病理診断アトラス(2) : 中枢神経系2:非腫瘍性病変
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(2) 16. 的に,外傷,炎症,循環障害,代謝障害,変性疾患, 1) ∼3). 大脳白質と淡蒼球が選択的に侵される一酸化炭素中. .現代. 毒と対照的である.穿通枝領域の梗塞巣(図 1B2)は. の医療水準では,家族歴,既往歴,現病歴,身体所. ラクナとも呼ばれ,主に高血圧変化(図 1A5)により. 見,臨床経過および検査所見を総合的に判断するこ. フィブリノイド壊死に陥った脳内動脈が血栓性閉塞. とにより,病態をおおよそ絞り込むことが可能であ. することにより生じる.. 先天奇形,新生物のいずれかに分類される. る.診断に対する病理学的所見の貢献度は,特異的. 画像上ラクナの多発すなわちラクナ状態(état la-. なものから,他の所見と矛盾しないものや役に立た. cunaire)と鑑別を要する篩状態(état criblé) (図 1. ないものまで様々である.また,組織が採取された. B1)は加齢または高血圧を背景とする穿通枝動脈周. 時期によって病理像が異なる場合があることも忘れ. 囲腔の拡大と定義され,両者は病理学的に全く異な. てはならない.. る.CNS 組織の梗塞巣は時間経過とともに変化する. このように, CNS 疾患を診断するに当たっては,. (図 1C).血流停止後 24 時間以内に,ニューロンは酸. 解剖,生理,薬理および病理学的情報を総合的に判. 素欠乏に対する代償性嫌気性代謝亢進の結果生じる. 断することが要求される.本稿では,中枢神経系の. 細胞質 pH の低下により核濃縮と胞体の好酸性変化. 循環障害,炎症性疾患,変性疾患および代謝性疾患. (凝固壊死)を経て,ライソゾームの破裂により自己. について概説する.. 融解に至る.その数日以内に,微小血流が再開して. 1.循環障害(図 1). 血管内皮損傷と好中球浸潤による酸化ストレスが再. CNS の血行動態の異常は組織に梗塞や出血を生. 灌流傷害をもたらす.その後数週間かけて血管新生. 1) ∼3). じる. .病変の分布と刺激度は多彩である.CNS. と単球マクロファージの浸潤が起こり,病巣は徐々. を灌流する動脈は,皮質(回旋)枝と穿通(傍中心). に融解吸収され(融解壊死),数ヵ月以内に囊胞化す. 枝に分けられる.. る(空洞形成).この間,病巣の周囲には反応性アス. 皮質枝領域の梗塞巣(図 1B3)は,①頸動脈や脳動. トロサイトが増生し,空洞が完成する頃にはグリア. 脈に発生するアテローム硬化症のプラーク(図 1A1). 瘢痕が形成され,病巣は陳旧化する.梗塞と混同さ. による慢性的内腔狭窄が血圧変動に伴って末梢側の. れやすいものに,いわゆるレスピレーター脳と呼ば. 血流境界領域に虚血をもたらす場合,②炎症活動性. れる変化がある.これは,頭蓋内病変に続発する脳. を有するアテローム硬化不安定プラーク(図 1A3)表. 腫脹により頭蓋内圧が動脈圧を凌駕する結果,脳血. 面に形成される血栓,不整脈に起因する左室弁膜血. 流が完全に途絶して生じる自己融解性の(脳)死後. 栓,外傷創に由来する骨髄,脂肪あるいは空気など. 変化であり,生体反応を欠き,小脳皮質では顆粒細. が塞栓症を生じる場合,③プラークの表面に形成さ. 胞層のニューロンに顕著である3) (état glacé) (図 1. れた血栓やプラーク内血腫(図 1A2)により内腔が急. F).. 激に閉塞する場合,④脳アミロイドアンギオパチー. 頭蓋内出血は,硬膜外出血,硬膜下出血,くも膜. (CAA) (図 1A4) や化膿性髄膜炎,敗血症ないし自己. 下出血,脳出血および脳室内出血に分類され,出血. 免疫疾患に伴う血管炎(図 1A6)により内腔が血栓性. 巣は血腫と呼ばれる.硬膜外出血は頭蓋骨骨折に伴. 閉塞する場合,⑤播種性血管内凝固 (DIC) (図 1B4)や. う硬膜動脈の破綻により,硬膜下出血(図 1D4)は頭. 抗リン脂質抗体症候群(APS)などの血液凝固能亢. 部外傷に伴う架橋静脈の破綻による.クモ膜下出血. 進をもとに実質内に微小血栓が形成される場合,⑥. (図 1D3)は,脳底動脈瘤(図 1A7),脳動静脈奇形. 脱水やステロイド療法に基づく上矢状洞血栓症によ. (図 1A8)および外傷や CAA に伴う脳表動静脈の破. り両側大脳半球の血流が停滞する場合,⑦頭蓋内圧. 綻で起こる.脳出血の原因のうち,皮質枝領域(図. 亢進により後大脳動脈が小脳テントで圧迫される場. 1D2)では CAA を呈する血管の破綻が最も多く,穿. 合,⑧クモ膜下出血の際に軟膜血管が血腫に埋没す. 通枝領域(図 1D1)では高血圧性フィブリノイド壊死. る化学的刺激により攣縮を生じる場合,⑨心肺停止. による微小血管瘤の破綻が最も多い.高血圧性脳症. に対する蘇生後脳症を生じる場合,あるいは,⑩頭. やショックに伴う血管透過性の亢進は,漏出性の点. 蓋内や脊柱管内に生じた腫瘍,血腫,膿瘍,骨格病. 状出血を惹き起こす.脳底動脈瘤や脳動静脈奇形の. 変などが脳脊髄を圧迫する(図 1G)場合にできる.. 破綻は,出血する方向により脳出血や脳室内出血を. 蘇生後脳症では海馬扇形部を含む大脳皮質の層状. 併発する.血液凝固能低下も頭蓋内ないし脊柱管内. 壊死と被殻全体の融解壊死が特徴的であり (図 1E),. 出血の原因となる.. ―234―.
(3) 17. 図 1. ―235―.
(4) 18. 図 2. ―236―.
(5) 19. 図 1 中枢神経系の循環障害 説明は本文を参照. A1:星印=血管内腔,矢印=石灰化巣; A2:星印=血管内腔,矢印=プラーク内血腫; A3:星印=血管内腔,矢印=脂質コア; A4:星印=血管内腔; A5:星印=血管内腔; A6:矢印=血栓; A7:星印=脳底動脈瘤内腔,矢印=内弾性板消失部位; A8:a=動脈成分,v=静脈成分; B1:矢尻=基底核穿通動脈周囲腔; B2:星印=基底核ラクナ梗塞巣; B3:星印=大脳皮質梗塞巣; B4:星印=大脳白質微小軟化巣; C1:矢尻=正常大脳皮質ニューロン; C2:矢印=急性虚血ニューロン,矢尻=好中球; C3:矢印=新生血管; 矢尻=反応性 C4:星印=泡沫状マクロファージ集簇巣, アストロサイト; D1:矢尻=基底核血腫内破綻血管; D2:Cx=穹窿部大脳皮質血腫,Sa=クモ膜下血腫; D3:Cx=脳底部大脳皮質,Sa=クモ膜下血腫; D4:Dm =硬膜,Sd=硬膜下血腫; E1:矢尻=大脳皮質層状壊死巣,星印=被殻壊死巣; E2:矢印=大脳皮質層状壊死巣; E3:矢印=被殻壊死巣新生血管; E4:矢尻=海馬硬化巣反応性アストロサイト; F: 星印=小脳皮質顆粒層; G1:矢印=脊髄圧迫方向; G2:矢尻=反応性アストロサイト,星印=残存ニュー ロン; G3:矢尻=泡沫状マクロファージ,星印=残存ニュー ロン. H&E:he ma t o xyl i na nde o s i n,EVG:e l a s t i c ava nGi e s o n, GFAP:gl i a lf i br i l l a r ya c i di cpr o t e i n.. 図 2 中枢神経系の感染症 A1:矢印=正常大脳皮質; e ut z f e l dt J a ko b病(CJ D)大脳皮 A2:矢印=全脳型 Cr 質; D大脳皮質の残存ニューロン; A3:矢尻=全脳型 CJ u斑; A4:矢印= kur : 矢尻=クモ膜下腔リンパ球浸潤巣, Cx=大脳皮質; B1 B2: 矢尻=脳実質内小血管周囲の微小出血巣,矢印= 脳実質炎症細胞浸潤巣; B3: 矢印=ニューロン核内封入体,矢尻=アストロサ イト核内封入体; C: 矢尻=脳室上衣細胞核内封入体; D1:矢印=大脳白質軟化巣; D2:矢印=多核巨細胞; E: 矢印=脊髄側索; F: 矢尻=オリゴデンドログリア核内封入体; G : 星印=クモ膜下腔,矢尻=穿通動脈周囲腔,矢印= クリプトコッカス胞子コロニー,hyt=視床下部; H:星印=クモ膜下腔,矢印=軟膜血管,矢尻=ムコー ル菌糸,s pc=脊髄; I :矢印=トキソプラズマ嚢子; J :矢印=脊髄後索; :星印=乾酪壊死巣,矢印=ラングハンス型多核巨細 K1 胞; K2:星印=脳梗塞巣,インセット=軟膜血管炎閉塞像; L1:星印=クモ膜下腔,矢印=クモ膜顆粒; L2:矢印=脳表好中球浸潤巣; M:矢印=脳実質内血管炎血管, 矢尻=脳実質微小膿瘍; N1:星印=大脳白質脳膿瘍; c=中心壊死巣,gr a=周囲肉芽層; N2:ne :gr a=周囲肉芽層,a s t=反応性アストロサイト増生 N3 域; O1:矢印=脊髄脱髄斑; O2:矢印=血管周囲リンパ球浸潤巣; O3:矢印=反応性アストロサイト; O4:矢尻=グリア瘢痕内アストロサイト. Pr P :pr i o npr o t e i n, H&E:he ma t o xyl i na nde o s i n, LFBPAS:Luxo lf a s tbl uea ndpe r i o di ca c i dSc hi f f ,K&B: r r e r a . Kl üve ra ndBa. 2.炎症性疾患(図 2) CNS の炎症は,感染症と自己免疫疾患の際に生じ 1) ∼3). る. .感染症を惹き起こす病原体は,プリオン,ウ. イルス,原虫,真菌および細菌と多岐にわたり,病. イルス(HSV) ,帯状ヘルペスウイルス(HZV) ,麻. 変の分布と刺激度は多彩である.. 疹ウイルス,サイトメガロウイルス(CMV),ヒト免. プリオン感染症は,孤発性 Creutzfeldt-Jakob 病. 疫不全ウイルス(HIV),ヒト T 細胞白血病ウイルス-. (CJD) ,遺伝性 CJD,食人習慣ニューギニアの部族. 1(HTLV-1),パポバウイルス,インフルエンザウイ. に集積する kuru,狂牛病との関連性が指摘される新. ル ス な ど で あ る.HSV,HZV,MV お よ び CMV. 型 CJD および医原性 CJD に分類される.CJD に共. はヘルペスウイルス属に位置づけられ,ニューロン. 通する病理像は,灰白質の海綿状態とプリオン蛋白. やグリアの核内に核小体よりも大きな Cowdry 2 型. (PrP)の沈着である(図 2A) .PrP は通常の孤発性. の封入体を形成する.HSV 髄膜脳炎(図 2B)は,嗅. CJD では灰白質にびまん性に沈着するが,kuru お. 脳,海馬,島皮質,帯状回などの大脳辺縁系に好発. よび kuru 斑の出現を伴う孤発性 CJD では kuru 斑. し,軟膜と実質内小血管周囲のリンパ球浸潤と実質. に,新型 CJD ではフロリード斑に集積する.. 内巣状出血性壊死を特徴とする.HZV 髄膜脳脊髄炎. CNS を侵す代表的なウイルスは,単純ヘルペスウ. は,帯状ヘルペスに続発することが多く,しばしば. ―237―.
(6) 20. 血管炎を併発して灌流領域に梗塞巣を形成する.. 脱髄疾患に属し,ADEM が非再発性で小静脈周囲に. CMV 髄膜脳炎(図 2C)は脳室炎を合併しやすく,. 斑点状の小型病巣が同時多発するのに対し,MS は. グリアと血管内皮細胞が巨大化する.HIV 感染症. 時空間的に多発性で大小の病巣を形成する.炎症性. は,大脳皮質と白質,基底核などの血管周囲マクロ. 脱髄は,一旦形成された髄鞘が炎症反応により破壊. ファージ浸潤と多核巨細胞の出現を伴う軟化(図 2. される現象であり,髄鞘崩壊とも呼ばれる.病巣は. D)および脊髄白質の空胞変性をきたす.HTLV-1. 必ずしも白質に限局しておらず,淡蒼球,視床下部,. 関連脊髄症(HAM)は両側性の脊髄側索変性を特徴. 脳幹,脊髄など白質線維が交錯する灰白質を好んで. とする (図 2E).パポバウイルスによる進行性多巣性. 侵す(図 2O1).急性期には小静脈周囲にリンパ球が. 白質脳症(PML)は大脳や小脳の白質に多発性の微. 浸潤し(図 2O2),亜急性期には髄鞘崩壊壊産物がマ. 小脱髄巣を形成し,その周辺部に核内封入体を有し. クロファージに貪食され,反応性アストロサイトが. て腫大した核をもつオリゴデンドログリアが出現す. 混在または病巣を取り巻いて脱髄斑が形成され(図. る(図 2F) .. 2O3),慢性期にはリンパ球やマクロファージの消退. CNS を侵す代表的な真菌は,クリプトコッカス (図 2G),カンジダ,アスペルギルス,ムコール(図. とアストロサイトの小型化の結果,脱髄斑は線維性 グリオーシスを呈して陳旧化する(図 2O4).. 2H)などであり,CNS の随所で肉芽腫性髄膜炎を生. 3.神経変性疾患. じうる.クリプトコッカスは脳底部クモ膜下腔から. Alzheimer 病(AD)は認知症を主徴とし,大脳辺. 穿通動脈の周囲(Virchow-Robin 腔)を上行し,基底. 縁系を含む大脳皮質を広範に侵す1)∼3). 病初期には,. 核などに炎症反応を欠く多発性囊胞性病変を形成す. シナプス間隙にアミロイド-β(Aβ)が染み出すよう. る.その他の真菌類は概ね実質内に肉芽腫,膿瘍な. に沈着し始める(びまん性老人斑) (図 3A1).ニュー. どの炎症性病変を生じる.. ロピル中の軸索樹状突起シナプスを構成する神経突. CNS を侵す代表的な原虫はトキソプラズマ,ア. 起が Aβ の神経毒性により傷害を受け,物質輸送が. メーバおよびマラリアである.トキソプラズマ髄膜. 停滞して腫大すると,その中に微小管関連蛋白の一. 脳炎の病巣はしばしば壊死性であり,内部にトキソ. 種タウのリン酸化物(p-Tau) (図 3A6)とユビキチン. プラズマ囊子が散見される(図 2I) .. (Ub) (図 3A7)を含有する嗜銀性凝集物が蓄積する. CNS を侵す代表的な細菌は, 梅毒スピロヘータ,. (原始老人斑) (図 3A2).その後 Aβ の凝集が進行し. 抗酸菌,グラム陽性球菌,グラム陰性桿菌,グラム. て老人斑の中心部に芯(コア)が形成され(古典的. 陰性球菌などである.梅毒は髄膜炎,脊髄癆,麻痺. 老人斑) (図 3A3, A5),周囲の変性神経突起が消滅す. 性認知症を生じる.脊髄癆は,脊髄後索の変性を特. るとコアだけが残る(燃え尽き老人斑) (図 3A4).老. 徴とする(図 2J) .結核性髄膜炎(図 2K)は脳底部. 人斑の中心から周辺にかけて,反応性アストロサイ. に好発し,乾酪性肉芽腫を生じるとともに,血管炎. トと活性化ミクログリアが集簇する(図 3A9).老人. を併発して実質に梗塞巣を形成する.その他の細菌. 斑の形成に続いて,ニューロン細胞体に嗜銀性の神. 類は穹窿部に好中球浸潤を主体とする化膿性髄膜炎. 経原線維変化構造物(NFT)が形成され始め(図 3. (図 2L)を 生 じ,重 症 化 し た 場 合,炎 症 反 応 は. A10),細胞体全体が NFT で占拠されると細胞は死に. Virchow-Robin 腔を伝って脳実質に進展する.敗血. 至り,NFT は細胞外に露出する.細胞内 NFT は好. 症性血管炎は実質内に血行性微小膿瘍(図 2M)や梗. 塩基性で緻密な線維状構造物であり,p-Tau と Ub. 塞巣を生じる.微小膿瘍が融合増大すると画像で検. を含有する(図 3A11)のに対し,細胞外 NFT は好酸. 出可能な大きさの膿瘍(図 2N)が形成され,間葉系. 性で粗造な線維状構造物であり,p-Tau,GFAP およ. の反応により被包化されてゆく.すなわち,膿瘍の. び Aβ を含有する(図 3A12).老人斑が軸索細胞体シ. 中心部に好中球を混じた壊死物質が貯留し,これを. ナプスに発生した場合は,細胞外 NFT が老人斑の. 毛細血管新生とリンパ球浸潤を伴う肉芽組織が取り. 中心部に位置し,その周囲に変性神経突起が取り囲. 囲み,周囲の脳実質に反応性アストロサイトが増生. む(図 3A8).病期の進行とともにニューロンと細胞. する.. 外 NFT は消滅してゆき,大脳皮質は線維性グリア. 感染症と並んで CNS に炎症を惹起する代表的な 1) ∼3). 疾患は多発性硬化症(MS)である. .MS は急性散. 在性脳脊髄炎(ADEM)とともに自己免疫性炎症性. 組織に置換される.老人斑と細胞外 NFT は,アミロ イドを同定するコンゴ赤とチオフラビン S の染色 標本で複屈折性を呈する.. ―238―.
(7) 21. 認知症を呈する Pick 病およびパーキンソニズム. 動ニューロンの細胞体には α-Syn 陰性で Ub 陽性の. を呈する皮質基底核変性症(CBD)と進行性核上性. 円形硝子様封入体(RHI) (図 4A2),シスタチン-C. 麻痺(PSP)は,ニューロンとグリアにおける p-Tau. 陽性のブニナ小体(図 4A3)および Ub 陽性の糸屑様. 陽性嗜銀性構造物の蓄積と老人斑の欠損を特徴と. 封入体(図 4A4)が観察される.スーパーオキシド・. 1) ∼3). し,近年タウオパチーと呼ばれている. .Pick 病で. ジスムターゼ-1(SOD1)変異を伴う常染色体優性遺. は前頭側頭葉の萎縮と残存ニューロンにおける球形. 伝型家族性 ALS では,錐体路変性が軽度な割に後. の Pick 小体の出現 (図 3B),CBD では前頭頭頂葉の. 索中間根帯と後脊髄小脳路の変性が強く(図 4A5),. 萎縮,ニューロンの NFT 形成およびアストロサイ. 脊髄前角にレビー小体様硝子様封入体(LBHI) (図 4. ト斑状病変(astrocytic plaque)の形成(図 3C),PSP. A6)と索状腫大軸索(図 4A7)が出現する.LBHI. では脳幹被蓋を中心とするニューロンの NFT 形成. は SOD1 の凝集体である点で,レビー小体や RHI. とアストロサイトふさ状構造物(astrocytic tuft) (図. とは区別される.孤発性 ALS の中に病初期から認. 3D)の出現がみられる.コイル状小体と呼ばれるタ. 知症を呈する一群があり,海馬から前頭側頭葉皮質. ウ陽性で嗜銀性のグリア原線維変化構造物. にかけてニューロンとニューロピルに Ub 含有封入. (GFT) は,タウオパチーに共通して出現する.NFT. 体が出現する(図 4B)ことから,前頭側頭葉認知症. はグアム島のパーキンソニズム痴呆複合,嗜眠性脳. との異同が議論されている.. 炎後パーキンソニズム,ボクサー脳症,筋緊張性ジ ストロフィー,Cockayne 症候群などの脳にも出現 する.. Werdnig-Hofmann 病はsurvival motor neuron (SMN)の遺伝子変異による常染色体劣性遺伝病で, 下位運動ニューロンを選択的に侵し,幼少期に筋力. Parkinson 病(PD)と多系統萎縮症(MSA)は,. 低下と筋萎縮で発病する.ブニナ小体やスフェロイ. 神経系に α-シヌクレイン(α-Syn)が蓄積することか. ドを欠くことから ALS とは区別され,前根にアス. ら,近年 α-シヌクレイノパチーと呼ばれている. ト ロ サ イ ト が 侵 入 し て グ リ ア 線 維 束(glial bun-. 1) ∼3). .. パーキンソニズムと自律神経機能不全を呈する PD. dle)が形成される(図 4C) .Friedreich 病はフラタ. は,無名質,黒質,青斑,縫線核,迷走神経背側核,. キシン遺伝子付随 GAA リピートの延長に基づく常. 脊髄中間質外側核,交感神経節 (図 3E3) などを侵し,. 染色体劣性遺伝病で,幼児期に脊髄性運動失調で発. ニューロンにおける α-Syn! Ub 陽性のレビー小体. 症する.後脊髄小脳路,後索および錐体路の変性と. (図 3E5, E6)とその前駆構造物とされる淡明小体(図. クラーク柱ニューロンの萎縮を特徴とする(図 4D) .. 3E1)の出現を特徴とする.病変が大脳辺縁系まで波. Huntington 病はハンチンチン遺伝子付随 CAG リ. 及するレビー小体型認知症(DLB)は PD とともにレ. ピートの延長に基づく常染色体優性遺伝病で,壮年. ビー小体病群に属す.脳幹型レビー小体は,中心部. 期に舞踏運動と認知症で発症する.尾状核は萎縮し,. が好酸性で周辺部に明暈を有する同心円状構造を示. 残存ニューロンにポリグルタミン鎖が凝集して,Ub. す(図 3E2) .皮質型レビー小体は,細胞体を占拠し. 陽性核内封入体が出現する(図 4E) .. て核を圧排し,明暈を欠く (図 3E4) .MSA は,オリー. 4.代謝性疾患. ブ小脳萎縮症,線条体黒質変性症および Shy-Drager. 遺伝子変異に起因する先天代謝異常は CNS を侵. 症候群を病理学的に統合した疾患概念である.MSA. し,精神運動発育遅滞と痙攣発作を呈する1)∼3).代表. に共通して,橋底部を中心に,ニューロン細胞体に. 的なミトコンドリア異常症は,大脳皮質が慢性経過. おける球形の封入体(NCI) (図 3F1)とグリア細胞体. で萎縮してニューロン脱落,海綿状変性およびグリ. における三日月様ないし帽子状の封入体(GCI) (図 3. オーシスを呈する Alpers 病(図 4F),基底核,!桃. F2)が観察される.NCI と GCI は α-Syn(図 3F3)と. 体,第三および第四脳室周囲が左右対称性に凝固壊. Ub(図 3F4)を含有し,嗜銀性(図 3F5)を呈する.. 死を繰り返す Leigh 脳症 (図 4G),腸管粘膜銅イオン. 腸管粘膜下神経節細胞の核周囲にも α-Syn 陽性構. 吸収輸送体欠損に起因する全身銅欠乏症で CNS 全. 造物が観察される(図 3F6) .. 体の発育不全とプルキンエ細胞の脱落,遊走異常お. 筋萎縮性側索硬化症(ALS)は上位および下位運. よび細胞体棘状突起形成を特徴とする Menkes 病. 動ニューロンの変性と近位軸索腫大型スフェロイド. (図 4H) ,CNS 全体の発育不全を示すカルニチンパ. 1) ∼3). の出現を特徴とする (図 4A8) .大多数を占める孤. ルミチルトランスフェラーゼ欠損症(図 4I)などで. 発性 ALS では錐体路変性が顕著で(図 4A1) ,下位運. ある.灰白質ジストロフィーは灰白質における異常. ―239―.
(8) 22. 図 3. ―240―.
(9) 23. 図 4. ―241―.
(10) 24. 図 4 その他の神経変性疾患および代謝異常 A1:矢印=脊髄側索; A2:矢尻=円形硝子様封入体; A3:矢尻=ブニナ小体; A4:矢尻=糸屑様封入体; A5:矢印=後索中間根帯,矢尻=後脊髄小脳路; A6: 矢印=レビー小体様硝子様封入体,矢尻=ニュー ロンの輪郭; A7:矢尻=索状腫大軸索; A8:矢印=スフェロイド; B:インセット=歯状回ニューロン細胞質封入体; C:インセット=グリア線維束; D:矢印=脊髄後索,矢尻=後脊髄小脳路,下段=ク ラーク柱; E:矢尻=尾状核,矢印=ニューロン核内封入体; F:矢印=大脳皮質; G:矢 印 = 延 髄 第 四 脳 室 底 壊 死 巣,矢 尻 = 急 性 虚 血 ニューロン; H:矢尻=プルキンエ細胞; I :矢尻=小脳皮質外顆粒層; J :矢尻=大脳皮質ニューロン; K:矢尻=小脳皮質血管周囲マクロファージ集簇巣; L:矢印=大脳皮質ニューロン; M:矢印=大脳皮質ニューロン内ポリグルコサン小体; N:Cx=大脳皮質; O:矢尻=異染性マクロファージ; P:Cx=大脳皮質; Q:Cx=大脳皮質,矢尻=ローゼンタール線維; R1:矢印=乳頭体; R2:矢尻=新生血管; S:星印=橋底部正中髄鞘崩壊巣; T:矢尻=アルツハイマー I I型グリア. K&B:Kl üve ra nd Ba r r e r a ,H&E:he ma t o xyl i na nd e o s i n,Ub:ubi qui t i n,Cys C:c ys t a t i nC,SOD1 :s upe r , GFAP :gl i a lf i br i l l a r ya c i di cpr o t e i n, o xi dedi s mut a s e 1 B&H:Bi e l s c ho ws kya ndHi r a no , LFBPAS :Luxo lf a s t dSc hi f f , ACV:a c e t i ca c i da ndc r e bl uea ndpe r i o di ca c i s ylvi o l e t .. 図 3 Al z he i me r病,タウオパチーおよび α-シヌクレ イノパチー A1:星印=大脳皮質ニューロピル; A2:矢尻=変性神経突起; A3:矢印=アミロイド芯; A4:矢印=アミロイド芯; A5:矢印=アミロイド芯; A6:矢尻=変性神経突起; A7:矢印=アミロイド芯; ; A8:矢印=細胞外神経原線維変化構造物(NFT) A9: 矢印=反応性アストロサイト,矢尻=活性化ミ クログリア; A10:矢印=細胞内 NFT,矢尻=細胞外 NFT; A11:矢印=細胞内 NFT; A12:矢尻=細胞外 NFT; B:矢尻=ピック小体; C:矢印= NFT,矢尻= a s t r o c yt i cpl a que ; s t r o c yt i ct uf t ; D1:矢印= NFT,矢尻= a D2:矢印= NFT,矢尻=変性アストロサイト; E1:矢印=淡明小体; E2:矢尻=レビー小体; E3:矢尻=レビー小体; E4:矢尻=レビー小体; E5:矢尻=レビー小体; E6:矢尻=レビー小体; ); F1:矢印=ニューロン細胞質封入体(NCI ) ; F2:矢尻=グリア細胞質封入体(GCI ,矢尻= GCI ; F3:矢印= NCI ,矢尻= GCI ; F4:矢印= NCI ,矢尻= GCI ; F5:矢印= NCI F6:矢尻= 腸管粘膜下神経節細胞. G&B :Ga l l ya sa ndBr a a k, Aβ :a myl o i dβ, pTa u :pho s pho r yl a t e dt a u,Ub:ubi qui t i n,B&H:Bi e l s c ho ws ky i a lf i br i l l a r ya c i di c pr o t e i n, a nd Hi r a no ,GFAP:gl GLUT5 :gl uc o s et r a ns po r t e r 5 , αSyn:αs ynuc l e i n.. 物質の蓄積とニューロン脱落を呈する疾患群の総称 で,GM2 ガングリオシドがニューロンに蓄積する Tay-Sachs 病 (図 4J) ,グルコセレブロシドがマクロ. タール線維が出現する Alexander 病(図 4Q)などが. ファージに蓄積する Gaucher 病(図 4K) ,リポフス. 有名である.これらの蓄積物質は概ね過ヨウ素酸. チンがニューロンに蓄積する neuronal ceroid lipo-. シッフ染色で赤紫色(正染性)を呈するが,MLD. fuscinosis(図 4L) ,ポリグルコサン小体がニューロ. の蓄積物質はトルイジン青染色で赤紫色,酢酸クレ. ンに出現する Lafora 病 (図 4M) などが有名である.. シル紫染色で黄褐色(異染性)を示す.. 白質ジストロフィーは白質における異常物質の蓄積. CNS は 後 天 的 代 謝 異 常 に よ っ て も 傷 害 さ れ. と髄鞘形成不全を呈する疾患群の総称で,極長鎖脂. 1) ∼3). る. 肪酸がマクロファージと副腎に蓄積する副腎白質ジ. 乏で生じる Wernicke 脳症は,第三および第四脳室. ストロフィー(図 4N) ,セレブロスルファチドがマ. 周囲に毛細血管増殖と出血性壊死を生じるが,本症. クロファージに蓄積する異染性白質ジストロフィー. は乳頭体を好んで侵す(図 4R)一方,基底核を保存. (MLD) (図 4O) ,虎斑状の脱髄巣と石灰化巣を形成. する点で Leigh 脳症と区別される.低ナトリウム血. する Cockayne 症候群 (図 4P) ,大脳白質と軟膜下ア. 症が急激に補正された場合,橋中心髄鞘崩壊(図 4. ストロサイトに αB-クリスタリンの凝集物ローゼン. S)や橋外髄鞘崩壊と呼ばれる脱髄病変が生じるこ. ―242―. .慢性飲酒や妊娠悪阻に伴うビタミン B1 の欠.
(11) 25. とがある. 肝硬変などに基づく非代償性肝不全では,. 臓器の病理ばかりに目を奪われることなく,中枢神. 高アンモニア血症が肝性脳症を惹き起こす. これは,. 経系の変化にも注目することが肝要である.. アンモニアを吸収するグルタミン合成酵素を発現す. 症例呈示に御協力いただいたモンテフィオーレ医療. るアストロサイトがアンモニアの処理に追われて疲. センター平野朝雄教授,貴重な御助言をいただいた本学. 弊することに起因する.その結果,アルツハイマー. 小林槇雄教授および技術協力いただいた刈田瑞穂,坂寄. II 型グリアと呼ばれる大型で奇怪な形状の裸核状ア. 紀子両技師に深謝致します.. ストロサイトが, 淡蒼球や大脳皮質を含む CNS 全体 に出現する(図 4T) . おわりに これまで述べてきたように,CNS は神経組織固有 の疾患のみならず全身疾患の影響も受けやすいた め,CNS 病変から逆に他の臓器の病態を推定できる 場合がある.従って,病理解剖を行う際には,関心. ―243―. 文. 献. 1)平野朝雄,冨安 斉:神経病理を学ぶ人のために 第 4 版,医学書院,東京(2003) 2)Graham DI, Lantos PL: Greenfield s Neuropathology 7th ed, Arnold, London (2002) 3)調 輝男:臨床神経病理 第 4 版,金芳 堂,京 都 (1998).
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