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密教研究 Vol. 1934 No. 52 001大山 公淳「事相學序説 (上) P1-23」

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(1)

(上

)

一 、 序 承 和 二 年 の 三 業 度 人 の 官 符 に よ る に 、 弘 法 大 師 は 三 業 度 人 の 制 を 設 け て 、 南 山 の 學 徒 を 養 成 指 導 す べ き 根 本 方 針 と せ ら れ た 。 三 業 と は 金 剛 頂 業 と 胎 藏 業 と 聲 明 業 と に し て 、 前 の 二 は 眞 言 宗 の 基 本敎 學 た る 雨 部 大 経 を 研 究 す る も の に し て 、 第 三 は 現 今 の 言 語 學 ・ 文 法 學 ・ 音 韻 學 の 如 き を 研 究 す る も の で あ る 。 然 し こ れ ら の 分 科 は 間 も な く 廢 れ て 行 は れ な く な り 、 そ れ と 共 に 事 相 ・敎 相 と い ふ こ と が や か ま し く 唱 道 さ れ る や う に な つ た 。敎 相 と は 佛 陀 の敎 説 を 理 解 す る の 義 に し て 、 思 索 と 推 理 と を も つ て 佛 陀敎 説 の 眞 意 を 了 解 せ ん と す る も の で あ る 。 そ は や が て 後 代 の敎 義 學 と も な つ た 。 ﹁ 事 相 ﹂ の ﹁ 事 ﹂ と は 因 縁 生 起 の 事 々 物 々 の こ と で 、 ﹁ 相 ﹂ と い ふ は 相 状 差 別 で あ り 造 作 さ れ た も の 、 こ と で あ る 。即 ち 因 縁 生 な る 諸 法 の 當 禮 そ の まゝ を 自 覺 の 内 容 と す る を い ふ 。 此 の 語 は 善 無 畏 三 藏 の 口 説 と し て 傳 へ ら る 、 ﹁ 大 日 經 疏 ﹂ に 既 に 出 つ る 語 に し て 、 日 本 に 於 い て 初 め て 發 明 さ れ た 語 で は な い 。 而 し そ の 語 の 表 は す 概 念 は 、 彼 の ﹁ 疏 ﹂ と 現 在 吾 人 の 用 う る 所 と 多 少 そ の 意 味 を 異 に し て ゐ る 。 即 ち 大 日 經 疏 の 卷 八 に は ﹁ 凡 事 相 學 序 説 ( 上 ) 一

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事 相 學 序 説 ( 上 ) 二 そ 秘 密 宗 の 中 に は 皆 因 縁 の 事 相 に 託 し て 以 つ て 深 旨 を 喩 ふ 故 に 此 の 如 く 傳 授 を な す な り ﹂ と い ひ 、 同 義 釋 卷 八 の 初 に は .﹁ 甚 深 の 秘 密 藏 は 言 説 を も つ て 人 に 示 す べ か ら す 、 故 に 世 間 有 爲 の 事 相 に 假 籍 し て 況 喩 と な す ﹂ 云 々 と 、 即 ち 事 相 と は 因 縁 生 起 の 事 象 に 名 け だ の で あ る 。 然 る に 本 朝 の 密 教 に 於 い て 用 う る 概 念 は ﹁ 事 相 ﹂ は 密 宗 の 根 本 行 軌 作 法 を 意 味 し 、 祖 師 の 正 流 を 尋 ね 、 師 よ り 相 承 の 口 訣 を 直 受 し 、 本 書 や 諸 抄 物 を 勘 見 し て 、 所 傳 の 事 實 を 潤 色 し 、 十 八 道 ・兩 界 ・護 摩 ・灌 頂 ・大 法 ・ 小 法 並 に 諸 の 作 法 を精 進 研 究 し な け れ ば な ら ぬ こ と を 意 味 す る 。 思 ふ に 弘 法 大 師 以 後 台 密 擡 頭 し 、 次 い で 東 密 の 勃 興 と な り 、 歴 朝 の 聖 帝 各 々 萬 乗 の 寳 位 を 譲 り て 眞 言 門 に 入 り 、 皇 子 皇 孫 等 競 ふ て 受 法 入 壇 し 、 公 卿 百 官 達 法 水 に 浴 せ ん と 勤 め 、 宮 中 に も 振 鈴 の 響 護 摩 の 火 焔 し き り に 、 勅 願 祈 願 の 伽 藍 所 は 諸 所 に 建 立 せ ら れ 、 慶 事 弔 事 共 に 眞 言 僧 の 關 與 す る 所 と な り 、 國 民 亦 此 の 風 潮 に 淳 化 さ れ 、 加 持 祈祷 の 寄 瑞 を 慕 ひ 、 そ れ と 共 に 感 應 の 妙 用 を 現 す る の 僧 徒 相 續 い て 現 は れ 來 つ た 。 か ゝ る 時 勢 に 促 が さ れ て 事 作 法 の 研 鑽 し き り に 行 は れ 、 修 法 練 行 建 壇 儀 式 の こ と が 重 大 な 意 味 を も つ て 扱 は れ る に 到 つ た こ と は 當 然 の 事 で あ ら う 。 か く の 如 き 事 相 の 勃 興 は 敏 相 學 の 興 隆 を 誘 致 し 、 仁 和 寺 の 濟 暹 や 傳 法 院 の 覺 鑁 上 人 の 如 き は 、 そ の 時 代 に 於 い て敎 相 を も つ て 事 相 の 純 化 に 努 め た る 偉 傑 で あ つ た の で あ る 。 そ れ ら の 人 々 以 後 の 時 代 と な つ て は 特 に敎 相 學 勃 興 す る に 至 つ た 。 こ れ を 要 す る に 今 日 吾 人 の 謂 ふ ﹁ 事 相 ﹂ と い ふ 語 の 中 に は 、 眞 言 行 者 の 修 行 方 法 や 建 壇 儀 式 作 法 及 び

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そ れ ら の 段 階 歴 程 に 關 す る 部 分 を 、 諸 經 軌 や 諸 の 口 説 に 就 い て 、 整 理 し 組 織 し た る も の と い ふ 意 味 が 含 蓄 さ れ て 居 る 。 そ の 内 容 は 我 平 安 朝 以 來 に 完 成 さ れ た も の と 思 は る 。 總 じ て 學 説 は 實 行 を 促 す の で あ つ て 、 實 行 の 伴 は ぬ 理 論 は 空 理 に し て 眞 理 と は な り 得 な い 。 眞 言 致 學 に 説 く ﹁ 速 疾 頓 成 ﹂ ﹁ 即 身 成 佛 ﹂ と い ふ 如 き 語 は 、 唯 實 修 實 行 に よ つ て の み 證 さ れ る 。 日 本 密敎 に 於 い て 用 う る ﹁ 事 相 ﹂ の 語 は 、 そ の 實 践 修 行 の 法 規 を 意 味 す 。 但 し 此 處 に 予 の 述 べ ん と す る 所 は 、 事 相 學 の 極 く 常 識 的 な 四 五 の 問 題 の 、 一 般 的 解 説 に し て 、 多 少 な り と も 初 學 者 研 究 の 方 便 と も な れ ば 至 幸 で あ る 。 且 つ 本 論 文 は 予 の 舊 稿 に 属 す る も の に し て 、 補 筆 改 定 し な け れ ば な ら ぬ 點 も あ る け れ ど 、 今 は そ の 時 間 を 得 す 、 急 に 掲 載 す る こ と ゝ し た 。 從 っ て 誤 り も こ れ あ ら ん か 、 乞 ふ こ れ を 恕 さ れ よ 。 二 、 傳 授 席 場 の 心 得 凡 そ 眞 言敎 學 を 研 究 す る に 三 つ の 場 合 が あ る 。 一 は敎 相 の 講 義 に し て 、 二 は 事 相 の 傳 授 三 は 講 傳 と 稱 す る 場 合 で あ る 。 一 の 時 は 單 に 講 義 の み で あ る が 、 第 二 の 場 合 は 特 に 傳 授 と 稱 す る 。 師 資 相 承 の 實 義 を 傳 へ 授 く る の で あ る 。 そ の 中 に は 多 く の 甚 深 秘 奥 の 意 味 が 講 説 さ れ て 、 時 に は 公 開 を 遠 慮 し な け れ ば な ら ぬ こ と も あ る 。 一 流 の 大 事 は こ れ に よ つ て 相 傳 さ れ て ゐ る 。 第 三 の 場 合 は 半 傳 授 半 講 義 の も の で あ つ て 、 例 せ ば 理 趣 經 の 如 き 、 祕 藏 記 の 如 き 、曼 茶 羅 に 關 す る 講 義 の 如 き は こ れ に 屬 す る 。敎 相 事 相 學 序 説 (上 ) 三

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事 相 學 序 説 ( 上 ) 四 上 の 理 論 的 講 義 の 中 に 、 祕 密 の 印 契 や 眞 言 が 顯 は れ て 、 そ れ を 解 説 し な け れ ば な ら ぬ こ と が 存 す る の で 、 特 に 講 傳 門 の も の と し て 傳 へ る 。 諸 の 儀 軌 類 や 、 大 日 經 具 縁 品 以 下 の 諸 品 に 説 く 所 の も の は 皆 此 の 類 に 屬 す 、 舊 來 の 習 慣 よ り 云 へ ば 、敎 相 門 に 關 す る も の は 信 俗 を 問 は す 、 何 人 の 研 究 を も 許 せ ど 、 傳 授 門 の 事 相 學 と 、 講 傳 門 の も の は 、 先 づ 眞 言 門 に 入 り 、 所 定 の 道 を 經 な け れ ば 聽 講 を 許 さ す 、 從 つ て 研 究 す る を 許 さ ぬ こ と に な つ て ゐ る 。 眞 言敎 學 を 密敎 と い ふ の は 、 か く の 如 き 一 面 が 存 す る か ら で あ る 。 然 し 密敎 と い ひ 祕 密 と い ふ も 、 多 く の 人 の 想 像 し 易 き が 如 き 、 堕 落 的 の 邪 義 邪 説 を 傳 ふ る も の で な い こ と は 、 少 し そ の 門 に 入 つ て 研 究 す れ ば 、 自 ら 氷 解 さ れ る こ とゝ 思 ふ 。 事 相 學 と 云 へ ば 、 直 に 野 澤 根 本 十 二 流 な る も の が 頭 に 浮 か ん で 來 る 。 そ し て 詳 細 に は そ れ ら の 一 々 に 就 い て 、 各 場 合 を 考 慮 し な け れ ば な ら ぬ の で あ る 。 け れ ど . そ れ ら は 餘 り に 繁 鎖 と な る の で 、 今 は 高 野 山 に て 現 在 一 般 的 に 行 は れ て ゐ る 中 院 流 を 中 心 と し て 述 べ る こ と に す る 。 上 述 の 如 く 事 相 學 は 、 眞 言敎 學 の 上 に 於 い て 、 傳 授 と し て の 特 別 な 扱 ひ に な つ て ゐ る だ け 、 そ の 聽 講 に は 特 別 の 心 得 と 設 備 と を 必 要 と す る 。 即 ち ﹁ 行 規 の 作 法 ﹂ や ﹁ 能 所 の 觀 想 ﹂ と い ふ 如 き は そ の 一 で あ る 。 イ 、 行 規 の 作 法

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こ れ に 就 い て 先 づ 上 代 の 風 を 見 る に 、 受 法 せ ん と す る も の は 必 ず 南 都 東 大 寺 戒 壇 院 の 戒 壇 に 上 り て 沙 彌 十 戒 及 び 具 足 戒 を 受 け て 後 、 一 尊 の 法 を 練 行 す る こ と 三 ヶ 年 と い ふ こ と に な つ て ゐ る 。 彼 の 醍 醐 の 聖 寳 尊 師 の 如 き は 年 四 十 に し て 漸 く 無 量 壽 の 一 尊 法 を 眞 雅 僧 正 に 受 け 、 信 正 入 滅 の 後 四 十 九 歳 元 慶 四 年 に 兩 部 大 法 を 眞 然 信 正 に 受 け 、 五 十 六 歳 に 及 び て 傳 法 灌 頂 を 源 仁 信 都 に 受 け て ゐ る 。 又 仁 海 信 正 ・ 成 尊 信 都 の 頃 ま で は 弟 子 の 受 者 を 引 き て 持 佛 堂 に 入 ら し め 、 高 祖 大 師 の 御 前 に 香 花 燈 明 を 供 へ 、 傳 法 の 所 以 を 啓 白 し 、 然 し て 後 に 傳 授 し 給 ふ 。 十 八 道 の 儀 軌 に は 、﹁ 師 に 從 つ て 灌 頂 を 獲 、 既 に 印 可 を 被 り 絡 ら ば 久 し か ら す し て 將 に 成 就 す べ し 、 弟 子 此 の 相 を 具 へ ば 授 受 を な す べ し 云 々 ﹂ と 。 然 し か く の 如 き 作 法 を 行 ふ こ と は 餘 り に 大 層 に 過 ぎ る と い ふ の で 、 勝 覺 樺權 僧 正 ・定 海 大 僧 正 の 時 に 至 り 、 持 佛 堂 引 入 の 儀 式 を 略 し 、 そ の 席 場 に 唯灑 水 ・ 塗 香 の 二 器 を 机 上 に 備 へ て 師 の 前 に 置 き 、 師 は 塗 香 を 取 り て 弟 子 に 與 へ 、 掌 に 塗 ら し め 、 護 身 法 等 の 印 言 を 結 誦 せ し め て 、 次 に 加 持 香 水 を 自 身 及 び 受 者 の 身 に 灑 ぎ て 、 傳 授 開 講 と い ふ こ と に な る 。 近 代 に 及 び て は 傳 授 席 場 の 上 壇 の 間 正 面 に 高 祖 大 師 の 御 影 を 掛 け 、 そ の 前 に 机 一 脚 、 上 に 香 爐 を 置 き 、 師 の 前 に は 机 一 脚 、 上 に 火 舎 六 器 等 の 一 眞 と 灑 水 塗 香 の 兩 器 を 安 す 。 師 が 高 祖 の 御 影 に 向 つ て 三 禮 し 着 座 せ ら るゝ を 見 て 、 受 者 一 同 大 阿 に 向 つ て 三 禮 し 、 着 座 の 後 護 身 法 を 結 誦 し 、 次 に 大 師 寳 號 二 十 一 遍 、 了 つ て 開 講 と な り 、 講 説 終 了 の 後 は 念 珠 を 摺 り 、 護 身 法 を 結 誦 し て 一 禮 し 退 席 す る 。 近 來 高 野 山 大 學 に て は 毎 時 傳 授 開 講 の 前 に 、 先 づ 三 禮 、 次 に 着 座 護 身 法 心 經 三 卷 奉 事 相 學 序 説 ( 上 ) 五

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事 相 學 序 説 ( 上 ) 六 讀 、 そ の 間 に 大 阿 閣 梨 は 塗 香 灑 水 等 、 講 筵 畢 り て 退 席 す る 時 に は 不 動 尊 慈 救 の 咒 、 次 に 愛 染 明 王 の 咒 、 次 に 大 師 御 寳 號 、 次 に 明神 寳 號 、 各 七 返 、 護 身 法 了 つ て 退 座 と い ふ や う に 運 ば れ て ゐ る 。 一 宗 の 大 事 を 授 傳 す る 席 と し て は 此 れ 位 の 事 は 在 っ て 然 る べ き で あ る 。 (初 め に 許 可 作 法 の こ と あ れ ど 今 は 略 す ) ︹註 ︺ 台 密 に あ り て に敎 相 門 と 講 傳 門 と の 二を 立 てゝ 傳 授 門 の 語 々 普 通 用 い て ゐ な い や う で あ る 。 ロ 、 能 所 の 觀 想 ﹁ 能 所 の 觀 想 ﹂ と は 能 化 た る 師 と 所 化 た る 弟 子 と の 心 構 へ と い ふ こ と に し て 、 師 資 の 用 心 と い ふ も 可 で あ る 。 師 た る 阿 閣 梨 は 此 の 場 合 大 日 如 來 の 資 格 で あ り 、 資 た る 受 者 は 金 剛 薩 捶 の 資 格 と な す 。 謂 は い 我 帥 大 日 、 我 帥 薩 捶 の 觀 想 を な す 。 こ れ は 眞 言敎 學 の 源 流 だ る 南 天 鐵 塔 に 於 け る 大 日 如 來 と 金 剛 薩 捶 と の 、 密 法 授 受 の 儀 式 に 順 じ 、 そ の 規 模 を 實 現 す る に あ る 。 眞 言敎 學 で は 東 方 を も つ て 胎 藏 界 に 配 し 、 萬 物 發 生 の德 を 讃 じ 、 西 方 を 金 剛 界 に 配 し 、 す べ て の 修 學 成 就 し て 佛 果 を 得 る の德 と な す 、 而 し て 南 方 は 東 西 不 二 の 位 、 萬 物 生 成 の德 に 約 し て 修 行 門 の 位 に 配 す 。 今 の 傳 授 の 儀 は 正 し く 修 行 の 階 梯 に あ り 、 且 つ 南 天 の 鐵 塔 を も つ て 現 在 の 席 場 と す る の 心 得 に 安 住 し 、 そ の 鐵 塔 の 中 に て 大 日 覺 王 が 親 し く 、 弟 子 た る 金 剛 薩 捶 に 祕 密 の敎 法 を 授 く る こ と を も つ て 、 師 資 觀 想 の 要 點 と す る の で あ る 。 此 の 觀 想 を 凝 ら す 爲 め に は 種 三 尊 生 起 の 法 式 が 在 る け れ ど 今 は 略 す る 。 要 す る に 宗 家 の神 聖 を 想 ひ 、 宗 體 相 承 の 尊 嚴 を 考 へ て 、 慢 心 を 誡 め 、 値 遇 密敎 の 宗敎 角 法 悦 を 味 は は ん と す る に あ る の み 。

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三 、 道 場 の 荘 嚴 (許 可 道 場 の 荘 嚴 は こ れ に 準 ず ) 道 場 と い ふ も 、 種 々 の 場 合 が あ つ て 、 そ の 荘 嚴 樣 式 も 異 る の で あ る け れ ど 、 今 は 普 通 の 本 堂 を 標 準 と し 、 正 式 に は 如 何 に 荘 嚴 さ る べ き で あ る か を 記 述 す る に 止 め る 。 弘 法 大 師 は 有 名 な る ﹁ 十 住 心 論 ﹂ 十 卷 を 作 り て 、 そ の 最 後 に 第 十 祕 密 荘 嚴 心 を 説 き 、 密 嚴 佛 國 土 て ふ 、 密敎 最 高 の 理 想 界 の 趣 き を 傳 へ ら れ た 。 勿 論 こ れ は精神 的 な 人 格 世 界 で あ り 、 修 養 の 終 局 に 體 驗 さ る べ き 世 界 で あ る け れ ど 、 そ れ を 表 徴 化 し 模 様 化 し て 作 ら れ た る 密敎 寺 院 の 本 堂 は 如 何 に 荘 嚴 さ る べ き で あ る か 。 1 、 八 祖 大 師 掛 け 樣 の こ と 本 堂 に は 普 通 八 祖 大 師 の 畫 像 を 壁 畫 式 に 安 置 す る こ と に な つ て ゐ る 。 而 し て 諸 堂 は 共 に 南 面 を も つ て 標 準 と し 、 八 祖 大 師 を 東 西 に 分 ち て 各 四 人 づゝ を 掲 げ る 。 そ の 順 序 に 就 い て 掛 け 出 し 、 掛 け 込 み の 二 樣 あ り 、 掛 け 込 み の 式 を 用 ふ れ ば 、即 ち 西 側 の 壁 に は 南 よ り 北 へ 順 次 に 龍 猛 ・龍 智 ・ 金 剛 智 ・ 不 空 と 懸 け 、 そ の 奥 に 高 野 山 で は 四 社 明 神 の 御 影 を 掛 く る 。 四 社 明 神 は 高 野 一 山 の 地 主 神 で あ り 守 護 神 だ か ら で あ る 。 四 社 と は 丹 生 ・高 野 ・ 嚴 島 ・氣 比 の 四 神 に し て 、 前 二 社 は 高 祖 大 師 が 高 野 山 の 爲 め に 祀 ら れ 、 後 の 二 は 源平 時 代 行 勝 上 人 の 祀 る 所 と 傳 へ ら る 。 次 に 東 側 の 壁 に は 南 よ り 北 へ 善 無 畏 ・ 一 行 ・悪 果 ・弘 法 と 掛 け 、 そ の 奥 に 流 祖 明 算 大德 の 御 影 を 安 ず 。 以 上 の 如 く す れ ば 東 西 共 に 南 よ り 北 へ 、即 ち口 よ り 奥 へ と い ふ こ と に な る の で 、 こ れ を 掛 け 込 み と い ひ 、 或 は口 上 萬 と も い ふ 。 若 し 掛 け 出 し に す れ ば 、 事 相 學 序 説 ( 上 ) 七

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事 相 學 序 説 (上 ) 八 掛 け 込 み の 場 合 の 逆 に 安 置 す る こ と 、 な る 。 常 に 勤 行 の 時 、 職 衆 の 座 す る の に 、 口 上 萬 と い ひ 奥 上 藺 と い ふ は 此 の 式 に 順 じ て 名 く 。 尤 も 職 衆 の 時 は 、 本 尊 の 左 方 を 上 萬 と す と い ふ 約 束 で あ る か ら 、 口 上 萬 な れ ば 東 側 の 口 に 一 萬 が 坐 し 、 西 側 の 口 に 第 二 萬 が 坐 し 、 以 下 順 次 こ れ に 習 ふ 。 而 し て 本 堂 に て は 各 祖 師 の 前 に 机 一 脚 、 上 に 佛 供 ・燈 明 ・ 六 器 ・火 舎 ・ 佛 布 施 な ど を ま つ る 。 佛 供 は 白 飯 に し て 、 佛 布 施 は 本 式 に は 絹 布 な れ ど 、 略 儀 に は 白 紙 七 枚 若 し は 九 枚 を 包 み 込 み て こ れ を 作 る 。 包 み 方 に は 各 流 に 應 じ て 種 々 の 方 法 が あ り 一 樣 で は な い 。 以 上 の 八 祖 は 共 に 密敎 傳 持 の 大 功 績 者 と な る の で 、 報 恩 の 爲 め 必 ず こ れ を ま つ る 。 こ れ に 就 い て 眞 言 宗 で は 傳 持 の 八 祖 ・ 付 法 の 八 祖 と い ふ 二 樣 が あ る 。 前 に 出 す 如 く 、 龍 猛 ・ 龍 智 ・ 金 剛 智 ・不 空 ・善 無 畏 ・ 一 行 ・惠 果 ・弘 法 と 相 傳 す る は 前 者 に し て 、 善 無 畏 ・ 一 行 の 二 人 を 除 き 、 龍 猛 の 前 に 大 日 如 來 と 金 剛 薩 捶 と を 加 ふ る を 付 法 の 八 祖 と い ふ 。 一 宗 の 正 脈 は 付 法 の 八 祖 に あ り 、 印 度 ・支 那 ・ 日 本 へ の 傳 持 の 功 績 は 傳 持 の 八 祖 に あ る 。 今 本 堂 に 奉 安 す る 八 祖 は そ の 傳 持 の 八 祖 と な す 。 蓋 し こ の 事 は 宗敎 傳 道 の 上 に 於 い て 偉 大 な る 宗敎 的 力 を 表 は す も の で な け れ ば な ら ぬ 。 將 來 密敎 の 世 界 傳 道 は 、 か く の 如 き 新 し き 多 く の 人 を 欲 求 す る に 相 違 な い 。 2 、 兩 界 曼 茶 羅 の 掛 樣 眞 言 宗 の こ と を 曼 茶 羅 宗 と も い ふ 。 曼 茶 羅 は 一 宗敎 學 の 規 模 を 成 す 。 こ れ に 胎 藏 界 と 金 剛 界 と の 兩

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樣 あ り 、 胎 藏 曼 薬 羅 は 自 心 の 理德 を 現 は し 、 因 位 本 有 の德 を 表 す 。 す べ て の德 を 理 と し て 因 位 に 含 藏 し 胞 有 す る の 義 で あ る 。 金 剛 曼 茶 羅 は 修 行 畢 り て 成 佛 し た る 果德 に し て 、 胎 藏 の 理 に 劃 し こ は 智德 を 表 す 。 一 は 萬 象 生 成 の 元 初 に 約 し 、 一 は そ の 果 體 に 約 す 。 而 し て 東 は 日 出 る 方 位 に し て 西 は 一 日 の 終 り を 告 ぐ る の 方 位 で あ る 。 謂 はゞ 東 は 元 初 に し て 西 は 果德 の 位 と な る 、 かゝ る 理 由 に よ つ て 、 東 に 胎 藏 曼 茶 羅 を 掛 け 、 西 は 金 剛 曼 茶 羅 を 掛 く る 規 則 で あ る 。 若 し 道 場 の 都 合 に よ り 二 つ を 並 べ 懸 く る こ と の 出 來 な い 時 こ れ を 重 ね る 。 そ の 時 は 果德 を 表 す の 意 味 を も つ て 金 剛 界 を 上 に し 、 胎 藏 界 を 下 に す 。 曼 茶 羅 と は ﹁ 壇 ﹂ と い ふ こ と に し て 、 印 度 に あ り て は 、 土 を 盛 り 上 げ て 壇 と し そ の 上 に 諸 尊 の 圖 像 若 し は そ の 種 子 た る 梵 字 、 若 く は そ れ みぐ の 三 摩 耶 形 を 畫 き 、 傳 法 の 儀 式 を 行 つ た の で あ る が 、 そ れ が 漸 次 に 略 式 と な り て 、 圖 畫 に 構 成 さ れ た る も の が 用 ゐ ら る 、 こ と 、 な つ た 。 現 在 用 ゐ ら る 、 如 き 構 想 の も の は 支 那 惠 果 和 尚 以 來 の こ と で あ る 。 土 の 壇 を 築 く に は ﹁ 七 日 作 壇 の 法 ﹂ と て 、 七 日 間 の 日 時 を 費 し . 專 心 に 如 法 に 作 ら ね ば な ら な い 。 す べ て こ れ ら は 阿 闍 梨 の 事 業 と な つ て ゐ る 。 傳 法 の 儀 式 が 終 は れ ば 此 の 土 壇 は 破 壊 さ る 。 3 、 壇 及 び 壇 線 壇 は 前 述 の 如 く 、 七 日 作 壇 法 に よ り 土 を 盛 つ て 作 ら れ る の で あ る が 、 そ れ が 略 式 化 さ れ て 木 壇 に て 應 用 さ れ る こ とゝ な り 、 日 本 に て は す べ て 土 法 を 用 ゐ す 、 木 壇 の み と な つ た 。 何 れ な る に せ よ 壇 は 淨 事 相 學 序 説 (上 ) 九

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事 相 學 序 説 (上 ) 一 〇 菩 提 心 の 大 地 を標 幟 し 表 象 す る 。 淨 菩 提 心 と は 最 高 の 宗 教 を 求 む る 求 道 の 眞 心 を い ふ 。 求 道 心 動 揺 し て は 求 む る 所 の 果 を 得 る こ と が 出 來 な い 。 此 處 に 大 壇 の 必 要 が 生 す る 。 求 道 心 高 潮 し て 動 揺 せ ざ る 心 地 を 表 象 す る の で あ る 。 本 朝 に あ り て は 、 本 堂 の 中 央 に 安 す る を 大 壇 と な す 。 こ れ に 復 種 々 の 樣 式 あ り 、 單 に 箱 形 に な れ る を 箱 壇 と い ひ 、 四 脚 あ る を 牙 形 壇 と い ひ 、 蓮 花 模 樣 の 彫 刻 の 在 る を 花 形 壇 と い ふ 。 こ れ ら は 夫 れく に 用 ゐ 所 を 異 に す れ ど 、 本 堂 用 と し て は 花 形 壇 を も つ て 正 規 と す る 。 壇 の 四 隅 に 立 つ る 柱 樣 の も の を 概 と い ふ 、 四 隅 に て 四 本 あ る 故 四 微 と 稱 す 。 代 の 意 に し て 、 淨 菩 提 心 の 大 地 を 堅 固 な ら し め ん が 爲 め に 立 つ る 。 而 し て 此 の 厥 は 紫 檀 木 に て 作 る を 本 義 と し 、 或 は 餘 木 若 し は 銅 鐵 等 に て も 作 る 。 長 さ 十 二 指 量 と い ふ 。 一 指 量 と は 指 の 一 關 節 の 間 の 長 さ を い ふ 。 此 の 厥 と 厥 と を 連 絡 す る 線 を 壇 線 と い ふ 。 線 と は 連 持 の 義 に し て 、 淨 菩 提 心 の 徳 相 を 連 持 し て 断 絶 せ し め ざ る を 本 義 と す 。 此 の 線 は 何 れ よ り 引 き 初 む る か と い ふ に 、 東 北 角 帥 ち 艮 隅 に 始 め て 巽 ・ 坤 ・乾 を 廻 り て 艮 に 収 め る 。 若 し 線 に 餘 り あ ら ば 、 わ が ね て 白 紙 に て 包 み 水 引 を も つ て 結 び 置 く 。 此 の 線 を 引 き 廻 は す に 金 と 胎 と 不 二 の 三 樣 式 が あ り 。 此 の 線 を 造 る に も 亦 三 樣 式 が あ る 。 先 づ 線 を 造 る に は 無 邪 氣 の 童 女 に 八 齋 戒 を 授 け 、 新 淨 の 衣 を 着 け さ せ 、 香 水 を も つ て 沐 浴 、 内 外 共 に 清 淨 に し て 、 本 尊 に 香 花 燈 明飯 食 等 を 供 へ て 作 る 。 太 さ は 小 指 ば か り 、 右 合 せ に す る 。 線 を 胎 藏 界 用 に 作 れ ば 白 赤 黄靑 黒 、 金 剛 界 用 に 作 れ ば 白靑 黄 赤 黒 、 不 二 壇 用 に 作 れ ば 白 黄 赤靑 黒 の 順 序 に 並 べ て 合 は す 。 各 五 色 な る 故 五 色 線 と も い ふ 。

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普 通 の 本 堂 に は 大 壇 一 つ の み な る 故 、 此 の 場 合 に は 不 二 壇 の 式 を 用 ふ る が 良 い 。 胎 藏 界 壇 (東 ) 、 金 剛 界 壇 (西 ) 、 不 二 壇 (中 央 ) と 、 一 つ 堂 の 中 に 三 壇 を 造 る 時 を 三 壇 構 へ と い ふ 。 そ の 時 は 三 壇 各 別 に 線 を 引 く の で あ る け れ ど 、 普 通 一 壇 の 時 は 不 二 壇 の 式 を 用 ふ る ∩ 不 二 と は 金 剛 と 胎 藏 と の 兩 部 不 二 と い ふ の で あ つ て 、 眞 言敎 學 に 於 け る 最 極 の 深 旨 を 表 す る 。 兩 部 の 外 に 不 二 を 認 め る が 如 く な れ ど 、 實 は 兩 部 即 不 二 の 意 味 を 詮 表 す る 。 而 し て 壇 線 を 引 く に 、 胎 藏 壇 は 下 轉 に 、 金 剛 界 壇 は 上 轉 に 、 不 二 壇 は 最 初 の 厥 を 金 に 次 を 胎 に 次 は 金 、 最 後 は 胎 に し て 結 び 合 は す 。 或 は 初 め の 二 厥 を 金 に し 、 次 の 二 を 胎 に す る 場 合 も あ る 。 三 壇 構 へ の 時 、 不 二 壇 を 中 壇 と 稱 す る 。 但 一 壇 な る 時 は 大 壇 と い ふ の み 。 上 轉 下 轉 は 、 金 剛 界 は 修 行 始 覺 の 故 に 上 轉 で あ り 、 胎 藏 は 本 覺 下 轉 な る 故 か く 引 き 廻 ら す こ とゝ な る 。 ︹註 ) 胎 藏 曼 茶 羅 は 東 に 掛 け て 西 向 に し 、 壇 も 西 面 に し 、 行 者 に 東 向 寺 に す 。 金 剛 曼 茶 羅 に 西 に 掛 け て 東 向 毫 、 壇 に 東 向 き に し て 行 者 に 西 向 き に す 。 本 尊 に 南 向 き 、 中 壇 に 南 面 に し て 行 者 に 北 面 に す 。 猶 丁 寧 に は 壇 敷 ・壇 引 を 用 う る こ と が あ る 。 壇 敷 は 反 物 を 壇 の 上 に 敷 く の で あ つ て 、 そ の 敷 き 樣 は 艮 隅 よ り 始 め て 七 折 り に し て 壇 面 を 覆 ふ 。 或 は 小 壇 な る 時 は 五 折 り で 良 い 。 壇 引 き は 牙 形 壇 若 し は 箱 壇 の 時 に 用 う る の で あ つ て 、 こ れ は 壇 の 横 腹 に 反 物 を 廻 ら し 莊 嚴 と な す 。 前 と 同 じ く 艮 隅 に 初 め て 東 南 西 北 と 巡 ら す 。 こ れ ら の 引 き 樣 、 敷 き 樣 は 各 流 に 應 じ て そ れ んぐ の 習 ひ が あ つ て 、 一 定 す る こ と は 出 來 な い 。 總 じ て 花 形 壇 に は 壇 敷 を 用 ゐ て 壇 引 を 用 ゐ ず 、 護 摩 壇 に は 壇 引 の み を 用 ゐ て 壇 敷 を 用 ゐ な 事 相 學 序 説 (上 ) 一 一

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事 相 學 序 説 ( 上 ) 一 二 い 。 且 つ 護 摩 壇 は 多 く 牙 形 壇 に し て 、 時 に は 箱 壇 を 用 ふ る こ と も あ る 。 壇 敷 壇 引 は 共 に 新 淨 の 白 布 を 溌 濯 し て 香 を 塗 り 用 ふ 。 台密 家 に は 食 道 を 用 う る の で あ る け れ ど 、 東密 家 に は こ れ を 用 ゐ な い 。 猶 灌 頂 壇 を 莊 嚴 す る 時 に は 、 壇 の 上 に 敷 曼 茶 羅 を 安 じ 、 古 の 土 壇 に 順 せ し む る 。 4 、 五 瓶 と 佛 供 壇 の 四 隅 に 花 を 立 て る 。 そ の 器 物 を 瓶 と い ふ 。 五 つ 置 く 故 五 瓶 と 稱 す 。 時 花 を 用 う る こ と も あ り 、 復 造 花 を 用 う る こ と も あ る 。 多 く の 場 合 は 造 花 を 用 ゐ 、 然 も 眞 言 家 に は 五 色 蓮 花 を 用 ゐ て ゐ る 。 五 色 な る 故 そ の 配 置 に 就 い て 順 序 が 論 せ ら れ な く て は な ら ぬ 。 五 色 の 順 序 は 前 の 線 と 同 じ い 。 則 ち 胎 藏 壇 の 時 は 自 赤 黄靑 黒 、 金 剛 壇 の 時 は 白靑 黄 赤 黒 、 不 二 中 壇 の 時 は 自 黄 赤靑 黒 と 次 第 す る 。 そ の 中 白 は 常 に 中 央 に し て 、 餘 の 四 瓶 に 就 い て 艮 瓶 巽 瓶 と い ふ こ と が 考 へ ら れ て ゐ る 。 即 ち 艮 隅 を 四 色 の 初 め と す る か 、 若 し は 巽 隅 を そ の 最 初 と す る か と い ふ こ と で あ る 。 何 れ に せ よ 、 三 壇 の 性 質 と 古 來 の 例 に 應 じ て 赤靑 黄 黒 等 と す る 。 佛 供 と は 佛飯 で あ る 。 突 き 佛 供 に 作 り 、 五 色 に 配 し て 供 養 の 用 に 當 て る 。 そ の 置 き 所 は 、

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と な る 。 白 を 大 佛 供 と し 、 他 の 四 色 を 小 佛 供 と し て 圖 の 如 き 位 置 に 置 く 。 こ れ を 胎 角 金 方 と 稱 す る 。 胎 は 四 隅 に 同 色 の 佛 供 を 角 に 置 く 故 胎 角 と い ひ 、 金 は 方 位 に 從 ふ 故 金 方 と 稱 す る 。 こ れ ら の 色 は 五 瓶 花 に 順 じ て 艮 隅 (心 南 院 方 ) 若 し は 巽 隅 (引 攝 院 方 ) よ り 順 次 安 す る こ と に な る 。 中 壇 は 阿 闇 梨 の 意 に 任 せ て 胎 金 何 れ の 樣 式 に 從 ふ も 可 で あ る 。 五 色 の 順 序 に 就 い て は 經 軌 の 説 く 所 多 樣 に し て 何 れ と も 決 し 難 い け れ ど 、 今 は 一 説 に よ り 、 高 野 山 中 院 流 所 用 の も の を 出 す の み 。 五 色 即 五 佛 な ど と い ふ 説 も し ば く 用 ゐ ら れ 、 そ の 信 仰 に よ つ て す べ て 取 り 扱 は れ て ゐ る 。 け れ ど 今 は そ の 解 説 を 略 す る 。 五 瓶 に は そ れぐ 香 水 を 入 れ 、 五 寳 ・ 五 藥 ・ 五 香 ・ 五 穀 を 調 合 し て 綵 帛 の 一 端 に 包 み て 中 に ひ た す 。 事 相 學 序 説 ( 上 ) 一 三

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事 相 學 序 説 (上 ) 一 四 綵 帛 は 五 瓶 の 頸 飾 り に し て 、 五 色 の 絹 布 切 れ に て 作 り 、 瓶 花 の 色 に 順 じ て 、 こ れ を 飾 る 。 綵 帛 の 作 り 方 等 、 小 著 ﹁ 高 野 山 學 修 灌 頂 修 行 記 ﹂ を 參 照 さ れ た い 。 都 て 金 胎 兩 部 各 々 の 瓶 に 用 う る 。 但 し 結 び 樣 掛 け 樣 に 相 違 あ れ ば 、 何 れ も そ の 流 の 中 に 入 つ て 習 得 し な く て は な ら ぬ 。 五 寳 等 も 各 流 派 に よ つ て そ の 組 み 合 は せ が 異 る の で あ る が 、 今 は參 考 ま で に 中 院 流 の 一 説 を 記 す 。 五 寳 金 ・銀 ・瑠 璃 ・ 珊 瑚 ・琥 珀 五 藥 赤 箭 ・ 仁 參 ・茯 苓 ・ 石 菖 蒲 ・ 天 門 多 五 香 沈 水 ・ 白 檀 ・ 丁 子 ・欝 金 ・龍 脳 五 穀 稻 ・大 麥 ・ 小 麥 ・緑 豆 ・胡 麻 右 の 中 五 寳 は 一 心 の 賓 珠 よ り 、 世 出 世 の 財 寳 を 涌 現 し て 、 一 切 の 凡 聖 に 施 與 す る を 意 味 し 、 五 藥 は 眼 耳 鼻 舌 身 て ふ 五 識 分 別 の 病 を 治 し て 五 智 の 色 心 を 保 た ん と す る も の 、 五 香 は 本 有 若 し は 縁 起 の 一 切 の 功 徳 が 、 佛 陀 大 悲 の 風 に 薫 じ ら れ て 、 法 界 に 芬 馥 た ら し め ん と す る に 約 し 、 五 穀 は一 心 の 根 源 よ り 大 慈 悲 の 董 葉 枝 末 を 芽 生 し 、 究 竟 涅 槃 の 穗 を 生 ぜ し め ん と す る に あ る 。 か く の 如 き 意 味 を も つ て 、 こ れ ら 二 十 種 の も の を 少 量 づゝ 配 合 し 、 綵 帛 の 下 に 包 み 込 み て 五 瓶 の 中 へ 収 む る 。 五 瓶 花 の 時 に は 花 を 壇 の 中 央 へ 向 へ . 其 他 の 時 は 何 れ の 場 所 た る を 問 は す 、 す べ て 花 を 行 者 に 向 へ る 。 こ は 行 者 の 本 有 本 覺 の 佛 心 を 供 養 す る の 意 に 約 す 。 行 者 本 有 の 佛 心 を 外 に し て は 本 尊 が な い か ら

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で あ る 。 5 、 輪 寳 ・羯 磨 ・ 金 剛 盤 等 輪 寳 は 輪 臺 に 乗 せ て 壇 の 中 央 に 置 く 、 八 輻 の 金 剛 寳 輸 で あ る 。 古 代 に 於 け る 一 種 の 戦 具 の 轉 化 し た も の で 摧 破 の 功 用 を 表 す 。即 ち 一 切 煩 惱 の 敵 を 摧 破 し 盡 す の 意 を 表 は す 。 羯 磨 は 三 股 杵 を 十 字 に 交 叉 せ る も の に し て 、 三 股 杵 は 身 口 意 三 密 の德 を 現 は す 。 兩 個 の 三 股 杵 が 交 叉 す る は 、 則 ち 生 佛 の 三 密 が 感 應 道 交 す る の 意 で あ る 。 羯 磨 は 臺 に 載 せ て 壇 の 四 隅 に 置 く 。 金 剛 盤 は 衆 生 の 心 蓮 花 を 表 し 、 金 剛 部 の 表 象 た る 五 股 と 佛 部 の 表 象 た る 三 股 と 、 獨 股 の 表 象 た る 蓮 花 部 と 、 ・ こ れ ら 三 部 の 功德 は 衆 生 の 心 蓮 花 の 中 に 圓 満 す る 故 、 金 剛 盤 の 上 に こ れ ら の 三 杵 を 置 く こ と に な つ て ゐ る 。 台 密 に て は こ の 金 剛 盤 を 壇 の 外 に 置 く の 流 あ れ ど 、東 密 に て は 、右 の 如 き 意 味 に て こ れ を 壇 の 上 に 安 す 。 蓋 し 佛 蓮 金 の 三 部 合 し て 都 會 の 曼 茶 羅 を 成 し 、 悉 く 一 心 の 中 に 完 備 す る こ と を 論 究 す る の で あ る 。 蓮 花 は 汚 泥 の 中 よ り 出 で 、 汚 泥 に 染 ま す 。 人 は 濁 惡 の 中 に 生 れ て そ の 濁 惡 に 染 ま ざ る を も つ て 尊 ぶ 、 此 の 意 味 を も つ て 佛敎 に て は 特 に 蓮 花 を 珍 重 す 。 思 ふ に 人 間 修 養 の 終 局 理 想 を 此 の 花 に 見 出 し た る も の で あ ら う 。 諸 の 佛 が 蓮 花 を 座 と す る こ と は 、 そ の 意 味 甚 だ 深 し と し な け れ ば な ら ぬ 。 三 股 杵 は 身 口 意 の 三 密 そ の德 に 於 い て は 衆 生 と 佛 と 無 二 平 等 な る べ き を 表 は す 。 依 っ て こ れ を 佛 部 に 寓 意 す る 。 濁 股 杵 は 獨 一 な る 法 界 の 理 を 表 し て 蓮 花 部 に 當 て 、 五 股 杵 は 五 智 を 表 し て 金 剛 部 に 配 す 事 相 學 序 説 (上 ) 一五

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事 相 學 序 説 ( 上 ) 一 六 る 。 金 剛 部 は 智德 を 體 と し 、 蓮 花 部 は 一 心 法 界 の 大 悲 を 體 と し 、 佛 部 は そ の 二 を 合 し て 悲 智 圓 満 し た る の 相 な る 故 、 か く の 如 き 配 合 に は 甚 だ 深 き 意 趣 あ り と し な く て は な ら ぬ 。 金 剛 盤 の 上 に は 、 そ れ ら 五 股 ・ 三 股 ・獨 股 の 外 に 鈴 を 安 す る 。 鈴 は 樂 器 の 一 で あ る 。 而 し 此 の 場 合 は 佛 陀 説 法 の德 を 表 は す と 心 得 る 。 即 ち 三 部 の 説 法 を も つ て 、 衆 生 の 煩 惱 妄 想 の 眠 り を 驚 か す の で あ る 。 此 の 鈴 と い ふ に 就 い て 曼 茶 羅 供 に は 五 種 鈴 が 用 ゐ ら る 。 五 種 鈴 は 金 剛 盤 の 上 に は 安 置 さ れ す し て 、 壇 の 中 央 な る 塔 鈴 を 廻 り て 四 方 に 五 股 鈴 ・寳 珠 鈴 ・ 三 股 鈴 ・ 獨 股 鈴 を 、 東 南 西 北 の 順 序 に 並 ぶ 。 此 の 四 種 鈴 と 前 の 塔 鈴 と を 合 し て 五 種 鈴 と 呼 ぶ 。 そ の 形 は 名 の 示 す 如 く 鈴 の 上 が 、 五 股 な る と 寳 珠 な る と 、 三 股 な る と 獨 股 な る と 塔 形 な る と に よ つ て 匠 別 さ る 。 塔 鈴 は 輪 寳 の 上 に 安 置 し 、 他 の 四 種 鈴 は 三 角 形 に 折 つた 紙 (奉 書 ) の 上 に 置 く 。 曼 茶 羅 供 に は 五 種 鈴 を 用 ふ る も 他 の 場 合 に は 塔 鈴 の 代 り に 舎 利 塔 を 安 す 、 今 こ れ ら を 圖 に 作 れ ば 、 ︹註 ) 五 種 鈴は 四 方 よ リ 中 台 の 大 日 々 荘 嚴 す る の で あ つ て 、 鈴 の 外 に 各 杵 (五 股 杵 ・賓 杵 ・ 三 股 杵 ・獨 股 杵 ) な 安 ず る こ と も あ る 。 こ れ も 亦 中 台 よ り 四 方 へ 向 へ る 。 中 央 の 輪 と 四 隅 の 羯 磨 と は 峯 ( 八 葉 座 ) の 上 に 置 く 。 6 、 六 器 と 六 種 供 養 六 器 と は 閼 伽 ・ 塗 香 ・ 花 鬘 ・ 焼 香 ・飯 食 ・ 燈 明 て ふ 六 種 の 供 養 器 を い ひ 、 こ れ を 壇 の 四 面 に 置 く を も つ

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て 四 面 器 と い ふ 。 六 器 の 中 前 三 は 坑 と 稱 す る 臺 の 上 へ 、 底 深 き 花 皿 (金 屬 製 ) を 置 く も の に し て 、飯 食 器 は 前 三 器 よ り 少 し 高 い 佛 供 臺 を 用 ふ 。 燈 明 は 普 通 の 燈 明 皿 若 し は 燭 臺 を 用 う 。 弘 法 大 師 の 語 に ﹁ 至 貧 の 入 と 雌 も 六 種 の 供 養 を な せ ﹂ (高 雄 の 口 訣 ) と あ る 。 六 種 と 云 へ ば 大 層 の や う で あ る け れ ど 、 そ の 内 容 は 頗 る 簡 單 な の で あ つ て 、 こ れ な れ ば 如 何 な る 人 も 出 來 な い と い ふ こ と は な い 。 そ し て 如 何 な る 入 も 此 れ だ け の も の を も つ て 、 供 養 の 心 持 ち を 味 ふ こ と は 甚 だ 意 味 深 い こ と で な く て は な ら ぬ 。 金 剛 界 九 會 曼 茶 羅 の 中 に 、 供 養 會 と い ふ 一 會 が あ る 。 こ は 供 養 の 眞 意 義 を 表 明 し た の で あ つ て 、 吾 人 の 捧 ぐ る 一 片 の 香 、 一 掬 の 花 も 皆 供 養 會 の 三 昧 に 入 り 、更 に す べ て の 勢 力 的 奉 仕 も 、 奪 い 此 の 供 養 の 三 昧 よ り 出 つ る や う に な れ ば . 社 會 は ど れ だ け 純 化 さ れ 淨 化 さ れ る か も 知 れ ぬ 。 此 の 供 養 に 就 い て 吾 人 の 佛 に 對 す る 供 養 、 佛 の 吾 人 に 封 す る 供 養 、 人 間 相 互 の 供 養 、 我 の 法 界 に 封 す る 供 養 、 法 界 よ り 受 く る 諸 の 供 養 な ど 種 々 な 場 合 が 考 へ ら れ る の で あ る け れ ど 、 今 は 吾 人 の 佛 に 封 す る 供 養 の 場 合 を 考 へ て 、 他 の 場 合 を 推 察 す る に 資 す る 。 勿 論 供 養 な れ ば 、 無 條 件 で あ り 、 無 制 約 で な く て は な ら ぬ 。 制 約 を 欲 求 す る 供 養 は 實 利 主 義 に 出 發 す る の で あ つ て 、 吾 人 の 認 容 し 得 ざ る 所 で あ る 。 六 器 の 中 の 第 一 な る 閼 伽 は 水 と い ふ こ と で あ つ て 、 佛 教 で は 、 そ の 水 の 中 で 佛 に 奉 る 水 を 特 に 閼 伽 と 呼 ぶ 。 こ れ に よ つ て 大 日 經 疏 に は ﹁ 閼 伽 水 此 即 香 花 之 水 ﹂ (卷 十 一 ) と あ る 。 香 花 の 水 と は 香 花 を 淨 ベ た る 水 と も 解 釋 さ る 。 現 在 で は 此 の 解 釋 に 順 じ て ゐ る も の も あ る 。 或 は 香 を 煮 出 し た る 香 水 を 用 う る 事 相 學 序 説 ( 上 ) 輔 七

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事 相 學 序 観 ( 上 ) 一 八 こ と も あ る 。 何 れ に せ よ 此 の 時 に 用 う る 水 は 、 後 夜 の 水 と い ふ の で あ る 。 後 夜 よ り 寅 の 刻 に 及 び て は 萬 物 寂 と し て 聲 な き の 時 に し て 、 水 中 の 虫 さ へ 此 の 時 刻 に は 動 か な い と 云 は る 。 澄 淨 の 至 極 を 表 は す 。 此 の 時 刻 に 水 を 汲 み 取 り て 關 伽 器 に 入 れ 供 養 の 資 に 當 つ る の で あ る 。 高 野 山 の 碩德 道 範 阿 閣 梨 (鎌 倉 時 代 初 期 の 人 ) は ﹁ 寅 の 一 鮎 に は 水 に 花 咲 く 故 に か の 清 浄 な る 華 水 を 取 り て 供 養 に 用 ふ ﹂ と 記 さ れ た 。 寅 の 時 刻 に は 、 水 に 星 が う つ り て 花 を 浮 べ た る が 如 し と い ふ の で あ る 。 兎 に 角 此 の 水 は 現 時 の 午 前 四 時 前 に 汲 み 取 ら ね ば な ら ぬ 。 而 し て 關 伽 器 の 水 の 上 に 名 華 を 浮 べ る 。 こ は 池 中 の 蓮 花 を 表 す る の で あ る 。 或 は 悉 達 太 子 が 六 年 苦 行 し て 後 牧 牛 の 乳 の 粥 を 受 け 、 尼 連 禪 河 に 沐 浴 し 給 ふ 時 、 諸 天 随 喜 し て 集 り 來 り 、 佛 の 沐 浴 し 給 ふ 儀 式 を な し 、 妙 華 を 折 り て 河 の 流 れ に 浮 べ 、 水 を 莊 嚴 し た 。 是 れ が 閼 伽 水 に 華 を 浮 ぶ る の 原 由 だ と も 傳 ふ 。 密敎 供 養 法 の 式 の 中 に こ れ を 取 り 入 れ て 關 伽 を 供 す る 、 こ れ に 就 い て 或 は 洗 足 、 或 は 澡 浴 、 或 は 漱 口 と い ふ 意 味 が 考 へ ら れ て ゐ る 。 そ の 作 法 は 器 を 捧 げ て 本 尊 爾 足 を 洗 ひ 給 へ と 観 想 す る こ と も あ れ ば 、 器 の 盤 に 水 を 滴 ら し て 漱口 と す る 場 合 も あ る 。 漫 浴 と い ふ は 洗 浴 身 と な る を い ふ 。 漱口 と は 御 馳 走 終 つ た 時 の 漱口 で あ る 。 蓋 し 遠 來 の 客 を 迎 ふ る 時 は 、 先 づ 水 を 出 し て 足 を 洗 は し め 、 次 に 身 を 淨 め て 身 心 共 に 清 浮 な ら し め 、 而 し て 後 に 百 味 の 飲 食 を 供 じ 、 最 後 に 浄 水 を も つ て 口 を 洗 は し む る の 作 法 な の で あ る 。 若 し 洗 浴 無 垢 身 の 意 味 に 取 れ ば 、 中 に 浮 ぶ る 花 は 沐 浴 す る 爲 め の 座 と し て 考 ふ る こ と も 出 來 る で あ ら う 。

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次 の 塗 香 は 、 粉 末 と し た る 香 を 手 に 塗 り 身 禮 を 淨 め て 佛 を 供 養 す る 爲 め に 適 當 な ら し む る の で あ る 。 醜 惡 な る 肉 身 の 臭 を 除 く に 適 す る 。 受 戒 す る 時 、 或 は 灌 頂 壇 に 入 ら ん と す る 時 、 或 は 行 法 を 修 せ ん と す る 時 に 塗 香 を 用 う る は 皆 此 の 意 に 外 な ら ぬ 。 密 教 で は 自 心 中 の 五 分 法 身 を 磨 瑩 し て 戒 定 慧 解 脱 々 々 知 見 を 完 成 せ ん と す る 。 塗 香 に は ﹁ 沈 ﹂ と か ﹁ 白 檀 ﹂ と か ﹁ 龍 脳 ﹂ な ど と い ふ 上 等 の 香 を 粉 に し て 用 う 。 製 法 に も 種 類 あ れ ど 今 は 略 す 。 六 器 の 時 は 花 を 盛 り 或 は 塗 香 を 盛 り て 供 菱 の 用 に 當 て る 。 華 鬘 は 器 に 四 花 或 は 五 華 等 流 例 に よ り て 相 違 あ れ ど 、 そ れ ら 幾 つ か の 花 を 盛 り て 供 養 す 。 こ は 因 位 若 し は 果 位 の 萬德 を 莊 嚴 し て 華 香 芬 馥 た る に 習 ふ 。 鬘 と は 頸 に 掛 け て 身 を 莊 嚴 す る 一 種 の 花 環 を い ふ 。 今 は 佛 壇 を 莊 嚴 す る の 資 と な す 。 こ れ に も 本 尊 の 種 類 性 質 や 行 者 の 意 樂 に 應 じ 、 細 密 の 説 存 す れ ど 繁 に 過 ぐ る こ と ゝ な る の で 今 は 略 す 。 以 上 閼 伽 ・ 塗 香 ・花 鬘 の 三 器 に は 花 を 盛 る の で あ る が 、 近 來 は 樒 の 葉 を 多 く 普 通 に 用 う 。 そ の 中 、 塗 香 器 と 閼 伽 器 と に 各 樒 一 葉 を 用 う る こ と も あ れ ば 、 一 葉 を 二 つ に 折 り て 二 器 へ 分 ち 用 う る こ と も あ る 。 華 鬘 器 へ は 房 花 を 入 れ 、 或 は 五 葉 若 し は 四 葉 等 各 流 古 來 の 例 に 准 じ て 供ず 。 樒 の 葉 を 用 う る は そ の 形 が 青 蓮 花 に 似 た る 故 に と い ふ 口 訣 に 依 る 。 總 じ て 花 は 人 に 愛 好 さ る ゝ も の に し て 、 そ れ 自 體 温 和 柔 和 の德 を 表 は し 、 家 庭 に あ り て は 人 の 心 を 柔 和 圓 満 に し 、 祖 先 神 佛 へ の 最 大 な る 供 養 奉 公 の 意 を 含 蓄 せ し む る 。 随 つ て 樒 の 葉 に 限 る に は 非 す 、 大 い に 時 花 を 用 ゐ て よ い の で あ る 。 佛 前 に 花 を 供 養 す る こ と は 皆 こ れ ら の 意 味 よ り 出 つ る 。 事 相 學 序 説 ( 上 ) 一 九

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事 相 學 序 説 (上 ) 二 〇 焼 香 の 焼 は 焚 焼 の 意 に し て 、 香 は 菩 提 の 香 を い ふ 。 即 ち 佛 果 菩 提 を 求 め ん が 爲 め に 、眞 實 智惠 の 火 を 焚 焼 し て 、 菩 提 の 果 を 薫ず る の で あ る 。 焼 は 上 昇 し て 漸 次 に 廣 く 高 く 遂 に 天 空 を 覆 ふ 。 そ の 如 く 今 は 菩 提 の 香 を 薫 じ て 法 界 に 遍 満 せ し む る 。 此 の 焼 香 に 五 種 の 場 合 が あ る 。 第 一 は 初 め て 道 場 に 入 り 着 座 、 壇 上 の 本 尊 聖 衆 を 見 て 、 先 づ 五 體 投 地 の 禮 を な し 恭 敬 の 意 を 表 す る 、 そ の 時 に 焼 香 を な す 。 第 二 は 修 法 觀 法 の 順 序 と し て 行 者 の 心 上 に 月 輪 を 觀 じ 、 月 輸 の 中 に 本 尊 の 身 を 観 想 す る こ と が あ る 。 そ の 時 所 現 の 佛 身 に 供 へ ん 爲 め に 焼 香 す 。 第 三 は 道 場 に 列 す る 本 尊 へ 供 養 せ ん が 爲 め の 焼 香 、 第 四 は 念 誦 す る 時 に 本 尊 を 供 養 す る の 焼 香 、 第 五 は す べ て の 修 法 終 つ て 本 尊 を 本 來 の 國 土 へ 邊 り 奉 ら ん と す る 時 に 行 ふ 焼 香 で あ る 。 現 今 東 密 家 で は 大 法 立 て の 修 法 に は 五 度 の 焼 香 を 用 ゐ 。 別 行 若 し は 十 八 道 立 て の 時 は 四 度 と い ふ こ と に な つ て ゐ る 。 そ は 着 座 の 次 に 辮 供 、 次 に 念 珠 を 摺 つ て 祈 願 、 了 つ て 焼 香 、 次 は 道 場 觀 の 時 、 次 は 正 念 誦 の 時 、 次 は 後 供 養 の 時 と な す 。 飯 食 (或 は飯 食 に 作 る ) は 總 じ て 吾 人 生 命 長 存 の 資 と な る も の 、 こ れ を も つ て 佛 に 供 養 の 意 を 表 せ ん と す る も の が 今 の 供 養 で あ る 。 蘇 悉 地 經 に は 團 根 ・長 根 ・ 諸 果 ・蘇 餅 ・ 油 餅 ・諸 羹 等 、 或 は 種 々 粥 ・及 び 諸飯 食 等 と い ふ 。 少 し 丁 寧 な る 供 養 法 を 修 す る 時 に は飯 ・汁 ・ 餅 .菓 を 具 備 す る 。 要 す る に こ れ ら は 無 上 の 甘 露 味 を 成 す も の に し て 、 有 情 の 命 根 を 相 續 す る 唯 一 の も の と も い ふ べ く 、 よ つ て 經 に は ﹁ 無 過 上 味 ﹂ と い ふ 語 を し ば し ば 出 す 。 随 つ て 臭 積 な る も の 、 辛 苦 澁 味 等 の あ る も の 、 古 き 殘 物 な ど 、 不 淨

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不祥 の 食 は 供 養 し 得 ら れ な い 。 諸 種 飲 食 供 養 物 の 中 、 日 中 に は 飯 汁 餅 菓 を 備 へ 、 後 夜 に は 粥 、 初 夜 に は 花 水 供 を 用 う る を 古 來 の 例 と な す。 前 説 し た る 五 色 佛 供 は 此 の 飯 食 の 中 の一 類 に し て、 そ れ ら の 食 器 は 先 づ 洗淨 し 覆 せ て 香 煙 を 内 に熏 じ 、 食 を 盛 り 、 次 に 復 香 煙 に て 薫 じ 、 無 能 勝 の 陀 羅 尼 に て 別 に 水 を 加 持 し 食 に 漉 ぐ 。 そ の 食 は 上 首 の 尊 に な る 程 量 を 増 加 し て 供ず る こ と に な つ て ゐ る 。 或 は 経 濟 上 の 都 合 に て 諸 奪 の 一 一 に 辮 備 す る こ と の 出 來 な い 時 は 、 唯 部 主 の み を 供 養 し 観 心 K て餘 尊 を 供 養 す る こ と も あ る 。 燈 明 と い ふ は 智 恵 の 光 明 を 意 味 し 、 闇 を 破 つ て 佛 果 に 到 達 す る 時 、 す べ て の 心 障盡 き て 無盡 の 慧 と な り 、 遍 く 衆 生 を 照 ら す を 意 味 す る 。 阿 闍 梨 が 灌 頂 壇 を 設 け 弟 子 を 引 入 し て 後 、 燈 明 を 加 持 し 、 弟 子 に こ れ を 視 せ し め て ﹁ 願 汝 等 獲 得 一 切 如 來 智 慧 光 明 ﹂ と い ふ は 、 全 く 此 の 意味 に 外 な ら ぬ 。 ﹁ 無 量 壽 經 ﹂ 下 に ﹁ 爲 世 燈 明 最 勝 福 田 ﹂ と い ひ 、 ﹁ 菩 薩 藏 經 ﹂ に ﹁ 百 千 燈 明懴 悔 罪 ﹂ と い ふ が 如 き は 、 何 れ も 智 恵 の 燈 明 に よ つ て 世 界 を 照 ら す こ と を 意 味 す る 。 燈 明 に 用 う る盞 は 金 ・銀 ・赤 銅 ・熟 銅 ・瓷瓦 等 を も つ て 作 る 。 燈 心 は白 髭 の 花 、 或 は 新 し き 髭 布 に て 作 り 、 或 は耨 句 羅 樹 の 皮 の絲 若 し は 新 浄 の 布 に て 作 れ と あ る 。 油 は 香 油 或 は 油 麻 ・白 芥 子 等 よ り 取 る 。 現 今 普 通 に は菜 種 油 を 用 う 。 石 油 は 便 利 な れ ど 臭 氣 甚 し く 供 養 の 用 に は 不 可 と な す 。 香 油 は 新 香 花 を 取 つ て 髭 を 作 る が 如 く に 多 く の 花 を 貫 き 環 に し 懸 け て 日 中 に 出 し 、 油 器 を 下 に し て 、 華 の 上 よ り 油 を 灌 ぎ 油 器 の 中 へ 滴 ら し め る 。 そ の 滴 ら し た る 油 を 復 華 に 灌 ぐ 、 事 相 學 序 説 ( 上 ) 二 一

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事 相 學 序 説 (上 ) 二 二 か く て 日 出 よ り 日 没 に 至 る ま で 幾 度 も 繰 り 返 へ す 。 明 日 も 亦 新 し い 花 を 取 つ て 同 じ こ と を な す 。 か く て 華 の 香 を 油 に 移 す の で あ る 。 か く の 如 く 六 器 に 整 備 す る 六 種 供 具 は そ の ま 、 に 六 種 供 養 で あ つ て 、 古 來 密敎 徒 の 信 す る 所 で は 六 種 供 養 即 六 波 羅 蜜 行 を 意 味 す 。 六 波 羅 蜜 と は 人 の 知 る 如 く 檀 ・ 戒 ・ 忍 ・進 ・禪 ・ 惠 の 六 度 行 に し て 、檀 は 布 施 行 、 戒 は 戒 律 と も 熟 字 し 、 佛敎 道德 に 關 す る 諸 の 制 約 を い ふ 。 忍 は 怨 耐 行 、 進 は 努 力精 進 、 釋 は 内 觀 反 省 の 静 的 修 養 、 惠 は 智 惠 の 修 練 で あ る 。 こ れ ら の 六 度 行 は 六 種 供 養 の精 神 的 意 義 を も つ て 、 直 に 完 成 す る こ と を 主 張 す る 。 一 切 草 木 百 穀 苗 稼 皆 雨 露 の 恩 施 を 蒙 っ て 生 長 し 果 熟 す る 。 こ れ 即 水 の 施 波 羅 蜜 行 の德 で あ る 。 諸 の 佛 戒 若 し は 三 昧 耶 の 戒 香 を 我 身 に 塗 り 、 煩 惱 罪 業 の 熱 惱 を 除 き 、 法 身 清 凍 の 樂 を 得 し め る 。 此 の 意 味 に て 塗 香 を 戒 波 羅 蜜 と な す 。 又 一 切 草 木 の 花 は 人 の 心 を 柔 軟 な ら し め 、 又 慈 悲 の 花 を 開 か し む る德 あ る に よ つ て 華 鬘 を 忍 辱 行 に 配 す 。 次 に 焚 香 を精 進 と な す 。 一 度 び 點 じ た る 火 は 最 後 ま で 燃 え 續 け る 。 努 力精 進 も 亦 か く の 如 く で な け れ ば な ら ぬ 。 次 は 衣 食 足 り て 禮 節 を 知 る と い ふ 古 語 さ へ あ る 。 佛敎 に は 法 喜 禪 悦 食 と い ふ 。 法 悦 を飯 食 と し 、 人 生 活 動 は 其 處 よ り 湧 き 出 る の で な け れ ば な ら ぬ 。 般 若 を も つ て 燈 と な す と い ふ 。 燈 は 照 ら す を 用 と す る 。 即 ち 般 若 の 智 惠 よ く 法 界 を 照 ら し 如 實 の 知 見 を 得 し む る に 喩 ふ 。 弘 法 大 師 の 残 さ れ た 語 に 檀 水 戒 塗 忍 辱 花 、 進 焚 禪飯 般 若 燈 、精 進 六 遍 置 中 間

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と あ る は 上 述 の 意 に 外 な ら ぬ 。 か く 考 ふ る 時 は 至 貪 の 人 も 此 の 六 種 供 養 の 不 能 な る こ と は な い 。 然 も そ の 人 生 に 於 け る 意 義 は 甚 だ 趣 き 深 い も の が あ る 。 け れ ど 猶 こ れ 以 上 に 、 眞 心 供 養 と い ふ が あ る 。 そ は 五 種 供 養 の 印 眞 言 を 結 誦 す る を い ふ 。 此 の 時 は 一 切 の 器 物 等 を 用 ゐ ず 、 唯 心 を も つ て 供 養 す る の で あ る 。 更 に 合 掌 、 若 し は 閼 伽 、 若 し は 眞 言 印 、 若 し は 運 心 等 を も つ て 供 養 す る こ と が あ る 。 こ れ ら は 何 れ も そ の 人 の 力 分 に 随 ふ 。 合 掌 ・ 閼 伽 若 し は 六 種 供 養 の 如 き は 何 人 も 實 行 し 得 ら る れ ど 、 眞 言 印 を 結 誦 す る と か 、 蓮 心 と か い ふ 如 き は 、 多 少 そ の 遣 に 入 つ て 心 得 を 知 ら な く て は 實 行 し 得 ら れ ぬ 。 多 く の 人 が 佛 前 若 し は 墓 所 に 於 い て 花 を 立 て 水 を 供 へ 線 香 を 立 て 洗 米 を 獻 ず る 如 き は 、 皆 此 の 六 種 供 養 の 意 義 を 實 行 し て ゐ る の で あ つ て 、 此 の 心 持 ち は 、 す べ て の 場 合 に 於 い て 同 樣 で あ り た い と 思 ふ 。 但 し 六 器 の 並 べ 方 は 壇 の一 面 の 中 央 に 焼 香 器 (火 舎 と い ふ ) を 安 じ 、 そ の 左 右 に 各 々 閼 伽 .塗 香 .華 鬘 と 次 第 に 並 べ 、 そ の 次 に飯 食 器 ・瓶 花 と い ふ 順 序 に な る 。 火 舎 は精 進 の 意 に 解 す る 。 他 の 五 度 の 行 に 共 通 す る を も つ て 中 に 置 く 。精 進 が 他 の 五 度 に 通 せ す ん ば す べ て は 完 成 し な い こ と に な る 。 何 れ も 四 方 よ り 中 臺 を 供 養 し 得 る や う に 向 へ る 。 燈 明 は 四 面 器 に 約 し て 四 燈 を 用 う る が 良 い 。 掌 相 學 序 説( 上 ) 二 三

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