(7000×g、20分)を行い、

(21)

- 16 -

除蛋白したホモジネート上清をNO2/NO3 Assay Kit-C II (Colorimetric) Griess Reagent Kit (DOJINDO Molecular Technolgies, Inc., Japan) を用いて測定した。

--4.Western blottingによる小腸組織中のinducible nitric oxide synthase の発現 解析

再灌流後3時間(ND群:n=5, LCHFD群:n=5)および6時間(ND群:n=5, LCHFD 群:n=5)に採取したマウスの空腸組織 100mg を剪刀で細かく刻んだのち,protease inhibitor mixtures (Complete; Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)含 有 の RIPA buffer(Thermo Fisher Scientific K.K. Japan) に浸漬し,氷上でソニケーター を用いてホ モジナイズ(output 4, 60 秒) した。懸濁液を15000rpm10分間遠心分離したのち上 清を取り出し,解析に用いるまで-80°C で保存した。9% のポリアクリルアミドゲル

を用いて120 Vの定電圧で電気泳動を行った。電気泳動後、PVDFメンブレンへタン

パク質の転写を行い,24°C2時間、5%スキムミルクでブロッキングを行った。ブ ロッキング後,マウス抗iNOS抗体(BD Biosciences, New Jersey, USA)を用いて4°C 一晩一次抗体処理を行った。膜上の免疫複合体はhorseradish peroxidaseで標識された 2次抗体(Dako Cytomation, Glostrup, Denmark) で処理を行った後,Super SignalTM West Dura (Thermo Fisher Scientific K.K. Japan) で化学発光させ,ChemiDoc Touch Imaging System (Bio Rad. California, USA)を用いて検出した。

(22)

- 17 -

4-2-5.統計学的解析

本実験での値は全て means±SE で表し、統計ソフトは Windows 用の JMP Pro 12 (SAS Institute Japan Ltd, Japan)を使用し、P値は0.05未満にて有意差があるとした。2 群間の検定はStudent’s t-testにて行った。

4-3.結果

--1.小腸組織中NO2-

/NO3-濃度

虚血前の小腸組織中 NO2-/NO3-濃度は LCHFD 群が ND群に比べて有意に高値であ った。再灌流後 3 時間、6 時間においては両群ともに NO2-/NO3-濃度が著明に上昇し ており、いずれのタイミングにおいても LCHFD 群の NO2-

/NO3-濃度は ND 群の NO2-

/NO3-濃度に比べ有意に低値であった (7)

4-3-2.小腸組織中inducible nitric oxide synthase/GAPDH

小腸組織中のiNOSの発現量はGPADHとの比率で相対的に評価した。小腸組織中

iNOS/GPADH 比は再灌流後3時間では両群に有意差を認めなかったものの、再灌流

後6時間ではLCHFD群がND群に比して有意に低かった (図8)

4-4.考察

本章の実験で明らかになったことは以下の2点である

1) Gut I/R前はND群に比して LCHFD群の小腸組織中のNO濃度が高い。

(23)

- 18 -

2) Gut I/R後はこれが逆転し、ND群における組織中のNO濃度がLCHFD群と比して

高くなる。

NOは血管を拡張させることで微小循環を保つ働きがある(42)。しかしながら、NO による微小循環の改善作用が発揮されるのは NO の分泌量が適量である場合であり、

NOが過剰に産生され血管が弛緩してしまうと、昇圧剤に抵抗性のショックをきたす といわれている(43)。Gut I/RにおいてNOが果たす役割については1)保護的に働くと する報告(44)と 2)過剰産生により傷害的に働くとする(27)相反する報告がされている。

この相反する報告はNOの発現機序によって説明がつけられる。NONO合成酵素

(NOS)によって合成されるが、NOS には常時一定量存在する構築型 NOS(cNOS)と、

侵襲・炎症によって誘導される誘導型NOS(iNOS)がある。iNOSの発現には数時間か かると言われており、またiNOSより合成されるNOの量はcNOS100~1000倍に 及ぶと言われている。cNOS 由来のNO Gut I/R直後において微小循環に対して保 護的に働く(43)が、iNOSにより合成された過剰なNOGut I/R後のショック・臓器 障害に大きく寄与すると言われている(27)。これを本実験モデルに当てはめて考える と、LCHFDの摂取は、Gut I/R直後においてはcNOS由来のNOによって腸管の微小 循環を保ち、生体に保護作用的に働くが、時間の経過とともにiNOSが発現する際に はその発現を制御することで NO の過剰産生によるショックや臓器障害を抑制して いると考えられる。

また、iNOSは炎症性サイトカインの存在によって誘導される(44)ことからLCHFD 群は ND 群に比べ、炎症性サイトカインの発現が抑制されていることも推測される。

(24)

- 19 -

本章の実験では評価を行っていないが、Gut I/R 後の炎症性サイトカインの制御も血 流障害改善の重要な原因の一つと考えられる。

-5.第4章の小括

LCHFD摂取による栄養介入は、Gut I/R後の小腸組織中のiNOSの発現を抑制する

ことで、NOの過剰産生を制御し生存の改善をもたらしていることが示唆された。

(25)

- 20 -

第5章 糖質制限高脂肪食の経口摂取が腸管虚血再灌流後の腸管組織傷害、

サイトカイン、アディポカインに及ぼす影響

-1.背景と目的

第4章では、第3章において示されたLCHFD 摂取がもたらすGut I/R後の循環動 態の維持の機序の一つとして、LCHFD摂取によりGut I/R後のNOの過剰産生が制御 されていることを示した。

また第2章の実験にて、LCHFD摂取によりGut I/R後の生存が改善することが示さ れている。Gut I/Rの後期の死因としては臓器障害があり、その因子として NO のほ かに様々なサイトカインの過剰産生が重要であることが複数の基礎研究で明らかに されている(26,45)。そこで、本章では、LCHFD の摂取が後期の死因である臓器障害 や臓器障害を引き起こす要因である組織中の炎症性サイトカインなどのレベルに及 ぼす影響を評価した。

5-2.対象と方法 5-2-1.対象

第3章・第4章と同様の方法で行った

5-2-2.検体の採取方法

第4章と同様に、各栄養管理後に全身麻酔を行いGut I/R処置を施行。虚血前(ND 群:n=5, LCHFD群:n=5)および再灌流後3時間(ND群:n=5, LCHFD群:n=5)と

(26)

- 21 -

6時間(ND群:n=5, LCHFD群:n=5)のタイミングで、心腔穿刺による全血採取で 犠死せしめ、血液、小腸、腸間膜組織を採取した。血液は、心腔穿刺によって得られ たヘパリン全血検体を遠心分離(3,000 rpm、10分、4℃)し、その上清を-80℃にて凍結 保存した。小腸は内腔を20ml の生理食塩水で洗浄後、全小腸のおよそ中点で口側小 腸(空腸)と肛門側小腸(回腸)に離断した。その際、空腸の中点10㎜切片を小腸組織像 の評価のために採取し 10%ホルマリン液にて固定した。残存小腸検体は測定まで -80℃にて凍結保存した。腸間膜脂肪組織は、摘出後に生理食塩水で十分に洗浄し、

-80℃にて凍結保存した。

5-2-3.小腸組織傷害度の評価

摘出し内腔洗浄を行った空腸の中心10 mmを採取し、10 %ホルマリン液で固定し 組織標本を作成した。なお、組織傷害評価のタイミングは、再灌流後6時間の標本の みを用いて評価した。ホルマリン固定した空腸組織を Hematoxylin-Eosin 染色し、過 去に報告されているChiuらの傷害度スコア(46)に従って、盲検下に1匹のマウスにつ 50 絨毛の点数化を行いその平均値を傷害度として評価した。スコアの詳細は、0 点;正常粘膜、1点;絨毛頂点の上皮下の空胞(Gruenhagen space)変性、2点;上皮下 空胞の進展と粘膜固有層からの粘膜上皮の軽度隆起、3点;空胞の陰窩への進展およ び絨毛先端の破綻、4 点;粘膜固有層からの絨毛上皮の脱落、5 点;潰瘍化した粘膜 と粘膜固有層の崩壊であり、数値の増加と共に傷害の程度は高度となる(表4)。

(27)

- 22 -

5-2-4.血清中サイトカインの測定

得られた血清中の各サイトカインレベル(TNF-α、Monocyte Chemotactic Protein-1 (MCP-1)IL-6IL-10)CBA-mouse inflammation kit(BD Bioscience, USA)を用い、フ ローサイトメトリー(BD accuri C6, BD Bioscience, California, USA)で測定した。

5-2-5.小腸組織中サイトカインの測定

採取した空腸組織100mgprotease inhibitor mixtures (Complete; Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)含有の20倍量のlysing buffer (0.75% NH4Cl, 0.01 M Tris, 0.005 M

EDTA) に浸潰、氷上にてPOLYTRONを用いてホモジナイズ(15,000 rpm、40秒)した。

得られた小腸ホモジネートを遠心分離(14,000 rpm、45分、4℃)し、上清を-80℃にて 凍結保存した。

空腸組織ホモジネート上清の各サイトカインレベル(TNF-α、MCP-1、IL-6、IL-10) CBA-mouse inflammation kit (BD Bioscience, USA)を用い、フローサイトメトリー (BD accuri C6, BD Bioscience, California, USA)で測定。また、ホモジネート上清中に含 まれる蛋白濃度をProtein Quantification Kit-Rapid ((DOJINDO Molecular Technolgies,

Inc., Japan)にて測定、蛋白1㎎あたりのサイトカイン値に補正して空腸組織中のサイ

トカインを評価した。

(28)

- 23 -

5-2-6.血清中アディポカインの測定

得られた血清中のアディポカイン(アディポネクチン・レプチン)レベルをそれぞれ

ELISA法にて測定した。血清中のアディポネクチンはマウス/ラットアディポネクチ

ELISAキット(OTSUKA PHARMACETUICAL CO.,LTD, Japan)を用いて、血清中レ プチンはマウス/ラットレプチン測定キット(Morinaga Institute of Biological Science, Inc, Japan)を用いて測定した。

--7.脂肪組織中アディポネクチンの測定

採取した腸間膜脂肪組織を抽出用緩衝液(10mM HEPES, 1%Triton-X, 1mM EDTA ) に浸漬、氷上にてソニケーターでホモジナイズした。得られたホモジネートを遠心分 離(15,000 rpm、10分、4℃)し、上清を-80℃にて凍結保存した。

ホモジネート上清中のアディポネクチンを マウス/ラットアディポネクチン ELISAキット(OTSUKA PHARMACETUICAL CO.,LTD, Japan)を用いて測定した。

5-2-8.統計学的解析

第4章と同様の方法にて行った。

5-3.結果

5-3-1.小腸組織傷害度

各群の代表的な空腸粘膜の顕微鏡写真を図9に示した。絨毛丈や組織構造はND

よりもLCHFD群において保持されているように観察された。実際に組織傷害度score

(29)

- 24 -

を計算したところ、ND 群が LCHFD 群よりも有意に高得点であり、より高度の粘膜 傷害を認めた(図10)。

--2.血清中サイトカインレベル

再灌流後3時間と6時間での血清TNF-αレベルは、いずれもND群が LCHFD群に 比べて有意に高値であった(図11:p=0.02)。また、再灌流後3時間の血清MCP-1 ベルは、ND 群が LCHFD 群に比べて高い傾向があった(p=0.08)。IL-6、IL-10 に関し ては両群間に有意差を認めなかった。

5-3-3.小腸組織中サイトカインレベル

再灌流後 6 時間での小腸組織中の TNF-α、MCP-1、IL-6 レベルは、いずれも ND 群 が LCHFD 群 に 比 べ て 有 意 に 高 値 で あ っ た(TNF-α:p=0.02, MCP-1:p=0.003,

IL-6:p=0.004)。IL-10は両群間に有意差を認めなかった(図12)。

5-3-4.血清中アディポカインレベル

血清中アディポネクチンレベルは再灌流後3時間においてLCHFD群がND群より も有意に高かった(p=0.02)。また、虚血前、再灌流後 6時間では LCHFD 群が ND よりも高い傾向を示していた(0h:p=0.07,6h:p=0.06 図 13)。一方、血清中のレプ チンレベルは両群ともほぼ同レベル有意差を認めなかった(図14)。

(30)

- 25 -

5-3-5.脂肪組織中アディポネクチンレベル

脂肪組織中のアディポネクチンレベルは虚血前、再灌流後3時間、再灌流後6時間 のいずれのタイミングにおいても LCHFD 群が ND 群に比べ有意に高値であった (0hp=0.0063hp=0.036h:p=0.002)(15)

5-4.考察

本章では、LCHFDの摂取がGut I/R後の臓器障害、サイトカイン、アディポカインに 及ぼす影響について検討した。その結果、LCHFDの摂取によりGut I/R後の組織傷害は 軽減され、血清中のTNF-α、小腸組織中のTNF-α, MCP-1, IL-6の過剰産生は減弱するこ とが示された。

TNF-αはNOと並んでGut I/Rの際の組織傷害・循環障害に重要な役割を果たす炎症性 サイトカインであるとされている (26,45)。小腸組織中におけるこれらの炎症性メディ エーターがLCHFD群においてND群より低値に制御されていることによって組織傷害 が軽減されていると推察することができる。また、小腸組織中のMCP-1の活性がLCHFD 群において抑えられていることから、マクロファージの活性化・マクロファージ由来 の炎症性サイトカインへの影響が示唆された。

これらの炎症性サイトカイン産生軽減の理由の一つとして考えられたのがアディポ ネクチンの存在である。アディポネクチンは抗炎症性作用をもつアディポカインであ り、LCHFDの摂取で産生が増加するといわれている(4)。そして、虚血再灌流傷害時に はその傷害を軽減するメディエーターであることも報告されている(47-50)。アディポ ネクチンは単球の血管内皮細胞への接着を濃度依存性に抑制し(51)、マクロファージか

(31)

- 26 -

らの炎症性サイトカイン分泌のうち,TNF-α 発現のみを特異的に抑制すると報告され ている(52)。すなわち、血中のアディポネクチンの血中濃度が高いLCHFD群において

は、TNF-αの産生が抑制されていると考えられる。アディポネクチンは脂肪細胞から分

泌されていることから、傷害臓器である腸管の近傍に存在する腸間膜脂肪織中のアデ ィポネクチンを測定したところ、LCHFD群で侵襲前・侵襲後のいずれのタイミングに おいてもND群よりも有意に高いことが示された。この腸管膜脂肪組織中におけるアデ ィポネクチン産生の増加はLCHFD群における血清中のアディポネクチンの増加や

TNF-αの抑制につながったと思われる。一方、レプチンは炎症促進作用をもつアディポ

カインと言われているが(53,54)、本実験ではLCHFD群とND群の間に有意な差を認めて おらず、本実験モデルにおいては影響を及ぼしていないと考える。TNF-αは炎症性サイ トカイン産生のカスケードにおいて最初に産生が高まるサイトカインであり、その上 昇がほかの炎症性サイトカインの産生を刺激する。LCHFDによるアディポネクチン産 生増強はTNF-α産生調節を介してIL-6やMCP-1のレベルも抑制している可能性がある。

また、炎症性メディエーター産生の細胞内シグナルにもLCHFDが影響を及ぼしてい る可能性があると考え、次章ではその重要な因子であるNF-κBの活性化を検討するこ ととした。

5-5.第5章の小括

本章ではLCHFD の摂取がGut I/R後の腸管組織傷害度、炎症性サイトカインレベ

ルやアディポカインレベルに及ぼす影響について調べ、以下のことが明らかになった。

LCHFDの摂取は

(32)

- 27 -

1)Gut I/R後の腸管組織傷害を軽減させた。

2) Gut I/R後の炎症性サイトカインレベルの制御をもたらした

3) 血中・脂肪組織中のアディポネクチンレベルを高め、抗炎症性に作用する可能性 が示唆された。

(33)

- 28 -

第6章 糖質制限高脂肪食の経口摂取が腸管虚血再灌流後の炎症シグナルとしての

NF-κBの活性化に及ぼす影響

-1.背景と目的

第5章において、LCHFDの摂取がGut I/R後の組織傷害や炎症性サイトカイン過剰 産生を抑制し、その機序にアディポネクチンが関与する可能性が示唆された。炎症反 応転帰を決定する重要な因子として、転写因子であるPA-1NF-κBの活性化が重要 であることが知られており、Zouらは、特にNF-κBGut I/Rの病態生理において重 要な役割を果たしていると報告している(55)。活性化したNF-κBは細胞膜から核内移 行し,炎症性サイトカインや接着分子,その他のタンパク質の遺伝子発現を調節する 転写因子として機能する。本章では核内移行した NF-κB のヘテロタイプの一つであ p65Western blottingにて発現解析し、LCHFDの摂取がGut I/R後の小腸組織中

NF-κBの活性度に与える影響について評価することを目的とした。

6-2.対象と方法 6-2-1.対象

第2~第5章と同様の方法で行った。

6-2-2.方法

第4章と同様の方法で行った。

(34)

- 29 -

6-2-3.Western blottingによる小腸組織中NF-κBp65の発現解析

採取したマウスの空腸組織 100mg を剪刀で細かく刻んだのち、protease inhibitor mixtures (Complete; Roche Diagnostics, Mannheim, Germany)Phosphatase inhibitor Cocktail Solution (Wako)含有のRIPA buffer(Thermo Fisher Scientific K.K. Japan) 1ml に浸漬し,氷上でソニケーター を用いてホモジナイズ(output 4, 60 秒) した。懸濁液

15000 rpm10分間遠心分離した後に上清を取り出し,解析に用いるまで-80°C

保存した。9% のポリアクリルアミドゲル を用いて120 Vの定電圧で電気泳動を行 った。電気泳動後、PVDFメンブレンへタンパク質の転写を行い,24°C2時間、5%

スキムミルクでブロッキングを行った。ブロッキング後,マウスNF-κB p65抗体(Cell

Signaling TECHNOLOGY,Inc., USA)を用いて4°Cで一晩一次抗体処理を行った。膜上

の免疫複合体は horseradish peroxidase で標識された 2 次抗体(Dako Cytomation, Glostrup, Denmark) で処理を行ったのち、Super Signal TM West Dura (Thermo Fisher Scientific K.K. Japan) で化学発光させ,ChemiDoc Touch Imaging System (Bio Rad California, USA)を用いて検出した。

6-2-4.統計学的解析

第4章と同様の方法にて行った。

6-3.結果

再灌流後3時間、6時間ともにLCHFD群においてNF-κB/GAPDH比がND群より 有意に低かった(図16)。

(35)

- 30 -

6-4.考察

5章では細胞間伝達物質であるメディエーターを評価することでLCHFD摂取に よる侵襲後の生体反応に及ぼす影響を評価してきた。本章では、細胞内伝達シグナル を評価することで、LCHFD 摂取が炎症抑制に及ぼす影響を検討した。小腸組織中の

NF-κB p65の発現を評価したところ、LCHFD群では ND群に比して有意にその発現

が抑制されていた。NF-κB は炎症性サイトカインやムコ多糖(LPS)などの刺激により 活性化し、NOS TNF-α・IL-6 をはじめとした炎症性メディエーターの産生を促進 させる働きがあるとされている(56)Gut I/Rにおいても、NF-κBを選択的に阻害する と傷害が軽減されることが報告されており(55,57)、このシグナル伝達経路の評価は

LCHFD 摂取が Gut I/R 後の予後改善をもたらす機序として重要な役割を果たしてい

ることが考えられた。

NF-κBの阻害因子はIL-4, IL-10, TGF-βのような抗炎症性サイトカインやvitamin Eなどをはじめとして非常に多岐にわたっており(58)、PPARsを介したアディポネク チンによる転写阻害(59)もその一つである。本研究モデルにおけるLCHFD 摂取群の アディポネクチン産生増加は、NF-κB の活性化抑制の因子の一つとして確かに挙げ ることできる。しかし、第 5 章で示されたように腸管組織傷害軽減していることに よる粘膜バリアの維持がLPSやその他の炎症関連分子の浸潤を防ぐことで炎症の悪 化を抑制した、まだ評価していないNF-κB抑制メディエーターの存在などがLCHFD 摂取によってもたらされている、などの可能性があり、これらが相まって LCHFD 摂取群がND群にくらべてNF-κB活性化を大きく抑制させた可能性は否めない。

(36)

- 31 -

6-5.第6章の小括

本章では、小腸組織中の NF-κB p65 の発現を解析し、Gut I/R 後の組織中にける

NF-κBの活性化を評価した。

その結果、LCHFD 群では NF-κB の活性化が抑制されていることが明らかとなり、

このシグナル伝達経路の修飾がLCHFD摂取によるGut I/R後の予後改善のメカニズ ムの一端を担っている可能性が示唆された。

(37)

- 32 -

第7章 考察

糖質を制限し、その代替として脂肪を多く摂取することについては、心血管イベン トのリスクを高める、炎症の増悪をもたらす等の負の既成概念から(13-15)、当初は生 体に不利益に働くことが懸念されていた。しかし近年、脂質に対する見解は変わりつ つある。飽和脂肪酸摂取量と脳心血管イベント発生は関係がないことが報告され(60)、

総脂肪摂取量と飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸の摂取量を階層化して4群に分けて総死亡 率や病因別死亡率を解析した研究ではいずれも群間に有意差はないと報告されてい る(61)。このように脂質についての評価が変わりつつあり、脂肪を多く摂取すること は一概に害悪とは言えなくなっている。

一方、LCHFD による栄養介入が外科侵襲時の生体反応に及ぼす影響に関する知見 は限られている。動物侵襲モデルを用いて高脂肪食による栄養介入の意義を検討した 研究の報告はあるものの(14-17,62,63)、高脂肪食がGut I/Rに及ぼす影響についての報 告は少ない(64)。さらには、LCHFDGut I/R後の腸管組織由来の炎症性サイトカイ ンや脂肪組織中のアディポネクチンに与える影響まで評価したのは本研究が初とな るものである。

LCHFDの摂取がGut I/R後の生体反応についてどのような影響を及ぼすか、結果と

その機序について本研究で明らかになったことを図 17 に示し、それぞれの項目につ いて考察を加える。

2章では、2種類の実験モデルを用いて生存観察を行った。胃瘻を投与経路とす 1週間の栄養介入ではGut I/R後の生存には影響を認めなかったが、3週間の経口

(38)

- 33 -

摂取によりLCHFDの意義を確認したところ、LCHFDGut I/R後早期の予後改善に 寄与する可能性が示唆された。この実験結果から、LCHFD 摂取により侵襲後早期の 炎症が抑えることで、高度侵襲を伴う外科治療における早期の治療成績の上昇につな がる可能性が窺われる。動物実験で得られた結果であるため、そのままヒトに外挿す ることはできないが、一般的に広まってきている栄養療法が侵襲時の生体反応に有効 に働く可能性があるということは重要なことであると言えよう。高度肥満患者に対す

bariatric surgery の術前に厳しいエネルギー制限のもと一定期間の糖質制限食を行

うと外科合併症が低下することも報告されているが(65)、本研究では自由摂取のもと

LCHFD 摂取による予後改善を認めた。LCHFD 摂取による抗炎症作用はエネルギ

ー制限がなくともその恩恵をえられる可能性が示唆される。

続いて第3章では、早期死亡改善の機序を明らかにすべく循環動態の評価を行った。

循環動態の評価は本来であれば動脈にカニュレーションをして直接的に動脈圧を測 定すべきであるが、マウスでの安定した測定は困難であり、今回の方法を採用した。

腸管の血流測定は開腹下にて施行したため麻酔時間の制限より短時間の測定となっ たが、LCHFD を摂取している群は虚血に強く、再灌流後も血流がより安定するとい う結果が得られた。臨床的な観点からこの結果の意義を考えると、出血や血管のクラ ンプで虚血状態となった臓器に対する保護作用が通常栄養管理群よりもLCHFD摂取 群の方が強いということが推測される。また、虚血再灌流後に引き起こされるショッ クに対し末梢循環の維持もなされるという結果は、高度侵襲時における治療への反応 性が高くなる可能性が考えられた。

図 4:経口摂取モデル  腸管虚血再灌流後の生存曲線
図 5:Gut I/R 後  小腸血流動態(mean±SE)
図 11  Gut I/R 後の血清中サイトカインレベル(mean±SE)
図 13:Gut I/R 後の血清中アディポネクチンレベル(mean±SE)
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参照

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