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Logit User Equilibrium; LUE)もしくはプロビット型利用者均衡(Probit User Equilibrium; PUE

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(1)

リンク交通量を用いた交通ネットワーク均衡モデル のパラメータ推定:リンク間相関を考慮した最尤法

中山晶一朗

1

・高山純一

2

1正会員 金沢大学大学院助教授 自然科学研究科社会基盤工学専攻 (〒920-1192 金沢市角間町)

E-mail: snakayama@t.kanazawa-u.ac.jp

2フェロー会員 金沢大学大学院教授 自然科学研究科社会基盤工学専攻 (同上)

E-mail: takayama@t.kanazawa-u.ac.jp

交通ネットワーク均衡モデルのパラメータ推定では,データ入手の容易さの観点から,リンク交通量の利用が便利で ある.これまでは均衡モデルが算出する計算交通量と実際の交通量との二乗誤差が最小となるようにパラメータが推定 されることが多かった.しかし,この最小二乗法では,各リンク交通量が独立であることが前提となる.しかし,現実のリン ク交通量はリンク間で独立ではなく,近接するリンクでは相関がかなり高い.よって,最小二乗法は,リンク交通量の相 関等の観点から理論上問題であり,推定したパラメータにバイアスが含まれる恐れもある.そこで,本研究では,最尤推 定法によってリンク間の交通量の相関を考慮した交通ネットワーク均衡モデルのパラメータ推定法を提案するとともに,

その推定量が真値となるための条件について考察する.

Key Words: parameter estimation, network equilibrium model, maximum likelihood method

1. はじめに

交通ネットワークの計画・分析の際,研究・実用上,交通 ネットワーク均衡モデルは重要な役割を果たしている.

交通ネットワーク均衡としては,従来からワードロップ均 衡1)や確率的利用者均衡2),3)が広く知られている.確率的 利用者均衡はランダム効用理論に基づいた経路選択を用 いた交通ネットワーク均衡である.ただし,確率的利用者 均衡では,旅行時間を含む変数から構成される経路効用 は確率的であるが,各道路利用者は確率的には経路を選 択しておらず,配分される交通量や旅行時間は確定的で ある.したがって,確率的利用者均衡という名称の「確率 的利用者」という用語は誤解を生みやすいため,本研究 で は , そ れ を ロ ジ ッ ト 型 利 用 者 均 衡 (

Logit User Equilibrium; LUE)もしくはプロビット型利用者均衡(Probit User Equilibrium; PUE

)と呼ぶことにする.

ロジット型利用者均衡は,既に述べたようにロジットモ デルによる経路選択に基づいた均衡であるが,そのロジ ットモデルでは,経路効用は最も簡単な場合でも

−θ t + ε

であり,パラメータ

θ

を推定する必要がある.なお,

t

は経路の旅行時間であり,ε は確率項である.ロジット 型利用者均衡では,このパラメータにどのような値を用 いるべきかが問題となることが少なくない.また,−θ

t + ε

よりも複雑な効用関数を定義することも可能で,その時

は更にパラメータ推定が重要になる.そして,ロジット型 利用者均衡に限らず,ネットワーク均衡モデルでは,旅 行時間関数のパラメータ推定もたびたび問題となってい る.本来,旅行時間関数のパラメータは旅行時間と交通 量の観測から推定すべきであるが,それは難しいことも 多い.さらに,従来から多数の研究がなされている

OD

交通量推定などもネットワーク均衡モデル上でのパラメ ータ推定である.このように交通ネットワーク均衡モデル でパラメータを推定することは非常に重要であることが分 かる.また,高速道路等の料金を考える場合,時間価値 などを用いることも可能であるが,時間価値パラメータを 均衡モデル上で推定することも可能であり,その推定量 は均衡モデルと一貫性を持ったパラメータとなり,均衡 モデル上で推定する方が望ましい場合も多いと考えられ る.

ネットワーク均衡モデルのパラメータ推定では,データ 入手の容易さの観点から,リンク交通量の利用が便利であ ると考えられる.従来から均衡モデルにより算出される計 算交通量と実際のネットワークの交通量である実交通量の 二乗誤差が最小となるようにパラメータが推定されてきて いる 4) .しかし,このような最小二乗法では,各リンクの交 通量は独立であることが前提条件となる.しかし,実際のリ ンク交通量はリンク間で独立ではなく,近接するリンクでは,

その相関はかなり高い.したがって,最小二乗法によって

(2)

パラメータの値を単に計算することは可能であるが,リンク 交通量の相関等の観点(確率・統計学の観点)から理論上 問題であり,推定したパラメータにバイアスが含まれる恐 れもある.そこで,本研究では,最尤推定法を用いてリンク 間の交通量の相関を考慮した交通ネットワーク均衡モデ ルのパラメータ推定法を提案する.このような統計学的な 手法を用いることによって,これまで膨大に蓄積されてい る統計学の様々な理論を交通ネットワーク均衡モデルに 適用することが可能となる.例えば,推定されたパラメータ の信頼性の評価,どのモデルが最良なのかを統計的に判 断するモデル選択などが可能となる.

これまでリンク交通量データ(のみ)を用いて最尤推定 法によりパラメータを推定する研究がいくつか行われてい る.

Robillard

5)

Fisk

6)

Daganzo

7)は最尤推定法により前述 のロジットモデルのパラメータ

θ

を求めている.Hazelton8) は最尤推定法により

OD

交通量を求める方法を提案して いる.これらの研究では,uncongested なネットワーク(リン ク旅行時間を事実上定数とするネットワーク)を対象として いる.Anas と

Kim

9)は旅行時間が交通量の関数である場 合(

congested

なネットワークの場合)に最尤推定法によっ てパラメータ

θ

を求めている.しかし,彼らの研究では,パ ラメータ値のバイアスの比較に焦点が当てられ,モデル自 体に関しては詳細に述べてはいない.

近年,二段階最適化問題や均衡制約付数理問題

(MPEC)の研究が進んでいる.これらの枠組みの中で,

congested

ネットワークでの均衡下での最尤推定が可能で ある.本研究では,リンク交通量の相関を取り扱う関係上,

経路交通量が必要となるため,ロジットモデルによる経路 選択を含むネットワーク均衡を用いる.ロジット型利用者均 衡モデルを用いた二段階最適化問題を取り扱った研究と して,Chenと

Alfa

10),Davis11),Yangら12),Loと

Chan

13)

Ying

Yang

14)などの研究がある.なお,これらのうち,

Lo

Chan

13)の研究は,(本研究も用いる)最尤推定法を用い た研究である.彼らは,リンク交通量(と

OD

交通量データ)

のサンプルから

OD

交通量を推定している.これらの研究 では,最適化目的関数の一次微分などを導出するととも に,Dial アルゴリズムもしくはその修正方法を用いた計算 方法を提案している.

本研究では,リンク交通量データ(のみ)を用いて,その 相関を考慮した最尤推定法を提案する.上で述べたロジ ット型利用者均衡での二段階最適化の研究 10),11),14)では,

交通量を確定的に扱っており,リンク交通量の確率分布等 を扱うことはできない.リンク交通量の同時確率(密度)関 数(尤度関数)の導出のため,本研究では,著者らが提案 した配分交通量及び旅行時間が確率的である確率ネット ワーク均衡 15)をロジットモデルによる経路選択に基づく均 衡に拡張し,その拡張した均衡モデルで算出される交通 量の生起確率をもとに最尤法によりパラメータ推定を行う.

このように確率的な交通量を持つ確率ネットワーク均衡を 用いることによって,上で述べた既存研究13)では問題とな っている,OD交通量・経路交通量・リンク交通量の各種交 通量の確率分布の整合性を保つことができる.そして,パ ラメータの真値を推定するための条件等に関しても考察 する.

2. ロジット型確率ネットワーク均衡

(1) 需要と交通量

リンク

a

の(リンク)交通量を

x

a

(a ∈ A)

,その確率変 数を

X

a とする.ODペア

i ( ∈ I)

の経路

j (J

i

)

の経 路交通量を

y

ij とし,その確率変数を

Y

ij とする.つまり,

x

a 及び

y

ij はそれぞれ確率変数

X

a 及び

Y

ij の実現 値である.経路交通量とリンク交通量は,リンク・経路接 続変数

δ

a,ij を用いて,Xa

= Σ

i∈I

Σ

j∈Ji

δ

a,ij

Y

ij 及び

x

a

= Σ

i∈I

Σ

j∈Ji

δ

a,ij

y

ij が成立している.なお,δa,ij

OD

ペア

i

の経路

j

の経路にリンク

a

が含まれていれば

1

であ り,含まれていなければ

0

である.これらのベクトル表示 X = ∆Y,x = ∆y を必要に応じて用いる.ただし,X は

X

a を要素に持つリンク交通量の確率変数ベクトル,Y

Y

ij を要素に持つ経路交通量の確率変数ベクトル

(Y

11

, Y

12

…, Y

21

,…)

T であり,x 及び y はそれぞれ X 及び Y の実現値ベクトルである.∆ は

δ

a,ij を要素に 持つリンク・経路接続行列,

T

は転置である.本稿では,

断りがない限り,ベクトルは列ベクトルとし,基本的に英 大文字は確率変数,ブロック体の英文字はベクトルもし くは行列を表すことにする.

起終点交通量(

OD

交通量)は,その起点(

O

)周辺に 存在する人々がトリップを行うのか否かにより確率的に 発生すると仮定する.それらの人々がある一つの終点

(D)へ向かうトリップを行う確率は小さいと仮定すると,

OD

ペア

i

の(

OD

)交通量はポアソン分布に従う.その 平均を

λ

i とする.また,リンク

a

の平均リンク交通量を

µ

a

(= E[X

a

])

OD

ペア

i

の経路

j

の平均経路交通量 を

m

ij

(= E[Y

ij

])

とする.ここで,E は平均(期待値)の演 算である.この時,λi

= Σ

j∈Ji

m

ij が成立する.

OD

ペア

i

の交通量の平均

λ

i は,何らかの方法に より調査された

OD

交通量データの値を用いることができ るものとする.

OD

交通量がポアソン分布以外の分布に 従う場合を考えることも可能である 16).しかし,その場合

OD

交通量の分散や標準偏差に関するデータも必要と なり,適用が難しくなるため,本研究では,ポアソン分布 を仮定することとする.ポアソン分布は平均と分散が同じ 確率分布であり,上述のようにその平均は既存の

OD

交 通量データから与えることが可能である.

発生した

OD

交通量はそれぞれ独立に確率 pi の通

(3)

りに確率的に経路を選択すると仮定する.ここで,pi

OD

ペア

i

の道路利用者の経路選択確率で,その要素 を

p

ij とする.なお,経路選択確率は同じ

OD

ペア内の 道路利用者では共通とする.OD ペア

i

の経路交通量 の平均

m

ij

λ

i

p

ij と等しくなる.すなわち,mi

= λ

i pi

である.ここで,mi

OD

ペア

i

の平均経路交通量の ベクトルである.以上の

OD

交通量がポアソン分布に従 い,発生した交通量が独立に確率的に経路を選択する という設定は

Clark

Watling

17)と同様であり,この場合,

OD

ペア

i

の経路交通量は以下の示すように(独立な)

ポアソン分布に従う.

( )

i fmn

(

iqi

)

fQpo

( )

qi

fYi y = Yi y i

(1a)

!

!

!

i q i y

J

j i

ij

J

j ij

i

q m e

y

q ij i i

i i

λ λ

λ

∏ ∏

⎟⎟

⎜⎜ ⎞

= ⎛ (1b)

!

!

!

2 | |

1

|

|

1 1 | |

i Ji i i i j ij

J i i i

y J i y i m

y y y

m e m

L L

=

(1c)

=

i J ij

j ij

po

Y

y

f ( ) (1d)

ここで, fmn(⋅)は多項分布の確率関数, fpo(⋅)はポアソ ン分布の確率関数,QiODペア i OD 交通量の 確率変数,qi はその実現値,Yi は OD ペア i の経路 交通量の確率変数のベクトル,|Ji| は集合 Ji の要素数

(ODペア i の経路数)である.また,既に述べたように,

λ

i =

Σ

j∈Ji mij であり,それを用いている.

以上は,平均が

λ

i のポアソン分布に従って生起した OD 交通量がそれぞれ独立に確率 pi に従って確率的 に経路を選択すると,経路交通量は平均が

λ

ipij の独 立なポアソン分布に従うということを意味している.なお,

OD交通量がポアソン分布に従うと仮定しているため,経 路交通量はポアソン分布に従うものの,経路選択に関係 する pij は必ずしも十分に小さいと仮定する必要はない.

これも OD交通量がポアソン分布という特殊な分布に仮 定することの利点の一つである.Clark と Watling17)はこ の場合の均衡の定式化を行っていないため,次項でそ れを行う.また,著者ら 15)は経路交通量が独立なポアソ ン分布に従う場合の確率的均衡のモデル化を行ってお り,本稿では,それを経路選択確率 pi がロジットモデ ルに従う場合に拡張するものである.

既に述べたように,Xa =

Σ

i∈I

Σ

j∈Ji

δ

a,ijYij (X = ∆Y)

ある.そして,独立なポアソン変数(ポアソン分布に従う 確率変数)の和はポアソン変数であるため,リンク交通量 はポアソン分布に従う.つまり,リンク a の交通量は平 均

µ

a (=

Σ

i∈I

Σ

j∈Ji

δ

a,ijmij =

Σ

i∈I

λ

i

Σ

j∈Ji

δ

a,ijpij) のポアソ

ン分布 Po[

µ

a] に従う.ただし,リンク間には共通に流れ る経路交通量が存在するため,一般にリンク交通量はリ

ンク間で独立ではない.

式 (1) で述べたように,経路交通量はそれぞれ独立

なポアソン分布 Po[mij] に従う.経路交通量が十分に 大きい場合,すなわち,mij が十分に大きい場合,ポア ソン分布 Po[mij] の平均と分散はともに mij であるため,

中心極限定理により,それは平均と分散がともに mij で ある正規分布 N[mij, mij] に従うと近似することができる.

この時,リンク交通量 X は以下の多変量正規分布に従 う18)

⎭⎬

⎩⎨

⎧− − −

= ( ) ( )

2 exp 1 ) 2 ( ) 1

( x µ TΣ 1 x µ

x Σ

X n

f

π

(2)

ただし,µ は平均リンク交通量ベクトルで,その要素は

µ

aΣはリンク交通量の分散共分散行列,Σ1Σの逆 行列,ΣΣの行列式,n (= |A|) はリンクの総数である.

また,平均経路交通量のベクトル m (その要素は mij) を用いると,Σ=∆diag(m)Tである18).ただし,diag(m) m の各成分を対角成分に持つ対角行列である.つ まり,diag(m) Y の分散共分散行列であり,各経路 交通量は独立であるため,それは対角行列となる.ここ で,µ = ∆m であるため, fX(x)fX(x,m)と考えること もできる.なお,このようなリンク交通量の確率密度関数 を定義するためには, Σ0 でないことが必要である.

例えば,本来ならば一つのリンクで記述すべきものを 2 つの連続隣接のリンクで表現した場合を考える.その 2 つのリンクは全く同じリンク交通量及び分布となる.この ように他のリンク交通量(の確率変数)によって一意に表 現できるリンク(の確率変数)を除去しなければ,fX(x)を 定義できないことに注意が必要である.

(2) 定式化

本研究のモデルでは,上述のように,リンク旅行時間 の分散共分散行列が得られるため,それを経路旅行時 間の分散共分散行列に変換し,経路選択をプロビットモ デルで行うことが可能である.その場合,経路選択確率 の計算には,モンテカルロ法が用いられることが多いよう である.また,数値積分を用いたり,近似法である Clark 法19)やMendell-Elston法20),21)などを用いることが出来る.

しかし,モンテカルロ法,Clark 法,Mendell-Elston 法は 計算誤差が小さくなく,数値積分を用いると,計算時間 が非常に大きいという問題点を持つ.また,プロビットモ デルでは,経路・リンクの一次独立が成立しない場合,

経路選択確率の計算が困難になる場合もあるという問 題も発生する.本稿では,論点を最尤法に絞り,より簡 素な説明を行いたいために,実用的に利用可能なロジ ットモデルによる経路選択を仮定する.なお,プロビット モデルによる経路選択は重要であり,かつ,より適切で

(4)

あるため,今後,別の機会で発表したい.

各道路利用者は次式のロジットモデルに従い,経路 選択確率 pi を決定していると仮定する.

( )

( )

= −

Ji j

j i ij

ij c

p c

θ θ

exp

exp (3)

ここで,cijは OD ペア i の経路 j の平均旅行時間,θ は正のパラメータである.

確率的ネットワーク均衡モデルを定式化するのに際し,

(3) を含んだ関数 g = (g11,..,g21,…)T を考えよう.関 数 g の要素 gij を以下のように定義する.

( ) ( )

( )

= −

Ji

j ij

ij i

ij c

g c

) ( exp

) ( exp

m m m

θ

λ θ

(4)

確率ネットワーク均衡は,関数(写像) g に関する以 下の不動点問題として定式化できる.

( )

m g

m= (5)

なお,平均リンク交通量ベクトルµを用いて,µ=∆g

( )

µ とリンクに関する定式化も可能である.ただし,g′は 入力がリンク交通量の場合の g である.

3. 最尤推定法

(1) 尤度関数

リンク交通量の観測が行われ,観測リンク交通量ベク トルを~x とする.観測されたリンクの集合を A~ とする.

観測リンク交通量は式 (2) の分布の周辺確率として 以下の確率密度関数を持つ多変量正規分布に従う.

⎭⎬

⎩⎨

⎧− − −

= (~ ~) ~ (~ ~) 2

exp 1 ) ~ 2 ( ) 1

(~ T 1

~ ~ x µ Σ x µ

Σ

X x

n

f

π

(6)

ここで,X~ は観測交通量の確率変数ベクトル,µ~ は観 測交通量の平均値ベクトル,Σ~ は観測交通量の分散共 分散行列,

n ~

は観測リンクの総数である.µ~ と Σ~ は,

(2) で用いられている µΣ について,観測して

いるリンクに関する要素を抜き出して構成することができ る.

リンク交通量の実現値,つまり,リンク交通量の観測 値~x が与えられた場合,以下の対数尤度関数 L(θ~ ) x を定義することができる.

( ) ( )

=

=

A a

a a

X x

f f

L a

~

~(~) ln

~ ln x x

x

θ X (7)

ただし, fXa

(

xa xa

)

はリンクa以外のリンク交通量が与 えられた場合のリンクaの交通量の確率密度関数であ る.

また,複数回それらのリンクを観測している場合,第 r 回目の観測値を~xr とする(rR).異なった回の観測 値が独立である場合,尤度関数は以下のように定義でき る.

( )

=

R

r r

r r R f r

Lθ~x ; ln ~X (~x ) (8)

ここで, f~Xr(~xr) は r 回目の観測交通量が生起する確 率である.なお,異なった回の観測値が独立ではない場 合は,観測回間での関係を考慮した尤度関数を個別に 設定することが必要となる.以降では,断りがない限り,

x~ は観測回数は一回のみのデータとする.

そして,尤度関数を l (ln l = L) で表すことにする.

(2) 定式化

以下に示すように前章で述べた確率ネットワーク均衡 が下位問題となった均衡制約付数理問題(MPEC)とし て,最尤推定法による θ を求めるパラメータ推定を定式 化することができる.

(

θx m

)

θ ~,

max L (9)

s.t. m=g

( )

m (10)

ここで,θ はパラメータベクトルで,θk (k∈K) から構成さ れる.

(3) 一次・二次(偏)微分

上述の問題を解くためには,∇θL を用いることになる

(アルゴリズムによっては,∇2θL も用いることになる).た だし,∇θLL の θ に関する勾配,∇2θLL θ に関するヘシアン行列,0 は零ベクトルとする.∇θL=0 は尤度方程式と呼ばれる.なお,パラメータ θ の t値の 算出には,∇θ2L が必要となるため,本研究では,∇2θL まで考慮する必要がある.

対数尤度関数 L は式 (6) 及び (7) から分かるよう に,θ は陽には現れるとは限らず,m もしくは m) の 関数である.よって,∇θL = ∇θmTmL となる.ここで,

(4) で述べた関数 g を用いて,陰関数 h(m,θ)g

m = 0 を定義する.この陰関数 h を用いて,∇θL は 以下のように与えることができる(導出は付録に記載して いる).

L

L m θ m

θ =−∇ hh

∇ ( 1 )T (11)

(5)

そして,∇θ2L の成分 ∂2L

θ

k

θ

k は以下の通りであ る(導出は付録に記載している).

k T

k k k T

k k

L L L

∇ ∂

⎟⎟ ∇

⎜⎜ ⎞

∇ ∂ +

⎟⎟ ⎠

⎜⎜ ⎞

⎛ +

∇ ∂

−∇

∂ =

θ θ

θ θ θ

θ

h h h h

h η h

m m m

m m

1 1

1

2 2 2

(12)

ここで,ηは要素が

k ij k

h

∇ ∂

θ θ

m m

m 2 T

のベクトルである.

パラメータの推定量 θ

ˆ

が(漸近)有効な推定量である 場合,その推定量の分散共分散行列は −∇θ2L1|θ=θˆ と なるため22),パラメータ

θ

k

t

値は,

kk k

L ]

[

2 1

|

ˆ

ˆ

θ θ θ=

−∇

θ

(13)

と計算することができる.ただし,[

]kk は行列の

kk

成分 を意味する.

4. 最尤推定量の性質

通常の最尤推定法では,独立同一分布(I.I.D.)が仮 定されている.この場合,最尤推定量は3つの優れた性 質(一致性,漸近有効性,漸近正規性)を持っている 22). よって,最尤法は,サンプルサイズが十分に大きければ,

パラメータの真値を推定することができる.したがって,

十分な数の独立なリンク交通量データ(観測回数が十分 に多い,独立なデータ)があれば,パラメータの真値を推 定することができると考えられる.

車両感知器等から多量のリンク交通量データを入手 できることも多い.しかし,日々の交通量には相関がある と考えられ,その場合,それらのデータを基に独立性に 留意した多回数のリンク交通量データを作成しなければ ならない.また,一般道路等では,車両感知器データの 入手は容易ではない場合も多く,その場合,センサスデ ータなどを用いざるを得ない.そこで,観測した交通量 データ観測回数が 1 回のみの場合について考察する.

以下に示すように,観測リンク数が十分に多く,リンク間 の相関が限られたものである場合,最尤推定量は真値 に一致する.

(1) リンク間相関の局所性

一般にリンク交通量は互いに独立ではなく,観測回 数が1回のみの場合の観測リンク交通量はI.I.D.なデー タではない.このように独立でない場合の最尤推定法に

ついて,lim|n−n′|→∞Cov[

X

n,

X

n′] = 0 が満たされる確率変

数列 {

X

n} の場合が研究されている 22),23),24).これは時 系列データのようにデータの順序がはっきりとしている場 合は容易に適用可能である.なお,Cov は共分散を意 味する.リンクに順序をつけた確率変数列を作成し,こ れらの研究結果を適用することも可能であると思われる が,本稿では,本来時系列データではない(並列的な)

リンク交通量をそのまま扱うこととし,lim|n−n′|→∞Cov[

X

n,

X

n′] = 0 に類似した仮定であるリンク相関の局所性を仮 定し,この仮定の下での最尤推定法について検討する.

既に述べたように,リンク交通量は一般に互いに独立 ではない.しかし,大規模ネットワークの場合,多数のリ ンクが存在し,互いに離れたリンクの交通量の相関は十 分に小さいと考えられ,ある一定の距離以上離れたリン ク間の交通量は独立であると仮定できると考えられる.そ こで,リンク

a

と相関があるリンクの集合を

B

a (

A

) とし,

B

a の大きさは限られたものとする.この時,Cov[

X

a,

X

a′]

= 0 (

∀a′ ∈ B

ac) となる.ただし,

B

ac

B

a の補集合であ る.そして,n

→ ∞

の時,|

B

ac

|

>>

| B

a

|

とする.このように 任意のリンクの交通量に関して,そのリンクとある程度離 れたリンクの交通量とは独立で,|

B

ac

|

>>

| B

a

|

が成立して いることをリンク相関の局所性と呼ぶことにする.

X ≡ Σ

a∈A

X

a/

n(全てのリンクの確率変数の和をリンク

数で除したもの),µ

≡ Σ

a∈A

µ

a/

n

(全てのリンクの平均の 和をリンク数で除したもの),

S ≡ Σ

a∈A

X

a とする.チェビシ

ェフの不等式25)より,ε>0の時,次式が成立する.

[ ] 1

2

Var [ ] Var

2

[

2

]

Pr µ ε ε ε

n X S

X − > ≤ =

(14)

ただし,Var[

S

] =

Σ

a∈A

Σ

a∈A

σ

aaであり,

σ

aaは以下の通 りである.

[ ] [ ]

⎩ ⎨

⎧ = ′

=

X X otherwise

a a if X

a a a a

a Cov ,

σ

Var (15)

なお,Var は分散を与える演算である.

ここで,上で述べたリンク相関の局所性により,(n

の時であっても)|

Σ

a′∈A

σ

aa′

|

<

v

a となる 0<

v

a<

存在する.もし局所性(|

B

ac

|

>>

| B

a

|)が成立しない場合,n

→ ∞

の時,σ aa′ = 0 を全く仮定できないため,|

Σ

a′∈A

σ

aa′

|

は有限になるとは限らない.逆に,局所性(|

B

ac

|

>>

| B

a

|)が成立すると, a′B

ac である多数の

a′

について,

σ

aa′ = 0 と な り ,

| Σ

a′∈A

σ

aa′

|

は 有 限 と な る .

v

max[

v

a;

∀a∈A

] (

v

<

) とすると,Var[

S

]<

Σ

a∈A

v

a

n v

なる.ただし,maxは最大値をとる演算である.この

v

を 用いると,式 (14) は以下の通りとなる.

[ ]

2

Pr

µ ε ε

n

X − > < v

(16)

(6)

したがって,n

→ ∞

の時,∀ε > 0 について,局所性 が成立する場合,

v

は有限となり,式 (16) の右辺の極 限は0となる.よって,Pr[

| X − µ|

>

ε

] = 0 となり,

X

µ

に確率収束する.これを局所相関の確率変数の大数 の弱法則と呼ぶことにする.

(2) 推定量の一致性

最尤推定量をθ

ˆ

とする.最尤推定量は尤度関数を最 大にしたものであるため,任意の

θ

に対して,

) ( ˆ) (θ

L

θ

L

(17)

が成立する.

θ

の真値を

θ

0 とし,この真値

θ

0 に関して,期待値 をとる演算を E0 と表記することにする.すなわち,E0 に関しては,以下の式が成り立つ.

= y f

X

d

x

y ] ( | )

[

E

0 0

(18)

自然対数関数

ln x

は凹関数であるため,イェンセン

(Jensen)の不等式 25)より,θ0以外の任意の推定量 θ′

について,次式が成立する.

⎥ ⎦

⎢ ⎤

⎡ ′

⎥ <

⎢ ⎤

⎡ ′

) (

) E ( ) ln (

) ln ( E

0 0 0

0 θ

θ θ

θ

l l l

l (19)

ここで,l(θ) は既に述べた尤度関数である.

尤度関数の定義より,

l(θ) = f

X

(x|θ)

であるため,上式 の右辺は,

1 ) ) (

( ) ( ) (

)

E (

0

0 0

0

′ =

⎥ =

⎢ ⎤

⎡ ′

θθ xθ x

θ θ

X

d

l f l l

l (20)

となる.したがって,自然対数関数は単調増加関数であ るため,対数尤度関数

L

について,以下が成立する.

[ ( ) ( ) ] 0

E

0

L

θ

′ − L

θ0

< (21)

既に述べたリンク相関の局所性により,対数尤度関数

を構成する式 (7) 中の

f

Xa

( x

a xa

)

もリンク間で相関は 局所的である.したがって,上で述べた局所相関の確率 変数の大数の弱法則より,任意の

θ

に関して,(観測リン ク数が十分に大きい場合)

L (θ ) n (= Σ

a∈A

ln f

Xa

(x

a

)/n)

[ L ( ) n ]

E

0 θ に確率収束する.したがって,式 (21) より,

[ ( ) ( ) ] 0 Pr

plim

0

− ≥

L

θ

L

θ

n

(22)

となる.ここで,plimは確率収束を意味する.

よって,上式

(22)

と式

(17)

から,最尤推定量 θ

ˆ

は その真値 θ0 に確率収束する.

以上のように,観測回数が

1

回であっても,十分に多く のリンクを観測しているならば,最尤推定量はほぼ真値 となると考えられる.

なお,この結果は,ネットワークが無限に大きいという 極限状態で,ある有限の距離以上はなれたリンクは独立 であるという局所従属性が仮定できる場合の理論的な結 果である.現実のネットワークは有限であり,有限なネッ トワークでは,リンクが従属であってもよい距離はネットワ ークの大きさに依存すると思われる.この点に関しては,

別途,検討する必要があり,今後の課題としたい.

5. 数値計算例

複数 OD ペア・複数経路ネットワークのうち,最も単純 なものの一つである図-1 に示した仮想ネットワークに対 して,式 (3) で示したロジットモデルのパラメータ

θ

を 求める計算例をここで示す.パラメータの真値が正確に 分かるように,観測交通量は真値に基づいて確率的に 発生させたものを用いるという仮想データとした.

OD

ペアは

2

組あり,ODペア

1

はノード

1

から

3,OD

ペア

2

はノード

2

から

3

とする.

OD

交通量は

2

組とも平 均が

2000

のポアソン分布に従うとする.ODペア

1

には 経路が

2

つ存在し,リンク

1

とリンク

3

から構成される経 路を経路

11,リンク 2

のみで構成される経路を経路

12

と する.なお,変数を出来るだけ減らし,より推定結果が分 かりやすくなるように,リンク

1

及びリンク

4

で構成される 経路は設定されていない.つまり,リンク

1

からリンク

4

へ は通過できないとする.OD ペア

2

に関しては,リンク

3

を経路

21

,リンク

4

を経路

22

とする.旅行時間関数

c(x)

は図-1 に記載した通りである.積率母関数を用いた方 法 15)もしくは確率母関数を用いた方法 16)により,これら の旅行時間関数から導出される平均旅行時間関数は以 下の通りとなる.

⎥ ⎦

⎢ ⎤

⎡ +

+

=

2 2

1

( µ ) 15 1 µ 1000 µ

c (23a)

1 2 3

c2= 30[1 + (x/1000)2]

c3= 10[1 + (x/2000)2]

c4= 15[1 + (x/1000)2] リンク 4 リンク 3 c1= 15[1 + (x/1000)2]

リンク 1

リンク 2

1 2 3

c2= 30[1 + (x/1000)2]

c3= 10[1 + (x/2000)2]

c4= 15[1 + (x/1000)2] リンク 4 リンク 3 c1= 15[1 + (x/1000)2]

リンク 1

リンク 2

図-1 対象ネットワーク

(7)

⎥ ⎦

⎢ ⎤

⎡ + +

=

2 2

2

( µ ) 30 1 µ 1000 µ

c (23b)

⎥ ⎦

⎢ ⎤

⎡ +

+

=

2 2

3

( µ ) 10 1 µ 2000 µ

c (23c)

) ( )

(

1

4

µ c µ

c = (23d)

ロジットモデル内のパラメータ

θ

の真値を

0.5

とし,

(乱数により発生させた)観測交通量データから

θ

を推 定することにより,本研究での最尤推定法の妥当性につ いて検討する.経路交通量を平均が

m

ij* のポアソン乱 数として作成し,それを基にリンクの観測交通量データ

~

1

x から

~

x10

10

セット作成した(独立な

10

回分のデー タ).なお,観測は

4

つのリンク全てで行い,

m

ij* は,真 値(θ = 0.5)での式 (5) に示した均衡の解であり,数値 は表-1 に記載している通りである.この観測交通量を用 いて最尤推定法及びそれと比較するための最小二乗法 により

θ

を推定する.観測回数が

1

回のみの場合の対 数尤度関数は以下の通りである.

( )

⎥⎦ + ⎤

− + + + −

⎢ +

⎡ −

− +

} ) 2 ) ln{(

( ) (

) ln (

) (

2 1

4 21

11

11 2 3 1 21 21 2 11 1

22 21 12 11 22

2 22 4 12

2 12 2

m

π

m

m x x m m m x

m m m m m

m x m

m x

(24)

X2 = Y12, X4 = Y22 であるため,X2X4 はそれぞれ 一変量正規分布に従う(他のリンク交通量とは独立であ る).しかし,X3 = Y11 + Y21 及び X1 = Y11 であるため,リ ンク1とリンク3は独立ではなく,二変量正規分布に従う.

よって,式 (24) について,リンク1及び3に関する項が 複雑になっている.

本研究の目的は,ネットワーク均衡における最尤推定 法について提案することである.最尤推定法は均衡制 約付数理問題(MPEC)として定式化されることを示した が,一般に大域的な MPEC の解を求めることは簡単で はなく,その手法を提案することは本稿の目的には含め ず,今後の課題とする.以下に図-1 に示す簡素なネット ワークへの適用例を紹介するが,既存のソフトウェア

MATLAB)のアドイン関数26)を用いて解を求めた.

観測交通量 ~x1 から ~x10 までを全て用いて,最尤推 定法(ML)及び最小二乗法(MSE)によって,パラメータ を推定した結果が表-1 である.なお,表中の

θ

なしモ デルとは,θ → ∞ の場合のモデルであり,各ODで,平 均経路旅行時間が等しくなっている(ワードロップ均衡).

平均経路交通量に関しては,ML とMSEとの推定結果 の違いはそれほど見られないが,パラメータ

θ

につい ては,MLの結果の方がMSEよりも真値に近い.既に述 べたように最尤法では,推定パラメータの t 値を式

(13) に従って計算することができる.表-1から平均経路

交通量を含む各推定パラメータの t 値は有意であるこ とを示している.このように最尤法を用いることによって,

推定パラメータの有意性を検討することができる.また,

モデル選択に関して,ML でパラメータ

θ

を推定したモ デルのAICが最も小さくなっており,θ なしモデルやθ = 0 のモデルよりも

θ

を推定したモデルの方が良いモデ ルであることが確認できる.このように本手法を用いるこ とによって,推定したパラメータの有意性の検討やどのよ うな変数をモデルに取り入れたモデルが良いモデルの かなどを統計学的に判断することが可能であると分か る.

次に,観測交通量 ~x1 から ~x10 をそれぞれ 1 つずつ 用いてパラメータを推定する.表-2 が最尤推定法による 推定結果であり,表-3 が最小二乗法による推定結果で ある.表-2 及び表-3 の行番号は観測交通量 ~x1 から

~10

x のうちいずれの観測交通量を用いて推定を行ったの かに対応している.例えば,表-2 の6 回目の行は~x6の データのみを用いて推定した結果が書かれており,1~6 回目の観測交通量を全て用いた推定結果ではない.

ML では~x9の時,MSE では~x4~x9の場合,θ (の解)

は収束せず,最大繰り返し回数を越えたため,計算が打 ち切られた.これらのケースでは,m11m22は表-1 の

θ

なしモデル(θ → ∞ のモデル)と非常に近い値となって おり,そのため,θ の値が発散したため,収束しなかった と考えられる.このように推定が安定しない原因は,推定 方法や推定を行う際の初期値などによるものではなく,

表-1 10回の観測交通量を全て用いた場合の推定結果

m11 m12 m21 m22 θ L AIC

ML 1073.6 926.4 1225.6 774.4 0.583 -152.93 315.86

(7.00)[1] (-7.69)[1] (20.54)[1] (-25.84)[1] (3.00)[2]

MSE 1073.6 926.4 1227.4 772.6 0.640 - -

真値 1073.6 926.4 1222.2 777.8 0.5 - -

θ なしモデル 1073.4 926.6 1248.4 751.5 - -158.54 325.08

θ = 0 モデル 1000.0 1000.0 1000.0 1000.0 0.0 -709.81 1419.62

[1]: 平均交通量の1000との違いに関するt値(パラメータ θ 0.0の場合に対するt値)

[2]: パラメータ θ 0.0との違いに関するt

(8)

経路選択結果がワードロップ均衡に近い設定であったこ とにある.既に述べたように,ワードロップ均衡はロジット モデルのパラメータ

θ

が無限大の場合であり,パラメー タ

θ

がある程度大きくなると,パラメータ

θ

の値が多少 違っていても配分交通量(m)がほとんど変化しなくなり,

その範囲では,どのようなパラメータ

θ

の値でも尤度もし くは最小二乗誤差が変化しなくなるため,最適値が一つ の値ではなく,ある一定領域であるような状況となる.よ って,推定が安定しなくなると言える.このようなワードロ ップ均衡配分に近いという設定は,特殊なものとは思わ れないため,どのような手法であっても,ロジットモデル のパラメータ

θ

を取り扱う際には,パラメータの発散に 留意する必要があると考えられる.

本稿では,経路選択としてロジットモデルを仮定した.

プロビットモデルを仮定した場合でも,同様の安定性の 問題が生じる可能性があると思われる.さらに,プロビッ トモデルを用いた場合,経路選択確率の計算に関して,

採用した手法により,誤差が小さくない場合もあり,推定 の精度はより悪くなると思われる.ただし,このような計算 誤差を含めた推定も本最尤推定法で対応することも可 能であるため,今後,検討したい.

表-2と表-3を比較すると,平均経路交通量に関して は,両手法の間に違いはあまり見られない.パラメータ

θ

については,最尤推定法による推定結果の方が最小 二乗法よりも真値に近いことが分かる.しかし,これらの 違いは統計的に有意なほどの違いではない.上述の数 値計算結果では,ML と MSE と推定結果について,統 計的に有意な違いは見られなかったが,既に述べたよう に,ML によって,推定パラメータの有意性の検討やモ デル選択に関する統計学的な判断が可能となる.また,

観測リンク数を多くすると,推定量は真値に近くなること が保証されている.本研究での最尤推定法は,このよう に統計学の観点から優れた手法と言える.

以上は,図-1 のネットワークのみを対象とした結果で あり,最尤推定法による推定がどのようなものかを例示 することのみを目的としている.したがって,4. 最尤推定 量の性質 で述べた内容の検証(例えば,観測リンク数 の増加に伴う推定量の一致性)や最小二乗法に比べた 推定精度の優位性を検証することを意図してはいない.

本来,これらのことを検討すべきではあるが,そのために は,大規模ネットワークへの適用が不可欠であり,大規 模ネットワークのためのアルゴリズムが開発されていない 現段階では,それらの検証は難しい.大規模ネットワー クへの適用のためのアルゴリズムを開発し,それらの検 証を行うことは今後の課題としたい.また,この点に関連 したこととして,図-1 のネットワークでの局所従属性につ いて述べたい.図-1のネットワークは非常に小さいネット ワークであり,局所従属性が成立しているとは限らず,必 ずしも推定量の一致性は保証されてはいないことを付け 加えておく.

6. おわりに

交通ネットワーク均衡モデルを用いる際,モデルのパ ラメータを推定することが必要になることが多い.ネットワ ーク均衡モデルでのパラメータ推定では,データ入手の 容易さの観点から,リンク交通量の利用が便利である.

従来から均衡モデルが算出する計算交通量と実際のネ ットワークの交通量である実交通量の二乗誤差が最小と なるようにパラメータが推定されることが多かった.しかし,

このような最小二乗法では,各リンクの交通量が独立で あることが前提条件となるが,現実のリンク交通量はリン ク間で独立ではなく,近接するリンクでは,その相関はか なり高いと考えられ,リンク交通量の相関等の観点から 理論上問題であり,推定したパラメータにバイアスが含ま 表-2 最尤推定法による推定結果

m11 m12 m21 m22 θ

1回目 2回目 3回目 4回目 5回目 6回目 7回目 8回目 9回目 10回目

1073.4 1072.7 1073.2 1073.5 1073.6 1073.5 1073.6 1073.6 1073.5 1073.4

926.6 927.3 926.8 926.5 926.4 926.5 926.4 926.4 926.5 926.6

1216.7 1195.2 1207.5 1241.0 1226.7 1223.1 1225.7 1236.2 1247.7 1216.5

783.3 804.8 792.5 759.0 773.3 776.9 774.3 763.8 752.3 783.5

0.401 0.212 0.296 1.937 0.617 0.521 0.586 1.149

[1]

0.398 平均 1073.4 926.6 1223.6 776.4 0.522 [2]

[1]: 収束せず,最大繰り返し回数を越えた為,計算が打ち切

られた.計算打ち切りの際の数値は12.071である.

[2]: MSEの結果と比較できるように,サンプル4及び9以外

での平均である.

表-3 最小二乗法による推定結果

m11 m12 m21 m22 θ

1回目 2回目 3回目 4回目 5回目 6回目 7回目 8回目 9回目 10回目

1072.5 1073.3 1072.5 1073.4 1073.5 1073.6 1072.8 1073.4 1073.4 1073.6

927.5 926.7 927.5 926.6 926.5 926.4 927.2 926.6 926.6 926.4

1191.7 1212.9 1192.6 1248.5 1218.1 1225.8 1198.5 1216.5 1248.5 1226.4

808.3 787.1 807.4 751.5 781.9 774.2 801.5 783.5 751.5 773.6

0.195 0.351 0.199

[3]

0.423 0.591 0.231 0.398

[4]

0.607 平均 1073.2 926.8 1217.9 782.1 0.375 [5]

[3]: 収束せず.計算打ち切りの際の数値は13259.6である.

[4]: 収束せず.計算打ち切りの際の数値は235476.2である.

[5]: サンプル4及び9での推定値は発散していると思われる

ため,サンプル4及び9以外での平均である.

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