博 士 ( 医 学 ) 自 間 信 行
学位論文題名
EIAF/PEA3 Activates the Rho/Rho ― Associated Kinase Pathway to Increase the Malignancy Potential of Non − Small Cell Lung Cancer Cells
(EIAF/PEA は Rho/ROCK 系 を 活 性化 し 、 非小細胞肺癌細胞の悪性形質を増強する)
学位論文内容の要旨
【背景】 遊走能・ 浸潤能 および造 腫瘍能 ・転移能 は癌細 胞の悪性 度を特徴 づける 因子であ る。 我 々 はこ れ ま でに 、Ets族転写 因子に 属するEIAFの発現が 非小細胞 肺癌で 高頻度に 認 められ、 遊走能・ 浸潤能 の亢進に 関係し ているこ とを示 してきた 。一方、Small GTPaseで あるRhoはRho−associated kinase (ROCK)の活 性化を介 してミ オシン軽 鎖(MLC)のりン酸 化を引き 起こし、 細胞骨 格を制御 するこ とで、種 々の癌 細胞の遊 走能・浸 潤能に 関与する ことが知られている。
【目的】EIAFによっ て引き起 こされ る非小細 胞肺癌の 悪性形 質におけ るRho/ROCK系の 役割 を、非小 細胞肺癌 のEIAF非発 現細胞 株VMRCーLCDにEIAF発現 ベクターを遺伝子導入したEIAF 発現細胞 株(EIAF細胞)と 空ベクタ ーを導 入した細 胞(vec tor細胞)を用いて検討した。す なわち、 両細胞株 におけ る遊走能 ・浸潤 能および 造腫瘍 能・転移能と、Rhoの活性との関係 を検討し、ROCK阻害剤の遊走能・浸潤能に与える効果を検討した。
【材料と 方法】1)細 胞:共著 者の吉 田が作成 し報告済 みのEIAF細胞とvector細胞を用いた (Hiroumi et al. IntJCancer,93:786−791. 2001)。培養 は1096FBS添 加RPMI1640を用 い た 。2)EIAFの ウ エ ス タ ン ブロ ッ ト 法 :RIPAパ ッ フ ァー で 抽 出し た タ ンバ ク 質30 pgを SDS−PAGEに て分離 後に、二 トロセ ル口ース 膜にトラ ンスフ ァーし、抗EIAFモノク口ーナル 抗体 に て 反応 さ せ た。 さ ら にHPR付 加2次抗体と 反応さ せ、Amersham ECL systemを用 いて 視覚化した。3) Rho Pull−Downアッセイ:3.5xl05/rrilのEIAF細胞とvec tor細胞をHGF添加・
非添 加 下 で24時 間培 養 し 、Laemmliバッ フ ァ で 抽出 し た タン バ ク 質1,5IU9にRho tekin RBD―agarose beadsを 加 え 、4゜Cで45分 問 撹拌 し た 。洗浄 後、beadsに結合 したGTP結合 型Rhoを 溶出し、 抗Rhoポリクロ ーナル 抗体を用 いたウ エスタン ブ口ット 法によ って検出 し た。4)遊走能 ・浸潤 能アッセ イ:ト ランスウェルチャンパーを用い、遊走能アッセイでは1 x l05個の 細胞を上チャンバーに加え24時間培養し、下面に移動した細胞数をカウントした。
上チャン パーの下 面フィ ルターに は遊走 促進因子 として フィブロ ネクチン をコー トした。
浸潤能ア ッセイで は、2x l05個 の細胞 を用い、 上チャ ンパーの 上面にマ トリゲ ルをコー ト して同様 の実験を 行った 。さらに 、ROCK阻害 剤Y27632や、EIAFと相乗 的に遊走 能・浸潤 能 を増加さ せるHepatocyte growth factor (HGF)を加え た条件で 検討を加えた。5)細胞増殖
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ア ッセ イ: 96穴 プレ ート に1.OXl04個 の 細胞 を撒 き、Y27632を 添加 ・非 添加 下で、1、3 お よ び5日 間 の 培 養 を 行 っ た 。 細 胞 増 殖 はMTT法 を 用 い て 測 定 し た 。6)MLCお よ び phosphorylated MLC (pMLC)の ウェ スタ ン ブロ ット 法:細胞をHGFとY27632の添加・非添加 下 で24時間 培 養し 、RIPAパッファ でタンバク質を抽出、抗MLC抗体と抗pMLC抗体を用いたウ エ スタ ンブ ロ ット 法を 行った。7)造腫瘍能と転移能の検討: ヌードマウスに、1x l07個の 腫 瘍細 胞を 経 静脈 投与 、皮 下投 与、 肺内 投与 し、14日目、28日目、42日目に解剖した。腫 瘍の個 数、重量を計測した。一部をホルマリン固定、バラフイ ン包埋し、薄切後にH−E染色 を 行っ た。 一 部はRIPAパッファ中 でホモジェナイズしタンパク質を抽出し、MLCとpMLCのウ エスタ ンブロット法を行った。
【結果 】1) EIAF細胞におけるEIAF夕ンバク質の発現をウェスタンブ口ット法にて確認した。
2) EIAF細胞はvec tor細胞より活 性型であるGTP結合型Rhoが豊富で、HGF添加によりその活 性 は相 乗的 に 増強 した 。EIAF細胞 とvector細胞でtotal Rhoの 発現に差はみられなかった。
3)以前の報告と同様、EIAF細胞はvec tor細胞と比ベ、遊走能 と浸潤能が増加し、さらにHGF 添 加に より 相 乗的 に増 加し た。Y27632は 濃度 依存 性に遊走能 と浸潤能を抑制したが、特に HGF添加 下のEIAF細胞 にお いて 抑制 効果 は 顕著 であ った。4)Y27632は遊走能・浸潤能を強 く抑制 した濃度でも細胞増殖に影響を与えなかった。5) EIAF細胞はvec tor細胞よりMLCの り ン酸 化が 亢 進し 、HGF添 加によルリン酸化は増強された。こ のりン酸化はY27632によって 強く抑 制された。6) EIAF細胞はvector細胞より、ヌードマウ スヘの皮下移植で高頻度に皮 下 腫瘍 を形 成 した(6/6 vs. 1/7)。肺内移植でもEIAF細胞は肺 腫瘍を高頻度に形成した(4/7 vs. 1/7)。EIAF細 胞由 来の 肺腫 瘍を 形成 した4匹の 中で、3匹 に縦隔リンパ節への転移を認 め た。 一方 、vector細 胞由 来の 肺腫 瘍を 形成 した マウスは縦 隔転移を認めなかった。EIAF 細 胞 由 来 の 腫 瘍 は 、vector細 胞 由 来 の 腫 瘍 よ りMLCのり ン 酸化 が著 明に 亢進 して いた 。
【 考 察 】 こ れ ま でEIAFとRho/ROCK系の 関係 を示 した 報告 は なく 、本 研究 はEIAFの 高発 現 がRho/ROCK系 の 活 性 化を もた らす こと を示 した 最初 の研 究 であ る。 我々 はこ れま でEIAF に よ る 遊 走 能 ・ 浸 潤 能の 増強 がMMPやuPAの 発現 と関 係し て いる こと を報 告し てき たが 、 新 たな 機序 と して 、Rhoの 活性 化が 関係 し てい るこ とが 示唆 され た。 さら に、ROCK阻害剤 によっ て遊走能・浸潤能が抑制されたことは、EIAFによる遊走 能・浸潤能の増強にRho/ROCK の活性 化が必須である可能性を示唆している。
Rho/ROCK系 はラ ット の肝 臓癌 細胞 、ヒ トの グリ オーマ細胞 およびヒトの卵巣癌細胞で遊 走 能や 浸潤 能 と関 連が 示されてい る。また、患者から切除された乳癌や膵癌の悪性度とRho のisoformで あるRhoCの発 現レ ベル との 関 連が 報告 され てい る。 最近 、非 小細 胞肺癌にお い て もRhoCが 高 発 現 し 、 脈 管 浸 潤 と 相 関 し て い る こ と が 示 さ れ た 。 こ れ ら の 報 告 は Rho/ROCK系 の 遊走 能・ 浸潤 能と の強 い関 連を 示し ており、さ らに今回の結果はEIAFによる 遊 走能 ・浸 潤 能の 亢進 にお いて もRho/ROCK系 が重 要の役割を 果たしていることを示唆して いる。
EIAFがRhoを 活 性 化す る機 序 は不 明で ある 。EIAFは 転写 因子 であ るが 、total Rhoの 発 現 は増 加さ せ なか った 。Rho活 性は グア ニ ン・ ヌク レオ チド 変換 因子(GEFs)とGTPase活性 化 因 子(GAPs)に よ っ て制 御さ れて おり 、EIAFがGEFsやGAPsの発 現を 制御 して いる 可能 性 があり 、今後の検討が必要である。
EIAFによ る 造腫 瘍能 に対 する 影響 につ いて はこ れまで一定 の見解が得られていないが、
本 研究 から は 非小 細胞 肺癌 細胞 にお いてEIAFが造 腫瘍能と転 移能を増強することが示唆さ れ た。 さら にEIAF細胞 由来 腫瘍 にお けるMLCの りン 酸化 の亢 進は 、EIAFに よる 造腫瘍能と
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転移能の増強においても、Rho/ROCK系が重要な役割を果たしていることを示唆している。
【結論】EIAFはHGFと協調的に作用してRho/ROCK系を活性化し、その活性化が非小細胞肺 癌における遊走能・浸潤能、造腫瘍能および転移能の亢進に重要な働きを果たしている。
この系を抑制するY27632のような阻害剤は、EIAFを高頻度に過剰発現する非りヾ細胞肺癌に おいて、有効な治療薬になる可能性が示唆される。
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学位 論文審査の要旨
主 査 教 授 守 内 哲 也 副 査 教 授 佐 々 木 文 章 副 査 教 授 秋 田 弘 俊 ´
副 査 教 授 西 村 正 治
学位論文題名
EIAF/PEA3 Activates the Rho/Rho ― Associated Kinase Pathway to Increase the Malignancy Potential of Non ― Small Cell Lung Cancer Cells
(EIAF/PEA は Rho/ROCK 系 を 活 性化 し 、 非小細胞肺癌細胞の悪性形質を増強する)
遊走能・浸潤能および造腫瘍能・転移能は癌細胞の悪性度を特徴づける因子である。我々は これまでに、Ets族転写 因子に属するEIAFが非小細胞肺癌で高頻度に過剰発現し、遊走能・浸 潤能 の亢 進に 関係 して いることを示してきたが、その機序は明らかではない 。最近、Small GTPaseであるRhoがRho‐亀Ssociated kinase (ROCK)の活性化を介してミオシン 軽鎖(MLC)の りン酸化を引き起こし、細胞骨格を制御することで、種々の癌細胞の遊走能・浸潤能に関与す ることが報告されてきた。本論文では、非小細胞肺 癌のEIAF非発現細胞株VMRC−LCDにEIAF発 現ベクターを遺伝子導入したEIAF発現細胞株(EIAF細胞)と空ベクターを導入した細胞(vector 細胞)を用いて、EIAFによって引き起こされる非小 細胞肺癌の悪性形質におけるRho/ROCK系 の役割を検討した。始めにEIAF細胞におけるEIAFタ ンパク質の発現をウェスタンブロット法 にて確認した。次にRhotekin RBD−agars beadsを用いたRho pull down法によって、EIAF細 胞で はvector細胞 に比 して、活性型であるGTP結 合型Rhoが豊富で、HGF添加により相乗的に 増加 する こと を示 した 。EIAF細胞とvector細胞でtotal Rhoの発現に差はみられなかった。
以前 の報 告と 同様 、EIAF細胞はvector細胞と比ベ、遊走能と浸潤能が亢進し 、さらにHGF添 加によりさらに増強した。ROCK阻害剤であるY―27632は濃度依存性に遊走能と浸潤能を抑制し たが 、特 にHGF添 加 下のEIAF細胞において抑制効 果は顕著であった。Y27632は遊走能・浸潤 能を 強く 抑制 した 濃度 でも細胞増殖に影響を与えなかった。EIAF細胞はvector細胞よりMLC のりン酸化が亢進し、HGF添加によルリン酸化は増強された。このりン酸化はY27632によって 強く抑制された。in vivoにおける検討においては、EIAF細胞はvector細胞に比し、ヌードマ ウスヘの皮下移植で高頻度に皮下腫瘍を形成した(6/6 vs.1/7)。肺内移植でもEIAF細胞は肺
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腫瘍を高頻度に形成した(4/7 vs. 1/7)。EIAF細胞由来の肺腫瘍を形成した4匹の中で、3匹に 縦隔リンパ節への転移を認めた。一方、vector細胞 由来の肺腫瘍を形成した1匹のマウスでは 縦隔転移を認めなかった。EIAF細胞由来の腫瘍は、vector細胞由来の腫瘍よりMLCのりン酸化 が著明に亢進していた。
以上 より 、EIAFはHGFと協調的に 作用してRho/ROCK系を活性化し、その活性化が非小細胞 肺 癌における遊走能・浸潤能、造腫瘍能および転移能の亢進に重要な働きを果たしていることが 示唆された。さらに、この系を抑制するY27632のよ うな阻害剤は、EIAFを高頻度に過剰発現 す る 非 小 細 胞 肺 癌 に お い て 、 有 効 な 治 療 薬 に な る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 審査にあたり、副査佐カ木教授から、1) EIAFによるRho/ROCK系活性化の機序、2)HGFとEIAF との関係、3) HGF添加 下でのY27632の高い効果、4)in vivoにおけるY27632の効果について、
副査秋田教授から、1) EIAF細胞由来in vivo腫瘍でのMLCの著明なりン酸化の機序、2)ROCK 阻害剤の分子標的治療薬としての展望について、副査西村教授から、1) Y27632の特異性、2)EIAF 高発現の癌でのMMPの役 割に関して質問があった。次いで主査守内教授から、内因性EIAF発現 細胞でのEIAF阻害実験、Y27632の効果についての質 問があった。申請者はこれらの質問に対 して、自験データと文献を引用して概ね適切に回答した。
この論文は、EIAFがRho/ROCK系を活性化すること を初めて示した点、また、その活性化が EIAFによって引き起こされる非小細胞肺癌の悪性形質に重要な役割を果たしていることを示し た点で高く評価され、今後、EIAFとRho/ROCK系の間 の分子機構の解明やこれらの系に対する 分子標的薬の開発などに広く応用されることが期待される。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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