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第 21 章フィリピン投資の優位性と留意点 ての魅力となっている また 英語運用能力に関して 近隣諸国では通訳を利用する機会が多いが 通訳が介在することによる意思疎通上の壁を感じることが多く フィリピンではお互いに英語を第 2 言語として使用しているものの コミュニケーションが格段に取りやすいと感じ

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フィリピンの投資環境

フィリピン投資の優位性と留意点

進出先としての企業の見方

注目度が上昇傾向にあるフィリピン 日系企業は、事業展開先としてフィリピンをどのように見ているのか。すでに海外への進出経 験のある企業を対象として国際協力銀行が実施している、中期的(今後 3 年程度)有望事業展開 先国・地域の海外直接投資アンケート調査結果によると、フィリピンは 2017 年において 8 位で あった(図表 21-1)。ASEAN 加盟国ではインド、ベトナム、タイ、インドネシアがフィリピンよ り上位に位置付けており、ミャンマー、マレーシア、シンガポール、カンボジアがフィリピンよ り下位である。他の ASEAN 国と比して注目度が低く見えるフィリピンだが、2014 年においては 10 位圏外(11 位)であったところ、2015 年に 8 位に浮上し、そのポジションを保っている。この ランキングでフィリピンより上位に位置する国は当該国自体が巨大市場である場合や(中国、イ ンド、米国)、自動車等の産業集積が一定程度進んでおり第三国への輸出拠点としての地位を確保 している国(タイ、インドネシア、メキシコ)が目立つ。 図表 21-1 わが国製造業企業が中期的に有望視する国 順位 2017 年調査結果 2016 年調査結果 有望とする 事業展開先国 回答企業数 (社) 得票率 有望とする 事業展開先国 回答企業数 (社) 得票率 1 中国 203 45.7% インド 230 47.6% 2 インド 195 43.9% 中国 203 42.0% 3 ベトナム 169 38.1% インドネシア 173 35.8% 4 タイ 153 34.5% ベトナム 158 32.7% 5 インドネシア 147 33.1% タイ 142 29.4% 6 米国 116 26.1% メキシコ 125 25.9% 7 メキシコ 81 18.2% 米国 93 19.3% 8 フィリピン 47 10.6% フィリピン 51 10.6% 9 ミャンマー 40 9.0% ミャンマー 49 10.1% 10 ブラジル 28 6.3% ブラジル 35 7.2% (出所)JBIC「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」(2017 年度調査より作成) フィリピンを有望視する理由と企業が指摘する課題 これまでの章で、フィリピン経済の堅調さや人口の増加動向、労働者の英語運用能力等を述べ てきた。では、他国と比較するとフィリピンはどのような位置づけで魅力や課題にどのような差 異があるだろうか。国際協力銀行が行っている同アンケートでフィリピンより上位に位置付けて いる ASEAN 各国と比較すると、図表 21-2 の通りとなった。フィリピンに直接投資を検討する企

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第 21 章 フィリピン投資の優位性と留意点 175 ての魅力となっている。また、英語運用能力に関して、近隣諸国では通訳を利用する機会が多い が、通訳が介在することによる意思疎通上の壁を感じることが多く、フィリピンではお互いに英 語を第 2 言語として使用しているものの、コミュニケーションが格段に取りやすいと感じている 日系企業が多い。 図表 21-2 中期的に有望と見える理由上位 3 フィリピン ベトナム インドネシア タイ 1 現地マーケット の今後の成長性 64.4% 現地マーケット の今後の成長性 71.2% 現地マーケット の今後の成長性 85.2% 現地マーケット の今後の成長性 50.0% 2 安価な労働力 42.2% 安価な労働力 50.3% 現地マーケット の現状規模 34.5% 現地マーケット の現状規模 32.9% 3 現地マーケット の現状規模 20.0% 優秀な人材 19.0% 安価な労働力 33.1% 第三国輸出拠点 として 29.6% (出所)JBIC「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」(2017 年度調査より作成) 対して、フィリピンについて海外進出済み日系企業が課題と感じる項目は図表 21-3 の通りと なった。フィリピンにおいて「治安・社会情勢が不安」は長きにわたって不安視されてきた。2015 年には一時的に当該指標が減少したが、2016、2017 年と増加に転じた結果 43.9%の企業が治安・ 社会情勢を不安視する結果となった。比較対象としたタイ、インドネシアもそれぞれ 22.1%と 28.6%が当該項目を不安視されているが、両国とも 5 位であった事からもフィリピンの治安・社 会情勢が多くの企業から不安視されている事がわかる。「労働コストの上昇」は他 3 か国で全て 3 位以内、35%以上の企業が課題と考えている中フィリピンは 3 位圏外であり、ワーカーの需給状 況は雇用者にとって他国と比較しても課題感が少ない結果となっている。「他社との競争」を課題 と感じる企業は全ての国で 30%以上の割合を占めており、特にタイが顕著であったが、業種や現 地法人の役割によって厳しさの定義や度合も変わるため計画している事業ごとに個別で検討する べきだろう。フィリピンにおいて必要書類や必須手続きが担当職員によって変わることや、依然 として賄賂が存在するといった「法制の運用が不透明」をあげる企業は 24.4%(3 位圏外)であ り、インドネシアは同項目が 1 位であり 38.1%の回答者に不安視されている。一方で、法整備が アメリカの影響を受けていることから、契約書が分厚い、訴訟が多いと言われている。また、オ ンライン化された通関手続きについて、度々サーバーがダウンすることにより従前より時間を要 することや、会社登録手続きについても、オンライン登録が始まってからはサーバーダウンの連 続で所要時間が伸びているという状況も存在している現状がある。

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フィリピンの投資環境 図表 21-3 企業が課題と見ている項目上位 3 フィリピン ベトナム インドネシア タイ 1 治 安 ・ 社 会 情 勢 が不安 43.9% 労働コストの 上昇 38.3% 法制の運用が 不透明 38.1% 他 社 と の 厳 し い 競争 45.9% 2 他 社 と の 厳 し い 競争 36.6% 法制の運用が 不透明 35.5% 労働コストの 上昇 37.3% 労働コストの 上昇 44.3% 3 管 理 職 ク ラ ス の 人材確保が困難 29.3% 他 社 と の 厳 し い 競争 31.2% 他 社 と の 厳 し い 競争 36.5% 管 理 職 ク ラ ス の 人材確保が困難 36.1% (出所)JBIC「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」(2017 年度調査より作成)

世界銀行「Doing Business」によるフィリピンの評価

世界銀行による各国の事業環境指標である「Doing Business」において、2018 年版のフィリピン のランキング(Ease of doing business)は 190 ヵ国中 113 位であった。同調査報告は各国のビジネ ス環境について、①事業の開始(Starting a business)、②建設許認可(Dealing with construction permits)、 ③電力(Getting electricity)、④不動産登記(Registering property)、⑤資金調達(Getting credit)、 ⑥少数投資家保護(Protecting minor investors)、⑦納税(Paying taxes)、⑧国際貿易(Trading across borders)、⑨契約の履行(Enforcing contracts)、⑩撤退・清算(Resolving insolvency)等の観点から スコアリングをし、ランキングするものである。参考情報として総合順位 1 位はニュージーラン ド、2 位はシンガポール、3 位はデンマーク、日本は 34 位に位置付けている。 同指標におけるフィリピンの相対順位の 2013 年からの推移を見ると、電力、不動産登記、納税、 撤退・清算については改善が見られ、許認可、事業の開始、資金調達、少数投資家保護、契約の履 行、国際貿易は悪化した。総合順位は 138 位から 113 位へと上昇した。世界各国と比して相対的 に優れているのは電力と撤退・清算で、他の項目は下位 50%に順位付けされている。特に課題と 見られる項目は下位 30%のグループに属している事業の開始、資金調達、少数投資家保護、契約 の履行である。2018 年度では、電力と納税の項目について 2017 年度よりも改善したと報告され ている。

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第 21 章 フィリピン投資の優位性と留意点

177 図表 21-4 世界銀行ビジネス環境指標のフィリピンのランキング(2013 年版、2018 年版)

(出所)世界銀行「Doing Business 2013」、同「Doing Business 2018」より作成

フィリピンの投資環境の優位性

フィリピンの投資環境の優位性は以下にまとめることができる。 (1) 中長期的に継続することが見込まれる豊富且つ安定した労働力の供給 (2) 低賃金且つ安定した人件費 (3) 英語運用能力の点で質の高い労働力 (4) PEZA を中心とする投資優遇制度の整備 (5) 少ない労働争議 (6) 工業団地の空き状況 (7) 親日的であり対日感情によるビジネスリスクが無い (8) グローバルサービス拠点としての世界からの高い評価 中長期的に継続することが見込まれる豊富かつ安定した労働力の供給 フィリピンは 1 億 5 百万人の人口を有し、アセアン地域においてインドネシアに次ぐ人口規模 を誇っている。アセアンの多くの国々では、生産人口が 2020 年から 2030 年にかけて減少するこ とが見込まれているのに対して、フィリピンでは 2060 年まで増加し続けることが予測されてい る。国連の報告書によると、2050 年時点におけるフィリピンの生産人口は 1 億人を突破するとさ れており、これは同時点における日本の生産人口の 2 倍近い規模になっている。 113 173 101 31 114 142 146 105 99 149 59 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 総合順位 事業の開 始 許認可 電力 不動産登 記 資金調達 少数投資 家保護 納税 国際貿易 契約の履 行 撤退・清 算 (順位) 2013年版 2018年版

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フィリピンの投資環境 図表 21-5 日本とアジア各国の若年人口及び生産年齢人口の推移予測 (2050 年生産年齢人口の高い順) (単位:千人) 国(地域) 若年人口(15 歳未満人口) 生産年齢人口(15~64 歳人口) 2015 年 2025 年 2050 年 2015 年 2025 年 2050 年 インド 375,145 359,642 312,859 860,128 983,415 1,123,448 中国 247,073 239,490 190,703 1,014,777 995,649 814,862 インドネシア 71,921 71,190 64,035 173,088 193,818 213,302 フィリピン 32,782 35,060 36,113 64,284 75,621 100,325 日本 16,626 15,466 13,658 78,056 72,473 55,566 タイ 12,353 10,439 8,492 49,051 48,100 37,926 マレーシア 7,670 8,026 7,073 21,252 24,027 27,860 韓国 7,035 6,808 5,826 36,999 35,041 26,834 香港 810 1,066 1,008 5,333 4,984 4,446 シンガポール 858 823 722 4,030 4,152 3,644 (出所)国連 The World Population Prospects (created from the 2017 Revision data)

低賃金且つ安定した人件費 ジェトロが 2016 年に公表しているアジアオセア地域における日系企業の実態調査によると、 フィリピンにおける日系企業の賃金水準は中位または下位に位置づけられる(図表 21-6)。 製造業及び非製造業において、いずれも賃金水準は中国、タイ、インドを下回る結果となっ ている。また、同調査において、賃金の上昇率は他国と同程度とされている。パキスタンで 10.1%、 インドで 9.8%、ミャンマーで 9.4%、バングラデシュで 9.2%、インドネシアで 8.8%と 10%程 度の賃金が上昇している同地域の国々が多い中で、フィリピンの前年対比賃金上昇率は 5%に とどまっている。

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第 21 章 フィリピン投資の優位性と留意点 179 図表 21-6 アジアパシフィック地域の日系企業における年間賃金(単位: ドル / 一人あたり) (出所)2016 ジェトロ アジアオセアニア地域の日系企業実態調査 2,042 2,167 2,325 2,376 2,422 3,721 3,808 4,025 4,056 5,131 5,550 6,152 9,595 17,298 27,286 28,369 34,531 38,683 51,481 0 30,000 60,000 バングラデシュ ミャンマー ラオス カンボジア スリランカ インド パキスタン ベトナム フィリピン インドネシア マレーシア タイ 中国 台湾 シンガポール 香港 韓国 ニュージーランド オーストラリア 製造業・労働者 3,860 4,550 5,492 5,621 6,025 6,232 6,651 7,653 7,909 9,818 11,180 11,724 13,643 22,209 36,266 41,548 43,587 56,978 76,216 0 50,000 100,000 ミャンマー バングラデシュ カンボジア ラオス フィリピン スリランカ ベトナム インドネシア インド パキスタン タイ マレーシア 中国 台湾 香港 シンガポール 韓国 ニュージーランド オーストラリア 製造業・技術者 9,922 11,305 11,311 11,389 11,879 14,629 15,216 16,276 18,891 22,143 23,029 23,577 23,935 35,231 56,061 58,531 63,147 88,096 92,560 0 50,000 100,000 ミャンマー ラオス バングラデシュ スリランカ カンボジア ベトナム フィリピン インドネシア インド パキスタン マレーシア 中国 タイ 台湾 香港 韓国 シンガポール ニュージーランド オーストラリア 製造業・管理職 3,307 4,000 5,236 5,373 5,775 5,957 6,839 7,391 7,594 8,859 11,278 12,612 16,407 23,072 34,066 36,976 39,613 44,244 56,928 0 100,000 バングラデシュ ラオス ミャンマー パキスタン スリランカ カンボジア ベトナム フィリピン インドネシア インド タイ マレーシア 中国 台湾 香港 韓国 シンガポール ニュージーランド オーストラリア 非製造業・スタッフ 8,684 9,773 12,523 14,669 15,666 16,028 16,380 19,286 20,680 22,939 23,684 25,699 36,543 39,721 57,459 60,963 69,506 92,741 101,392 0 100,000 200,000 ラオス バングラデシュ カンボジア ミャンマー パキスタン ベトナム スリランカ インドネシア フィリピン インド タイ マレーシア 中国 台湾 香港 韓国 シンガポール ニュージーランド オーストラリア 非製造業・マネジャー

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フィリピンの投資環境 英語運用能力の観点で質の高い労働力 英語が公式言語となっているフィリピンでは、日本人にとって第 3 の言語を話す必要が無いと いう点で、コミュニケーションの容易さが認識されている。また、多くの日本企業はフィリピン 人従業員を最低限の研修制度で活用することが可能だと考えている。 PEZA を中心とする投資優遇制度の整備 フィリピン経済区庁(PEZA)や投資委員会(BOI)などの投資促進機関による投資優遇措置が 整備されており、売上の 70%以上を輸出する輸出志向企業や、投資優先分野に指定された事業を 行う事業者などを中心に、一定の条件を満たせば最長 8 年間までの法人所得税免除措置や、法人 所得税免除措置期間終了後の特別優遇税率(国税、地方税が免除され、その代わりに 5%の総所得 税を賦課)などの優遇措置が受けられる。 インドネシアでは、優遇税制の適用条件が厳しく、活用企業が少ないこと、インドは原則的に 優遇税制がないこと、中国でも優遇税制が年々縮小傾向にあること等を考えると、フィリピンの 投資優遇制度はメリットがあるといえる。 フィリピンに進出している日系製造業の大半は、PEZA の優遇措置を受けており、PEZA にとっ て日系企業は最重要顧客でもあることから、PEZA は日系企業の満足度を高めるべく大きな配慮 をしている。前出の World Bank による Ease of Doing Business において、フィリピンにおけるビジ ネスの初め易さが世界で 173 位という低い評価であったが、PEZA 区内への進出手続きに関して は、一般の登記手続きよりも迅速且つスムーズに行われており、進出している日系企業からの評 価も高い。 労働争議の少なさ フィリピン統計局の年次調査報告によると、2016 年におけるストライキの実行が告知された件 数は 175 件であり、2015 年における 195 件よりも減少している。175 件のうち、実際の実施が宣 言されたのは 15 件にとどまっている。 工業団地の空き状況 日系商社により開発され運営がなされている工業団地がいくつもあり、様々な業種の日系企業 のフィリピン進出を受け入れる環境が存在している。バタンガスにおいて PEZA に登録されてい る Lima Land industrial estate や The First Philippine Industrial Park (FPIP)はより多くの事業者を受け 入れるための規模拡大をさらに模索している。FPIP は、フィリピン最大の財閥の一つである First Philippine Holdings が住友商事との共同にて設立している工業団地である。

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第 21 章 フィリピン投資の優位性と留意点 181 上り、全調査対象国中、インドネシアに次いで 2 番目に日本に好印象を持っている国であること がわかった(図表 21-7)。日本は、中国や韓国との間で尖閣諸島や竹島の問題を抱え、こうした問 題を背景とした反日感情の高まりが日系企業の事業活動に悪影響を及ぼすリスクがあるが、フィ リピンにおいてはこうした懸念は全くない。フィリピンと日本との間で領土問題が存在しないだ けではなく、フィリピン国民全般の対日感情はきわめて良好である。 図表 21-7 日本が世界に与えている影響に関する意識調査結果 国名 ポジティブ ネガティブ インドネシア 85 7 フィリピン 84 12 韓国 68 20 インド 39 13 パキスタン 34 15 中国 18 71

(出所)BBC World Service Country Rating Poll (2011 年)データより作成

親日感情は近年においても継続している。2014 年に実施された調査においては、80%の国民に より好ましい国と認識されており、アジアにおいてはタイの 81%に次いで、親日感情のある国と いう結果となっている(図表 21-8)。 図表 21-8 アジア諸国における日本に対する好感度 国 好感度% タイ 81 フィリピン 80 インドネシア 77 ベトナム 77 マレーシア 75 バングラデシュ 71 パキスタン 51 インド 43 韓国 22 中国 8

(出所) Pew Research Center, Spring 2014 Global Attitudes Survey

グローバルサービス拠点としての世界からの高い評価 2016 年においてもフィリピンにおける BPO 産業は高い成長率が示されている。BPO 産業の 総収入規模としては、2020 年までに 400 億ドルから 550 億ドルに到達することが見込まれてい る。同時に 2018 年現在においては、同産業で 1 百万人が雇用されているが、1.3 百万人から 1.5 百万人まで今後 3 年間で雇用者数が増加することが見込まれている。 BPO 産業においても、特に高い英語運用能力を活用して海外の顧客への対応を行うフィリピン のコールセンターは世界でも広く認識されている。

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フィリピンの投資環境

フィリピンの投資環境の留意点

フィリピンに投資するにあたっての留意点としては、(1)電力コストや物流事情などのインフラ 面での課題、(2)治安イメージの悪さ、(3)サプライヤーの少なさ、(4)VAT 還付に年単位の長時間 を要する、(5)進出よりも撤退が困難であること、などが挙げられる。 インフラ面での留意事項 フィリピンの電力コストは、アジアで日本、中国、シンガポールに次いで 4 番目に高く(2016 年 Euromonitor 調べ)、又、電力供給が不安定な場合があることから、工場で自家発電設備が必要 16 であり、投資効率を押し下げてしまう傾向がある。オフィスにおいても同様で、電気が落ちる、 ネット環境の不安定さ、マニラ市内の渋滞等により仕事や作業の効率が落ちることはあらかじめ 織り込んでおくべきである。また、フィリピン進出の日系企業からは、マニラ首都圏及び周辺地 域の道路・港湾・物流インフラの改善要望が 2018 年時点においても依然として強い。 治安イメージの悪さ フィリピンは、非常に治安が悪い国であるというイメージを持つ日本人は多いが、実際にフィ リピンを訪れたり、生活してみたりすると、日本で恐れていた程神経質になる必要はないという 認識に至る場合が殆どである。ただし、油断は禁物で、日本とは大きく異なる銃社会であること や、警察官による犯罪も少なくないこと、スリやひったくりのような軽犯罪に巻き込まれる日本 人も少なくないこと、外国人を狙った身代金目的の誘拐もあり得ることは十分に認識し、自衛手 段を講じる必要がある。また、犯罪頻発地区はどこか、万が一被害にあった場合にどのように対 処すべきかについても情報の入手と普段からの心構えが重要である。2018 年時点においても状況 は改善されているとは言い難く、各社の現地駐在員は緊張感を持って生活する事が依然として必 要であると認識している。 サプライヤーが少ない 他国に比べて製造業の裾野産業が発達しておらず、副資材を除き部品を調達できる現地のサプ ライヤーが不足又は育っていない場合が多い。その為、材料を輸入に頼っており原価の割合が高 い業種の場合、労働集約型産業のようなコスト面のメリットがそれほど高くは享受できない可能 性もある。 VAT 還付に長時間(年単位)を要する フィリピンでは、企業が物品やサービスを購入した際に支払った付加価値税(VAT)の金額(イ ンプット VAT 額)が、顧客に物品やサービスを販売した際に課した付加価値税の金額(アウトプッ ト VAT 額)を上回った場合、差分の還付を受けることができる。輸出企業は、顧客への販売時に

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第 21 章 フィリピン投資の優位性と留意点

183 VAT を課さないため、還付対象となる VAT 金額が大きくなる傾向がある。VAT の還付には数年を 要しており、輸出志向製造業が多いフィリピン進出日系企業の間でも、VAT 還付は長年重要な懸 念事項の一つとなってきた。2011 年以前は、現金還付はごく僅かで、殆どの場合、企業はまず還 付請求権を証明するタックス・クレジット・サーティフィケート(TCC)による還付を受け、他の 税金の支払いに充当するか、第 3 者に譲渡して現金化することができた。2011 年、まず第 3 者へ の TCC 譲渡が禁止された。続いて、TCC 発行か現金還付かを納税者が選択できるようになったと いう経緯がある。2018 年度以降においては、VAT 還付請求に対して納税者が選択することができ るのは現金還付のみである。 撤退が困難 世界経済フォーラムの国際競争力ランキング調査 2013 年版によると、フィリピンは企業の清算 や破産処理のし易さが 185 ヶ国中 165 位という低い評価である。フィリピンにおいて、会社を清 算する場合の手続きで最も時間がかかるのが過去 3 年分の税務監査への対応である。特に、清算 時点において、操業中の経理事情を良く知っている担当者がすでに退職している場合が多く、税 務監査への対応を更に困難にしているケースが多い。撤退手続き完了は平均で 2 年、最短で 6 ヵ 月、最長 3 年かかると言われている。 必ずしも法的に会社を清算する必要がない場合、当面は「清算」ではなく「休眠」状態として 事業活動を停止するだけの状態としておくオプションもある。この場合、会社は存在し、事業活 動を停止しているだけなので、税務申告や証券取引委員会(SEC)への報告は継続しなければなら ないが、その手間や費用は大幅な削減が可能である。 上記の他、英語ができる故の人材の海外への流出リスク、日本語人材の確保や育成が困難であ ること、時間、納期、品質に関する一般的なフィリピン人の意識には、日本人と大きな開きがあ ること、最近のペソ高傾向なども留意すべきである。 又、ラモス大統領時代の 1995 年から、4 人の大統領の下で 21 年間変わらず PEZA でリーダー シップをとってきたリリア・デリマ長官の力量と人柄に対する評価と信望が非常に篤いだけに、 大半の日系企業が利用している PEZA の次期長官人事を一つのフィリピン投資環境リスクとみる 声もある。しかし、デリマ長官が築いてきた組織の仕組みや醸成されてきた職員のモラルはトッ プが交代したとしても継続されるという見方の方が強い。デリマ長官は、2016 年度で退任し、後 任をチャリト・プラザ長官が引き継いでいる。 日本人が駐在する場合、マニラ首都圏やセブの都市圏など、日本人駐在員の多くが生活してい る地区は、日本食レストランや日本食材店も数多くあり、日常生活の利便性もよく、深刻な不便 さを感じることはない。ただし、公共交通機関が未発達のため、日本人駐在員の多くは運転手付 きの車が必要なのが実態である。家族同伴の場合は、駐在員本人だけでなく、家族の日常の移動 手段についても何らかの配慮が必要になろう。

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