博士論文要旨
論文題名:細胞性粘菌の G タンパク質共役型受容体を介し た細胞間調整機構に関する研究
ふりがな さくらい しゅんすけ 氏 名 櫻井 俊輔
単細胞アメーバの一種である細胞性粘菌は,単細胞状態から多細胞状態への移行が飢餓 処理で制御可能であることから,単細胞生物と多細胞生物を繋ぐ仕組みを効率的に研究で きるモデル生物として大変有用な存在となっている.
多細胞化誘導の鍵は細胞外にパルス的に分泌される cAMP(環状アデノシン一リン酸)と 4 種類の cAMP 受容体であることは早くから知られていた.そして 2000 年以降になると,遺 伝子破壊株の凝集実験,1 分子計測,FRET(Fluorescence Resonance Energy Transfer)実験 など実験手法の目覚ましい進展の結果,cAMP パルスの発生に関与する多くの分子の存在が 明らかとなった.しかし,それらの分子がどのように組合わさることで cAMP パルスを発生 させているのか,その仕組みが明らかにされていなかった.そこで本研究ではこれまでに 蓄積された実験的な知見を基に,実測される 7 分周期の cAMP パルスを生み出すことのでき る分子ネットワークモデルを提案した.更にこの分子ネットワークモデルを各細胞内に組 み込んだ多細胞動力学シミュレーションを実行し,各種遺伝子破壊株の凝集パターン,cAMP パルス変調の定量的再現にも成功した.
本研究の結果,細胞内の 2 種類のネガティブフィードバック機構の存在と cAMP 受容体を 介した細胞間 cAMP 産生同期が安定した cAMP パルス生成のキーであることが判明した.そ の中でも特に G タンパク質サブユニットの分割,再結合のキネティックスが cAMP パルス生 成にとって必要不可欠な存在となっていることも明らかにした.