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対話からの地域 活動
健康教育情報学の試み
守山正樹/松原伸 ̄可 箸
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園篠原出版
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対話からの地域保健活動
健康教育情報学の試み
守山正樹/松原伸一著
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ン囮篠原出版
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まえがき、
まえがき
1.本書のねらい
高齢化社会を迎えた我が国では,健康が人生の主要な価値として注 目され始めている.一方,社会の情報化も急激に進行している.人類 はいまだかって,これほど大量の`情報を提供されたことがないときえ 言われている.健康に関する状況も例外ではなく,健康増進に関して も,‘情報が満ち溢れている.人々がより良い健康水準に達するために は,統制のとれた健康管理の組jWHi作りが必要であることが,これまで 繰り返し指摘されて来た.こうした従来の発想に立てば,高度に情報 化されつつある社会でよりいっそうの健康と長寿とを達成するために は,健康管理体制をますます強化し,通信ネットワークを馬区使して,
健康に関する情報を管理し,,情報伝達の効率化を図ることが,とるべ き道と考えられよう.しかし,本当にそれでいいのだろうか?
‘情報を有効に利用するために,効率の良いネットワークが必要なこ とは言うまでもない.しかし効率の良いネットワークだけあっても,
問題は解決しない.「健康増進に関する重要な`情報は,健康を管理す る組織の中枢にあり,地域住民は一方的にその`情報を受け止める」,
という従来のモデルでしている限り,いくら情報伝達の効率をよくし ても,自立的な健康増進は望めない.中枢からの情報伝達の効率を重 んじるピラミッド型のネットワークとは逆に,ネットワークの末端に ある,個別のささやかな`情報を重んじる立場もありえよう.地域保健 の場に立てば,個別の住民の考えを大切にして,そこから健康`情報を 見ていこうとする立場である.しかし,こうした立場からの具体的な 問題提起はまだあまりなされていないように思われる.
本書の目的は,地域保健活動について,教育`情報工学からの接近を とおし,個々の住民からの`情報発信を模索することにある.教育`情報 工学は,工学から教P盲をみる視点がある新しい科学である.一方地域
Ⅳ
保健活動は,実践的な面が強く,伝統的な学問領域としては,公荊蔚 生学,衛生学がそれに相当しよう.衛生学と教育情報工学という異な った学問分野に属する2人の著者が,長崎県で地域の保健の問題を共 に考えるうちに,本書が生まれた.
2.本書における対話形式について
本書ではまず,住民と保健医療従事者との間のコミュニケーション が円滑に進行しなかった1事例を取り上げて,問題提起を試みた.ま た対話によるコミュニケーションの検討を通し,個々の住民が情報を 発信するに至る糸口を見出すことに務めた.
対話は人間と人間との触オI/合いの中で起こる日常的な行為である.
人間として生きてゆくためには不可欠のものだが,あまりにも当り前 のものだといえる.人の生存にとっての空気のように,その存在を意 識することさえ忘れることがある.こうした“空気',のような対話を 研究の対象とするためには,「対話の,どこを,どう問題とするのか」
を意識化する作業が必要となろう.そもそも,対話を研究の対象にす るとは,一体どういうことなのだろうか.対話が阻害されるというの は,それほど大きな問題なのだろうか.
例えば,ある社会が特定の言語を使用するいくつかの集団に分割さ れているなら,対話によるコミュニケーションが円滑に進まないこと は容易に予想できる.少なくとも,現在の日本はこうした状況にはな い.しかし,この本を読み進めていただけばわかるように,実は現代 の日本においても,保健・医療の現場において,コミュニケーション の阻害が存在する.対話の阻害が,個々の住民からの情報発信を妨げ ていることは間違いない.しかし,なぜこうしたことが起こるのだろ
うか.人々が多'忙のために,対話に時間を割けないからだろうか?
この本の著者である守山と松原は,この数年間の試行錯誤によって 得た,対話を意識化し,活性化してゆくための知見を,1人でも多く
の方々と共有するために,本を書くことを`思い立った.しかし,我々 が歩んだ道のりを他の方々に理解していただくためには,どんな風に
まえがきV
本を書いていったらいいのだろうか?多くの方々に我々の問題提起 をご理解いただき,共に考えていただくためには,どんな文体が適切 なのだろうか.よりわかりやすくすることを目指して,検討を重ねた 結果,本書そのものを対話の形で書いていくことが,当初の目的に最
も適うものであると考えるに至った.
この本は,2人の著者の分身であるA氏とB氏という人物の対話に よって進行する.この対話のほとんどは,我々の実際の経験に基づい ている.対話体は,表現として親しみやすい反面で,欠点も持ってい る.短い時間で要点を知りたい読者にとっては,対話体は煩わしいと 感じられるかもしれない.そこで本書では対話を中心としながら,対 話の持つ欠点を克服すべ<,章の始めと文章の途中にまとめをいれた.
3.本苞「の構成について
本書は2つの部から構成されている.第1部の骨格を形成するのは,
地域保健↑舌動における対話の在り方から問題提起した最初の2つの章 と,第3章以下に述べた対話を活性化するための4つの手法である.
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図0-1.対話活性化のための4つの手法
第1部の各章では,これらの手法をめぐって,地域保健活動の場での 問題提起から手法の提案に至る経i量と,その手法の適用に関する試行 錯誤の過程とが述べられている.各章は,その範囲内で一応のまとま りを指向しているが,同時に,それに引き続く章への問題提起を行な っている.
Ⅵ
また各章で検討する個別の手法は,相互にゆるい関連性を形成しなが ら,最終的には第1部の目標である“楽しく創造的な保?'達?舌動',ヘと つながっている.10個の章が形成する第1部全体のイメージの構造 を以下の図0-2に整理した.
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図0-2.第1部の章構成のイメージ図
第1部で提案した手法のうち“手書き顔グラフ,,については,2つ の地域保|達の現場において実用化された.第Ⅱ部で取り上げるのは,
現場における手法の展開と,それによる対話の活性化の方向である.
第Ⅱ部冒頭の第11章では,福岡市と長崎県北松浦郡福島町における実 用化への歩みを紹介している.第12,13章では,実用化の過程で得ら れた発見と,そこからの新たな問題提起を論じた.最終の第14章では,
今、後に残された課題をまとめた.
第Ⅱ部で出会う現場の多種多縢様な経験から,積極的に学んでゆくた めには,第1部での経験から形成された“物の見方に関する枠組み.
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まえがきⅦ
視点,,を,さらに柔軟なものに組み変える必要がある.こうした枠組 み・視点の変容を,以下の図0-3に表わした.
4 今 弓
図0-3.第Ⅱ部の章構成のイメージ図
本書が,地域の新鮮で具体的な保」建の問題に触発されて生まれたこ とを考えるなら,まず地域保健活動に従事されている多くの方々,特 に保健婦,栄養士,医師などの方々,さらに地域保健活動に興味のあ る医学,保健学,看護学,栄養学などの学生諸君に読んでいただきた い.また本書に現われてくる発想や方法の多くが,教育情報工学にル ーツを持つものであることを考えるなら,人と人との対話による情報 伝達と教育とに関心のある方々にも是非,読んでいただき,ご意見を いただければ幸いである.
1991年1月
守山正樹 松原伸一
目次Ⅸ
目次
まえがき---------m
第1部具体的な方法を求めて
第1章現われて来た問題点
3
第2章対話からの課題一一一一一一---------------15 第3章伝える,その1顔グラフの基本
29
第4章伝える,その2顔グラフの発展
41
4.1手書き顔グラフの開発-----------------42
4.2顔グラフの評価
45
第5章‘思考と行動を可視化する,その1構造化法の基本--55
第6章思考と行動を可視化する,その2構造化法の発展---69
6.1保`I層呰行動構造化カードの開発
70
6.2構造化法の応用1,リスクファクターの認識----75 6.3構造化法の応用2,カードの多様な利用に向けて-83
第7章内的な基準を可視化する,認知図
91
X
第8章調べて整理する,データベースの活用
105
第9章統合に至る道筋
121
9.1顔グラフから-----------------------122 9.2保健7行動構造化カードから
127
9.3データベースから
132
第10章楽しい方法と行動変容
141
第Ⅱ部方法からの旅立ち
第11章二つの事例
153
11.1福岡市南保健所の事例
154
11.2長崎県福島町の事例
161
第12章独り歩きから学ぶ
171
第13章多様'性と討論
185
第14章教育情報工学と健康教育情報学,今後の課題
197
参考・引用文献
207
索引
211
あとがき
215
第|部具体的な方法を求めて
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現われて来た問題点
健康のためになるはずなのに,健診を受 診しない人々がいる.なぜなのだろうか?
多肢選択式調査表で得られた初回調査から の結論は,もっと深い理由への入口にしか すぎなかった.一見完壁に見える健診シス テムの中に,実は「あいまいさ」が隠され ている.この「あいまいさ」を見つめるこ とこそが,問題解決への第1歩になる.
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1.1ある調査の恩し、出
八.なぜ健診を受Ⅱ診しないのか?その理由を探ることから我。、hlw〆|枡~i--.ポ ヌRj-l…iニエー「江mWT'
々の仕事iが始まった占い〃■■JTJJijLいいか:ハイし■ゴイノト■でw■■■1
A氏:健康診断(健診)は,健康であるかどうかを確認するための,
高度に組織化された技i夫です.病気の発見率を上げるために,さまざ まな検査が組み合わされて行なわれます.通常はまず病気の見落とし をさけるために,簡単な検査で異常の可能性のある人をすくい上げ,
その後により精密な検査で異常があるかどうかを確認しようとします.
病気を早目に発見すれば,早期治療に持ち込むことができるため,多 くの地域で人々が健診を受ける比率(受診率)を上げる努力がなされ ています.しかし強力に健診受診を呼びかけても,すべての人が受診 するわけではありません.しばらく前のことですが,S町のある地域 で成人病I建診の受診率がなかなか上がらないことがありました.そこ で,なぜ健診を受診しない人がいるのかを,調査することになりまし た.それほど大きな地域ではありませんでしたので,受診した人のい る世帯も,受診した人のいない世帯も含め,その地域の全世帯を訪問 して聞き取り調査をした上で,受診者と非受診盲者とで何か差があるか を比較しようとしたのです.
B氏:ちょっと待ってくだきい、なぜ健診を受診しないかを知り たかったはずなのに,実際は,まず受診者と非受診者とを見比べて,
どこが違うかを知ろうとしたのですね.
A:そうです.受診者と非受診者とを多方向から比較してゆけば,
両ii詳には何か差があるはずで,その違いを詳しく見てゆけば,非受診 理由がわかるはずだと考えたわけです.
B:それで,具4本的にはどんなことを調べたのですか?
A:できるだけ広く非受診の背景を理解するために,性別,年齢,
からはじめて,家族構成,職業のような社会経済的な要因,これまで にかかったことのある病気の種類や自覚症状のような健康状態,労働
1現われて来た問題点5
時間や生活時間,食事の好みなど,全部で150項目以上の要因を,
○×式の多肢選択式調査表(可能`性のある選択肢が予め印刷してあっ て,当てはまる項目に○か×をつけて答える調査表)で調べました.
また非受診の理由として考えられるものを,いくつか列挙し,やはり 多肢選択式調査表で調べました.
1.2表向きの非受診理由
3F受診理由の調査からツー応結論が得られたjしかしこの 結論はどこか表面的な感じがした。なぜなのだろうか?
B:それで非受診ヨ理由の調査は順調にいったのですか?
A:なんとかやりとおしましたが,こういう調査はもうあまりや りたくないと思いました.最初の1日を終了した時点で,この地域の 住民がこの調査を決して歓迎していないことが理解できたからです.
B:どんな問題点があったのですか?
A:相手の個人生)舌にまで立ち入ったことを,多肢選択式調査表 を用いて,機械的に聞き取ろうとしたことが第1の問題点だったよう に思います.相手の顔を見る余裕もないままに,聞き取った内容にた だ○×をつけるだけで精一杯で,それでも30分以上かかってしまい ました.相手の方が何か他のことを話したそうにしておられた場合も,
それをさえぎるようにして質問を続けたため,人によっては,途中か ら明らかに不愉快そうな顔をしていた人もいました.
B:相手とのコミュニケーションが十分に成立しないままに,聞 き取りを強行したために,そういうことになったわけですね.それで も調査を中止することはしなかったのですか.
A:莫大な費用を使い,最高の設備を用いて行なう,組織的な健 診は,かくれている病気を見つけるのにとてもいい機会だと信じてい ました.せっかくのいい機会を利用しないでいる人をなんとか減らそ
6
うと思っていました力、ら,調査は最後まで続けました.
B:それで,どんな結果がでたのですか.非受診の理由は明らか になったのでしょうか?
A:まず背景を比較してみると,受診者に比較して,非受診者は その地域における居住年数がやや短く,また商業に従事している人の 比率がやや多いことがわかりました.非受診の理由として7項目上げ た中では,①健診当日に忙しかったから,②どこも体に具合の悪いと ころはない,の2項目について,非受診者は受診者より高値を示しま
した.
B:その結果について,どう考えたのですか.
A:完全に満足したわけではありませんでしたが,一応これで非 受診者のあらましがわかったと思いました.対策としては,①I建診を さらに受けやすいものにするために,健診の時間帯を昼だけでなく,
夜にも設定し,また②健診の意義を十分に理解していない人に教育す るため,特に商業に従事している世帯について,健診の必要な理由と 案内を手紙と電話の両方でする,などを行ないました.
B:対策の効果は現われましたか?
A:対策後に受診率が20%ほど上昇しました.一応効果があっ たと考えたわけです.
1.3調査後に見えてきた問題点
健診の結果,正常と判定されたある住民が,その後に健診 を受診しなくなった.
A:非受診]理由の調査後2年ほどしてから,その地区で健康相談 を行なうことになりました.
1現われて来た問題点7
B:以前の非受診理由の調査と,2年後の健康相談とは,まった くことなるものだったのですか.
A:最初の調査の時は,何か具〆体的な成果を出して,学会に報告 したり,成果を直接に受診率の上昇へと結びつけようとしていました.
しかし健康相談の時は,そうした義務がまったくなかったので,調査 表なしに落ち着いた雰囲気で自由に話が聞けました.
B:何か新たな発見がありましたか?
A:調査のときには気がつかなかったことが,いろいろと出て来 ました.その1例が,最初の健診のときに検査ニイ直に軽度の異常があっ たので,近所の病院を受診して,さらに詳しく調べてもらうように言 われた事例です.精密健診を受け,その結果が正常とわかったあと,
その人は気分を害して,健診を受診しなくなってしまいました.
B:それは,あまり予想しなかった出来事なのですか?
A:はい.健診は検査:数値によって病気の有無をできる限り厳密 に判定するために行ないます.病気の見落としをさけるために,まず 最初は異常が多少疑われる程度でも,原則としてもっと精密な検査を 受けるように誘導し,そして精密な検査で異常の有無を最終的に確認 するという手順をとります.つまり検査値をたよりに,疾病が疑がわ しい場合は検査を繰り返すという方法で,疾病の有無の確認が行なわ れるのが普通です.こうした現行の健診の方法は,長年かけて洗練さ れて来た効率のいいシステムであり,適切に運用きれているならまっ たく問題はないと思っていました.ところが,こうした適切な手順を 踏んで,正常と判断されたある住民が,正常であることを喜んでくれ
るのではなく,気分を害した,というのはショックでした.
8
1.4非受診蚤里由としての‘`正常半1」定,,
「完壁な健診システムで健康の判定をしてもらった人が,
気分Lを害してと,そ■の後の健診を受診しなくなる?」~そ'んな ことがありうるのだろうか.
B:こみいった話のようなので,フローチャート(流れ図)で示 していただけますか.
正のフィードバック 来年もまた検肩
丹 精査|
の‐勧め’里|安心する
不満に、う
矢師15
負のフィードバック
図1-1.血圧測定後に生じた健診への否定的態度の1例
(1次検査で血圧が富jめであるとされ,その後の精査で改めて 正常であることを告げられた場合)
A:図1-1をみてください.年1回の健診でなんらかの異常が 疑われると,被験者は精密検査を受けるように勧められます.「心配 なところがあるから,もっと詳しい検査を受けるように」と言われた 時に,多少の不安を感じる人がいるかもしれないことは,ある程度予 想できます.しかしこの事例の場合には,相当に強い不安を感じたよ
うです.しかし,その後に受けた精密検査では異常が見つかりません でした.その結果,「こんなに心配していたのに,結局何の異常もな いとは,どういうことだ」と,健診に不満をいだき,それが翌年から
1現われて来た問題点9 の非受診につながったようです.
B:この図で,IよりもⅡの矢印の方に行く割合がどの程度かが 問題ですね.事前にこういうケースをほとんど予想してなかったとす れば,この矢印の方向での反応はきわめてまれだといえるでしょうか.
A:最初はきわめてまれなケースと思いました.しかし,その後 さらに何人かの方と話してみた結果,過去の健診をずっと振り返って みると,かなりありそうなことがわかりました.
B:つまり,健診の非受診の原因は,受診者本人か,あるいは健 診システムの運用が不適切であるか,で,システム自体はまったく考 慮の対象にしていなかったのに,そのシステム自体が場合によっては 非受診の理由になりうると気|寸いたわけですね.
B:あまり堅苦しく考えずに,「検査数値の異常はすべて病気と いうわけではないのですから,一時的な判定にそれほどとらわれなけ ればよい」と片イ寸けるわけにはいかないのでしょうか?あるいは,
その本人の意識が低かったようですから,もっと強力に健康教育を行 なっていたらどうでしょうか?
A:住民の方が十分に事態を理解した上で,自発的にそう言って くれるのなら,まだ救われます.しかし,健診をする側が,はじめに 一方的に「検査の数値で物事を科学的に判断する」と言っておきなが ら,多少の異常値がでた場合に,急に「それにとらわれるな」とそこ だけ住民の自発性に期待するようなことを言うと混乱がおきるわけで す.それに,健診における判断の不確実な部分を強調し過ぎると,受 診者が健診を信用しなくなる心配もあります.実際さらに何人かの住 民と話してみて,健診非受診に至らないまでも,過去の健診で,最初 の異常の指摘と精査結果との間のくい違いを何回も体験した結果,軽 度異常くらいでは検査の数値を信用しなくなっている人も,多くいる
ことが予測できました.
B:検査=の数値を信じなくなっている人に比べたら,まだ食い違
10
いに腹を立てた人の方が,検査の数値をより真剣に受け止めていたこ とになりますね.
A:結局,住民自身が健診の結果を通して自己の現状を自立的に 把j屋できていない状況で,個別の健診;桔果にただ一喜一憂していたこ
とが問題だと思います.
B:「一見非のうちどころのない立派な健診システムで病気の判 定をしてもらった人が,気分を害して,その後健診を受診しなくなる」
という事実をつきつめてゆくと,その理由が「健診では受診者が受け 身の立場におかれ,健診担当者は受診者に対して一方的に判断・判定 をおこなう」,ということの中にあることになりますか.
1.5健診をする狽l」の認知のずれ
健康についての専門家であっても,検査イ直についての考え 方が同じとは限らない.
B:「健診では受診者が受け身の立場におかれてしまう」という ことに対するとりあえずの解決方法としては,住民にもっと豊富な情 報を提供して,自発的に自分の身体の状況を判断できるようにすれば いいわけですね.
A:そうです.そこで,健診に参加した保健婦,医師,栄養士の 方々と話し合って,そういう教材をつくる計画をたてました.
B:だんだんにこの本を書かなければいけない必然性がわかって 来ました.
A:ところが,この教材をつくりはじめて,すぐにまた1つ意外 なことがわかりました.保健婦や医師という健康についての専門家で あっても,検査イ直に対する考え方が同じとは限らないのです.例えば,
65歳の男`性が健診を受診して,最大血圧が160であったとします.
他には特に気になる所見もなく,本人も元気そうです.こうした場合
1現われて来た問題点11
に,その160という、王に対して,どういった指導をしたらいいで しょうか.こういう問題を考えはじめてすぐに,健診をする側に立つ 保健や医療の専門家でも,特定の数イ直によって疾病が定義きれるとい うことを常に前提としているのではなく,実は本音と建て前のような ものがあることがわかりました.この話は,第7章でもっと詳しくす るつもりです.
B:「健診は,病気を定義した上で,その有無を科学的に数値で 確認する厳密なシステムである」と考えていたことが,少しゆらぎだ
したわけですね.
1.6システムにおける問題点と解決の方向
健診システムが見かけ上,どれほど完壁・厳密であったと しても,その中で「あいまいさ」が大きな働きをしている.
A:病気の発見を目的として,いろいろな検査技術を組織的に組 み合わせたものが,健診です.健診の各段階における手順は,科学技 術の水準や,それまでの経験を参考にして,細かく決められており,
法律によって定められている健診もたくさんあります.健診は「制度 化されたシステム」と言えるわけです.システムの中で,病気を数値 で定義し診断していく過程は,厳密で,あいまいさが入り込む余地は ないように見えます.しかしもっとよくみてくると,その中にあいま いさがあります.
B:結局,どんな人が非受診なのかを知ろうと,受診者と非受診 者の属`性を広範に比較したが,両者の問に納得できるほどの差は見え なかった.またその健診システム自体は,健診をする側の効率からみ れば問題のない立派なものだった.しかし,そのシステムの中に立ち 入り,その健診を受ける人,あるいはその健診を担っている人の物の 考え方にまで立ち入ったときに,システムのあいまいさが現われて来 たわけですね.
ところで,そうした健診システムが抱えている問題を解消すること はできるのでしょうか.
12
A:一見厳密なシステムであっても,そうしたシステムが実際に 機能するにあたって,実は「あいまいさ」が大きな役割を果たしてい る事実をまず認めたいと考えます.すると,とりあえず解決すべき課 題は,そういう「あいまいさ」が,現在は地域住民の手の届かないと
ころにあることだと言えます.
1.7教育情報工学の応用
住民と保健医)寮要員が,より対等の立場で,楽しくコミュ ニケーションをするために、教育'情報工学が役立ちそうであ る.しかし,なぜ教育情報工学なのか?
A:さきほどの話にも出ましたが,住民にもっと豊富な情報を提 供して,住民が自発的に判断し行動できる局面を増やすことが大切に なります.‐そして,その具体的な手段として,教育,情報工学の応用を 考えました.
B:教育情報工学とは,教師がより良い授業を開発し実践してい くために教育`情報をどのように取り扱っていけば良いかを研究し,ま た教育情報の分析・編集・創造・伝達および理解などにかかわる具体 的な方法.技術を開発していく学問です(佐藤,1989).実際に役に 立つ方法論を重視する科学ですから,適切な方法論とそれに見合う適 切な課題があれば,いい成果を上げることができます.地域保健の問 題に,教育情報工学が適用できるものか,この本を書くまでは私自身 あまりはっきりした見通しを持っていませんでした.しかし実際の地 域保健活動に携わっている方々,特に保健婦の方々に出会い,一緒に 考えるなかで,私が学ぶことが大変に大きかったように思います.
A:いま保健婦の方々から学んだという話が出ましたが,私も同 感です.私自身は健診非受診の問題を考える際に,はじめは個別事例 への理解なしに,○×式の調査表にたよって考えていたため,答えが わかりませんでした.大学の研究室の中にいて,目の前の現実をてい ねいに見る努力をせずに,ひととびに全体を見ようとしていたようで す.しかし大学から外にでて,多くの保健婦の方々と交流するように
l現われて来た問題点13
なってから,保j重婦は個別の事例を大切にするということがわかって 来ました.S町における健診非受診の問題も,個別の事例を大切にす る視点で見えて来たものです.しかし,多くの保健婦の方々にお会い して,さらにこの問題を話していくうちに,実は保健婦はもう制度化 された健診の持つ問題点のいくつかにずっと前から気がついていると わかりました.そして保健婦の方々は,イ建診の受け手である住民が健 診を受診して示すざまざまな反応(場合によっては反2発)に気がつき ながら,保健婦自身は健診をする側に身を置かざるを得ない状況で,
,悩むことが多かったのではないかと考えるようになりました.
B:それで具体的には,教育情報工学をどんな場面で,どう応用 していったらいいでしょうか?話の流れからすると,健診の受け手 である地域住民と,健診の担い手である保健婦とのコミュニケーショ
ンの問題が浮かび上がってきたようですが.
A:まず個別の事例をもとに,住民と保健婦がコミュニケートす る際の問題をいくつかの角度から取り上げて考えはじめたらどうでし ょうか.さらにその視点を積み上げて,今後の保健活動のあり方につ いても考えられれば幸せです.
B:結局我々がこの本で試みたいのは,地域保健活動を教育情報 工学の視点からながめ,①住民自身が,医療保健システムの中にある あいまいさを理解した上で,より自立的に自己の健康を把握できる環 境を作ること,および②そのシステムの内側にいる保健医療要員(例 えば保健婦)自身も,システムの持つあいまいさにもっと気がつける 環境を作ること,の2点としてまとめられるようですね.特に,保健 医療要員が,自分自身を地域住民の立場においた上で,そうした相対 的な視点からシステムと自分との関わりをながめられる,そうした環 境を大切にしたいと思います.
A:そういうことを,地域保;(達の現場で,できるだけ楽しく面白 くやりたいと思います.○×式の調査表を一方的に相手に押しつけて,
調査拒否されるような不幸な事態はもうごめんです.
2
対話からの課題
健診と関連して,住民が自発的に半l」断し,行 動できる局面を拡大してゆくには,どうすれば いいのだろうか.どこに,どう教育情報工学を 応用していったらいいのだろうか?第1章から 引き継いだこの課題を具体化するために,我々 は地域保健活動の場における対話の分析を試み た.楽しい対話を支えるためには、自己理解の 促進と豊富な情報が必要とされる.
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2.1とるべき方向|生
どうしたら解くべき課題を,具体化できるのだろうか.
A:きて,第1章での討論を通して,我々は何をすべきかが見えて きました.しかし,具体的には,-体どんな手)11頁で仕事を進めたらい いでしょうか.
B:教育`情報工学では,具体的な方法・技術の開発を大切にしま す.教育情報工学から特定の方法・技術を借りて来て,それを健康の 問題に適用してみるのなら,問題提起の方もわかりやすく具体的であ る必要があります.住民と保健医療従事者とがよりよくコミュニケー ションすることに焦点を当てるにしても,‘`コミュニケーションのこ の部分を,こう変えたい,,というくらいまで,はっきりと問題点を煮 詰めるべきだと`思います.
A:コミュニケーションに関して,問題の所在を明確にするために は,保健指導の受け手(地域住民)と保健指導の担い手(医師や保I建 婦などの保健医療従事者)との対話そのものを見直してみるのが一番 いいように思います.幸い,私はこれまでの数年間に長崎県内のいく つかの地域で,保健指導の担い手の1人として,健診と関連した仕事 をする機会に恵まれてきました.医師として,診察を担当したことも あります.また保健婦と共に,問診や事後指導をしたこともあります.
特に最初のうちは,コミュニケーションに関する私自身の技術が未熟 なために,保健指導が円滑に進行しなかったことが何回もありました.
それらの機会に,私が住民と交わした対話の断片を素材として,いく つかの対話の場面を再現し,コミュニケーションにおける問題点の所 在を考えてみたいと思います.
B:対話を取り上げるのは大賛成です.その前に教えて欲しいの ですが,もともと地域保健の現場で,対話というのはどの程度重視さ れてきたのでしょうか.
A:保健指導の担い手が,保健指導の受け手(住民)に何かを伝
2対話からの課題17
えようとする場面には,よく出会うように思います.しかしその逆の,
保健指導の担い手が受け手の声を聞く機会は,もっと限られていたよ うに思います.
B:もし十分な対話が成立していなかったとすれば,まずその原 因を探る必要がありますね.
A:その原因を突き止め,地域保イ達活動の中に少しでも対話を増 やすことができれば,この本の当初の目的は達成きれるように思いま す.
2.2対話を見直す.ア.検査の結果を告げる
才;:査の結果を検診の受診者にわかI'ノやすくイ云え;たい).しか し、ただ言うことと,よりよく伝えることとは違いそうであ るもどうしたらいいのだろうか釦
対話アー1
A:先日の検診では,いろんな検査:をしました.,刑i;iFの働きに少し心配 ま`点刀坊りました刀;あとは問l題ないようです.
住民:〃7職>ウ樋れているようなことは,なかったでしょうか?
A:ノダブヲ脇の大きさは問題夜かつだようですね.
住民:"ノヲ職と関連した血液のィ倹蒼Eの方は何か脇遺がなかったでしょうか?
A:聞題衣かつたようですね.
A:これは,住民検診後に行なわれた結果説明会で,ある受診者 に検診の結果を伝えようとしたときの状況です.
B:肝臓の検査を別にすればなんら異常が見当たらなかったため に,肝臓の機能に多少の異常があったことだけ指摘し,「あとは問題 ない」と述べたわけですね.しかし,受診者の方は個々の検査の結果 について質問を繰り返しています.
A:この場合,私は最初から専門的な話をすると受診者が混乱す
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るのではないかと考えたため,異常の概略だけを受診冒音に伝えようと しました.しかしそれでは,受診盲昔は納得していません.「受診盲者は 専門家ではないのだから,概略だけで十分だ」と考えたのは,私の一 方的な思い込みだったようです.検査の数(直について,もう少してい ねいな説明をしたときの経験を,次に示します.
対話アー2
A:先日のイ険診におけるあなたの捗笹結果は,このメド裸返却表に記入し ておきました.J侵〆血圧が124J髪Z人血圧が70,血色素は15 です.また血清の通ルビ醸素PIN;jVE/ab紐l胞内にあるべき酸素刀Ⅷ液中 に6れ出て来た‘のノの検蓬では,COTが20,GPTが10,
γGTPが80でした.この返却表には,あなたの数値とともにそ の数1lzirの正常値d示してあります.この正常/値rと比較するとγ〃
刀縛過ぎるようです.酒の飲み過ぎで,ノダノラ職のj;H1l砲に負荷が)かかり 過ぎている可】尭牲刀篭えられます.
住民:γGTPの値>ウ椅いとと,その原因刀栖の飲み過ぎか&しれまいこ と刀s理解できました.ところで,私の健康は,結/局全7カtとしては,
どういう状態にあるのでしょうか?γGTPを〃にすれ/茎今の ところは,まずまずの健』潮t態と考えてもさしつかえないのでしょ うか?
A:この例では,前のアー1に比較して,検査結果を具体的な数 値として述べてみました.また結果が異常かどうかを判断しやすくす るために,数値の正常域についても説明を試みました.その結果,こ の方は,個別の検査数値の高低を理解してくださった様子でした.し かし,そうした]理解にもかかわらず,その後に全体的な健康状態に関 する質問が出て来ました.
B:「木を見て,森を見ず」という諺がありますが,この方の場 合は,個別の結果の理解(木を見ること)が,健康状態の全体的な理 解(森を見ること)につながっていないようですね.
A:アー1の経験からすれば,概略を述べるだけでは不十分なよ うですが,アー2からすれば,個別にていねいな説明をすればそれで
2対話からの課題19
十分だとも言い切れません.では,概略と個別の数値の双方に十分な 説明を加えたらどうなるでしょうか?
対話アー3
に蕊i蕊1蕊i護憲
A:この例では,検査値全体から判断して,健康状態はほぼ正常 であると概略を述べたのち,個別の数値について具体的な説明を加え ていきました.「木(個別の検査白値)」と「森(I建康状態の概略)」
説明できたわけですね.これなら完壁と言えそうで B:やっと,
の双方について,
すか.?
A:説明した直後は,これでほぼいいと思いました.しかし,そ の後ずっと気になっていたことがあります.対話アー3では,私のみ が主にしゃべり,受診者は一言「はい」と言っただけです.この反応 の乏しさは,なぜでしょうか?これに対し,アー1やアー2での私 の説明はより不十分なものでしたが,受診者が積極的に質問してくれ たために,後の対話の中で説明を補ってゆくことができました.
B:このアー3では,説明が改善できた反面で,受診者の発言が 押さえられるような状況も同時に生まれてしまったのでしょうか.
A:この経験から,対話を円滑に進めるためには,単なるていね いな説明を越えた,別の要因が必要とされると考えるようになりまし た.では,どうしたらいいのか,その手懸かりらしいものがつかめた のは,以下のような場面です.
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対話アー4
1醐養溌騨騨鯛辮二繍安
B:ここに出ているのは,受診者の側の発言だけです.しかし,
とても積極的ですね.
A:検診の事後指導の折に,よりよい検査結果の説明の仕方につ いて試行錯誤を重ねている折に,ある住民がこの発言をしました.ほ んの一言の発言ですが,住民の方のこの興1床と積極きが,私の求めて いたもののように思います.
B:この受診ラ音は自身の検司墨桔果について,かなり正確な理解と 前向きの輿J1未の双方を持っているように思います.積極的な対話を支
える要素の1つが,検査結果についての十分な自己理解であるとすれ ば,そうした状態にどうやって到達するのかが,大きな課題になりそ うですね.どんな方法を使えば,これが可能になるのでしょうか?
A:,情報をわかりやすく表示することから考え始めたらどうでし ょうか.この本の第3,4章で具体的な検討をしたいと思います.
2.3対話を見直す.イムよしノ健康な生き方の追求
ゴハノ十己より健康な生き方を受診者に勧め「たい。しかし#!=!/lただ言う ことと、■よレノ受け入れてもらいやすく勧める(こととは違いそ
うでjある.どうしたらいいのだろうか.TI弓
対話イー1
A:血圧刀沙し高いですね.
住民:そうでしょうか.
A:これ以上血圧>ウ漕ぐならないようにもっと健康的な生活習)質を身 につけてください.ストレスの多い生活は避けるべきだと思います.
i婁動不及目もよくありません.i園i度:なJ運動をユゴフEしたらどうですか?
2対話からの課題21
B:これはどういう状t兄なのでしょうか.
A:健診を受けて,検査の結果を理解したあと,その結果をどの ように生活に反映させてゆくのかが重要です.この対話で私は,健康 にとってよい影響があると`思われる生活習慣のいくつかを,受診者に 勧めようとしました.
B:いずれにしても,これでは対話になっていませんね.自分の 生1舌にとってプラスになるはずのことを言ってもらっているにしては,
受診者の反応が乏し過ぎるのが気になります.
A:確かにそのとおりです.相手に何かを勧めるときに,それが どんなに相手のためになると思われることであっても,ただそれを一 方的に言うだけでは,効果がないことに気がつきました.ではどうす ればいいのか,この時はまだ見通しがたちませんでしたが,まず対話 を長続きさせることを試みました.
対話イー2
1鑿鍵離iHi二(::…マ
B: 「・・をすることが健康にとって望ましい」と受診者に一方 的に告げるのではなく,逆に何を工夫しているかをこちらから受診言音 に問いかけたわけですね.
A:こちらから問いかけることで,受診者の考えを引き出そうと 思いました.しかし「イ也には何かありますか?」という漠然とした問 いかけでは,対話が続くとは限らず。沈黙という壁にぶつかる場合も多 いように`思います.そこで次に,もっと具体的に問いかけてみました.
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対話イー3
A:健康:で長生きするために,秘訣といわれていることが7項目ありま す.あなたの場合は,どれに当てはまるか,教えてください.
まず;第1として,喫煙をしない.
住民:いいえ.
A:第2として,飲酒を控えている.
住民:いいえ.
A:第3として,定期的に運動をする.
住民:いいえ.
A:第4として弓,適正1flに重;を保つ.
住民:いいえ.
A:第5として,7~8時間の鰯眠をとる.
住民:いいえ.
A:第6として,朝食を毎日とる.
住民:はい.
A:第7として,不必要な聞食をしない.
住民:はい.
B:受診者への問いかけが具体的である点は評価できるように思 いますが,それにしてもずいぶん機械的な質問ですね.
A:漠然とした問いかけでは話が続かなかったため,ここでは具 体的な質問を列挙した調査表を用いて,問いかけました.この方法で,
話を継続させることはできたように思いました.しかし改めて考えて みれば,この話し方はまるで尋問のようですね.
B:この“尋問”は,この後も続いたのでしょうか?
A:以下のイー4に続きを示します.
対話イー4
r:箕響鵡震芒鰯騨芒二鰯苣三二
2対話からの課題23 住民:そうでしょうか.
A:これでは長生きできませんよ.もっと好ましい生活習慣を増やして 下さい.
住去目:そうでしょうか.
B:「これでは長生きできない」というのは,一方的な宣告のよ うに聞こえます.ここまで言われてしまうと,もし私が受診者なら,
不愉快に感じたでしょうね.
A:対話の継続を目指して,調査表的な質問を続け,ざらに評価 を試みた結果,こうなってしまいました.楽しく対話を進めたいと考 えていたのに,逆の結果になってしまった例です.1人の調査者とし て,調査し,その結果を評価することはこれまでもよく行なってきま したが,被調査者の立場を考えるなら,もっと慎重になるべきだった と思います.
B:このイー4は,対話の流れとしては失敗のように思います.
しかし,この経験が無駄だとは思いません.イー2における「今のと ころは思いつかない」という手詰まりの状態から,ともかく2項目で も,この人が健康について考えていることが,見つかって来たわけで す.これを手懸かりとして,対話をより建設的にできないでしょうか
?
A:同じような失敗を何回か繰り返したあとで,以下のような対 話にたどりつくことができました.
対話イー5
に騨蕊鰭;顎
A:受診者が積'|亟的に自分のことを語り始めた例です.
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B:健康に関連して実行しているいくつかの行動の相互の位置づ けを,極めて具体的に把握しているようです.
A:宣告によって対話を打ち.切ってしまわずに,対話を継続して ゆけば,こういうことも可能になるわけですね.積極的な対話を支え る要素として,自分の行動の的確な認識が大切であることが浮かび上 がってきました.
B:頭の中にあって普段は見ることのできない思考や行動の流れ を可視化し,認識する方法について,本書の第5,6章で具体的に取
り組んでみたいと思います.
2.4対話を見直す.ウ.手懸かりを豊富に
健康についての悪い習1賃から遠ざかるように受診者に勧めた い.しかし,一方的に指示したり,脅かしたレノしても対話には ならない.どうしたらいいのだろうか.
対話ウー1
1茎民jニゴニ露呈…てください
A:喫9厘が健康にとってよくないのは,周知の事実です.
検診の事後指導の折に,喫煙が習I賀化しているこの受診者に,
をやめるように言いました.
そこで,
タバコ
B:しかし,相手に何かを勧めるときに,ただ言うだけでは効果 がないことは,すでに対話イー1から学びました.この場合も,同じ ことが当てはまるのではありませんか?
A:確かにただ言うだけでは,だめなようです.そこで,次のウ ー2ではもっと強い言い方をしてみました.
2対話からの課題25
対話ウー2
A:タバコを吸うのをやめてください.
住民:そうでしょうか.
A:ここに,タバコを吸い過き光ために'in傷になって,亡くなった方の ルワウョ担織の票真刀笏ります.と゛うですか.真っ黒でしょう.早くタバ
コをやめないと,あまたもこうなるかもしれませんよ.
住民:.・・・.
B:タバコをやめるように言ったあと,ざらに具体的な証}処らし いものを示して脅かしたようですが,この方針でいいのでしょうか?
A:こちらから一方的に受診者に何かを勧めて,相手がそれを率 直に受け入れてくれない時に,どうしてもこういう高圧的な言い方を してしまう傾向があったようです.しかし,振り返ってみれば,脅か すことで対話を継続できたことは,あまりないように`思います.
B:脅かさないで,対話を進められないでしょうか.「一方的に 告げるのではなく,こちらから問いかける」というイー2で用いた方 針は,この場合も有効なように思いますが.
A:次の対話を見て下さい.
対話ウー3
A:タバコを吸うのをやめてください.
住民:そうでしょうか.
A:タバコをやめるのは難しいことですか?
住民:どうしたら,やめられるでしょうか?
A:例え/義手芽ちぶさたでタバコに手刀聯ぴそうになったら,何か別 なことで気分の転換を試みたらどうでしょうか?
住民:それはもう何度も試みましたか;私の場合は効果がまいようです.
もっといい方法はないのでしょうか?
A:
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B:先ほどよりも対話がなごやかになってきましたね.「ともか くやめさせよう」という立場から,「どうしたらいいか」という対話 へと変化して来たようです.
A:確かに対話が円滑に進行し始めたように思ったのですが,こ の場合も結局行き詰まってしまいました.今回の行き詰まりは,受診 者の沈黙のためではなく,私自身が答えに窮したために起こりました.
B:この場合にはどう対処したらいいのでしょうか.やはり,方 針が間違っていたのでしょうか.
A:「問いかける」という方針は,そのままでいいと思います.
問題とすべきは,こちらから問いかけるのではなく逆に向こうから問 いかけられたときに,私自身が具体的な対応ができなかったことです.
B:互いに問いかけることによって,「どうしたらいいか」とい うことが,保:健指導の受け手と担い手との間の共通の話題になりはじ めたわけですね.どうしたら,この対話をもっと継続させられるでし ょうか?この対話を継続させるためには,「どうしたらいいか」に ついての具体的な`情報の蓄積が必要になりますね.
A:「どうしたらいいか」について,決まりきったことを言うだ けでなく,保健指導の受け手と担い手と7が相互に有用な情報を出し会 う状況が生まれれば,対話が実り豊かなものになりそうです.互いに 出しあった情報を整理し,共通の財産として活用する方法について,
本書の第8章以下で検討したいと思います.
2.5新たな枠組みに向けて
まず具体的な方法を考えることが先決のようにみえる.そし て,その後は?
A:以上の対話を分析してみて,多くの対話をより楽しい双方向 なものへと切り替えることができそうですね.
2対話からの課題27
B:そうした双方向の対話を支えるために,①自己理解の促進,
と②豊富な,情報の共有,の2点が大切なことがわかって来ました.
A:そうすると第3章以下では,その2点が達成できるような具 体的な方法を目指すべきですね.
B:そうした方法を考える際に,教育情報工学は大きな助けにな るはずです.
A:保健婦と地域住民との間に対話を増やし,地域保健活動をよ り人間<さくするための方法が,教育|青報工学の中に見出せるかもし れないというわけですね.しかし,使えそうな方法をただ個別に借り て来るだけで,それらの方法をつなぐ新たな理論や哲学を見出せなけ れば,我々のしようとしている作業には学問としての価値がない,と いう意見もあります.取りあえず教育情報工学から方法を借りてくる
としても,それだけでいいのでしょうか.
B:具体的に役立つ方法がいくつか見出されれば,そこから新た な展開が見えて来るかも知れません.そうなれば,われわれは教育情 報工学から独り立ちして,新たな枠組みを考えることが必要になるか
もしれません.
A:それでは,その新たな枠組みへの第1歩を踏み出したいと,思 います.