画像診断から腫瘍特異的治療へ
最終講義より
遠
藤
啓
吾
要 旨 1991年から 2011年までの 20年間,群馬大学医学部において放射線診 断核医学 野 (旧核医学講座) を担当, 医学科 4年生を対象として 2010 年 12月 14日に行った最終講義をまとめた. 医師になって 40年, この間 に画像診断は目覚ましく進歩し,CT,MRI,超音波検査,PET などの画像 診断は現代医療に不可欠となった. 一枚の画像から多くの情報が得られ, 研究に発展することを示すとと もに, これまで行ってきた私および群馬大学の先輩の先生方の研究を振 り返り, 一緒に仕事をした教職員への感謝と医学生への期待を述べた. (Kitakanto Med J 2012;62:15∼22) キーワード:画像診断, 甲状腺, 抗体, PET, RI 内用療法 1.は じ め に 東京大学へ転出された佐々木康人先生のあとを次いで 放射線診断核医学 野 (当時は核医学講座) を担当して 20年. 今日が最後の講義となりました. このような機会 を与えていただき, また忙しいにもかかわらず, 多くの 方々にご出席いただき心から感謝いたします. 私が京都大学医学部を卒業したのは 1970年 (昭和 45 年). 当時盛んだった学園 争の影響で, 授業も満足に行 われず, 3月に卒業できませんで, 卒業できたのは 9 月 (図 1). 従って卒業式も無いような状態でした. 専門は内 科系を希望していたのですが, 内科系希望者で抽選を 行ったところ, 引いた研修先がたまたま放射線科となっ た次第です. 入局してみると放射線科の居心地がよいの でそのまま放射線診断, 画像診断を専門とするようにな りました. それから 40年. 若い若いと思っていたのですが, いつ の間にか 3月末に 65歳の定年退職を迎えることになり ました. レントゲンが X 線を, キュリー夫人がラジウム を発見し, 放射線医学の幕が開きました. 2006年 4月に 第 65回日本医学放射線学会 会を横浜市で主催しまし たが, 1941年に開催された第 1回日本医学放射線学会の 会長は眞鍋嘉一郎先生でした. また後ほど眞鍋嘉一郎先 生の名前がでてきますが, プログラムには特別講演とし て湯川秀樹先生の名前が載っています. 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科病態腫瘍制御学講座放射線診断核医学 平成23年11月16日 受付 論文別刷請求先 〒622-0041 京都府南丹市園部町小山東町今北1-3 京都医療科学大学 遠藤啓吾 図1 これまでの略歴画像診断の 野は X 線のみならず, 超音波検査 (US), CT, MRI から PET, SPECT で花盛りです. といっても これらのほとんどは, 私が医師になった 1970年よりも 後に開発されたものです. 2.大学院の研究テーマは甲状腺,阻害型抗体を発見 放射線診断を専門にする, といってもエックス線 CT が開発されたのは,大学卒業後の 1972年のことです.CT が開発される以前の放射線科の仕事は専ら胃と大腸の X 線診断, バリウム検査でした. 大学病院での 2年間の 研修医生活を終え, 故郷の坂出回生病院 (香川県坂出市) に勤務した後, 京都大学大学院に進学しましたが, 大学 院時代の研究テーマとしてたまたま甲状腺を選び, 甲状 腺の研究から結果的には抗体の研究, RI 標識抗体の臨床 応用に関わるようになった次第です. 17歳の女子高生が, 学 の定期検診で心電図の異常を 指摘され, 循環器内科を紹介されました. 心電図異常は 甲状腺機能低下症によるものだったのですが, 甲状腺シ ンチグラムでは RI の甲状腺への集積がまったく認めら れません. 甲状腺が萎縮した萎縮性甲状腺炎といわれる 状態です (図 2). ホルモンは受容体 (レセプター) に結合して初めてそ の作用を発揮します.甲状腺刺激ホルモン (TSH)も甲状 腺細胞に結合して作用を示し, 甲状腺から甲状腺ホルモ ンを放出します. しかしこの患者血中に TSH の受容体 へ の 結 合 を 阻 害 す る 強 力 な 抗 体 ; TSH 受 容 体 抗 体 (TBII) が検出されました. TBII のために TSH が受容体 に結合できず, TSH の作用を阻害するために, 患者は甲 状腺機能低下, 甲状腺萎縮に陥ったことを見いだしまし た. このような患者は世界で初めての発見で, その抗体 を TBII (TSH 受容体抗体) と名付けました. その後ま もなくして北海道大学小児科の 浦信夫先生が, 同じよ うな患者から生まれた赤ちゃんは, 母親から胎盤を移行 した TSH 受容体抗体 ; TBII によって一過性に甲状腺機 能低下症になることを発表. このような TSH 受容体抗 体が原因で甲状腺機能低下症, 甲状腺萎縮を来すことが, 世界的にも認められるようになりました. その後この ような甲状腺機能低下症の患者が何人も見つかっていま す. 実は TSH 受容体抗体により発症する甲状腺機能低 下症を「遠藤病」と名付けた論文を医学雑誌に投稿され た先生がおられたのですが, 「甲状腺機能低下症の原因 が TSH 受容体抗体によることは明らかなので固有名詞 をつけるのはダメ」となり,「遠藤病」という名前の病気 が日の目を見ることはありませんでした. 1978年に発表 された TSH 受容体抗体 ; TBII についての研究が私の学 位論文で, 他の研究者の論文によく引用されています. この TSH 受容体抗体とよく似た機序に基づいて, 抗 体ががん治療に われるようになりました. 患者に投与 した抗体によってがん細胞の増殖が抑制され, 腫瘍が縮 小. 受容体抗体はがんの治療薬, 子標的治療薬として われるようになってきました. ほとんどすべての製薬 企業が抗体医薬の開発研究に携わっているほど, 治療に 用いられる抗体は副作用少なく, 患者をやさしく治すこ とができます. 3.がん抗原に対する抗体の研究に 子標的治療薬と言われる新しい薬剤は, がん細胞の 増殖段階の一部に作用するために, 副作用なくがんを治 すことができると注目されています. 子標的治療薬の 代表が抗体医薬で, 悪性リンパ腫, 乳がん, 大腸がん, 肺 がんなどなどの悪性腫瘍から関節リウマチ, クローン病, 眼科の加齢黄斑変成症まで多くの病気に われるように なり,画期的な成果を上げています (表 1).抗体医薬の売 上高は年間 4兆円に達すると推定され, さらに増加して います. 20数年前, 若い先生方と一緒に erbB2 (アーブビツー), HER-2 というがん遺伝子の受容体抗体を研究していま した. In (インジウム) 標識した抗体がマウスに移植し たがん細胞に強く結合することが かりました (図 3). この抗体はがんの画像診断や治療に効くに違いないと え,共同研究者の秋山 徹,山本 雅先生 (2人とも現在東京 図2 甲状腺 TcO -シンチグラム 17歳, 女子高生 (左)と正常像 (右). 表1 抗体治療薬の開発 疾患 抗体名 抗原 売上高(億円) 悪性リンパ腫 リツキサン CD20 6,000 乳がん ハーセプチン HER-2 5,000 胃がん 関節リウマチ レミケード TNF-α 4,000 クローン病 大腸がんなど アバスチン VEGF 6,000 加齢黄斑変性症 大腸がん アービタックス EGFR 600 ・ ・ ・ ・ ・ ・
大学教授) との 3人で, この抗体を臨床応用 しようと関 係した会社の本社に出向き掛け合いました. しかし新しい抗体を薬剤として開発するのは会社の方 針ではないと, 断られてしまいました. これと類似した 抗体をロッシュ社 (スイス) がまったく別に開発したの が「ハーセプチン」です.ハーセプチンは乳がん,さらに 最近では胃がん治療にも有効なことが明らかになってお り, ハーセプチンの売上高は年間 5,000億円に達してい ます. ハーセプチン以外にもアービタックス, イレッサ などの薬剤もこの近くに作用してがん細胞に効きます. がん治療薬という金の鉱脈の近くまで行ったのですが, 金の発掘はできませんでした. 4.エックス線 CTの開発と画像診断の進歩 伊香保温泉名物の石段を登ると一番奥に源泉があり, 源泉のすぐ傍に「ラドン発見の碑」と書かれた石碑を見 ることができます. 石碑に眞鍋嘉一郎の名前を見つけま した. 図 1に書かれている第 1回日本医学放射線学会会 長をされた眞鍋嘉一郎先生が, 伊香保温泉でラジウムを 発見したというのです. 眞鍋嘉一郎先生は愛 県 山市 で夏目漱石に英語を学んだ関係でしょう, 夏目漱石の主 治医として, また東京大学内科物理療法学の講座を開い たことで知られています. 1972年英国のレコード会社 EMI 社の社員であったハ ウンスフィールドが作った CT 装置が画像診断を一変さ せました.初期の CT の撮影には何 もの時間を要し,得 られる画像も拙いものでしたが, 同じ技術を用いてすぐ PET, SPECT 装置が開発され, 断層画像が臨床に役立つ と かると,超音波検査 (US) や MRI などの画像診断が 開発されました. コンピュータ技術の進歩に伴って, 次々と優れた新し い CT 装置が開発されています. 最新の CT 装置を う と, 1回転 1秒以下という短時間で撮影され, 得られる写 真も美しいものです. さらに画像処理技術の進歩で, 3次 元画像などの画像処理も簡単にできるようになりまし た. 心筋梗塞, 狭心症は, 心臓カテーテル検査で冠動脈の 狭搾の有無で診断していましたが, CT による冠状動脈 撮影が一般化し, 正確に診断できるまでになりました. 今後心臓のカテーテル検査数は減少し, CT に置きかわ ることでしょう. 群馬大学病院には現在 9 台の CT 装置 が稼働しています. 病気の診断だけでなく, 法医学では 死因の解明のためにご遺体の CT を撮影していますし, 解剖学では解剖実習で, 遺体の CT 画像と実際の遺体の 解剖所見をならべて勉強しています (図 4). 最近は CT 診断学の授業を 2年生の解剖学と 3年生の法医学でも行 うようになりました. 群馬大学病院放射線部は, 平成 20年 3月に新築され た新中央診療棟の 1階, 地下 1階に移転したのを機会に, 世界最先端の画像診断装置が整備され, CT, MRI, 単純 X 線, マンモグラフィ, 超音波検査 (US), PET, SPECT などの画像診断から患者に優しいインターベンショナル ラジオロジー (IVR) と核医学治療まで行うことができ る日本でも有数の施設に発展することができました. わが国では第 1位の死亡原因はがんですが, がんの診 断に最も役立つのは画像診断です. 特にがんの最先端の 画 像 診 断 と し て F で 標 識 し た ブ ド ウ 糖 の 誘 導 体 (FDG) を用いる PET/CT 検査が役立ちます. 画像診断 は大きく形態画像と機能画像に けることができます. 代表的な形態画像が CT で,代表的な機能画像が PET で す. PET はブドウ糖代謝を画像化できる唯一の画像診断 で, PET と CT を同時に撮影し, 機能画像と形態画像を 同時に得ることができる PET/CT が多くのがんで最も 有用な画像診断となりました. (図 5). CT 装置の進歩で 全身像を短時間で撮影できるのですが, 専門医にとって もどこにあるか からない小さい病変を見つけることは 図3 In 標識抗体抗 HER-2抗体 図4 群馬大学オートプシーイメージングセンター. 臨床で 用していた CT 装置を移設し, 遺体の CT 撮 影に 用. 法医学, 解剖学で利用している.
非常に難しいものです. PET で怪しそうな部位を指摘さ れると, そこを集中的に検査し, ごく早期の病気まで簡 単に見つかるという原理なのです.
5.PETによるがん診断と群馬大学
PET と言えば PET/CT のことを指すほど, PET/CT は一般的になりました.1983年世界で初めて PET と CT を同時に撮影するシステムを完成させたのは群馬大学で す (図 6). ひとつの部屋に PET 装置と CT 装置を平行に して設け, ひとつのベッドを って患者を移動させるこ とにより,物理的に同じ位置で PET と CT を撮影できる ようにしたものです. まず PET の撮影, 撮影を終えるとベッドが移動し, 患 者はベッドに寝たままでそのまま CT を撮影します. す ると PET と CT とを同じ位置で撮影できます. PET と CT を同時に撮影すると, 別々に撮影した PET と CT の 画像を見比べながら診断するよりも, 診断能が高いとさ れています. (図 7) このような PET と CT を同時に撮影 できる装置が, 米国で GE 社から販売されたのは, 群馬 大学の発表から 10数年経過した後のことです. 群馬大 学脳外科の川淵純一, 貫井英明 (その後, 山梨大学学長), 放射線科の永井輝夫教授らの素晴らしいアイディアでし た. PET の発展に群馬大学の貢献は非常に大きいものが あります. 群馬大学, 群馬県の PET 検査件数は, わが国 でも最も多くなっていますが, 先輩の先生による努力の 結果ですし, 医療の 野でも先輩の築いた伝統が大事な ことを物語っています. 肺がん患者で F-FDG を用いた PET/CT を行うと, 患者の治療法から予後まで推定できます (図 8). ブドウ 糖を強く取り込む肺がんの予後は, ブドウ糖の取り込み の無い, あるいは弱いがんよりも予後は不良です. また 転移した部位のブドウ糖代謝は亢進しており, 転移した 肺がんの予後は極めて不良です. PET/CT を用いるがん診断は, 群馬大学病院で年間約 4,000件. 日本全体では 300近くの施設で, 年間約 50万 件行われるようになっています.
図5 PET/CT 全身正常像. 左 ; CT. 中 ; PET. 右 ; PET/ CT 画像. CT と PET 画像を重ね合わせたもの. 図6 群馬大学に設置された PET 装置と CT 装置 (1983年) 図7 脳腫瘍の CT (左), PET (中), PET/CT (右). 群馬大学の装置で撮影したもの. 図8 ふたりの肺がん(矢印)患者の PET/CT. A (左); 遠隔転移がなく, 手術か放射線治療を行う. B (右); 胸膜に転移しており, 化学療法を行うが, 予 後は不良. PET/CT により治療法, 予後を知 ることができる.
6.機能画像を利用した甲状腺の治療 機能画像は病気の診断だけでなく, 病気の治療も利用 されており, その歴 は約 70年前に逆上ります. バセド ウ病は女性に多い病気で, バセドウ病の治療法には, 薬 剤 (メルカゾール), I を用いる核医学治療・アイソトー プ治療, 手術の 3つありますが, それぞれ 1長 1短があ ります. 放射性ヨードを投与すると, バセドウ病患者で は正常者よりも I が甲状腺に強く取り込まれ, 甲状腺 ヨード摂取率は高値を示します (図 9). 甲状腺ヨード摂 取率の正常値が 10∼20%なのに対し, このバセドウ病患 者では投与した放射性ヨードの 82%が甲状腺に取り込 まれており, バセドウ病患者の甲状腺組織と周囲の正常 組織の割合は, 何千倍, 何万倍にもなっていることで しょう. 放射線治療の原理は, 目的とする部位にできるだけ多 くの放射線を照射し, 周囲の正常組織には放射線をあて ないようにすることです. このために重粒子線治療, 陽 子線治療が行われるのです. 正常組織に比べて甲状腺に 放射性ヨードを強く取り組むバセドウ病は理想的な放射 線治療のひとつと言えます. I の放出する β線による放射線障害作用で, バセド ウ病, 甲状腺がんを治療します. 同じ原理で甲状腺だけ でなく, 他の病気を治療できないかと, I あるいは純 β 線放出核種である Y (イットリウム) 標識した化合物, 抗体を用いて治療する研究を行いました. 7.RI標識抗体による悪性リンパ腫治療と 新しい抗体の開発 悪性リンパ腫はリンパ球ががん化した悪性腫瘍で, 多 くの場合リンパ節が腫れて見つかります. 悪性リンパ腫 の画像診断の第一選択は, F-FDG を用いた PET/CT です. 小さい病変にも F-FDG が集積し, 肺がんと同じ ように病気の拡がり (病期) 診断, 治療効果の判定, 再発 の有無の診断に F-FDG を用いた PET/CT が役立ちま す (図 10). 悪性リンパ腫治療は最近目覚ましく進歩しました. 抗 がん剤にリツキサン (抗体) を組み合わせた R-CHOP (アールチョップ) 療法が一般的となり, 週刊誌にまで 載っていましたが,さらに Y 標識抗体 (ゼヴァリン)を 用いる核医学治療が加わりました. リツキサンはリンパ 球 B細胞表面にある CD20抗原と反応する抗体です. こ のリツキサンを Y 標識した薬剤 (ゼヴァリン) を用い て悪性リンパ腫を治療します. リツキサンは悪性リンパ 腫や関節リウマチなど多くの病気の治療に有効なことが 明らかとなってきました. 抗体治療は北里柴三郎とベー リング (ドイツ) から始まり,最近最も注目されている薬 剤です. 抗体治療がこんなに発展したのは, ハイブリドーマ法 によるモノクローナル抗体の作成技術の確立と遺伝子工 学の進歩により, ヒト型抗体の作成が出来るようになっ たためです. 抗体は抗原と特異的に結合します. RI で標識した抗体 もまた抗原と結合するので, γ線を放出する In (イン ジウム) で標識した抗体を用いると, 抗体の体内 布, 腫 瘍集積を画像化できます. 最も有名ながん抗原である CEA は, 大腸がん細胞表面に強く発現しています. In 標識した CEA に対する抗体を大腸がん患者に投与し, 翌日に撮影すると In 標識抗体が大腸癌に集積し,大腸 がんを見つけることができます (図 11). この In 標識 抗 CEA 抗体を用いるがんの画像診断の臨床治験がわが 国でも行われたのですが, まもなく F-FDG を用いる PET が行われるようになると, PET の方がはるかに優 れた診断能を有していました. 従って現在では RI 標識 抗体は画像診断としては用いられず, 治療に応用される ようになりました. RI 標識抗体による治療の原理は簡単です. 抗体を利用 図9 バセドウ病の甲状腺ヨードシンチグラム. 甲状腺ヨード摂取率は 83%と高値を示し, I 治療の 良い適応となる. 図10 悪性リンパ腫の PET (左),PET/CT (右 : 破線部位の 横断像). F-FDG が集積し, 悪性リンパ腫の病気の広がり (病 期診断), 治療効果の判定に PET/CT は欠かせない.
して β線放出 RI を特異的にがん組織に集積させ, がん 組織のみを選択的に障害させようとするものです. 抗体 の標識に用いる RI として, I と Y のふたつの候補が あります (表 2). 米国では I 標識抗体と Y 標識抗体 のふたつの薬剤が販売されており, よく似た治療成績と なっています. 日本では I を大量投与する場合には患者を放射線治 療病室に隔離する必要がありますが, Y の場合は一般 病室での治療, あるいは外来治療が可能です. 従って日 本ではより多くの患者を治療可能な Y 標識抗体 (ゼ ヴァリン) が臨床応用されることになった次第です. Y のエネルギーは 2,300keVと非常に強いものです. 511keVのエネルギーの PET 製剤と比較ください. Y は β線しか放出しませんので, 画像化には γ線を放出す る In 標識した抗体を わざるをえません.この患者に 行った Y 標識抗体 (ゼヴァリン)治療がよく効き,PET で見ると,腹部の病変への F-FDG の集積が治療後には 消失しています (図 12). まず In 標識抗 CD20抗体で 抗体の病変への集積をみて, 7日後に同じ抗体を Y 標 識した薬剤 (ゼヴァリン) で治療し, 治療効果を F-FDG を用いる PET で調べるということになります. RI をうまく って悪性リンパ腫の核医学治療を行い, 優れ た成績が得られています. In標識抗体によるイメージ ングが副作用の予測に役立ちます. Y 標識抗体治療を行うと, 約 80%の患者で寛解を示 し, 脱毛, 全身 怠感など患者を苦しめる副作用もあり ません.RI を用いる核医学治療は,抗がん剤に比べて「患 者に優しい」治療といえます. 8.画像診断の発展と 子イメージング 群馬大学病院における画像診断 野の収入は, 1年間 で 20億円と全病院収入の約 10%, 外来に限ると約 30% に達しています. 研究としてはこれら画像診断の臨床的 有用性に関すること, 新しい IVR, 核医学治療の開発, 特 にイメージングを利用して新しいがんと反応する抗体, RI 標識抗体の開発に取り組みました. 他施設との共同研究で開発した新しい抗体 (FZD10) を Y 標識し, がん細胞を移植したマウスに投与すると, がんは縮小, 消失します (図 13). この抗体はまもなくフ ランスで臨床治験が開始される予定となっています. 医師になってからの 40年間に多くの画像診断が開発 され, 最新医療に画像診断は不可欠となりました. 今後 さらに画像診断の研究開発が進みますが, 次の 3つの画 像診断研究が主力になると思われます. ① CT, MRI, USなどの形態画像をさらに美しくする研 究です.すでに CT 装置の多列化,高速化が進み,MRI も 3テスラーの高磁場超伝導磁石を用いた装置, 様々な撮 影シークエンスが開発されています. 美しい画像の開発 研究は美意識に優れた日本人に向いた 野でしょう. ②形態画像だった MRI, CT を って機能画像, 血流画 像を得る研究です. 機能画像である核医学, PET を目標 に研究開発されています. PET という機能画像の目標が あるから, 例えば新しい MRI 撮影法の研究を容易に進 めることができます. ③患者にやさしい IVR, 核医学による治療の開発研究で 図11 大腸がんの注腸透視 (左)と In 標識抗 CEA 抗体シ ンチグラム (右)全身像. 径 4㎝の大腸がん (左)に抗体の強い集積 (右)が認め れらる. 表2 治療に用いる抗体標識用 RI. I と Y との比較 半減期 放射線 エネルギー (MeV) (keV)Y 線 飛程 (mm) 平 最大 I 8日 β, Y 0.6 364 0.8 2.0 Y 64時間 β 2.3 ― 5.3 12 図12 悪性リンパ腫の Y 標識抗 CD20抗体治療. 左 : In 標識抗 CD20抗体シンチグラム. 中, 右 : PET 画像, 治療前 (中)と治療後 (右). 抗体は腹部の悪性リンパ腫病変(矢印)に集積し (左), Y 標 識 抗 CD20抗 体 治 療 に よ り 腹 部 の FDG 集 積 (中 ; 矢印)は消失した (右). F-FDG In 標識抗体 ET 治療前 治 -P 療後 n 標 I , 治療に応用 識抗 CEA 抗体 診 断 能 は FDG-PET の 方 が 優れており
す. 医師になって 40年間画像診断に携わってきました が, 今日の講義で話しました低侵襲治療, 腫瘍特異的治 療は, 新しい技術が開発され, 一層発展することでしょ う. 私が行ってきた阻害型の TSH 受容体抗体 (TBII)の発 見や乳がんの治療薬ハーセプチンなどのように, 1枚の 画像から新しい病気, 新しい薬の発見につながります. マウスを って薬剤の体内 布を画像化する手法は, 子イメージングと呼ばれ注目を集めています. ノーベル 賞を受賞した下村 脩先生がオワンクラゲから発見した GFPなどの蛍光物質を った光イメージグと PET が有 力な武器となります. 画像を利用すると, 新しい薬剤の 開発が容易なのではないかと えられています. 9.おわりに ―医学生への期待― 医学生は卒業後, 医師となり患者の診療に携わります. 正確に診断し, 的確に治療するには画像診断が欠かせな くなっています. 患者を通じて多くの情報が得られます し, 患者は我々の研究に多くのヒントを与えてくれます. 動物実験のデータでは, 動物と人の人種差があり, 動物 のデータがそのまま人で通用しません. 新しい薬が治療 に効くかどうかは, 患者からしか得られないのです. 研 究のみならず臨床でも教育においても患者から多くのこ とを教えてくれました. 日本の将来を えると, 日本の発展は科学技術以外に ありません. 若い皆様が群馬大学, 群馬県のみならず日 本の将来を担っているのです. 画像診断を行う医師は, 臨床各科の先生によって育て られます. これからも皆様で画像診断医を支えて欲しい と思います. 楽しい楽しい群馬大学での 20年間でした. 本当に心から感謝しています. 10.追 記 2010年 12月 14日医学科 4年生を対象に臨床大講堂 で行った最終講義の一部です. 各診療科の先生方, 教室 の医局員, 大竹英則技師長をはじめとする診療放射線技 師, 職員には大変お世話になりありがとうございました. 引 用 文 献
1. Endo K, Kasagi K, Konishi J, Ikekubo K, Okuno T, Takeda Y, Mori T, Torizuka K. Detection and prop-erties of TSH-binding inhibitor immunoglobulins in patients with Graves disease and Hashimoto s thyroiditis. J Clin Endocrinol Metab 46: 46: 734-739, 1978. 2. Matsuura N,Yamada Y,Nohara Y,Konishi J,Kasagi K,
Endo K,Kojima H,Wataya K. Familial neonatal tran-sient hypothyroidism due to maternal TSH-binding in-hibitor immunoglobulins. N Engl J Med 303: 738-741, 1980.
3. Saga T, Endo K, Akiyama T, Sakahara H, Koizumi M, Watanabe Y, Nakai T, Hosono M, Yamamoto T, Toyo-shima K, Konishi J. Scintigraphic detection of overex-pressed c-erbB-2 protooncogenc products by a class-swit-ched murine anti-c erbB-2 protein monoclonal antibody. Cancer Res 51: 990-994, 1991.
4. Hanaoka H, Katagiri T, Fukukawa C, Yoshioka H, Yamamoto S, Iida Y, Higuchi T, Oriuchi N, Paudyal B, Paudyal P, Nakamura Y, Endo K. Radioimmunother-apy of solid tumors targeting a cell-surface protein, FZD10: therapeutic efficacy largely depends on radiosen-sitivity. Ann Nucl Med 23: 479-485, 2009.
5. 産経新聞 : 平成 23年 11月 9 日. 図13 標識 FZD10抗体による担がんヌードマウスの治療 効果. 対照として 用したコントロール抗体 (下) では腫瘍 は肥大したが, Y 標識 FZD10抗体では腫瘍は縮小, 消失した.
Diagnostic Imaging and Tumor Specific Treatment
From the Final Lecture at Gunma University
Keigo Endo
1 Department of Diagnostic Radiology and Nuclear Medicine, Gunma University Graduate School of Medicine, 3-39-22 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8511, Japan
Diagnostic imaging is essential for the accurate diagnosis and therapy of most diseases due to the development of imaging modalities,such as CT,MRI,ultrasonography,PET (positron emission tomogra-phy) and so on. The diagnostic imaging is divided into the anatomical imaging (CT, US, MRI) and functional imaging (PET).The combinined imaging of anatomical and functinal imaging,CT and PET or MRI and PET, is useful for the accurate localization of the tumor and more than 500,000 PET/CT studies are performed in Japan this year. The original idea of combined imaging of CT and PET was dicovered at Gunma University Hospital in 1983, and contributes a lot to the development of PET studies. One picture taken from the patient or animal may result in the discovery of new drugs or new instruments. This paper is the summary of my final lecture held on the 14th December,2010 for the 4th grade of medical students of Gunma University.(Kitakanto Med J 2012;62:15∼22)